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第三六章 大蛇(をろち)()〔三八六〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻 篇:第5篇 宇都の国 よみ(新仮名遣い):うづのくに
章:第36章 大蛇の背 よみ(新仮名遣い):おろちのせ 通し章番号:386
口述日:1922(大正11)年02月10日(旧01月14日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
一同が蚊々虎の講釈に笑っていると、どこからともなく青臭い風が吹いてきた。駒山彦は大蛇が近づいてきたかと警戒している。
駒山彦は空元気を出して、蚊々虎と先を争って峠を下っていった。すると、ものすごい大蛇が道をふさいで横たわっている。淤縢山津見も近くまで寄ってみたが、あまりに大きさに越えることもならず、思案に暮れ、蚊々虎に妙案がないか、と問いかけた。
蚊々虎は大蛇につかつかと進みよると、拳を固めて大蛇の腹を叩きながら、説教を始めた。そして、天津祝詞を奏上して立派な人間にしてやるから、その代わりに一同を乗せて珍の国まで送ってくれ、と語りかけた。
大蛇は涙を流し、幾度となく頭を下げている。蚊々虎は一同を招いて、大蛇に乗るようにと促した。一同は舌を巻いて呆然としていたが、蚊々虎がひらりと大蛇に乗ると、五月姫が続いた。それを見た一行も大蛇の背に飛び乗った。
蚊々虎は出放題の歌を歌っている。大蛇は勢いよく山を降って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-06-07 15:44:33 OBC :rm0836
愛善世界社版:250頁 八幡書店版:第2輯 240頁 修補版: 校定版:254頁 普及版:112頁 初版: ページ備考:
001 一同(いちどう)宣伝使(せんでんし)は、002蚊々虎(かがとら)面白(おもしろ)講釈(かうしやく)(あるひ)(かん)(あるひ)(わら)ひ、003(その)雄弁(ゆうべん)口々(くちぐち)()めちぎり()たる。004(をり)しも何処(どこ)ともなく青臭(あをくさ)(かぜ)がゾーゾーと(おと)()てて()()たりけり。
005 駒山彦(こまやまひこ)(おどろ)きながら、
006駒山彦『ヤア()よつたぞ。007あの(こゑ)大蛇(をろち)(おと)だらう。008吾々(われわれ)(ひと)覚悟(かくご)をせなくてはならぬ。009腹帯(はらおび)でも()めて()かうかい』
010 蚊々虎(かがとら)は、
011蚊々虎正鹿山津見(まさかやまづみ)さまが(この)(やま)には大変(たいへん)大蛇(をろち)()るなぞと、012吾々(われわれ)(きも)(ため)して()やうと(おも)つて、013嘘言(うそ)ばかり()つたのだな。014(なが)いものと()つたら此処(ここ)まで()るのに、015蚯蚓(みみづ)一匹(いつぴき)()やせなかつたぢやないか。016マア、017(ひと)(この)(すず)しい(かぜ)十二分(じふにぶん)()けて、018大蛇(をろち)()るやうに(うた)でも(うた)つて(をど)らうかい。019大蛇山(をろちやま)には(じや)()るぢやげな、020(おほ)きな、021(おほ)きな(じや)ぢやげな、022嘘言(うそ)ぢやげな』
023正鹿山津見(まさかやまづみ)蚊々虎(かがとら)さま、024吾々(われわれ)(いやし)くも天下(てんか)宣伝使(せんでんし)025(けつ)して嘘言(うそ)(まを)しませぬ。026大蛇(をろち)はかういふ()(しげ)つた(ところ)には()りませぬ。027この(たうげ)(すこ)しく(くだ)ると、028(やま)一面(いちめん)茫々(ばうばう)たる(くさ)ばかりです。029その(くさ)()えた(ところ)へかかると、030(おほ)きな(やつ)彼方(あちら)にも此方(こちら)にも、031沢山(たくさん)前後(ぜんご)左右(さいう)往来(わうらい)して()ます。032大蛇(をろち)(わう)にでも出会(でつくは)さうものなら大変(たいへん)ですよ。033マア道中(だうちう)安全(あんぜん)のために神言(かみごと)奏上(そうじやう)しませう』
034蚊々虎『それじや蚊々虎(かがとら)じや(すゐ)でしたか』
035 駒山彦(こまやまひこ)は、
036駒山彦『コラまた洒落(しやれ)てゐるナ、037大蛇(をろち)(たうげ)通行(つうかう)しながら、038ソンナ気楽(きらく)(こと)()つて()るものがあるか。039如何(いか)(くち)達者(たつしや)蚊々虎(かがとら)さまでも、040実物(じつぶつ)出交(でつくわ)したら、041(はた)()いて退却(たいきやく)するに(きま)つて()るワ』
042 蚊々虎(かがとら)(わざ)悄気(しよげ)たやうな(かほ)をして、
043蚊々虎『さうかなア、044(この)(はう)さまは如何(どん)(てき)でも(おそ)れぬが、045大蛇(をろち)だけはまだ経験(けいけん)()いから、046(ちつ)おろちいやうな()がする。047駒公(こまこう)048貴様(きさま)今度(こんど)(さき)()け、049(この)(はう)()(にん)中央(まんなか)だ』
050駒山彦(こまやまひこ)(ざま)()やがれ、051弱虫(よわむし)()が』
052(あらそ)ひつつ大蛇峠(をろちたうげ)をどんどん(ひがし)(むか)つて(くだ)る。053駒山彦(こまやまひこ)はどこともなくびくびく(むね)(をど)らせながら、054(わざ)空元気(からげんき)()し、055宣伝歌(せんでんか)(うた)つて、056大蛇峠(をろちたうげ)(くだ)つて()く。057その(こゑ)はどこともなく(ふる)うて()る。058蚊々虎(かがとら)は、
059蚊々虎『オイ、060先達(せんだつ)061その(こゑ)はどうだい、062(ふる)つてるぢやないか。063半泣声(はんなきごゑ)()しよつて、064ソンナ(こゑ)()くと、065大蛇(をろち)先生(せんせい)066(をんな)だと(おも)つて()びつくぞよ』
067 駒山彦(こまやまひこ)(くび)をスクメながら、
068駒山彦『ヤア、069()()た、070(えら)(やつ)だ。071アンナ(やつ)がこの山道(やまみち)(よこ)たはつて()ては、072(とほ)(こと)出来(でき)はしない』
073と、074どすんと(みち)(はた)(こし)()ゑる。075蚊々虎(かがとら)は、
076蚊々虎『どれどれ、077(おれ)()てやらう』
078(みぎ)()(ひたい)にあて、
079蚊々虎『ヤア、080おい()たおい()た。081素適(すてき)滅法界(めつぽうかい)(ふと)(やつ)だ。082(むか)ふの(やま)から此方(こつち)(やま)まで、083(はし)()けた(やう)になつて()よるなあ。084こいつは面白(おもしろ)い。085ドツコイ()(あたま)(くろ)大蛇峠(をろちたうげ)086オイ(こま)さま、087今日(けふ)一番槍(いちばんやり)功名(こうみやう)だ。088毎度(いつも)(この)(はう)さまが先陣(せんぢん)(つと)めるのだが、089あまり厚顔(あつかま)しうすると冥加(みやうが)(わる)い。090今日(けふ)先陣(せんぢん)をお(まへ)(ゆづ)つてやらう。091サア()たぬか、092ハヽヽ(こし)()かして、093(どう)()わつとる駒山彦(こまやまひこ)宣伝使(せんでんし)(さま)か』
094 駒山彦(こまやまひこ)は、
095駒山彦『ナヽ(なん)だか(あし)(おも)たくなつて(ある)けませぬわ。096蚊々(かが)(くん)097(たの)みだ。098(まへ)(さき)()つて()れ』
099蚊々虎『ドツコイさうはいかぬ、100君子(くんし)(あやふ)きに(ちか)づかずだ。101()んで()()(なつ)(むし)だ、102アンナ(なが)(やつ)にピンと()ねられて()よ。103それこそ吾々(われわれ)のやうな人間(にんげん)は、104(てん)(むか)つてプリンプリンプリンぢや。105(この)(はう)はプリンプリンプリンとやられた(はづ)みに天教山(てんけうざん)までポイトコセーと無事(ぶじ)()安着(あんちやく)だ。106貴様(きさま)(たち)はお(のぼ)りどすか、107(くだ)りだすかの(くち)だよ』
108淤縢山津見(おどやまづみ)刹那心(せつなしん)だ、109蚊々虎(かがとら)屁古垂(へこた)れたな。110どれ(わたくし)責任(せきにん)()びて先陣(せんぢん)(つと)めませう』
111(ひる)まず(おそ)れず、112どしどしやつて()く。113大蛇(をろち)(よこ)たはる数十歩(すうじつぽ)(まへ)まで淤縢山津見(おどやまづみ)(すす)んだが、
114淤縢山津見『ヤア、115あれ(だけ)(ふと)(やつ)()つては(またが)(わけ)にも()かず、116()()える(こと)出来(でき)ず、117これや(ひと)(かんが)へねばならぬなあ。118蚊々虎(かがとら)妙案(めうあん)()いか』
119蚊々虎()るの()いのつて、120()えられるの()えられぬの、121(こは)いの(こは)くないの』
122駒山彦(こまやまひこ)何方(どつち)真実(ほんたう)だい。123()えるの()えられぬのと、124どつちが真実(ほんたう)だい』
125蚊々虎『まあ蚊々虎(かがとら)さまの(はな)(わざ)()()なさい』
126()ひながら、127大蛇(をろち)(まへ)つかつかと(すす)み、128(こぶし)(かた)めて、129大蛇(をろち)(はら)をポンポンと(たた)きながら、
130蚊々虎『オイ、131オイ大蛇(をろち)先生(せんせい)132(おな)天地(てんち)(あひだ)(せい)()けながら、133なぜ此様(こん)見苦(みぐるし)蛇体(じやたい)になつて(うま)れて()たのだ。134(おれ)(かみ)(さま)(すく)ひを()(つた)ふる(たつと)(きよ)宣伝使(せんでんし)だ。135貴様(きさま)何時(いつ)までも此様(こん)浅間(あさま)しい姿(すがた)をして深山(みやま)(おく)住居(すまゐ)をしてゐるのは(くるし)からう。136()三寒(さんかん)三熱(さんねつ)(くるし)みを()けて、137(ひと)には(きら)はれ、138(こは)がられ、139ホントに因果(いんぐわ)なものだナ。140(おれ)同情(どうじやう)するよ。141(これ)から天津(あまつ)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)してやるから、142立派(りつぱ)人間(にんげん)(いち)(にち)(はや)(うま)れて()い。143(その)(かは)りに(おれ)たち()(にん)(せなか)()せて、144(うづ)(くに)(みやこ)()える(ところ)まで(おく)るのだよ。145よいか』
146 大蛇(をろち)鎌首(かまくび)()て、147両眼(りやうがん)より(なみだ)をぼろぼろと(おと)し、148幾度(いくど)となく(あたま)()げてゐる。
149蚊々虎『よし、150(わか)つた。151(えら)(やつ)だ。152此処(ここ)()()(にん)宣伝使(せんでんし)盲目(めくら)だから(おれ)素性(すじやう)(ちつ)とも()らないが、153貴様(きさま)(おれ)正体(しやうたい)(わか)つたと()える。154よしよし(たす)けてやらう』
155 大蛇(をろち)(また)もや両眼(りやうがん)より(なみだ)()れ、156俯伏(うつぶ)せになつて、157(はや)()れよと()ふものの(ごと)く、158(なが)胴体(どうたい)三角(さんかく)なりにして()つて()る。
159 蚊々虎(かがとら)手招(てまね)きしながら、
160蚊々虎『オイ(みな)(やつ)161ドツコイ(みな)先生(せんせい)(がた)162(はや)()つたり()つたり。163随分(ずゐぶん)(あし)疲労(くたびれ)たらう。164大蛇(をろち)先生(せんせい)165吾々(われわれ)一行(いつかう)(うづ)(くに)(みやこ)(ちか)くまで、166(おく)らして(くだ)さいと(たの)みよつたぞ。167サア(はや)(はや)()りなさい。168()(おく)れるとつまらぬぞ』
169 一同(いちどう)(した)()いて、170(なん)とも()とも()はず、171呆然(ばうぜん)として佇立(たたず)()る。172五月姫(さつきひめ)は、
173五月姫()一同(いちどう)(さま)174どうでせう、175()せて(いただ)きませうか』
176 駒山彦(こまやまひこ)(あき)れて、
177駒山彦『これはこれは大胆(だいたん)(をんな)だなあ。178アンナものに()せられて(たま)るものか』
179 蚊々虎(かがとら)は、180ひらり大蛇(をろち)()()(あが)り、181()()(あし)(をど)らせて、182平気(へいき)平左(へいざ)宣伝歌(せんでんか)(うた)()す。183五月姫(さつきひめ)つかつかと(はし)()つて大蛇(をろち)()ひらり()(あが)りける。
184駒山彦(こまやまひこ)『ヤア(をんな)でさへもあの膽玉(きもつたま)だ。185エイどうならうと(かま)ふものか。186(みな)さま如何(どう)でせう、187()つてやりませうか』
188淤縢山津見(おどやまづみ)『よからう、189正鹿山(まさかやま)さま、190如何(どう)でせう』
191正鹿山津見(まさかやまづみ)『イヤ(わたくし)()りませう』
192(ここ)()(にん)宣伝使(せんでんし)は、193大蛇(をろち)()()()りたり。
194 蚊々虎(かがとら)は、
195蚊々虎『サア大蛇(をろち)大急行(だいきふかう)だ。196(はし)つたり(はし)つたり。
197大蛇(だいじや)(せな)()せられて
198じや(すゐ)(ふか)じや(しん)らが
199如何(どう)じや()じや(あん)じつつ
200(うづ)(みやこ)(はし)()
201大蛇(だいじや)()つた蟇蛙(ひきがへる)
202(やが)ては(うづ)(みやこ)まで
203()かれて(かへ)蟇蛙(ひきがへる)
204ホントに愉快(ゆくわい)じやないかいな』
205 蚊々虎(かがとら)出放題(ではうだい)(うた)ひゐる。206大蛇(をろち)蜒々(えんえん)と、207前後(ぜんご)左右(さいう)長大(ちやうだい)なる身体(しんたい)振動(ふりうご)かしながら、208(いきほひ)よく(やま)(くだ)()く。
209大正一一・二・一〇 旧一・一四 加藤明子録)
210(第三二章~第三六章 昭和一〇・三・四 於綾部穹天閣 王仁校正)
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