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第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
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第66巻(巳の巻)
序文
総説
第1篇 月の高原
01 暁の空
〔1683〕
02 祖先の恵
〔1684〕
03 酒浮気
〔1685〕
04 里庄の悩
〔1686〕
05 愁雲退散
〔1687〕
06 神軍義兵
〔1688〕
第2篇 容怪変化
07 女白浪
〔1689〕
08 神乎魔乎
〔1690〕
09 谷底の宴
〔1691〕
10 八百長劇
〔1692〕
11 亞魔の河
〔1693〕
第3篇 異燭獣虚
12 恋の暗路
〔1694〕
13 恋の懸嘴
〔1695〕
14 相生松風
〔1696〕
15 喰ひ違ひ
〔1697〕
第4篇 恋連愛曖
16 恋の夢路
〔1698〕
17 縁馬の別
〔1699〕
18 魔神の囁
〔1700〕
19 女の度胸
〔1701〕
20 真鬼姉妹
〔1702〕
余白歌
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第一五章
喰
(
く
)
ひ
違
(
ちが
)
ひ〔一六九七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻
篇:
第3篇 異燭獣虚
よみ(新仮名遣い):
いしょくじゅうきょ
章:
第15章 喰ひ違ひ
よみ(新仮名遣い):
くいちがい
通し章番号:
1697
口述日:
1924(大正13)年12月17日(旧11月21日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年6月29日
概要:
舞台:
オーラ山
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2018-04-19 12:40:02
OBC :
rm6615
愛善世界社版:
209頁
八幡書店版:
第11輯 807頁
修補版:
校定版:
213頁
普及版:
67頁
初版:
ページ備考:
001
玄真坊
(
げんしんばう
)
は、
002
サンダー、
003
スガコの
二人
(
ふたり
)
の
美人
(
びじん
)
に
現
(
うつつ
)
をぬかし、
004
いかにもして
両手
(
りやうて
)
に
花
(
はな
)
をかかへた
色男
(
いろをとこ
)
たらむと、
005
七
(
なな
)
つ
下
(
さが
)
りになつて
数多
(
あまた
)
の
信者
(
しんじや
)
の
帰
(
かへ
)
つて
行
(
い
)
つたのを
幸
(
さいは
)
ひ、
006
自
(
みづか
)
ら
包丁
(
はうちやう
)
を
手
(
て
)
にして
両人
(
りやうにん
)
の
喜
(
よろこ
)
びさうな
珍味
(
ちんみ
)
佳肴
(
かかう
)
の
料理
(
れうり
)
にとりかかり、
007
ホクホクもので
捻鉢巻
(
ねぢはちまき
)
、
008
襷
(
たすき
)
がけで
板場
(
いたば
)
を
稼
(
かせ
)
いでゐる。
009
そこへ
附近
(
ふきん
)
村落
(
そんらく
)
の
宣伝
(
せんでん
)
を
了
(
を
)
へて
頭目
(
とうもく
)
のシーゴー
坊
(
ばう
)
が
錫杖
(
しやくぢやう
)
をガチヤつかせ
乍
(
なが
)
ら
010
ドシンドシンと
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
た。
011
シーゴー『これはこれは
玄真坊
(
げんしんばう
)
殿
(
どの
)
、
012
沢山
(
たくさん
)
の
部下
(
ぶか
)
のあるにも
拘
(
かかは
)
らず、
013
お
手
(
て
)
づから
炊事
(
すゐじ
)
をなさるとは
不思議
(
ふしぎ
)
千万
(
せんばん
)
、
014
人
(
ひと
)
は
重
(
おも
)
からざれば
威
(
ゐ
)
あらず
敬
(
けい
)
せられずとか
云
(
い
)
つて、
015
さう
軽々
(
かるがる
)
しうされちや
部下
(
ぶか
)
を
治
(
をさ
)
むる
重鎮
(
ぢうちん
)
の
貫目
(
くわんめ
)
が
零
(
ぜろ
)
になりますよ。
016
サアサア
早
(
はや
)
く
部下
(
ぶか
)
にいひつけて
料理
(
れうり
)
をさせ、
017
貴僧
(
きそう
)
はヨリコ
姫
(
ひめ
)
御
(
ご
)
女帝
(
によてい
)
の
前
(
まへ
)
に
伺候
(
しこう
)
なされ。
018
拙者
(
せつしや
)
も
之
(
これ
)
から
女帝
(
によてい
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
宣伝
(
せんでん
)
の
模様
(
もやう
)
を
報告
(
はうこく
)
致
(
いた
)
す
厶
(
ござ
)
らう』
019
玄真坊
(
げんしんばう
)
は、
020
『
悪
(
わる
)
い
所
(
ところ
)
へシーゴーが
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
やがつた』
021
と
聊
(
いささ
)
か
面喰
(
めんくら
)
つたが、
022
流石
(
さすが
)
の
曲者
(
くせもの
)
、
023
さあらぬ
態
(
てい
)
にて、
024
玄真
(
げんしん
)
『アハヽヽヽ、
025
これはこれはシーゴー
殿
(
どの
)
、
026
永
(
なが
)
らくの
間
(
あひだ
)
の
宣伝
(
せんでん
)
、
027
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
で
厶
(
ござ
)
つた。
028
貴殿
(
きでん
)
の
昼夜
(
ちうや
)
不断
(
ふだん
)
の
御
(
ご
)
尽力
(
じんりよく
)
によつて
愚夫
(
ぐふ
)
愚婦
(
ぐふ
)
の
寄
(
よ
)
り
来
(
く
)
ること
層一層
(
そういつそう
)
多
(
おほ
)
く、
029
人山
(
ひとやま
)
を
日々
(
にちにち
)
築
(
きづ
)
き
拙僧
(
せつそう
)
も
随分
(
ずゐぶん
)
疲労
(
ひらう
)
致
(
いた
)
して
厶
(
ござ
)
れば、
030
今日
(
こんにち
)
は
自
(
みづか
)
ら
料理
(
れうり
)
をなし、
031
快
(
こころ
)
よく
一杯
(
いつぱい
)
やつて
浩然
(
こうぜん
)
の
気
(
き
)
を
養
(
やしな
)
はむと
思
(
おも
)
つた
処
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
る。
032
サア
早
(
はや
)
く
女帝
(
によてい
)
のお
側
(
そば
)
へ
行
(
い
)
つてお
休
(
やす
)
み
下
(
くだ
)
さい。
033
拙者
(
せつしや
)
はキツトあとからお
伺
(
うかが
)
ひ
致
(
いた
)
すで
厶
(
ござ
)
らう』
034
シーゴー『
拙者
(
せつしや
)
も
随分
(
ずいぶん
)
疲労
(
ひらう
)
致
(
いた
)
しました。
035
貴僧
(
きそう
)
のお
手
(
て
)
料理
(
れうり
)
を
賞翫
(
しやうがん
)
するのも、
0351
亦
(
また
)
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
らう。
036
どうか
精々
(
せいぜい
)
と
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
を
願
(
ねが
)
ひ
度
(
た
)
いものですわい。
037
時
(
とき
)
に
玄真
(
げんしん
)
殿
(
どの
)
、
038
コマの
村
(
むら
)
の
里庄
(
りしやう
)
が
娘
(
むすめ
)
サンダーと
云
(
い
)
ふ
花
(
はな
)
に
嘘
(
うそ
)
つく
美人
(
びじん
)
が
当山
(
たうざん
)
へ
来
(
き
)
てゐる
筈
(
はず
)
ですが
御存
(
ごぞん
)
じでせうな。
039
拙者
(
せつしや
)
思
(
おも
)
ふ
所
(
ところ
)
あり
山住
(
やまずま
)
ひの
無聯
(
むれう
)
を
慰
(
なぐさ
)
めむとて、
040
懸河
(
けんが
)
の
弁
(
べん
)
を
揮
(
ふる
)
ひ、
041
当山
(
たうざん
)
迄
(
まで
)
おびきつけた
筈
(
はず
)
で
厶
(
ござ
)
る。
042
御存
(
ごぞん
)
じならば
一目
(
ひとめ
)
、
043
彼
(
かれ
)
に
会
(
あ
)
はして
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
い、
044
アハヽヽヽ』
045
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
にヒヤリと
頭
(
あたま
)
から
冷水
(
ひやみづ
)
を
浴
(
あ
)
びせかけられたやうな
気
(
き
)
がしたが、
046
もはや
隠
(
かく
)
す
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
047
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
つて、
048
玄真
(
げんしん
)
『
成程
(
なるほど
)
、
049
チツト
許
(
ばか
)
り
渋皮
(
しぶかは
)
のむけた
美人
(
びじん
)
が
先日
(
せんじつ
)
参
(
まゐ
)
りました』
050
シーゴー『その
美人
(
びじん
)
は
今
(
いま
)
何処
(
どこ
)
にゐますか。
051
是非
(
ぜひ
)
一目
(
ひとめ
)
会
(
あ
)
ひ
度
(
た
)
いものです。
052
かう
身体
(
しんたい
)
縄
(
なは
)
の
如
(
ごと
)
く
疲
(
つか
)
れ
果
(
は
)
てては
053
酒
(
さけ
)
の
一杯
(
いつぱい
)
や
二杯
(
にはい
)
飲
(
の
)
んだ
所
(
ところ
)
で
到底
(
たうてい
)
元気
(
げんき
)
は
恢復
(
くわいふく
)
致
(
いた
)
さぬ。
054
絶世
(
ぜつせい
)
の
美人
(
びじん
)
の
花
(
はな
)
の
顔
(
かんばせ
)
を
眺
(
なが
)
め、
055
丹花
(
たんくわ
)
の
唇
(
くちびる
)
より
静
(
しづ
)
かに
出
(
い
)
づる
言
(
こと
)
の
葉
(
は
)
を
耳
(
みみ
)
に
聴聞
(
ちやうぶん
)
するが
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
力
(
ちから
)
で
厶
(
ござ
)
る。
056
美人
(
びじん
)
の
笑
(
ゑ
)
みは
所謂
(
いはゆる
)
生命
(
いのち
)
の
源泉
(
げんせん
)
となるものだから、
057
実
(
じつ
)
は
拙者
(
せつしや
)
の
命
(
いのち
)
の
洗濯用
(
せんたくよう
)
にもと
存
(
ぞん
)
じ、
058
布婁那
(
ふるな
)
の
弁
(
べん
)
を
以
(
もつ
)
て
当山
(
たうざん
)
へ
差
(
さし
)
向
(
む
)
け
置
(
お
)
いた
次第
(
しだい
)
、
059
如才
(
じよさい
)
のない
貴僧
(
きそう
)
の
事
(
こと
)
であるから、
060
キツト
大切
(
だいじ
)
にして
置
(
お
)
いて
下
(
くだ
)
さつたでせう。
061
貴下
(
あなた
)
のお
手
(
て
)
料理
(
れうり
)
は
所謂
(
いはゆる
)
、
062
彼
(
か
)
の
美人
(
びじん
)
等
(
たち
)
に
勧
(
すす
)
むる
為
(
ため
)
で
厶
(
ござ
)
らう。
063
イヤハヤ
感謝
(
かんしや
)
致
(
いた
)
しますよ。
064
貴殿
(
きでん
)
も
自
(
みづか
)
ら
料理
(
れうり
)
なんか
成
(
な
)
さるやうな
方
(
かた
)
ではないが、
065
恋愛
(
れんあい
)
と
云
(
い
)
ふ
曲物
(
くせもの
)
に
取
(
とり
)
挫
(
ひし
)
がれては、
066
からつきし
駄目
(
だめ
)
ですな。
067
恋
(
こひ
)
の
奴
(
やつこ
)
となり、
068
甘
(
あま
)
んじて
下郎
(
げらう
)
の
役
(
やく
)
を
遊
(
あそ
)
ばすと
見
(
み
)
える。
069
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
何
(
なに
)
が
強
(
つよ
)
いと
云
(
い
)
つても
恋
(
こひ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
ほど、
070
無限力
(
むげんりよく
)
をもつてゐる
奴
(
やつ
)
はない。
071
鬼
(
おに
)
を
欺
(
あざむ
)
く
髯武者
(
ひげむしや
)
の
男子
(
だんし
)
、
072
しかも
此
(
この
)
白髪首
(
しらがくび
)
も
蕾
(
つぼみ
)
の
花
(
はな
)
の
綻
(
ほころ
)
びむとする
優姿
(
やさすがた
)
を
眺
(
なが
)
め、
073
馥郁
(
ふくいく
)
たる
香気
(
かうき
)
を
嗅
(
か
)
いだ
時
(
とき
)
は、
074
もとの
昔
(
むかし
)
に
返
(
かへ
)
つたやうで
厶
(
ござ
)
る、
075
アハヽヽヽ』
076
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
二人
(
ふたり
)
の
美人
(
びじん
)
を
永
(
なが
)
らく
食料
(
しよくれう
)
攻
(
ぜ
)
めにして
苦
(
くるし
)
めおき、
077
今日
(
けふ
)
ヤツト
両人
(
りやうにん
)
が
香
(
かん
)
ばしい
言葉
(
ことば
)
を
出
(
だ
)
したので
恋
(
こひ
)
の
願望
(
ぐわんまう
)
成就
(
じやうじゆ
)
と、
078
なるべく
味
(
あぢ
)
のよい
加減
(
かげん
)
のよい
食物
(
しよくもつ
)
を
与
(
あた
)
へ、
079
層一層
(
そういつそう
)
二人
(
ふたり
)
の
歓心
(
くんわしん
)
を
得
(
え
)
むものと
心
(
こころ
)
を
砕
(
くだ
)
き
力
(
ちから
)
を
尽
(
つく
)
し、
080
汗
(
あせ
)
を
絞
(
しぼ
)
つて
漸
(
やうや
)
く
馳走
(
ちそう
)
を
拵
(
こしら
)
へた
所
(
ところ
)
へ、
081
シーゴーが
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
て、
082
いろいろと
耳
(
みみ
)
の
痛
(
いた
)
い
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かされ、
083
夜食
(
やしよく
)
に
外
(
はづ
)
れた
梟鳥
(
ふくろどり
)
か、
084
小田
(
をだ
)
の
蛙
(
かはず
)
が
蛇
(
へび
)
に
追
(
お
)
はれて
泣
(
な
)
きそこねたやうな
面
(
つら
)
をして、
085
ブツブツと
口
(
くち
)
の
奥
(
おく
)
にて
小言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
086
匆々
(
さうさう
)
に
膳部
(
ぜんぶ
)
を
拵
(
こしら
)
へ、
087
シーゴーをして
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
たち
)
去
(
さ
)
らしめむと、
088
いろいろと
謎
(
なぞ
)
をかけるけれども、
089
意地
(
いぢ
)
の
悪
(
わる
)
いシーゴーは
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
立
(
た
)
ち
塞
(
ふさが
)
つて
女帝
(
によてい
)
の
側
(
そば
)
へ
伺
(
うかが
)
ひに
行
(
ゆ
)
かうとはせぬ。
090
シーゴー『ハヽヽヽ、
091
此
(
この
)
膳部
(
ぜんぶ
)
は
三人前
(
さんにんまへ
)
で
厶
(
ござ
)
るな、
092
成程
(
なるほど
)
、
093
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
と
拙者
(
せつしや
)
と
貴殿
(
きでん
)
とで
厶
(
ござ
)
るか、
094
ヤ、
095
貴僧
(
きそう
)
ばかりに
骨
(
ほね
)
を
折
(
を
)
らせても
済
(
す
)
まない。
096
拙者
(
せつしや
)
が
膳部
(
ぜんぶ
)
を
運
(
はこ
)
びませう』
097
玄真
(
げんしん
)
『イヤ、
098
お
構
(
かま
)
ひ
下
(
くだ
)
さるな。
099
徹頭
(
てつとう
)
徹尾
(
てつび
)
、
100
拙者
(
せつしや
)
が
取扱
(
とりあつかひ
)
致
(
いた
)
しませう。
101
サア
早
(
はや
)
く
貴僧
(
きそう
)
は
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
伺
(
うかが
)
つて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい。
102
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
も
先日
(
せんじつ
)
より
貴僧
(
きそう
)
のお
帰
(
かへ
)
りをお
待
(
ま
)
ち
兼
(
か
)
ねですからな』
103
シーゴー『
然
(
しか
)
らば
之
(
これ
)
より
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
に
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
に
参
(
まゐ
)
りませう。
104
幸
(
さいは
)
ひ
拙者
(
せつしや
)
も
空腹
(
くうふく
)
なり、
105
時分
(
じぶん
)
もよし、
106
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
もお
腹
(
なか
)
が
空
(
す
)
いてゐるでせう。
107
貴僧
(
きそう
)
が
丹精
(
たんせい
)
をこらして
手
(
て
)
づから
拵
(
こしら
)
へになつた
百味
(
ひやくみ
)
の
飲食
(
おんじき
)
を
三
(
さん
)
人
(
にん
)
で
頂
(
いただ
)
くのも
愉快
(
ゆくわい
)
で
厶
(
ござ
)
らう。
108
いや
楽
(
たの
)
しい
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
る』
109
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
二人
(
ふたり
)
の
美人
(
びじん
)
を
喜
(
よろこ
)
ばせ、
110
自分
(
じぶん
)
も
一緒
(
いつしよ
)
に
舌鼓
(
したつづみ
)
を
打
(
う
)
つて
二人
(
ふたり
)
の
嬉
(
うれ
)
しい
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
乍
(
なが
)
ら
一杯
(
いつぱい
)
やらうと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
たのに、
111
九分
(
くぶ
)
九厘
(
くりん
)
の
処
(
ところ
)
にシーゴーに
帰
(
かへ
)
つて
来
(
こ
)
られ、
112
『どうせ
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
はあて
外
(
はづ
)
れの
処
(
ところ
)
へ
持
(
も
)
つて
運
(
はこ
)
ばねばならぬやうになつて
来
(
き
)
た。
113
加
(
くは
)
ふるに、
114
苦心
(
くしん
)
惨憺
(
さんたん
)
して
吾
(
わが
)
意
(
い
)
に
八九分
(
はちくぶ
)
靡
(
なび
)
かせたサンダーは、
115
どうやら、
116
シーゴーが
懸想
(
けさう
)
してゐるらしい。
117
今
(
いま
)
のシーゴーの
言葉
(
ことば
)
から
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
れば、
118
彼
(
かれ
)
は
自分
(
じぶん
)
の
妻
(
つま
)
にしようと
思
(
おも
)
つて、
119
ここへ
詣
(
まゐ
)
らせたのに
違
(
ちが
)
ひない。
120
イヤ
確
(
たしか
)
に
目的
(
もくてき
)
があつて
弁舌
(
べんぜつ
)
にまかせ、
121
彼
(
かれ
)
サンダーを、
122
此処
(
ここ
)
へよこしたのだ。
123
ハテ
気
(
き
)
の
揉
(
も
)
める
事
(
こと
)
だわい。
124
三人前
(
さんにんまへ
)
の
馳走
(
ちそう
)
をシーゴーに
見
(
み
)
つけられた
以上
(
いじやう
)
は、
125
どうしても
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
に
奉
(
たてまつ
)
らねばなるまい。
126
自分
(
じぶん
)
の
分
(
ぶん
)
丈
(
だ
)
けを
残
(
のこ
)
して
二人前
(
ににんまへ
)
、
127
送
(
おく
)
るとした
所
(
ところ
)
で
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
に
一人前
(
いちにんまへ
)
の
膳部
(
ぜんぶ
)
とは
可笑
(
をか
)
しい、
128
又
(
また
)
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
の
命令
(
めいれい
)
で……
三
(
さん
)
人
(
にん
)
揃
(
そろ
)
うて
一杯
(
いつぱい
)
やらう……
等
(
など
)
と
云
(
い
)
はれちや
一人前
(
いちにんまへ
)
の
膳部
(
ぜんぶ
)
も
助
(
たす
)
からない。
129
アさうすりや
二人
(
ふたり
)
の
美人
(
びじん
)
に
此
(
この
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
益々
(
ますます
)
信用
(
しんよう
)
を
落
(
おと
)
す
道理
(
だうり
)
だ。
130
……
人
(
ひと
)
を
騙
(
だま
)
した
残酷
(
ざんこく
)
な
奴
(
やつ
)
だ……と、
131
層一層
(
そういつそう
)
怨
(
うら
)
まれるやうになつちや
恋
(
こひ
)
の
目的
(
もくてき
)
は
達成
(
たつせい
)
しない。
132
チヨツ、
133
偉
(
えら
)
いジレンマにかかつたものだわい。
134
アーアー、
135
此方
(
こちら
)
立
(
た
)
てれば、
136
彼方
(
あちら
)
が
立
(
た
)
たぬ、
137
彼方
(
あちら
)
立
(
た
)
てれば
此方
(
こちら
)
が
立
(
た
)
たぬ。
138
両方
(
りやうはう
)
立
(
た
)
つれば
身
(
み
)
が
立
(
た
)
たぬ……とは
自分
(
じぶん
)
の
事
(
こと
)
だ。
139
アーア』
140
と
吐息
(
といき
)
をついてゐる。
141
そこへ
慌
(
あわ
)
ただしく、
142
パンクが
女帝
(
によてい
)
の
使
(
つかひ
)
として、
143
やつて
来
(
き
)
た。
144
パンク『もしもし
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
、
145
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
のお
使
(
つかひ
)
で
参
(
まゐ
)
りましたが、
146
今
(
いま
)
シーゴー
様
(
さま
)
が
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶり
)
で
宣伝
(
せんでん
)
を
終
(
を
)
へお
帰
(
かへ
)
りになりましたので、
147
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
も
非常
(
ひじやう
)
にお
喜
(
よろこ
)
び
遊
(
あそ
)
ばし、
148
貴方
(
あなた
)
にも
来
(
き
)
て
貰
(
もら
)
つて
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
、
149
左守
(
さもり
)
、
150
右守
(
うもり
)
のお
三方
(
さんかた
)
が
祝酒
(
いはひざけ
)
を
飲
(
の
)
み、
151
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
をお
食
(
あが
)
り
遊
(
あそ
)
ばすので、
152
私
(
わたし
)
に
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
が「
料理
(
れうり
)
をせよ」と
仰
(
おほ
)
せられました
所
(
ところ
)
、
153
シーゴーさまの
仰有
(
おつしや
)
るのには、
154
「イヤ
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
、
155
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
下
(
くだ
)
さいますな。
156
今
(
いま
)
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
は
天眼通
(
てんがんつう
)
を
以
(
もつ
)
て、
157
拙者
(
せつしや
)
の
帰
(
かへ
)
るのを
前知
(
ぜんち
)
し
158
三人分
(
さんにんぶん
)
の
馳走
(
ちそう
)
を
拵
(
こしら
)
へて
居
(
ゐ
)
られますから、
159
それさへここへ
運
(
はこ
)
んで
来
(
く
)
れば、
160
いい」との
事
(
こと
)
、
161
流石
(
さすが
)
の
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
も「
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
は
何
(
なん
)
と、
162
偉
(
えら
)
い
奴
(
やつ
)
だな」と、
163
舌
(
した
)
をまいて
感心
(
かんしん
)
遊
(
あそ
)
ばしましたよ。
164
サア、
165
何卒
(
どうぞ
)
お
待
(
ま
)
ちかねですから、
166
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
のお
居間
(
ゐま
)
へお
越
(
こ
)
し
下
(
くだ
)
さい。
167
お
膳部
(
ぜんぶ
)
は
私
(
わたし
)
が
運
(
はこ
)
ばして
頂
(
いただ
)
きます』
168
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
是非
(
ぜひ
)
なく
溝狸
(
どぶだぬき
)
が
頭
(
あたま
)
から
煮茶
(
にえちや
)
を
被
(
かぶ
)
せられたやうな
不足
(
ふそく
)
な
顔
(
かほ
)
して、
169
二人
(
ふたり
)
の
女
(
をんな
)
に
心
(
こころ
)
を
残
(
のこ
)
しつつ
天王
(
てんわう
)
の
社
(
やしろ
)
の
床下
(
ゆかした
)
に
築
(
きづ
)
かれた
地下室
(
ちかしつ
)
、
170
女帝
(
によてい
)
の
居間
(
ゐま
)
へと
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
171
女帝
(
によてい
)
は
一段
(
いちだん
)
高
(
たか
)
い
床
(
とこ
)
の
上
(
うへ
)
に
座
(
ざ
)
を
占
(
し
)
め、
172
シーゴー、
173
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
少
(
すこ
)
し
下
(
さが
)
つて
鼎座
(
かなへざ
)
となり、
174
酒
(
さけ
)
を
汲
(
く
)
み
交
(
か
)
はし
乍
(
なが
)
ら
手柄話
(
てがらばなし
)
に
花
(
はな
)
を
咲
(
さ
)
かした。
175
パンクは
酒
(
さけ
)
注
(
つ
)
ぎ、
176
飯
(
めし
)
つぎの
役
(
やく
)
を
忠実
(
ちうじつ
)
に
勤
(
つと
)
めてゐる。
177
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても
山賊
(
さんぞく
)
の
親分
(
おやぶん
)
だから、
178
余
(
あま
)
り
小難
(
こむつかし
)
い
行儀
(
ぎやうぎ
)
もない。
179
酒
(
さけ
)
飲
(
の
)
み
乍
(
なが
)
ら、
180
喰
(
く
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
181
諄々
(
じゆんじゆん
)
と
話
(
はなし
)
を
続
(
つづ
)
けて
云
(
い
)
ふ。
182
ヨリコ『シーゴー
殿
(
どの
)
、
183
永
(
なが
)
らくの
宣伝
(
せんでん
)
、
184
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
であつた。
185
その
効果
(
かうくわ
)
空
(
むな
)
しからず、
186
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
繁昌
(
はんぜう
)
だよ。
187
随分
(
ずいぶん
)
骨
(
ほね
)
を
折
(
を
)
つたでせうな。
188
その
影響
(
えいきやう
)
として
玄真殿
(
げんしんどの
)
も、
189
大変
(
たいへん
)
に
多忙
(
たばう
)
を
極
(
きは
)
めてゐたやうだ、
190
其方
(
そなた
)
が
帰
(
かへ
)
つたら、
191
一度
(
いちど
)
慰労会
(
ゐらうくわい
)
を
催
(
もよほ
)
し
度
(
た
)
いと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
た
所
(
ところ
)
だ。
192
サア
飲
(
の
)
み
乍
(
なが
)
ら
食
(
く
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
193
其方
(
そなた
)
の
活動
(
くわつどう
)
振
(
ぶり
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
はう』
194
シーゴー『ハイ、
195
先
(
ま
)
づ
顕著
(
けんちよ
)
なる
私
(
わたし
)
の
働
(
はたら
)
きと
云
(
い
)
へばタライの
村
(
むら
)
の
美人
(
びじん
)
スガコを
初
(
はじ
)
め、
196
コマの
村
(
むら
)
の
美人
(
びじん
)
サンダー
姫
(
ひめ
)
を、
197
うまく
此方
(
こなた
)
へ
引寄
(
ひきよ
)
せおき、
198
尚
(
なほ
)
も
宣伝
(
せんでん
)
をつづくる
中
(
うち
)
、
199
ハルナの
都
(
みやこ
)
より
地教山
(
ちけうざん
)
に
向
(
むか
)
ふバラモン
軍
(
ぐん
)
の
勇将
(
ゆうしやう
)
大足別
(
おほだるわけ
)
の
部下
(
ぶか
)
が
附近
(
ふきん
)
村落
(
そんらく
)
に
宿営
(
しゆくえい
)
をなし、
200
金銭
(
きんせん
)
物品
(
ぶつぴん
)
を
掠奪
(
りやくだつ
)
し、
201
婦女
(
ふぢよ
)
を
姦
(
かん
)
し
甚
(
はなはだ
)
しきは
美人
(
びじん
)
を
持
(
も
)
ち
去
(
さ
)
り
家
(
いへ
)
を
焼
(
や
)
く
等
(
など
)
、
202
乱暴
(
らんばう
)
狼籍
(
らうぜき
)
至
(
いた
)
らざるなく、
203
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
縄張
(
なはばり
)
を
荒
(
あら
)
すこと
甚
(
はなはだ
)
しく、
204
人心
(
じんしん
)
は
恟々
(
きようきよう
)
として、
205
天
(
てん
)
の
救
(
すく
)
ひを
求
(
もと
)
むる
好時節
(
かうじせつ
)
、
206
此
(
この
)
機
(
き
)
逸
(
いつ
)
してなるものかと、
207
獅子
(
しし
)
奮迅
(
ふんじん
)
の
勢
(
いきほひ
)
にて
昼夜
(
ちうや
)
を
分
(
わか
)
たず
宣伝
(
せんでん
)
を
致
(
いた
)
しました。
208
中
(
うち
)
にも
最
(
もつと
)
も
愉快
(
ゆくわい
)
なるはタライの
村
(
むら
)
の
里庄
(
りしやう
)
ジャンクは
義勇軍
(
ぎゆうぐん
)
を
起
(
おこ
)
し、
209
バルガン
城
(
じやう
)
に
向
(
むか
)
ふ
事
(
こと
)
となり、
210
最愛
(
さいあい
)
の
娘
(
むすめ
)
は
行衛
(
ゆくゑ
)
知
(
し
)
れず、
211
自分
(
じぶん
)
が
今
(
いま
)
戦場
(
せんぢやう
)
に
向
(
むか
)
ふ
上
(
うへ
)
はもとより
生
(
いき
)
て
帰
(
かへ
)
る
事
(
こと
)
は
思
(
おも
)
ひも
寄
(
よ
)
らず、
212
可惜
(
あたら
)
巨万
(
きよまん
)
の
財産
(
ざいさん
)
を
相続
(
さうぞく
)
するものがないと
云
(
い
)
ふ
破目
(
はめ
)
、
213
之
(
これ
)
ぞ
天
(
てん
)
の
与
(
あた
)
へ、
214
拾
(
ひろ
)
はずんばあるべからずと、
215
修験者
(
しゆげんじや
)
の
仮装
(
かさう
)
を
幸
(
さいは
)
ひ、
216
彼
(
かれ
)
が
出陣
(
しゆつぢん
)
の
間際
(
まぎは
)
に
彼
(
かれ
)
を
訪
(
おとな
)
ひ、
217
殆
(
ほとん
)
ど
応接
(
おうせつ
)
の
遑
(
いとま
)
なき
多忙
(
たばう
)
をつけ
込
(
こ
)
み、
218
「オーラ
山
(
ざん
)
に
降
(
くだ
)
り
玉
(
たま
)
ふ
天来
(
てんらい
)
の
救世主
(
きうせいしゆ
)
、
219
玄真坊
(
げんしんばう
)
に
全部
(
ぜんぶ
)
財産
(
ざいさん
)
を
奉
(
たてまつ
)
れよ」と
掛
(
かけ
)
合
(
あ
)
つた
所
(
ところ
)
、
220
ジャンクの
申
(
まを
)
すには「
一人
(
ひとり
)
の
娘
(
むすめ
)
は
生死
(
せいし
)
も
分
(
わか
)
らぬ
今日
(
こんにち
)
の
場合
(
ばあひ
)
、
221
吾
(
われ
)
又
(
また
)
戦場
(
せんぢやう
)
に
向
(
むか
)
はば
屍
(
かばね
)
を
山野
(
さんや
)
に
曝
(
さら
)
す
覚悟
(
かくご
)
、
222
財産
(
ざいさん
)
の
必要
(
ひつえう
)
はない、
223
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
奉
(
たてまつ
)
るから
天下
(
てんか
)
万民
(
ばんみん
)
のため、
224
善用
(
ぜんよう
)
せよ」との
頼
(
たの
)
み、
225
イヤハヤ
大成功
(
だいせいこう
)
で
厶
(
ござ
)
る、
226
アハヽヽヽ』
227
ヨリコ『
今
(
いま
)
に
初
(
はじ
)
めぬ
其方
(
そなた
)
の
働
(
はたら
)
き、
228
天晴
(
あつぱれ
)
々々
(
あつぱれ
)
、
229
マサカの
時
(
とき
)
の
軍資
(
ぐんし
)
に
宛
(
あ
)
つる
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るであらう。
230
流石
(
さすが
)
はシーゴー
殿
(
どの
)
、
231
ヤツパリ
猪
(
しし
)
食
(
く
)
た
犬
(
いぬ
)
は
猪
(
しし
)
食
(
く
)
た
犬
(
いぬ
)
だ。
232
それでこそ
三千
(
さんぜん
)
人
(
にん
)
の
頭目
(
とうもく
)
として
恥
(
はづ
)
かしからぬ
頭目
(
とうもく
)
だ』
233
と
頻
(
しき
)
りに
褒
(
ほ
)
めそやかす。
234
シーゴーは
満面
(
まんめん
)
の
得意
(
とくい
)
に
大口
(
おほぐち
)
を
開
(
あ
)
けて
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
肩
(
かた
)
を
揺
(
ゆ
)
すつて
玄真坊
(
げんしんばう
)
に
向
(
むか
)
ひ、
235
シーゴー『
玄真殿
(
げんしんどの
)
、
236
拙者
(
せつしや
)
の
腕前
(
うでまへ
)
はザツトこんなもので
厶
(
ござ
)
る。
237
貴殿
(
きでん
)
も
一寸
(
ちよつと
)
、
238
おあやかりなさい。
239
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
のお
褒
(
ほ
)
めの
言葉
(
ことば
)
を
頂
(
いただ
)
いて、
240
もはや
天下
(
てんか
)
を
握
(
にぎ
)
つたやうな
気分
(
きぶん
)
が
致
(
いた
)
すで
厶
(
ござ
)
る、
241
アハヽヽヽ』
242
と
酔
(
ゑひ
)
に
紛
(
まぎ
)
らし
威丈高
(
ゐだけだか
)
に
笑
(
わら
)
ふ。
243
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
折角
(
せつかく
)
二人
(
ふたり
)
のナイスを
喜
(
よろこ
)
ばせようと
思
(
おも
)
ひ
244
丹精
(
たんせい
)
凝
(
こ
)
らして
料理
(
れうり
)
した
膳部
(
ぜんぶ
)
は
捲
(
ま
)
き
上
(
あ
)
げられ、
245
田舎
(
いなか
)
の
爺
(
ぢい
)
が
三
(
さん
)
里
(
り
)
もある
豆腐屋
(
とうふや
)
に
行
(
い
)
つて、
246
油揚
(
あげ
)
を
買
(
か
)
つて
帰
(
かへ
)
りに
鳶
(
とび
)
に
攫
(
さら
)
はれたやうな
気
(
き
)
のぬけた
面
(
つら
)
をさらし、
247
半
(
はん
)
泣
(
な
)
きの
態
(
てい
)
にて、
248
玄真
(
げんしん
)
『
拙僧
(
せつそう
)
だとて、
249
仲々
(
なかなか
)
の
苦労
(
くらう
)
が
厶
(
ござ
)
る。
250
相手
(
あひて
)
変
(
かは
)
れど
主
(
ぬし
)
変
(
かは
)
らず、
251
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
雲霞
(
うんか
)
の
如
(
ごと
)
く
集
(
あつ
)
まり
来
(
きた
)
る
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
に
対
(
たい
)
して
一々
(
いちいち
)
何
(
なん
)
とか、
252
かんとか、
253
ごまかさねばならず、
254
中
(
なか
)
には
骨
(
ほね
)
のある
奴
(
やつ
)
があつて「そんな
筈
(
はず
)
がない」とか「
理
(
り
)
が
合
(
あ
)
はぬ」とか、
255
難
(
むつ
)
かしい
哲学
(
てつがく
)
を
楯
(
たて
)
に
取
(
と
)
つて
理窟
(
りくつ
)
をこねる
事
(
こと
)
もあり、
256
日
(
ひ
)
に
幾度
(
いくたび
)
、
257
ヒヤヒヤ、
258
アブアブ、
259
する
事
(
こと
)
があるか
知
(
し
)
れないのですよ。
260
その
度
(
たび
)
毎
(
ごと
)
に
冷汗
(
ひやあせ
)
は
出
(
で
)
る、
261
心臓
(
しんざう
)
は
躍
(
をど
)
る、
262
腹
(
はら
)
はデングり
返
(
がへ
)
る。
263
何程
(
なにほど
)
小便
(
せうべん
)
が
張
(
は
)
りきつて
居
(
を
)
つても、
264
活神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
が
中途
(
ちうと
)
に
便所
(
べんじよ
)
に
行
(
ゆ
)
く
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
かず、
265
大便
(
だいべん
)
は
尚更
(
なほさら
)
のこと、
266
真青
(
まつさを
)
な
顔
(
かほ
)
して、
267
高座
(
かうざ
)
に
上
(
のぼ
)
つてゐる
時
(
とき
)
の
苦
(
くる
)
しさ。
268
シーゴー
殿
(
どの
)
のやうに
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
に
広
(
ひろ
)
い
原野
(
げんや
)
を
横行
(
わうかう
)
濶歩
(
くわつぽ
)
するのと
違
(
ちが
)
い、
269
その
苦
(
くる
)
しさは
幾層倍
(
いくそうばい
)
かも
知
(
し
)
れませぬぞ。
270
拙者
(
せつしや
)
の
活動
(
くわつどう
)
は
地味
(
ぢみ
)
ではあるが、
271
最
(
もつと
)
も
苦
(
くる
)
しく
且
(
かつ
)
功績
(
こうせき
)
も
多
(
おほ
)
い。
272
シーゴー
殿
(
どの
)
の
活動
(
くわつどう
)
は
云
(
い
)
はば
外的
(
ぐわいてき
)
で
花々
(
はなばな
)
しくて、
273
愉快
(
ゆくわい
)
で、
274
加
(
くは
)
ふるに
功労
(
こうらう
)
は
一々
(
いちいち
)
目
(
め
)
に
見
(
み
)
えるのだから、
275
拙者
(
せつしや
)
よりも
余程
(
よほど
)
勲功
(
くんこう
)
が
高
(
たか
)
いやうに、
2751
一寸
(
ちよつと
)
は
見
(
み
)
えるが、
276
どうしてどうして
277
拙僧
(
せつそう
)
の
苦心
(
くしん
)
に
比
(
くら
)
ぶれば
九牛
(
きうぎう
)
の
一毛
(
いちもう
)
にも
如
(
し
)
かないだらう』
278
シーゴー『ヘン、
279
何
(
なに
)
程
(
ほど
)
苦
(
くる
)
しいと
云
(
い
)
つても、
280
七
(
なな
)
つ
下
(
さが
)
れば
上跨
(
あげまた
)
を
打
(
う
)
つて
美
(
うつく
)
しい
女
(
をんな
)
を
口説
(
くど
)
き
乍
(
なが
)
ら、
281
休
(
やす
)
んでゐられるのだから
楽
(
らく
)
なものだ。
282
拙者
(
せつしや
)
の
如
(
ごと
)
きは
昼夜
(
ちうや
)
の
区別
(
くべつ
)
なく、
283
荒風
(
あらかぜ
)
に
吹
(
ふ
)
き
捲
(
ま
)
くられ、
284
時々
(
ときどき
)
ポリスの
追跡
(
つゐせき
)
をうけ、
285
バラモン
軍
(
ぐん
)
に
追
(
お
)
ひまくられ、
286
犬
(
いぬ
)
には
吠
(
ほえ
)
つかれ、
287
猛獣
(
まうじう
)
にも
脅
(
おびや
)
かされ、
288
おまけに
露
(
つゆ
)
の
弾丸
(
たま
)
、
289
霜
(
しも
)
の
剣
(
つるぎ
)
を
身
(
み
)
に
浴
(
あ
)
びて、
290
荒涼
(
くわうりやう
)
たる
原野
(
げんや
)
の
中
(
なか
)
を
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
に
馳駆
(
ちく
)
する
苦
(
くる
)
しさ。
291
到底
(
たうてい
)
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
に
蟄居
(
ちつきよ
)
する
守宮
(
やもり
)
さまの、
292
想像
(
さうざう
)
し
得
(
う
)
る
処
(
ところ
)
ではない。
293
エー、
294
時
(
とき
)
に
拙者
(
せつしや
)
が
弁舌
(
べんぜつ
)
を
振
(
ふる
)
ひ、
295
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
の
秘術
(
ひじゆつ
)
を
尽
(
つく
)
して
当山
(
たうざん
)
へ
差
(
さし
)
向
(
む
)
けたるスガコ、
296
サンダーの
二人
(
ふたり
)
の
美人
(
びじん
)
は
如何
(
いかが
)
なされたか。
297
男
(
をとこ
)
許
(
ばか
)
りの
酒宴
(
しゆえん
)
ではネツカラ
興
(
きよう
)
が
厶
(
ござ
)
らぬ。
298
玄真坊
(
げんしんばう
)
殿
(
どの
)
、
299
どうか
両人
(
りやうにん
)
をこれへ
引出
(
ひきだ
)
し、
300
酒
(
さけ
)
の
相手
(
あひて
)
に
歌
(
うた
)
でも
謡
(
うた
)
はせては
如何
(
いかが
)
で
厶
(
ござ
)
るな』
301
玄真
(
げんしん
)
『
如何
(
いか
)
にも、
302
尤
(
もつと
)
も
乍
(
なが
)
ら、
303
彼
(
かれ
)
は
今
(
いま
)
断食
(
だんじき
)
の
修業中
(
しうげふちう
)
で
厶
(
ござ
)
れば、
304
仮令
(
たとへ
)
呼
(
よ
)
び
出
(
だ
)
した
所
(
ところ
)
で、
305
お
間
(
ま
)
には
合
(
あ
)
ひますまい。
306
顔色
(
がんしよく
)
憔悴
(
せうすゐ
)
して
土
(
つち
)
の
如
(
ごと
)
く、
307
殆
(
ほとん
)
ど
此
(
この
)
世
(
よ
)
の
人
(
ひと
)
ではあるまい
如
(
ごと
)
き
窶
(
やつ
)
れた
姿
(
すがた
)
、
308
寧
(
むし
)
ろ
見
(
み
)
ないが
花
(
はな
)
で
厶
(
ござ
)
らう』
309
シーゴー『
然
(
しか
)
らば
修業
(
しうげふ
)
が
済
(
す
)
んだ
上
(
うへ
)
、
310
拙者
(
せつしや
)
も、
311
ユルユル
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
にお
目
(
め
)
にかからう。
312
もし
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
、
313
私
(
わたし
)
の
御
(
ご
)
褒美
(
ほうび
)
にサンダーと
云
(
い
)
ふ
女
(
をんな
)
を
頂
(
いただ
)
き
度
(
た
)
いもので
厶
(
ござ
)
います』
314
ヨリコ『サンダーと
云
(
い
)
ひ、
315
スガコと
云
(
い
)
ひ、
316
何
(
いづ
)
れも
其方
(
そなた
)
の
苦心
(
くしん
)
惨澹
(
さんたん
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
317
引寄
(
ひきよ
)
せたものだから、
318
其方
(
そなた
)
の
自由
(
じいう
)
にしたが
宜
(
よ
)
からう。
319
妾
(
わたし
)
は
女
(
をんな
)
の
事
(
こと
)
でもあり
美人
(
びじん
)
の
必要
(
ひつえう
)
はないから、
320
其方
(
そなた
)
の
勇気
(
ゆうき
)
をつなぐ
為
(
ため
)
、
321
自由
(
じいう
)
にしたが
宜
(
よ
)
からうぞや。
322
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
天帝
(
てんてい
)
の
化身
(
けしん
)
だから、
323
ここ
暫
(
しばら
)
くは
女
(
をんな
)
なんかに
心
(
こころ
)
は
寄
(
よ
)
せず、
324
飽迄
(
あくまで
)
聖者
(
せいじや
)
と
成
(
な
)
りすまし、
325
目的
(
もくてき
)
の
成就
(
じやうじゆ
)
迄
(
まで
)
は
辛抱
(
しんばう
)
して
貰
(
もら
)
ひ
度
(
た
)
いものだ。
326
のう
玄真坊
(
げんしんばう
)
、
327
其方
(
そち
)
もそれ
位
(
くらゐ
)
の
考
(
かんが
)
へはあるだらう』
328
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
頭
(
あたま
)
をかき
乍
(
なが
)
ら、
329
玄真
(
げんしん
)
『ハイ、
330
エー、
331
何
(
なん
)
で
厶
(
ござ
)
います。
332
エー、
333
拙僧
(
せつそう
)
もあく
迄
(
まで
)
聖者
(
せいじや
)
を
気取
(
きど
)
り、
334
なるべく
生神
(
いきがみ
)
としての
信用
(
しんよう
)
を
保
(
たも
)
ち
度
(
た
)
く、
335
昼夜
(
ちうや
)
に
心
(
こころ
)
を
揉
(
も
)
んでゐますが、
336
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
二人
(
ふたり
)
の
美人
(
びじん
)
、
337
拙僧
(
せつそう
)
に
恋慕
(
れんぼ
)
致
(
いた
)
し、
338
明
(
あ
)
けても
暮
(
く
)
れても
玄真
(
げんしん
)
々々
(
げんしん
)
と
云
(
い
)
つて、
339
夢現
(
ゆめうつつ
)
となり
恋
(
こひ
)
にやつれて
今
(
いま
)
は
見
(
み
)
る
影
(
かげ
)
もなき
有様
(
ありさま
)
、
340
此
(
この
)
両人
(
りやうにん
)
を
此
(
この
)
儘
(
まま
)
にしておけば、
341
もはや
命
(
いのち
)
は
亡
(
ほろ
)
ぶるより
道
(
みち
)
はありませぬ。
342
此
(
この
)
両人
(
りやうにん
)
こそは
音
(
おと
)
に
聞
(
きこ
)
えし
富豪
(
ふがう
)
の
娘
(
むすめ
)
、
343
どこ
迄
(
まで
)
も
生命
(
いのち
)
を
保
(
たも
)
たせ
人質
(
ひとじち
)
となし、
344
彼
(
かれ
)
が
親
(
おや
)
の
財産
(
ざいさん
)
を
捲
(
ま
)
き
上
(
あ
)
げて、
345
軍資金
(
ぐんしきん
)
の
充実
(
じゆうじつ
)
を
図
(
はか
)
らねばならぬからと
存
(
ぞん
)
じ、
346
燃
(
も
)
ゆるが
如
(
ごと
)
き
二人
(
ふたり
)
の
恋慕
(
れんぼ
)
を
煩
(
うる
)
さい
乍
(
なが
)
ら、
347
柳
(
やなぎ
)
に
風
(
かぜ
)
と
受
(
う
)
け
流
(
なが
)
し、
348
タワタワと
濡
(
ぬ
)
れ
畔
(
あぜ
)
を
渡
(
わた
)
るやうにして、
349
今日
(
けふ
)
が
日
(
ひ
)
迄
(
まで
)
、
350
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
の
心
(
こころ
)
を
慰
(
なぐさ
)
め
将来
(
しやうらい
)
に
望
(
のぞ
)
みを
抱
(
いだ
)
かせておきましたが、
351
拙者
(
せつしや
)
が
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
せない
時
(
とき
)
は
彼
(
かれ
)
は
焦
(
こが
)
れ
死
(
じに
)
を
致
(
いた
)
します。
352
それで
拙者
(
せつしや
)
は
彼
(
かれ
)
が
犠牲
(
ぎせい
)
となつて
日夜
(
にちや
)
真理
(
しんり
)
を
説
(
と
)
きさとし、
353
不離
(
ふり
)
不即
(
ふそく
)
の
態度
(
たいど
)
を
持
(
ぢ
)
し、
354
彼
(
かれ
)
の
元気
(
げんき
)
が
恢復
(
くわいふく
)
する
迄
(
まで
)
、
355
時々
(
ときどき
)
慰
(
なぐさ
)
めてやる
考
(
かんが
)
へで
厶
(
ござ
)
いますれば、
356
之
(
これ
)
から
拙者
(
せつしや
)
が
彼
(
かれ
)
の
岩窟
(
いはや
)
に
訪
(
おとな
)
うとも
決
(
けつ
)
して
怪
(
あや
)
しまないやうにお
願
(
ねが
)
ひ
致
(
いた
)
します。
357
彼
(
かれ
)
等
(
ら
)
二人
(
ふたり
)
の
元気
(
げんき
)
恢復
(
くわいふく
)
して
元
(
もと
)
の
身体
(
からだ
)
となる
迄
(
まで
)
は
358
仮令
(
たとへ
)
シーゴー
殿
(
どの
)
と
云
(
い
)
へども
彼
(
かれ
)
の
室
(
へや
)
に
出入
(
しゆつにふ
)
せぬやう、
359
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
より
厳
(
きび
)
しく
御
(
おん
)
申
(
まをし
)
付
(
つ
)
け
下
(
くだ
)
さいますやうに……』
360
と
虫
(
むし
)
のよい
予防線
(
よばうせん
)
を
張
(
は
)
つて
云
(
い
)
ふ。
361
シーゴーは
肩
(
かた
)
を
揺
(
ゆ
)
すつて
高笑
(
たかわら
)
ひ、
362
シーゴー『アハヽヽヽ、
363
玄真殿
(
げんしんどの
)
の
予防線
(
よばうせん
)
、
364
否
(
いな
)
鉄条網
(
てつでうまう
)
、
365
イヤハヤ、
366
シーゴー、
367
感奮
(
かんぷん
)
仕
(
つかまつ
)
つた。
368
それ
丈
(
だ
)
けの
腕
(
うで
)
がなくては
美人
(
びじん
)
に
対
(
たい
)
し、
369
云々
(
うんぬん
)
する
資格
(
しかく
)
は
厶
(
ござ
)
るまい。
370
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
年
(
とし
)
も
若
(
わか
)
く
男前
(
をとこまへ
)
もいい。
371
拙者
(
せつしや
)
は
御覧
(
ごらん
)
の
如
(
ごと
)
く
頭
(
かしら
)
に
霜雪
(
さうせつ
)
を
頂
(
いただ
)
き、
372
到底
(
たうてい
)
若
(
わか
)
き
女
(
をんな
)
の
好
(
この
)
む
面付
(
つらつき
)
では
厶
(
ござ
)
らぬ。
373
此
(
この
)
点
(
てん
)
に
於
(
おい
)
ては
玄真坊
(
げんしんばう
)
殿
(
どの
)
に
対
(
たい
)
し
一歩
(
いつぽ
)
を
譲
(
ゆづ
)
らねばなりませぬ。
374
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
375
玄真殿
(
げんしんどの
)
、
376
此
(
この
)
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
は
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
や
吾々
(
われわれ
)
の
口
(
くち
)
に
這入
(
はい
)
るべき
物
(
もの
)
ではなかつたのでせう。
377
断食
(
だんじき
)
をしてゐると
云
(
い
)
ふ、
3771
修業者
(
しうげふしや
)
に
向
(
むか
)
つての
献立
(
こんだて
)
、
378
大方
(
おほかた
)
影膳
(
かげぜん
)
にお
作
(
つく
)
りなさつたのであらう。
379
拙者
(
せつしや
)
はお
蔭
(
かげ
)
を
頂
(
いただ
)
いて
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
を
鱈腹
(
たらふく
)
頂
(
いただ
)
いたが
380
嘸
(
さぞ
)
、
3801
二人
(
ふたり
)
の
断食者
(
だんじきしや
)
は
待
(
ま
)
ちかねてゐる
事
(
こと
)
でせう。
381
サア
玄真殿
(
げんしんどの
)
、
382
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
乍
(
なが
)
ら、
383
炊事場
(
すゐじば
)
に
行
(
い
)
つて
二人前
(
ににんまへ
)
、
384
否
(
いな
)
三人前
(
さんにんまへ
)
の
料理
(
れうり
)
を
調進
(
てうしん
)
召
(
め
)
され。
385
てもさても、
386
器用
(
きよう
)
なお
方
(
かた
)
で
厶
(
ござ
)
る。
387
アハヽヽヽ』
388
とあてこすられ、
389
玄真坊
(
げんしんばう
)
は
今戸焼
(
いまどやき
)
の
出来
(
でき
)
そこのうた
布袋
(
ほてい
)
のやうな
面
(
つら
)
をして、
390
しやちこばつてゐる。
391
ヨリコ『
面白
(
おもしろ
)
し
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
面
(
おも
)
ざしは
392
泣
(
な
)
きそこねたる
羅漢面
(
らかんづら
)
かな』
393
玄真坊
(
げんしんばう
)
『
之
(
これ
)
はしたり
羅漢面
(
らかんづら
)
とは
訝
(
いぶ
)
かしや
394
女帝
(
によてい
)
の
言葉
(
ことば
)
と
覚
(
おぼ
)
えざりけり』
395
シーゴー『
岩
(
いは
)
の
戸
(
と
)
に
立
(
た
)
て
籠
(
こ
)
み
置
(
お
)
きし
艶人
(
あでびと
)
に
396
心
(
こころ
)
揉
(
も
)
みてや
汝
(
なれ
)
のをののき』
397
玄真坊
(
げんしんばう
)
『
何
(
なん
)
なりと
誹
(
そし
)
れば
誹
(
そし
)
れ
吾
(
われ
)
は
只
(
ただ
)
398
神
(
かみ
)
のまにまに
進
(
すす
)
むのみなる』
399
ヨリコ『
何事
(
なにごと
)
も
水
(
みづ
)
に
流
(
なが
)
せよ
盃
(
さかづき
)
の
400
中
(
なか
)
にも
澄
(
す
)
める
望
(
もち
)
の
月影
(
つきかげ
)
』
401
(
大正一三・一二・一七
旧一一・二一
於祥雲閣
北村隆光
録)
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【15 喰ひ違ひ|第66巻(巳の巻)|霊界物語/rm6615】
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