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第三二章 (あした)紅顔(こうがん)〔三八二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻 篇:第5篇 宇都の国 よみ(新仮名遣い):うづのくに
章:第32章 朝の紅顔 よみ(新仮名遣い):あしたのこうがん 通し章番号:382
口述日:1922(大正11)年02月09日(旧01月13日) 口述場所: 筆録者:東尾吉雄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
珍山峠の温泉に一同は七日間休息し、またもや珍の国を指して進んで行く。蚊々虎は駒山彦と軽口を叩きながら進んで行く。
正鹿山津見は、珍の国が見える峠に立って、日の出神から珍の国を守るようにと厳命を受けたにも関わらず、巴留の国へ宣伝に旅立ってしまったために、このような目に合い、命を危険にさらしたことの反省を語った。
蚊々虎は五月姫の気を探るようなたとえ話を面白おかしく話して一同の旅の慰めをしている。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-09-02 04:40:35 OBC :rm0832
愛善世界社版:215頁 八幡書店版:第2輯 228頁 修補版: 校定版:219頁 普及版:95頁 初版: ページ備考:
001 珍山峠(うづやまたうげ)谷間(たにま)には、002(かみ)仕組(しぐみ)か、003偶然(ぐうぜん)か、004此処(ここ)不意(ゆくりな)くも温泉(いでゆ)(そば)(めぐ)()ひ、005滾々(こんこん)として()きざる(かみ)(めぐみ)(あたた)かき温泉(をんせん)に、006日七日(ひなぬか)夜七夜(よななよ)007心身(しんしん)(きよ)め、008(また)もや一行(いつかう)()(にん)神言(かみごと)奏上(そうじやう)し、009宣伝歌(せんでんか)(うた)ひながら、010徐々(しづしづ)とこの(たうげ)(のぼ)()く。011(やうや)一行(いつかう)珍山(うづやま)山頂(さんちやう)到達(たうたつ)したり。
012 蚊々虎(かがとら)は、
013蚊々虎『アヽアヽ、014()(ちう)(らく)あり、015(らく)(ちう)()あり、016苦楽(くらく)不二(ふじ)017善悪(ぜんあく)一如(いちによ)とは()()うたものだ。018(あせ)をタラタラ(なが)して(くる)しみてをれば、019結構(けつこう)温泉(をんせん)がチヤンと吾々(われわれ)()()かして「サア(みな)さま、020永々(ながなが)()苦労(くらう)であつた。021嘸々(さぞさぞ)疲労(くたびれ)でせう」とも(なん)とも()はずに、022不言(ふげん)実行(じつかう)手本(てほん)()せて()る。023又復(またまた)この(さか)(あせ)みどろになつて(のぼ)つてくれば、024コンナ結構(けつこう)平坦(へいたん)土地(とち)があつて、025(すず)しい(かぜ)()いて()るワイ。026極楽(ごくらく)(あま)(かぜ)だ。027本当(ほんたう)(くる)しまぬと、028(らく)(あぢ)(わか)らぬワイ』
029 駒山彦(こまやまひこ)も、
030駒山彦本当(ほんたう)結構(けつこう)だつた。031○○御校正本・愛世版では「○○」と伏せ字になっているが、校定版・八幡版では「睾丸(きんたま)」という文字が入っている。(しわ)()ばしだつたよ。032貴様(きさま)(つら)余程(よほど)(しわ)()れたよ』
033 蚊々虎(かがとら)は、
034蚊々虎馬鹿(ばか)()ふない、035(おれ)(もと)から(しわ)ナンテ()りやしないよ。036貴様(きさま)何時(いつ)弱虫(よわむし)だから、037一寸(ちよつと)した(こと)にでも(かほ)(しか)めよるから、038自然(しぜん)(しわ)だらけだ。039オイ勘定(かんぢやう)をして()よ、040沢山(たくさん)(しわ)だぞ。041四八(しは)三十二(さんじふに)()つてるわ』
042駒山彦『よく饒舌(しやべ)(やつ)だなあ、043(くち)(せん)(ねん)ほど(さき)(うま)れたのだらう』
044蚊々虎(やま)(せん)(ねん)045(うみ)(せん)(ねん)046(くち)(せん)(ねん)といふ(ごふ)()(にい)さまだよ』
047駒山彦(うはばみ)みたいな(やつ)だな。048三千(さんぜん)(ねん)()つて、049(はじ)めて人間(にんげん)(うま)れると()ふのだが、050貴様(きさま)何時(いつ)人間(にんげん)()るのだい』
051蚊々虎人間(にんげん)どころか、052(おれ)(かみ)さまだよ』
053駒山彦『さうだらう。054()だとか(のみ)だとか、055(とら)だとか、056(むし)のやうな、057()(あし)のやうな()をつけよつて、058それで(かみ)(さま)か。059(ひと)(あたま)()まつて、060(あたま)カミ(さま)061人間(にんげん)()()いて()(かみ)(さま)だらう』
062蚊々虎『ヤイ、063(こま)064貴様(きさま)却々(なかなか)(くち)達者(たつしや)()りよつたな。065何時(いつ)()にか(おれ)のお(かぶ)()りよつて』
066駒山彦(きま)つた(こと)だ、067()からして(こま)さまだ。068(こま)(ごと)くに言霊(ことたま)がよく(ころ)ぶのだよ』
069 正鹿山津見(まさかやまづみ)は、070()つて東南方(とうなんぱう)(ゆび)さし、
071正鹿山津見淤縢山津見(おどやまづみ)(さま)072ズツと(むか)ふに青々(あをあを)とした高山(かうざん)()えませう、073()(くに)(うづ)(くに)ですよ。074(わたくし)()出神(でのかみ)(さま)に、075(うづ)(くに)(まも)れよ」との厳命(げんめい)()けました。076(しか)しながら、077まだ(ほか)(たふと)(くに)がある(やう)(おも)へて、078()うしても()()ちつかず、079この(たうげ)をドンドンと(のぼ)つて、080()()()いで巴留(はる)(みやこ)宣伝(せんでん)()つたのです。081さうした(ところ)が、082今度(こんど)(かみ)(さま)(いまし)めだと()えて、083散々(さんざん)()()ひ、084(かげ)生命(いのち)だけは(たす)かりました。085これを(おも)へば、086吾々(われわれ)()()すことは出来(でき)ませぬ。087ただ長上(ちやうじやう)命令(めいれい)(したが)つて、088神妙(しんめう)にお(つと)めするに(かぎ)ると、089ほとほと改心(かいしん)いたしました』
090蚊々虎(かがとら)『アンナ細長(ほそなが)(うづ)(くに)に、091ウヅウヅして()るのも()()かないと(おも)つたのでせう。092まだ(ほか)結構(けつこう)(くに)亜拉然丁(あるぜんちん)(おも)つて、093(よく)熊鷹(くまたか)094(また)()けたと()(やう)なものですな、095正鹿山津見(まさかやまづみ)さま』
096 淤縢山津見(おどやまづみ)は、
097淤縢山津見『コラコラ蚊々虎(かがとら)098貴様(きさま)(ぢき)にそれだから(こま)る。099何故(なぜ)それほど言霊(ことたま)(きたな)いのか』
100蚊々虎『これは()しからぬ。101貴方(あなた)(わたくし)発言権(はつげんけん)妨害(ばうがい)するのですか』
102淤縢山津見『いや、103さうではない。104あまりお(しやべ)りが()ぎると(こゑ)草臥(くたび)れて、105まさか(とき)言霊(ことたま)(ちから)(よわ)ると(こま)るから()をつけたのだよ。106それよりも(たうげ)(あが)つた(いはひ)に、107気楽(きらく)世間話(せけんばなし)でもして、108(ゆつ)くりと(やす)まうかい』
109蚊々虎『ドンナ(はなし)でも(よろ)しいか、110貴方(あなた)発言権(はつげんけん)(けつ)して()めませぬな』
111淤縢山津見(よろ)しい(よろ)しい、112(なん)なと仰有(おつしや)れ。113貴方(あなた)()きな(はなし)を、114(しづか)面白(おもしろ)(ねが)ひます』
115蚊々虎(しづか)面白(おもしろ)(はなし)出来(でき)ますか。116貴方(あなた)無理(むり)()ひますね。117丁度(ちやうど)118(だま)つてもの()へ、119()(はし)れ、120睾玉(きんたま)()はへて背伸(せの)びせよ、121()ふやうな()註文(ちうもん)ですな。122如何(いか)雄弁家(ゆうべんか)蚊々虎(かがとら)でも、123それ(ばか)りは御免(ごめん)だ』
124 淤縢山津見(おどやまづみ)は、
125淤縢山津見『さう()(まは)して(おこ)つては(こま)る。126(なん)でもいい、127一寸(ちよつと)(くらゐ)(おほ)きな(こゑ)でも(かま)はぬ』
128 蚊々虎(かがとら)は、129芝生(しばふ)(うへ)大胡座(おほあぐら)をかき、
130蚊々虎『エヽ、131人間(にんげん)もいい加減(かげん)片付(かたづ)(とき)には片付(かたづ)くものだ。132ある(ところ)祝姫(はふりひめ)()古今(ここん)独歩(どくぽ)133珍無類(ちんむるゐ)134奇妙(きめう)奇天烈(きてれつ)135(なん)とも(かん)とも()うに()はれぬ、136素適(すてき)滅法界(めつぽうかい)美人(びじん)があつた。137そのお(ひめ)さまを、138彼方(あちら)からも此方(こちら)からも、139女房(にようばう)にくれ、140(をつと)にならうと()催促(さいそく)であつたが、141祝姫(はふりひめ)は、142自分(じぶん)容色(きりよう)自惚(うぬぼ)れて、143(わたくし)天下(てんか)絶世(ぜつせい)美人(びじん)だ、144アンナ(ひと)(よめ)になるのは(いや)だ、145アンナ(をとこ)婿(むこ)()るのは、146提燈(ちやうちん)釣鐘(つりがね)だ、147孔雀(くじやく)(よめ)(からす)婿(むこ)だ、148あまりこの美人(びじん)見損(みそこな)ひするな。149(わたくし)もこれから、150天下(てんか)宣伝使(せんでんし)になつて(ひと)(こう)(たて)て、151(えら)(もの)になつた(あかつき)は、152世界中(せかいぢう)立派(りつぱ)(をとこ)の、153権威(けんゐ)のある婿(むこ)()()りすると()つて、154どれもこれも、155こぐちから肱鉄砲(ひぢてつぱう)乱射(らんしや)して()た。156さうする(あひだ)に、157(さくら)(はな)何時(いつ)までも(こずゑ)(とど)まらず、
158  (はな)(いろ)はうつりにけりな(いたづ)らにわがみ()にふるながめせしまに
159何処(どこ)やらの三五教(あななひけう)とか、160(あな)ない(ひめ)とかが()つた(やう)に、161段々(だんだん)(かほ)小皺(こじわ)()つて(むかし)色香(いろか)は、162()(つき)()せて(しま)つた。163それでも、164何処(どこ)やらに(のこ)姥桜(うばざくら)(その)(いろ)は、165(じつ)素適(すてき)滅法界(めつぽふかい)のものだつた。166祝姫(はふりひめ)は、167(なに)これでも偉者(えらもの)となりさへすれば、168()(なか)(いち)ホド、169()キリヨウ、170(さん)カネだと()つて、171(たか)()まつて()つたが、172たうとう天罰(てんばつ)(あた)つて、173(わたくし)によう()()()いた、174蚊取別(かとりわけ)といふ天下(てんか)一品(いつぴん)禿(はげ)ちやまの瓢箪面(へうたんづら)のヘツピリ(ごし)禿(はげ)だらけの(をとこ)夫婦(めをと)になつて、175宣伝使(せんでんし)になつた実際(じつさい)(はなし)があるよ。176五月姫(さつきひめ)さまも、177いい加減(かげん)覚悟(かくご)をせぬと、178(あした)紅顔(こうがん)179(ゆふ)べの白骨(はくこつ)で、180見返(みかへ)(もの)()いやうに()つて、181(せい)少納言(せうなごん)(やう)(かど)()つて、182(わらは)老骨(らうこつ)()はぬかと()つたつて、183買手(かひて)()くなつて(しま)ひますよ』
184 駒山彦(こまやまひこ)()()し、
185駒山彦『アハヽヽヽ、186うまいのう、187イヤ感心(かんしん)だ。188(しか)蚊々虎(かがとら)189心配(しんぱい)するな。190(この)(あひだ)貴様(きさま)天狗(てんぐ)喧嘩(けんくわ)すると()つて駆出(かけだ)した(あと)で、191五月姫(さつきひめ)さまが、192蚊々虎(かがとら)さまは本当(ほんたう)(いろ)こそ(くろ)いが、193快活(くわいくわつ)(ひと)ですね。194(わたし)あの(ひと)一緒(いつしよ)宣伝(せんでん)()くのなら、195一寸(ちよつと)(くるし)(こと)はありませぬわ。196面白(おもしろ)くて(たび)疲労(つかれ)(わす)れて(しま)ふ」と()つていらつしやつたよ、197ねえ五月姫(さつきひめ)さま、198さうでしたね』
199(かほ)(のぞ)()む。
200 五月姫(さつきひめ)は、201(かほ)(そで)をあてて(はづ)かしげに伏向(うつむ)く。
202蚊々虎(かがとら)『ヘン、203天下(てんか)色男(いろをとこ)204(おれ)吸引力(きふいんりよく)(えら)いものだらう』
205正鹿山津見(まさかやまづみ)『あゝ蚊々虎(かがとら)さまの弁舌(べんぜつ)といひ、206勇気(ゆうき)()ひ、207さう()くては天下(てんか)宣伝使(せんでんし)には()れませぬ。208吾々(われわれ)のやうに、209巴留(はる)(みやこ)()つて、210宣伝歌(せんでんか)(うた)つて()ると、211(うしろ)()()いから、212駱駝隊(らくだたい)にグサリと()かれて、213芋刺(いもざし)()り、214沙漠(さばく)(なか)()()まれる(やう)なことでは、215宣伝使(せんでんし)(なに)もあつたものではない。216これから(ひと)つ、217蚊々虎(かがとら)さまに(なら)つて、218胆玉(きもだま)でも()りませうかい』
219 駒山彦(こまやまひこ)は、
220駒山彦『おい蚊々公(かがこう)221目出度(めでた)う』
222蚊々虎(かがとら)『エー()くない』
223駒山彦()くないと()つたつて、224天道(てんだう)(さま)(こげ)つくほど(おい)らの(あたま)()くではないか。225()くのは(この)(ごろ)陽気(やうき)だよ。226あまり(あつ)いので、227貴様(きさま)一寸(ちよつと)逆上(のぼ)(あが)つたな。228(みづ)でもあれば(あたま)からブツかけてやるのだが、229生憎(あいにく)(やま)頂辺(てつぺん)(みづ)()し、230幸福(しあはせ)(やつ)だワイ』
231淤縢山津見『サアサア(みな)さま(あせ)大分(だいぶん)(かわ)きました。232これからぼつぼつ(たうげ)(くだ)りませう』
233()ひつつ(さき)()つて、234淤縢山津見(おどやまづみ)(ある)()した。
235蚊々虎『あゝあゝ、236肝腎(かんじん)正念場(しやうねんば)()()かぬことだワイ』
237蚊々虎(かがとら)小声(こごゑ)(つぶや)き、238振返(ふりかへ)振返(ふりかへ)り、239五月姫(さつきひめ)(かほ)(ぬす)()(なが)めつつ(さか)(くだ)る。
240大正一一・二・九 旧一・一三 東尾吉雄録)
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