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霊界物語
霊主体従(第1~12巻)
第8巻(未の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 智利の都
第1章 朝日丸
第2章 五十韻
第3章 身魂相応
第4章 烏の妻
第5章 三人世の元
第6章 火の玉
第2篇 四十八文字
第7章 蛸入道
第8章 改心祈願
第9章 鏡の池
第10章 仮名手本
第3篇 秘露より巴留へ
第11章 海の竜宮
第12章 身代り
第13章 修羅場
第14章 秘露の邂逅
第15章 ブラジル峠
第16章 霊縛
第17章 敵味方
第18章 巴留の関守
第4篇 巴留の国
第19章 刹那心
第20章 張子の虎
第21章 滝の村
第22章 五月姫
第23章 黒頭巾
第24章 盲目審神
第25章 火の車
第26章 讃嘆
第27章 沙漠
第28章 玉詩異
第29章 原山祇
第5篇 宇都の国
第30章 珍山峠
第31章 谷間の温泉
第32章 朝の紅顔
第33章 天上眉毛
第34章 烏天狗
第35章 一二三世
第36章 大蛇の背
第37章 珍山彦
第38章 華燭の典
第6篇 黄泉比良坂
第39章 言霊解一
第40章 言霊解二
第41章 言霊解三
第42章 言霊解四
第43章 言霊解五
余白歌
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霊界物語
>
霊主体従(第1~12巻)
>
第8巻(未の巻)
> 第4篇 巴留の国 > 第19章 刹那心
<<< 巴留の関守
(B)
(N)
張子の虎 >>>
第一九章
刹那心
(
せつなしん
)
〔三六九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
篇:
第4篇 巴留の国
よみ(新仮名遣い):
はるのくに
章:
第19章 刹那心
よみ(新仮名遣い):
せつなしん
通し章番号:
369
口述日:
1922(大正11)年02月08日(旧01月12日)
口述場所:
筆録者:
森良仁
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年6月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
淤縢山津見は荒熊(高彦)が恐れおののいているのを見て、邪神に取り付かれたために、臆病者になってしまったに違いない、と診断した。そして天の数歌の神嘉言を奏上して人差し指から霊光を放射し、荒熊(高彦)を照らし出した。
荒熊はたちまち身体動揺をはじめ、荒れ狂って大地に倒れふした。その刹那、今まで憑依していた悪霊は荒熊の身体から脱出してしまった。
荒熊(高彦)は立ち上がると、大地を踏みとどろかして雄たけびした。淤縢山津見は元の勇ましさを取り戻した高彦の様子に喜び、巴留の国の都へ案内するように、と促した。
高彦は、鷹取別が日の出神を巴留の国に入れまいと、軍勢を動員していることを伝え、自分は鷹取別軍の動静を探るために、駆け出して行ってしまった。後に蚊々虎は、幾百万の軍勢も自分が吹き飛ばす、と大見得を切っている。
淤縢山津見がたしなめても、蚊々虎は一向に聞く気配はなく、ますます法螺を大きく吹いている。逆に蚊々虎は怖気を見せた淤縢山津見に、宣伝使の覚悟はいかに、と問い詰めた。
淤縢山津見も蚊々虎の的を射た指摘に、やや反省の色を見せた。そこへ高彦が戻ってきた。高彦の報告によると、鷹取別が動員した軍勢は、不思議にも人影もなくなっていた。
これは計略に違いない、と怪しむ高彦らに対して、蚊々虎は意に介さず、刹那心だ、と嘯いて一人、どんどんと坂道を下って行ってしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-06-07 16:21:38
OBC :
rm0819
愛善世界社版:
127頁
八幡書店版:
第2輯 196頁
修補版:
校定版:
129頁
普及版:
56頁
初版:
ページ備考:
001
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
大地
(
だいち
)
に
伏
(
ふ
)
したる
荒熊
(
あらくま
)
に
向
(
むか
)
ひ、
002
淤縢山津見
『
高彦
(
たかひこ
)
殿
(
どの
)
、
003
貴下
(
あなた
)
は
今
(
いま
)
まで
大胆
(
だいたん
)
不敵
(
ふてき
)
の
強者
(
つはもの
)
なりしに
今
(
いま
)
斯
(
か
)
く
卑怯
(
ひけふ
)
未練
(
みれん
)
の
精神
(
せいしん
)
になられたのは、
004
察
(
さつ
)
するに
貴下
(
あなた
)
の
身体
(
しんたい
)
には、
005
邪神
(
じやしん
)
悪鬼
(
あくき
)
が
憑依
(
ひようい
)
して、
006
天授
(
てんじゆ
)
の
身魂
(
みたま
)
を
弱
(
よわ
)
らせ
臆病者
(
おくびやうもの
)
と
堕落
(
だらく
)
せしめたるならむ。
007
凡
(
すべ
)
て
人
(
ひと
)
は
心
(
こころ
)
に
悪
(
あく
)
ある
時
(
とき
)
は
物
(
もの
)
を
恐
(
おそ
)
れ、
008
心
(
こころ
)
に
誠
(
まこと
)
ある
時
(
とき
)
は
物
(
もの
)
を
恐
(
おそ
)
れず
、
009
吾
(
われ
)
は
是
(
これ
)
より
貴下
(
あなた
)
の
魂
(
みたま
)
を
入
(
い
)
れ
替
(
か
)
へせむ。
010
暫
(
しばら
)
くここに
瞑目
(
めいもく
)
静坐
(
せいざ
)
されよ』
011
と
厳命
(
げんめい
)
したるに、
012
荒熊
(
あらくま
)
は
唯々
(
ゐゐ
)
諾々
(
だくだく
)
として、
013
命
(
めい
)
のまにまに
両手
(
りやうて
)
を
組
(
く
)
み、
014
路上
(
ろじやう
)
に
瞑目
(
めいもく
)
静坐
(
せいざ
)
したり。
015
宣伝使
(
せんでんし
)
は
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
み、
016
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
五
(
いつ
)
六
(
むゆ
)
七
(
なな
)
八
(
や
)
九
(
ここの
)
十
(
たり
)
百
(
もも
)
千
(
ち
)
万
(
よろづ
)
の
神嘉言
(
かむよごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し
終
(
をは
)
つて、
017
左右
(
さいう
)
の
手
(
て
)
を
組
(
く
)
みたるまま
食指
(
ひとさしゆび
)
の
指頭
(
しとう
)
より
霊光
(
れいくわう
)
を
発
(
はつ
)
しつつ、
018
荒熊
(
あらくま
)
の
全身
(
ぜんしん
)
を
照
(
てら
)
したり。
019
荒熊
(
あらくま
)
は
忽
(
たちま
)
ち
身体
(
しんたい
)
動揺
(
どうえう
)
し
始
(
はじ
)
め
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
荒
(
あ
)
れ
狂
(
くる
)
ひ、
020
キヤツ
と
一声
(
いつせい
)
大地
(
だいち
)
に
倒
(
たふ
)
れたるその
刹那
(
せつな
)
、
021
今
(
いま
)
まで
憑依
(
ひようい
)
せる
悪霊
(
あくれい
)
は、
022
拭
(
ぬぐ
)
ふが
如
(
ごと
)
く
彼
(
かれ
)
が
身体
(
しんたい
)
より
脱出
(
だつしゆつ
)
したり。
023
宣伝使
(
せんでんし
)
は『
赦
(
ゆる
)
す』と
一声
(
いつせい
)
呼
(
よ
)
ばはると
共
(
とも
)
に
荒熊
(
あらくま
)
は
元
(
もと
)
の
身体
(
からだ
)
に
復
(
ふく
)
し、
024
心中
(
しんちう
)
英気
(
えいき
)
に
満
(
み
)
ち
顔
(
かほ
)
の
色
(
いろ
)
さへ
俄
(
にはか
)
に
華
(
はな
)
やかに
成
(
な
)
り
来
(
き
)
たりぬ。
025
荒熊
(
あらくま
)
は
突立
(
つつたち
)
上
(
あが
)
り
大地
(
だいち
)
を
踏
(
ふ
)
み
轟
(
とどろ
)
かし、
026
荒熊(高彦)
『
吾
(
われ
)
こそは
元
(
もと
)
を
糺
(
ただ
)
せば、
027
大自在天
(
だいじざいてん
)
の
宰相
(
さいしやう
)
醜国別
(
しこくにわけ
)
の
御
(
おん
)
片腕
(
かたうで
)
、
028
一
(
いち
)
時
(
じ
)
の
失敗
(
しつぱい
)
より
心魂
(
しんこん
)
阻喪
(
そさう
)
し、
029
千思
(
せんし
)
万慮
(
ばんりよ
)
の
結果
(
けつくわ
)
度
(
ど
)
を
失
(
うしな
)
ひて、
030
八岐
(
やまたの
)
大蛇
(
をろち
)
に
憑依
(
ひようい
)
され、
031
風
(
かぜ
)
の
音
(
おと
)
、
032
雨
(
あめ
)
の
響
(
ひび
)
きにも
心
(
こころ
)
を
痛
(
いた
)
め
茅
(
かや
)
の
穂
(
ほ
)
にも
戦
(
をのの
)
き
恐
(
おそ
)
れ、
033
折角
(
せつかく
)
神
(
かみ
)
より
受
(
う
)
けたる
吾
(
わ
)
が
御魂
(
みたま
)
も、
034
殆
(
ほとん
)
ど
潰
(
つい
)
え
果
(
は
)
て、
035
弱
(
よわ
)
り
切
(
き
)
りたるその
所
(
ところ
)
へ、
036
如何
(
いか
)
なる
神
(
かみ
)
の
引
(
ひ
)
き
合
(
あは
)
せか、
037
昔
(
むかし
)
仕
(
つか
)
へし
醜国別
(
しこくにわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
に、
038
人跡
(
じんせき
)
稀
(
まれ
)
なるこの
山奥
(
やまおく
)
に
廻
(
めぐ
)
り
合
(
あ
)
ひ、
039
危難
(
きなん
)
を
救
(
すく
)
はれ、
040
日頃
(
ひごろ
)
吾身
(
わがみ
)
を
冒
(
をか
)
しゐたる
悪鬼
(
あくき
)
邪神
(
じやしん
)
を
取払
(
とりはら
)
はれ、
041
心
(
こころ
)
は
晴
(
は
)
れて
大空
(
おほぞら
)
の
月
(
つき
)
の
如
(
ごと
)
く
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
り、
042
澄
(
す
)
みきりたり。
043
最早
(
もはや
)
かくなる
上
(
うへ
)
は
幾百万
(
いくひやくまん
)
の
敵軍
(
てきぐん
)
も、
044
億兆
(
おくてう
)
無数
(
むすう
)
の
曲神
(
まがかみ
)
も、
045
真澄
(
ますみ
)
の
鏡
(
かがみ
)
振
(
ふ
)
りはへて、
046
誠
(
まこと
)
の
剣
(
つるぎ
)
抜
(
ぬ
)
き
持
(
も
)
たし、
047
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
に
切
(
き
)
りまくり
天地
(
てんち
)
に
轟
(
とどろ
)
く
言霊
(
ことたま
)
の
力
(
ちから
)
に、
048
巴留
(
はる
)
の
都
(
みやこ
)
に
蟠
(
わだか
)
まる、
049
鷹取別
(
たかとりわけ
)
を
言向
(
ことむ
)
けて
功績
(
いさを
)
を
立
(
た
)
てむ。
050
嗚呼
(
ああ
)
嬉
(
うれ
)
しし
嬉
(
うれ
)
しし
悦
(
よろこ
)
ばし』
051
と
腕
(
うで
)
を
叩
(
たた
)
いて
雄叫
(
をたけ
)
びしたり。
052
宣伝使
(
せんでんし
)
は
満面
(
まんめん
)
に
笑
(
ゑみ
)
を
湛
(
たた
)
へ、
053
淤縢山津見
『あゝ
勇
(
いさ
)
ましし
勇
(
いさ
)
ましし。
054
高彦
(
たかひこ
)
殿
(
どの
)
これより
巴留
(
はる
)
の
都
(
みやこ
)
に
向
(
むか
)
はむ、
055
案内
(
あんない
)
されよ』
056
と、
057
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ちて
行
(
ゆ
)
かむとするを、
058
高彦
(
たかひこ
)
は
袖
(
そで
)
を
扣
(
ひか
)
へて、
059
高彦(荒熊)
『
暫
(
しばら
)
くお
待
(
ま
)
ち
下
(
くだ
)
さいませ。
060
この
先
(
さき
)
には
数万
(
すうまん
)
の
群衆
(
ぐんしう
)
、
061
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
当国
(
たうごく
)
に
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
ると
聞
(
き
)
き
軍勢
(
ぐんぜい
)
を
整
(
ととの
)
へ、
062
伏兵
(
ふくへい
)
を
設
(
まう
)
けて
待
(
ま
)
ち
居
(
を
)
れば、
063
如何
(
いか
)
に
神徳
(
しんとく
)
高
(
たか
)
くとも
軽々
(
かるがる
)
しく
進
(
すす
)
むべからず、
064
一
(
ひ
)
と
先
(
ま
)
づ
我
(
われ
)
は
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
ひ
報告
(
はうこく
)
仕
(
つかまつ
)
らむ。
065
暫
(
しばら
)
く
此所
(
ここ
)
に
待
(
ま
)
たせ
給
(
たま
)
へ』
066
と、
067
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
したり。
068
蚊々虎
(
かがとら
)
は
肘
(
ひぢ
)
を
張
(
は
)
り、
069
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
の
拳
(
こぶし
)
を
固
(
かた
)
めて
左
(
ひだり
)
の
利
(
き
)
き
腕
(
うで
)
を
打
(
う
)
ち
敲
(
たた
)
きながら、
070
蚊々虎
『たとへ
悪魔
(
あくま
)
の
軍勢
(
ぐんぜい
)
幾百万
(
いくひやくまん
)
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
る
共
(
とも
)
、
071
この
蚊々虎
(
かがとら
)
が
腕
(
うで
)
に
任
(
まか
)
せ、
072
寄
(
よ
)
せ
来
(
く
)
る
敵
(
てき
)
を
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
に
打
(
う
)
ち
伏
(
ふ
)
せ
張
(
は
)
り
倒
(
たふ
)
し、
073
一泡
(
ひとあわ
)
吹
(
ふ
)
かせて
呉
(
く
)
れむ。
074
ヤー
面白
(
おもしろ
)
し
面白
(
おもしろ
)
し、
075
吾
(
わが
)
一生
(
いつしやう
)
の
腕試
(
うでだめ
)
し、
076
腕
(
うで
)
が
折
(
を
)
れるか
千切
(
ちぎ
)
れるか、
077
蚊々虎
(
かがとら
)
の
隠
(
かく
)
し
力
(
ちから
)
の
現
(
あらは
)
れ
時
(
どき
)
、
078
サアサア
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
い、
079
やつて
来
(
こ
)
い。
080
役
(
やく
)
にも
立
(
た
)
たぬ
蠅虫
(
はへむし
)
奴
(
め
)
ら、
081
この
蚊々虎
(
かがとら
)
の
鼻息
(
はないき
)
に
百
(
ひやく
)
や
二百
(
にひやく
)
の
木端
(
こつぱ
)
武者
(
むしや
)
、
082
吹
(
ふ
)
いて
吹
(
ふ
)
いて
吹捲
(
ふきまく
)
り……』
083
淤縢山津見
『その
広言
(
くわうげん
)
は
後
(
あと
)
の
事
(
こと
)
だ、
084
さう
今
(
いま
)
から
力
(
りき
)
むとまさかの
時
(
とき
)
に
力
(
ちから
)
が
抜
(
ぬ
)
けて
了
(
しま
)
ふぞ、
085
蚊々虎
(
かがとら
)
』
086
蚊々虎
『
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
087
オー
此処
(
ここ
)
な
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
守護神
(
しゆごじん
)
、
088
人間
(
にんげん
)
様
(
さま
)
、
089
心配
(
しんぱい
)
するなよ。
090
俺
(
おれ
)
の
力
(
ちから
)
をお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
知
(
し
)
らぬから
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
をするが、
091
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
に
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
は
大禁物
(
だいきんもつ
)
ぢや。
092
今
(
いま
)
と
云
(
い
)
ふこの
刹那
(
せつな
)
が
勝敗
(
しようはい
)
の
分
(
わか
)
るる
所
(
ところ
)
、
093
最初
(
さいしよ
)
から
敵
(
てき
)
を
恐
(
おそ
)
れてどうならうか、
094
戦
(
たたか
)
はぬ
内
(
うち
)
から
蚊々虎
(
かがとら
)
は
敵
(
てき
)
を
呑
(
の
)
んで
居
(
ゐ
)
るのだ。
095
臆病風
(
おくびやうかぜ
)
に
誘
(
さそ
)
はれては
成
(
な
)
らないぞ。
096
この
蚊々虎
(
かがとら
)
さまがブラジル
峠
(
たうげ
)
を
登
(
のぼ
)
つて
来
(
く
)
る
時
(
とき
)
に、
097
道
(
みち
)
の
両方
(
りやうはう
)
に
雲霞
(
うんか
)
の
如
(
ごと
)
き、
098
数限
(
かずかぎ
)
りも
知
(
し
)
れぬ
沢山
(
たくさん
)
の
敵
(
てき
)
が、
099
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
を
待
(
ま
)
ち
伏
(
ふ
)
せて
居
(
ゐ
)
た。
100
その
時
(
とき
)
この
宣伝使
(
せんでんし
)
を
傍
(
かたはら
)
の
木
(
き
)
の
蔭
(
かげ
)
に
忍
(
しの
)
ばせ
置
(
お
)
き、
101
数万
(
すうまん
)
の
敵
(
てき
)
に
向
(
むか
)
つて
大音声
(
だいおんじやう
)
。
102
ヤーイ
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
木端
(
こつぱ
)
武者
(
むしや
)
共
(
ども
)
、
103
俺
(
おれ
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
てゐる。
104
この
方
(
はう
)
は
広
(
ひろ
)
い
世界
(
せかい
)
に
二人
(
ふたり
)
とない
智勇
(
ちゆう
)
兼備
(
けんび
)
の
天下
(
てんか
)
の
豪傑
(
がうけつ
)
蚊々虎
(
かがとら
)
さまとは
吾事
(
わがこと
)
なるぞ。
105
相手
(
あひて
)
になつて
後悔
(
こうくわい
)
するな。
106
サー
来
(
こ
)
い
勝負
(
しようぶ
)
と
大手
(
おほて
)
を
拡
(
ひろ
)
げた。
107
数多
(
あまた
)
の
敵
(
てき
)
は
言
(
い
)
はして
置
(
お
)
けば
要
(
い
)
らざる
広言
(
くわうげん
)
、
108
目
(
め
)
に
物
(
もの
)
見
(
み
)
せてくれむと、
109
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
より、
110
タツタ
一人
(
ひとり
)
の
蚊々虎
(
かがとら
)
さまを
目蒐
(
めが
)
けて
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せたり。
111
強力
(
がうりき
)
無双
(
むさう
)
の
蚊々虎
(
かがとら
)
さまは、
112
寄
(
よ
)
せ
来
(
く
)
る
敵
(
てき
)
を
箸
(
はし
)
で
蚕
(
かひこ
)
を
撮
(
つま
)
む
如
(
や
)
うに、
113
右
(
みぎ
)
から
来
(
く
)
る
奴
(
やつ
)
を
左
(
ひだり
)
へポイトコセ、
114
左
(
ひだり
)
から
来
(
く
)
る
奴
(
やつ
)
を
右
(
みぎ
)
へポイトコセ、
115
終
(
しまひ
)
にはエヽ
面倒
(
めんだう
)
と、
116
首筋
(
くびすぢ
)
を
一寸
(
ちよつと
)
撮
(
つま
)
んで
空
(
そら
)
を
目
(
め
)
がけてプリンプリンプリン、
117
また
来
(
く
)
る
奴
(
やつ
)
を
一寸
(
ちよつと
)
撮
(
つま
)
んでプリンプリンプリン、
118
上
(
うへ
)
から
降
(
お
)
りて
来
(
く
)
る
奴
(
やつ
)
、
119
下
(
した
)
から
上
(
うへ
)
へ
放
(
ほ
)
られる
奴
(
やつ
)
、
120
空中
(
くうちう
)
で
頭
(
あたま
)
の
鉢合
(
はちあは
)
せをして、
121
アイタヽヽヽピカピカと
目
(
め
)
から
火
(
ひ
)
を
出
(
だ
)
し、
122
放
(
ほ
)
り
上
(
あ
)
げられた
奴
(
やつ
)
と、
123
宙
(
ちう
)
から
落
(
お
)
ちて
来
(
く
)
る
奴
(
やつ
)
と、
124
途中
(
とちう
)
で
貴方
(
あなた
)
お
上
(
のぼ
)
りですか、
125
私
(
わたくし
)
は
降
(
くだ
)
りです、
126
下
(
した
)
へ
降
(
お
)
りなしたら
蚊々虎
(
かがとら
)
さまに
宜敷
(
よろしく
)
……』
127
淤縢山津見
『コラコラ
法螺
(
ほら
)
を
吹
(
ふ
)
くにも
程
(
ほど
)
がある。
128
黙
(
だま
)
らぬかい。
129
言
(
い
)
はして
置
(
お
)
けば
調子
(
てうし
)
に
乗
(
の
)
つて……ここを
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
をる。
130
数万
(
すうまん
)
の
強敵
(
きやうてき
)
を
前
(
まへ
)
に
扣
(
ひか
)
へて
置
(
お
)
いて、
131
ソンナ
気楽
(
きらく
)
なことを
言
(
い
)
うて
居
(
を
)
る
所
(
ところ
)
で
無
(
な
)
いぞ』
132
蚊々虎
『ヤー、
133
ヤツパリ
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
ぢやなあ、
134
数万
(
すうまん
)
の
敵
(
てき
)
にオドオドして、
135
向
(
むか
)
ふは
真暗
(
まつくら
)
がり、
136
暗墨
(
やみすみ
)
の
如
(
や
)
うに、
137
一寸先
(
いつすんさき
)
は
真黒
(
まつくろ
)
黒助
(
くろすけ
)
だ。
138
エヘン
豪
(
えら
)
さうに
口
(
くち
)
ばつかり、
139
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
はするな
過越
(
すぎこし
)
苦労
(
くらう
)
は
禁物
(
きんもつ
)
ぢやのと、
140
口先
(
くちさき
)
で
立派
(
りつぱ
)
なことを
仰有
(
おつしや
)
るが、
141
この
蚊々虎
(
かがとら
)
さまはかう
見
(
み
)
えても
刹那心
(
せつなしん
)
、
142
たとへ
半時先
(
はんときさき
)
に
嬲殺
(
なぶりごろ
)
しに
逢
(
あ
)
はされやうが、
143
ソンナ
事
(
こと
)
は
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御心
(
みこころ
)
に
任
(
まか
)
して
居
(
を
)
るのだ。
144
モシ
宣伝使
(
せんでんし
)
さま、
145
さうぢや
有
(
あ
)
りますまいかな。
146
釈迦
(
しやか
)
に
説法
(
せつぱふ
)
か、
147
負
(
お
)
うた
子
(
こ
)
に
教
(
をし
)
へられて
浅瀬
(
あさせ
)
を
渡
(
わた
)
ると
言
(
い
)
ふのか、
148
いやもうトンとこの
辺
(
へん
)
が
合点
(
がつてん
)
の
虫
(
むし
)
が、
149
承知
(
しようち
)
しませぬワイ。
150
まさかの
時
(
とき
)
になつて
来
(
く
)
ると、
151
宣伝使
(
せんでんし
)
さまの
覚悟
(
かくご
)
も
誠
(
まこと
)
に
怪
(
あや
)
しい
頼
(
たよ
)
り
無
(
な
)
いものだワイ』
152
と、
153
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
き
舌
(
した
)
を
少
(
すこ
)
し
出
(
だ
)
して、
154
宣伝使
(
せんでんし
)
の
顔
(
かほ
)
をチヨツと
見上
(
みあ
)
げる。
155
宣伝使
(
せんでんし
)
は
顔
(
かほ
)
を
少
(
すこ
)
しくそむけながら、
156
淤縢山津見
『さうだなア。
157
さう
言
(
い
)
へば、
158
マアソンナものかい』
159
蚊々虎
『ソンナものかいも
有
(
あ
)
つたものかい。
160
甲斐性
(
かひしやう
)
無
(
な
)
し
奴
(
め
)
が、
161
ちと
改心
(
かいしん
)
したか、
162
エーン』
163
淤縢山津見
『
蚊々虎
(
かがとら
)
、
164
無礼
(
ぶれい
)
で
有
(
あ
)
らうぞよ』
165
斯
(
か
)
かる
所
(
ところ
)
へ
以前
(
いぜん
)
の
荒熊
(
あらくま
)
は、
166
呼吸
(
いき
)
を
喘
(
はづ
)
ませながら、
167
坂道
(
さかみち
)
を
上
(
のぼ
)
り
来
(
き
)
たりぬ。
168
蚊々虎
(
かがとら
)
は
頓狂
(
とんきやう
)
な
声
(
こゑ
)
で、
169
蚊々虎
『ヤー
帰
(
かへ
)
つたか
様子
(
やうす
)
は
何
(
な
)
んと、
170
仔細
(
しさい
)
は
如何
(
いか
)
に、
171
細
(
つぶさ
)
に、
172
言上
(
ごんじやう
)
仕
(
つかまつ
)
れ』
173
淤縢山津見
『また
貴様
(
きさま
)
出
(
だ
)
しやばるな』
174
蚊々虎
『
出
(
だ
)
しや
張
(
ば
)
るツて、
175
刹那心
(
せつなしん
)
ですよ。
176
気
(
き
)
が
何
(
なん
)
だか
急
(
せ
)
くから
急
(
いそ
)
いで
問
(
と
)
うたのですよ。
177
決
(
けつ
)
して
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
ではありませぬよ』
178
荒熊
(
あらくま
)
が、
179
荒熊(高彦)
『
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げます、
180
不思議
(
ふしぎ
)
なことには
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にか
人影
(
ひとかげ
)
も
無
(
な
)
くなつて
居
(
を
)
ります。
181
之
(
これ
)
には
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
い
計略
(
けいりやく
)
の
有
(
あ
)
る
事
(
こと
)
と
思
(
おも
)
ひますが、
182
軽々
(
かるがる
)
しく
進
(
すす
)
む
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きますまい。
183
一
(
ひと
)
つこれは
考
(
かんが
)
へものですな』
184
蚊々虎
『ナーニ
刹那心
(
せつなしん
)
だ。
185
行
(
ゆ
)
く
所
(
ところ
)
まで
行
(
ゆ
)
かな
分
(
わか
)
るものかい。
186
進
(
すす
)
め
進
(
すす
)
め』
187
と
蚊々虎
(
かがとら
)
は、
188
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
189
後
(
あと
)
に
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
は
路傍
(
みちばた
)
の
岩
(
いは
)
に
腰
(
こし
)
打
(
う
)
ち
掛
(
か
)
け、
190
何
(
なに
)
かヒソヒソと
頭
(
あたま
)
を
鳩
(
あつ
)
めて
囁
(
ささや
)
きゐたり。
191
蚊々虎
(
かがとら
)
は
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
、
192
ドンドン
腕
(
うで
)
を
振
(
ふ
)
りながら
一目散
(
いちもくさん
)
に
坂道
(
さかみち
)
を
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
193
(
大正一一・二・八
旧一・一二
森良仁
録)
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(B)
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第8巻(未の巻)
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【第19章 刹那心|第8巻|霊主体従|霊界物語|/rm0819】
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