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第75巻(寅の巻)
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第66巻(巳の巻)
序文
総説
第1篇 月の高原
01 暁の空
〔1683〕
02 祖先の恵
〔1684〕
03 酒浮気
〔1685〕
04 里庄の悩
〔1686〕
05 愁雲退散
〔1687〕
06 神軍義兵
〔1688〕
第2篇 容怪変化
07 女白浪
〔1689〕
08 神乎魔乎
〔1690〕
09 谷底の宴
〔1691〕
10 八百長劇
〔1692〕
11 亞魔の河
〔1693〕
第3篇 異燭獣虚
12 恋の暗路
〔1694〕
13 恋の懸嘴
〔1695〕
14 相生松風
〔1696〕
15 喰ひ違ひ
〔1697〕
第4篇 恋連愛曖
16 恋の夢路
〔1698〕
17 縁馬の別
〔1699〕
18 魔神の囁
〔1700〕
19 女の度胸
〔1701〕
20 真鬼姉妹
〔1702〕
余白歌
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第九章
谷底
(
たにぞこ
)
の
宴
(
えん
)
〔一六九一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻
篇:
第2篇 容怪変化
よみ(新仮名遣い):
ようかいへんげ
章:
第9章 谷底の宴
よみ(新仮名遣い):
たにぞこのえん
通し章番号:
1691
口述日:
1924(大正13)年12月16日(旧11月20日)
口述場所:
祥雲閣
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1926(大正15)年6月29日
概要:
舞台:
オーラ山の谷間
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
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:
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :
rm6609
愛善世界社版:
129頁
八幡書店版:
第11輯 777頁
修補版:
校定版:
129頁
普及版:
67頁
初版:
ページ備考:
001
オーラ
山
(
さん
)
の
谷間
(
たにあひ
)
には
蒼味
(
あをみ
)
だつた
水
(
みづ
)
が、
002
可
(
か
)
なり
広
(
ひろ
)
い
流
(
なが
)
れをなして
静
(
しづか
)
に
流
(
なが
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
003
これより
七八丁
(
しちはつちやう
)
上
(
うへ
)
に
登
(
のぼ
)
ると
非常
(
ひじやう
)
に
嶮
(
けは
)
しい
滝
(
たき
)
の
如
(
ごと
)
き
水流
(
すいりう
)
であるが、
004
最早
(
もはや
)
此
(
この
)
地点
(
ちてん
)
は
水
(
みづ
)
の
流
(
なが
)
れも
緩
(
ゆる
)
やかにして
底
(
そこ
)
も
深
(
ふか
)
く、
005
深
(
ふか
)
い
池水
(
いけみづ
)
のやうな
調子
(
てうし
)
である。
006
この
河
(
かは
)
には
新旧
(
しんきう
)
数多
(
あまた
)
の
船
(
ふね
)
が
無数
(
むすう
)
に
浮
(
う
)
かべられ
運搬用
(
うんぱんよう
)
に
供
(
きよう
)
されて
居
(
ゐ
)
た。
007
日々
(
にちにち
)
四方
(
しはう
)
より
持
(
も
)
ち
運
(
はこ
)
び
来
(
きた
)
る
物品
(
ぶつぴん
)
を
鉄線
(
てつせん
)
と
滑車
(
くわつしや
)
との
作用
(
さよう
)
によりて、
008
天王
(
てんわう
)
の
森
(
もり
)
の
祠
(
ほこら
)
の
床下
(
ゆかした
)
から
逆落
(
さかおと
)
しに
谷間
(
たにあひ
)
へ
落
(
おと
)
し、
009
之
(
これ
)
を
船
(
ふね
)
に
満載
(
まんさい
)
してホールの
隠
(
かく
)
れ
家
(
や
)
に
送
(
おく
)
るのを
乾児
(
こぶん
)
共
(
ども
)
の
仕事
(
しごと
)
として
居
(
ゐ
)
た。
010
沢山
(
たくさん
)
の
乾児
(
こぶん
)
共
(
ども
)
は
奔命
(
ほんめい
)
に
疲
(
つか
)
れ
稍
(
やや
)
倦怠
(
けんたい
)
の
気分
(
きぶん
)
を
生
(
しやう
)
じ、
011
そろそろ
食料
(
しよくれう
)
の
粗悪
(
そあく
)
なるを
憤
(
いきどほ
)
り、
012
二百
(
にひやく
)
名
(
めい
)
計
(
ばか
)
り
同盟
(
どうめい
)
脱退
(
だつたい
)
を
謀
(
はか
)
つてゐた。
013
三千
(
さんぜん
)
の
部下
(
ぶか
)
の
七分
(
しちぶ
)
通
(
どほり
)
は
各地
(
かくち
)
へいろいろのよからぬ
用務
(
ようむ
)
を
帯
(
おび
)
て
散
(
ち
)
らばつて
居
(
ゐ
)
たのである。
014
そこへシーゴーの
親分株
(
おやぶんかぶ
)
がパンクと
共
(
とも
)
に、
015
沢山
(
たくさん
)
の
珍味
(
ちんみ
)
佳肴
(
かかう
)
や、
0151
豊醇
(
ほうじゆん
)
の
酒
(
さけ
)
をつり
下
(
おろ
)
した。
016
ニコニコしながらシーゴーは
一同
(
いちどう
)
に
向
(
むか
)
つて
云
(
い
)
ふ。
017
シーゴー『
皆
(
みな
)
の
乾児
(
こぶん
)
共
(
ども
)
、
018
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
には
大変
(
たいへん
)
な
骨
(
ほね
)
を
折
(
を
)
らした。
019
実
(
じつ
)
に、
020
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
を
初
(
はじ
)
め
吾々
(
われわれ
)
幹部
(
かんぶ
)
は
感謝
(
かんしや
)
をして
居
(
ゐ
)
るのだ。
021
今日
(
けふ
)
は
幸
(
さいは
)
い
沢山
(
たくさん
)
のお
供
(
そな
)
へ
物
(
もの
)
があつたから、
022
腹一杯
(
はらいつぱい
)
美味
(
びみ
)
佳肴
(
かかう
)
を
喰
(
く
)
ひ、
023
酒
(
さけ
)
でも
呑
(
の
)
んで
元気
(
げんき
)
をつけ
大活動
(
だいくわつどう
)
をやつて
貰
(
もら
)
ひたい。
024
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
からも
皆
(
みな
)
の
者
(
もの
)
に
宜
(
よろ
)
しく
伝
(
つた
)
へて
呉
(
く
)
れと
仰有
(
おつしやつ
)
たぞ』
025
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
に
一同
(
いちどう
)
は
今
(
いま
)
迄
(
まで
)
の
不平面
(
ふへいづら
)
は
何処
(
どこ
)
へやら、
026
酒肴
(
しゆかう
)
と
聞
(
き
)
いて
恵比須
(
ゑびす
)
のやうな
顔
(
かほ
)
になり、
027
拍手
(
はくしゆ
)
の
声
(
こゑ
)
は
谷
(
たに
)
の
木魂
(
こだま
)
を
響
(
ひび
)
かせ、
028
雷
(
かみなり
)
の
落
(
お
)
つる
如
(
ごと
)
き
勢
(
いきほひ
)
であつた。
029
パンク『オイ、
030
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
、
031
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
やア ブツブツと
不平
(
ふへい
)
を
漏
(
も
)
らして
居
(
ゐ
)
たが、
032
女帝
(
によてい
)
さまだつて
親分
(
おやぶん
)
さまだつて、
033
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
苦労
(
くらう
)
はよく
御存
(
ごぞん
)
じだ。
034
今日
(
けふ
)
は
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
の
思召
(
おぼしめし
)
で、
035
見
(
み
)
た
事
(
こと
)
もないやうな
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
を
頂
(
いただ
)
くのだから、
036
感謝
(
かんしや
)
したらよからうぞ』
037
甲
(
かふ
)
『オイ、
038
パンクさま、
039
お
前
(
まへ
)
の
骨折
(
ほねをり
)
で
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶり
)
で
結構
(
けつこう
)
な
飲食
(
おんじき
)
にありつくのだ。
040
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
粟
(
あは
)
や
黍
(
きび
)
で
口腹
(
こうふく
)
を
満
(
み
)
たして
居
(
ゐ
)
ても、
041
骨離
(
ほねばな
)
れがしさうで
思
(
おも
)
ふやうな
活動
(
くわつどう
)
が
出来
(
でき
)
なんだが、
042
かう
結構
(
けつこう
)
な
油
(
あぶら
)
をさして
貰
(
もら
)
へば、
043
機関
(
きくわん
)
が
円滑
(
ゑんくわつ
)
に
運転
(
うんてん
)
するだらう。
044
女帝
(
によてい
)
さまに
宜
(
よろ
)
しく
申
(
まを
)
して
呉
(
く
)
れ。
045
一同
(
いちどう
)
を
代表
(
だいへう
)
してお
礼
(
れい
)
を
申
(
まを
)
しておく』
046
パンク『ヨシヨシ、
047
キツト
伝
(
つた
)
へて
置
(
お
)
かう、
048
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
もお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
機嫌
(
きげん
)
の
好
(
よ
)
い
顔
(
かほ
)
を
御覧
(
ごらん
)
になつたら
049
屹度
(
きつと
)
満足
(
まんぞく
)
なさるだらう。
050
シーゴー、
051
玄真坊
(
げんしんばう
)
様
(
さま
)
の
親分
(
おやぶん
)
も
御
(
ご
)
満足
(
まんぞく
)
なり、
052
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
満足
(
まんぞく
)
だ。
053
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
も
大
(
おほ
)
いに
満足
(
まんぞく
)
だらうアハヽヽヽ』
054
と
笑
(
わら
)
ひつつ
女帝
(
によてい
)
の
居室
(
きよしつ
)
を
指
(
さ
)
して
急阪
(
きふはん
)
を
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
055
鯨飲
(
げいいん
)
馬食
(
ばしよく
)
の
宴
(
えん
)
は
無雑作
(
むざふさ
)
に
開
(
ひら
)
かれた。
056
酒
(
さけ
)
がなければ
悄気
(
せうげ
)
返
(
かへ
)
り、
057
青
(
あを
)
い
顔
(
かほ
)
をしてブツブツ
不平
(
ふへい
)
を
漏
(
も
)
らし、
058
酒
(
さけ
)
に
飲
(
くら
)
ひ
酔
(
よ
)
ひ
腹
(
はら
)
が
充
(
み
)
つれば
又
(
また
)
もや
怒
(
おこ
)
つたり、
059
泣
(
な
)
いたり
叫喚
(
わめ
)
いたり
擲
(
なぐ
)
り
合
(
あひ
)
をしたり、
060
何
(
ど
)
うにもかうにも
始末
(
しまつ
)
におへぬガラクタ
計
(
ばか
)
りが
集
(
あつ
)
まつて
居
(
ゐ
)
るのだから、
061
容易
(
ようい
)
な
事
(
こと
)
で
統御
(
とうぎよ
)
は
出来
(
でき
)
ない。
062
泥棒
(
どろばう
)
の
親分
(
おやぶん
)
になるのも
063
嗟
(
あゝ
)
又
(
また
)
難
(
かた
)
い
哉
(
かな
)
である。
064
そろそろ
酔
(
よ
)
ひが
廻
(
まは
)
り
出
(
だ
)
すと
彼処
(
あちら
)
にも
此処
(
こちら
)
にも
濁
(
にご
)
りきつた
言霊戦
(
ことたません
)
が
開始
(
かいし
)
された。
065
甲
(
かふ
)
『オイ
皆
(
みな
)
の
奴
(
やつ
)
、
066
好
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
喰
(
くら
)
うとかぬか、
067
何
(
なん
)
だ、
068
アタ
嫌
(
いや
)
らしい、
069
チヨンチヨンと
舌
(
した
)
打
(
う
)
ちをしやがつて、
070
おまけに
皿
(
さら
)
を
嘗
(
な
)
めたり
箸
(
はし
)
を
舐
(
ね
)
ぶつたり、
071
まるきり
乞食
(
こじき
)
の
所作
(
しよさ
)
ぢやないか、
072
エーン、
073
卑
(
いや
)
しいものだなア。
074
オーラ
川
(
がは
)
の
杭
(
くひ
)
ぢやないが、
075
大食
(
おほぐひ
)
の
長食
(
ながぐひ
)
とは
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
の
事
(
こと
)
だ。
076
褌
(
ふんどし
)
の
河流
(
かはなが
)
れで、
077
食
(
く
)
ひにかかつ
たら
離
(
はな
)
れぬと
云
(
い
)
ふ
代物
(
しろもの
)
だからなア。
078
餓鬼
(
がき
)
みたやうな
奴
(
やつ
)
と
行動
(
かうどう
)
を
共
(
とも
)
にするのは、
079
本当
(
ほんたう
)
に
情
(
なさけ
)
ないわ。
080
チヨツ
081
嫌
(
いや
)
になつて
了
(
しま
)
ふ』
082
乙
(
おつ
)
『ナヽヽ
何
(
なん
)
だ、
083
何
(
なに
)
が
卑
(
いや
)
しいのだい。
084
苟
(
いやし
)
くもオーラ
山
(
さん
)
の
山寨
(
さんさい
)
に
割拠
(
かつきよ
)
するヨリコ
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
の
吾々
(
われわれ
)
は
輩下
(
はいか
)
だ。
085
まるで
塵
(
ちり
)
埃
(
ほこり
)
を
箒
(
はうき
)
で
掃
(
は
)
くやうな
事
(
こと
)
を
吐
(
ぬか
)
すと
086
此方
(
こつち
)
にも
了見
(
れうけん
)
があるぞ』
087
甲
(
かふ
)
『アハヽヽヽ、
088
その
了見
(
れうけん
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
はうかい』
089
丙
(
へい
)
『(浄瑠璃)
計略
(
けいりやく
)
と
云
(
い
)
ひ
義心
(
ぎしん
)
と
云
(
い
)
ひ、
090
かほどの
臣
(
けらい
)
を
持
(
も
)
ち
乍
(
なが
)
ら、
091
了見
(
れうけん
)
もあるべきに、
092
浅
(
あさ
)
き
企
(
たく
)
みの
塩谷
(
えんや
)
殿
(
どの
)
、
093
今
(
いま
)
の
忠義
(
ちうぎ
)
を
戦場
(
せんぢやう
)
の、
094
御
(
おん
)
馬前
(
うまさき
)
にて
尽
(
つく
)
さばやと、
095
思
(
おも
)
へば
無念
(
むねん
)
に
閉
(
と
)
ぢふさがる、
096
胸
(
むね
)
は
七重
(
ななへ
)
の
門
(
もん
)
の
戸
(
と
)
も、
097
漏
(
も
)
るるは
涙
(
なみだ
)
計
(
ばか
)
りなり、
098
ジヤン、
099
ジヤンジヤン、
100
アハヽヽ。
101
オイ
甲
(
かふ
)
、
102
乙
(
おつ
)
、
103
歌
(
うた
)
でも
謡
(
うた
)
つて
機嫌
(
きげん
)
を
直
(
なほ
)
したらどうだ。
104
結構
(
けつこう
)
な
酒
(
さけ
)
を
頂
(
いただ
)
いて
小言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
ふと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか、
105
冥加
(
みやうが
)
知
(
し
)
らずの
奴
(
やつ
)
だなア。
106
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
のお
志
(
こころざし
)
を
何
(
なん
)
と
心得
(
こころえ
)
て
居
(
ゐ
)
るんだ』
107
甲
(
かふ
)
『エー、
108
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しやがるのだ。
109
女帝
(
によてい
)
の
志
(
こころざし
)
が
聞
(
き
)
いて
呆
(
あき
)
れるわ。
110
自分
(
じぶん
)
が
計略
(
けいりやく
)
をもつて
愚夫
(
ぐふ
)
愚婦
(
ぐふ
)
の
懐中
(
くわいちう
)
を
捲
(
まき
)
あげ、
111
そして
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
に
振舞
(
ふるま
)
つてやるのなんのとは
おとまし
いわい。
112
自分
(
じぶん
)
が
汗
(
あせ
)
膏
(
あぶら
)
を
流
(
なが
)
して
造
(
つく
)
つた
飲食
(
おんじき
)
でもあるまいし、
113
譬
(
たとへ
)
て
言
(
い
)
へば
114
此
(
この
)
川
(
かは
)
の
中
(
なか
)
に
入
(
はい
)
つて
115
お
前
(
まへ
)
と
俺
(
おれ
)
とが
水
(
みづ
)
を
浴
(
あ
)
びて
居
(
ゐ
)
る
時
(
とき
)
、
116
其
(
その
)
手許
(
てもと
)
から
水
(
みづ
)
を
掬
(
すく
)
つて
俺
(
おれ
)
の
口
(
くち
)
へ
入
(
い
)
れて
呉
(
く
)
れたやうなものだ』
117
丙
(
へい
)
『そんな
水臭
(
みづくさ
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふない。
118
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
に
聞
(
きこ
)
えたらどうするのだ』
119
甲
(
かふ
)
『
聞
(
きこ
)
えたらどうだい。
120
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
もそつと
物
(
もの
)
した
物
(
もの
)
を、
121
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
にものして
呉
(
く
)
れる
丈
(
だけ
)
の
事
(
こと
)
ぢやないか。
122
いつも
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
に
働
(
はたら
)
かして
其
(
その
)
上前
(
うはまへ
)
をとり、
123
大将然
(
たいしやうぜん
)
と
構
(
かま
)
へて
居
(
を
)
るのだから、
124
地部下
(
ぢぶした
)
の
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
耐
(
たま
)
らないわ。
125
たまに
酒
(
さけ
)
の
一杯
(
いつぱい
)
や
二杯
(
にはい
)
呑
(
の
)
まして
呉
(
く
)
れたつて
恩
(
おん
)
に
着
(
き
)
る
理由
(
りいう
)
もなし、
126
又
(
また
)
恩
(
おん
)
に
着
(
き
)
せる
理由
(
りいう
)
も
無
(
な
)
いのだ。
127
つまり、
128
要
(
えう
)
するに、
129
結局
(
けつきよく
)
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
物
(
もの
)
して、
1291
来
(
き
)
た
物
(
もの
)
を
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
喰
(
く
)
うやうなものぢや。
130
部下
(
ぶか
)
に
命
(
いのち
)
掛
(
が
)
けの
仕事
(
しごと
)
をさして
置
(
お
)
いて、
131
自分
(
じぶん
)
は
高
(
たか
)
い
所
(
ところ
)
にとまり、
132
吾々
(
われわれ
)
を
頤
(
あご
)
で
使
(
つか
)
ひ、
133
女帝
(
によてい
)
だの
何
(
なん
)
のとほんとに
忌々
(
いまいま
)
しいぢやないか。
134
鰌
(
どぢやう
)
か
何
(
なん
)
ぞのやうに
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
不平
(
ふへい
)
の
虫
(
むし
)
を
酒
(
さけ
)
で
殺
(
ころ
)
さうと
思
(
おも
)
つたつて、
135
そんな
奸策
(
かんさく
)
に
乗
(
の
)
る
奴
(
やつ
)
があるか。
136
俺
(
おれ
)
や
137
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
めと
吐
(
ぬか
)
しやがつた
時
(
とき
)
にや、
138
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
の
癇癪
(
かんしやく
)
の
虫
(
むし
)
がグルグルと
喉元
(
のどもと
)
で
鳴
(
な
)
りやがつて、
139
手
(
て
)
を
出
(
だ
)
しよつたのだ。
140
アタ
味
(
あぢ
)
なくも
無
(
な
)
い
酒
(
さけ
)
を
滅多
(
めつた
)
矢鱈
(
やたら
)
に
強
(
しひ
)
られて、
141
俺
(
おれ
)
だつて
耐
(
たま
)
つたものぢやない。
142
其辺
(
そこら
)
の
山
(
やま
)
も
木
(
き
)
も
岩
(
いは
)
も
草
(
くさ
)
も、
143
天手古
(
てんてこ
)
舞
(
まひ
)
をさらすなり、
144
俺
(
おれ
)
の
体
(
からだ
)
は
宙
(
ちう
)
に
捲
(
ま
)
き
上
(
あ
)
げらるるなり、
145
本当
(
ほんたう
)
にひどい
目
(
め
)
に
合
(
あ
)
はすぢやないか。
146
エヽ
怪体
(
けつたい
)
の
悪
(
わる
)
い、
147
もう
之
(
これ
)
から
酒
(
さけ
)
などは
一杯
(
いつぱい
)
も
呑
(
の
)
んでやらぬわい、
148
とは
云
(
い
)
はぬわい』
149
乙
(
おつ
)
『エヘヽヽヽ、
150
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが、
151
俺
(
おれ
)
は
結構
(
けつこう
)
な
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ひ、
152
脂肪
(
あぶらつ
)
濃
(
こ
)
い
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
に
預
(
あづ
)
かつて
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
へぬ
気分
(
きぶん
)
だ。
153
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
脂肪気
(
あぶらけ
)
の
多
(
おほ
)
い
食物
(
しよくもつ
)
は
些
(
ちつと
)
ひつこい
な』
154
丙
(
へい
)
『さうだ
155
一寸
(
ちよつと
)
ひつこい
はひつこいが、
156
併
(
しか
)
しひつこう
甘
(
うま
)
いぢやないか、
157
俺
(
おれ
)
はもうグンドサが
破裂
(
はれつ
)
しさうだ。
158
どうれ
159
パサパーナでもやつてこうかな』
160
と
言
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
らうとして
目
(
め
)
が
眩
(
くら
)
み、
161
又
(
また
)
もやドスンと
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
腰
(
こし
)
を
下
(
お
)
ろした。
162
甲
(
かふ
)
『
何
(
なん
)
だ
其
(
その
)
態
(
ざま
)
ア、
163
腰
(
こし
)
も
何
(
なに
)
も
脱
(
ぬ
)
けて
居
(
ゐ
)
るぢやないか』
164
丙
(
へい
)
『
何
(
なに
)
、
165
今
(
いま
)
御輿
(
みこし
)
を
下
(
お
)
ろした
所
(
ところ
)
だ。
166
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら、
167
かう
足
(
あし
)
の
立
(
た
)
たぬ
所
(
ところ
)
迄
(
まで
)
結構
(
けつこう
)
な
酒肴
(
しゆかう
)
を
頂
(
いただ
)
いて、
168
精神
(
せいしん
)
正
(
まさ
)
に
恍惚
(
くわうこつ
)
とし、
169
天国
(
てんごく
)
に
遊
(
あそ
)
ぶやうな
気分
(
きぶん
)
になつたのも、
170
皆
(
みんな
)
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
のお
蔭
(
かげ
)
だよ。
171
よく
考
(
かんが
)
へて
見
(
み
)
よ、
172
シーゴーの
奴
(
やつ
)
が
大親分
(
おほおやぶん
)
として
威張
(
ゐば
)
つてけつかつた
時
(
とき
)
は
自分
(
じぶん
)
計
(
ばか
)
り
喰
(
く
)
つて、
173
手下
(
てした
)
の
奴
(
やつ
)
には
酒
(
さけ
)
一杯
(
いつぱい
)
も
飲
(
の
)
めとは
吐
(
ぬか
)
しやがらなかつたぢやないか。
174
ヨリコ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
が
大親分
(
おほおやぶん
)
に
取
(
と
)
つて
代
(
かは
)
られてから、
175
直
(
すぐ
)
様
(
さま
)
かふいふ
結構
(
けつこう
)
な
御
(
ご
)
馳走
(
ちそう
)
を
下
(
くだ
)
さつたのだ。
176
それを
思
(
おも
)
へば
今度
(
こんど
)
の
女帝
(
によてい
)
様
(
さま
)
は、
177
吾々
(
われわれ
)
に
対
(
たい
)
する
慈母
(
じぼ
)
だ。
178
拝
(
をが
)
み
奉
(
たてまつ
)
らぬと
罰
(
ばち
)
が
当
(
あた
)
るぞよ、
179
バヽ
罰
(
ばち
)
が……』
180
甲
(
かふ
)
『
何
(
なに
)
、
181
さう
有難
(
ありがた
)
がるには
及
(
およ
)
ばないわ。
182
あいつ
等
(
ら
)
は
鮟鱇
(
あんかう
)
に
海月
(
くらげ
)
に
鰐
(
わに
)
の
集合
(
しふがふ
)
団隊
(
だんたい
)
だから、
183
終
(
しまひ
)
の
果
(
はて
)
には
吾々
(
われわれ
)
をよい
食物
(
くひもの
)
にしやがるのだ。
184
それだから
俺
(
おれ
)
が
最初
(
さいしよ
)
に、
185
もう
脱退
(
だつたい
)
しようと
云
(
い
)
つたぢやないか』
186
乙
(
おつ
)
『
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
親分
(
おやぶん
)
が、
187
鮟鱇
(
あんかう
)
だとか、
1871
鰐
(
わに
)
だとか
海月
(
くらげ
)
だとか
貴様
(
きさま
)
は
云
(
い
)
ふが、
188
一体
(
いつたい
)
鮟鱇
(
あんかう
)
と
云
(
い
)
ふのは
誰
(
たれ
)
だい』
189
甲
(
かふ
)
『ヘン、
190
分
(
わか
)
らぬ
奴
(
やつ
)
だなア、
191
女帝
(
によてい
)
が
鮟鱇
(
あんかう
)
で、
192
玄真坊
(
げんしんばう
)
が
鰐
(
わに
)
でシーゴーの
奴
(
やつ
)
が
海月
(
くらげ
)
だ。
193
鮟鱇
(
あんかう
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
はな、
194
沼
(
ぬま
)
の
底
(
そこ
)
や
海
(
うみ
)
の
底
(
そこ
)
にじつと
潜伏
(
せんぷく
)
しやがつて、
195
頭
(
あたま
)
から
細
(
ほそ
)
い
細
(
ほそ
)
い
糸
(
いと
)
の
様
(
やう
)
な
物
(
もの
)
を
水面
(
すいめん
)
にニユツと
泛
(
う
)
かべ、
196
其
(
その
)
先
(
さき
)
に
花
(
はな
)
とも
虫
(
むし
)
とも
分
(
わか
)
らぬやうな
肉塊
(
にくくわい
)
をつけ、
197
いろいろの
魚
(
うを
)
が
好
(
い
)
い
餌
(
ゑ
)
があると
思
(
おも
)
つて
其
(
その
)
肉塊
(
にくくわい
)
を
喰
(
く
)
ひに
往
(
ゆ
)
くと、
198
チクチクと
綱
(
つな
)
を
手繰
(
たぐり
)
、
199
自分
(
じぶん
)
の
口
(
くち
)
に
来
(
き
)
た
時
(
とき
)
にガブリとやるのだ。
200
今
(
いま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
にはこの
鮟鱇
(
あんかう
)
に
似
(
に
)
たやうな
奴
(
やつ
)
が、
201
女帝
(
によてい
)
のみならず
沢山
(
たくさん
)
居
(
ゐ
)
るよ。
202
さういふ
代物
(
しろもの
)
を
称
(
しよう
)
して
鮟鱇
(
あんかう
)
主義
(
しゆぎ
)
の
生活
(
せいくわつ
)
と
云
(
い
)
ふのだ』
203
乙
(
おつ
)
『ハヽヽヽヽ、
204
そいつは
面白
(
おもしろ
)
い。
205
そして
玄真坊
(
げんしんばう
)
の
鰐
(
わに
)
の
理由
(
りいう
)
を
聞
(
き
)
かして
呉
(
く
)
れい』
206
甲
(
かふ
)
『ヨシ、
207
聞
(
き
)
かしてやらう、
208
何
(
なん
)
でも
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
分
(
わか
)
らない
事
(
こと
)
があつたら、
209
俺
(
おれ
)
に
聞
(
き
)
くのだな。
210
抑
(
そもそも
)
鰐
(
わに
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は、
211
体
(
からだ
)
にも
似合
(
にあ
)
はぬ
大
(
おほ
)
きな
口
(
くち
)
をしやがつて
其
(
その
)
口
(
くち
)
の
中
(
なか
)
に
木
(
き
)
の
片
(
はしくれ
)
や
枯枝
(
かれえだ
)
なんかを
一
(
いつ
)
ぱい
詰
(
つ
)
め、
212
小魚
(
こうを
)
どもがよい
隠
(
かく
)
れ
家
(
が
)
があると
思
(
おも
)
つて
悠々
(
いういう
)
と
這入
(
はい
)
つて
来
(
く
)
る
奴
(
やつ
)
をソツと
舌
(
した
)
を
出
(
だ
)
してグイグイと
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
へ
引
(
ひ
)
つ
張
(
ぱ
)
り
込
(
こ
)
み、
213
自分
(
じぶん
)
の
腹
(
はら
)
を
肥
(
こや
)
す
奴
(
やつ
)
だ。
214
あの
大杉
(
おほすぎ
)
の
木
(
き
)
の
下
(
した
)
に
陣
(
ぢん
)
を
構
(
かまへ
)
て、
215
寄
(
よ
)
つて
来
(
く
)
る
有象
(
うざう
)
無象
(
むざう
)
や、
216
小雑魚
(
こざこ
)
などを
引張
(
ひつぱ
)
り
込
(
こ
)
むやり
方
(
かた
)
と
云
(
い
)
ふものは、
217
まるで
鰐
(
わに
)
そつくりぢやないか』
218
乙
(
おつ
)
『ウン
成程
(
なるほど
)
、
219
こいつは
面白
(
おもしろ
)
い、
220
序
(
ついで
)
に、
221
シーゴー
親分
(
おやぶん
)
が
海月
(
くらげ
)
だと
云
(
い
)
ふ
因縁
(
いんねん
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
はうかい』
222
甲
(
かふ
)
『
海月
(
くらげ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は
骨
(
ほね
)
も
無
(
な
)
ければ、
223
ロクに
顔
(
かほ
)
も
無
(
な
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
224
そして
長
(
なが
)
たらしい
尾
(
を
)
を
幾条
(
いくすぢ
)
も
幾条
(
いくすぢ
)
も
引
(
ひ
)
きづりやがつて
浪
(
なみ
)
のまにまに
漂
(
ただよ
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
225
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
のやうな
小雑魚
(
こざこ
)
を
沢山
(
たくさん
)
に
丸
(
まる
)
い
笠
(
かさ
)
の
下
(
した
)
に
隠
(
かく
)
し、
226
親分
(
おやぶん
)
気取
(
きどり
)
で
保護
(
ほご
)
して
居
(
ゐ
)
やがるのだ。
227
さうすると
些
(
ちつと
)
計
(
ばか
)
り
大
(
おほ
)
きな
魚
(
うを
)
が、
228
その
小魚
(
こうを
)
を
取
(
と
)
らうと
思
(
おも
)
つて
海月
(
くらげ
)
に
近
(
ちか
)
づいてくるのだ。
229
さうすると
海月
(
くらげ
)
の
奴
(
やつ
)
ぬるぬるとした
紐
(
ひも
)
でクルクルとしめつけ、
230
頭
(
あたま
)
から
食
(
く
)
うと
云
(
い
)
ふ
代物
(
しろもの
)
だ。
231
そこで
小雑魚
(
こざこ
)
は
海月
(
くらげ
)
の
奴
(
やつ
)
に
守
(
まも
)
られ、
232
些
(
すこ
)
し
大
(
おほ
)
きな
魚
(
うを
)
は
海月
(
くらげ
)
の
奴
(
やつ
)
に
喰
(
く
)
はれるのだ。
233
吾々
(
われわれ
)
だつて
今
(
いま
)
は
小雑魚
(
こざこ
)
の
身分
(
みぶん
)
だから
親分
(
おやぶん
)
の
傘下
(
さんか
)
に
保護
(
ほご
)
されて
居
(
ゐ
)
るのだが、
234
些
(
すこ
)
し
大
(
おほ
)
きくなつて
頭
(
あたま
)
を
擡
(
もた
)
げて
見
(
み
)
い、
235
屹度
(
きつと
)
唯
(
ただ
)
では
置
(
お
)
かない。
236
親分
(
おやぶん
)
だつて、
237
これを
思
(
おも
)
ふと
前途
(
ぜんと
)
闇黒
(
あんこく
)
になつて、
238
嫌
(
いや
)
になつて
仕舞
(
しま
)
ふわ。
239
今
(
いま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
形式
(
けいしき
)
こそ
変
(
かは
)
れ、
240
こんな
奴
(
やつ
)
ばかりだ。
241
海月
(
くらげ
)
生活
(
せいくわつ
)
、
242
鰐
(
わに
)
生活
(
せいくわつ
)
、
243
鮟鱇
(
あんかう
)
生活
(
せいくわつ
)
と
人
(
ひと
)
の
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るのは、
244
大略
(
だいりやく
)
右様
(
みぎやう
)
のやり
方
(
かた
)
をやる
人間
(
にんげん
)
の
事
(
こと
)
だ。
245
エヽ
怪体
(
けつたい
)
の
悪
(
わる
)
い、
246
折角
(
せつかく
)
呑
(
の
)
んだ
酒
(
さけ
)
迄
(
まで
)
醒
(
さ
)
めて
了
(
しま
)
つた。
247
オイ
乙
(
おつ
)
、
248
一杯
(
いつぱい
)
俺
(
おれ
)
につがないか』
249
乙
(
おつ
)
『サアサア
250
呑
(
の
)
んだり
呑
(
の
)
んだり』
251
甲
(
かふ
)
『オツトツトツトツ、
252
こぼれるこぼれる。
253
矢張
(
やつぱり
)
酒
(
さけ
)
の
香
(
か
)
は
有難
(
ありがた
)
いものだなア。
254
イヒヽヽヽヽ』
255
と
肩
(
かた
)
を
揺
(
ゆ
)
する。
256
一方
(
いつぱう
)
の
方
(
はう
)
には
泣
(
な
)
いたり
笑
(
わら
)
つたり
怒
(
おこ
)
つたり、
257
廻
(
まは
)
らぬ
舌
(
した
)
の
面白
(
おもしろ
)
い
歌
(
うた
)
が
初
(
はじ
)
まつて
居
(
ゐ
)
る。
258
『オーラの
山
(
やま
)
に
鬼
(
おに
)
が
出
(
で
)
た
259
出
(
で
)
た
出
(
で
)
た
出
(
で
)
た
出
(
で
)
た
鬼
(
おに
)
が
出
(
で
)
た
260
このまた
鬼
(
おに
)
の
素性
(
すじやう
)
をば
261
調
(
しら
)
べて
見
(
み
)
れば
月
(
つき
)
の
国
(
くに
)
262
ハルナの
都
(
みやこ
)
に
蟠
(
わだかま
)
る
263
妖幻坊
(
えうげんばう
)
の
片腕
(
かたうで
)
と
264
羽振
(
はぶり
)
利
(
き
)
かした
曲津
(
まがつ
)
神
(
かみ
)
265
玄真坊
(
げんしんばう
)
やシーゴーの
266
両
(
りやう
)
親分
(
おやぶん
)
に
取
(
と
)
りついて
267
バルガン
城
(
じやう
)
をば
占領
(
せんりやう
)
し
268
天下
(
てんか
)
を
乱
(
みだ
)
し
人種
(
ひとだね
)
を
269
絶
(
た
)
やして
曲津
(
まがつ
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に
270
転覆
(
てんぷく
)
せむとの
企
(
たく
)
み
事
(
ごと
)
271
さはさりながら
俺
(
おれ
)
も
亦
(
また
)
272
今
(
いま
)
は
曲津
(
まがつ
)
の
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
273
百姓
(
ひやくしやう
)
するにも
道具
(
だうぐ
)
なし
274
商売
(
しやうばい
)
するにも
資本
(
もとで
)
なし
275
肝腎要
(
かんじんかなめ
)
の
妻
(
つま
)
も
子
(
こ
)
も
276
親
(
おや
)
さへもなき
吾々
(
われわれ
)
は
277
一層
(
いつそう
)
気楽
(
きらく
)
な
泥棒業
(
どろばうげふ
)
278
元
(
もと
)
から
悪
(
あく
)
とは
知
(
し
)
り
乍
(
なが
)
ら
279
食
(
く
)
はず
呑
(
の
)
まぬが
悲
(
かな
)
しさに
280
善
(
ぜん
)
の
心
(
こころ
)
を
立直
(
たてなほ
)
し
281
悪魔
(
あくま
)
の
乾児
(
こぶん
)
となり
下
(
さが
)
り
282
一寸先
(
いつすんさき
)
は
暗
(
やみ
)
の
夜
(
よ
)
で
283
其日
(
そのひ
)
々々
(
そのひ
)
を
送
(
おく
)
るのだ
284
バラモン
教
(
けう
)
の
教
(
をしへ
)
には
285
人
(
ひと
)
の
物
(
もの
)
をば
盗
(
ぬす
)
んだり
286
人
(
ひと
)
を
痛
(
いた
)
めておいたなら
287
未来
(
みらい
)
は
地獄
(
ぢごく
)
に
落
(
お
)
ちるぞと
288
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れども
如何
(
いか
)
にせむ
289
背
(
せ
)
に
腹
(
はら
)
は
替
(
か
)
へられぬ
290
ウントコドツコイドツコイシヨ
291
ヨイトサノサ、ヨーイヤサだ』
292
甲
(
かふ
)
『ダヽヽ
誰
(
たれ
)
だい、
293
そんな
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
不穏
(
ふおん
)
な
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
すと、
294
鮟鱇
(
あんかう
)
さまに
申
(
まをし
)
上
(
あ
)
げるぞ』
295
丁
(
てい
)
『ナヽ
何
(
なん
)
だ。
296
喧
(
やかま
)
しう
云
(
い
)
ふない。
297
俺
(
おれ
)
や
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
脱退
(
だつたい
)
するのだから、
298
もはや
女帝
(
によてい
)
の
権力
(
けんりよく
)
も
俺
(
おれ
)
にや
及
(
およ
)
ぶまい。
299
云
(
い
)
ひ
度
(
た
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
うて
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
まなけりや、
300
日頃
(
ひごろ
)
の
欝憤
(
うつぷん
)
が
晴
(
は
)
れないぢやないか、
301
貴様
(
きさま
)
は
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
鮟鱇
(
あんかう
)
に
盲従
(
まうじゆう
)
する
積
(
つも
)
りか、
302
よい
馬鹿
(
ばか
)
ぢやなア、
303
エヘヽヽヽ』
304
数多
(
あまた
)
の
部下
(
ぶか
)
は
思
(
おも
)
ひ
思
(
おも
)
ひの
小言
(
こごと
)
をつきながら、
305
日
(
ひ
)
の
暮
(
く
)
るる
迄
(
まで
)
此
(
この
)
谷間
(
たにあひ
)
に
酒
(
さけ
)
に
浸
(
ひた
)
り、
306
思
(
おも
)
はぬ
睾丸
(
きんたま
)
の
皺
(
しわ
)
のばしをやつて
居
(
ゐ
)
た。
307
(
大正一三・一二・一六
旧一一・二〇
於祥雲閣
加藤明子
録)
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