霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一九章 刹那心(せつなしん)〔三六九〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻 篇:第4篇 巴留の国 よみ(新仮名遣い):はるのくに
章:第19章 刹那心 よみ(新仮名遣い):せつなしん 通し章番号:369
口述日:1922(大正11)年02月08日(旧01月12日) 口述場所: 筆録者:森良仁 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじはMさん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:
淤縢山津見は荒熊(高彦)が恐れおののいているのを見て、邪神に取り付かれたために、臆病者になってしまったに違いない、と診断した。そして天の数歌の神嘉言を奏上して人差し指から霊光を放射し、荒熊(高彦)を照らし出した。
荒熊はたちまち身体動揺をはじめ、荒れ狂って大地に倒れふした。その刹那、今まで憑依していた悪霊は荒熊の身体から脱出してしまった。
荒熊(高彦)は立ち上がると、大地を踏みとどろかして雄たけびした。淤縢山津見は元の勇ましさを取り戻した高彦の様子に喜び、巴留の国の都へ案内するように、と促した。
高彦は、鷹取別が日の出神を巴留の国に入れまいと、軍勢を動員していることを伝え、自分は鷹取別軍の動静を探るために、駆け出して行ってしまった。後に蚊々虎は、幾百万の軍勢も自分が吹き飛ばす、と大見得を切っている。
淤縢山津見がたしなめても、蚊々虎は一向に聞く気配はなく、ますます法螺を大きく吹いている。逆に蚊々虎は怖気を見せた淤縢山津見に、宣伝使の覚悟はいかに、と問い詰めた。
淤縢山津見も蚊々虎の的を射た指摘に、やや反省の色を見せた。そこへ高彦が戻ってきた。高彦の報告によると、鷹取別が動員した軍勢は、不思議にも人影もなくなっていた。
これは計略に違いない、と怪しむ高彦らに対して、蚊々虎は意に介さず、刹那心だ、と嘯いて一人、どんどんと坂道を下って行ってしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]: 備考: タグ:天の数歌 データ凡例: データ最終更新日:2025-03-02 12:27:57 文字数:2591 OBC :rm0819
愛善世界社版:127頁 八幡書店版:第2輯 196頁 修補版: 校定版:129頁 普及版:56頁 初版: ページ備考:
001 淤縢山津見(おどやまづみ)の宣伝使(せんでんし)は大地(だいち)に伏(ふ)したる荒熊(あらくま)に向(むか)ひ、
002淤縢山津見『高彦(たかひこ)殿(どの)、003貴下(あなた)は今(いま)まで大胆(だいたん)不敵(ふてき)の強者(つはもの)なりしに今(いま)斯(か)く卑怯(ひけふ)未練(みれん)の精神(せいしん)になられたのは、004察(さつ)するに貴下(あなた)の身体(しんたい)には、005邪神(じやしん)悪鬼(あくき)が憑依(ひようい)して、006天授(てんじゆ)の身魂(みたま)を弱(よわ)らせ臆病者(おくびやうもの)と堕落(だらく)せしめたるならむ。007凡(すべ)て人(ひと)は心(こころ)に悪(あく)ある時(とき)は物(もの)を恐(おそ)れ、008心(こころ)に誠(まこと)ある時(とき)は物(もの)を恐(おそ)れず、009吾(われ)は是(これ)より貴下(あなた)の魂(みたま)を入(い)れ替(か)へせむ。010暫(しばら)くここに瞑目(めいもく)静坐(せいざ)されよ』
011と厳命(げんめい)したるに、012荒熊(あらくま)は唯々(ゐゐ)諾々(だくだく)として、013命(めい)のまにまに両手(りやうて)を組(く)み、014路上(ろじやう)に瞑目(めいもく)静坐(せいざ)したり。
015 宣伝使(せんでんし)は双手(もろて)を組(く)み、016一(ひと)二(ふた)三(み)四(よ)五(いつ)六(むゆ)七(なな)八(や)九(ここの)十(たり)百(もも)千(ち)万(よろづ)の神嘉言(かむよごと)を奏上(そうじやう)し終(をは)つて、017左右(さいう)の手(て)を組(く)みたるまま食指(ひとさしゆび)の指頭(しとう)より霊光(れいくわう)を発(はつ)しつつ、018荒熊(あらくま)の全身(ぜんしん)を照(てら)したり。019荒熊(あらくま)は忽(たちま)ち身体(しんたい)動揺(どうえう)し始(はじ)め前後(ぜんご)左右(さいう)に荒(あ)れ狂(くる)ひ、020キヤツと一声(いつせい)大地(だいち)に倒(たふ)れたるその刹那(せつな)、021今(いま)まで憑依(ひようい)せる悪霊(あくれい)は、022拭(ぬぐ)ふが如(ごと)く彼(かれ)が身体(しんたい)より脱出(だつしゆつ)したり。023宣伝使(せんでんし)は『赦(ゆる)す』と一声(いつせい)呼(よ)ばはると共(とも)に荒熊(あらくま)は元(もと)の身体(からだ)に復(ふく)し、024心中(しんちう)英気(えいき)に満(み)ち顔(かほ)の色(いろ)さへ俄(にはか)に華(はな)やかに成(な)り来(き)たりぬ。
025 荒熊(あらくま)は突立(つつたち)上(あが)り大地(だいち)を踏(ふ)み轟(とどろ)かし、
026荒熊(高彦)『吾(われ)こそは元(もと)を糺(ただ)せば、027大自在天(だいじざいてん)の宰相(さいしやう)醜国別(しこくにわけ)の御(おん)片腕(かたうで)、028一(いち)時(じ)の失敗(しつぱい)より心魂(しんこん)阻喪(そさう)し、029千思(せんし)万慮(ばんりよ)の結果(けつくわ)度(ど)を失(うしな)ひて、030八岐(やまたの)大蛇(をろち)に憑依(ひようい)され、031風(かぜ)の音(おと)、032雨(あめ)の響(ひび)きにも心(こころ)を痛(いた)め茅(かや)の穂(ほ)にも戦(をのの)き恐(おそ)れ、033折角(せつかく)神(かみ)より受(う)けたる吾(わ)が御魂(みたま)も、034殆(ほとん)ど潰(つい)え果(は)て、035弱(よわ)り切(き)りたるその所(ところ)へ、036如何(いか)なる神(かみ)の引(ひ)き合(あは)せか、037昔(むかし)仕(つか)へし醜国別(しこくにわけ)の宣伝使(せんでんし)に、038人跡(じんせき)稀(まれ)なるこの山奥(やまおく)に廻(めぐ)り合(あ)ひ、039危難(きなん)を救(すく)はれ、040日頃(ひごろ)吾身(わがみ)を冒(をか)しゐたる悪鬼(あくき)邪神(じやしん)を取払(とりはら)はれ、041心(こころ)は晴(は)れて大空(おほぞら)の月(つき)の如(ごと)く輝(かがや)き渡(わた)り、042澄(す)みきりたり。043最早(もはや)かくなる上(うへ)は幾百万(いくひやくまん)の敵軍(てきぐん)も、044億兆(おくてう)無数(むすう)の曲神(まがかみ)も、045真澄(ますみ)の鏡(かがみ)振(ふ)りはへて、046誠(まこと)の剣(つるぎ)抜(ぬ)き持(も)たし、047縦横(じうわう)無尽(むじん)に切(き)りまくり天地(てんち)に轟(とどろ)く言霊(ことたま)の力(ちから)に、048巴留(はる)の都(みやこ)に蟠(わだか)まる、049鷹取別(たかとりわけ)を言向(ことむ)けて功績(いさを)を立(た)てむ。050嗚呼(ああ)嬉(うれ)しし嬉(うれ)しし悦(よろこ)ばし』
051と腕(うで)を叩(たた)いて雄叫(をたけ)びしたり。
052 宣伝使(せんでんし)は満面(まんめん)に笑(ゑみ)を湛(たた)へ、
053淤縢山津見『あゝ勇(いさ)ましし勇(いさ)ましし。054高彦(たかひこ)殿(どの)これより巴留(はる)の都(みやこ)に向(むか)はむ、055案内(あんない)されよ』
056と、057先(さき)に立(た)ちて行(ゆ)かむとするを、058高彦(たかひこ)は袖(そで)を扣(ひか)へて、
059高彦(荒熊)『暫(しばら)くお待(ま)ち下(くだ)さいませ。060この先(さき)には数万(すうまん)の群衆(ぐんしう)、061日(ひ)の出神(でのかみ)の当国(たうごく)に押(お)し寄(よ)せ来(きた)ると聞(き)き軍勢(ぐんぜい)を整(ととの)へ、062伏兵(ふくへい)を設(まう)けて待(ま)ち居(を)れば、063如何(いか)に神徳(しんとく)高(たか)くとも軽々(かるがる)しく進(すす)むべからず、064一(ひ)と先(ま)づ我(われ)は様子(やうす)を窺(うかが)ひ報告(はうこく)仕(つかまつ)らむ。065暫(しばら)く此所(ここ)に待(ま)たせ給(たま)へ』
066と、067雲(くも)を霞(かすみ)と駆(か)け出(だ)したり。
068 蚊々虎(かがとら)は肘(ひぢ)を張(は)り、069右(みぎ)の手(て)の拳(こぶし)を固(かた)めて左(ひだり)の利(き)き腕(うで)を打(う)ち敲(たた)きながら、
070蚊々虎『たとへ悪魔(あくま)の軍勢(ぐんぜい)幾百万(いくひやくまん)押(お)し寄(よ)せ来(きた)る共(とも)、071この蚊々虎(かがとら)が腕(うで)に任(まか)せ、072寄(よ)せ来(く)る敵(てき)を縦横(じうわう)無尽(むじん)に打(う)ち伏(ふ)せ張(は)り倒(たふ)し、073一泡(ひとあわ)吹(ふ)かせて呉(く)れむ。074ヤー面白(おもしろ)し面白(おもしろ)し、075吾(わが)一生(いつしやう)の腕試(うでだめ)し、076腕(うで)が折(を)れるか千切(ちぎ)れるか、077蚊々虎(かがとら)の隠(かく)し力(ちから)の現(あらは)れ時(どき)、078サアサア出(で)て来(こ)い、079やつて来(こ)い。080役(やく)にも立(た)たぬ蠅虫(はへむし)奴(め)ら、081この蚊々虎(かがとら)の鼻息(はないき)に百(ひやく)や二百(にひやく)の木端(こつぱ)武者(むしや)、082吹(ふ)いて吹(ふ)いて吹捲(ふきまく)り……』
083淤縢山津見『その広言(くわうげん)は後(あと)の事(こと)だ、084さう今(いま)から力(りき)むとまさかの時(とき)に力(ちから)が抜(ぬ)けて了(しま)ふぞ、085蚊々虎(かがとら)』
086蚊々虎『宣伝使(せんでんし)様(さま)、087オー此処(ここ)な四(よ)人(にん)の守護神(しゆごじん)、088人間(にんげん)様(さま)、089心配(しんぱい)するなよ。090俺(おれ)の力(ちから)をお前(まへ)達(たち)は知(し)らぬから取越(とりこし)苦労(くらう)をするが、091神(かみ)の道(みち)に取越(とりこし)苦労(くらう)は大禁物(だいきんもつ)ぢや。092今(いま)と云(い)ふこの刹那(せつな)が勝敗(しようはい)の分(わか)るる所(ところ)、093最初(さいしよ)から敵(てき)を恐(おそ)れてどうならうか、094戦(たたか)はぬ内(うち)から蚊々虎(かがとら)は敵(てき)を呑(の)んで居(ゐ)るのだ。095臆病風(おくびやうかぜ)に誘(さそ)はれては成(な)らないぞ。096この蚊々虎(かがとら)さまがブラジル峠(たうげ)を登(のぼ)つて来(く)る時(とき)に、097道(みち)の両方(りやうはう)に雲霞(うんか)の如(ごと)き、098数限(かずかぎ)りも知(し)れぬ沢山(たくさん)の敵(てき)が、099俺(おれ)等(たち)を待(ま)ち伏(ふ)せて居(ゐ)た。100その時(とき)この宣伝使(せんでんし)を傍(かたはら)の木(き)の蔭(かげ)に忍(しの)ばせ置(お)き、101数万(すうまん)の敵(てき)に向(むか)つて大音声(だいおんじやう)。102ヤーイ皆(みな)の奴(やつ)木端(こつぱ)武者(むしや)共(ども)、103俺(おれ)を何(なん)と心得(こころえ)てゐる。104この方(はう)は広(ひろ)い世界(せかい)に二人(ふたり)とない智勇(ちゆう)兼備(けんび)の天下(てんか)の豪傑(がうけつ)蚊々虎(かがとら)さまとは吾事(わがこと)なるぞ。105相手(あひて)になつて後悔(こうくわい)するな。106サー来(こ)い勝負(しようぶ)と大手(おほて)を拡(ひろ)げた。107数多(あまた)の敵(てき)は言(い)はして置(お)けば要(い)らざる広言(くわうげん)、108目(め)に物(もの)見(み)せてくれむと、109四方(しはう)八方(はつぱう)より、110タツタ一人(ひとり)の蚊々虎(かがとら)さまを目蒐(めが)けて攻(せ)め寄(よ)せたり。111強力(がうりき)無双(むさう)の蚊々虎(かがとら)さまは、112寄(よ)せ来(く)る敵(てき)を箸(はし)で蚕(かひこ)を撮(つま)む如(や)うに、113右(みぎ)から来(く)る奴(やつ)を左(ひだり)へポイトコセ、114左(ひだり)から来(く)る奴(やつ)を右(みぎ)へポイトコセ、115終(しまひ)にはエヽ面倒(めんだう)と、116首筋(くびすぢ)を一寸(ちよつと)撮(つま)んで空(そら)を目(め)がけてプリンプリンプリン、117また来(く)る奴(やつ)を一寸(ちよつと)撮(つま)んでプリンプリンプリン、118上(うへ)から降(お)りて来(く)る奴(やつ)、119下(した)から上(うへ)へ放(ほ)られる奴(やつ)、120空中(くうちう)で頭(あたま)の鉢合(はちあは)せをして、121アイタヽヽヽピカピカと目(め)から火(ひ)を出(だ)し、122放(ほ)り上(あ)げられた奴(やつ)と、123宙(ちう)から落(お)ちて来(く)る奴(やつ)と、124途中(とちう)で貴方(あなた)お上(のぼ)りですか、125私(わたくし)は降(くだ)りです、126下(した)へ降(お)りなしたら蚊々虎(かがとら)さまに宜敷(よろしく)……』
127淤縢山津見『コラコラ法螺(ほら)を吹(ふ)くにも程(ほど)がある。128黙(だま)らぬかい。129言(い)はして置(お)けば調子(てうし)に乗(の)つて……ここを何(なん)と心得(こころえ)をる。130数万(すうまん)の強敵(きやうてき)を前(まへ)に扣(ひか)へて置(お)いて、131ソンナ気楽(きらく)なことを言(い)うて居(を)る所(ところ)で無(な)いぞ』
132蚊々虎『ヤー、133ヤツパリ淤縢山津見(おどやまづみ)ぢやなあ、134数万(すうまん)の敵(てき)にオドオドして、135向(むか)ふは真暗(まつくら)がり、136暗墨(やみすみ)の如(や)うに、137一寸先(いつすんさき)は真黒(まつくろ)黒助(くろすけ)だ。138エヘン豪(えら)さうに口(くち)ばつかり、139取越(とりこし)苦労(くらう)はするな過越(すぎこし)苦労(くらう)は禁物(きんもつ)ぢやのと、140口先(くちさき)で立派(りつぱ)なことを仰有(おつしや)るが、141この蚊々虎(かがとら)さまはかう見(み)えても刹那心(せつなしん)、142たとへ半時先(はんときさき)に嬲殺(なぶりごろ)しに逢(あ)はされやうが、143ソンナ事(こと)は神(かみ)様(さま)の御心(みこころ)に任(まか)して居(を)るのだ。144モシ宣伝使(せんでんし)さま、145さうぢや有(あ)りますまいかな。146釈迦(しやか)に説法(せつぱふ)か、147負(お)うた子(こ)に教(をし)へられて浅瀬(あさせ)を渡(わた)ると言(い)ふのか、148いやもうトンとこの辺(へん)が合点(がつてん)の虫(むし)が、149承知(しようち)しませぬワイ。150まさかの時(とき)になつて来(く)ると、151宣伝使(せんでんし)さまの覚悟(かくご)も誠(まこと)に怪(あや)しい頼(たよ)り無(な)いものだワイ』
152と、153目(め)を剥(む)き舌(した)を少(すこ)し出(だ)して、154宣伝使(せんでんし)の顔(かほ)をチヨツと見上(みあ)げる。
155 宣伝使(せんでんし)は顔(かほ)を少(すこ)しくそむけながら、
156淤縢山津見『さうだなア。157さう言(い)へば、158マアソンナものかい』
159蚊々虎『ソンナものかいも有(あ)つたものかい。160甲斐性(かひしやう)無(な)し奴(め)が、161ちと改心(かいしん)したか、162エーン』
163淤縢山津見『蚊々虎(かがとら)、164無礼(ぶれい)で有(あ)らうぞよ』
165 斯(か)かる所(ところ)へ以前(いぜん)の荒熊(あらくま)は、166呼吸(いき)を喘(はづ)ませながら、167坂道(さかみち)を上(のぼ)り来(き)たりぬ。
168 蚊々虎(かがとら)は頓狂(とんきやう)な声(こゑ)で、
169蚊々虎『ヤー帰(かへ)つたか様子(やうす)は何(な)んと、170仔細(しさい)は如何(いか)に、171細(つぶさ)に、172言上(ごんじやう)仕(つかまつ)れ』
173淤縢山津見『また貴様(きさま)出(だ)しやばるな』
174蚊々虎『出(だ)しや張(ば)るツて、175刹那心(せつなしん)ですよ。176気(き)が何(なん)だか急(せ)くから急(いそ)いで問(と)うたのですよ。177決(けつ)して取越(とりこし)苦労(くらう)ではありませぬよ』
178 荒熊(あらくま)が、
179荒熊(高彦)『申(まを)し上(あ)げます、180不思議(ふしぎ)なことには何時(いつ)の間(ま)にか人影(ひとかげ)も無(な)くなつて居(を)ります。181之(これ)には何(なに)か深(ふか)い計略(けいりやく)の有(あ)る事(こと)と思(おも)ひますが、182軽々(かるがる)しく進(すす)む訳(わけ)には行(ゆ)きますまい。183一(ひと)つこれは考(かんが)へものですな』
184蚊々虎『ナーニ刹那心(せつなしん)だ。185行(ゆ)く所(ところ)まで行(ゆ)かな分(わか)るものかい。186進(すす)め進(すす)め』
187と蚊々虎(かがとら)は、188先(さき)に立(た)つて進(すす)み行(ゆ)く。
189 後(あと)に六(ろく)人(にん)は路傍(みちばた)の岩(いは)に腰(こし)打(う)ち掛(か)け、190何(なに)かヒソヒソと頭(あたま)を鳩(あつ)めて囁(ささや)きゐたり。
191 蚊々虎(かがとら)は只(ただ)一人(ひとり)、192ドンドン腕(うで)を振(ふ)りながら一目散(いちもくさん)に坂道(さかみち)を下(くだ)り行(ゆ)く。
193(大正一一・二・八 旧一・一二 森良仁録)
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