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霊界物語
霊主体従(第1~12巻)
第8巻(未の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 智利の都
第1章 朝日丸
第2章 五十韻
第3章 身魂相応
第4章 烏の妻
第5章 三人世の元
第6章 火の玉
第2篇 四十八文字
第7章 蛸入道
第8章 改心祈願
第9章 鏡の池
第10章 仮名手本
第3篇 秘露より巴留へ
第11章 海の竜宮
第12章 身代り
第13章 修羅場
第14章 秘露の邂逅
第15章 ブラジル峠
第16章 霊縛
第17章 敵味方
第18章 巴留の関守
第4篇 巴留の国
第19章 刹那心
第20章 張子の虎
第21章 滝の村
第22章 五月姫
第23章 黒頭巾
第24章 盲目審神
第25章 火の車
第26章 讃嘆
第27章 沙漠
第28章 玉詩異
第29章 原山祇
第5篇 宇都の国
第30章 珍山峠
第31章 谷間の温泉
第32章 朝の紅顔
第33章 天上眉毛
第34章 烏天狗
第35章 一二三世
第36章 大蛇の背
第37章 珍山彦
第38章 華燭の典
第6篇 黄泉比良坂
第39章 言霊解一
第40章 言霊解二
第41章 言霊解三
第42章 言霊解四
第43章 言霊解五
余白歌
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第8巻(未の巻)
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<<< 沙漠
(B)
(N)
原山祇 >>>
第二八章
玉詩異
(
たましい
)
〔三七八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
篇:
第4篇 巴留の国
よみ(新仮名遣い):
はるのくに
章:
第28章 玉詩異
よみ(新仮名遣い):
たましい
通し章番号:
378
口述日:
1922(大正11)年02月09日(旧01月13日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年6月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
一行は巴留の都の入口の森林に駱駝をつないて休息し、作戦を立てていた。淤縢山津見は大軍を持つ敵を言向け和す宣伝使の氏名について語り始めるが、蚊々虎が茶々を入れておかしな問答にしてしまう。
そこへ長剣を提げ甲冑に身を固めた荒武者数十名の駱駝隊が現れて、三五教の宣伝使を槍で突こうとする。
蚊々虎は自分は盤古神王の忘れ形見・常照彦であると名乗り、武者たちに向かって大音声で怒鳴り名乗りを上げた。
その権幕に恐れてか、一目散に逃げ帰ってしまった。一同はその場で神言を奏上し、宣伝歌を歌いながら城下に向かって進んで行く。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-06-07 15:03:03
OBC :
rm0828
愛善世界社版:
190頁
八幡書店版:
第2輯 218頁
修補版:
校定版:
192頁
普及版:
84頁
初版:
ページ備考:
001
一行
(
いつかう
)
は
巴留
(
はる
)
の
都
(
みやこ
)
の
入口
(
いりぐち
)
の、
002
老木
(
らうぼく
)
茂
(
しげ
)
れる
森林
(
しんりん
)
に
駱駝
(
らくだ
)
を
繋
(
つな
)
ぎ
休息
(
きうそく
)
したりぬ。
003
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
は
一同
(
いちどう
)
と
車座
(
くるまざ
)
になり、
004
作戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
を
相談
(
さうだん
)
しゐたり。
005
淤縢山津見
『
此処
(
ここ
)
は
大自在天
(
だいじざいてん
)
、
006
今
(
いま
)
は
常世
(
とこよ
)
神王
(
しんわう
)
の
領分
(
りやうぶん
)
、
007
鷹取別
(
たかとりわけ
)
が
管掌
(
くわんしやう
)
するところだから、
008
よほど
注意
(
ちうい
)
をせなくてはならぬ。
009
大自在天
(
だいじざいてん
)
の
一派
(
いつぱ
)
は、
010
精鋭
(
せいえい
)
なる
武器
(
ぶき
)
もあれば、
011
権力
(
けんりよく
)
も
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
り
知識
(
ちしき
)
もある。
012
加
(
くは
)
ふるに
天
(
あま
)
の
磐船
(
いはふね
)
、
013
鳥船
(
とりふね
)
など
無数
(
むすう
)
に
準備
(
じゆんび
)
して、
014
併呑
(
へいどん
)
のみを
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
主義
(
しゆぎ
)
として
居
(
を
)
る
体主
(
たいしゆ
)
霊従
(
れいじゆう
)
、
015
弱肉
(
じやくにく
)
強食
(
きやうしよく
)
の
政治
(
せいぢ
)
だ。
016
吾々
(
われわれ
)
はこの
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
むだう
)
を
懲
(
こら
)
さねばならぬのだ。
017
さうして
吾々
(
われわれ
)
の
武器
(
ぶき
)
といつたら、
018
唯
(
ただ
)
一
(
ひと
)
つの
玉
(
たま
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
るのみだ。
019
その
玉
(
たま
)
をもつて、
020
言向和
(
ことむけやは
)
すのだから、
021
大変
(
たいへん
)
に
骨
(
ほね
)
が
折
(
を
)
れる。
022
先
(
ま
)
づこの
戦
(
たたかひ
)
に
勝
(
かつ
)
のは
忍耐
(
にんたい
)
の
外
(
ほか
)
には
無
(
な
)
い。
023
御
(
ご
)
一同
(
いちどう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
024
この
重大
(
ぢうだい
)
なる
使命
(
しめい
)
が
勤
(
つと
)
まりますか』
025
蚊々虎
(
かがとら
)
は、
026
蚊々虎
『
勿論
(
もちろん
)
の
事
(
こと
)
、
027
武器
(
ぶき
)
もなければ
爆弾
(
ばくだん
)
もない、
028
唯
(
ただ
)
天
(
てん
)
から
貰
(
もら
)
つたこの
玉
(
たま
)
一
(
ひと
)
つだ』
029
と
握拳
(
にぎりこぶし
)
を
固
(
かた
)
め
一同
(
いちどう
)
の
前
(
まへ
)
に
突出
(
つきだ
)
し、
030
肩
(
かた
)
を
怒
(
いか
)
らしながら、
031
蚊々虎
『
吾
(
われ
)
は
天下
(
てんか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
032
腰
(
こし
)
に
三尺
(
さんじやく
)
の
秋水
(
しうすゐ
)
は
無
(
な
)
けれども、
033
鉄
(
てつ
)
より
固
(
かた
)
いこの
拳骨
(
げんこつ
)
、
034
寄
(
よ
)
せ
来
(
く
)
る
敵
(
てき
)
を
片端
(
かたつぱし
)
から、
035
打
(
ぶ
)
つて
打
(
ぶ
)
つて
打
(
ぶ
)
ちのめし、
036
一泡
(
ひとあわ
)
吹
(
ふ
)
かして
呉
(
く
)
れむ』
037
淤縢山津見
『コラコラ、
038
ソンナ
乱暴
(
らんばう
)
な
事
(
こと
)
をやつてよいものか。
039
ミロクの
教
(
をしへ
)
を
致
(
いた
)
す
吾々
(
われわれ
)
は、
040
一切
(
いつさい
)
の
武器
(
ぶき
)
を
持
(
も
)
つ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
041
唯
(
ただ
)
玉
(
たま
)
のみだ』
042
蚊々虎
『その
玉
(
たま
)
はこれだ』
043
と
握拳
(
にぎりこぶし
)
を
丸
(
まる
)
くして、
044
ニユツ
と
突出
(
つきだ
)
して
見
(
み
)
せる。
045
高彦
(
たかひこ
)
『
馬鹿
(
ばか
)
だなあ、
046
そりや
握
(
にぎ
)
り
玉
(
たま
)
だ。
047
玉
(
たま
)
が
違
(
ちが
)
ふよ』
048
蚊々虎
(
かがとら
)
『ソンナラ
俺
(
おれ
)
は
玉
(
たま
)
を
二
(
ふた
)
つ
持
(
も
)
つてゐる
蚊々虎
(
かがとら
)
だ。
049
何方
(
どちら
)
を
使
(
つか
)
はうかな。
050
貴様
(
きさま
)
らの
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
るのとは
余程
(
よほど
)
大
(
おほ
)
きい
立派
(
りつぱ
)
なものだよ。
051
駱駝
(
らくだ
)
に
乗
(
の
)
つて
走
(
はし
)
る
時
(
とき
)
には
邪魔
(
じやま
)
になる。
052
歩
(
ある
)
く
時
(
とき
)
にも
大変
(
たいへん
)
な
邪魔物
(
じやまもの
)
だ、
053
一
(
ひと
)
つ
貴様
(
きさま
)
に
貸
(
か
)
してやらうか。
054
それはそれは
立派
(
りつぱ
)
な
睾
(
きん
)
の
玉
(
たま
)
だぞ』
055
高彦
『
洒落
(
しやれ
)
どころかい、
056
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
正念場
(
しやうねんば
)
だ。
057
貴様
(
きさま
)
の
魂
(
たましひ
)
を
以
(
もつ
)
て
敵
(
てき
)
に
当
(
あた
)
れと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だよ』
058
蚊々虎
『
宣伝使
(
せんでんし
)
がそれ
位
(
くらゐ
)
の
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
らぬで
勤
(
つと
)
まるかい、
059
一寸
(
ちよつと
)
嬲
(
なぶ
)
つてやつたのだよ。
060
敵地
(
てきち
)
に
臨
(
のぞ
)
んでも、
061
綽々
(
しやくしやく
)
として
余裕
(
よゆう
)
のある、
062
蚊々虎
(
かがとら
)
さまの
度胸
(
どきよう
)
を
見
(
み
)
せてやつたのだよ。
063
高彦
(
たかひこ
)
、
064
これ
見
(
み
)
よ、
065
だらり
と
垂下
(
さが
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
066
度胸
(
どきよう
)
の
無
(
な
)
い
奴
(
やつ
)
は
強敵
(
きやうてき
)
の
前
(
まへ
)
に
来
(
く
)
ると
縮
(
ちぢ
)
み
上
(
あが
)
ると
云
(
い
)
ふことだが、
067
貴様
(
きさま
)
の
玉
(
たま
)
は
二
(
ふた
)
つとも
臍下
(
さいか
)
丹田
(
たんでん
)
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
の
辺
(
あたり
)
に
鎮
(
しづ
)
まつて
居
(
を
)
るのだらう。
068
否
(
いな
)
舞
(
ま
)
ひ
上
(
あが
)
つて
居
(
を
)
るのだらう』
069
五月姫
(
さつきひめ
)
は、
070
五月姫
『ホヽヽ
蚊々虎
(
かがとら
)
さまのお
元気
(
げんき
)
な
事
(
こと
)
、
071
妾
(
わらは
)
は
腸
(
はらわた
)
が
撚
(
よ
)
れます』
072
と
腹
(
はら
)
を
抱
(
かか
)
へて
忍
(
しの
)
び
笑
(
わら
)
ひに
笑
(
わら
)
ふ。
073
蚊々虎
『コレコレ、
074
姫御前
(
ひめごぜん
)
のあられもない
事
(
こと
)
、
075
宣伝使
(
せんでんし
)
の
仰有
(
おつしや
)
る
事
(
こと
)
を、
076
若
(
わか
)
い
女
(
をんな
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
笑
(
わら
)
ふと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があつたものか。
077
女
(
をんな
)
らしうもない、
078
ちと
らしう
しなさい』
079
駒山彦
『
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
様
(
さま
)
、
080
蚊々
(
かが
)
さまや、
081
高
(
たか
)
さまのお
話
(
はなし
)
では
一向
(
いつかう
)
要領
(
えうりやう
)
を
得
(
え
)
ませぬ。
082
一
(
ひと
)
つ
大方針
(
だいはうしん
)
を
駒山彦
(
こまやまひこ
)
に
示
(
しめ
)
して
下
(
くだ
)
さいな』
083
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
は
立
(
た
)
つて
歌
(
うた
)
を
歌
(
うた
)
ふ。
084
淤縢山津見
『
宣伝
(
せんでん
)
将軍
(
しやうぐん
)
雷声有
(
らいせいあり
)
085
進神兵
(
しんぺいをすすむ
)
万里
(
ばんりの
)
沙程
(
さてい
)
086
争知
(
いづくんぞしらん
)
臨敵城下地
(
てきじやうかちにのぞむ
)
087
大道
(
たいだう
)
勝
(
すぐれて
)
驕
(
おごれば
)
却虚名
(
かへつてなをむなしうせん
)
』
088
蚊々虎
『
何
(
なん
)
と
六ケ敷
(
むつかし
)
い
歌
(
うた
)
だのう。
089
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
090
一遍
(
いつぺん
)
審神
(
さには
)
をして
上
(
あ
)
げませうか、
091
蚊々虎
(
かがとら
)
が。
092
妙
(
めう
)
な
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ひますなあ、
093
猿
(
さる
)
の
寝言
(
ねごと
)
のやうにさつぱり
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
らぬじやないか』
094
駒山彦
『イヤ、
095
駒山彦
(
こまやまひこ
)
は
分
(
わか
)
つてゐますよ』
096
蚊々虎
『
分
(
わか
)
つてゐるなら
云
(
い
)
うて
呉
(
く
)
れ、
097
ヘボ
審神者
(
さには
)
の
誤託宣
(
ごたくせん
)
だ。
098
どうで
碌
(
ろく
)
な
事
(
こと
)
はあるまい。
099
蚊々虎
(
かがとら
)
さまを
大将
(
たいしやう
)
とすれば、
100
総
(
すべ
)
ての
計画
(
けいくわく
)
は
キタリキタリ
と
箱指
(
はこさし
)
たやうに
行
(
ゆ
)
くのだが、
101
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
は
我
(
が
)
があるから、
102
サツパリ
行
(
ゆ
)
かぬのだ。
103
駒山彦
(
こまやまひこ
)
よ、
104
貴様
(
きさま
)
も
犬
(
いぬ
)
や
猿
(
さる
)
の
寝言
(
ねごと
)
みたやうな
事
(
こと
)
を、
105
知
(
し
)
つとるの、
106
知
(
し
)
らぬのと
云
(
い
)
うて、
107
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
が
知
(
し
)
つて
怺
(
たま
)
るか。
108
もう
教
(
をし
)
へて
貰
(
もら
)
はぬわ。
109
脱線
(
だつせん
)
だらけの
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いたつて
仕方
(
しかた
)
がないからなあ』
110
斯
(
か
)
く
談合
(
はなしあ
)
ふ
所
(
ところ
)
へ、
111
長剣
(
ちやうけん
)
を
提
(
さ
)
げ
甲冑
(
かつちう
)
を
身
(
み
)
に
纒
(
まと
)
うた
荒武者
(
あらむしや
)
数十
(
すうじふ
)
名
(
めい
)
の
駱駝隊
(
らくだたい
)
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
112
荒武者
『ヤア、
113
その
森林
(
しんりん
)
に
駱駝
(
らくだ
)
を
繋
(
つな
)
ぎ、
114
休息
(
きうそく
)
せる
一行
(
いつかう
)
のものは、
115
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
には
非
(
あら
)
ざるか、
116
潔
(
いさぎよ
)
く
名乗
(
なのり
)
を
上
(
あ
)
げて
吾
(
われ
)
らが
槍
(
やり
)
の
錆
(
さび
)
となれよ』
117
と
呼
(
よ
)
ばはりたり。
118
蚊々虎
『ヤアお
出
(
いで
)
たなあ、
119
日頃
(
ひごろ
)
の
力自慢
(
ちからじまん
)
の
腕
(
うで
)
を
試
(
ため
)
すは
今
(
いま
)
この
時
(
とき
)
だ。
120
ヤア
五月姫
(
さつきひめ
)
殿
(
どの
)
、
121
この
蚊々虎
(
かがとら
)
が
武勇
(
ぶゆう
)
を
御覧
(
ごらん
)
あれ。
122
オイオイ
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
弱虫
(
よわむし
)
共
(
ども
)
、
123
この
方
(
はう
)
の
武者振
(
むしやぶり
)
を
見
(
み
)
て
膽
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
すな』
124
高彦
(
たかひこ
)
は
蚊々虎
(
かがとら
)
に
向
(
むか
)
ひ、
125
高彦
『
貴様
(
きさま
)
三五教
(
あななひけう
)
の
教理
(
けうり
)
を
忘
(
わす
)
れたか』
126
蚊々虎
『
危急
(
ききふ
)
存亡
(
そんばう
)
のこの
場
(
ば
)
に
当
(
あた
)
つて、
127
三五教
(
あななひけう
)
もあつたものか。
128
機
(
き
)
に
臨
(
のぞ
)
み、
129
変
(
へん
)
に
応
(
おう
)
ずるはこれ
即
(
すなは
)
ち
神謀
(
しんぼう
)
鬼策
(
きさく
)
。
130
汝
(
なんぢ
)
らの
如
(
ごと
)
き
愚者
(
ぐしや
)
小人
(
せうにん
)
の
知
(
し
)
るところで
無
(
な
)
い。
131
邪魔
(
じやま
)
ひろぐな』
132
と
赭黒
(
あかぐろ
)
い
腕
(
うで
)
を
捲
(
まく
)
つて
数十
(
すうじふ
)
人
(
にん
)
の
群
(
むれ
)
に
飛
(
と
)
び
入
(
い
)
り
仁王立
(
にわうだち
)
となつて
大音声
(
だいおんじやう
)
、
133
蚊々虎
『
吾
(
われ
)
こそは、
134
元
(
もと
)
を
糺
(
ただ
)
せば
盤古
(
ばんこ
)
神王
(
しんわう
)
の
遺児
(
わすれがたみ
)
、
135
常照彦
(
とこてるひこ
)
なり。
136
今
(
いま
)
は
蚊々虎
(
かがとら
)
と
名
(
な
)
を
偽
(
いつは
)
つて、
137
巴留
(
はる
)
の
都
(
みやこ
)
に
天降
(
あまくだ
)
り
来
(
きた
)
りし、
138
古今
(
ここん
)
無双
(
むさう
)
の
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
だぞ。
139
この
鉄拳
(
てつけん
)
を
一
(
ひと
)
つ
揮
(
ふる
)
へば
百千万
(
ひやくせんまん
)
の
敵
(
てき
)
は
一度
(
いちど
)
に
雪崩
(
なだれ
)
を
打
(
う
)
つて、
140
ガラガラガラ。
141
足
(
あし
)
を
一
(
ひと
)
つ
踏
(
ふ
)
み
轟
(
とどろ
)
かせば、
142
巴留
(
はる
)
の
都
(
みやこ
)
は
一度
(
いちど
)
にガラガラガラ
滅茶
(
めちや
)
々々
(
めちや
)
々々
(
めちや
)
。
143
鬼門
(
きもん
)
の
金神
(
こんじん
)
国治立
(
くにはるたちの
)
尊
(
みこと
)
の
再来
(
さいらい
)
、
144
蓮華台
(
れんげだい
)
上
(
じやう
)
に
四股踏
(
しこふみ
)
鳴
(
な
)
らせば、
145
巴留
(
はる
)
の
国
(
くに
)
の
三
(
み
)
つや
四
(
よ
)
つ、
146
百
(
ひやく
)
や
二百
(
にひやく
)
は
忽
(
たちま
)
ち
海中
(
かいちう
)
にぶるぶるぶる、
147
見事
(
みごと
)
対手
(
あひて
)
になるなら、
148
なつて
見
(
み
)
よー』
149
と
眼
(
め
)
を
剥
(
む
)
いて
呶鳴
(
どな
)
りつけたり。
150
この
権幕
(
けんまく
)
に
恐
(
おそ
)
れてか、
151
数十騎
(
すうじつき
)
の
駱駝隊
(
らくだたい
)
は、
152
駱駝
(
らくだ
)
の
頭
(
かしら
)
を
立
(
た
)
て
直
(
なほ
)
すや
否
(
いな
)
や、
153
一目散
(
いちもくさん
)
に
もと
来
(
き
)
た
道
(
みち
)
へ
走
(
はし
)
り
去
(
さ
)
りぬ。
154
蚊々虎
(
かがとら
)
は
大手
(
おほて
)
を
振
(
ふ
)
り
一同
(
いちどう
)
の
前
(
まへ
)
に
鼻
(
はな
)
ぴこ
つかせながら
帰
(
かへ
)
り
来
(
きた
)
り、
155
蚊々虎
『オイ、
156
どうだい、
157
俺
(
おれ
)
の
言霊
(
ことたま
)
は
偉
(
えら
)
いものだらう。
158
言霊
(
ことたま
)
の
伊吹
(
いぶき
)
によつて
雲霞
(
うんか
)
の
如
(
ごと
)
き
大軍
(
たいぐん
)
も
瞬
(
またた
)
く
間
(
うち
)
に
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃散
(
にげち
)
つたり』
159
一同
(
いちどう
)
『ハヽヽヽヽ』
160
駒山彦
『イヤもうどうも
駒山彦
(
こまやまひこ
)
は
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つた。
161
随分
(
ずゐぶん
)
吹
(
ふ
)
いたものだね』
162
蚊々虎
『
吹
(
ふ
)
かいでか、
163
二百十
(
にひやくとを
)
日
(
か
)
だ。
164
吹
(
ふ
)
いて
吹
(
ふ
)
いて
吹
(
ふ
)
き
捲
(
まく
)
つて
巴留
(
はる
)
の
都
(
みやこ
)
を、
165
冬
(
ふゆ
)
の
都
(
みやこ
)
にして
仕舞
(
しま
)
ふのだ』
166
高彦
(
たかひこ
)
『
油断
(
ゆだん
)
は
大敵
(
たいてき
)
だぜ、
167
逃
(
にげ
)
たのは
深
(
ふか
)
い
計略
(
けいりやく
)
があるのだよ。
168
蚊々虎
(
かがとら
)
が
勝
(
かち
)
に
乗
(
じやう
)
じて
追
(
お
)
ひかけて
行
(
ゆ
)
くと、
169
それこそ
どえらい
陥穽
(
おとしあな
)
でもあつて
豪
(
えら
)
い
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はす
積
(
つも
)
りだよ。
170
それに
違
(
ちが
)
ひない、
171
さすがは
淤縢山
(
おどやま
)
津見
(
づみ
)
様
(
さま
)
だ。
172
最前
(
さいぜん
)
も
吟
(
うた
)
はつしやつたらう、
173
争知
(
いづくんぞしらん
)
臨敵城下地
(
てきじやうかちにのぞむ
)
174
大道
(
たいだう
)
勝
(
すぐれて
)
驕
(
おごれば
)
却虚名
(
かへつてなをむなしうせん
)
175
だ。
176
オイ
敵
(
てき
)
の
散乱
(
さんらん
)
した
間
(
うち
)
に
何
(
なん
)
とか
工夫
(
くふう
)
をしようではないか』
177
五月姫
『
女
(
をんな
)
の
俄
(
にはか
)
宣伝使
(
せんでんし
)
の
差出口
(
さしでぐち
)
、
178
誠
(
まこと
)
に
畏
(
おそ
)
れ
多
(
おほ
)
い
事
(
こと
)
では
御座
(
ござ
)
いますが、
179
此処
(
ここ
)
で
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
い
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
して
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
つたらどうでせう。
180
蚊々虎
(
かがとら
)
さまの
言霊
(
ことたま
)
よりも
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
が
現
(
あら
)
はれませう』
181
淤縢山津見
(
おどやまづみ
)
はやや
感心
(
かんしん
)
の
体
(
てい
)
にて、
182
淤縢山津見
『ヤア、
183
これは
好
(
よ
)
いところへ
気
(
き
)
がついた。
184
ヤア
一同
(
いちどう
)
の
方々
(
かたがた
)
、
185
神言
(
かみごと
)
を
力
(
ちから
)
一
(
いつ
)
ぱい
奏上
(
そうじやう
)
いたしませう』
186
一同
(
いちどう
)
『
御尤
(
ごもつと
)
も
御尤
(
ごもつと
)
も』
187
と
異口
(
いく
)
同音
(
どうおん
)
に
答
(
こた
)
へながら、
188
芝生
(
しばふ
)
の
上
(
うへ
)
に
端坐
(
たんざ
)
して
神言
(
かみごと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
189
終
(
をは
)
つて
五
(
ご
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
は
蚊々虎
(
かがとら
)
を
真先
(
まつさき
)
に
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひながら、
190
城下
(
じやうか
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
191
(
大正一一・二・九
[
※
校正本では「一・九」になっているが「二・九」が正しい
]
旧一・一三
加藤明子
録)
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