霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一五章 ()(ちが)ひ〔一六九七〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻 篇:第3篇 異燭獣虚 よみ(新仮名遣い):いしょくじゅうきょ
章:第15章 喰ひ違ひ よみ(新仮名遣い):くいちがい 通し章番号:1697
口述日:1924(大正13)年12月17日(旧11月21日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年6月29日
概要: 舞台:オーラ山 あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2018-04-19 12:40:02 OBC :rm6615
愛善世界社版:209頁 八幡書店版:第11輯 807頁 修補版: 校定版:213頁 普及版:67頁 初版: ページ備考:
001 玄真坊(げんしんばう)は、002サンダー、003スガコの二人(ふたり)美人(びじん)(うつつ)をぬかし、004いかにもして両手(りやうて)(はな)をかかへた色男(いろをとこ)たらむと、005(なな)(さが)りになつて数多(あまた)信者(しんじや)(かへ)つて()つたのを(さいは)ひ、006(みづか)包丁(はうちやう)()にして両人(りやうにん)(よろこ)びさうな珍味(ちんみ)佳肴(かかう)料理(れうり)にとりかかり、007ホクホクもので捻鉢巻(ねぢはちまき)008(たすき)がけで板場(いたば)(かせ)いでゐる。009そこへ附近(ふきん)村落(そんらく)宣伝(せんでん)()へて頭目(とうもく)のシーゴー(ばう)錫杖(しやくぢやう)をガチヤつかせ(なが)010ドシンドシンと(かへ)つて()た。
011シーゴー『これはこれは玄真坊(げんしんばう)殿(どの)012沢山(たくさん)部下(ぶか)のあるにも(かかは)らず、013()づから炊事(すゐじ)をなさるとは不思議(ふしぎ)千万(せんばん)014(ひと)(おも)からざれば()あらず(けい)せられずとか()つて、015さう軽々(かるがる)しうされちや部下(ぶか)(をさ)むる重鎮(ぢうちん)貫目(くわんめ)(ぜろ)になりますよ。016サアサア(はや)部下(ぶか)にいひつけて料理(れうり)をさせ、017貴僧(きそう)はヨリコ(ひめ)()女帝(によてい)(まへ)伺候(しこう)なされ。018拙者(せつしや)(これ)から女帝(によてい)(おん)(まへ)宣伝(せんでん)模様(もやう)報告(はうこく)(いた)(ござ)らう』
019 玄真坊(げんしんばう)は、
020(わる)(ところ)へシーゴーが(かへ)つて()やがつた』
021(いささ)面喰(めんくら)つたが、022流石(さすが)曲者(くせもの)023さあらぬ(てい)にて、
024玄真(げんしん)『アハヽヽヽ、025これはこれはシーゴー殿(どの)026(なが)らくの(あひだ)宣伝(せんでん)027()苦労(くらう)(ござ)つた。028貴殿(きでん)昼夜(ちうや)不断(ふだん)()尽力(じんりよく)によつて愚夫(ぐふ)愚婦(ぐふ)()()ること層一層(そういつそう)(おほ)く、029人山(ひとやま)日々(にちにち)(きづ)拙僧(せつそう)随分(ずゐぶん)疲労(ひらう)(いた)して(ござ)れば、030今日(こんにち)(みづか)料理(れうり)をなし、031(こころ)よく一杯(いつぱい)やつて浩然(こうぜん)()(やしな)はむと(おも)つた(ところ)(ござ)る。032サア(はや)女帝(によてい)のお(そば)()つてお(やす)(くだ)さい。033拙者(せつしや)はキツトあとからお(うかが)(いた)すで(ござ)らう』
034シーゴー『拙者(せつしや)随分(ずいぶん)疲労(ひらう)(いた)しました。035貴僧(きそう)のお()料理(れうり)賞翫(しやうがん)するのも、0351(また)結構(けつこう)(ござ)らう。036どうか精々(せいぜい)()馳走(ちそう)(ねが)()いものですわい。037(とき)玄真(げんしん)殿(どの)038コマの(むら)里庄(りしやう)(むすめ)サンダーと()(はな)(うそ)つく美人(びじん)当山(たうざん)()てゐる(はず)ですが御存(ごぞん)じでせうな。039拙者(せつしや)(おも)(ところ)あり山住(やまずま)ひの無聯(むれう)(なぐさ)めむとて、040懸河(けんが)(べん)(ふる)ひ、041当山(たうざん)(まで)おびきつけた(はず)(ござ)る。042御存(ごぞん)じならば一目(ひとめ)043(かれ)()はして(もら)()い、044アハヽヽヽ』
045 玄真坊(げんしんばう)(この)言葉(ことば)にヒヤリと(あたま)から冷水(ひやみづ)()びせかけられたやうな()がしたが、046もはや(かく)(わけ)にも()かず、047(おも)()つて、
048玄真(げんしん)成程(なるほど)049チツト(ばか)渋皮(しぶかは)のむけた美人(びじん)先日(せんじつ)(まゐ)りました』
050シーゴー『その美人(びじん)(いま)何処(どこ)にゐますか。051是非(ぜひ)一目(ひとめ)()()いものです。052かう身体(しんたい)(なは)(ごと)(つか)()てては053(さけ)一杯(いつぱい)二杯(にはい)()んだ(ところ)到底(たうてい)元気(げんき)恢復(くわいふく)(いた)さぬ。054絶世(ぜつせい)美人(びじん)(はな)(かんばせ)(なが)め、055丹花(たんくわ)(くちびる)より(しづ)かに()づる(こと)()(みみ)聴聞(ちやうぶん)するが唯一(ゆゐいつ)(ちから)(ござ)る。056美人(びじん)()みは所謂(いはゆる)生命(いのち)源泉(げんせん)となるものだから、057(じつ)拙者(せつしや)(いのち)洗濯用(せんたくよう)にもと(ぞん)じ、058布婁那(ふるな)(べん)(もつ)当山(たうざん)(さし)()()いた次第(しだい)059如才(じよさい)のない貴僧(きそう)(こと)であるから、060キツト大切(だいじ)にして()いて(くだ)さつたでせう。061貴下(あなた)のお()料理(れうり)所謂(いはゆる)062()美人(びじん)(たち)(すす)むる(ため)(ござ)らう。063イヤハヤ感謝(かんしや)(いた)しますよ。064貴殿(きでん)(みづか)料理(れうり)なんか()さるやうな(かた)ではないが、065恋愛(れんあい)()曲物(くせもの)(とり)(ひし)がれては、066からつきし駄目(だめ)ですな。067(こひ)(やつこ)となり、068(あま)んじて下郎(げらう)(やく)(あそ)ばすと()える。069()(なか)(なに)(つよ)いと()つても(こひ)()(やつ)ほど、070無限力(むげんりよく)をもつてゐる(やつ)はない。071(おに)(あざむ)髯武者(ひげむしや)男子(だんし)072しかも(この)白髪首(しらがくび)(つぼみ)(はな)(ほころ)びむとする優姿(やさすがた)(なが)め、073馥郁(ふくいく)たる香気(かうき)()いだ(とき)は、074もとの(むかし)(かへ)つたやうで(ござ)る、075アハヽヽヽ』
076 玄真坊(げんしんばう)二人(ふたり)美人(びじん)(なが)らく食料(しよくれう)()めにして(くるし)めおき、077今日(けふ)ヤツト両人(りやうにん)(かん)ばしい言葉(ことば)()したので(こひ)願望(ぐわんまう)成就(じやうじゆ)と、078なるべく(あぢ)のよい加減(かげん)のよい食物(しよくもつ)(あた)へ、079層一層(そういつそう)二人(ふたり)歓心(くんわしん)()むものと(こころ)(くだ)(ちから)(つく)し、080(あせ)(しぼ)つて(やうや)馳走(ちそう)(こしら)へた(ところ)へ、081シーゴーが(かへ)つて()て、082いろいろと(みみ)(いた)(こと)()かされ、083夜食(やしよく)(はづ)れた梟鳥(ふくろどり)か、084小田(をだ)(かはず)(へび)()はれて()きそこねたやうな(つら)をして、085ブツブツと(くち)(おく)にて小言(こごと)()(なが)ら、086匆々(さうさう)膳部(ぜんぶ)(こしら)へ、087シーゴーをして(はや)(この)()(たち)()らしめむと、088いろいろと(なぞ)をかけるけれども、089意地(いぢ)(わる)いシーゴーは(この)()()(ふさが)つて女帝(によてい)(そば)(うかが)ひに()かうとはせぬ。
090シーゴー『ハヽヽヽ、091(この)膳部(ぜんぶ)三人前(さんにんまへ)(ござ)るな、092成程(なるほど)093女帝(によてい)(さま)拙者(せつしや)貴殿(きでん)とで(ござ)るか、094ヤ、095貴僧(きそう)ばかりに(ほね)()らせても()まない。096拙者(せつしや)膳部(ぜんぶ)(はこ)びませう』
097玄真(げんしん)『イヤ、098(かま)(くだ)さるな。099徹頭(てつとう)徹尾(てつび)100拙者(せつしや)取扱(とりあつかひ)(いた)しませう。101サア(はや)貴僧(きそう)女帝(によてい)(さま)()機嫌(きげん)(うかが)つて()(くだ)さい。102女帝(によてい)(さま)先日(せんじつ)より貴僧(きそう)のお(かへ)りをお()()ねですからな』
103シーゴー『(しか)らば(これ)より女帝(によてい)(さま)()挨拶(あいさつ)(まゐ)りませう。104(さいは)拙者(せつしや)空腹(くうふく)なり、105時分(じぶん)もよし、106女帝(によてい)(さま)もお(なか)()いてゐるでせう。107貴僧(きそう)丹精(たんせい)をこらして()づから(こしら)へになつた百味(ひやくみ)飲食(おんじき)(さん)(にん)(いただ)くのも愉快(ゆくわい)(ござ)らう。108いや(たの)しい(こと)(ござ)る』
109 玄真坊(げんしんばう)二人(ふたり)美人(びじん)(よろこ)ばせ、110自分(じぶん)一緒(いつしよ)舌鼓(したつづみ)()つて二人(ふたり)(うれ)しい(かほ)()(なが)一杯(いつぱい)やらうと(おも)つて()たのに、111九分(くぶ)九厘(くりん)(ところ)にシーゴーに(かへ)つて()られ、
112『どうせ()馳走(ちそう)はあて(はづ)れの(ところ)()つて(はこ)ばねばならぬやうになつて()た。113(くは)ふるに、114苦心(くしん)惨憺(さんたん)して(わが)()八九分(はちくぶ)(なび)かせたサンダーは、115どうやら、116シーゴーが懸想(けさう)してゐるらしい。117(いま)のシーゴーの言葉(ことば)から(かんが)へて()れば、118(かれ)自分(じぶん)(つま)にしようと(おも)つて、119ここへ(まゐ)らせたのに(ちが)ひない。120イヤ(たしか)目的(もくてき)があつて弁舌(べんぜつ)にまかせ、121(かれ)サンダーを、122此処(ここ)へよこしたのだ。123ハテ()()める(こと)だわい。124三人前(さんにんまへ)馳走(ちそう)をシーゴーに()つけられた以上(いじやう)は、125どうしても女帝(によてい)(さま)(たてまつ)らねばなるまい。126自分(じぶん)(ぶん)()けを(のこ)して二人前(ににんまへ)127(おく)るとした(ところ)二人(ふたり)(をんな)一人前(いちにんまへ)膳部(ぜんぶ)とは可笑(をか)しい、128(また)女帝(によてい)(さま)命令(めいれい)で……(さん)(にん)(そろ)うて一杯(いつぱい)やらう……(など)()はれちや一人前(いちにんまへ)膳部(ぜんぶ)(たす)からない。129アさうすりや二人(ふたり)美人(びじん)(この)玄真坊(げんしんばう)益々(ますます)信用(しんよう)(おと)道理(だうり)だ。130……(ひと)(だま)した残酷(ざんこく)(やつ)だ……と、131層一層(そういつそう)(うら)まれるやうになつちや(こひ)目的(もくてき)達成(たつせい)しない。132チヨツ、133(えら)いジレンマにかかつたものだわい。134アーアー、135此方(こちら)()てれば、136彼方(あちら)()たぬ、137彼方(あちら)()てれば此方(こちら)()たぬ。138両方(りやうはう)()つれば()()たぬ……とは自分(じぶん)(こと)だ。139アーア』
140吐息(といき)をついてゐる。141そこへ(あわ)ただしく、142パンクが女帝(によてい)使(つかひ)として、143やつて()た。
144パンク『もしもし玄真坊(げんしんばう)(さま)145女帝(によてい)(さま)のお使(つかひ)(まゐ)りましたが、146(いま)シーゴー(さま)(ひさ)(ぶり)宣伝(せんでん)()へお(かへ)りになりましたので、147女帝(によてい)(さま)非常(ひじやう)にお(よろこ)(あそ)ばし、148貴方(あなた)にも()(もら)つて女帝(によてい)(さま)149左守(さもり)150右守(うもり)のお三方(さんかた)祝酒(いはひざけ)()み、151()馳走(ちそう)をお(あが)(あそ)ばすので、152(わたし)女帝(によてい)(さま)が「料理(れうり)をせよ」と(おほ)せられました(ところ)153シーゴーさまの仰有(おつしや)るのには、154「イヤ女帝(によてい)(さま)155()心配(しんぱい)(くだ)さいますな。156(いま)玄真坊(げんしんばう)(さま)天眼通(てんがんつう)(もつ)て、157拙者(せつしや)(かへ)るのを前知(ぜんち)158三人分(さんにんぶん)馳走(ちそう)(こしら)へて()られますから、159それさへここへ(はこ)んで()れば、160いい」との(こと)161流石(さすが)女帝(によてい)(さま)も「玄真坊(げんしんばう)(さま)(なん)と、162(えら)(やつ)だな」と、163(した)をまいて感心(かんしん)(あそ)ばしましたよ。164サア、165何卒(どうぞ)()ちかねですから、166女帝(によてい)(さま)のお居間(ゐま)へお()(くだ)さい。167膳部(ぜんぶ)(わたし)(はこ)ばして(いただ)きます』
168 玄真坊(げんしんばう)是非(ぜひ)なく溝狸(どぶだぬき)(あたま)から煮茶(にえちや)(かぶ)せられたやうな不足(ふそく)(かほ)して、169二人(ふたり)(をんな)(こころ)(のこ)しつつ天王(てんわう)(やしろ)床下(ゆかした)(きづ)かれた地下室(ちかしつ)170女帝(によてい)居間(ゐま)へと(すす)()く。
171 女帝(によてい)一段(いちだん)(たか)(とこ)(うへ)()()め、172シーゴー、173玄真坊(げんしんばう)(すこ)(さが)つて鼎座(かなへざ)となり、174(さけ)()()はし(なが)手柄話(てがらばなし)(はな)()かした。175パンクは(さけ)()ぎ、176(めし)つぎの(やく)忠実(ちうじつ)(つと)めてゐる。177(なに)()つても山賊(さんぞく)親分(おやぶん)だから、178(あま)小難(こむつかし)行儀(ぎやうぎ)もない。179(さけ)()(なが)ら、180()(なが)ら、181諄々(じゆんじゆん)(はなし)(つづ)けて()ふ。
182ヨリコ『シーゴー殿(どの)183(なが)らくの宣伝(せんでん)184()苦労(くらう)であつた。185その効果(かうくわ)(むな)しからず、186(かみ)(さま)大変(たいへん)()繁昌(はんぜう)だよ。187随分(ずいぶん)(ほね)()つたでせうな。188その影響(えいきやう)として玄真殿(げんしんどの)も、189大変(たいへん)多忙(たばう)(きは)めてゐたやうだ、190其方(そなた)(かへ)つたら、191一度(いちど)慰労会(ゐらうくわい)(もよほ)()いと(おも)つて()(ところ)だ。192サア()(なが)()(なが)ら、193其方(そなた)活動(くわつどう)(ぶり)()かして(もら)はう』
194シーゴー『ハイ、195()顕著(けんちよ)なる(わたし)(はたら)きと()へばタライの(むら)美人(びじん)スガコを(はじ)め、196コマの(むら)美人(びじん)サンダー(ひめ)を、197うまく此方(こなた)引寄(ひきよ)せおき、198(なほ)宣伝(せんでん)をつづくる(うち)199ハルナの(みやこ)より地教山(ちけうざん)(むか)ふバラモン(ぐん)勇将(ゆうしやう)大足別(おほだるわけ)部下(ぶか)附近(ふきん)村落(そんらく)宿営(しゆくえい)をなし、200金銭(きんせん)物品(ぶつぴん)掠奪(りやくだつ)し、201婦女(ふぢよ)(かん)(はなはだ)しきは美人(びじん)()()(いへ)()(など)202乱暴(らんばう)狼籍(らうぜき)(いた)らざるなく、203(われ)()縄張(なはばり)(あら)すこと(はなはだ)しく、204人心(じんしん)恟々(きようきよう)として、205(てん)(すく)ひを(もと)むる好時節(かうじせつ)206(この)()(いつ)してなるものかと、207獅子(しし)奮迅(ふんじん)(いきほひ)にて昼夜(ちうや)(わか)たず宣伝(せんでん)(いた)しました。208(うち)にも(もつと)愉快(ゆくわい)なるはタライの(むら)里庄(りしやう)ジャンクは義勇軍(ぎゆうぐん)(おこ)し、209バルガン(じやう)(むか)(こと)となり、210最愛(さいあい)(むすめ)行衛(ゆくゑ)()れず、211自分(じぶん)(いま)戦場(せんぢやう)(むか)(うへ)はもとより(いき)(かへ)(こと)(おも)ひも()らず、212可惜(あたら)巨万(きよまん)財産(ざいさん)相続(さうぞく)するものがないと()破目(はめ)213(これ)(てん)(あた)へ、214(ひろ)はずんばあるべからずと、215修験者(しゆげんじや)仮装(かさう)(さいは)ひ、216(かれ)出陣(しゆつぢん)間際(まぎは)(かれ)(おとな)ひ、217(ほとん)応接(おうせつ)(いとま)なき多忙(たばう)をつけ()み、218「オーラ(ざん)(くだ)(たま)天来(てんらい)救世主(きうせいしゆ)219玄真坊(げんしんばう)全部(ぜんぶ)財産(ざいさん)(たてまつ)れよ」と(かけ)()つた(ところ)220ジャンクの(まを)すには「一人(ひとり)(むすめ)生死(せいし)(わか)らぬ今日(こんにち)場合(ばあひ)221(われ)(また)戦場(せんぢやう)(むか)はば(かばね)山野(さんや)(さら)覚悟(かくご)222財産(ざいさん)必要(ひつえう)はない、223(かみ)(さま)(たてまつ)るから天下(てんか)万民(ばんみん)のため、224善用(ぜんよう)せよ」との(たの)み、225イヤハヤ大成功(だいせいこう)(ござ)る、226アハヽヽヽ』
227ヨリコ『(いま)(はじ)めぬ其方(そなた)(はたら)き、228天晴(あつぱれ)々々(あつぱれ)229マサカの(とき)軍資(ぐんし)()つる(こと)出来(でき)るであらう。230流石(さすが)はシーゴー殿(どの)231ヤツパリ(しし)()(いぬ)(しし)()(いぬ)だ。232それでこそ三千(さんぜん)(にん)頭目(とうもく)として(はづ)かしからぬ頭目(とうもく)だ』
233(しき)りに()めそやかす。234シーゴーは満面(まんめん)得意(とくい)大口(おほぐち)()けて(わら)(なが)(かた)()すつて玄真坊(げんしんばう)(むか)ひ、
235シーゴー『玄真殿(げんしんどの)236拙者(せつしや)腕前(うでまへ)はザツトこんなもので(ござ)る。237貴殿(きでん)一寸(ちよつと)238おあやかりなさい。239女帝(によてい)(さま)のお()めの言葉(ことば)(いただ)いて、240もはや天下(てんか)(にぎ)つたやうな気分(きぶん)(いた)すで(ござ)る、241アハヽヽヽ』
242(ゑひ)(まぎ)らし威丈高(ゐだけだか)(わら)ふ。243玄真坊(げんしんばう)折角(せつかく)二人(ふたり)のナイスを(よろこ)ばせようと(おも)244丹精(たんせい)()らして料理(れうり)した膳部(ぜんぶ)()()げられ、245田舎(いなか)(ぢい)(さん)()もある豆腐屋(とうふや)()つて、246油揚(あげ)()つて(かへ)りに(とび)(さら)はれたやうな()のぬけた(つら)をさらし、247(はん)()きの(てい)にて、
248玄真(げんしん)拙僧(せつそう)だとて、249仲々(なかなか)苦労(くらう)(ござ)る。250相手(あひて)(かは)れど(ぬし)(かは)らず、251(あさ)から(ばん)まで雲霞(うんか)(ごと)(あつ)まり(きた)老若(らうにやく)男女(なんによ)(たい)して一々(いちいち)(なん)とか、252かんとか、253ごまかさねばならず、254(なか)には(ほね)のある(やつ)があつて「そんな(はず)がない」とか「()()はぬ」とか、255(むつ)かしい哲学(てつがく)(たて)()つて理窟(りくつ)をこねる(こと)もあり、256()幾度(いくたび)257ヒヤヒヤ、258アブアブ、259する(こと)があるか()れないのですよ。260その(たび)(ごと)冷汗(ひやあせ)()る、261心臓(しんざう)(をど)る、262(はら)はデングり(がへ)る。263何程(なにほど)小便(せうべん)()りきつて()つても、264活神(いきがみ)(さま)中途(ちうと)便所(べんじよ)()(わけ)にも()かず、265大便(だいべん)尚更(なほさら)のこと、266真青(まつさを)(かほ)して、267高座(かうざ)(のぼ)つてゐる(とき)(くる)しさ。268シーゴー殿(どの)のやうに自由(じいう)自在(じざい)(ひろ)原野(げんや)横行(わうかう)濶歩(くわつぽ)するのと(ちが)い、269その(くる)しさは幾層倍(いくそうばい)かも()れませぬぞ。270拙者(せつしや)活動(くわつどう)地味(ぢみ)ではあるが、271(もつと)(くる)しく(かつ)功績(こうせき)(おほ)い。272シーゴー殿(どの)活動(くわつどう)()はば外的(ぐわいてき)花々(はなばな)しくて、273愉快(ゆくわい)で、274(くは)ふるに功労(こうらう)一々(いちいち)()()えるのだから、275拙者(せつしや)よりも余程(よほど)勲功(くんこう)(たか)いやうに、2751一寸(ちよつと)()えるが、276どうしてどうして277拙僧(せつそう)苦心(くしん)(くら)ぶれば九牛(きうぎう)一毛(いちもう)にも()かないだらう』
278シーゴー『ヘン、279(なに)(ほど)(くる)しいと()つても、280(なな)(さが)れば上跨(あげまた)()つて(うつく)しい(をんな)口説(くど)(なが)ら、281(やす)んでゐられるのだから(らく)なものだ。282拙者(せつしや)(ごと)きは昼夜(ちうや)区別(くべつ)なく、283荒風(あらかぜ)()()くられ、284時々(ときどき)ポリスの追跡(つゐせき)をうけ、285バラモン(ぐん)()ひまくられ、286(いぬ)には(ほえ)つかれ、287猛獣(まうじう)にも(おびや)かされ、288おまけに(つゆ)弾丸(たま)289(しも)(つるぎ)()()びて、290荒涼(くわうりやう)たる原野(げんや)(なか)縦横(じうわう)無尽(むじん)馳駆(ちく)する(くる)しさ。291到底(たうてい)岩窟(いはや)(なか)蟄居(ちつきよ)する守宮(やもり)さまの、292想像(さうざう)()(ところ)ではない。293エー、294(とき)拙者(せつしや)弁舌(べんぜつ)(ふる)ひ、295千変(せんぺん)万化(ばんくわ)秘術(ひじゆつ)(つく)して当山(たうざん)(さし)()けたるスガコ、296サンダーの二人(ふたり)美人(びじん)如何(いかが)なされたか。297(をとこ)(ばか)りの酒宴(しゆえん)ではネツカラ(きよう)(ござ)らぬ。298玄真坊(げんしんばう)殿(どの)299どうか両人(りやうにん)をこれへ引出(ひきだ)し、300(さけ)相手(あひて)(うた)でも(うた)はせては如何(いかが)(ござ)るな』
301玄真(げんしん)如何(いか)にも、302(もつと)(なが)ら、303(かれ)(いま)断食(だんじき)修業中(しうげふちう)(ござ)れば、304仮令(たとへ)()()した(ところ)で、305()には()ひますまい。306顔色(がんしよく)憔悴(せうすゐ)して(つち)(ごと)く、307(ほとん)(この)()(ひと)ではあるまい(ごと)(やつ)れた姿(すがた)308(むし)()ないが(はな)(ござ)らう』
309シーゴー『(しか)らば修業(しうげふ)()んだ(うへ)310拙者(せつしや)も、311ユルユル女神(めがみ)(さま)にお()にかからう。312もし女帝(によてい)(さま)313(わたし)()褒美(ほうび)にサンダーと()(をんな)(いただ)()いもので(ござ)います』
314ヨリコ『サンダーと()ひ、315スガコと()ひ、316(いづ)れも其方(そなた)苦心(くしん)惨澹(さんたん)結果(けつくわ)317引寄(ひきよ)せたものだから、318其方(そなた)自由(じいう)にしたが()からう。319(わたし)(をんな)(こと)でもあり美人(びじん)必要(ひつえう)はないから、320其方(そなた)勇気(ゆうき)をつなぐ(ため)321自由(じいう)にしたが()からうぞや。322玄真坊(げんしんばう)天帝(てんてい)化身(けしん)だから、323ここ(しばら)くは(をんな)なんかに(こころ)()せず、324飽迄(あくまで)聖者(せいじや)()りすまし、325目的(もくてき)成就(じやうじゆ)(まで)辛抱(しんばう)して(もら)()いものだ。326のう玄真坊(げんしんばう)327其方(そち)もそれ(くらゐ)(かんが)へはあるだらう』
328 玄真坊(げんしんばう)(あたま)をかき(なが)ら、
329玄真(げんしん)『ハイ、330エー、331(なん)(ござ)います。332エー、333拙僧(せつそう)もあく(まで)聖者(せいじや)気取(きど)り、334なるべく生神(いきがみ)としての信用(しんよう)(たも)()く、335昼夜(ちうや)(こころ)()んでゐますが、336(なん)()つても二人(ふたり)美人(びじん)337拙僧(せつそう)恋慕(れんぼ)(いた)し、338()けても()れても玄真(げんしん)々々(げんしん)()つて、339夢現(ゆめうつつ)となり(こひ)にやつれて(いま)()(かげ)もなき有様(ありさま)340(この)両人(りやうにん)(この)(まま)にしておけば、341もはや(いのち)(ほろ)ぶるより(みち)はありませぬ。342(この)両人(りやうにん)こそは(おと)(きこ)えし富豪(ふがう)(むすめ)343どこ(まで)生命(いのち)(たも)たせ人質(ひとじち)となし、344(かれ)(おや)財産(ざいさん)()()げて、345軍資金(ぐんしきん)充実(じゆうじつ)(はか)らねばならぬからと(ぞん)じ、346()ゆるが(ごと)二人(ふたり)恋慕(れんぼ)(うる)さい(なが)ら、347(やなぎ)(かぜ)()(なが)し、348タワタワと()(あぜ)(わた)るやうにして、349今日(けふ)()(まで)350(かれ)()(こころ)(なぐさ)将来(しやうらい)(のぞ)みを(いだ)かせておきましたが、351拙者(せつしや)(かほ)()せない(とき)(かれ)(こが)(じに)(いた)します。352それで拙者(せつしや)(かれ)犠牲(ぎせい)となつて日夜(にちや)真理(しんり)()きさとし、353不離(ふり)不即(ふそく)態度(たいど)()し、354(かれ)元気(げんき)恢復(くわいふく)する(まで)355時々(ときどき)(なぐさ)めてやる(かんが)へで(ござ)いますれば、356(これ)から拙者(せつしや)(かれ)岩窟(いはや)(おとな)うとも(けつ)して(あや)しまないやうにお(ねが)(いた)します。357(かれ)()二人(ふたり)元気(げんき)恢復(くわいふく)して(もと)身体(からだ)となる(まで)358仮令(たとへ)シーゴー殿(どの)()へども(かれ)(へや)出入(しゆつにふ)せぬやう、359女帝(によてい)(さま)より(きび)しく(おん)(まをし)()(くだ)さいますやうに……』
360(むし)のよい予防線(よばうせん)()つて()ふ。
361 シーゴーは(かた)()すつて高笑(たかわら)ひ、
362シーゴー『アハヽヽヽ、363玄真殿(げんしんどの)予防線(よばうせん)364(いな)鉄条網(てつでうまう)365イヤハヤ、366シーゴー、367感奮(かんぷん)(つかまつ)つた。368それ()けの(うで)がなくては美人(びじん)(たい)し、369云々(うんぬん)する資格(しかく)(ござ)るまい。370玄真坊(げんしんばう)(とし)(わか)男前(をとこまへ)もいい。371拙者(せつしや)御覧(ごらん)(ごと)(かしら)霜雪(さうせつ)(いただ)き、372到底(たうてい)(わか)(をんな)(この)面付(つらつき)では(ござ)らぬ。373(この)(てん)(おい)ては玄真坊(げんしんばう)殿(どの)(たい)一歩(いつぽ)(ゆづ)らねばなりませぬ。374(しか)(なが)ら、375玄真殿(げんしんどの)376(この)()馳走(ちそう)女帝(によてい)(さま)吾々(われわれ)(くち)這入(はい)るべき(もの)ではなかつたのでせう。377断食(だんじき)をしてゐると()ふ、3771修業者(しうげふしや)(むか)つての献立(こんだて)378大方(おほかた)影膳(かげぜん)にお(つく)りなさつたのであらう。379拙者(せつしや)はお(かげ)(いただ)いて()馳走(ちそう)鱈腹(たらふく)(いただ)いたが380(さぞ)3801二人(ふたり)断食者(だんじきしや)()ちかねてゐる(こと)でせう。381サア玄真殿(げんしんどの)382()苦労(くらう)(なが)ら、383炊事場(すゐじば)()つて二人前(ににんまへ)384(いな)三人前(さんにんまへ)料理(れうり)調進(てうしん)()され。385てもさても、386器用(きよう)なお(かた)(ござ)る。387アハヽヽヽ』
388とあてこすられ、389玄真坊(げんしんばう)今戸焼(いまどやき)出来(でき)そこのうた布袋(ほてい)のやうな(つら)をして、390しやちこばつてゐる。
391ヨリコ『面白(おもしろ)玄真坊(げんしんばう)(おも)ざしは
392()きそこねたる羅漢面(らかんづら)かな』
393玄真坊(げんしんばう)(これ)はしたり羅漢面(らかんづら)とは(いぶ)かしや
394女帝(によてい)言葉(ことば)(おぼ)えざりけり』
395シーゴー『(いは)()()()()きし艶人(あでびと)
396(こころ)()みてや(なれ)のをののき』
397玄真坊(げんしんばう)(なん)なりと(そし)れば(そし)(われ)(ただ)
398(かみ)のまにまに(すす)むのみなる』
399ヨリコ『何事(なにごと)(みづ)(なが)せよ(さかづき)
400(なか)にも()める(もち)月影(つきかげ)
401大正一三・一二・一七 旧一一・二一 於祥雲閣 北村隆光録)
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10/22【霊界物語ネット】王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)』をテキスト化しました。
5/8【霊界物語ネット】霊界物語ネットに出口王仁三郎の第六歌集『霧の海』を掲載しました。
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