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霊界物語
霊主体従(第1~12巻)
第8巻(未の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 智利の都
第1章 朝日丸
第2章 五十韻
第3章 身魂相応
第4章 烏の妻
第5章 三人世の元
第6章 火の玉
第2篇 四十八文字
第7章 蛸入道
第8章 改心祈願
第9章 鏡の池
第10章 仮名手本
第3篇 秘露より巴留へ
第11章 海の竜宮
第12章 身代り
第13章 修羅場
第14章 秘露の邂逅
第15章 ブラジル峠
第16章 霊縛
第17章 敵味方
第18章 巴留の関守
第4篇 巴留の国
第19章 刹那心
第20章 張子の虎
第21章 滝の村
第22章 五月姫
第23章 黒頭巾
第24章 盲目審神
第25章 火の車
第26章 讃嘆
第27章 沙漠
第28章 玉詩異
第29章 原山祇
第5篇 宇都の国
第30章 珍山峠
第31章 谷間の温泉
第32章 朝の紅顔
第33章 天上眉毛
第34章 烏天狗
第35章 一二三世
第36章 大蛇の背
第37章 珍山彦
第38章 華燭の典
第6篇 黄泉比良坂
第39章 言霊解一
第40章 言霊解二
第41章 言霊解三
第42章 言霊解四
第43章 言霊解五
余白歌
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霊界物語
>
霊主体従(第1~12巻)
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第8巻(未の巻)
> 第3篇 秘露より巴留へ > 第18章 巴留の関守
<<< 敵味方
(B)
(N)
刹那心 >>>
第一八章
巴留
(
はる
)
の
関守
(
せきもり
)
〔三六八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
篇:
第3篇 秘露より巴留へ
よみ(新仮名遣い):
ひるよりはるへ
章:
第18章 巴留の関守
よみ(新仮名遣い):
はるのせきもり
通し章番号:
368
口述日:
1922(大正11)年02月08日(旧01月12日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年6月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
淤縢山津見は谷底に落ち込んで重傷を負った荒熊を助け出し、鎮魂を施すと、荒熊の負傷はたちまち癒えて元の体に回復した。
荒熊は淤縢山津見の前に両手をつき、命を助けてくれた恩を涙ながらに感謝し、これまでの無礼を謝した。
蚊々虎は自分の威力で荒熊が谷底へ落ちたと得意になってまたおかしな説教を荒熊に垂れている。淤縢山津見がそれをたしなめた。
荒熊は淤縢山津見が醜国別であると認めた。荒熊はかつての醜国別の部下・高彦の後身であった。高彦は、醜国別が帰幽して以来、讒言によって常世神王の元を追い出されて流人となっていたという。
巴留の国は今、鷹取別が厳しく支配し、他国者を寄せ付けないという。鷹取別は、大自在天の部下で、かつては高彦や蚊々虎の同僚であった。荒熊は、自分が高彦であると鷹取別に正体を知られると、また迫害を受ける、と心配している。
蚊々虎は、鷹取別なんか恐くない、吹き飛ばしてやる、俺が貴様を巴留の国の王にするのだ、とまた法螺を吹いて息巻いている。淤縢山津見がそれをたしなめる。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-06-04 17:35:10
OBC :
rm0818
愛善世界社版:
119頁
八幡書店版:
第2輯 193頁
修補版:
校定版:
121頁
普及版:
52頁
初版:
ページ備考:
001
激潭
(
げきたん
)
飛沫
(
ひまつ
)
囂々
(
がうがう
)
と
音
(
おと
)
騒
(
さわ
)
がしき
千仭
(
せんじん
)
の
谷間
(
たにま
)
に、
002
身
(
み
)
を
躍
(
をど
)
らして
飛
(
と
)
び
入
(
い
)
り、
003
重傷
(
ぢうしやう
)
に
悩
(
なや
)
む
荒熊
(
あらくま
)
を
助
(
たす
)
け
起
(
おこ
)
して
吾
(
わが
)
背
(
せ
)
に
負
(
お
)
ひ、
004
漸
(
やうや
)
く
此処
(
ここ
)
に
駆上
(
かけあが
)
つて
来
(
き
)
た
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
は、
005
荒熊
(
あらくま
)
を
大地
(
だいち
)
に
下
(
おろ
)
して
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
鎮魂
(
ちんこん
)
を
施
(
ほどこ
)
し、
006
頭部
(
とうぶ
)
の
傷所
(
きずしよ
)
に
向
(
むか
)
つて
息
(
いき
)
を
吹
(
ふ
)
きかけたるに、
007
不思議
(
ふしぎ
)
や
荒熊
(
あらくま
)
の
負傷
(
ふしやう
)
は
拭
(
ぬぐ
)
ふが
如
(
ごと
)
く
癒
(
い
)
え、
008
苦痛
(
くつう
)
も
全
(
まつた
)
く
止
(
と
)
まりて
元
(
もと
)
の
身体
(
からだ
)
に
復
(
ふく
)
したり。
009
荒熊
(
あらくま
)
は
大地
(
だいち
)
に
両手
(
りやうて
)
をつき
高恩
(
かうおん
)
を
涙
(
なみだ
)
と
共
(
とも
)
に
感謝
(
かんしや
)
し、
010
且
(
か
)
つ
無礼
(
ぶれい
)
を
陳謝
(
ちんしや
)
したりける。
011
蚊々虎
『オイ
荒
(
あら
)
さま、
012
ドツコイ
黒坊
(
くろんぼう
)
の
熊
(
くま
)
さま、
013
三五教
(
あななひけう
)
の
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
とはコンナものだい。
014
耳
(
みみ
)
の
穴
(
あな
)
を
浚
(
さら
)
つて
とつくり
と
聞
(
き
)
かう。
015
エヘン、
016
蚊々虎
(
かがとら
)
様
(
さま
)
の』
017
と
云
(
い
)
ひつつ
指
(
ゆび
)
の
先
(
さき
)
で
鼻
(
はな
)
を
押
(
お
)
さへながら、
018
蚊々虎
『この
大
(
おほ
)
きな
鼻
(
はな
)
の
穴
(
あな
)
から
フン
と
伊吹
(
いぶき
)
をやつたが
最後
(
さいご
)
、
019
貴様
(
きさま
)
は
蠑螈
(
いもり
)
が
泥
(
どろ
)
に
酔
(
よ
)
つたやうに
大
(
おほ
)
きな
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
けよつて、
020
アヽアーと
虚空
(
こくう
)
を
掴
(
つか
)
んで
仰向
(
あふむ
)
けに
顛覆
(
ひつくり
)
返
(
かへ
)
つたが
最後
(
さいご
)
、
021
この
深
(
ふか
)
い
深
(
ふか
)
い
谷底
(
たにそこ
)
へ
スツテンドウ
と
顛覆
(
ひつくり
)
返
(
かへ
)
つて
頭
(
あたま
)
を
打
(
う
)
ち
割
(
わ
)
つて、
022
「アイタツタツタ、
023
コイタツタツタ、
024
アーア
今日
(
けふ
)
は
如何
(
いか
)
なる
悪日
(
あくじつ
)
かと、
025
処
(
ところ
)
もあらうにコンナ
深
(
ふか
)
い
深
(
ふか
)
い
谷底
(
たにそこ
)
へ
取
(
と
)
つて
放
(
ほ
)
られ、
026
此処
(
ここ
)
で
死
(
し
)
ぬのか、
027
後
(
あと
)
で
女房
(
にようばう
)
は
嘸
(
さぞ
)
やさぞ、
028
悔
(
くや
)
むであらう。
029
死
(
し
)
ぬるこの
身
(
み
)
は
厭
(
いと
)
はねど、
030
昨日
(
きのふ
)
に
変
(
かは
)
る
今日
(
けふ
)
の
空
(
そら
)
、
031
定
(
さだ
)
め
無
(
な
)
き
世
(
よ
)
と
云
(
い
)
ひながら、
032
さてもさてもあまりだわ、
033
不運
(
ふうん
)
が
重
(
かさ
)
なれば
重
(
かさ
)
なるものか、
034
と
云
(
い
)
つて
女房
(
にようばう
)
が
泣
(
な
)
くであらう」などと
下
(
くだ
)
らぬ
事
(
こと
)
を、
035
河鹿
(
かじか
)
のやうに、
036
谷水
(
たにみづ
)
に
漬
(
つか
)
つて
吐
(
ほざ
)
きよつた
其処
(
そこ
)
へ、
037
天道
(
てんだう
)
は
人
(
ひと
)
を
殺
(
ころ
)
さず、
038
三五教
(
あななひけう
)
の
俺
(
おい
)
らの
先生
(
せんせい
)
様
(
さま
)
の
醜国別
(
しこくにわけ
)
オツトドツコイ
淤縢山
(
おどやま
)
津見
(
づみ
)
様
(
さま
)
が
悠然
(
いうぜん
)
として
現
(
あら
)
はれたまひ、
039
摂取
(
せつしゆ
)
不捨
(
ふしや
)
、
040
大慈
(
だいじ
)
大悲
(
だいひ
)
の
大御心
(
おほみこころ
)
をもつてお
助
(
たす
)
け
遊
(
あそ
)
ばしたのだよ。
041
何
(
なん
)
と
有難
(
ありがた
)
いか、
042
勿体
(
もつたい
)
ないか、
043
エーン
改心
(
かいしん
)
を
致
(
いた
)
せ、
044
慢心
(
まんしん
)
は
大怪我
(
おほけが
)
の
基
(
もと
)
だぞよ。
045
慢心
(
まんしん
)
するとその
通
(
とほ
)
り、
046
谷底
(
たにそこ
)
に
落
(
お
)
ちて
酷
(
ひど
)
い
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
つてアフンと
致
(
いた
)
さねばならぬぞよと、
047
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
仰有
(
おつしや
)
るのだ。
048
その
実地
(
じつち
)
正真
(
しやうまつ
)
を
此
(
この
)
方
(
はう
)
がして
見
(
み
)
せてやつたのだぞ。
049
改心
(
かいしん
)
ほど
結構
(
けつこう
)
なものは
無
(
な
)
いぞよ。
050
エヘン』
051
淤縢山津見
『コラ、
052
コラ
蚊々虎
(
かがとら
)
、
053
黙
(
だま
)
らぬか。
054
何
(
なん
)
といふ
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
く、
055
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
を
聞
(
き
)
きかじりよつて、
056
仕方
(
しかた
)
のない
奴
(
やつ
)
だ。
057
黙
(
だま
)
つて
俺
(
おれ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聴
(
き
)
いて
居
(
を
)
れ』
058
蚊々虎
『ヘン、
059
大勢
(
おほぜい
)
のところで
耻
(
はぢ
)
を
掻
(
か
)
かさいでも、
060
ちつとは
俺
(
おれ
)
に
花
(
はな
)
を
持
(
も
)
たして
呉
(
く
)
れてもよささうなものだなあ』
061
と
小声
(
こごゑ
)
にて
呟
(
つぶや
)
く。
062
荒熊
(
あらくま
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
の
顔
(
かほ
)
をじつと
見上
(
みあ
)
げ、
063
荒熊
『ヨウヨウ、
064
貴下
(
あなた
)
は
醜国別
(
しこくにわけ
)
様
(
さま
)
では
無
(
な
)
かつたか』
065
淤縢山津見
『ヤヽさういふお
前
(
まへ
)
は
高彦
(
たかひこ
)
ではなかつたか。
066
これはこれは
妙
(
めう
)
な
処
(
ところ
)
で
遇
(
あ
)
うたものだ。
067
一体
(
いつたい
)
お
前
(
まへ
)
はコンナ
処
(
ところ
)
へどうして
来
(
き
)
たのだ。
068
常世
(
とこよ
)
会議
(
くわいぎ
)
の
時
(
とき
)
には
随分
(
ずゐぶん
)
偉
(
えら
)
い
元気
(
げんき
)
で
弥次
(
やじ
)
りよつたが、
069
かうなつた
訳
(
わけ
)
を
聞
(
き
)
かして
呉
(
く
)
れないか』
070
荒熊(高彦)
『ハイ、
071
ハイ、
072
委細
(
ゐさい
)
包
(
つつ
)
まず
申上
(
まをしあ
)
げますが、
073
併
(
しか
)
しながら、
074
貴下
(
あなた
)
は
大自在天
(
だいじざいてん
)
様
(
さま
)
の
宰相
(
さいしやう
)
醜国別
(
しこくにわけ
)
様
(
さま
)
、
075
一旦
(
いつたん
)
幽界
(
あのよ
)
とやら
遠
(
とほ
)
い
国
(
くに
)
へお
出
(
いで
)
になつたと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だのに、
076
どうしてまあ
此処
(
ここ
)
へお
越
(
こ
)
しになつたのか、
077
ユヽ
幽霊
(
いうれい
)
ぢや
無
(
な
)
からうかナア』
078
淤縢山津見
『
幽霊
(
いうれい
)
でも
何
(
なん
)
でもない』
079
実
(
じつ
)
は
斯様
(
かやう
)
々々
(
かやう
)
でと、
080
有
(
あり
)
し
来歴
(
らいれき
)
を
詳細
(
しやうさい
)
に
物語
(
ものがた
)
り、
081
高彦
(
たかひこ
)
の
経歴談
(
けいれきだん
)
を
熱心
(
ねつしん
)
に
聴
(
き
)
き
入
(
い
)
りぬ。
082
高彦
(
たかひこ
)
は
両眼
(
りやうがん
)
に
涙
(
なみだ
)
を
湛
(
たた
)
へながら、
083
高彦(荒熊)
『
私
(
わたくし
)
は
貴下
(
あなた
)
が
宰相
(
さいしやう
)
として
大自在天
(
だいじざいてん
)
にお
仕
(
つか
)
へ
遊
(
あそ
)
ばした
頃
(
ころ
)
は、
084
貴下
(
あなた
)
のお
加護
(
かげ
)
で
相当
(
さうたう
)
な
立派
(
りつぱ
)
な
役
(
やく
)
を
与
(
あた
)
へられ、
085
肩
(
かた
)
で
風
(
かぜ
)
を
切
(
き
)
つて
歩
(
ある
)
いたものでございますが、
086
貴下
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
帰幽後
(
きいうご
)
は
鷹取別
(
たかとりわけ
)
の
天下
(
てんか
)
となり、
087
悪者
(
わるもの
)
のために
讒言
(
ざんげん
)
されて
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
様
(
さま
)
の
勘気
(
かんき
)
を
蒙
(
かうむ
)
り、
088
常世国
(
とこよのくに
)
を
叩
(
たた
)
き
払
(
はら
)
ひにされて
妻子
(
さいし
)
眷属
(
けんぞく
)
は
離散
(
りさん
)
し、
089
私
(
わたくし
)
は
何処
(
どこ
)
へ
取
(
とり
)
つく
島
(
しま
)
もなく、
090
寄
(
よ
)
る
辺
(
べ
)
渚
(
なぎさ
)
の
捨小舟
(
すてをぶね
)
、
091
漸
(
やうや
)
く
巴留
(
はる
)
の
国
(
くに
)
に
押
(
お
)
し
流
(
なが
)
され、
092
夜
(
よる
)
に
紛
(
まぎ
)
れてこの
国
(
くに
)
に
上
(
あが
)
り、
093
労働者
(
らうどうしや
)
となつて
働人
(
はたらきにん
)
の
仲間
(
なかま
)
に
紛
(
まぎ
)
れ
込
(
こ
)
み、
094
些
(
すこ
)
し
力
(
ちから
)
のあるを
幸
(
さいはひ
)
に
今
(
いま
)
は
僅
(
わづか
)
に
五人頭
(
ごにんがしら
)
となつて、
095
この
巴留
(
はる
)
の
国
(
くに
)
の
関守
(
せきもり
)
となり、
096
面白
(
おもしろ
)
からぬ
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
つて
居
(
を
)
ります。
097
この
巴留
(
はる
)
の
国
(
くに
)
には
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
の
勢力
(
せいりよく
)
侮
(
あなど
)
り
難
(
がた
)
く
今
(
いま
)
また
伊弉冊
(
いざなみの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
が
何処
(
どこ
)
からかお
出
(
いで
)
になつて、
098
ロッキー
山
(
ざん
)
にお
鎮
(
しづ
)
まりなされ、
099
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
の
勢力
(
せいりよく
)
ますます
旺盛
(
わうせい
)
となり、
100
この
巴留
(
はる
)
の
国
(
くに
)
は
鷹取別
(
たかとりわけ
)
の
御
(
ご
)
領地
(
りやうぶん
)
で、
101
それはそれは
大変
(
たいへん
)
厳
(
きび
)
しい
制度
(
せいど
)
を
布
(
し
)
かれ、
102
他国
(
たこく
)
の
者
(
もの
)
は
一人
(
ひとり
)
もこの
国
(
くに
)
へ
這入
(
はい
)
れない
事
(
こと
)
になつて
居
(
ゐ
)
ます。
103
万一
(
まんいち
)
これから
先
(
さき
)
へ
貴下
(
あなた
)
がお
越
(
こ
)
しなさるやうな
事
(
こと
)
があれば、
104
私
(
わたくし
)
は
関守
(
せきもり
)
としての
役
(
やく
)
が
勤
(
つと
)
まらず、
105
鷹取別
(
たかとりわけ
)
の
面前
(
めんぜん
)
に
引
(
ひ
)
き
出
(
だ
)
され、
106
裁
(
さば
)
きを
受
(
う
)
けねばなりませぬ。
107
その
時
(
とき
)
私
(
わたくし
)
の
顔
(
かほ
)
を
見知
(
みし
)
つてゐる
鷹取別
(
たかとりわけ
)
はヤア
貴様
(
きさま
)
は
高彦
(
たかひこ
)
ではないか、
108
と
睨
(
にら
)
まれやうものなら、
109
又
(
また
)
もやこの
国
(
くに
)
を
叩
(
たた
)
き
払
(
ばら
)
ひにされて
辛
(
えら
)
い
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はねばならぬ。
110
折角
(
せつかく
)
命
(
いのち
)
を
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
つて、
111
その
御恩
(
ごおん
)
も
返
(
かへ
)
さず、
112
これから
元
(
もと
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さいと
申上
(
まをしあ
)
げるは
恩
(
おん
)
を
仇
(
あだ
)
にかへす
道理
(
だうり
)
、
113
ぢやと
申
(
まを
)
して
行
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
へば
今
(
いま
)
申
(
まを
)
す
通
(
とほ
)
りの
破目
(
はめ
)
に
遇
(
あ
)
はねばならず、
114
貴下
(
あなた
)
がお
出
(
いで
)
になるならば、
115
この
関守
(
せきもり
)
の
荒熊
(
あらくま
)
の
首
(
くび
)
を
刎
(
は
)
ねて
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
116
と
滝
(
たき
)
の
如
(
ごと
)
き
涙
(
なみだ
)
を
垂
(
た
)
らして
大地
(
だいち
)
に
泣
(
な
)
き
伏
(
ふ
)
しける。
117
蚊々虎
(
かがとら
)
は
笑
(
わら
)
ひ
出
(
だ
)
し、
118
蚊々虎
『ウワハヽ
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
ぢや。
119
何
(
なん
)
だい、
120
高
(
たか
)
の
知
(
し
)
れた
鷹取別
(
たかとりわけ
)
、
121
彼奴
(
あいつ
)
がそれほど
恐
(
おそ
)
ろしいのか。
122
俺
(
おれ
)
の
鼻息
(
はないき
)
で
貴様
(
きさま
)
を
吹
(
ふ
)
き
飛
(
と
)
ばしたやうに、
123
鷹取別
(
たかとりわけ
)
もまた
吹
(
ふ
)
き
飛
(
と
)
ばしてやるワイ。
124
エヽ
心配
(
しんぱい
)
するな、
125
蚊々虎
(
かがとら
)
に
従
(
つ
)
いて
来
(
こ
)
い、
126
俺
(
おれ
)
が
貴様
(
きさま
)
を
巴留
(
はる
)
の
国
(
くに
)
の
王
(
わう
)
様
(
さま
)
に
為
(
し
)
てやるのだ。
127
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い』
128
淤縢山津見
『オイ
蚊々虎
(
かがとら
)
、
129
貴様
(
きさま
)
は
口
(
くち
)
が
過
(
す
)
ぎる。
130
この
国
(
くに
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
が、
131
其辺
(
そこら
)
一面
(
いちめん
)
に
聞
(
き
)
いてをるぞ』
132
折
(
をり
)
から
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
夏
(
なつ
)
の
風
(
かぜ
)
、
133
この
場
(
ば
)
の
囁
(
ささや
)
きを
乗
(
の
)
せて
巴留
(
はる
)
の
都
(
みやこ
)
へ
送
(
おく
)
り
行
(
ゆ
)
く。
134
(
大正一一・二・八
旧一・一二
加藤明子
録)
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(B)
(N)
刹那心 >>>
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