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第75巻(寅の巻)
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第27巻(寅の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 聖地の秋
01 高姫館
〔783〕
02 清潔法
〔784〕
03 魚水心
〔785〕
第2篇 千差万別
04 教主殿
〔786〕
05 玉調べ
〔787〕
06 玉乱
〔788〕
07 猫の恋
〔789〕
第3篇 神仙霊境
08 琉と球
〔790〕
09 女神託宣
〔791〕
10 太平柿
〔792〕
11 茶目式
〔793〕
第4篇 竜神昇天
12 湖上の怪物
〔794〕
13 竜の解脱
〔795〕
14 草枕
〔796〕
15 情意投合
〔797〕
第5篇 清泉霊沼
16 琉球の神
〔798〕
17 沼の女神
〔799〕
18 神格化
〔800〕
余白歌
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第三章
魚水心
(
ぎよすゐしん
)
〔七八五〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第27巻 海洋万里 寅の巻
篇:
第1篇 聖地の秋
よみ(新仮名遣い):
せいちのあき
章:
第3章 魚水心
よみ(新仮名遣い):
ぎょすいしん
通し章番号:
785
口述日:
1922(大正11)年07月22日(旧閏05月28日)
口述場所:
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年6月20日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高姫、黒姫、高山彦は、夏彦、常彦と夕餉を済ませてひそひそ話にふけっている。高姫は夏彦と常彦に、麻邇の宝珠の神業の様子を尋ねた。そして、黄竜姫、蜈蚣姫、友彦、テールス姫らの手柄を聞いて、憤慨する。
そして、玉が聖地に来たのも自分たちを守護する日の出神と竜宮の乙姫のはからいだと嘯き出す。常彦は、それだから言依別教主は、高姫と黒姫が来ないと玉をお披露目できないと言って、二人が来るのを待っているのだ、と高姫に伝えた。
高姫は相好を崩して、言依別もこのごろはやっと出来てきた、と独りごちる。そして、それなら言依別の方からこちらにやってきて、懇願するべきだとまた嘯き出す。夏彦は、なんとか理屈をつけて、高姫・黒姫を動かそうと説得する。
話は杢助の話になり、高姫は杢助をけなし出す。夏彦はそれに同調する振りをして、杢助の本心を高姫・黒姫に諭そうと、たとえ話で説得する。
常彦は、国依別に石魚を持ってこさせたのも、実は言依別教主の指図で、それは高姫・黒姫がまだ寛大な心になっていないのではないか、という懸念から、それを試そうとしたのだ、と明かした。
高姫は、そんな心配は無用だと憤慨し、そこまで言うなら自分の大精神を見せてやる、と言って教主館に行くことをほとんど承諾した。
そこへ外から宣伝歌が聞こえて来て、亀彦が高姫館の門を叩いた。高姫は、今日は来客があるからと言って亀彦を帰した。高姫、黒姫、高山彦は、亀彦も国依別の計略の片棒をかついで後ろめたいのだろう、と笑っている。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-10-22 20:41:41
OBC :
rm2703
愛善世界社版:
63頁
八幡書店版:
第5輯 264頁
修補版:
校定版:
65頁
普及版:
26頁
初版:
ページ備考:
001
高姫
(
たかひめ
)
、
002
黒姫
(
くろひめ
)
、
003
高山彦
(
たかやまひこ
)
、
004
夏彦
(
なつひこ
)
、
005
常彦
(
つねひこ
)
の
五
(
ご
)
人
(
にん
)
は、
006
四方山
(
よもやま
)
の
話
(
はなし
)
に
耽
(
ふけ
)
り
乍
(
なが
)
ら
晩餐
(
ばんさん
)
を
済
(
す
)
ませ、
007
窓
(
まど
)
を
開
(
あ
)
けて
月
(
つき
)
を
拝
(
はい
)
し
乍
(
なが
)
ら、
008
ヒソヒソ
話
(
ばなし
)
に
耽
(
ふけ
)
つてゐる。
009
高姫
(
たかひめ
)
『
夏彦
(
なつひこ
)
、
010
常彦
(
つねひこ
)
さま、
011
お
前
(
まへ
)
さまは
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
に
随
(
つ
)
いて、
012
五色
(
いついろ
)
の
御玉
(
みたま
)
を
御
(
お
)
迎
(
むか
)
へに
秋山彦
(
あきやまひこ
)
の
館
(
やかた
)
まで
往
(
い
)
つたぢやありませぬか』
013
夏彦
(
なつひこ
)
『ハイ
行
(
ゆ
)
きました。
014
それはそれは
御
(
ご
)
立派
(
りつぱ
)
な
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いましたよ。
015
なんでも
初稚姫
(
はつわかひめ
)
、
016
玉能姫
(
たまのひめ
)
、
017
玉治別
(
たまはるわけ
)
、
018
久助
(
きうすけ
)
、
019
お
民
(
たみ
)
の
五
(
ご
)
人
(
にん
)
さまが、
020
竜宮
(
りうぐう
)
の
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
の
諏訪
(
すは
)
の
湖
(
みづうみ
)
の
竜
(
たつ
)
の
宮居
(
みやゐ
)
とかで、
021
乙姫
(
おとひめ
)
さまから
五色
(
いついろ
)
の
結構
(
けつこう
)
な
玉
(
たま
)
を
御
(
お
)
頂
(
いただ
)
きなされ、
022
それを
自分
(
じぶん
)
の
手柄
(
てがら
)
にするのも
勿体
(
もつたい
)
ないと
云
(
い
)
ふ
御
(
ご
)
精神
(
せいしん
)
から、
023
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さまは
紫
(
むらさき
)
の
玉
(
たま
)
を
梅子姫
(
うめこひめ
)
様
(
さま
)
に
御
(
お
)
渡
(
わた
)
し
遊
(
あそ
)
ばされ、
024
それに
倣
(
なら
)
うて
四人
(
よつたり
)
の
御
(
お
)
方
(
かた
)
は
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
、
025
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
、
026
友彦
(
ともひこ
)
、
027
テールス
姫
(
ひめ
)
にその
玉
(
たま
)
を
無言
(
むごん
)
の
儘
(
まま
)
渡
(
わた
)
されたといふ
事
(
こと
)
です。
028
人間
(
にんげん
)
も、
029
アー
云
(
い
)
ふ
工合
(
ぐあひ
)
に
私
(
わたくし
)
を
捨
(
す
)
て
譲
(
ゆづ
)
り
合
(
あ
)
つて
行
(
ゆ
)
けば、
030
何事
(
なにごと
)
も
円満
(
ゑんまん
)
に
行
(
ゆ
)
くのですがなア』
031
高姫
(
たかひめ
)
『
何
(
なに
)
ツ、
032
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
や
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
、
033
彼
(
あ
)
の
友彦
(
ともひこ
)
にテールス
姫
(
ひめ
)
、
034
彼
(
あ
)
んな
輩
(
やから
)
がそんな
御用
(
ごよう
)
をしましたかい。
035
何程
(
なにほど
)
人物
(
じんぶつ
)
払底
(
ふつてい
)
だと
云
(
い
)
つても、
036
あんまり
酷
(
ひど
)
いぢやありませぬか。
037
さうしてその
玉
(
たま
)
は
今
(
いま
)
聖地
(
せいち
)
に
納
(
をさ
)
まつてあるだらうな。
038
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
さまの
肉
(
にく
)
の
宮
(
みや
)
、
039
黒姫
(
くろひめ
)
さまが
此処
(
ここ
)
に
御座
(
ござ
)
るのだから、
040
謂
(
ゐ
)
はば
黒姫
(
くろひめ
)
さまが
二三
(
にさん
)
年
(
ねん
)
も
竜宮
(
りうぐう
)
の
島
(
しま
)
に
渡
(
わた
)
つて
御
(
お
)
仕組
(
しぐみ
)
をして
置
(
お
)
かれたのだ。
041
それも
此
(
こ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
が
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
都合
(
つがふ
)
で、
042
黒姫
(
くろひめ
)
さまを
聖地
(
せいち
)
から
追出
(
おひだ
)
したのが
矢張
(
やつぱり
)
御用
(
ごよう
)
になつて
居
(
ゐ
)
るのだ。
043
そんな
事
(
こと
)
の
分
(
わか
)
つた
奴
(
やつ
)
は
一人
(
ひとり
)
も
有
(
あ
)
りますまい。
044
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても
杢助
(
もくすけ
)
のやうな
没分暁漢
(
わからずや
)
が
総務
(
そうむ
)
さまだからね』
045
夏彦
(
なつひこ
)
『それは
誰
(
たれ
)
もよく
存
(
ぞん
)
じて
居
(
を
)
ります。
046
これは
全
(
まつた
)
く
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまや、
047
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
蔭
(
かげ
)
で
授
(
さづ
)
かつたのだと
云
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
ますで』
048
高姫
(
たかひめ
)
『それは
定
(
きま
)
つて
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
049
併
(
しか
)
し
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
肉
(
にく
)
の
宮
(
みや
)
と、
050
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
さまの
肉
(
にく
)
の
宮
(
みや
)
は、
051
何方
(
どなた
)
ぢやと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
らねば
駄目
(
だめ
)
ですよ』
052
常彦
(
つねひこ
)
『それは
云
(
い
)
はいでも
定
(
きま
)
つてゐますがな。
053
系統
(
ひつぽう
)
の
肉体
(
にくたい
)
に
憑
(
うつ
)
らいで
何処
(
どこ
)
へ
憑
(
うつ
)
らはりませう。
054
乙姫
(
おとひめ
)
さまだつて、
055
依然
(
やつぱり
)
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまの
生宮
(
いきみや
)
に
引添
(
ひきそ
)
うて
御座
(
ござ
)
る
御
(
お
)
方
(
かた
)
に
定
(
きま
)
つとるぢやありませぬか。
056
それで
言依別
(
ことよりわけの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
信者
(
しんじや
)
一同
(
いちどう
)
に
玉
(
たま
)
を
開
(
あ
)
けて
一度
(
いちど
)
拝
(
をが
)
まし
度
(
た
)
いのだけれど、
057
肝腎
(
かんじん
)
の
系統
(
ひつぽう
)
の
生宮
(
いきみや
)
さまが
御
(
お
)
帰
(
かへ
)
りになる
迄
(
まで
)
、
058
吾々
(
われわれ
)
は
開
(
あ
)
ける
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ないと
云
(
い
)
つて、
059
御
(
ご
)
自分
(
じぶん
)
で
何処
(
どこ
)
かへ
御
(
お
)
納
(
をさ
)
めになりました。
060
貴方
(
あなた
)
が
些
(
ちつ
)
とも
言依別
(
ことよりわけ
)
さまの
御
(
お
)
館
(
やかた
)
へ
顔出
(
かほだ
)
しをなさらぬものだから、
061
待
(
ま
)
つてゐられるのですよ』
062
高姫
(
たかひめ
)
『
言依別
(
ことよりわけ
)
も
大分
(
だいぶ
)
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
改心
(
かいしん
)
が
出来
(
でき
)
たと
見
(
み
)
えますワイ。
063
此
(
こ
)
の
肉体
(
にくたい
)
が
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
ぢやと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
徐々
(
そろそろ
)
と
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
いたらしい。
064
なア
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
さま、
065
それに
就
(
つ
)
いても、
066
些
(
ちつ
)
と
分
(
わか
)
らぬぢやありませぬか。
067
吾々
(
われわれ
)
が
訪
(
たづ
)
ねに
行
(
ゆ
)
かずとも、
068
それが
分
(
わか
)
つた
以上
(
いじやう
)
は
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
や
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
様
(
さま
)
へ
御
(
お
)
礼
(
れい
)
に
来
(
こ
)
ねばならない
筈
(
はず
)
だ。
069
本末
(
ほんまつ
)
顛倒
(
てんたう
)
も
実
(
じつ
)
に
甚
(
はなはだ
)
しい』
070
夏彦
(
なつひこ
)
『
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して、
071
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
はそんな
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へは
些
(
ちつ
)
とも
無
(
な
)
いのですが、
072
貴方
(
あなた
)
は
何時
(
いつ
)
も
言依別
(
ことよりわけ
)
の
奴灰殻
(
どはひから
)
だとか、
073
四足
(
よつあし
)
身魂
(
みたま
)
だとか
仰有
(
おつしや
)
るものだから
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
は、
074
貴方
(
あなた
)
の
御
(
お
)
宅
(
たく
)
を
御
(
お
)
訪
(
たづ
)
ねなされ
度
(
た
)
いのは
胸一杯
(
むねいつぱい
)
になつて
居
(
ゐ
)
らつしやるのですが、
075
人手
(
ひとで
)
の
少
(
すくな
)
いのに、
076
又々
(
またまた
)
秋季
(
しうき
)
大
(
だい
)
清潔法
(
せいけつはふ
)
をなさらんならぬ
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
が
起
(
おこ
)
ると、
077
御
(
お
)
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
だと
云
(
い
)
つて
控
(
ひか
)
へて
御座
(
ござ
)
るのですよ』
078
高姫
(
たかひめ
)
『そんな
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
は
要
(
い
)
りませぬわ。
079
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
や
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
の
生宮
(
いきみや
)
が
分
(
わか
)
る
丈
(
だけ
)
の
身魂
(
みたま
)
なら、
080
最早
(
もはや
)
四足
(
よつあし
)
身魂
(
みたま
)
は
退散
(
たいさん
)
して
居
(
ゐ
)
るに
違
(
ちが
)
ひないから、
081
高姫
(
たかひめ
)
、
082
黒姫
(
くろひめ
)
が
待
(
ま
)
ちかねてゐるから
一遍
(
いつぺん
)
御
(
お
)
出
(
い
)
でなさいと
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
083
いろいろと
言
(
い
)
うて
聞
(
き
)
かしたい
事
(
こと
)
もある。
084
何程
(
なにほど
)
賢
(
かしこ
)
い
教主
(
けうしゆ
)
だと
云
(
い
)
つても
年
(
とし
)
の
若
(
わか
)
い
経験
(
けいけん
)
の
無
(
な
)
い
社会
(
しやくわい
)
大学
(
だいがく
)
を
卒業
(
そつげふ
)
せない
人
(
ひと
)
だから、
085
言
(
い
)
はねばならぬ
事
(
こと
)
が
山
(
やま
)
程
(
ほど
)
あるのだけれど、
086
又
(
また
)
煩
(
うる
)
さがられると
思
(
おも
)
うて
今迄
(
いままで
)
云
(
い
)
はずに
居
(
を
)
つたのだよ。
087
それが
本当
(
ほんたう
)
なら
言依別
(
ことよりわけ
)
も
見上
(
みあ
)
げたものぢや。
088
オツホヽヽヽ』
089
夏彦
(
なつひこ
)
『
折角
(
せつかく
)
立派
(
りつぱ
)
な
御玉
(
みたま
)
が
納
(
をさ
)
まつて
皆
(
みな
)
の
信者
(
しんじや
)
が
拝観
(
はいくわん
)
したいと
云
(
い
)
つて
待
(
ま
)
つて
居
(
を
)
ります。
090
何卒
(
どうぞ
)
その
玉
(
たま
)
を
貴女
(
あなた
)
の
御
(
おん
)
手
(
て
)
で
開
(
ひら
)
いて
貰
(
もら
)
はなければ
誰
(
たれ
)
も
開
(
ひら
)
く
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ぬのですから、
091
何卒
(
どうぞ
)
早
(
はや
)
く
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
を
直
(
なほ
)
して
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
へ
御
(
ご
)
参詣
(
さんけい
)
の
上
(
うへ
)
、
092
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
と
御
(
ご
)
相談
(
さうだん
)
して
下
(
くだ
)
さいな』
093
高姫
(
たかひめ
)
『ソリヤ
道
(
みち
)
が
違
(
ちが
)
ひませう。
094
言依別
(
ことよりわけ
)
は
教主
(
けうしゆ
)
だと
云
(
い
)
つても、
095
それは
人間
(
にんげん
)
が
定
(
き
)
めたもの、
096
誠生粋
(
まこときつすゐ
)
の
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
や
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
鎮
(
しづ
)
まり
遊
(
あそ
)
ばす
肉
(
にく
)
の
宮
(
みや
)
へ、
097
一度
(
いちど
)
の
面会
(
めんくわい
)
にも
出
(
で
)
て
来
(
こ
)
ぬと
云
(
い
)
ふ
失礼
(
しつれい
)
な
事
(
こと
)
がありますかい』
098
夏彦
(
なつひこ
)
は
言
(
い
)
ひ
憎
(
にく
)
さうに
一寸
(
ちよつと
)
頭
(
かしら
)
へ
手
(
て
)
を
上
(
あ
)
げて、
099
夏彦
(
なつひこ
)
『あなたの
仰有
(
おつしや
)
る
事
(
こと
)
も
一応
(
いちおう
)
は
御尤
(
ごもつと
)
ものやうに
考
(
かんが
)
へますが、
100
そこはさう
四角張
(
しかくば
)
らずに、
101
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
は
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
として、
102
教主
(
けうしゆ
)
と
云
(
い
)
ふ
名
(
な
)
に
対
(
たい
)
し
貴方
(
あなた
)
から
御
(
ご
)
訪問
(
はうもん
)
なさるが
至当
(
したう
)
だと
思
(
おも
)
ひます。
103
それも
亦
(
また
)
直接
(
ちよくせつ
)
に
御
(
お
)
会
(
あ
)
ひになつてはいけませぬ。
104
何程
(
なにほど
)
御
(
お
)
嫌
(
きら
)
ひになつても
総務
(
そうむ
)
の
杢助
(
もくすけ
)
さまの
手
(
て
)
を
経
(
へ
)
て
御
(
ご
)
面会
(
めんくわい
)
をなさいませ。
105
それが
至当
(
したう
)
だと
此
(
こ
)
の
夏彦
(
なつひこ
)
は
御
(
お
)
神徳
(
かげ
)
を
頂
(
いただ
)
いてゐます』
106
高姫
(
たかひめ
)
『あんな
杢助
(
もくすけ
)
や
国依別
(
くによりわけ
)
のやうな
行儀
(
ぎやうぎ
)
知
(
し
)
らずに、
107
阿呆
(
あはう
)
らしくて
面会
(
めんくわい
)
が
出来
(
でき
)
ぬぢやありませぬか。
108
二
(
ふた
)
つ
目
(
め
)
には
四足
(
よつあし
)
かなんぞのやうにゴロンと
横
(
よこ
)
になり、
109
不作法
(
ぶさはふ
)
な…
生宮
(
いきみや
)
の
前
(
まへ
)
でも
寝
(
ね
)
て
話
(
はなし
)
をすると
云
(
い
)
ふ
代物
(
しろもの
)
だから、
110
国依別
(
くによりわけ
)
までが
同
(
おな
)
じ
様
(
やう
)
に
猿
(
さる
)
の
人真似
(
ひとまね
)
をしよつて、
111
好
(
い
)
いかと
思
(
おも
)
つてグレンと
仰向
(
あふむ
)
けになり
応対
(
おうたい
)
をして
居
(
を
)
るから、
112
この
高姫
(
たかひめ
)
が「
些
(
ちつ
)
と
心得
(
こころえ
)
なさい、
113
失礼
(
しつれい
)
ぢや
無
(
な
)
いか」とたしなめてやれば、
114
霊界
(
れいかい
)
物語
(
ものがたり
)
でさへも
仰向
(
あふむ
)
けになつて、
115
足
(
あし
)
をピンピン
上
(
あ
)
げ
以
(
もつ
)
て
結構
(
けつこう
)
な
神界
(
しんかい
)
の
因縁
(
いんねん
)
を
説
(
と
)
かれるぢやないかと、
116
屁理屈
(
へりくつ
)
をこねる
仕方
(
しかた
)
の
無
(
な
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
117
そんな
奴
(
やつ
)
を
又
(
また
)
言依別
(
ことよりわけ
)
さまも
人間
(
にんげん
)
が
好
(
い
)
いものだから、
118
悦
(
よろこ
)
んで
使
(
つか
)
つてゐると
云
(
い
)
ふ
御
(
お
)
目出度
(
めでた
)
さ。
119
第一
(
だいいち
)
これからが
退
(
しりぞ
)
けて
了
(
しま
)
はなくちや、
120
三五教
(
あななひけう
)
も
何時
(
いつ
)
になつても
駄目
(
だめ
)
ですよ』
121
夏彦
(
なつひこ
)
『あなたの
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
は
実
(
じつ
)
に
御尤
(
ごもつと
)
もです。
122
私
(
わたくし
)
も
時々
(
ときどき
)
杢助
(
もくすけ
)
さまが
仰向
(
あふむ
)
けになつて、
123
私
(
わたくし
)
達
(
たち
)
にいろいろの
事
(
こと
)
を
御
(
お
)
指図
(
さしづ
)
をなさるので
時々
(
ときどき
)
ムツとしてその
訳
(
わけ
)
を
詰問
(
きつもん
)
すると
杢助
(
もくすけ
)
さまの
言草
(
いひぐさ
)
が
面白
(
おもしろ
)
い。
124
「
今
(
いま
)
のやうな
百鬼
(
ひやくき
)
昼行
(
ちうかう
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
人間
(
にんげん
)
は、
125
みんな
鬼
(
おに
)
や
蛇
(
へび
)
や
悪魔
(
あくま
)
が
人間
(
にんげん
)
の
真似
(
まね
)
をして
立
(
た
)
つて
歩
(
ある
)
いて
居
(
ゐ
)
るのだ。
126
さうして
蟹
(
かに
)
が
行
(
ゆ
)
く
横
(
よこ
)
さの
道
(
みち
)
計
(
ばか
)
り
平気
(
へいき
)
でやつてゐるから
耐
(
たま
)
らない。
127
今日
(
こんにち
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を
革正
(
かくせい
)
しようと
思
(
おも
)
へば、
128
何
(
ど
)
うしても
人
(
ひと
)
のようせぬ
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
さねば
立替
(
たてかへ
)
、
129
立直
(
たてなほ
)
しは
出来
(
でき
)
ない。
130
今日
(
こんにち
)
の
社会
(
しやくわい
)
を
見
(
み
)
なさい、
131
その
潮流
(
てうりう
)
は
滔々
(
たうたう
)
として
横
(
よこ
)
へ
横
(
よこ
)
へと
流
(
なが
)
れてゐるぢやないか。
132
それが
所謂
(
いはゆる
)
天地
(
てんち
)
自然
(
しぜん
)
の
道
(
みち
)
だ。
133
川
(
かは
)
の
水
(
みづ
)
でも
潮水
(
てうすゐ
)
でも
横
(
よこ
)
に
流
(
なが
)
れて
居
(
ゐ
)
るべきものだ。
134
数多
(
あまた
)
の
人命
(
じんめい
)
を
乗
(
の
)
せて
走
(
はし
)
る
汽車
(
きしや
)
も
矢張
(
やつぱり
)
横
(
よこ
)
に
長
(
なが
)
うなつてゐる。
135
レールでさへもさうぢやないか。
136
もしもレールがチヨコンと
坐
(
すわ
)
つたり、
137
立
(
た
)
てつて
見
(
み
)
なされ、
138
汽車
(
きしや
)
は
忽
(
たちま
)
ち
転覆
(
てんぷく
)
するぢやないか。
139
横
(
よこ
)
に
流
(
なが
)
れて
居
(
ゐ
)
る
河川
(
かせん
)
は
洋々
(
やうやう
)
として
少
(
すこ
)
しも
淹滞
(
えんたい
)
なく、
140
又
(
また
)
愛
(
あい
)
らしい
雛
(
ひな
)
を
育
(
そだ
)
てる
牝鳥
(
めんどり
)
は
翼
(
つばさ
)
の
中
(
なか
)
へ
大切
(
たいせつ
)
に
抱
(
かか
)
えて
巣
(
す
)
の
中
(
なか
)
へ
寝
(
ね
)
てゐます。
141
卵
(
たまご
)
を
孵
(
かへ
)
すのだつて
寝
(
ね
)
て
居
(
を
)
らねば
孵
(
かへ
)
りはしない。
142
ノアの
方舟
(
はこぶね
)
だつて
矢張
(
やつぱ
)
り
水面
(
すゐめん
)
を
横
(
よこ
)
に
進
(
すす
)
んで
流
(
なが
)
れてゐる、
143
水平社
(
すゐへいしや
)
の
運動
(
うんどう
)
でも……」と
仰有
(
おつしや
)
いましたよ』
144
高姫
(
たかひめ
)
『そんな
屁理屈
(
へりくつ
)
がありますか。
145
この
庭先
(
にはさき
)
の
松
(
まつ
)
や
篠竹
(
しのたけ
)
を
見
(
み
)
なさい。
146
皆
(
みんな
)
地
(
ぢ
)
から
真直
(
まつすぐ
)
に
上
(
うへ
)
へ
向
(
むか
)
つて
立
(
た
)
つてるぢやありませぬか。
147
横
(
よこ
)
になつてる
奴
(
やつ
)
は
幹
(
みき
)
が
腐
(
くさ
)
つて
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
き
倒
(
たふ
)
された
木
(
き
)
許
(
ばか
)
りぢや。
148
又
(
また
)
本打
(
もとうち
)
切
(
き
)
り
末
(
すゑ
)
打断
(
うちた
)
ちて
皮
(
かは
)
を
剥
(
む
)
かれた
枯木
(
かれき
)
の
材木
(
ざいもく
)
ばつかりだ。
149
横
(
よこ
)
になつてる
奴
(
やつ
)
に
碌
(
ろく
)
なものがありますか。
150
さうだから
杢助
(
もくすけ
)
では
駄目
(
だめ
)
だと
云
(
い
)
ふのですよ』
151
と
力
(
ちから
)
をこめて
握拳
(
にぎりこぶし
)
で
閾
(
しきゐ
)
を
思
(
おも
)
はずポンと
叩
(
たた
)
き、
152
『アイタヽヽ』と
云
(
い
)
はんとしたが、
153
『アイ……』と
云
(
い
)
つた
限
(
き
)
り
顔
(
かほ
)
を
顰
(
しか
)
めて
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
でコツソリと
撫
(
な
)
でてゐるその
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
さ。
154
常彦
(
つねひこ
)
『なんと
理屈
(
りくつ
)
は
何方
(
どちら
)
へでもつくものですな。
155
火中水
(
くわちうすゐ
)
あり、
156
水中火
(
すゐちうくわ
)
あり、
157
火
(
ひ
)
は
水
(
みづ
)
の
力
(
ちから
)
を
借
(
か
)
つて
燃
(
も
)
え
上
(
あが
)
り、
158
水
(
みづ
)
は
火
(
ひ
)
の
力
(
ちから
)
に
依
(
よ
)
つて
動
(
うご
)
かされる
道理
(
だうり
)
で、
159
何方
(
どちら
)
から
聞
(
き
)
いても
理屈
(
りくつ
)
は
合
(
あ
)
ひますワイ。
160
それで
経
(
たて
)
が
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
、
161
緯
(
よこ
)
が
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
と
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
仰有
(
おつしや
)
るのでせう。
162
経糸
(
たていと
)
計
(
ばか
)
りでは
所詮
(
しよせん
)
駄目
(
だめ
)
で、
163
矢張
(
やつぱ
)
り
緯糸
(
よこいと
)
が
無
(
な
)
ければ
錦
(
にしき
)
の
機
(
はた
)
は
織
(
お
)
る
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ』
164
高姫
(
たかひめ
)
『その
緯
(
よこ
)
がいかぬのですよ。
165
緯
(
よこ
)
は
梭
(
さとく
)
が
落
(
お
)
ちたり、
166
糸
(
いと
)
が
切
(
き
)
れたり
致
(
いた
)
すから、
167
それで
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
の
行方
(
やりかた
)
は
駄目
(
だめ
)
だと
云
(
い
)
ふのだよ……
168
機
(
はた
)
の
緯
(
よこ
)
織
(
お
)
る
身魂
(
みたま
)
こそ
苦
(
くる
)
しけれ
一
(
ひと
)
つ
通
(
とほ
)
せば
一
(
ひと
)
つ
打
(
う
)
たれつ
169
なんて
弱音
(
よわね
)
を
吹
(
ふ
)
いて
居
(
ゐ
)
るやうな
言依別
(
ことよりわけ
)
に
何
(
なに
)
が
出来
(
でき
)
ますかいな。
170
イヤイヤ
矢張
(
やつぱり
)
言依別
(
ことよりわけ
)
は
出来
(
でき
)
ぬとも
限
(
かぎ
)
らぬ。
171
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
大分
(
だいぶ
)
に
改心
(
かいしん
)
をしかけたから、
172
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
の
経糸
(
たていと
)
に
対
(
たい
)
して、
173
私
(
わたし
)
がサトクとなつて
立派
(
りつぱ
)
な
機
(
はた
)
を
織
(
お
)
つて
見
(
み
)
せませう。
174
緯糸
(
よこいと
)
になる
緯役
(
よこやく
)
さへサトクの
言
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
り
従
(
つ
)
いてくれば
好
(
よ
)
いのだ。
175
……ナア
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
176
さうぢやありませぬか』
177
黒姫
(
くろひめ
)
『
左様
(
さやう
)
々々
(
さやう
)
、
178
貴方
(
あなた
)
の
仰有
(
おつしや
)
る
通
(
とほ
)
り
一分
(
いちぶ
)
一厘
(
いちりん
)
毛筋
(
けすぢ
)
の
横巾
(
よこはば
)
程
(
ほど
)
も
違
(
ちが
)
ひはありませぬ。
179
何卒
(
どうぞ
)
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
う
杢助
(
もくすけ
)
さまが
改心
(
かいしん
)
さへしてくるれば、
180
何
(
なん
)
にも
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
はありませぬがなア』
181
常彦
(
つねひこ
)
『
杢助
(
もくすけ
)
さまの
方
(
はう
)
では
何卒
(
どうぞ
)
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
く
高姫
(
たかひめ
)
さまや
黒姫
(
くろひめ
)
が
改心
(
かいしん
)
さへしてくれれば
何
(
なに
)
も
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
はないがなア…と
首
(
くび
)
を
傾
(
かた
)
げて
大変
(
たいへん
)
に
考
(
かんが
)
へてゐましたよ。
182
国依別
(
くによりわけ
)
だつてあんたの
敵対役
(
てきたいやく
)
に
実際
(
じつさい
)
の
所
(
ところ
)
はこしらへてあるのですよ。
183
此
(
この
)
間
(
あひだ
)
もお
肴
(
さかな
)
だと
云
(
い
)
つて
石
(
いし
)
を
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
たでせう。
184
それは
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
では
云
(
い
)
へぬが
全
(
まつた
)
く
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
指図
(
さしづ
)
ですよ』
185
高姫
(
たかひめ
)
『ナニ、
186
言依別
(
ことよりわけ
)
が……あんまりぢやないか』
187
常彦
(
つねひこ
)
『
言依別
(
ことよりわけ
)
様
(
さま
)
は
深
(
ふか
)
い
思召
(
おぼしめ
)
しがあつて
国依別
(
くによりわけ
)
にあーいふ
事
(
こと
)
をさせて、
188
お
前
(
まへ
)
さまが
怒
(
おこ
)
るか
怒
(
おこ
)
らないか、
189
怒
(
おこ
)
るやうでは
玉
(
たま
)
の
御用
(
ごよう
)
をさす
時機
(
じき
)
がまだ
来
(
き
)
て
居
(
を
)
らぬのだし、
190
それを
耐
(
た
)
へ
忍
(
しの
)
ぶやうな
高姫
(
たかひめ
)
さまなら、
191
モウ
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だからと
云
(
い
)
つて
気
(
き
)
を
御
(
お
)
引
(
ひ
)
きなさつたのですよ。
192
お
前
(
まへ
)
さまは
矢張
(
やつぱり
)
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
ちませうね』
193
高姫
(
たかひめ
)
『エー
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つといふやうな、
194
そんな
小
(
ち
)
つぽけな
精神
(
せいしん
)
で、
195
大和
(
やまと
)
魂
(
だましひ
)
と
云
(
い
)
はれますかい。
196
大海
(
たいかい
)
は
塵
(
ちり
)
を
選
(
えら
)
まず、
197
百川
(
ひやくせん
)
の
濁流
(
だくりう
)
を
呑
(
の
)
んで
濁
(
にご
)
らずと
云
(
い
)
ふ
高姫
(
たかひめ
)
の
態度
(
たいど
)
ですからなア。
198
天
(
てん
)
の
高
(
たか
)
くして
諸鳥
(
もろどり
)
の
飛翔
(
ひしよう
)
するに
任
(
まか
)
するが
如
(
ごと
)
く、
199
海
(
うみ
)
の
濶
(
ひろ
)
く
深
(
ふか
)
くして
魚鼈
(
ぎよべつ
)
の
躍
(
をど
)
るに
任
(
まか
)
すが
如
(
ごと
)
しといふ
広大
(
くわうだい
)
無辺
(
むへん
)
の
大精神
(
だいせいしん
)
ですから……ヘン……あんまり
見損
(
みそこな
)
ひをして
貰
(
もら
)
ひますまいかい。
200
妾
(
わたし
)
を
試
(
ため
)
すなんて
猪口才
(
ちよこざい
)
過
(
す
)
ぎる。
201
矢張
(
やつぱり
)
自分
(
じぶん
)
の
心
(
こころ
)
が
小
(
ちい
)
さいからだよ。
202
自分
(
じぶん
)
の
心
(
こころ
)
の
尺度
(
しやくど
)
を
以
(
もつ
)
て、
203
生神
(
いきがみ
)
様
(
さま
)
の
大精神
(
だいせいしん
)
を
測量
(
そくりやう
)
しようと
思
(
おも
)
ふのが、
204
テンから
間違
(
まちが
)
つてゐる。
205
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らそこまで
言依別
(
ことよりわけ
)
もなつたか、
206
ホンに
可愛
(
かあい
)
いものだ。
207
……そんなら
常彦
(
つねひこ
)
さま、
208
お
前
(
まへ
)
、
209
言依別
(
ことよりわけ
)
さまに
逢
(
あ
)
つて、
210
高姫
(
たかひめ
)
さまは
彼
(
あ
)
の
位
(
くらゐ
)
な
事
(
こと
)
は、
211
何処
(
いづこ
)
を
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
くらんといふやうな
態度
(
たいど
)
で、
212
余裕
(
よゆう
)
綽々
(
しやくしやく
)
、
213
泰然
(
たいぜん
)
自若
(
じじやく
)
として
笑
(
わら
)
つて
御座
(
ござ
)
つたと、
214
実地
(
じつち
)
正真
(
まこと
)
らしく……オツトドツコイ……
実地
(
じつち
)
正真
(
まこと
)
の
立派
(
りつぱ
)
な
態度
(
たいど
)
を、
215
よく
腹
(
はら
)
へシメこんで
置
(
お
)
いて
申上
(
まをしあ
)
げるのだよ』
216
常彦
(
つねひこ
)
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
今日
(
けふ
)
の
有
(
あ
)
りの
儘
(
まま
)
を
申上
(
まをしあ
)
げたら
好
(
い
)
いのですか。
217
嘘
(
うそ
)
は
一寸
(
ちよつと
)
も
云
(
い
)
はれぬ
御
(
お
)
道
(
みち
)
ですからなアー』
218
高姫
(
たかひめ
)
『エー
矢張
(
やつぱり
)
モウ
云
(
い
)
うて
下
(
くだ
)
さるな。
219
妾
(
わたし
)
が
直接
(
ちよくせつ
)
に
御
(
お
)
目
(
め
)
にかかつてその
寛大振
(
くわんだいぶり
)
を
見
(
み
)
せて
来
(
く
)
るから、
220
今日
(
けふ
)
の
事
(
こと
)
は
何
(
なん
)
にも
云
(
い
)
ひつてはなりませぬぞ』
221
常彦
(
つねひこ
)
『
魚心
(
うをごころ
)
あれば
水心
(
みづごころ
)
あり、
222
打
(
う
)
てば
響
(
ひび
)
くとやら……、
223
ナア
夏彦
(
なつひこ
)
、
224
さうぢやないか。
225
チツトはコンミツシヨンとか、
226
ボーナスとか
有
(
あ
)
りさうなものだなア』
227
黒姫
(
くろひめ
)
『オホヽヽヽ、
228
何
(
なん
)
と
現金
(
げんきん
)
なお
方
(
かた
)
だこと』
229
常彦
(
つねひこ
)
『
何分
(
なにぶん
)
此
(
この
)
肉体
(
にくたい
)
は
融通
(
ゆうづう
)
の
利
(
き
)
く
人間
(
にんげん
)
ですが、
230
三五教
(
あななひけう
)
の
誠
(
まこと
)
の
教
(
をしへ
)
を
守護神
(
しゆごじん
)
の
奴
(
やつ
)
、
231
腹中
(
はらのなか
)
で、
232
すつかりと
聞
(
き
)
き
居
(
を
)
つたものだから、
233
相手
(
あひて
)
の
通
(
とほ
)
り
云
(
い
)
ひたがつて
仕様
(
しやう
)
がありませぬ。
234
この
肉体
(
にくたい
)
は
何
(
なに
)
も
云
(
い
)
ひませぬ。
235
副守
(
ふくしゆ
)
の
奴
(
やつ
)
に
何
(
なに
)
か
気
(
き
)
をつけてやつて
下
(
くだ
)
さい。
236
袂
(
たもと
)
が
重
(
おも
)
ければ
重
(
おも
)
い
程
(
ほど
)
都合
(
つがふ
)
が
宜
(
よろ
)
しいで。
237
少々
(
せうせう
)
の
重味
(
おもみ
)
位
(
くらゐ
)
乗
(
の
)
せた
所
(
ところ
)
で、
238
中々
(
なかなか
)
の
強
(
つよ
)
い
奴
(
やつ
)
ですからなア』
239
高姫
(
たかひめ
)
『マアマア
成功
(
せいこう
)
の
後
(
のち
)
、
240
御
(
ご
)
注文通
(
ちうもんどほ
)
りボーナス(
棒茄子
(
ぼうなす
)
)なつと、
241
ボーウリ(
棒瓜
(
ぼううり
)
)なつと、
242
干瓢
(
かんぺう
)
なつと
上
(
あ
)
げませうかい』
243
常彦
(
つねひこ
)
『そいつはなりませぬぞ。
244
何事
(
なにごと
)
も
前銭
(
さきぜに
)
を
出
(
だ
)
して
註文
(
ちうもん
)
して
置
(
お
)
かねば、
245
何程
(
なにほど
)
変換
(
へんがへ
)
されても
仕方
(
しかた
)
がありますまい。
246
証拠金
(
しようこきん
)
とか
手付金
(
てつけきん
)
とか
先
(
さき
)
へ
頂
(
いただ
)
いて
公証
(
こうしよう
)
役場
(
やくば
)
へ
行
(
い
)
つて、
247
公正
(
こうせい
)
証書
(
しようしよ
)
でも
取
(
と
)
つて
置
(
お
)
きませうかな。
248
アハヽヽヽ』
249
高姫
(
たかひめ
)
『コレ
常彦
(
つねひこ
)
さま、
250
冗談
(
ぜうだん
)
もよい
加減
(
かげん
)
にしなさい。
251
……
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
ぢやありませぬか』
252
常彦
(
つねひこ
)
『ソラさうでせう。
253
あなたにとつては
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
、
254
吾々
(
われわれ
)
は
及
(
およ
)
ばず
乍
(
なが
)
ら
麻邇
(
まに
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
御
(
お
)
迎
(
むか
)
へを
御
(
お
)
勤
(
つと
)
め
申
(
まを
)
し、
255
一寸
(
ちよつと
)
休養
(
きうやう
)
を
賜
(
たま
)
はつて
居
(
ゐ
)
るところですから、
256
極
(
きは
)
めて
悠々
(
いういう
)
閑々
(
かんかん
)
たるものです。
257
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
他
(
ひと
)
の
苦労
(
くらう
)
で
徳
(
とく
)
をとらうと
云
(
い
)
ふのは、
258
却
(
かへつ
)
て
骨
(
ほね
)
が
折
(
を
)
れるものですワイ。
259
併
(
しか
)
しこれは
世間
(
せけん
)
の
話
(
はな
)
しですよ。
260
お
前
(
まへ
)
さまは
気
(
き
)
が
早
(
はや
)
いから
直
(
すぐ
)
に
自分
(
じぶん
)
の
事
(
こと
)
に
取
(
と
)
つて
怒
(
おこ
)
る
癖
(
くせ
)
があるから
剣呑
(
けんのん
)
だ』
261
高姫
(
たかひめ
)
『
何
(
なに
)
を
仰有
(
おつしや
)
る。
262
それは
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で
云
(
い
)
はれぬが、
263
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
の
事
(
こと
)
でせうがなア』
264
常彦
(
つねひこ
)
『あんたはさう
思
(
おも
)
つてますか。
265
それで
安心
(
あんしん
)
だ……。
266
なア
夏彦
(
なつひこ
)
さま』
267
夏彦
(
なつひこ
)
『オホヽヽヽ、
268
イヤモウ
何
(
ど
)
うも
感心
(
かんしん
)
いたしました』
269
斯
(
か
)
かる
処
(
ところ
)
へ
夜
(
よ
)
の
閑寂
(
かんじやく
)
を
破
(
やぶ
)
つて
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
270
(亀彦)
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
271
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわ
)
ける
272
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
273
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
274
唯
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
275
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
せ
聞直
(
ききなほ
)
せ
276
身
(
み
)
の
過
(
あやま
)
ちは
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ
277
頑迷
(
ぐわんめい
)
不霊
(
ふれい
)
の
高姫
(
たかひめ
)
も
278
執着
(
しふちやく
)
深
(
ふか
)
き
黒姫
(
くろひめ
)
も
279
天
(
あめ
)
と
地
(
つち
)
との
御水火
(
みいき
)
より
280
現
(
あら
)
はれませる
神
(
かみ
)
の
御子
(
みこ
)
281
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
の
282
仁慈
(
じんじ
)
無限
(
むげん
)
の
御心
(
みこころ
)
を
283
酌
(
く
)
みとりまして
言依別
(
ことよりわけ
)
の
284
瑞
(
みづ
)
の
御魂
(
みたま
)
は
八尋殿
(
やひろどの
)
285
麻邇
(
まに
)
の
御珠
(
みたま
)
を
奥
(
おく
)
深
(
ふか
)
く
286
納
(
をさ
)
め
給
(
たま
)
ひて
高姫
(
たかひめ
)
や
287
黒姫
(
くろひめ
)
さまの
帰
(
かへ
)
るまで
288
拝観
(
はいくわん
)
する
事
(
こと
)
ならないと
289
言葉
(
ことば
)
厳
(
きび
)
しく
宣
(
の
)
り
伝
(
つた
)
へ
290
高姫
(
たかひめ
)
さまの
一行
(
いつかう
)
が
291
聖地
(
せいち
)
を
指
(
さ
)
して
帰
(
かへ
)
り
来
(
く
)
る
292
その
吉日
(
きちにち
)
を
待
(
ま
)
ち
玉
(
たま
)
ふ
293
思
(
おも
)
へば
深
(
ふか
)
し
神
(
かみ
)
の
恩
(
おん
)
294
仰
(
あふ
)
げば
高
(
たか
)
し
御
(
おん
)
恵
(
めぐ
)
み
295
露
(
つゆ
)
だも
知
(
し
)
らぬ
高姫
(
たかひめ
)
が
296
聖地
(
せいち
)
に
帰
(
かへ
)
り
来
(
き
)
乍
(
なが
)
らも
297
錦
(
にしき
)
の
宮
(
みや
)
の
大前
(
おほまへ
)
に
298
未
(
いま
)
だ
詣
(
まう
)
でし
状
(
さま
)
も
無
(
な
)
し
299
玉照彦
(
たまてるひこ
)
や
玉照姫
(
たまてるひめ
)
の
300
神
(
かみ
)
の
柱
(
はしら
)
は
言
(
い
)
ふも
更
(
さら
)
301
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
の
302
珍
(
うづ
)
の
御
(
おん
)
子
(
こ
)
とあれませる
303
五十子
(
いそこ
)
の
姫
(
ひめ
)
や
梅子姫
(
うめこひめ
)
304
わけて
尊
(
たふと
)
き
英子姫
(
ひでこひめ
)
305
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
等
(
ら
)
に
306
未
(
いま
)
だ
一度
(
いちど
)
も
挨拶
(
あいさつ
)
の
307
便
(
たよ
)
りもきかぬうたてさよ
308
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
309
御霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましまして
310
執着心
(
しふちやくしん
)
と
片意地
(
かたいぢ
)
に
311
とりからまれし
両人
(
りやうにん
)
や
312
高山彦
(
たかやまひこ
)
の
身魂
(
みたま
)
をば
313
神
(
かみ
)
の
御稜威
(
みいづ
)
にさらさらと
314
清
(
きよ
)
め
玉
(
たま
)
ひて
片時
(
かたとき
)
も
315
疾
(
と
)
く
速
(
すむや
)
けく
大前
(
おほまへ
)
に
316
詣
(
まう
)
で
来
(
きた
)
りて
神業
(
かむわざ
)
に
317
参加
(
さんか
)
なさしめ
玉
(
たま
)
へかし
318
如何
(
いか
)
に
高姫
(
たかひめ
)
黒姫
(
くろひめ
)
が
319
頑強
(
ぐわんきやう
)
不霊
(
ふれい
)
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら
320
神
(
かみ
)
の
御裔
(
みすえ
)
の
方々
(
かたがた
)
に
321
無礼
(
ぶれい
)
の
罪
(
つみ
)
を
重
(
かさ
)
ぬるは
322
実
(
じつ
)
に
悲
(
かな
)
しき
事
(
こと
)
ぞかし
323
教
(
をしへ
)
の
道
(
みち
)
の
友彦
(
ともひこ
)
を
324
一度
(
いちど
)
遣
(
つか
)
はし
見
(
み
)
たれども
325
金門
(
かなど
)
を
守
(
まも
)
る
安公
(
やすこう
)
に
326
追
(
お
)
ひ
退
(
やら
)
はれて
減
(
へ
)
らず
口
(
ぐち
)
327
叩
(
たた
)
いて
館
(
やかた
)
へ
立帰
(
たちかへ
)
り
328
面
(
つら
)
を
膨
(
ふく
)
らせブツブツと
329
小言
(
こごと
)
の
限
(
かぎ
)
り
列
(
なら
)
べ
立
(
た
)
て
330
とりつく
島
(
しま
)
も
なき
別
(
わか
)
れ
331
われは
亀彦
(
かめひこ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
332
英子
(
ひでこ
)
の
姫
(
ひめ
)
の
御言
(
みこと
)
もて
333
高姫
(
たかひめ
)
黒姫
(
くろひめ
)
両人
(
りやうにん
)
を
334
今
(
いま
)
や
迎
(
むか
)
へに
来
(
きた
)
りけり
335
月
(
つき
)
は
御空
(
みそら
)
に
皎々
(
かうかう
)
と
336
輝
(
かがや
)
き
渡
(
わた
)
り
万有
(
ばんいう
)
に
337
恵
(
めぐ
)
みの
露
(
つゆ
)
を
賜
(
たま
)
へども
338
心
(
こころ
)
の
空
(
そら
)
の
村雲
(
むらくも
)
に
339
十重
(
とへ
)
に
二十重
(
はたへ
)
に
包
(
つつ
)
まれて
340
黒白
(
あやめ
)
も
分
(
わ
)
かぬ
胸
(
むね
)
の
闇
(
やみ
)
341
晴
(
は
)
らし
玉
(
たま
)
へよ
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
342
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
達
(
たち
)
八百万
(
やほよろづ
)
343
三五教
(
あななひけう
)
を
守
(
まも
)
ります
344
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
345
万代
(
よろづよ
)
祝
(
いは
)
ふ
亀彦
(
かめひこ
)
が
346
謹
(
つつし
)
み
敬
(
うやま
)
ひ
祈
(
ね
)
ぎ
奉
(
まつ
)
る
347
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
348
御霊
(
みたま
)
幸倍
(
さちはへ
)
ましませよ』
349
と
歌
(
うた
)
ひつつ
高姫館
(
たかひめやかた
)
を
指
(
さ
)
して
次第
(
しだい
)
々々
(
しだい
)
に
近
(
ちか
)
づき
来
(
きた
)
る。
350
亀彦
(
かめひこ
)
は
門
(
もん
)
の
開
(
ひら
)
きあるを
幸
(
さいは
)
ひ、
351
つかつかと
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
り、
352
亀彦
(
かめひこ
)
『モシモシ
夜中
(
やちう
)
にお
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しまするが、
353
私
(
わたし
)
は
亀彦
(
かめひこ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
で
御座
(
ござ
)
りまする。
354
江州
(
ごうしう
)
の
竹生島
(
ちくぶしま
)
より
英子姫
(
ひでこひめ
)
様
(
さま
)
と
同道
(
どうだう
)
にて
聖地
(
せいち
)
へ
参
(
まゐ
)
つて
居
(
を
)
りまする。
355
承
(
うけたま
)
はりますれば
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
356
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
、
357
高山彦
(
たかやまひこ
)
と
共
(
とも
)
にお
帰
(
かへ
)
り
遊
(
あそ
)
ばしたとのこと、
358
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
をお
伺
(
うかが
)
ひに
参
(
まゐ
)
りました。
359
お
差支
(
さしつかへ
)
なくばお
通
(
とほ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
360
高姫
(
たかひめ
)
『ヤア
貴方
(
あなた
)
は
亀彦
(
かめひこ
)
さまか。
361
よくマア
竹生島
(
ちくぶしま
)
に
於
(
おい
)
て
国依別
(
くによりわけ
)
さまと
東西
(
とうざい
)
相応
(
あひおう
)
じ、
362
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
に
何
(
なに
)
から
何
(
なに
)
まで
御
(
ご
)
注意
(
ちうい
)
下
(
くだ
)
さいまして
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
363
私
(
わたし
)
も
一度
(
いちど
)
英子姫
(
ひでこひめ
)
様
(
さま
)
始
(
はじ
)
め、
364
貴方
(
あなた
)
達
(
たち
)
にもお
礼
(
れい
)
のためにお
伺
(
うかが
)
ひ
致
(
いた
)
したいと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
ましたが、
365
何
(
なん
)
とは
無
(
な
)
しに
貧乏
(
びんばふ
)
暇
(
ひま
)
なしで
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りまする。
366
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
今日
(
けふ
)
は
来客
(
らいきやく
)
がありますので、
367
失礼
(
しつれい
)
乍
(
なが
)
らお
帰
(
かへ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
368
只今
(
ただいま
)
の
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
拝聴
(
はいちやう
)
いたしましたが、
369
随分
(
ずゐぶん
)
立派
(
りつぱ
)
なお
声
(
こゑ
)
でお
節
(
ふし
)
もお
上手
(
じやうづ
)
になられました。
370
丁度
(
ちやうど
)
竹生島
(
ちくぶしま
)
の
社
(
やしろ
)
の
後
(
うしろ
)
に
現
(
あら
)
はれ
玉
(
たま
)
うた
女神
(
めがみ
)
様
(
さま
)
のお
声
(
こゑ
)
その
儘
(
まま
)
でしたよ。
371
オホヽヽヽ』
372
亀彦
(
かめひこ
)
『
御
(
お
)
差支
(
さしつかへ
)
とあれば
是非
(
ぜひ
)
が
御座
(
ござ
)
いませぬ。
373
左様
(
さやう
)
ならば、
374
お
暇
(
いとま
)
致
(
いた
)
しませう』
375
と
云
(
い
)
ひつつ
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
浴
(
あ
)
び
乍
(
なが
)
ら
足早
(
あしばや
)
に
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
376
後
(
あと
)
見送
(
みおく
)
つて
高姫
(
たかひめ
)
は、
377
高姫
(
たかひめ
)
『オホヽヽヽ、
378
やつぱり
気
(
き
)
が
咎
(
とが
)
めると
見
(
み
)
えますワイなア。
379
……
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
380
高山彦
(
たかやまひこ
)
さま、
381
あの
亀彦
(
かめひこ
)
が
恐
(
こは
)
相
(
さう
)
な
帰
(
かへ
)
り
様
(
やう
)
、
382
計略
(
けいりやく
)
の
裏
(
うら
)
をかかれて、
383
コソコソと
鼠
(
ねずみ
)
のやうになつて
逃
(
に
)
げたぢやありませぬか』
384
黒姫
(
くろひめ
)
『ウフヽヽヽ』
385
高山彦
(
たかやまひこ
)
『アハヽヽヽ』
386
(
大正一一・七・二二
旧閏五・二八
外山豊二
録)
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