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霊界物語
霊主体従(第1~12巻)
第8巻(未の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 智利の都
第1章 朝日丸
第2章 五十韻
第3章 身魂相応
第4章 烏の妻
第5章 三人世の元
第6章 火の玉
第2篇 四十八文字
第7章 蛸入道
第8章 改心祈願
第9章 鏡の池
第10章 仮名手本
第3篇 秘露より巴留へ
第11章 海の竜宮
第12章 身代り
第13章 修羅場
第14章 秘露の邂逅
第15章 ブラジル峠
第16章 霊縛
第17章 敵味方
第18章 巴留の関守
第4篇 巴留の国
第19章 刹那心
第20章 張子の虎
第21章 滝の村
第22章 五月姫
第23章 黒頭巾
第24章 盲目審神
第25章 火の車
第26章 讃嘆
第27章 沙漠
第28章 玉詩異
第29章 原山祇
第5篇 宇都の国
第30章 珍山峠
第31章 谷間の温泉
第32章 朝の紅顔
第33章 天上眉毛
第34章 烏天狗
第35章 一二三世
第36章 大蛇の背
第37章 珍山彦
第38章 華燭の典
第6篇 黄泉比良坂
第39章 言霊解一
第40章 言霊解二
第41章 言霊解三
第42章 言霊解四
第43章 言霊解五
余白歌
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霊界物語
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霊主体従(第1~12巻)
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第8巻(未の巻)
> 第4篇 巴留の国 > 第22章 五月姫
<<< 滝の村
(B)
(N)
黒頭巾 >>>
第二二章
五月姫
(
さつきひめ
)
〔三七二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
篇:
第4篇 巴留の国
よみ(新仮名遣い):
はるのくに
章:
第22章 五月姫
よみ(新仮名遣い):
さつきひめ
通し章番号:
372
口述日:
1922(大正11)年02月08日(旧01月12日)
口述場所:
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年6月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
この日は巴留の国の国魂の祭の後、群集が直会の酒に酔いつぶれていたところ、蚊々虎をやってきて、喧嘩虎との騒ぎに発展したのであった。
淤縢山津見の演説が終わり、宣伝歌を歌っていると、群衆の中から天女のような美人が現れ、地方の酋長の娘・五月姫であると名乗った。五月姫は宣伝使のお供をしたいと申し出た。
五月姫は巴留の国の東半分を治める闇山津見の娘であった。群集は威勢ある闇山津見の娘が宣伝使の供を申し出たことで、三五教の徳をますます思い知った。
蚊々虎と高彦は五月姫と滑稽な問答をするが、五月姫は三人を館に招いて、教えを聞きたいと申し出た。三人は五月姫について闇山津見の館に進んで行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-06-07 14:44:01
OBC :
rm0822
愛善世界社版:
147頁
八幡書店版:
第2輯 203頁
修補版:
校定版:
149頁
普及版:
65頁
初版:
ページ備考:
001
この
日
(
ひ
)
は
巴留
(
はる
)
の
国
(
くに
)
の
国魂
(
くにたま
)
を
祭
(
まつ
)
る
可
(
べ
)
く、
002
数多
(
あまた
)
の
群衆
(
ぐんしう
)
は
広
(
ひろ
)
き
芝生
(
しばふ
)
に
出
(
い
)
で、
003
神籬
(
ひもろぎ
)
を
立
(
た
)
て
種々
(
くさぐさ
)
の
物
(
もの
)
を
献
(
けん
)
じ、
004
直会
(
なほらひ
)
の
酒
(
さけ
)
に
酔
(
ゑ
)
ひ
潰
(
つぶ
)
れ、
005
夜
(
よ
)
に
入
(
い
)
つて
松明
(
たいまつ
)
を
点
(
とぼ
)
して、
006
今
(
いま
)
や
直会
(
なほらひ
)
も
済
(
す
)
み
退散
(
たいさん
)
せむとせる
折柄
(
をりから
)
に、
007
蚊々虎
(
かがとら
)
は
一目散
(
いちもくさん
)
に
走
(
はし
)
り
来
(
きた
)
つて
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
始
(
はじ
)
め
居
(
ゐ
)
たり。
008
蚊々虎
(
かがとら
)
は
喧嘩虎
(
けんくわとら
)
や
喧嘩芳
(
けんくわよし
)
に
打擲
(
ちやうちやく
)
され、
009
勘忍袋
(
かんにんぶくろ
)
を
押
(
おさ
)
へて
我慢
(
がまん
)
してゐた
矢先
(
やさき
)
、
010
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
、
011
高彦
(
たかひこ
)
の
二人
(
ふたり
)
現
(
あら
)
はれたのでホツト
一息
(
ひといき
)
し、
012
又
(
また
)
もや
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ、
013
代
(
かは
)
つて
高彦
(
たかひこ
)
の
改心
(
かいしん
)
演説
(
えんぜつ
)
があつて、
014
次
(
つぎ
)
に
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
が、
015
声
(
こゑ
)
も
涼
(
すず
)
しく
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
調子
(
てうし
)
よく
歌
(
うた
)
ひゐたり。
016
群衆
(
ぐんしう
)
の
中
(
なか
)
より
天女
(
てんによ
)
の
如
(
ごと
)
き
美人
(
びじん
)
が
現
(
あら
)
はれ、
017
宣伝使
(
せんでんし
)
の
前
(
まへ
)
に
頭
(
あたま
)
を
下
(
さ
)
げ、
018
五月姫
『
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
019
誠
(
まこと
)
に
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
いました。
020
妾
(
わらは
)
はこの
地方
(
ちはう
)
の
酋長
(
しうちやう
)
闇山
(
くらやま
)
津見
(
づみ
)
の
娘
(
むすめ
)
、
021
五月姫
(
さつきひめ
)
と
申
(
まを
)
すもの、
022
なにとぞ
妾
(
わらは
)
を
大慈
(
だいじ
)
大悲
(
だいひ
)
の
大御心
(
おほみこころ
)
を
以
(
もつ
)
て
御
(
お
)
供
(
とも
)
に
御
(
お
)
使
(
つか
)
ひ
下
(
くだ
)
さいますれば
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます』
023
と
恥
(
はづか
)
し
気
(
げ
)
に
頼
(
たの
)
み
入
(
い
)
る。
024
群衆
(
ぐんしう
)
は
酋長
(
しうちやう
)
の
娘
(
むすめ
)
五月姫
(
さつきひめ
)
がこの
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ、
025
宣伝使
(
せんでんし
)
に
叮嚀
(
ていねい
)
に
挨拶
(
あいさつ
)
せる
体
(
てい
)
を
見
(
み
)
て
大
(
おほ
)
いに
驚
(
おどろ
)
き、
026
口々
(
くちぐち
)
に、
027
甲
(
かふ
)
『なんと
宣伝使
(
せんでんし
)
と
云
(
い
)
ふものは
偉
(
えら
)
いものだな。
028
巴留
(
はる
)
の
国
(
くに
)
の
東
(
ひがし
)
半分
(
はんぶん
)
を
御
(
お
)
構
(
かま
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばす
闇山
(
くらやま
)
津見
(
づみ
)
の
御
(
おん
)
娘
(
むすめ
)
の
五月姫
(
さつきひめ
)
様
(
さま
)
が、
029
あの
通
(
とほ
)
り
乞食
(
こじき
)
のやうな
宣伝使
(
せんでんし
)
に
頭
(
あたま
)
を
下
(
さ
)
げて「
何卒
(
なにとぞ
)
御
(
お
)
供
(
とも
)
に
伴
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい」と
仰有
(
おつしや
)
るのだもの、
030
何
(
なん
)
と
俺
(
おれ
)
も
一
(
ひと
)
つ
宣伝使
(
せんでんし
)
になつて、
031
アンナ
別嬪
(
べつぴん
)
に
頭
(
あたま
)
を
下
(
さ
)
げさしたり「
妾
(
わらは
)
を
何処
(
どこ
)
までも
伴
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい」ナンテ、
032
花
(
はな
)
の
唇
(
くちびる
)
をパツト
開
(
ひら
)
いて
頼
(
たの
)
ましたいものだ』
033
乙
(
おつ
)
『この
助平
(
すけべい
)
野郎
(
やらう
)
』
034
と
矢庭
(
やには
)
に
甲
(
かふ
)
の
横面
(
よこづら
)
をピシヤリと
擲
(
なぐ
)
りつける。
035
甲
(
かふ
)
『
妬
(
や
)
くない、
036
妬
(
や
)
いたつて
馨
(
かんば
)
しいことはありやしないぞ。
037
貴様
(
きさま
)
のやうな
蟇鞋面
(
ひきがへるづら
)
に
誰
(
たれ
)
が
宣伝使
(
せんでんし
)
になつたとて
随
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
きたいナンテ
云
(
い
)
ふものがあるかい。
038
突
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
きます
竹槍
(
たけやり
)
で、
039
欠杭
(
かつくひ
)
の
先
(
さき
)
に
糞
(
くそ
)
でも
附
(
つけ
)
て
突
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
きます
位
(
くらゐ
)
のものだよ、
040
アハヽヽヽ』
041
蚊々虎
(
かがとら
)
は
五月姫
(
さつきひめ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
042
蚊々虎
『エヘン、
043
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
何
(
なに
)
が
尊
(
たふと
)
いと
云
(
い
)
つた
所
(
ところ
)
で、
044
天下
(
てんか
)
の
万民
(
ばんみん
)
を
救
(
すく
)
うて
肝腎
(
かんじん
)
の
霊魂
(
みたま
)
を
水晶
(
すゐしやう
)
に
研
(
みが
)
き
上
(
あ
)
げる
聖
(
きよ
)
い
役
(
やく
)
をする
位
(
くらゐ
)
、
045
尊
(
たふと
)
いものはありませぬ。
046
さあさ、
047
随
(
つ
)
いて
御座
(
ござ
)
れ、
048
蚊々虎
(
かがとら
)
が
許
(
ゆる
)
す。
049
モシモシ
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
、
050
でない、
051
醜
(
しこ
)
、
052
ドツコイ
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
053
拙者
(
せつしや
)
の
腕前
(
うでまへ
)
はこの
通
(
とほ
)
り。
054
お
浦山吹
(
うらやまぶき
)
の
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
き
盛
(
ざか
)
りですよ』
055
五月姫
(
さつきひめ
)
『イエイエ、
056
妾
(
わらは
)
は
貴方
(
あなた
)
のやうな
御
(
お
)
方
(
かた
)
に
連
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて
貰
(
もら
)
ひたくはありませぬ。
057
何
(
なに
)
ほど
尊
(
たふと
)
い
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
でも、
058
ソンナ
黒
(
くろ
)
い
御
(
お
)
顔
(
かほ
)
では
見
(
み
)
つともなくて
外
(
そと
)
が
歩
(
ある
)
けませぬワ、
059
ホヽヽヽヽ』
060
蚊々虎
『
顔
(
かほ
)
の
色
(
いろ
)
は
黒
(
くろ
)
くつても、
061
心
(
こころ
)
の
色
(
いろ
)
は
赤
(
あか
)
いぞ。
062
赤
(
あか
)
き
心
(
こころ
)
は
神心
(
かみごころ
)
だ。
063
神
(
かみ
)
の
心
(
こころ
)
になれなれ
人々
(
ひとびと
)
よ、
064
人
(
ひと
)
は
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
、
065
お
前
(
まへ
)
は
人
(
ひと
)
の
子
(
こ
)
、
066
神
(
かみ
)
の
代
(
かは
)
りを
致
(
いた
)
す
宣伝使
(
せんでんし
)
の
蚊々虎
(
かがとら
)
に
随
(
つ
)
いて
来
(
く
)
れば
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だよ。
067
結構
(
けつこう
)
な
花
(
はな
)
が
咲
(
さ
)
きますよ』
068
五月姫
『
貴方
(
あなた
)
の
鼻
(
はな
)
は
誠
(
まこと
)
に
立派
(
りつぱ
)
な
牡丹
(
ぼたん
)
のやうな
はな
でございます。
069
奥様
(
おくさま
)
が
嘸
(
さぞ
)
御
(
お
)
悦
(
よろこ
)
びでせう。
070
縁
(
えん
)
は
妙
(
めう
)
なもので
合縁
(
あひえん
)
奇縁
(
きえん
)
と
云
(
い
)
ひまして、
071
妾
(
わらは
)
は
如何
(
どう
)
したものか、
072
貴方
(
あなた
)
のお
顔
(
かほ
)
は
虫
(
むし
)
が
好
(
す
)
きませぬ。
073
何卒
(
なにとぞ
)
そちら
の
方
(
かた
)
の
御
(
お
)
供
(
とも
)
をさして
頂
(
いただ
)
きたう
御座
(
ござ
)
います』
074
高彦
(
たかひこ
)
は
右
(
みぎ
)
の
食指
(
ひとさしゆび
)
にて
鼻
(
はな
)
を
押
(
おさ
)
へて、
075
顔
(
かほ
)
をぬつと
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
し、
076
俺
(
おれ
)
かと
云
(
い
)
はぬばかりに
頤
(
あご
)
を
しやくつ
て
見
(
み
)
せる。
077
蚊々虎
『オイ、
078
関守
(
せきもり
)
の、
079
谷転
(
たにころ
)
びの、
080
死損
(
しにぞこな
)
ひの、
081
荒熊
(
あらくま
)
、
082
自惚
(
うぬぼ
)
れない。
083
この
世界一
(
せかいいち
)
の
男前
(
をとこまへ
)
、
084
蚊々虎
(
かがとら
)
でも
肱鉄
(
ひぢてつ
)
を
御
(
お
)
喰
(
かま
)
し
遊
(
あそ
)
ばす
女神
(
めがみ
)
さまだ。
085
貴様
(
きさま
)
の
しやつ
面
(
つら
)
に
誰
(
たれ
)
が
随
(
つ
)
いて
来
(
く
)
るものがあるものかい』
086
高彦
(
たかひこ
)
『モシモシ
五月姫
(
さつきひめ
)
様
(
さま
)
、
087
夫
(
そ
)
れは
一体
(
いつたい
)
誰
(
たれ
)
の
事
(
こと
)
ですか。
088
耻
(
はづか
)
し
相
(
さう
)
に
俯向
(
うつむ
)
いてばかり
居
(
を
)
らずに
明瞭
(
はつきり
)
と
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
089
高彦
(
たかひこ
)
の
私
(
わたくし
)
でせう』
090
五月姫
(
さつきひめ
)
は
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
り、
091
五月姫
『いーえ、
092
違
(
ちが
)
ひます、
093
違
(
ちが
)
ひます』
094
蚊々虎
『ソンナら
誰
(
たれ
)
だい』
095
五月姫
『もう
一人
(
ひとり
)
の
御
(
お
)
方
(
かた
)
』
096
蚊々虎
『
莫迦
(
ばか
)
にしよる。
097
オイ、
098
醜
(
しこ
)
、
099
オド、
100
幽霊
(
いうれい
)
、
101
宮毀
(
みやつぶ
)
し、
102
竜宮
(
りうぐう
)
の
門番
(
もんばん
)
、
103
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
物好
(
ものず
)
きな
奴
(
やつ
)
があればあるものだ。
104
コンナ
渋紙面
(
しぶがみづら
)
がよいといの。
105
オイ
醜
(
しこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
さま
奢
(
おご
)
れ
奢
(
おご
)
れ。
106
本当
(
ほんたう
)
に
大勢
(
おほぜい
)
の
中
(
なか
)
で
恥
(
はぢ
)
を
掻
(
か
)
かしよつて、
107
蚊々虎
(
かがとら
)
はもうお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
宣伝
(
せんでん
)
は
止
(
や
)
めだ。
108
コンナ
美人
(
びじん
)
を
俺
(
おれ
)
が
折角
(
せつかく
)
宣伝
(
せんでん
)
して
置
(
お
)
いたのに、
109
後
(
あと
)
の
方
(
はう
)
からチヨツクリ
出
(
で
)
て
来
(
き
)
て、
110
仕様
(
しやう
)
も
無
(
な
)
い
声
(
こゑ
)
で
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ふものだから、
111
さつぱり
御
(
お
)
株
(
かぶ
)
を
奪
(
と
)
られて
了
(
しま
)
つた。
112
オイ
高彦
(
たかひこ
)
、
113
お
前
(
まへ
)
と
二人
(
ふたり
)
この
場
(
ば
)
を
とつと
つと
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
らうぢやないか』
114
高彦(荒熊)
『
蚊々虎
(
かがとら
)
、
115
さうは
行
(
ゆ
)
かぬよ。
116
この
宣伝使
(
せんでんし
)
の
御
(
お
)
供
(
とも
)
を
吾々
(
われわれ
)
は
何処
(
どこ
)
までもするのだから』
117
蚊々虎
『ヤア
分
(
わか
)
つた。
118
宣伝使
(
せんでんし
)
の
後
(
あと
)
にこの
別嬪
(
べつぴん
)
が
随
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
くものだから、
119
貴様
(
きさま
)
は
体
(
てい
)
のよいことを
云
(
い
)
ひよつて
五月姫
(
さつきひめ
)
の
御
(
お
)
供
(
とも
)
をするつもりだらう。
120
そして
間
(
あひだ
)
には
臭
(
くさ
)
い
屁
(
へ
)
の
一
(
ひと
)
つも
頂
(
いただ
)
かして
貰
(
もら
)
はうと
思
(
おも
)
ひよつて、
121
本当
(
ほんたう
)
に
嫌
(
いや
)
らしい
奴
(
やつ
)
だナ。
122
貴様
(
きさま
)
は
女
(
をんな
)
にかけたら
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
くしよつて、
123
その
態
(
ざま
)
たら
無
(
な
)
い
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
だい』
124
高彦(荒熊)
『
貴様
(
きさま
)
の
面
(
つら
)
は
何
(
なん
)
だい。
125
オイ
涎
(
よだれ
)
を
拭
(
ふ
)
かぬか。
126
見
(
みつ
)
ともないぞ』
127
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
は、
128
黙然
(
もくねん
)
として
両手
(
りやうて
)
を
組
(
く
)
み
吐息
(
といき
)
を
漏
(
も
)
らしてをる。
129
五月姫
(
さつきひめ
)
は
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つたやうに、
130
五月姫
『もうし
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
131
妾
(
わらは
)
の
住処
(
すみか
)
は
実
(
じつ
)
に
小
(
ちい
)
さき
荒屋
(
あばらや
)
で
御座
(
ござ
)
りまするが、
132
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
が
御
(
お
)
泊
(
とま
)
り
下
(
くだ
)
さいまするには、
133
事
(
こと
)
欠
(
か
)
ぎませぬ。
134
妾
(
わらは
)
が
父
(
ちち
)
の
闇山
(
くらやま
)
津見
(
づみ
)
も、
135
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝
(
せんでん
)
を
非常
(
ひじやう
)
に
有難
(
ありがた
)
がつて
居
(
を
)
ります。
136
何卒
(
なにとぞ
)
妾
(
わらは
)
に
随
(
つ
)
いて
御
(
お
)
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
137
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ちて
歩
(
あゆ
)
み
出
(
だ
)
す。
138
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
は
始
(
はじ
)
めて
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
き、
139
淤縢山津見
『
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
140
闇山
(
くらやま
)
津見
(
づみ
)
に
御
(
お
)
目
(
め
)
にかかつて、
141
三五教
(
あななひけう
)
の
教理
(
けうり
)
を
聴
(
き
)
いて
貰
(
もら
)
はう。
142
然
(
しか
)
らば
今晩
(
こんばん
)
は
御
(
お
)
世話
(
せわ
)
になりませう』
143
五月姫
『あゝ
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
承諾
(
しようだく
)
、
144
妾
(
わらは
)
が
両親
(
りやうしん
)
も
嘸
(
さぞ
)
や
悦
(
よろこ
)
ぶことで
御座
(
ござ
)
りませう。
145
コレコレ
供
(
とも
)
の
者
(
もの
)
、
146
駕籠
(
かご
)
を
此処
(
ここ
)
へ
持
(
も
)
つてお
出
(
い
)
で』
147
『アーイ』
148
と
答
(
こた
)
へて
暗黒
(
くらがり
)
より
一挺
(
いつちやう
)
の
駕籠
(
かご
)
を
明
(
あか
)
りの
前
(
まへ
)
に
担
(
かつ
)
ぎ
出
(
だ
)
す。
149
五月姫
『なにとぞ
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
150
これに
御
(
お
)
召
(
め
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
151
淤縢山津見
『
吾々
(
われわれ
)
は
天下
(
てんか
)
を
宣伝
(
せんでん
)
するもの、
152
苦労
(
くらう
)
艱難
(
かんなん
)
は
吾々
(
われわれ
)
の
天職
(
てんしよく
)
、
153
勿体
(
もつたい
)
ない、
154
駕籠
(
かご
)
に
乗
(
の
)
ることは
到底
(
たうてい
)
出来
(
でき
)
ませぬ。
155
駕籠
(
かご
)
に
乗
(
の
)
らねばならなければ
平
(
ひら
)
に
御
(
お
)
断
(
ことわ
)
りを
申
(
まを
)
します』
156
蚊々虎
『やあ、
157
乗
(
の
)
り
手
(
て
)
が
無
(
な
)
ければ、
158
蚊々虎
(
かがとら
)
でも
幸抱
(
しんぼう
)
いたしますよ』
159
五月姫
(
さつきひめ
)
は、
160
五月姫
『
貴方
(
あなた
)
の
駕籠
(
かご
)
ぢやありませぬ』
161
蚊々虎
(
かがとら
)
は
舌
(
した
)
を
一寸
(
ちよつと
)
出
(
だ
)
して、
162
蚊々虎
『あなたの
駕籠
(
かご
)
ぢやありませぬと
仰
(
おほ
)
せられるワイ』
163
と
肱鉄砲
(
ひぢてつぽう
)
の
真似
(
まね
)
をしながら、
164
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
の
後
(
あと
)
から
蚊々虎
(
かがとら
)
は
不承
(
ふしよう
)
無精
(
ぶしよう
)
に
随
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
く。
165
駕籠
(
かご
)
は
空
(
から
)
のまま
何処
(
どこ
)
とも
無
(
な
)
しに
影
(
かげ
)
を
隠
(
かく
)
しける。
166
五月姫
(
さつきひめ
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
を
伴
(
ともな
)
ひ、
167
闇山
(
くらやま
)
津見
(
づみ
)
の
館
(
やかた
)
に
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
168
(
大正一一・二・八
旧一・一二
外山豊二
録)
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