小糸姫は、舟の漕ぎ手に襲われて三五教の宣伝使に助けられたと思いきや、それは夢であった。ニュージーランド近くにさしかかったと思うと舟は嵐に巻き込まれ、舟は海中の岩にぶつかって粉々になってしまった。
舟の漕ぎ手のチャンキーとモンキーの姿は見えなくなってしまった。小糸姫はかろうじて岩にしがみついて経文を唱え、助けを求めていた。嵐は収まったが、そこへ四人の女を乗せた舟がやってきて小糸姫に気づき、助け上げた。
小糸姫は、自分を助け上げた女たちを見れば、顕恩郷で侍女として仕えていた、五十子姫、梅子姫、宇豆姫、今子姫であった。
五十子姫と梅子姫は神素盞嗚尊の娘である素性を隠して、バラモン教に占領された顕恩郷に潜入していたが、太玉命と力を合わせて顕恩郷を取り戻した。その際に、元はバラモン教であった侍女の宇豆姫、今子姫も三五教に改心させていたのであった(第十五巻)。
四人は、友彦と駆け落ちしたはずの小糸姫が、なぜこのような所にいるのかを尋ねた。小糸姫はこれまでの経緯を語ったが、四人はその年に似合わぬ豪胆さに舌を巻いた。そして、三五教の教理を体得させて竜宮島の宣伝をさせることにした。
三五教の教理を授けられた小糸姫は、勝手に五十子姫、梅子姫を参謀となし、宇豆姫と今子姫を侍女として女王気取りでまだ未開の竜宮島に上陸した。
五人は宣伝歌を歌いながら、竜宮島の中心地、萱野ケ原にやってきて、天津祝詞を唱えた。現地の住民は、五人を天女の降臨と思って集まり、拝礼し始めた。
そこへ、一つ島の棟梁と自称するブランジーという豪族がやってきて、武装した部下たちに五人を包囲させ、何者か問い質した。小糸姫は少しも恐れず、逆にブランジーに対して、自分たちは天津神の使いであると厳として申し渡し、帰順を迫った。
ブランジーの部下たちは武装を捨ててひざまずいた。ブランジーも我を折って帰順の意を表した。
ブランジーを従えた小糸姫は、黄竜姫と名乗って竜宮島に三五教を宣布し、その名を四辺に轟かせた。五十子姫は今子姫と共に、自転倒島の神素盞嗚大神の元へ帰って行った。梅子姫と宇豆姫が、黄竜姫の補佐として残った。
ブランジーは妻のクロンバーと共に黄竜姫の宰相と取り立てられて、姫の威光によって島中に名を轟かせるまでになっていた。
あるときクロンバーは黄竜姫のもとにやってきて、自分は元は聖地に仕えていた者であることを明かした。そして、自分は紛失した大切な如意宝珠の玉、黄金の玉、紫の玉を探しており、黄竜姫の天眼通によって玉のありかを知らせて欲しいと懇願した。
黄竜姫は、三つの玉は自転倒島に故あって隠されていると告げ、今は玉への執着心を離れてブランジーと共に国務に奉仕するように、と申し渡して姿を隠してしまった。
クロンバーとは黒姫の名を変えた姿で、ブランジーは高山彦であった。二人は竜宮島風に名を変えて、国人を使役して玉のありかを探していたのであった。