霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第三五章 一二三(いちにさん)世(せ)〔三八五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻 篇:第5篇 宇都の国 よみ(新仮名遣い):うづのくに
章:第35章 一二三世 よみ(新仮名遣い):いちにさんせ 通し章番号:385
口述日:1922(大正11)年02月10日(旧01月14日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
夏の炎天に険しい坂を登って行き、一同の顔は汗によって蚊々虎の落書きも落ちてしまった。山頂には腰を下ろすのにちょうどよい岩があちこちにあった。
一行は岩に座って休んだ。蚊々虎は、『親子は一世、夫婦は二世、主従は三世』と殊勝なことを言うが、その意味として、おかしな解説を始める。
曰く、親子は一回限り、夫婦は二回まで換えてもよいから二世、主従は三回まで換えられるが、それ以上は換えられないから三世だ、という。
蚊々虎の解説に一同は声を揃えて笑った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-06-07 15:41:44 文字数:3896 OBC :rm0835
愛善世界社版:240頁 八幡書店版:第2輯 237頁 修補版: 校定版:244頁 普及版:107頁 初版: ページ備考:
001 樹々(きぎ)に囀(さへづ)る百鳥(ももとり)の声(こゑ)、002眠気(ねむたげ)なる油蝉(あぶらぜみ)の声(こゑ)に送(おく)られて、003夏(なつ)の炎天(えんてん)を喘(あへ)ぎ喘(あへ)ぎ嶮(けは)しき坂(さか)を登(のぼ)り行(ゆ)く。004汗(あせ)は滝(たき)の如(ごと)く流(なが)れ、005彩(ゑど)られた顔(かほ)はメチヤメチヤになつて赤(あか)い汗(あせ)さへ流(なが)るる無状(ぶざま)さ。006一行(いつかう)は汗(あせ)を拭(ぬぐ)ひ拭(ぬぐ)ひ、007漸(やうや)くに山頂(さんちやう)に達(たつ)したり。008山頂(さんちやう)には格好(かくかう)の岩(いは)が程(ほど)よく散布(さんぷ)されてありぬ。009宣伝使(せんでんし)一行(いつかう)は、010各自(かくじ)に岩(いは)に腰打(こしうち)かけ息(いき)を休(やす)めたり。
011蚊々虎(かがとら)『ままになるなら此(この)涼風(すずかぜ)を、012母(はは)の土産(みやげ)にして見(み)たい』
013駒山彦(こまやまひこ)『オイ、014蚊々虎(かがとら)、015殊勝(しゆしよう)らしい事(こと)を云(い)ふね。016「ままになるなら此(この)涼風(すずかぜ)を母(はは)の土産(みやげ)にして見(み)たい」随分(ずゐぶん)孝行者(かうかうもの)だなア。017夫(そ)れほど親孝行(おやかうかう)の貴様(きさま)が放蕩(はうたう)ばかりやりよつて、018両親(りやうしん)に心配(しんぱい)をかけ、019子(こ)が無(な)うて泣(な)く親(おや)は無(な)いが、020子(こ)のために泣(な)く親(おや)は沢山(たくさん)あるとか云(い)つてな、021ソンナ優(やさ)しい心(こころ)があるのなら何故(なぜ)親(おや)を放(ほ)つたらかして其辺中(そこらじう)を迂路(うろ)つき廻(まは)るのだ。022口(くち)と心(こころ)と行(おこな)ひと一致(いつち)せぬのは、023神(かみ)様(さま)に対(たい)してお気障(きざは)りだぞ』
024蚊々虎『人間(にんげん)の性(せい)は善(ぜん)だ。025誰(たれ)だつて親(おや)を思(おも)はぬ子(こ)があらうか。026浮世(うきよ)の波(なみ)に漂(ただよ)はされて止(や)むを得(え)ず、027親子(おやこ)は四方(しはう)に泣(な)き別(わか)れと云(い)ふ悲惨(ひさん)の幕(まく)が下(お)りたのだよ。028親子(おやこ)は一世(いつせ)、029夫婦(ふうふ)は二世(にせ)、030主従(しゆじゆう)は三世(さんせ)と云(い)ふ相(さう)なからのう』
031 駒山彦(こまやまひこ)は、
032駒山彦『ヘン、033うまい事(こと)を云(い)ひやがらア。034親(おや)は如何(どう)でも良(よ)いのか、035夫婦(ふうふ)は二世(にせ)なんて、036死(し)んでまで添(そ)うと思(おも)ひよつて二世(にせ)も三世(さんせ)も夫婦(めをと)だと思(おも)つて居(を)るから情(なさけ)ない。037如何(いか)に五月姫(さつきひめ)ぢやとてお前(まへ)の様(やう)な腰屈(こしまが)りに、038誰(たれ)が心中立(しんぢうだて)をするものかい』
039 蚊々虎(かがとら)は
040蚊々虎『故郷(ふるさと)の空(そら)打眺(うちなが)め思(おも)ふかな、041国(くに)に残(のこ)せし親(おや)は如何(いか)にと』
042 駒山彦(こまやまひこ)は
043駒山彦『オヤオヤ又(また)出(で)たぞ。044何(なん)だ貴様(きさま)、045今日(けふ)に限(かぎ)つて殊勝(しゆしよう)らしい事(こと)を並(なら)べ立(たて)よつて、046一角(ひとかど)詩人(しじん)気取(きど)りになつて「アヽ、047蚊々虎(かがとら)さまはああ見(み)えても心(こころ)の底(そこ)は優(やさ)しいお方(かた)だ。048たとへ腰(こし)は曲(まが)つてもお顔(かほ)は黒(くろ)うても、049男前(をとこまへ)はヒヨツトコでも、050チツとくらゐ周章者(あわてもの)でも、051心(こころ)の底(そこ)のドン底(ぞこ)には両親(りやうしん)を思(おも)ふ優(やさ)しい美(うつく)しい心(こころ)の玉(たま)が光(ひか)つて居(ゐ)る。052アンナ人(ひと)と夫婦(ふうふ)になつたら嘸(さぞ)や嘸(さぞ)、053円満(ゑんまん)なホームが作(つく)れるであらう。054おなじ夫(をつと)を持(も)つなら、055あの様(やう)な優(やさ)しい男(をとこ)と夫婦(ふうふ)になつて見(み)たい」などと五月姫(さつきひめ)さまに思(おも)はさうと思(おも)ひよつて、056貴様(きさま)よツぽど抜目(ぬけめ)のない奴(やつ)だワイ。057アハヽヽヽ』
058 淤縢山津見(おどやまづみ)は、
059淤縢山津見『ヤア感心(かんしん)だ、060人間(にんげん)はさう無(な)くてはならぬ、061山(やま)よりも高(たか)く、062海(うみ)よりも深(ふか)い父母(ふぼ)の恩(おん)を忘(わす)れる奴(やつ)は人間(にんげん)でない。063お前(まへ)もまだまだ腐(くさ)つては居(を)らぬ、064頼(たの)もしい男(をとこ)だよ』
065 駒山彦(こまやまひこ)は、
066駒山彦『オイ鼻(はな)を高(たか)うすな、067貴様(きさま)は直(ぢき)に調子(てうし)にのる男(をとこ)だから余(あま)り乗(の)せられるとヒツクリ返(かへ)されるぞ。068天教(てんけう)の山(やま)ほど登(のぼ)らせておいてスツトコトントン、069スツトコトンと落(おと)される口(くち)だぞ。070貴様(きさま)、071親(おや)よりも女房(にようばう)が大切(たいせつ)だらう。072親子(おやこ)は一世(いつせ)、073夫婦(ふうふ)は二世(にせ)なぞと云(い)ひよつて、074之(これ)ほど大切(だいじ)な親(おや)よりも「五月姫(さつきひめ)殿(どの)、075お前(まへ)が女房(にようばう)になつたらモツトモツト大切(たいせつ)にするぞ」と遠(とほ)廻(まは)しにかけよつて、076うまい謎(なぞ)をかけよるのだ。077本当(ほんたう)に巧妙(かうめう)なものだね』
078 蚊々虎(かがとら)はしたり顔(がほ)にて、
079蚊々虎『オイ、080駒(こま)、081貴様(きさま)わけのわからぬ奴(やつ)だナ。082俺(おれ)がいま宣伝(せんでん)してやるから尊(たふと)い御(ご)説教(せつけう)を謹聴(きんちやう)しろよ。083親子(おやこ)一世(いつせ)と云(い)ふ事(こと)は、084何(なに)ほど貴様(きさま)の様(やう)な極道(ごくだう)息子(むすこ)の親(おや)泣(な)かせでも、085親(おや)が愛想(あいさう)をつかしてモウ之(これ)つきり親(おや)の門口(かどぐち)は跨(また)げる事(こと)はならぬ。086七生(しちしやう)までの勘当(かんどう)だと云(い)つた処(ところ)で、087矢張(やつぱ)り親子(おやこ)は親子(おやこ)だ。088お前(まへ)が俺(わし)に勘当(かんどう)するなら勘当(かんどう)するでよい、089又(また)外(ほか)に親(おや)を持(も)ちますと云(い)つた処(ところ)で生(う)んで呉(く)れた親(おや)は矢張(やつぱ)り一(ひと)つだ。090親子(おやこ)は一世(いつせ)と云(い)ふ事(こと)は、091泣(な)いても笑(わら)つても立(た)つても転(ころ)んでも一度(いちど)より無(な)いのだ。092それだから親子(おやこ)は一世(いつせ)と云(い)ふのだ。093断(き)つても断(き)れぬ親子(おやこ)の縁(えん)だよ。094貴様(きさま)の考(かんが)へは大方(おほかた)生(いき)てる間(あひだ)は親子(おやこ)だが、095死(し)んで仕舞(しま)へば親(おや)でも無(な)い子(こ)でもない、096赤(あか)の他人(たにん)だと云(い)ふ論法(ろんぱふ)だらう。097ソンナ訳(わけ)の分(わか)らぬ事(こと)で宣伝使(せんでんし)が勤(つと)まるか』
098駒山彦(こまやまひこ)『能(よ)う何(なん)でも理屈(りくつ)を捏(こね)る奴(やつ)だな、099夫婦(ふうふ)は二世(にせ)とは何(なん)のことだい。100親(おや)よりも結構(けつこう)だ、101死(し)んでからでも又(また)互(たがひ)に手(て)に手(て)をとつて三途(さんづ)の川(かは)を渡(わた)り、102蓮(はす)の台(うてな)に一蓮(いちれん)托生(たくしやう)、103百味(ひやくみ)飲食(おんじき)と夫婦(ふうふ)睦(むつま)じう暮(くら)さうと云(い)ふ虫(むし)の良(い)い考(かんが)へだらう。104さう甘(うま)くは問屋(とひや)が卸(おろ)すまい。105貴様(きさま)極楽(ごくらく)に行(い)つて、106蓮(はす)の台(うてな)に小(ちひ)さくなつて夫婦(ふうふ)抱合(だきあ)つて、107チヨコナンと泥池(どろいけ)の中(なか)で坐(すわ)つて見(み)い。108どうせ碌(ろく)な事(こと)はして居(を)らぬ奴(やつ)だから、109「貴様(きさま)が金城(きんじやう)鉄壁(てつぺき)だ、110お前(まへ)と俺(わし)との其(その)仲(なか)は千(せん)年(ねん)万(まん)年(ねん)はまだ愚(おろか)五十六(ごじふろく)億(おく)七千万(しちせんまん)年(ねん)の後(のち)のミロクの世(よ)までも、111お前(まへ)と俺(わし)と斯(こ)うして居(を)れば之(これ)が真実(しんじつ)の極楽(ごくらく)だ、112ナア五月姫(さつきひめ)さま、113現界(げんかい)に居(を)つた時(とき)は駒山彦(こまやまひこ)の意地悪(いぢわる)に随分(ずゐぶん)冷(ひや)かされたものだが、114斯(か)うなつちやア、115もう占(しめ)たものだ」なぞと得意(とくい)になつてゐると、116娑婆(しやば)に残(のこ)つて居(ゐ)る貴様(きさま)の旧悪(きうあく)を知(し)つた奴(やつ)が噂(うはさ)の一(ひと)つもせぬものでも無(な)い。117噂(うはさ)をする度(たび)に嚔(くしやみ)が出(で)てその途端(とたん)に、118蓮(はす)の細(ほそ)い茎(くき)がぐらついて二人(ふたり)は共(とも)に泥池(どろいけ)の中(なか)へバツサリ、119ブルブルブル土左衛門(どざゑもん)になつて仕舞(しま)ふのだよ。120一旦(いつたん)死(し)んだ奴(やつ)の、121もう一遍(いつぺん)死(し)んだ奴(やつ)の行(ゆ)く処(ところ)は何処(どこ)にもありはせない。122さうすると又(また)娑婆(しやば)へ生(うま)れよつて、123ヒユー、124ドロドロ怨(うら)めしやーと両手(りやうて)を腰(こし)の辺(あた)りに下(した)向(む)けにさげて出(で)て来(く)るのが先(ま)づ落(おち)だな。125夫婦(ふうふ)は二世(にせ)だなぞとソンナ的(あて)の無(な)い事(こと)は、126まあ云(い)はぬが宜(よ)からう』
127蚊々虎(かがとら)『エーイ、128喧(やかま)しい、129俺(おれ)のお株(かぶ)を取(と)つて仕舞(しま)ひよつて、130能(よ)うベラベラと燕(つばめ)の親方(おやかた)の様(やう)に喋(しやべ)る奴(やつ)だナ。131この蚊々虎(かがとら)さまの説教(せつけう)を謹(つつし)んで聴聞(ちやうもん)いたせ。132夫婦(ふうふ)は二世(にせ)と云(い)ふ事(こと)は、133貴様(きさま)の考(かんが)へてる様(やう)な意味(いみ)で無(な)い。134夫婦(ふうふ)と云(い)ふものは陰(いん)と陽(やう)だ。135「鳴(な)り鳴(な)りてなり余(あま)れる処(ところ)一処(ひとところ)あり、136鳴(な)り鳴(な)りてなり合(あ)はざる処(ところ)一処(ひとところ)あり、137汝(な)が身(み)の成(な)り余(あま)れる処(ところ)を我身(わがみ)の成(な)り合(あ)はざる処(ところ)に、138さしふたぎて御子(みこ)生(うま)んは如何(いか)に」と宣(の)り給(たま)へば「しかよけむ」と応答(まを)し給(たま)ひきと云(い)ふ事(こと)を知(し)つてるかい。139夫婦(ふうふ)と云(い)ふものは世(よ)の初(はじ)めだ。140誰(たれ)の家庭(かてい)にも夫婦(ふうふ)が無(な)ければ、141円満(ゑんまん)なホームは作(つく)れないのだ。142さうして子(こ)を生(う)むのだよ。143其(その)子(こ)がまた親(おや)を生(う)むのだ』
144駒山彦『オツト待(ま)て待(ま)て、145脱線(だつせん)するな。146親(おや)から子(こ)が生(うま)れると云(い)ふ事(こと)はあるが、147子(こ)が親(おや)を生(う)むと云(い)ふ事(こと)が何処(どこ)にあるかい』
148蚊々虎『貴様(きさま)、149分(わか)らぬ奴(やつ)だな。150男(をとこ)と女(をんな)と家庭(かてい)を作(つく)つたのは夫(それ)は夫婦(ふうふ)だ。151そこへ夫婦(ふうふ)の息(いき)が合(あ)つて「オギヤ」と生(うま)れたのだ。152生(うま)れたのが即(すなは)ち子(こ)だ。153子(こ)が出来(でき)たから親(おや)と云(い)ふ名(な)がついたのだ。154子(こ)の無(な)い夫婦(ふうふ)は親(おや)でも、155何(なん)でもありやしない。156此(この)位(くらゐ)の道理(だうり)が分(わか)らないで宣伝使(せんでんし)になれるかい。157さうして不幸(ふかう)にして夫(をつと)が死(し)ぬとか、158女房(にようばう)が夭折(えうせつ)するとかやつて見(み)よ。159子(こ)が出来(でき)てからならまだしもだが、160子(こ)が無(な)い間(うち)に女房(にようばう)に先(さき)だたれて仕舞(しま)へば、161天地(てんち)創造(さうざう)の神業(かんわざ)の御子生(みこう)みが出来(でき)ぬでは無(な)いか。162人間(にんげん)は男女(だんぢよ)の息(いき)を合(あは)して、163天(てん)の星(ほし)の数(かず)ほど此(この)地(ち)の上(うへ)に人(ひと)を生(う)み足(たら)はして、164神(かみ)様(さま)の御用(ごよう)を助(たす)けるのだ。165そこで寡夫(やもを)となつたり寡婦(やもめ)となつたり、166其(その)神業(しんげふ)が勤(つと)まらぬから、167第二世(だいにせ)の夫(をつと)なり妻(つま)を娶(めと)るのだ。168之(これ)を二世(にせ)の妻(つま)と云(い)ふのだい。169貴様(きさま)の様(やう)に此(この)世(よ)で十分(じふぶん)イチヤついて、170又(また)幽世(あのよ)に行(い)つてからもイチヤつかうと云(い)ふ様(やう)な狡猾(ずる)い考(かんが)へとはチト違(ちが)ふぞ。171さうして二世(にせ)の妻(つま)が、172又(また)もや不幸(ふかう)にして中途(ちうと)で子(こ)が出来(でき)ずに先(さき)に死(し)んで仕舞(しま)つたら、173夫(をつと)はもう天命(てんめい)だと諦(あきら)めるのだ。174三回(さんくわい)も妻(つま)を持(も)つと云(い)ふ事(こと)は、175神界(しんかい)の天則(てんそく)に違反(ゐはん)するものだ。176それで已(やむ)を得(え)ざれば、177二人目(ふたりめ)の妻(つま)までは是非(ぜひ)なし、178と云(い)つて神(かみ)様(さま)が御(お)許(ゆる)し下(くだ)さるのだ。179其(それ)を夫婦(ふうふ)は二世(にせ)と云(い)ふのだよ。180あゝあ一人(ひとり)の宣伝使(せんでんし)を拵(こしら)へ様(やう)と思(おも)へば骨(ほね)の折(を)れる事(こと)だ、181肩(かた)も腕(かいな)もメキメキするワイ』
182 淤縢山津見(おどやまづみ)は感(かん)じ入(い)り、
183淤縢山津見『ヤア、184蚊々虎(かがとら)は偉(えら)い事(こと)を云(い)ふね。185吾々(われわれ)も今(いま)まで取違(とりちがひ)をしてゐた。186さう聞(き)けばさうだ。187正鹿山津見(まさかやまづみ)さま、188如何(いか)にもさうですね。189何(なん)でも無(な)い事(こと)で気(き)のつかない事(こと)が、190世(よ)の中(なか)には沢山(たくさん)ありますなあ。191三(さん)人(にん)寄(よ)れば文殊(もんじゆ)の智慧(ちゑ)とやら、192イヤもう良(よ)い事(こと)を聞(き)かして貰(もら)ひました。193南無(なむ)蚊々虎(かがとら)大明神(だいみやうじん)』
194 駒山彦(こまやまひこ)は、
195駒山彦『親子(おやこ)は一世(いつせ)、196夫婦(ふうふ)は二世(にせ)、197そいつは貴様(きさま)の、198オイ蚊々虎(かがとら)先生(せんせい)の懇篤(こんとく)なる、199綿密(めんみつ)なる、200明細(めいさい)なる、201詳細(しやうさい)なる、202正直(しやうぢき)なる……』
203蚊々虎(かがとら)『馬鹿(ばか)、204人(ひと)をヒヨツトくるか、205蚊々虎(かがとら)大明神(だいみやうじん)だぞ』
206駒山彦『ヒヨツトコ ヒヨツトコ来(く)る奴(やつ)もあれば、207走(はし)つて来(く)る奴(やつ)もあるワイ』
208蚊々虎『困(こま)つた奴(やつ)だなア、209主従(しゆじゆう)三世(さんせ)だ。210今日(けふ)から貴様(きさま)は蚊々虎(かがとら)の家来(けらい)で無(な)いぞ』
211駒山彦『家来(けらい)で無(な)いもあつたものかい、212誰(たれ)が貴様(きさま)の家来(けらい)になつたのだ。213ソンナ法螺(ほら)を吹(ふ)かずに主従(しゆじゆう)は三世(さんせ)の因縁(いんねん)を聞(き)かして下(くだ)さらぬかイ』
214蚊々虎(かがとら)『下(くだ)さらぬかなら、215云(い)うてやらう。216人(ひと)に物(もの)を教(をし)へて貰(もら)ふ時(とき)には矢張(やつぱ)り謙遜(へりくだ)るものだ。217からだに徳(とく)をつけて貰(もら)ふのだからな。218オホン、219主従(しゆじゆう)三世(さんせ)と云(い)ふ事(こと)は、220例(たと)へて云(い)へば此(この)蚊々虎(かがとら)さまは、221もとは此処(ここ)にござる淤縢山(おどやま)津見(づみ)様(さま)が醜国別(しこくにわけ)と云(い)うて悪(わる)い事(こと)計(ばか)りやつて居(を)る時(とき)に俺(おれ)が家来(けらい)であつた。222然(しか)しコンナ主人(しゆじん)に仕(つか)へて居(を)つては行末(ゆくすゑ)恐(おそ)ろしいと思(おも)つたものだから、223如何(どう)かして暇(ひま)を呉(く)れて与(や)らうと思(おも)うたのだ。224さうした処(ところ)がネツカラ良(よ)い主人(しゆじん)が見(み)つからぬのだ。225探(さが)してゐる矢先(やさき)に日(ひ)の出神(でのかみ)と云(い)ふ立派(りつぱ)な宣伝使(せんでんし)が現(あら)はれたのだ。226それで此方(こな)さまは、227第二世(だいにせ)の御(ご)主人(しゆじん)日(ひ)の出神(でのかみ)にお仕(つか)へ申(まを)して居(を)るのだ。228さうして淤縢山(おどやま)さまは、229蚊々虎(かがとら)々々々(かがとら)と云(い)つて家来(けらい)扱(あつか)ひをされても、230俺(おれ)の心(こころ)は五文(ごもん)と五文(ごもん)だ。231その代(かは)り一旦(いつたん)主人(しゆじん)ときめた日(ひ)の出神(でのかみ)の前(まへ)に行(い)つた位(くらゐ)なら、232ドンナ者(もの)だい。233臣(しん)節(せつ)を良(よ)く守(まも)り、234万一(まんいち)日(ひ)の出神(でのかみ)様(さま)が俺(おれ)の見当(けんたう)違(ちが)ひで悪神(あくがみ)であつたと気(き)がついた時(とき)は、235其(その)時(とき)こそ弊履(へいり)を捨(す)つるが如(ごと)くに主人(しゆじん)に暇(ひま)を与(や)るのだ。236さうして又(また)適当(てきたう)な主人(しゆじん)を探(さが)して、237それに仕(つか)へるのだ。238それを三世(さんせ)の主従(しゆじゆう)と云(い)ふのだよ。239三代目(さんだいめ)の主人(しゆじん)は醜国別(しこくにわけ)よりも、240もつともつと悪(わる)い奴(やつ)でも、241もう代(か)へる事(こと)は出来(でき)ない。242そこになつたら、243アヽ惟神(かむながら)だ、244因縁(いんねん)だと度胸(どきよう)を据(す)ゑて、245一代(いちだい)主人(しゆじん)と仰(あふ)ぐのだ。246三回(さんくわい)まで主人(しゆじん)を代(か)へ、247師匠(ししやう)を代(か)へるのは、248止(や)むを得(え)ない場合(ばあひ)は神(かみ)様(さま)は許(ゆる)して下(くだ)さるが、249其(それ)以上(いじやう)は所謂(いはゆる)天則(てんそく)違反(ゐはん)だ。250主従(しゆじゆう)四世(よんせ)と云(い)ふ事(こと)はならぬから「主従(しゆじゆう)は三度(さんど)まで代(か)へても止(や)むを得(え)ず」と云(い)ふ神(かみ)様(さま)が限度(げんど)をお定(き)めになつて居(を)るのだよ。251どうだ、252駒(こま)、253俺(おれ)が噛(か)んでくくめるやうな御(ご)説教(せつけう)が、254腸(はらわた)にしみこみたか、255シユジユと音(おと)がして浸(し)み込(こ)むだらう。256賛成(さんせい)したか、257それで主従(しゆじゆう)三世(さんせ)だよ』
258 一同(いちどう)は声(こゑ)を揃(そろ)へて、
259一同『アハヽヽヽ、260オホヽヽヽ』
261(大正一一・二・一〇 旧一・一四 北村隆光録)
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