霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一六章 (こひ)夢路(ゆめぢ)〔一六九八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻 篇:第4篇 恋連愛曖 よみ(新仮名遣い):れんれんあいあい
章:第16章 恋の夢路 よみ(新仮名遣い):こいのゆめじ 通し章番号:1698
口述日:1924(大正13)年12月17日(旧11月21日) 口述場所:祥雲閣 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1926(大正15)年6月29日
概要: 舞台:バルガン城へ向かう原野、西(オーラ山)へ向かう原野 あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる] 主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm6616
愛善世界社版:227頁 八幡書店版:第11輯 814頁 修補版: 校定版:231頁 普及版:67頁 初版: ページ備考:
001梅公(うめこう)三千(さんぜん)世界(せかい)(うめ)(はな)
002一度(いちど)(ひら)(かみ)(のり)
003(ひら)いて()りて()(むす)
004月日(つきひ)大地(だいち)(おん)()
005(この)()(きよ)むる生神(いきがみ)
006高天原(たかあまはら)神集(かむつど)
007(かみ)(おもて)(あら)はれて
008黒雲(くろくも)(つつ)天地(あめつち)
009(いづ)伊吹(いぶき)()(はら)
010(みづ)清水(しみづ)(きよ)めつつ
011天国(てんごく)浄土(じやうど)永久(とこしへ)
012(この)()(うへ)建設(けんせつ)
013百八十(ももやそ)(くに)民草(たみぐさ)
014常住(じやうぢう)不断(ふだん)信楽(しんらく)
015(すく)はむものと遠近(をちこち)
016(かみ)のよさしの宣伝使(せんでんし)
017まくばり(たま)ふぞ(たふと)けれ
018照国別(てるくにわけ)(したが)ひて
019産砂山(うぶすなやま)霊場(れいぢやう)
020(あと)(なが)めて河鹿山(かじかやま)
021沐雨(もくう)櫛風(しつぷう)()(しの)
022()()()いでデカタンの
023(かぜ)(はげ)しき高原地(かうげんち)
024トルマン(ごく)()()れば
025ハルナの(みやこ)(わだか)まる
026八岐(やまた)大蛇(をろち)悪霊(あくれい)
027左右(さいう)されたる曲津(まがつ)(かみ)
028大黒主(おほくろぬし)軍勢(ぐんぜい)
029(ひと)住家(すみか)()(はら)
030金銀(きんぎん)物資(ぶつし)掠奪(りやくだつ)
031人妻(ひとづま)(むすめ)(わか)ちなく
032魔手(ましゆ)()ばして()(さら)
033深山(みやま)(おく)へと(しの)()
034(この)国民(くにたみ)(をのの)きて
035()()(ろく)()むられぬ
036塗炭(とたん)(くる)しみ()るにつけ
037如何(いか)にもなして(すく)はむと
038(こころ)(こま)はあせれども
039(わが)()(きみ)御許(みゆる)しを
040()ざる(かな)しさ村肝(むらきも)
041(こころ)(こま)(おさ)へつつ
042義勇(ぎゆう)(いくさ)(したが)ひて
043バルガン(じやう)(すす)()
044士気(しき)(にはか)昂舞(かうぶ)して
045(その)(いきほひ)(てん)()
046(わが)()(きみ)やジャンクさま
047これの(いくさ)指揮(しき)なして
048(すす)ませ(たま)へばバラモンの
049勇士(ゆうし)如何(いか)(おほ)くとも
050荒野(あらの)(かぜ)(わた)るごと
051(まつろ)(きた)るは()(あた)
052(われ)梅公(うめこう)(ただ)一人(ひとり)
053(いくさ)()らうが()るまいが
054(この)全局(ぜんきよく)(たたか)ひに
055いくらの影響(えいきやう)あるべきぞ
056()御心(みこころ)(そむ)くとは
057(われ)覚悟(かくご)(うへ)ながら
058はやりきつたる(たましひ)
059タライの(むら)花香姫(はなかひめ)
060スガコの(ひめ)やサンダーさま
061三人(みたり)(あは)れな境遇(きやうぐう)
062(すく)(いだ)して天国(てんごく)
063(はな)()(にほ)(よろこ)びに
064(すく)はにやおかぬと雄健(をたけ)びし
065(わが)()(きみ)()(しの)
066夜陰(やいん)(まぎ)れて嘎々(かつかつ)
067(こま)(むち)うち(いま)此処(ここ)
068(かぎ)りも()らぬ荒野原(あれのはら)
069目的(あてど)もなしに(きた)りけり
070オーラの(みね)見渡(みわた)せば
071()()(ひか)妖光(えうくわう)
072曲神(まがかみ)(ども)(あつ)まりて
073(しこ)(たく)みをなしつつも
074世人(よびと)(くる)しめ()るならむ
075(こころ)のせいかは()らねども
076オーラの(やま)()にかかり
077()ても()めても(わす)られぬ
078(いのち)(まと)(ただ)一騎(いつき)
079(こま)(ひづめ)(つづ)(まで)
080如何(いか)山途(やまみち)(けは)しとも
081如何(いか)でひるまむ大和魂(やまとだま)
082(おも)ひつめたる鉄石(てつせき)
083(こころ)征矢(そや)ははや(すで)
084真弓(まゆみ)(つる)(はな)れたり
085最早(もはや)(かへ)らぬ(わが)意気地(いくぢ)
086(かれ)()三人(みたり)のあで(びと)
087まんまと(すく)はせたまへかし
088三五教(あななひけう)(まも)ります
089国治立(くにはるたち)大御神(おほみかみ)
090(かむ)素盞嗚(すさのを)大神(おほかみ)
091御前(みまへ)(かしこ)()ぎまつる』
092 梅公(うめこう)はジャンクの(いへ)宿(とま)つた(とき)093スガコやサンダーの何者(なにもの)にか(さら)はれた(こと)()き、094(なん)となくオーラ(さん)悪漢(わるもの)()めに()()められて()るやうな、095暗示(あんじ)何者(なにもの)にか(あた)へられた。096さうして()アさまの(いへ)(たづ)ねた(とき)097サンヨの(むすめ)花香(はなか)がバラモン(ぐん)(とら)はれたと()いた(とき)098(これ)何処(どこ)かの山奥(やまおく)(かく)されて()るやうな()がした。099自分(じぶん)(こひ)でもなく(いろ)でもなく(なん)となく同情心(どうじやうしん)()られ、100この可憐(かれん)(をんな)(たす)けてやりたいと義侠心(ぎけふしん)()たされて()た。101けれども自分(じぶん)照国別(てるくにわけ)従者(じゆうしや)であり102勝手(かつて)気儘(きまま)(れつ)(はな)れる(こと)出来(でき)ぬ。103如何(いかが)はせむかと()()ひつ思案(しあん)()れながら、104照国別(てるくにわけ)105ジャンクの義勇軍(ぎゆうぐん)(したが)106(こま)(むち)()つて渺茫(べうばう)たる大広原(だいくわうげん)()()したが、107黄昏時(たそがれどき)になり、108自分(じぶん)乗馬(じやうば)(なに)(ほど)(むち)()つてもいましめても一歩(いつぽ)(まへ)(すす)まうとはしない。109(その)(あひだ)数多(あまた)義勇軍(ぎゆうぐん)梅公(うめこう)大広原(だいくわうげん)(なか)(のこ)110(うま)(ひづめ)砂塵(しやぢん)()()げながら暴風(ばうふう)(ごと)(いきほひ)にてバルガン(じやう)をさして(すす)()く。111梅公(うめこう)馬上(ばじやう)にて双手(もろて)()(しば)思案(しあん)()れて()たが……(わが)(うま)(かぎ)つて何故(なぜ)(すす)まぬのだらう、112(なに)(ふか)()神慮(しんりよ)のましますならむ……と(こころ)みに(みぎ)手綱(たづな)一寸(ちよつと)()けば(こま)(かしら)西(にし)立直(たてなほ)し、113星明(ほしあか)りの原野(げんや)をあてどもなく一瀉(いつしや)千里(せんり)(いきほひ)()()した。114梅公(うめこう)は……あゝ()(きみ)には()まない、115(しか)(なが)肝腎(かんじん)(こま)(すす)まないのは(なに)特別(とくべつ)使命(しめい)神界(しんかい)から(くだ)つたのだらう。116(いま)となつては何事(なにごと)(かみ)のまにまに行動(かうどう)するのみ……と決心(けつしん)(ほぞ)(かた)めた。117乗馬(じやうば)(やうや)梅公(うめこう)(こころ)()つたかの(ごと)く、118フサフサとした(ふと)(なが)()左右(さいう)()(なが)ら、119(いさ)ましく(たか)(いなな)きつつポカリポカリと(しづか)(あゆ)()した。
120 (あを)ずんだ(そら)金銀色(きんぎんしよく)(ほし)金箔(きんぱく)()つたる(ごと)くキラリキラリと(かがや)いて121梅公(うめこう)行動(かうどう)監視(かんし)するものの(ごと)くに(おも)はれた。122(てん)(たか)くして(しづか)に、123()際限(さいげん)なき茫々(ばうばう)たる原野(げんや)124猛獣(まうじう)(こゑ)(きこ)えず、125そよ()(かぜ)(ひびき)もなし、126(ただ)(こま)(はな)呼吸(いき)127(ひづめ)(おと)のみ砂地(すなぢ)(くさ)(ぱら)()()(おと)(やはら)かにポカポカと(きこ)ゆるのみであつた。128左手(ゆんで)(かた)の、129コンモリとした小山(こやま)をみれば木立(こだち)(あひだ)からチヨロチヨロと()()えて()る。130梅公(うめこう)は……あの山麓(さんろく)人家(じんか)あり、131(なに)()もあれ()()つて様子(やうす)(さぐ)りみむ……と左手(ゆんで)馬首(ばしゆ)(めぐ)らせば、132(こま)(いきほ)()んで驀進(まつしぐら)(すす)みゆく。133梅公(うめこう)()目当(めあて)(こま)足音(あしおと)(しの)ばせながら、134木蔭(こかげ)(ちか)づき(なが)むれば、135バラモンの落武者(おちむしや)()えて四五(しご)(にん)(あら)くれ(をとこ)136一人(ひとり)美人(びじん)後手(うしろで)(しば)り、137何事(なにごと)荒々(あらあら)しく(さけ)びながら(をんな)(からだ)(ところ)かまはず(むち)にて()()ゑてゐる。138(その)度毎(たびごと)(をんな)はヒイヒイと悲鳴(ひめい)()げ、139(かみ)(ふり)(みだ)し、140無念(むねん)()(くひ)しばり美人(びじん)(なが)らも形相(ぎやうさう)(すさま)じく、141(さすが)梅公(うめこう)(きも)(つぶ)(ばか)りであつた。142梅公(うめこう)は……如何(いか)にもして彼女(かのぢよ)(たす)けてやりたい。143(いま)(かれ)()()ゑたる豺狼(さいらう)餌食(ゑじき)たらむとするのであるか、144あゝ不愍(ふびん)なものだ。145(しか)(なが)(てき)数人(すうにん)荒武者(あらむしや)146自分(じぶん)一人(ひとり)だ。147されど、148(せん)()駿足(しゆんそく)(ちから)として万一(まんいち)失敗(しつぱい)した(とき)一目散(いちもくさん)()()せばよい。149(ひと)(ため)しに(おど)かして()む……と、150密樹(みつじゆ)(かげ)(こま)()馬上(ばじやう)より大音声(だいおんじやう)
151梅公(うめこう)『ウハヽヽヽ、152(それがし)はオーラ(さん)(しづ)まる天降坊(てんかうばう)(まを)大天狗(だいてんぐ)だ。153(なんぢ)()不届(ふとど)至極(しごく)にも、154繊弱(かよわ)婦人(ふじん)(もてあそ)び、155無体(むたい)恋慕(れんぼ)(くはだ)て、156非望(ひばう)()げむとする(につく)曲者(くせもの)157(いま)当山(たうざん)眷族(けんぞく)(ども)報告(はうこく)により、158(なんぢ)()一同(いちどう)悪人(あくにん)(ども)征伐(せいばつ)せむ()め、159(いま)此処(ここ)()(むか)ふたり、160不届者(ふとどきもの)()161其処(そこ)(うご)くな、162ウーウー』
163(うな)()つるや、164寝耳(ねみみ)(みづ)のバラモン(ども)(たちま)()(うしな)ひ、165(をんな)()てて、
166天狗(てんぐ)天狗(てんぐ)だ』
167()ばはり(なが)軍服(ぐんぷく)(ばう)(くつ)168(けん)などを(その)()()ておき、169(おも)(おも)ひに()()つて(しま)つた。
170梅公(うめこう)『アハヽヽヽ。171(あん)相違(さうゐ)弱虫(よわむし)(ども)172(わが)言霊(ことたま)辟易(へきえき)して(もろ)くも()()つたるその可笑(をか)しさ。173ても()ても愉快(ゆくわい)(こと)だわい』
174独語(ひとりご)ちつつ(こま)手綱(たづな)()きしめ()きしめ(をんな)(かたはら)(すす)みより、175ヒラリと(こま)()()りて(をんな)縄目(なはめ)()水筒(すいとう)(みづ)(くち)(ふく)ませ、176(ふた)()(せな)(たた)けば、177ウンと(をんな)呼吸(いき)()きかへし、178梅公(うめこう)(かほ)星影(ほしかげ)()かし()て、
179(をんな)『どうかお(たす)(くだ)さいませ。180(なん)仰有(おつしや)つても(わたし)許嫁(いひなづけ)(ござ)いますから、181()(けが)(こと)出来(でき)ませぬ。182これ(ばか)りは()勘弁(かんべん)(ねが)ひます。183いくらお()(くだ)さいましても(いのち)にかへても(みさを)(まも)らねばなりませぬ』
184()(あは)す。
185梅公(うめこう)『これこれお女中(ぢよちう)186拙者(せつしや)(けつ)してバラモン(ぐん)ではない。187三五教(あななひけう)梅公(うめこう)()(かみ)使(つかひ)だ。188(まへ)さまが大勢(おほぜい)(をとこ)()められて()るのを()るに(しの)びず、189(いのち)(まと)(てき)()()らしてやつたのだ。190安心(あんしん)しなさい。191(けつ)して(みさを)(やぶ)るやうな(こと)(まを)さないから、192安心(あんしん)なさいませ。193こんな(ところ)長居(ながゐ)して()ては(また)もや(てき)引返(ひきかへ)して()るかも()れぬ。194(くは)しき(はなし)途々(みちみち)(うけたま)はりませう。195(わが)(うま)にお()りなさい』
196()ひながら(をんな)(かか)へて自分(じぶん)(とも)(こま)()(またが)り、197(ふたた)(もと)高原(かうげん)西(にし)西(にし)へと(すす)()く。198梅公(うめこう)馬上(ばじやう)ながら(をんな)(むか)つて遭難(さうなん)顛末(てんまつ)(たづ)ねた。
199梅公(うめこう)『これお女中(ぢよちう)さま、200(まへ)さまは、201どうして(また)202こんな(ところ)誘拐(かどわか)されて()たのだ。203(なに)(ふか)(わけ)があらう。204差支(さしつかへ)ない(かぎ)り、205一伍(いちぶ)一什(しじふ)(はな)して(もら)ひたいものだなア』
206(をんな)『ハイ、207()親切(しんせつ)(あづか)りまして、208蔭様(かげさま)危難(きなん)(まぬが)れました。209(わたし)はタライの(むら)花香(はなか)(まを)(むすめ)(ござ)いますが、210二三(にさん)(にち)以前(いぜん)バラモンの軍人(ぐんじん)()(むら)屯営(とんえい)(いた)し、211(その)(さい)(はは)(しば)()げ、212(わたし)無理(むり)無体(むたい)(しば)つて(うま)()()せ、213其処辺(そこら)(ぢう)()(まは)し、214(つひ)にはあの洞ケ丘(ほらがをか)森林(しんりん)(おび)()し、215()つてかかつて獣欲(じうよく)()げむとして()ました(ところ)216貴方(あなた)(さま)がお(いで)(くだ)さつて(あやふ)(ところ)(すく)はれ、217(なん)ともお(れい)(まを)しやうが(ござ)いませぬ』
218梅公(うめこう)(なに)219(まへ)さまが、220花香(はなか)さまか、221(なん)不思議(ふしぎ)(こと)があるものだ。222(じつ)一昨朝(きのうのあさ)(こと)223(まへ)(いへ)()()つて()ればサンヨさまは、224雁字(がんじ)(がら)みに(しば)りつけられ、225眉間(みけん)から()()して、226(むし)(いき)になつて()られた(ところ)227(わが)師匠(ししやう)(さま)照国別(てるくにわけ)(さま)一行(いつかう)がお(すく)(まを)し、228(やうや)全快(ぜんくわい)された。229(その)(とき)にお(まへ)さまの(はなし)()いたのだ。230サンヨさまの仰有(おつしや)るには「(むすめ)到底(たうてい)(いのち)()いものと(あきら)めて()ます。231(しか)(なが)ら、232貴方(あなた)()神徳(しんとく)(むすめ)(すく)うて(くだ)さつたならば、233(むすめ)()(うへ)一切(いつさい)(まか)せする」と(たの)まれました。234(しか)(なが)らお(まへ)さまにはエルソンと()意中(いちう)(をとこ)があるでせう』
235 花香(はなか)(おどろ)いて、
236花香(はなか)『ハイ、237(はは)(まで)(えら)いお世話(せわ)になりましてお(れい)(まを)しやうも(ござ)いませぬ。238そして(はは)(わらは)()(うへ)貴方(あなた)(さま)にお(まか)(まを)しますと(まを)しまして(ござ)いますか』
239梅公(うめこう)(たしか)(たの)まれましたが、240(しか)(なが)其処(そこ)へエルソンさまが見舞(みまひ)()えてサンヨさまに(こころ)(たけ)()()けられたので、241大変(たいへん)にサンヨさまもお(よろこ)びになり、242(まへ)さまが無事(ぶじ)(かへ)つたなら、243きつと夫婦(ふうふ)にしてやらうと()ふお約束(やくそく)出来(でき)()ますよ』
244花香(はなか)『あれまア、245(はは)がそんな(こと)(まを)しましたか。246貴方(あなた)(さま)(わたし)()(うへ)をお(まか)せすると()つたぢや御座(ござ)いませぬか。247()うも(はは)言葉(ことば)として二人(ふたり)(をとこ)(まか)すと()ふのは合点(がつてん)(まゐ)()ねます』
248梅公(うめこう)『ハヽヽヽヽ。249これ花香(はなか)さま、250さう(ふか)(かんが)へてはいけない。251(わたし)宣伝使(せんでんし)252天下(てんか)(また)にかけて旅行(りよかう)するもの、253サンヨさまが、254(わたし)(まか)すと()つたのは、255そんな夫婦(ふうふ)関係(くわんけい)のやうな(ふか)意味(いみ)ぢやない。256(えう)するに……(むすめ)救助(きうじよ)して()れ……と()意味(いみ)だ。257エルソンさまに()はれた(こと)(わたし)()はれた(こと)とは(おほい)意味(いみ)(ちが)ひますよ』
258花香(はなか)『ハイ、259(わか)りました。260(えら)()厄介(やくかい)をかけまして(まこと)()まない(こと)(ござ)います。261(しか)(なが)(わたし)貴方(あなた)(なん)だか(こひ)しく(おも)はれてなりませぬわ』
262梅公(うめこう)『これこれ花香(はなか)さま、263さう脱線(だつせん)してはいけませぬよ。264(いま)貴女(あなた)悪漢(わるもの)にさいなまれて()(とき)265木蔭(こかげ)(かく)れて()いて()れば、266どこ(まで)も……(をんな)(みさを)(やぶ)らない……と()うて、267(いのち)()へて(みさを)(まも)つたぢやありませぬか。268(それ)はきつとエルソンの()めでせう』
269花香(はなか)『いいえ、270エルソンなんか一回(いつくわい)約束(やくそく)した(こと)はありませぬ。271彼方(あちら)(はう)から(なん)とか()とか()うて幾度(いくたび)となく()()られた(こと)(ござ)いますが、272いつとても(てい)よくお(ことわ)りを(まをし)()るのです』
273梅公(うめこう)『そんなら、274貴女(あなた)恋人(こひびと)はまだ(ほか)にあるのですか』
275花香(はなか)『ハイ、276立派(りつぱ)なお(かた)(ただ)一人(ひとり)(ござ)います』
277梅公(うめこう)(その)恋人(こひびと)()ふのは(いま)(なに)をして()られるのですか』
278花香(はなか)『ハイ、279(はづ)かし(なが)(いま)(わたし)一緒(いつしよ)(うま)()つて()られます』
280梅公(うめこう)『ハヽヽヽヽ。281これ花香(はなか)さま、282冗談(じようだん)()つちやいけませぬよ。283貴女(あなた)(わたし)揶揄(からか)つて()るのですな』
284花香(はなか)『イエイエ勿体(もつたい)ない、285(いのち)恩人(おんじん)286(かみ)(あた)へた恋人(こひびと)(たい)し、287どうして揶揄(からかひ)なんぞ(いた)しませう。288(わたし)言葉(ことば)熱血(ねつけつ)より(ほとばし)つて()りますの』
289梅公(うめこう)『どうも合点(がつてん)のゆかぬ(こと)()ひますね』
290花香(はなか)(わらは)()()(ゆめ)(うるは)しき神人(しんじん)()つて()ります。291(その)()(かた)はいつも(うま)(またが)り、292(わたし)山野(さんや)(みちび)いていろいろの教訓(けうくん)をして(くだ)さいますが、293(いま)貴方(あなた)のお(かほ)(をが)みまして、294(はじ)めて(ゆめ)(なか)恋人(こひびと)()へたと(おも)つて(よろこ)びに()えませぬ。295(わたし)(ゆめ)(なか)なる恋人(こひびと)(ふか)(ちぎり)(むす)びました。296(その)(ゆめ)(あら)はれた(かた)貴方(あなた)にそつくりです。297(かほ)()ひお(こゑ)()298(うま)()りかたと()ひ、299この(うま)(まで)がそつくりですもの。300これが()(うたが)はれませう』
301 梅公(うめこう)吐息(といき)をつきながら、
302梅公(うめこう)『ハテナ、303これや(ゆめ)ではあるまいか。304どうも合点(がつてん)のゆかぬ(こと)があるものだ。305宣伝使(せんでんし)のお(とも)をしながら女房(にようばう)()れて(ある)(わけ)にもゆかず、306(こま)つた(こと)出来(でき)たものだなア』
307花香(はなか)『もし貴方(あなた)(うめ)さまと()()ぢや(ござ)いませぬか。308いつも(ゆめ)(なか)で、309梅公(うめこう)さま梅公(うめこう)さまと()つて交際(つきあ)つて()ましたよ』
310梅公(うめこう)成程(なるほど)(わし)()梅公(うめこう)だ。311さうしてお(まへ)さまの()花香(はなか)312三千(さんぜん)世界(せかい)(いち)()(ひら)(うめ)(はな)(かを)りと()(ところ)だなー、313ハヽヽヽヽ。314(なん)だか(わけ)(わか)らなくなつて()ましたわい』
315花香(はなか)貴方(あなた)は……二人(ふたり)(なか)(かみ)(さだ)めた(まこと)夫婦(ふうふ)だ……とお(かん)じになりませぬか』
316梅公(うめこう)『まア(ゆつく)思案(しあん)さして(くだ)さい。317馬上(ばじやう)では(わか)りませぬわ。318何処(どこ)かへ()りて(ゆつく)りと(かんが)へませう。319や、320(さいは)此処(ここ)に、321()場所(ばしよ)がある。322花香(はなか)さま、323貴女(あなた)はこのまま(うま)()つて()(くだ)さい。324(わたし)一寸(ちよつと)鎮魂(ちんこん)をして神勅(しんちよく)(うかが)つて()ませう』
325()(なが)(うま)をヒラリと()びおりた。
326花香(はなか)『もし梅公(うめこう)(さま)327(をんな)(うま)()つて()るのは、328(なん)()(なぞ)(ござ)いませうかな、329一寸(ちよつと)(かんが)へて(くだ)さいな』
330梅公(うめこう)(をんな)(うま)331フン、332成程(なるほど)333(かか)()洒落(しやれ)だな。334かかる不思議(ふしぎ)(こと)開闢(かいびやく)以来(いらい)(たれ)(あぢ)はうたものはあるまい』
335()(なが)双手(もろて)()瞑目(めいもく)して鎮魂(ちんこん)(ぎやう)()つた。336花香(はなか)(うま)をヒラリと()()(かたはら)(おな)じく()して鎮魂(ちんこん)姿勢(しせい)()つた。337無心(むしん)(うま)()(つむ)つて四辺(あたり)(くさ)をむしつて()る。338(しばら)くあつて梅公(うめこう)花香(はなか)(たがひ)(なん)とも()はず、339(ふたた)相乗(あひの)(うま)にて際限(さいげん)もなき広野(くわうや)をオーラ(さん)(みね)目蒐(めが)けて、340野嵐(のあらし)()かれ(なが)(すす)()くのであつた。
341大正一三・一二・一七 旧一一・二一 於祥雲閣 加藤明子録)
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