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霊界物語
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第2巻(丑の巻)
第3巻(寅の巻)
第4巻(卯の巻)
第5巻(辰の巻)
第6巻(巳の巻)
第7巻(午の巻)
第8巻(未の巻)
第9巻(申の巻)
第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
第12巻(亥の巻)
如意宝珠
第13巻(子の巻)
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第61巻(子の巻)
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第65巻(辰の巻)
第66巻(巳の巻)
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第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
第79巻(午の巻)
第80巻(未の巻)
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第27巻(寅の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 聖地の秋
01 高姫館
〔783〕
02 清潔法
〔784〕
03 魚水心
〔785〕
第2篇 千差万別
04 教主殿
〔786〕
05 玉調べ
〔787〕
06 玉乱
〔788〕
07 猫の恋
〔789〕
第3篇 神仙霊境
08 琉と球
〔790〕
09 女神託宣
〔791〕
10 太平柿
〔792〕
11 茶目式
〔793〕
第4篇 竜神昇天
12 湖上の怪物
〔794〕
13 竜の解脱
〔795〕
14 草枕
〔796〕
15 情意投合
〔797〕
第5篇 清泉霊沼
16 琉球の神
〔798〕
17 沼の女神
〔799〕
18 神格化
〔800〕
余白歌
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第一〇章
太平柿
(
たいへいがき
)
〔七九二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第27巻 海洋万里 寅の巻
篇:
第3篇 神仙霊境
よみ(新仮名遣い):
しんせんれいきょう
章:
第10章 太平柿
よみ(新仮名遣い):
たいへいがき
通し章番号:
792
口述日:
1922(大正11)年07月25日(旧06月02日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年6月20日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
若彦は常楠と共に熊野で修行中、木花姫命の託宣により、琉球の島に渡って竜神と言霊戦を行うことになっていたのであった。
一行がハーリス山に登る途中、国依別は空腹に耐えかねて、山腹の断崖絶壁に見事に生っている太平柿を常楠に所望した。常楠は、島人の一人に柿取りを依頼した。
島人チャールは、あの柿は竜神の持ち物であり、食った者は腹が膨れて苦しみ、遂には大蛇の子が腹を破って絶命する恐ろしい柿だと語ったが、国依別が竜神の化身ならば大丈夫かもしれないので取ってこようと請合った。
しかし島人ベースはいくら竜神が懸っていたとしても、食べるのは国依別の肉体だからやめた方がよいと忠告した。国依別は自分は肉体も完全に竜神の化身なのだからと適当なことを言って、柿を取ってくるように命じた。
命を受けたチャールとベースの両人は、あまりに柿がうまそうなので、使命を忘れて自分たちが食べ始めてしまった。仕方なく国依別は自分も断崖の柿の木に登って、むしって食べ始めた。
たちまち腹が布袋のように膨れて来た。国依別は慌てて木を降りようとしたが、相当に大きな大蛇が木を登ってきた。国依別は天の数歌を唱えたが、大蛇は登ってくる。辟易した国依別は、断崖の下の谷川の深淵に飛び込んだ。
チャールとベースも国依別の後を追って飛び込んでしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-10-30 18:33:39
OBC :
rm2710
愛善世界社版:
169頁
八幡書店版:
第5輯 304頁
修補版:
校定版:
175頁
普及版:
76頁
初版:
ページ備考:
001
紀州
(
きしう
)
熊野
(
くまの
)
の
片畔
(
かたほとり
)
002
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
の
御教
(
みをしへ
)
を
003
朝
(
あさ
)
な
夕
(
ゆふ
)
なに
宣
(
の
)
べ
伝
(
つた
)
ふ
004
三五教
(
あななひけう
)
の
若彦
(
わかひこ
)
が
005
常楠爺
(
つねくすぢい
)
さまと
諸共
(
もろとも
)
に
006
熊野
(
くまの
)
の
滝
(
たき
)
に
参詣
(
まゐまう
)
で
007
御禊祓
(
みそぎはらひ
)
の
最中
(
さいちう
)
に
008
現
(
あら
)
はれ
出
(
い
)
でし
姫神
(
ひめがみ
)
は
009
心
(
こころ
)
の
花
(
はな
)
の
開
(
ひら
)
くなる
010
蓮華
(
はちす
)
の
山
(
やま
)
の
守
(
まも
)
り
神
(
がみ
)
011
木花姫
(
このはなひめ
)
の
忽然
(
こつぜん
)
と
012
滝
(
たき
)
の
畔
(
ほとり
)
に
現
(
あ
)
れまして
013
言葉
(
ことば
)
静
(
しづ
)
かに
宣
(
の
)
らすやう
014
汝
(
なんぢ
)
は
是
(
これ
)
により
常楠
(
つねくす
)
と
015
旅装
(
りよさう
)
を
整
(
ととの
)
へ
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
り
016
熊野
(
くまの
)
の
浦
(
うら
)
を
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
でて
017
浪間
(
なみま
)
に
浮
(
うか
)
ぶ
宝島
(
たからじま
)
018
琉
(
りう
)
と
球
(
きう
)
との
瑞宝
(
ずゐはう
)
の
019
いや
永久
(
とこしえ
)
に
納
(
をさ
)
まれる
020
聖地
(
せいち
)
に
到
(
いた
)
りてハーリスの
021
山
(
やま
)
に
棲
(
す
)
まへる
荒神
(
あらがみ
)
を
022
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
し
竜神
(
りうじん
)
の
023
腮
(
あぎと
)
の
珠
(
たま
)
を
受
(
う
)
け
取
(
と
)
りて
024
三五教
(
あななひけう
)
の
神司
(
かむづかさ
)
025
玉照彦
(
たまてるひこ
)
や
玉照姫
(
たまてるひめ
)
の
026
貴
(
うづ
)
の
御前
(
みまへ
)
に
奉
(
たてまつ
)
れ
027
高天原
(
たかあまはら
)
の
聖地
(
せいち
)
より
028
言依別
(
ことよりわけ
)
を
始
(
はじ
)
めとし
029
国依別
(
くによりわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
030
後
(
あと
)
より
来
(
きた
)
り
給
(
たま
)
ふべし
031
汝
(
なんぢ
)
はそれに
先
(
さき
)
だちて
032
此
(
この
)
神島
(
かみじま
)
に
到着
(
たうちやく
)
し
033
ハーリス
山
(
ざん
)
の
深谷
(
しんこく
)
に
034
棲
(
す
)
む
竜神
(
りうじん
)
を
言霊
(
ことたま
)
の
035
神
(
かみ
)
の
息吹
(
ゐぶき
)
に
言向
(
ことむ
)
けよ
036
木花姫
(
このはなひめ
)
は
汝
(
なれ
)
が
身
(
み
)
の
037
前
(
まへ
)
に
後
(
うしろ
)
につき
添
(
そ
)
ひて
038
必
(
かなら
)
ず
功績
(
いさを
)
を
建
(
た
)
てさせむ
039
一日
(
ひとひ
)
も
早
(
はや
)
く
進
(
すす
)
めよと
040
言葉
(
ことば
)
終
(
をは
)
ると
諸共
(
もろとも
)
に
041
早
(
は
)
や
御姿
(
みすがた
)
は
消
(
き
)
え
給
(
たま
)
ひ
042
後
(
あと
)
に
芳香
(
はうかう
)
馥郁
(
ふくいく
)
と
043
四辺
(
あたり
)
に
薫
(
かを
)
る
床
(
ゆか
)
しさよ
044
幽玄
(
いうげん
)
閑雅
(
かんが
)
の
音楽
(
おんがく
)
は
045
梢
(
こずゑ
)
を
渡
(
わた
)
る
科戸辺
(
しなどべ
)
の
046
風
(
かぜ
)
に
相和
(
あひわ
)
し
面白
(
おもしろ
)
く
047
耳
(
みみ
)
も
若
(
わか
)
やぐ
若彦
(
わかひこ
)
が
048
常楠
(
つねくす
)
伴
(
ともな
)
ひ
天
(
てん
)
を
覆
(
おほ
)
ふ
049
樟
(
くす
)
の
老木
(
らうぼく
)
生茂
(
おひしげ
)
る
050
熊野
(
くまの
)
の
森
(
もり
)
を
後
(
あと
)
にして
051
神
(
かみ
)
の
御言
(
みこと
)
を
畏
(
かしこ
)
みつ
052
浪
(
なみ
)
のまにまに
出
(
い
)
で
来
(
きた
)
り
053
ハーリス
山
(
ざん
)
の
麓
(
ふもと
)
なる
054
槻
(
つき
)
の
大樹
(
だいじゆ
)
の
洞穴
(
どうけつ
)
を
055
暫時
(
しばし
)
の
住家
(
すみか
)
と
定
(
さだ
)
めつつ
056
日日
(
ひにち
)
毎日
(
まいにち
)
竜神
(
りうじん
)
を
057
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
す
其
(
その
)
為
(
ため
)
に
058
数多
(
あまた
)
の
土人
(
どじん
)
に
侍
(
かしづ
)
かれ
059
嶮
(
けは
)
しき
山坂
(
やまさか
)
昇降
(
しようかう
)
し
060
心
(
こころ
)
の
限
(
かぎ
)
り
真心
(
まごころ
)
を
061
尽
(
つく
)
して
神業
(
しんげふ
)
に
仕
(
つか
)
へける
062
今日
(
けふ
)
は
殊更
(
ことさら
)
竜神
(
りうじん
)
の
063
出現
(
しゆつげん
)
遅
(
おそ
)
く
暇
(
ひま
)
どりて
064
槻
(
つき
)
の
大木
(
おほき
)
の
仮宅
(
かりたく
)
に
065
帰
(
かへ
)
りし
頃
(
ころ
)
は
夜半
(
よはん
)
頃
(
ごろ
)
066
数多
(
あまた
)
の
篝火
(
かがりび
)
かがやかし
067
我
(
わ
)
が
洞穴
(
ほらあな
)
に
近
(
ちか
)
づきて
068
外
(
そと
)
より
中
(
なか
)
を
眺
(
なが
)
むれば
069
虎
(
とら
)
狼
(
おほかみ
)
か
鬼
(
おに
)
か
蛇
(
じや
)
か
070
はた
竜神
(
りうじん
)
の
化身
(
けしん
)
にや
071
異様
(
いやう
)
の
物影
(
ものかげ
)
忽
(
たちま
)
ちに
072
嘯
(
うそぶ
)
く
声
(
こゑ
)
はウーウーと
073
四辺
(
あたり
)
に
響
(
ひび
)
く
大音
(
だいおん
)
に
074
若彦
(
わかひこ
)
胆
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
しつつ
075
小声
(
こごゑ
)
になりて
数歌
(
かずうた
)
を
076
唱
(
とな
)
へ
終
(
をは
)
れば
中
(
なか
)
よりも
077
声調
(
せいてう
)
揃
(
そろ
)
はぬ
怪声
(
くわいせい
)
に
078
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つ
五
(
いつ
)
つ
六
(
む
)
つ
079
七
(
なな
)
八
(
や
)
つ
九
(
ここの
)
つ
十
(
とう
)
たらり
080
百
(
もも
)
千
(
ち
)
万
(
よろづ
)
と
応酬
(
おうしう
)
する
081
若彦
(
わかひこ
)
大地
(
だいち
)
に
平
(
ひ
)
れ
伏
(
ふ
)
して
082
轟
(
とどろ
)
く
胸
(
むね
)
を
押
(
おさ
)
へつつ
083
虎
(
とら
)
狼
(
おほかみ
)
か
鬼
(
おに
)
か
蛇
(
じや
)
か
084
但
(
ただし
)
は
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
か
085
名乗
(
なの
)
らせ
給
(
たま
)
へと
呼
(
よば
)
はれば
086
国依別
(
くによりわけ
)
は
声
(
こゑ
)
を
変
(
か
)
へ
087
ハーリス
山
(
ざん
)
の
竜神
(
りうじん
)
が
088
琉
(
りう
)
と
球
(
きう
)
との
宝玉
(
ほうぎよく
)
を
089
言依別
(
ことよりわけ
)
や
国依別
(
くによりわけ
)
の
090
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
に
授
(
さづ
)
くなり
091
夢々
(
ゆめゆめ
)
疑
(
うたが
)
ふ
事
(
こと
)
なかれ
092
是
(
これ
)
を
聞
(
き
)
いたる
若彦
(
わかひこ
)
は
093
正直
(
しやうぢき
)
一途
(
いちづ
)
の
性質
(
うまれつき
)
094
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
と
喜
(
よろこ
)
んで
095
感謝
(
かんしや
)
の
涙
(
なみだ
)
に
暮
(
く
)
れて
居
(
ゐ
)
る
096
常楠爺
(
つねくすぢ
)
さまは
怪
(
あや
)
しんで
097
心
(
こころ
)
の
僻
(
ひが
)
みか
知
(
し
)
らねども
098
竜
(
りう
)
の
化身
(
けしん
)
の
姫神
(
ひめがみ
)
と
099
思
(
おも
)
へぬ
節
(
ふし
)
がやつとある
100
言依別
(
ことよりわけの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
や
101
国依別
(
くによりわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
102
此
(
この
)
洞穴
(
どうけつ
)
に
入
(
い
)
りまして
103
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
ませ
給
(
たま
)
ふらん
104
此
(
この
)
姫神
(
ひめがみ
)
は
正
(
まさ
)
しくも
105
三五教
(
あななひけう
)
の
国依別
(
くによりわけ
)
の
106
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
が
茶目
(
ちやめ
)
式
(
しき
)
を
107
発揮
(
はつき
)
したるに
相違
(
さうゐ
)
なし
108
これこれ
国依別
(
くによりわけ
)
さまよ
109
早
(
はや
)
く
正体
(
しやうたい
)
現
(
あら
)
はせと
110
云
(
い
)
ふ
間
(
ま
)
もあらず
国依別
(
くによりわけ
)
は
111
察知
(
さつち
)
の
言葉
(
ことば
)
に
耐
(
たま
)
りかね
112
思
(
おも
)
はず
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
す
笑
(
わら
)
ひ
声
(
ごゑ
)
113
忽
(
たちま
)
ち
化
(
ばけ
)
は
現
(
あら
)
はれて
114
茲
(
ここ
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
暗黒
(
あんこく
)
の
115
洞穴内
(
どうけつない
)
に
押
(
お
)
し
入
(
い
)
つて
116
闇
(
やみ
)
に
彷徨
(
さまよ
)
ひ
燧石
(
ひうちいし
)
117
カチカチ
打
(
う
)
てど
何故
(
なにゆゑ
)
か
118
今日
(
けふ
)
に
限
(
かぎ
)
つて
火
(
ひ
)
は
出
(
い
)
でぬ
119
三
(
さん
)
人
(
にん
)
闇
(
やみ
)
に
包
(
つつ
)
まれて
120
盲
(
めくら
)
の
神
(
かみ
)
の
垣
(
かき
)
覗
(
のぞ
)
き
121
四辺
(
あたり
)
を
探
(
さぐ
)
る
折柄
(
をりから
)
に
122
松明
(
たいまつ
)
持
(
も
)
つて
両人
(
りやうにん
)
が
123
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
り
124
其処
(
そこ
)
に
明火
(
かがりび
)
を
立
(
た
)
て
置
(
お
)
いて
125
忽
(
たちま
)
ち
表
(
おもて
)
へ
駆
(
か
)
け
出
(
いだ
)
す
126
言依別
(
ことよりわけ
)
は
起上
(
おきあが
)
り
127
三人
(
みたり
)
の
姿
(
すがた
)
を
透
(
すか
)
し
見
(
み
)
て
128
不意
(
ふい
)
の
邂逅
(
かいこう
)
祝
(
しゆく
)
しつつ
129
久方
(
ひさかた
)
振
(
ぶ
)
りに
四方山
(
よもやま
)
の
130
話
(
はなし
)
と
共
(
とも
)
に
夜
(
よ
)
は
明
(
あ
)
けぬ
131
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
132
尊
(
たふと
)
き
神
(
かみ
)
の
引
(
ひ
)
き
合
(
あは
)
せ
133
四魂
(
しこん
)
揃
(
そろ
)
うて
神人
(
かみびと
)
は
134
旭
(
あさひ
)
の
光
(
ひかり
)
を
浴
(
あ
)
びながら
135
四五
(
しご
)
の
土人
(
どじん
)
を
従
(
したが
)
へて
136
棕櫚
(
しゆろ
)
や
花櫚
(
くわりん
)
の
生
(
を
)
ひ
茂
(
しげ
)
る
137
林
(
はやし
)
の
中
(
なか
)
を
掻
(
か
)
い
潜
(
くぐ
)
り
138
土
(
つち
)
柔
(
やはら
)
かくぼかぼかと
139
足
(
あし
)
を
没
(
ぼつ
)
する
山麓
(
さんろく
)
の
140
小径
(
こみち
)
を
踏占
(
ふみし
)
め
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
141
冬
(
ふゆ
)
とは
云
(
い
)
へど
雪
(
ゆき
)
も
無
(
な
)
ければ
霜
(
しも
)
も
降
(
ふ
)
らぬ、
142
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
の
夏
(
なつ
)
の
如
(
ごと
)
き
陽気
(
やうき
)
に、
143
汗
(
あせ
)
を
垂
(
た
)
らしながら
脛
(
すね
)
を
没
(
ぼつ
)
する
灰
(
はひ
)
のやうなボカボカ
道
(
みち
)
を
踏
(
ふ
)
み
慣
(
な
)
れぬ
足
(
あし
)
に
登
(
のぼ
)
つて
往
(
ゆ
)
く。
144
国依別
(
くによりわけ
)
は
空腹
(
くうふく
)
に
耐
(
た
)
へ
兼
(
か
)
ね、
145
傍
(
かたはら
)
の
芭蕉
(
ばせう
)
の
葉
(
は
)
を
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
剥
(
めく
)
つて
之
(
これ
)
を
四
(
よつ
)
つに
畳
(
たた
)
み、
146
敷物
(
しきもの
)
の
代
(
かは
)
りにして
路傍
(
みちばた
)
にドツカと
坐
(
ざ
)
し、
147
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
を
膝
(
ひざ
)
に
上向
(
うへむ
)
けにチンと
乗
(
の
)
せ、
148
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
を
握
(
にぎ
)
り
食指
(
ひとさしゆび
)
のみ
ヌツ
と
前
(
まへ
)
に
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
し、
149
太平柿
(
たいへいがき
)
の
甘
(
うま
)
さうに
断崖
(
だんがい
)
絶壁
(
ぜつぺき
)
に
実
(
な
)
つて
居
(
ゐ
)
るのを
見
(
み
)
て、
150
喉
(
のど
)
を
鳴
(
な
)
らせながら
無言
(
むごん
)
の
儘
(
まま
)
坐
(
すわ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
151
言依別
(
ことよりわけ
)
、
152
若彦
(
わかひこ
)
は
七八間
(
しちはちけん
)
も
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
153
国依別
(
くによりわけ
)
の
後
(
うしろ
)
から
従
(
つ
)
いて
来
(
き
)
た
常楠
(
つねくす
)
、
154
チヤール、
155
ベース
其
(
その
)
他
(
た
)
の
土人
(
どじん
)
は、
156
国依別
(
くによりわけ
)
の
態度
(
たいど
)
に
不審
(
ふしん
)
の
念
(
ねん
)
晴
(
は
)
れず、
157
ジツとして
顔
(
かほ
)
を
見詰
(
みつ
)
めて
居
(
ゐ
)
た。
158
国依別
(
くによりわけ
)
は
膝
(
ひざ
)
の
上
(
うへ
)
に
乗
(
の
)
せた
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
を
一二回
(
いちにくわい
)
上
(
あ
)
げ
下
(
さ
)
げし
乍
(
なが
)
ら、
159
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
の
食指
(
ひとさしゆび
)
にて
向
(
むか
)
ふの
柿
(
かき
)
を
指
(
ゆびさ
)
し、
160
次
(
つい
)
で
自分
(
じぶん
)
の
口
(
くち
)
を
指
(
さ
)
し、
161
又
(
また
)
柿
(
かき
)
を
指
(
さ
)
し
又
(
また
)
口
(
くち
)
を
指
(
ゆびさ
)
しやつて
居
(
ゐ
)
る。
162
常楠
(
つねくす
)
『モシモシ
国依別
(
くによりわけ
)
さま、
163
此
(
この
)
常楠
(
つねくす
)
は
年
(
とし
)
は
老
(
と
)
つても
耳
(
みみ
)
は
近
(
ちか
)
いのだから、
164
そんな
仕方
(
しかた
)
をせずに
口
(
くち
)
で
言
(
い
)
つたら
如何
(
どう
)
ですか』
165
国依別
(
くによりわけ
)
は
自分
(
じぶん
)
の
口
(
くち
)
を
指
(
さ
)
し
又
(
また
)
柿
(
かき
)
を
指
(
さ
)
し、
166
遂
(
つひ
)
には
腹
(
はら
)
を
指
(
さ
)
して
見
(
み
)
せた。
167
常楠
(
つねくす
)
『
察
(
さつ
)
する
所
(
ところ
)
あの
柿
(
かき
)
が
食
(
く
)
ひたいと
仰有
(
おつしや
)
るのですか。
168
そんなら
今
(
いま
)
喰
(
く
)
はして
上
(
あ
)
げませう。
169
これこれチヤールさま、
170
誰
(
たれ
)
か
此
(
この
)
中
(
うち
)
で
木登
(
きのぼ
)
りが
上手
(
じやうづ
)
な
人
(
ひと
)
、
171
此
(
この
)
谷
(
たに
)
を
向
(
むか
)
ふへ
渡
(
わた
)
つて、
172
あの
甘
(
うま
)
さうな
柿
(
かき
)
を
二
(
ふた
)
つ
三
(
みつ
)
つ
採
(
と
)
つて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さらぬか。
173
国依別
(
くによりわけ
)
の
喉
(
のど
)
の
神
(
かみ
)
さまが
彼
(
あ
)
の
柿
(
かき
)
を
献
(
たてまつ
)
れよと
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
して
御座
(
ござ
)
る』
174
チヤール『ハイ
畏
(
かしこ
)
まりました。
175
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
彼処
(
あすこ
)
に
残
(
のこ
)
つて
居
(
ゐ
)
るあの
柿
(
かき
)
は、
176
竜神
(
りうじん
)
さまの
柿
(
かき
)
と
云
(
い
)
つて
人間
(
にんげん
)
の
喰
(
く
)
ふ
物
(
もの
)
ぢや
御座
(
ござ
)
いませぬ。
177
若
(
も
)
し
一
(
ひと
)
つでも
喰
(
く
)
はうものなら、
178
男女
(
だんぢよ
)
に
拘
(
かか
)
はらず、
179
忽
(
たちま
)
ち
腹
(
はら
)
が
膨
(
ふく
)
れ、
180
遂
(
つひ
)
に
臍
(
へそ
)
がはぢけて、
181
大蛇
(
をろち
)
の
児
(
こ
)
が
生
(
うま
)
れ、
182
親
(
おや
)
はそれつ
切
(
き
)
り
国替
(
くにがへ
)
致
(
いた
)
すと
云
(
い
)
ふ
険難
(
けんのん
)
の
柿
(
かき
)
です。
183
それ
故
(
ゆゑ
)
誰
(
たれ
)
も
採
(
と
)
つた
者
(
もの
)
もなければ、
184
食
(
く
)
つた
者
(
もの
)
もありませぬ。
185
従
(
したが
)
つて
其
(
その
)
味
(
あぢ
)
を
知
(
し
)
る
者
(
もの
)
もないのです。
186
此
(
この
)
方
(
かた
)
に
竜神
(
りうじん
)
様
(
さま
)
が
御
(
お
)
憑
(
うつ
)
りになつて
居
(
を
)
られますのかなア。
187
そんなら
竜神
(
りうじん
)
さまに
御
(
お
)
上
(
あ
)
げ
申
(
まを
)
すつもりで、
188
取
(
と
)
つて
参
(
まゐ
)
りませうか』
189
ベース『オイオイ、
190
チヤール、
191
さう
安請合
(
やすうけあひ
)
をするものぢやないぞ。
192
何程
(
なにほど
)
常楠
(
つねくす
)
様
(
さま
)
が
天降
(
あまくだ
)
つた
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だと
云
(
い
)
つても、
193
竜神
(
りうじん
)
の
柿
(
かき
)
を
自由
(
じいう
)
になさる
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない。
194
又
(
また
)
仮令
(
たとへ
)
御
(
お
)
憑
(
うつ
)
りになつても、
195
それは
霊
(
れい
)
だから、
196
ムシヤムシヤお
食
(
あが
)
りになる
筈
(
はず
)
がない。
197
お
食
(
あが
)
りになるとすれば
此
(
この
)
方
(
かた
)
の
肉体
(
にくたい
)
が
食
(
く
)
ふのだから、
198
それこそ
大変
(
たいへん
)
だ。
199
サア
往
(
ゆ
)
かう。
200
若彦
(
わかひこ
)
様
(
さま
)
や
言依別
(
ことよりわけの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は、
201
最早
(
もはや
)
御
(
お
)
姿
(
すがた
)
が
見
(
み
)
えなくなつて
了
(
しま
)
つた』
202
国依別
(
くによりわけ
)
『
汝
(
なんぢ
)
チヤール、
203
ベースの
両人
(
りやうにん
)
、
204
其
(
その
)
争
(
あらそ
)
ひは
尤
(
もつと
)
もだ。
205
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
此
(
こ
)
の
方
(
はう
)
は
真
(
しん
)
の
竜神
(
りうじん
)
の
化身
(
けしん
)
、
206
元
(
もと
)
の
姿
(
すがた
)
の
儘
(
まま
)
ならば
谷間
(
たにま
)
に
下
(
くだ
)
つて
鎌首
(
かまくび
)
をキユウと
立
(
た
)
て、
207
舌
(
した
)
をニヨロニヨロ
出
(
だ
)
せば、
208
手
(
て
)
もなく
口
(
くち
)
にニユウと
這入
(
はい
)
るのであるが、
209
斯
(
か
)
う
人間
(
にんげん
)
に
化
(
ばけ
)
て
居
(
ゐ
)
る
間
(
あひだ
)
は、
210
ヤツパリ
人間
(
にんげん
)
並
(
なみ
)
に
採
(
と
)
ることが
出来
(
でき
)
ない。
211
神
(
かみ
)
が
命令
(
めいれい
)
する、
212
チヤール、
213
ベース、
214
早
(
はや
)
く
採
(
と
)
つて
参
(
まゐ
)
れ。
215
苦
(
くる
)
しうないぞ』
216
チヤール『ハイ
畏
(
かしこ
)
まりました』
217
ベース『
苦
(
くる
)
しうないと
仰有
(
おつしや
)
いましたね。
218
そりや
其
(
その
)
筈
(
はず
)
だ。
219
ジツとして
芭蕉
(
ばせう
)
の
葉
(
は
)
の
上
(
うへ
)
に
胡坐
(
あぐら
)
をかき、
220
人
(
ひと
)
に
苦
(
くる
)
しい
思
(
おも
)
ひをさして、
221
あの
柿
(
かき
)
を
採
(
と
)
り、
222
居
(
ゐ
)
乍
(
なが
)
らにして
据膳
(
すゑぜん
)
を
戴
(
いただ
)
き
遊
(
あそ
)
ばすのだもの、
223
何
(
なに
)
が
苦
(
くる
)
しいものか。
224
楽
(
らく
)
なものだよ』
225
国依別
(
くによりわけ
)
『グヅグヅ
申
(
まを
)
さずに
早
(
はや
)
く
採
(
と
)
つて
献上
(
けんじやう
)
致
(
いた
)
せ。
226
国依別
(
くによりわけ
)
空腹
(
くうふく
)
に
依
(
よ
)
り、
227
最早
(
もはや
)
一歩
(
いつぽ
)
も
歩行
(
ある
)
けなくなつて、
228
此処
(
ここ
)
に
極楽
(
ごくらく
)
往生
(
わうじやう
)
を
致
(
いた
)
しかけたぞよ』
229
常楠
(
つねくす
)
『オツホヽヽヽ』
230
チヤール、
231
ベースの
両人
(
りやうにん
)
は、
232
猿
(
ましら
)
の
如
(
ごと
)
く
断崖
(
だんがい
)
を
下
(
くだ
)
り、
233
可
(
か
)
なり
深
(
ふか
)
い
谷川
(
たにがは
)
の
点在
(
てんざい
)
せる
岩
(
いは
)
の
頭
(
あたま
)
を
飛
(
と
)
び
乍
(
なが
)
ら、
234
流
(
ながれ
)
を
避
(
よ
)
けて
向
(
むか
)
ふ
側
(
がは
)
に
渡
(
わた
)
り、
235
柿
(
かき
)
の
木
(
き
)
に
喰
(
く
)
ひついて
二人
(
ふたり
)
は
登
(
のぼ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
236
水
(
みづ
)
の
垂
(
た
)
る
様
(
やう
)
な
甘
(
うま
)
さうな
柿
(
かき
)
が、
237
幾
(
いく
)
つともなく
沢山
(
たくさん
)
に
葉
(
は
)
の
蔭
(
かげ
)
にぶらついて
居
(
ゐ
)
る。
238
其
(
その
)
大
(
おほ
)
きさは
牛
(
うし
)
の
睾丸
(
きんたま
)
位
(
くらゐ
)
確
(
たし
)
かにある。
239
チヤール、
240
ベースの
両人
(
りやうにん
)
は
得
(
え
)
も
言
(
い
)
はれぬ
甘
(
うま
)
さうな
香
(
にほひ
)
に
耐
(
たま
)
りかね、
241
自分
(
じぶん
)
の
使命
(
しめい
)
を
忘
(
わす
)
れて
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
甘
(
うま
)
さうな
奴
(
やつ
)
から、
242
採
(
と
)
つては
食
(
く
)
ひ
採
(
と
)
つては
食
(
く
)
ひ、
243
舌鼓
(
したつづみ
)
を
打
(
う
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
244
常楠
(
つねくす
)
は
下
(
した
)
から
声
(
こゑ
)
を
掛
(
か
)
け、
245
常楠
(
つねくす
)
『コレコレ、
246
チヤール、
247
ベースの
両人
(
りやうにん
)
、
248
柿
(
かき
)
を
落
(
おと
)
さないか』
249
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
にチヤールはフト
気
(
き
)
がつき、
250
チヤール『
今
(
いま
)
落
(
おと
)
しませう。
251
併
(
しか
)
し
斯
(
こ
)
んな
柔
(
やはら
)
かい
柿
(
かき
)
を
落
(
おと
)
せば、
252
潰
(
つぶ
)
れて
了
(
しま
)
ひます。
253
生憎
(
あいにく
)
容
(
い
)
れ
物
(
もの
)
もなし、
254
私
(
わたし
)
の
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
へ
入
(
い
)
れて
持
(
も
)
つて
下
(
お
)
りますから、
255
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい』
256
常楠
(
つねくす
)
『
此処
(
ここ
)
に
竜神
(
りうじん
)
さまがお
待兼
(
まちかね
)
だ。
257
少
(
すこ
)
し
固
(
かた
)
くつても
良
(
よ
)
いから、
258
むし
つて
此方
(
こちら
)
へ
抛
(
ほ
)
つて
呉
(
く
)
れ』
259
チヤール『
堅
(
かた
)
いものは
渋
(
しぶ
)
くつて
喰
(
く
)
へませぬぞえ』
260
常楠
(
つねくす
)
『エー
仕方
(
しかた
)
がないなア』
261
国依別
(
くによりわけ
)
『あゝ
斯
(
こ
)
うして
居
(
ゐ
)
て、
262
人
(
ひと
)
が
甘
(
うま
)
さうに
食
(
く
)
うて
居
(
ゐ
)
るのを
見
(
み
)
ると、
263
腹
(
はら
)
が
余計
(
よけい
)
空
(
す
)
くようだ。
264
エー
仕方
(
しかた
)
がない、
265
人
(
ひと
)
を
力
(
ちから
)
にするな、
266
師匠
(
ししやう
)
を
杖
(
つゑ
)
に
突
(
つ
)
くなと、
267
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
仰有
(
おつしや
)
つた。
268
人
(
ひと
)
の
力
(
ちから
)
で
甘
(
あま
)
い
柿
(
かき
)
を
採
(
と
)
つて、
269
徳
(
とく
)
を
取
(
と
)
らうと
思
(
おも
)
つても
駄目
(
だめ
)
だ。
270
ドレ
自分
(
じぶん
)
の
事
(
こと
)
は
自分
(
じぶん
)
で
埒
(
らち
)
をつけるに
限
(
かぎ
)
る』
271
とペコペコした
腹
(
はら
)
を
抱
(
かか
)
へ、
272
二重腰
(
ふたへごし
)
になつて、
273
断崖
(
だんがい
)
を
辷
(
すべ
)
り
落
(
お
)
ち、
274
谷川
(
たにがは
)
から
浮
(
う
)
き
出
(
だ
)
した
岩
(
いは
)
の
頭
(
あたま
)
を、
275
ポイポイと
飛
(
と
)
び
越
(
こ
)
え、
276
辛
(
から
)
うじて
対岸
(
たいがん
)
の
柿
(
かき
)
の
根元
(
ねもと
)
に
着
(
つ
)
いた。
277
見
(
み
)
れば
二人
(
ふたり
)
は
蚕
(
かひこ
)
が
桑
(
くは
)
の
葉
(
は
)
を
食
(
く
)
ふやうに、
278
小口
(
こぐち
)
ごなしに
赤
(
あか
)
い
甘
(
うま
)
いのを
平
(
たひ
)
らげて
仕舞
(
しま
)
ひ、
279
下
(
した
)
の
方
(
はう
)
には
青
(
あを
)
い
渋
(
しぶ
)
いのがぶら
下
(
さが
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
280
国依別
(
くによりわけ
)
は
空
(
そら
)
を
仰
(
あふ
)
きながら、
281
国依別
(
くによりわけ
)
『オイ、
282
チヤール、
283
ベースの
両人
(
りやうにん
)
、
284
些
(
ちつ
)
とは
赤
(
あか
)
いのを
残
(
のこ
)
して
置
(
お
)
いて
呉
(
く
)
れよ。
285
今
(
いま
)
登
(
のぼ
)
るから……』
286
と
柿
(
かき
)
の
節
(
ふし
)
だらけの
瘤
(
こぶ
)
に
手
(
て
)
をかけ
足
(
あし
)
をかけ、
287
やつと
一
(
いち
)
の
枝
(
えだ
)
に
取
(
と
)
りつき
下
(
した
)
を
見
(
み
)
れば、
288
激潭
(
げきたん
)
飛沫
(
ひまつ
)
の
谷川
(
たにがは
)
凄惨
(
せいさん
)
の
気
(
き
)
に
襲
(
おそ
)
はれ、
289
空腹
(
くうふく
)
の
上
(
うへ
)
の
事
(
こと
)
とて
目
(
め
)
も
眩
(
くら
)
む
様
(
やう
)
な
感
(
かん
)
じがして
来
(
き
)
た。
290
国依別
(
くによりわけ
)
は
漸
(
やうや
)
くにして
一方
(
いつぱう
)
の
細
(
ほそ
)
き
枝
(
えだ
)
に
身
(
み
)
を
寄
(
よ
)
せ、
291
国依別
(
くによりわけ
)
『アヽ
危
(
あぶな
)
いものだ。
292
この
枝
(
えだ
)
が
一
(
ひと
)
つペキンと
折
(
を
)
れようものなら
忽
(
たちま
)
ち
寂滅
(
じやくめつ
)
為楽
(
ゐらく
)
だ。
293
併
(
しか
)
し
怖
(
こは
)
い
所
(
ところ
)
に
行
(
ゆ
)
かねば
熟柿
(
じゆくし
)
は
食
(
く
)
へんぞよと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
仰有
(
おつしや
)
つた。
294
美味
(
おい
)
しい
熟柿
(
じゆくし
)
は
矢張
(
やつぱ
)
り
怖
(
こは
)
い
所
(
ところ
)
にあるものだナア』
295
と
呟
(
つぶや
)
きながら
辛
(
から
)
うじて
美味
(
うま
)
さうな
奴
(
やつ
)
を
一
(
ひと
)
つ
むし
り、
296
飛
(
と
)
びつくやうに
矢庭
(
やには
)
に
頬張
(
ほほば
)
つて
見
(
み
)
た。
297
何
(
なん
)
とも
云
(
い
)
へぬ
美味
(
びみ
)
で
思
(
おも
)
はず
目
(
め
)
も
細
(
ほそ
)
くなり、
298
顔
(
かほ
)
に
皺
(
しわ
)
を
寄
(
よ
)
せて
賞翫
(
しやうぐわん
)
した。
299
忽
(
たちま
)
ち
腹
(
はら
)
は
布袋
(
ほてい
)
の
如
(
ごと
)
く
刻々
(
こくこく
)
に
膨
(
ふく
)
れ
出
(
だ
)
した。
300
国依別
(
くによりわけ
)
『ヤア
此奴
(
こいつ
)
は
耐
(
たま
)
らん、
301
チヤールの
云
(
い
)
ふやうに
大蛇
(
だいじや
)
が
腹
(
はら
)
に
宿
(
やど
)
つたのかなア。
302
何
(
なん
)
だか
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
がクレクレとして
来
(
き
)
たぞ。
303
天足
(
あだる
)
、
304
胞場
(
えば
)
の
昔
(
むかし
)
のやうに
体主
(
たいしゆ
)
霊従
(
れいじう
)
になつて
仕舞
(
しま
)
ふのではあるまいかなア。
305
高山
(
たかやま
)
の
伊保理
(
いほり
)
、
306
低山
(
ひきやま
)
の
伊保理
(
いほり
)
を
柿
(
かき
)
わけて
食
(
きこ
)
し
召
(
め
)
せと
云
(
い
)
ふからは、
307
強
(
あなが
)
ち
神罰
(
しんばつ
)
も
当
(
あた
)
るまい。
308
アヽグヅグヅして
居
(
ゐ
)
ると
腹
(
はら
)
が
大
(
おほ
)
きくなつて
下
(
お
)
りられないやうになる。
309
あゝ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
310
と
樹
(
き
)
を
下
(
お
)
りんとする。
311
相当
(
さうたう
)
に
黒
(
くろ
)
い
大
(
おほ
)
きな
大蛇
(
だいじや
)
、
312
亀甲型
(
きつかふがた
)
の
斑紋
(
はんもん
)
を
光
(
ひか
)
らせながら
絡繹
(
らくえき
)
として
柿
(
かき
)
の
樹
(
き
)
目蒐
(
めが
)
けて
上
(
のぼ
)
つて
来
(
く
)
る
嫌
(
いや
)
らしさ。
313
国依別
(
くによりわけ
)
は
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
一
(
ひと
)
二
(
ふた
)
三
(
み
)
四
(
よ
)
と
天
(
あま
)
の
数歌
(
かずうた
)
を
唱
(
とな
)
へた。
314
国依別
(
くによりわけ
)
は
追々
(
おひおひ
)
登
(
のぼ
)
り
来
(
きた
)
る
勢
(
いきほひ
)
猛
(
たけ
)
き
悪蛇
(
あくじや
)
に
僻易
(
へきえき
)
し、
315
樹上
(
じゆじやう
)
より
両手
(
りやうて
)
を
拡
(
ひろ
)
げて
空中
(
くうちう
)
を
掻
(
か
)
きながら、
316
谷川
(
たにがは
)
の
蒼味
(
あをみ
)
だつた
深淵
(
しんえん
)
の
上
(
うへ
)
にドブンと
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んだ。
317
逆巻
(
さかま
)
く
浪
(
なみ
)
に
捲
(
ま
)
き
込
(
こ
)
まれて
暫
(
しばら
)
くは
其
(
その
)
姿
(
すがた
)
も
見
(
み
)
えなくなつて
仕舞
(
しま
)
つた。
318
蛇
(
へび
)
は
急速度
(
きふそくど
)
を
以
(
もつ
)
て
数
(
かず
)
限
(
かぎ
)
りなく
柿
(
かき
)
の
木
(
き
)
に
上
(
のぼ
)
つて
来
(
く
)
る。
319
チヤール、
320
ベースの
両人
(
りやうにん
)
は、
321
国依別
(
くによりわけ
)
の
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ
青淵
(
あをぶち
)
目蒐
(
めが
)
けて
又
(
また
)
もやドブンドブンと
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んで
仕舞
(
しま
)
つた。
322
パツと
立
(
た
)
つた
水煙
(
みづけむり
)
と
共
(
とも
)
に
二人
(
ふたり
)
の
姿
(
すがた
)
は
又々
(
またまた
)
消
(
き
)
えて
仕舞
(
しま
)
つた。
323
あゝ
此
(
この
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
行方
(
ゆくへ
)
は
如何
(
どう
)
なつたのであらうか。
324
(
大正一一・七・二五
旧六・二
加藤明子
録)
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