第五章 愁雲退散〔一六八七〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻
篇:第1篇 月の高原
よみ(新仮名遣い):つきのこうげん
章:第5章 愁雲退散
よみ(新仮名遣い):しゅううんたいさん
通し章番号:1687
口述日:1924(大正13)年12月15日(旧11月19日)
口述場所:祥雲閣
筆録者:北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:1926(大正15)年6月29日
概要:
舞台:タライの村の里庄ジャンクの家
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備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm6605
愛善世界社版:65頁
八幡書店版:第11輯 753頁
修補版:
校定版:65頁
普及版:67頁
初版:
ページ備考:
001 トルマン国バルガン城の国王トルカ王より勅使として、002ジャンクの家に入り来りし二人の男はオール、003コースと云ふ。004オールは厳然として正座に直り、005里庄のジャンクに国王の令を伝へた。
006『我トルマン国は建国以来、007上下一致、008王と民との間は親子の如く兄弟の如く夫婦の如し。009天恵豊にして地味は肥え、010印度全国の宝庫楽園と称せられ、011国民和楽し、012太平の夢を結びたること茲に三千年なり。013然るに図らざりき、014今回ハルナの都に君臨し玉ふ大黒主の命の軍勢、015ウラル教征伐の為、016遙々軍卒を派遣し玉ふ。017然るに全軍の将たる大足別は性質暴戻にして虎狼の如く、018我国内の民を苦しめ、019婦女を姦し財物を掠奪し、020甚しきは民家を焼き、021暴状至らざるなく、022勢に乗じてトルマン国の首府バルガン城を攻略せむとす。023汝等忠良の民、024忠勇義烈の赤心を発揮し、025前古未曽有の大国難を救ふべく、026凡ての男子は十八才以上六十才以下は各武器を携帯し王城の救援に向ふべし。027汝等が祖先の開きし国土を守るは此時なるべし。028汝里庄、029村民に吾意のある所を伝達し、030時を移さず軍に従ふべし。031トルマン国、032バルガン城トルカ王の使者オール、033コース、034国王殿下の聖旨を伝達するもの也』
035と読み聞かすや、036里庄ジャンクは謹んで席を下り、
037ジャンク『力なき吾々には候へど、038御勅命に従ひ速に義勇軍を召集し、039王城並に国家の危難に殉じ奉りませう』
040 勅使オール、041コースの両人は「満足々々」と笑を洩らし挨拶し乍ら、042ジャンクが勧むる茶も呑まず、043急いで玄関口に立ち出て、044待たせおいたる十数名の士卒と共にヒラリと駒に跨り、045紅の手綱ゆたかに、046蹄の音もカツカツカツと隣村さして進み行く。
047 ジャンクは照国別一行の居間に帰り来り、048稍緊張したる面色にて、
049ジャンク『御一同様、050えらい失礼を致しました』
051照国『いや、052どう致しまして、053勅使の趣、054如何で厶いましたか。055実は御心配申上げて居りました』
056ジャンク『ハイ、057有難う厶います。058私も、059もはや国家の為一家一命を棄てねばならぬ時が参りました』
060と憂愁に沈み、061意気銷沈しきつたる老人にも似合はず、062どこともなく決心の色が現はれて居る。
063照国『一身一家を棄てねばならぬとは何事で厶いますか』
064ジャンク『只今バルガン城のトルカ王様よりの御勅使によれば、065「印度の国を守るべき大黒主様の軍隊大足別将軍なるもの、066トルマン国の城下の民を脅かし、067民家を焼き婦女子を奪ひ人種を絶やし、068尚飽き足らず王城を攻め落し、069国王を放逐せむとする勢で厶いますれば、070此際国民は男子は十八才より六十才以下のもの、071一人も残らず国難に殉ずべし」との御厳命で厶いますれば、072私も本年は五十八才、073老耄たりとは云へ、074まだ適齢がかかつてゐます。075もはや娘の事は断念致しました。076華々しく軍に従ひ、077国家のために屍を山野に曝す覚悟で厶います』
078照国『成程、079承れば承る程、080お気の毒で厶います。081国王の御命令とあらば国民として、082此際お起ちなさるのが義務で厶いませう。083私も宣伝使として天下の害を除くべく084遙々月の国へ神命を受けて参つたので厶いますから、085どうか参加させて頂き度いもので厶いますな』
086ジャンク『ハイ、087有難う厶います。088何分よろしく』
089梅公『ア、090先生、091よくお考へなさいませ。092善言美詞の言霊を以て、093あらゆる万民を言向和す無抵抗主義の三五教では厶いませぬか。094殺伐なる軍隊に参加し、095砲煙弾雨の中に馳駆するのは決して宣伝使の本分ぢや厶いますまい。096三五教は決して軍国主義では厶いませぬよ』
097照国『ハヽヽヽヽ、098吾々はお前の云ふ通り、099決して敵を憎まない。100又殺伐な人為的戦争はやり度くない。101義勇軍に参加しようと云ふのは傷病者を救ひ、102敵味方の区別なく誠の道を説き諭し、103平和に解決し、104このトルマン国は申すに及ばず、105印度七千余国の国民を神の慈恩に浴せしむる為だ。106其第一歩として従軍を願つて居るのだ』
107梅公『ヤア、108それなら分りました。109別に文句もありませぬが、110然しながら当家の娘スガコ嬢やサンダーさまはどうなさる考へですか。111此方々も見捨てる訳には参りますまい』
112照国『ア、113それも気にかかるが、114それはインカ親分にお願ひしたらどうだ』
115梅公『それもさうですな。116もしジャンク様、117先生は、118あゝ仰有いますから貴方と一緒に従軍を遊ばすなり、119私共はサンヨの妹娘花香さまも救はねばならず、120当家のスガコさまもサンダーさまも見殺にする訳にも行かないから、121此捜策は拙者にお任せ下さいませぬか』
122ジャンク『御親切は有難う厶いますが、123もはや今日となつては、124娘の事等云つてる場合ぢやありませぬ。125国王様のため国家のために全身の力を尽さねばなりませぬ。126どうか貴方も照国別の宣伝使と行動を一にして下さいませ。127自分の娘のために宣伝使様を頼んだ128と云はれては末代の恥で厶います。129ついてはインカの親分さま、130貴方も国民の一部、131義勇軍の将となり、132私と一緒に出陣下さいませ。133娘の事やサンダーの事は次の次で厶いますから』
134インカ『成程、135天晴見上げたお志、136それでなくては里庄様とは申されますまい。137私だつて弱きを扶け、138強きを挫く侠客渡世、139国王様のお達示を聞いて、140之が安閑として居られませうか。141お言葉に従ひ従軍致しませう』
142タクソン『もし、143ジャンク様、144イヤ御主人様、145私もお伴致しませうか』
146ジャンク『イヤ、147其方は、148もはや承れば三五教の宣伝使のお伴になると云ふ約束をしたさうだ。149トルマン国の男子の一言は金鉄も同様だ。150照国別様のお弟子として参加して下さい』
151エルソン『もし里庄様、152私も照国別のお弟子となりましたが、153国民の一部として里庄様と共に軍に従ひませうか』
154ジャンク『イヤイヤ貴方も、155もはや三五教の宣伝使の部下だ。156タクソンと行動を一にするが宜からう』
157エルソン『ハイ有難う厶います。158然らば尊き宣伝使のお伴を致し、159剣を持たず只コーランを手にして、160天下万民の為に最善の努力を尽さして頂きませう』
161ジャンク『ア、162よしよし、163それで私も安心した。164もし照国別様、165どうか両人の身の上を宜しくお願ひ申します』
166照国『ヤ、167感じ入つたる皆様のお志、168委細承知致しました』
169 門番のバンコや受付のセールに命じ、170村内一同に国王の令を伝へ、171明朝を期して出陣すべく伝達せしめた。172村内は俄に騒然として火事場の如く殺気漲つて来た。173ジャンクは村の男子を軍隊に仕立て、174自ら将として出陣する事となつた。
175インカ『吾村にも必ずや同様の命令下りしならむ。176お先へ御免』
177と云ひ乍ら一同へ挨拶をなし、178尻引まくり大地をドンドン響かせ乍ら、179飛ぶが如くに帰り行く。
180 ここに一同は三五の大神、181バラモンの大神に前途の勝利を得む為とて一大祈願を凝らし、182首途の祝として夜の明くる迄、183直会の宴を催した。184何れも勇気頓に加はり185山河を呑むの勢である。186祭典も終り、187愈直会の宴に移り、188酒汲み交して室内は和気靄々恰も春の如き空気が漂うた。
189 ジャンクは、1891ホロ酔ひ機嫌になつて声も涼しく二絃琴を弾じつつ謡ひ初めた。
190ジャンク『千早振る皇大神の造らしし
192時じく花の香に匂ひ 193果物豊に実りつつ
194五穀は栄え民は肥え 195牛馬駱駝羊豚
197天の下四方の国々安らけく
199神代の儘の人心
200何れの家も押並べて
203歓ぎ楽しむ天津国
204常世の春を喜びしが 205天津御空の日の影は
206漸く光褪せ給ひ 207月の面も薄曇り
210此地の上は騒がしく
213月日は進み星移り
214天の下なる民草の 215心は漸く曇り果て
218霜に悩める虫の如 219怨嗟の声は満ち満ちぬ
220人の心は日に月に 221益々悪く曇り果て
222山の尾の上や河の瀬に
224又もや民家を苦しめつ 225人の妻女を奪ひ取り
226悪き災日に月に
228薄き氷を踏む如く
231醜の曲霊の軍人
232弥益々に醜業の
234国をば荒らし国主まで 235打滅して欲望を
238神の此世に在すならば 239我国民の災を
240一日も早く除きませよ
242トルカの国主は幾千代も
245醜の雲霧吹き払ひ
246再び天土晴明の 247珍の世界に還しませ
248吾は老木の行末の
250一つの生命を国の為め 251君の御為献り
252万民安堵の道のため 253捧げ奉らむ吾が生命
254諾なひ給へ三五の 255神素盞嗚の大御神
256梵天帝釈自在天 257大国彦の大御神
262 照国別は又謡ふ。
263照国別『蒼空一点雲もなく 264日月星辰明かに
265輝き亘る世の中も
267地には地震洪水の 268百の災湧き来る
269浪静かなる大海も 270只一塊の雨雲の
271中より吹き来る荒風に 272波立ち騒ぎ島々を
274此地の上に住む人は
276天変地妖ある毎に
277世は晦冥に進み行く
279一度天地の大神の
283誠一つの三五の
286大日は照るとも曇るとも
288天は地となり地は天に
290只惟神々々
291神に任せし身にしあれば
293仰ぎ敬へ神の徳 294祝へよ祝へ神の恩
295神は吾等と倶にあり 296神は汝等と倶に在す
297人は神の子神の宮
299曲霊の如何で来るべき
301今神軍の首途に
303梅公、照公、タクソンや
305神の御前に慴伏して 306前途の幸を祈るこそ
307実に壮快の至りなり
311梅公『思ひきや軍の庭に立たむとは
312今の今迄さとらざりけり。
313さり乍ら吾は神軍言霊の
314武器より外に持つものはなし』
315照公『大空に日は照公の吾なれば
316あわてる事は一つも要らず。
317照国の別の命に従ひて
318道照公の吾は進まむ』
319タクソン『照国別神の命の御威勢に
320吾は全たくそん敬をぞする。
321おめでたくそん厳無比の大神の
322御前に幸を祈る嬉しさ』
323エルソン『常暗の世を立替へて神の代に
324開かむ人ぞ人の人なる。
325沸きかえるそん内一同の騒ぎをば
327ジャンク『天津日を隠さむとする村雲を
328払はむ為の今日の神軍。
329老いぬれど吾魂は若々と
330甦りつつ出陣やせむ。
331白髪を染めて軍に向ひたる
332武士もあり吾も習はむ。
333国難に殉ずる吾と白髪の
334輝きを見て驚くならむ』
335照国別『面白し神の任さしの神業の
336一歩を進むる時は来にけり。
337オーラ山嵐はいかに強くとも
338神の御息に吹き払ふべし。
339小夜更て武士共が語り合ふ
340軍の庭の心地するかな。
341明けぬれば百の軍人を率連れて
342バルガン城に駒を進めむ』
343梅公『駒並めて大野ケ原を進み行く
344勇士の姿吾目に躍るも』
345照公『早已にバルガン城の敵軍を
346討ち払ひたる心地しにけり』
347タクソン『面白し吾師の君に従ひて
348神の軍の功績立てむ』
349エルソン『恋雲もいつしか晴れて国の為
350世人のために尽さむとぞ思ふ』
351 漸くにしてコケコツコーとテイハ(鷄)の声、352四隣より聞え来る。353ジャンクは先づ立上り、
354『もはや鷄鳴、355皆様、356御用意なされませ。357いよいよ出陣の時近づきました』
358と勇気凛々雄健びし乍ら、359マサカの時の用意と蓄へおきたる具足をとり出し武装に着手した。
360 かかる所へ白髪異様の老翁現はれ来たり361『頼まう頼まう』と玄関口より呶鳴つてゐる。362果して此老翁は何者だらうか。
363(大正一三・一二・一五 旧一一・一九 於祥雲閣 北村隆光録)