霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一七章 敵味方(てきみかた)〔三六七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻 篇:第3篇 秘露より巴留へ よみ(新仮名遣い):ひるよりはるへ
章:第17章 敵味方 よみ(新仮名遣い):てきみかた 通し章番号:367
口述日:1922(大正11)年02月08日(旧01月12日) 口述場所: 筆録者:谷村真友 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一部の章はAIによって要約を作成しています。[×閉じる]:
淤縢山津見は峠を下りながら、蚊々虎が不平ばかりを言って心身がしっかりせぬから、邪霊に取り付かれるのだ、と説教している。二人はまた頓珍漢な問答をしながら下っていく。
すると、傍らに大きな滝があるところへ、四五人の荒くれ男が腰掛けて、なにやらささやきあっている。淤縢山津見と蚊々虎が男たちの前を横切ろうとしたとき、一人が大手を広げて谷道をさえぎった。
曰く、鷹取別のしろしめす巴留の国へは、他国の者は入れない決まりだという。蚊々虎は腕をまくり、ねじ鉢巻で荒男に食ってかかった。荒男は荒熊と名乗り、蚊々虎に喧嘩を吹っかけた。
以外にしぶとい蚊々虎の抵抗に、荒熊は仲間を呼んで、のしてしまおうとする。蚊々虎は得意になって啖呵を切っている。
威勢よく啖呵を切っていた蚊々虎だが、いざ五人の荒男にいっせいに打ってかかられると、たちまち弱音をはいて、淤縢山津見に助けを求めた。淤縢山津見は自業自得、と傍観している。
蚊々虎は荒熊たちに、柔らかく喧嘩しろ、と口の減らない負け惜しみを言っている。荒熊が得意になって蚊々虎をなぶっていると、途端に崖から落ちて谷底に落ち込んでしまった。仲間の四人は驚いて蚊々虎の手足を放した。
蚊々虎は、自分の霊光に打たれて谷底に落ち込みよった、と一人悦に入っている。その間に淤縢山津見は谷底へ降りて、荒熊を助けて引き上げてきた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-06-04 17:27:32 文字数:3358 OBC :rm0817
愛善世界社版:109頁 八幡書店版:第2輯 190頁 修補版: 校定版:111頁 普及版:48頁 初版: ページ備考:
001 山頂(さんちやう)の木(き)を捻倒(ねぢたふ)す如(ごと)き暴風(ばうふう)もピタリと止(や)みて、002頭上(づじやう)は酷熱(こくねつ)の太陽(たいやう)輝(かがや)き始(はじ)めたり。003淤縢山津見(おどやまづみ)は、004蚊々虎(かがとら)と共(とも)にこの山(やま)を西(にし)へ西(にし)へと下(くだ)りつつ、
005淤縢山津見『オイ蚊々虎(かがとら)、006足(あし)はどうだイ。007ちつと軽(かる)くなつたか』
008蚊々虎『ハイもう大丈夫(だいぢやうぶ)です、009この調子(てうし)なれば如何(どん)な嶮(けは)しき山(やま)でも岩壁(がんぺき)でも、010たとへ千万(せんまん)里(り)の道程(みちのり)でも行(ゆ)ける様(やう)な心持(こころもち)になつて来(き)ましたワ』
011淤縢山津見『お前(まへ)はしつかりせぬと曲津(まがつ)に取(と)り憑(つ)かれる恐(おそ)れがある。012何(なん)と云(い)つてもまだ改心(かいしん)が足(た)らぬから、013ちつとも臍下丹田(あまのいはと)に魂(たましひ)が据(す)わつて居(ゐ)ないので、014種々(いろいろ)の曲津(まがつ)に憑(つ)かれるのだよ。015それで足(あし)が重(おも)くなつたり、016苦(くるし)みたり弱音(よわね)を吹(ふ)いたりするのだ。017曲津(まがつ)は我々(われわれ)のこの山(やま)を越(こ)えて巴留(はる)の国(くに)へ行(ゆ)くのを大変(たいへん)に恐(おそ)れて居(ゐ)るのだよ。018それで腹(はら)の据(す)わらぬお前(まへ)に憑(かか)つて弱音(よわね)を吹(ふ)かすのだ。019魂(たましひ)さへしつかりすれば、020たとへ億兆(おくてう)の邪神(じやしん)が来(き)たとて指一本(ゆびいつぽん)さへられるものではないよ』
021蚊々虎『ほんたうにさうですな、022イヤこれからしつかり致(いた)しませう。023随分(ずゐぶん)私(わたくし)も貴下(あなた)の悪口(わるくち)を言(い)ひましたが、024赦(ゆる)して下(くだ)さいますか』
025淤縢山津見『赦(ゆる)すも赦(ゆる)さぬもあつたものか、026皆(みんな)お前(まへ)に憑依(ひようい)した副守(ふくしゆ)が言(い)つたのだ。027お前(まへ)の言(い)つたのぢやないワ』
028蚊々虎『三五教(あななひけう)は甘(うま)い抜道(ぬけみち)がありますな。029あれ丈(だけ)私(わたし)が貴下(あなた)のことをぼろ糞(くそ)に云(い)つたつもりだのに、030それでもやつぱり副守(ふくしゆ)が言(い)つたのですか』
031淤縢山津見『さうだ。032邪神(じやしん)か四足(よつあし)の言葉(ことば)だよ』
033蚊々虎『それでも現(げん)に私(わたし)が確(たしか)に云(い)つた事(こと)を、034記憶(きおく)して居(ゐ)ますがなあ』
035淤縢山津見『サア記憶(きおく)して居(ゐ)る奴(やつ)が四足(よつあし)だもの、036虎(とら)の本(ほん)守護神(しゆごじん)は奥(おく)の方(はう)にすつこみて、037副守(ふくしゆ)がアンナ下(くだ)らぬ事(こと)を云(い)ふのだ。038蚊々虎(かがとら)も副守(ふくしゆ)も、039まあ似(に)た様(やう)なものだねー』
040蚊々虎(かがとら)『さうすると私(わたし)が副守(ふくしゆ)の四足(よつあし)ですか、041そりやあまり非道(ひど)いぢやありませぬか。042一体(いつたい)貴下(あなた)のおつしやる事(こと)は何(なに)が何(なん)だか判(わか)らなくなりましたよ』
043淤縢山津見『人間(にんげん)の云(い)ふことならちつとは、044こつちも怒(おこ)つても見(み)たり、045理屈(りくつ)を云(い)うて見(み)るのだけれども、046何分(なにぶん)理屈(りくつ)を言(い)うだけの価値(ねうち)がないからなー』
047蚊々虎『へー妙(めう)ですなー。048テンで合点(がつてん)の虫(むし)が承知(しようち)しませぬわい』
049淤縢山津見『まあ好(い)い。050俺(おれ)の言(い)ふ通(とほ)りにさへすればよいのだ。051その内(うち)に身魂(みたま)が研(みが)けて本(ほん)守護神(しゆごじん)が発動(はつどう)するよ』
052 二人(ふたり)はコンナ話(はな)しに旅(たび)の疲労(つかれ)を忘(わす)れて、053ドンドンと雑木(ざふき)の茂(しげ)る、054山道(やまみち)を下(くだ)り行(ゆ)く。055傍(かたはら)に可(か)なり大(おほ)きな瀑布(たき)が、056飛沫(ひまつ)を飛(と)ばして懸(かか)つてゐる。057見(み)れば四五(しご)人(にん)の荒(あら)くれ男(をとこ)が瀑布(たき)の前(まへ)に腰打(こしうち)掛(か)けて、058何(なに)か面白(おもしろ)さうに囁(ささや)いてゐた。059二人(ふたり)はその前(まへ)を過(よぎ)らむとする時(とき)、060その中(なか)の一人(ひとり)の男(をとこ)が大手(おほて)を拡(ひろ)げて谷道(たにみち)に立塞(たちふさ)がり、
061男(荒熊)『オイ暫(しばら)く待(ま)つた。062お前(まへ)は何処(どこ)のものだ。063ここは巴留(はる)の国(くに)だぞ。064鷹取別(たかとりわけ)の司(かみ)の御(ご)守護(しゆご)遊(あそ)ばす御(ご)領地(りやうち)だ。065他国(たこく)の者(もの)はこの滝(たき)より一人(ひとり)も前(まへ)へ進(すす)む事(こと)を許(ゆる)さぬのだ。066速(すみや)かに後(あと)に引帰(ひきかへ)せ』
067と睨(にら)み付(つ)ける。068蚊々虎(かがとら)は腕(うで)を捲(まく)り捻鉢巻(ねぢはちまき)をしながら、
069蚊々虎『巴留(はる)の国(くに)が何(なん)だ。070鷹取別(たかとりわけ)がどうしたと言(い)ふのだ。071勿体(もつたい)なくも三五教(あななひけう)の大(だい)宣伝使(せんでんし)淤縢山津見(おどやまづみ)のお通(とほ)りだ。072邪魔(じやま)を致(いた)すと利益(ため)にならぬぞ』
073 途(みち)に立塞(たちふさ)がつた男(をとこ)、
074男(荒熊)『俺(おれ)は巴留(はる)の国(くに)の関所(せきしよ)を守(まも)る荒熊(あらくま)といふ者(もの)だ。075此(この)方(はう)の申(まを)す事(こと)を聞(き)かずに通(とほ)るなら通(とほ)つて見(み)よ。076利益(ため)にならぬぞ』
077蚊々虎『よう吐(ぬ)かしよつたな。078俺(おれ)が為(ため)にならぬと云(い)へば、079猿(さる)の人真似(ひとまね)をしよつて為(ため)にならぬと吐(ほざ)きよる。080ウンそれも判(わか)つて居(ゐ)る。081人(ひと)に物(もの)を貰(もら)つて返(かへ)しにお返礼(ため)を出(だ)す事(こと)がある。082オツトドツコイ貰(もら)ひ言葉(ことば)に返(かへ)し言葉(ことば)、083しやれるない。084俺(おれ)を一体(いつたい)何(なん)と心得(こころえ)てをる。085俺(おれ)は貴様(きさま)のやうな副守(ふくしゆ)の容器(いれもの)になつた四足魂(よつあしみたま)とは訳(わけ)が違(ちが)ふのだ。086本守護神(ほんしゆごじん)様(さま)の御(ご)発動(はつどう)なされる正味(しやうみ)生粋(きつすゐ)の蚊々虎(かがとら)の狼(おほかみ)だぞ。087下(した)におれ下(した)におれ。088神(かみ)様(さま)のお通(とほ)りに邪魔(じやま)ひろぐと貴様(きさま)の為(ため)にならぬぞ。089コラ荒熊(あらくま)もうお返礼(ため)は要(い)らぬぞよ』
090荒熊『此奴(こいつ)は執拗(しぶと)い奴(やつ)ぢや。091オイ皆(みな)の者(もの)来(こ)ぬか来(こ)ぬか。092五(ご)人(にん)寄(よ)つてこの黒(くろ)ん坊(ばう)を倒(の)ばしてしまへ』
093蚊々虎『アハヽヽヽ、094蚊々虎(かがとら)は流石(さすが)に虎(とら)さまだ。095俺(おれ)一人(ひとり)に五(ご)人(にん)も掛(かか)らねば、096どうする事(こと)も出来(でき)ぬとは、097貴様(きさま)らが弱(よわ)いのか、098俺(おれ)が強(つよ)いのか、099根(ね)つから葉(は)つから分(わか)らぬ。100ヤイ荒熊(あらくま)の五(いつ)つ一(いち)美事(みごと)掛(かか)るなら掛(かか)つて見(み)よ』
101と拳(こぶし)を握(にぎ)り、102腕(うで)をニユツと前(まへ)に突(つ)き出(だ)し、103黒(くろ)い目(め)をグルグルと剥(む)いて見(み)せる。
104荒熊『ヤイ貴様(きさま)あ、105何処(どこ)の馬(うま)の骨(ほね)か、106牛(うし)の骨(ほね)か知(し)らぬが、107偉(えら)う威張(ゐば)る奴(やつ)だナ。108もうそれ丈(だけ)か、109もつと目(め)を剥(む)け、110鼻(はな)を剥(む)け、111口(くち)を開(ひら)け、112お化(ばけ)奴(め)が』
113蚊々虎『言(い)はして置(お)けば何(なに)を吐(ぬ)かすか判(わか)りやしない。114愚図(ぐづ)々々(ぐづ)吐(ぬ)かすとこの鉄拳(てつけん)で貴様(きさま)の横面(よこつら)を、115カンカンと蚊々虎(かがとら)さまが巴留(はる)の国(くに)だぞ』
116荒熊『オイオイ掛(かか)れ掛(かか)れ。117伸(の)ばせ伸(の)ばせ』
118と荒熊(あらくま)が下知(げち)するを、119蚊々虎(かがとら)は両方(りやうはう)の手(て)に唾(つばき)しながら、
120蚊々虎『サア来(こ)い、121五(いつ)つ一(いち)、122一匹(いつぴき)二匹(にひき)は面倒(めんだう)だ。123一同(いちどう)五(ご)人(にん)の奴(やつ)、124束(たば)になつて束(たばね)て一度(いちど)にかかれ』
125荒熊『何(なん)だ、126割木(わりき)か、127柴(しば)のやうに束(たば)になつてかかれと、128その広言(くわうげん)は後(あと)にせえ。129吠面(ほえづら)かわくな、130後(あと)の後悔(こうくわい)は間(ま)に合(あ)はぬぞ』
131と前後(ぜんご)左右(さいう)より蚊々虎(かがとら)に武者(むしや)振(ぶ)りつく。
132蚊々虎『ヤー、133わりとは手対(てごた)へのある奴(やつ)だ。134もしもし、135センセン宣伝使(せんでんし)様(さま)、136鎮魂(ちんこん)だ、137鎮魂(ちんこん)だ、138ウンと一(ひと)つやつて下(くだ)さいな』
139淤縢山津見『マー充分(じゆうぶん)揉(もま)れたがよからうよ。140あまり貴様(きさま)は腮(あご)が達者(たつしや)だから、141鼻(はな)の一(ひと)つも捻(ね)ぢ折(を)つて貰(もら)へ。142アハヽヽヽ』
143蚊々虎『そりやあまり胴欲(どうよく)ぢや、144聞(きこ)えませぬ。145コンナ時(とき)に助(たす)けて下(くだ)さるのが宣伝使(せんでんし)ぢやないか、146人(ひと)を見殺(みごろ)しになさるのか。147もしもし、148もうそれそれ今(いま)腕(うで)を抜(ぬ)かれる。149イヽヽヽイツターイ腕(うで)が抜(ぬ)ける。150コラ荒熊(あらくま)、151荒(あら)い事(こと)するな。152柔(やはら)かに喧嘩(けんくわ)せぬかい』
153荒熊『喧嘩(けんくわ)するに固(かた)いも柔(やはら)かいもあるか。154この鉄拳(てつけん)を喰(くら)へ』
155と云(い)ふより早(はや)くポカリと打(う)つ。156四(よ)人(にん)は蚊々虎(かがとら)の左右(さいう)の手足(てあし)に確(しつか)りと、157獅噛(しがみ)付(つ)きゐる。
158荒熊『オイ四(よ)人(にん)の者共(ものども)それを放(はな)すな。159これからこの蚊々虎(かがとら)の身体(からだ)を突(つ)かうと殴(なぐ)らうと俺(おれ)の勝手(かつて)だ』
160蚊々虎『オイ突(つ)くのも撲(な)ぐるのもよいが、161あまり酷(ひど)いことをするなよ。162ちつと負(ま)けとけ、163割引(わりびき)せい』
164荒熊『俺(おれ)は負(ま)けと云(い)つたつて、165喧嘩(けんくわ)に負(ま)けるのは嫌(きら)ひだ。166木挽(こびき)なら何(ど)の様(やう)にも割挽(わりび)くが俺(おれ)や止(や)めた、167嫌(いや)だ。168貴様(きさま)の生首(なまくび)をこれから捻(ね)ぢ切(き)つてやるのだ。169アー面白(おもしろ)いドツコイ、170貴様(きさま)の面(つら)ぢや面黒(おもくろ)いワイ。171ワハヽヽヽ』
172と笑(わら)ふ途端(とたん)に崖(がけ)から谷底(たにそこ)目(め)がけてヅデンドウと落込(おちこ)みける。173四(よ)人(にん)は驚(おどろ)いて掴(つか)まへた手足(てあし)を放(はな)したれば、174蚊々虎(かがとら)は元気(げんき)づき、
175蚊々虎『さあ大丈夫(だいぢやうぶ)だ。176貴様(きさま)らもこの谷底(たにそこ)へみんな葬(はうむ)つてやらう』
177 四(よ)人(にん)は慄(ふる)ひ戦(をのの)き、178岩(いは)に獅噛(しがみ)付(つ)いて居(ゐ)る。
179蚊々虎『アハヽヽ、180俺(おれ)の真正面(ましやうめん)に来(き)よつて、181この方(はう)の霊光(れいくわう)に打(う)たれたと見(み)えて、182荒熊(あらくま)奴(め)が仰向(あふむ)けに谷底(たにぞこ)にひつくり返(かへ)つた。183オイ荒熊(あらくま)の乾児(こぶん)共(ども)、184面(つら)を上(あげ)ぬかい。185俺(おれ)の霊光(れいくわう)にひつくり返(かへ)してやらうかい。186もう大丈夫(だいぢやうぶ)だ。187もしもし宣伝使(せんでんし)様(さま)、188貴方(あなた)はあまり卑怯(ひけふ)ぢやないですか。189味方(みかた)の味方(みかた)をせずに敵(てき)の味方(みかた)をするとはよつぽど好(よ)い唐変木(たうへんぼく)ですよ。190それだから貴方(あなた)はおーどーやーまーづーみーと云(い)ふのだ。191この蚊々虎(かがとら)の御(ご)神力(しんりき)に恐(おそ)れ入(い)つたらう。192これからは荷物(にもつ)持(も)ちになれ』
193と云(い)つて大法螺(おほぼら)を吹(ふ)きながら四辺(あたり)を見(み)れば、194宣伝使(せんでんし)の影(かげ)は煙(けぶり)と消(き)えて見(み)えざりけり。
195蚊々虎『あゝ弱(よわ)い宣伝使(せんでんし)だな。196此奴(こやつ)もまた谷底(たにそこ)に放(ほ)られたのか知(し)らぬ、197あゝ気(き)の毒(どく)なことだ。198袖振(そでふ)り合(あ)ふも多生(たしやう)の縁(えん)、199躓(つまづ)く石(いし)も縁(えん)の端(はし)、200折角(せつかく)ここまでやつて来(き)たものの、201荒熊(あらくま)と一緒(いつしよ)に谷底(たにそこ)に放(はう)られてしまうたか、202エー気(き)の毒(どく)ぢや、203アー人間(にんげん)と云(い)ふものは判(わか)らぬものだナア。204今(いま)まで偉(えら)さうに蚊々虎(かがとら)々々々(かがとら)だのと昔(むかし)のかばちを出(だ)しよつて、205偉(えら)さうに言(い)つて居(ゐ)たのが、206この悲惨(みじめ)な態(ざま)は何(なん)の事(こと)かい。207昔(むかし)は昔(むかし)、208今(いま)は今(いま)ぢや』
209と調子(てうし)に乗(の)つて四(よ)人(にん)の男(をとこ)を前(まへ)に据(す)ゑ、210一人(ひとり)御託(ごうたく)を並(なら)べて居(ゐ)る。211そこへ流暢(りうちやう)な声(こゑ)で、
212宣伝使(淤縢山津見)『神(かみ)が表(おもて)に現(あら)はれて
213善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわけ)る
214この世(よ)を造(つく)りし神直日(かむなほひ)』
215と云(い)ふ宣伝歌(せんでんか)聞(きこ)え来(き)たりぬ。
216蚊々虎『ヨウまた宣伝使(せんでんし)か、217誰(たれ)だらう。218谷底(たにそこ)へ嵌(はま)つた幽霊(いうれい)の声(こゑ)にしては、219何(な)んとなしに力(ちから)がある。220ハテナ、221怪体(けつたい)な事(こと)があれば有(あ)るものぢや』
222と独語(ひとりごと)を云(い)つてゐると、223そこへ淤縢山津見(おどやまづみ)は谷底(たにそこ)に落(お)ちたる荒熊(あらくま)を、224背(せ)に負(お)ひ労(いたは)り乍(なが)ら宣伝歌(せんでんか)を歌(うた)ひつつ上(のぼ)り来(き)たり。
225蚊々虎『ヤヤ バヽ化(ば)け者(もの)が、226よう化(ば)けよつたナア』
227淤縢山津見『オイオイ蚊々虎(かがとら)、228俺(おれ)だよ。229化物(ばけもの)でも何(なん)でもない真実者(ほんまもの)だ。230宣伝使(せんでんし)は善(ぜん)と悪(あく)とを立別(たてわけ)る役(やく)だ。231貴様(きさま)があまり御託(ごうたく)を並(なら)べるから同情(どうじやう)は出来(でき)ない。232却(かへ)つて俺(おれ)は荒熊(あらくま)に同情(どうじやう)してこの危難(きなん)を助(たす)けたのだ。233神(かみ)の道(みち)には敵(てき)も味方(みかた)もあるものか。234三五教(あななひけう)の御(ご)主旨(しゆし)は味方(みかた)の中(なか)に敵(てき)が居(を)り、235敵(てき)の中(なか)にも味方(みかた)が在(あ)ると教(をし)へられてある。236貴様(きさま)は俺(おれ)の味方(みかた)でありながら神(かみ)様(さま)の御心(みこころ)を取違(とりちが)ひ致(いた)して、237却(かへつ)て敵(てき)になるのだ。238この荒熊(あらくま)さまは吾々(われわれ)に対(たい)して無茶(むちや)なことを云(い)ひ、239吾々(われわれ)の通路(つうろ)を妨(さまた)げる敵(てき)の様(やう)だが、240敵(てき)を敵(てき)とせず、241敵(てき)が却(かへつ)て味方(みかた)となる教(をしへ)だ。242どうだ合点(がつてん)が行(い)つたか』
243 蚊々虎(かがとら)は怪訝(けげん)な顔(かほ)して、
244蚊々虎『へー』
245と味(あぢ)のない味噌(みそ)を喰(くら)つた様(やう)な顔(かほ)をして、246首(くび)を傾(かたむ)け指(ゆび)をくはへ、247アフンとして山道(やまみち)に佇立(ちよりつ)しゐたり。
248(大正一一・二・八 旧一・一二 谷村真友録)
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