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霊界物語
霊主体従(第1~12巻)
第7巻(午の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 大台ケ原
第1章 日出山上
第2章 三神司邂逅
第3章 白竜
第4章 石土毘古
第5章 日出ケ嶽
第6章 空威張
第7章 山火事
第2篇 白雪郷
第8章 羽衣の松
第9章 弱腰男
第10章 附合信神
第11章 助け船
第12章 熟々尽
第3篇 太平洋
第13章 美代の浜
第14章 怒濤澎湃
第15章 船幽霊
第16章 釣魚の悲
第17章 亀の背
第4篇 鬼門より竜宮へ
第18章 海原の宮
第19章 無心の船
第20章 副守飛出
第21章 飲めぬ酒
第22章 竜宮の宝
第23章 色良い男
第5篇 亜弗利加
第24章 筑紫上陸
第25章 建日別
第26章 アオウエイ
第27章 蓄音器
第28章 不思議の窟
第6篇 肥の国へ
第29章 山上の眺
第30章 天狗の親玉
第31章 虎転別
第32章 水晶玉
第7篇 日出神
第33章 回顧
第34章 時の氏神
第35章 木像に説教
第36章 豊日別
第37章 老利留油
第38章 雲天焼
第39章 駱駝隊
第8篇 一身四面
第40章 三人奇遇
第41章 枯木の花
第42章 分水嶺
第43章 神の国
第44章 福辺面
第45章 酒魂
第46章 白日別
第47章 鯉の一跳
第9篇 小波丸
第48章 悲喜交々
第49章 乗り直せ
第50章 三五〇
附録 第三回高熊山参拝紀行歌
余白歌
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霊界物語
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第7巻(午の巻)
> 第9篇 小波丸 > 第49章 乗り直せ
<<< 悲喜交々
(B)
(N)
三五〇 >>>
第四九章
乗
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ〔三四九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
篇:
第9篇 小波丸
よみ(新仮名遣い):
さざなみまる
章:
第49章 乗り直せ
よみ(新仮名遣い):
のりなおせ
通し章番号:
349
口述日:
1922(大正11)年02月02日(旧01月06日)
口述場所:
筆録者:
桜井重雄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年5月31日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
船は、瀬戸の海の一つ島の近くにやって来た。向こうから来る船のへさきにも、被面布をかけた宣伝使がたっている。
北光神は、やってくる船の宣伝使に歌で名を問いかけた。これは広道別であった。これから阿弗利加の熊襲の国に渡って、曲霊を言向け和すという。二人はすれ違いに、被面布を取って互いの安全を祝した。
船中の客たちは、かつてここにシオン山という高い山があったが、大洪水の際に地の底に沈んでしまい、竜宮海と瀬戸の海が一つになったのだ、と昔話をしている。
かつて稚桜姫命が竜宮城を治めていた時代の話に花を咲かせた。甲は、善と悪とが立て別けられたのは大洪水以前の話だ、と三五教の教えを一笑に付している。
すると船の中から宣伝歌を歌う者がある。甲は頭痛がしだした。そして宣伝使に向かって悪態をつく。するとまた別の宣伝使が宣伝歌を歌いだした。
甲は船が岸に着くや否や、船を飛び出して姿を隠してしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
[×閉じる]
:
備考:
タグ:
サルヂニヤ島(一つ島)
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-05-06 19:52:54
OBC :
rm0749
愛善世界社版:
300頁
八幡書店版:
第2輯 142頁
修補版:
校定版:
311頁
普及版:
127頁
初版:
ページ備考:
001
折
(
をり
)
から
吹
(
ふ
)
き
来
(
く
)
る
真夏
(
まなつ
)
の
夜風
(
よかぜ
)
に
面
(
おもて
)
を
吹
(
ふ
)
かせながら、
002
船頭
(
せんどう
)
は
舳
(
へさき
)
に
立
(
た
)
つて、
003
竜宮
(
りうぐう
)
見
(
み
)
たさに
瀬戸海
(
せとうみ
)
越
(
こ
)
せば
004
向
(
むか
)
ふに
見
(
み
)
えるは
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
005
と
歌
(
うた
)
ひ
出
(
だ
)
したり。
006
船
(
ふね
)
は
小波
(
さざなみ
)
の
上
(
うへ
)
を
静
(
しづ
)
かに
辷
(
すべ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
007
空
(
そら
)
一面
(
いちめん
)
に
疎
(
まばら
)
の
星
(
ほし
)
が
輝
(
かがや
)
き、
008
月
(
つき
)
は
中空
(
ちうくう
)
に
水
(
みづ
)
の
滴
(
したた
)
るやうな
顔
(
かほ
)
をして
海面
(
かいめん
)
を
覗
(
のぞ
)
いてゐる。
009
海
(
うみ
)
の
底
(
そこ
)
には
竜
(
りう
)
の
盤紆
(
うね
)
るやうな
月影
(
つきかげ
)
沈
(
しづ
)
ンでゐる。
010
この
時
(
とき
)
前方
(
ぜんぱう
)
より
艪
(
ろ
)
を
漕
(
こ
)
ぎ
舵
(
かぢ
)
を
操
(
あやつ
)
りながら、
011
グーイグーイ、
012
ギークギークと
音
(
おと
)
をさせて、
013
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
進
(
すす
)
み
来
(
く
)
る
一艘
(
いつそう
)
の
船
(
ふね
)
があつた。
014
その
船
(
ふね
)
の
舳
(
へさき
)
に
蓑笠
(
みのかさ
)
を
着
(
ちやく
)
し、
015
被面布
(
ひめんぷ
)
をつけた
男
(
をとこ
)
が
立
(
た
)
つてゐる。
016
北光
(
きたてるの
)
神
(
かみ
)
は、
017
その
船
(
ふね
)
に
向
(
むか
)
つて
声
(
こゑ
)
を
張上
(
はりあ
)
げ、
018
北光神
『
心
(
こころ
)
を
尽
(
つく
)
し
身
(
み
)
を
尽
(
つく
)
し
019
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
に
麻柱
(
あななひ
)
の
020
道
(
みち
)
を
立
(
た
)
て
抜
(
ぬ
)
く
宣伝使
(
せんでんし
)
021
四方
(
よも
)
の
国々
(
くにぐに
)
巡
(
めぐ
)
り
来
(
き
)
て
022
やうやう
此処
(
ここ
)
に
北光
(
きたてる
)
の
023
我
(
われ
)
は
目一箇
(
まひとつの
)
神
(
かみ
)
なるぞ
024
名告
(
なの
)
らせ
給
(
たま
)
へその
船
(
ふね
)
の
025
舳
(
へさき
)
に
立
(
た
)
てる
宣伝使
(
せんでんし
)
026
舳
(
へさき
)
に
立
(
た
)
てる
神人
(
かみびと
)
よ』
027
と
歌
(
うた
)
へば、
028
その
声
(
こゑ
)
に
応
(
おう
)
じて
向
(
むか
)
ふの
船
(
ふね
)
より、
029
広道別
『
天津
(
あまつ
)
御神
(
みかみ
)
や
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
030
木
(
こ
)
の
花姫
(
はなひめ
)
の
御教
(
みをしへ
)
を
031
四方
(
よも
)
の
国々
(
くにぐに
)
島々
(
しまじま
)
に
032
広道別
(
ひろみちわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
033
汝
(
なれ
)
は
何
(
いづ
)
れに
坐
(
ま
)
しますか
034
我
(
われ
)
はこれより
亜弗利加
(
アフリカ
)
の
035
熊襲
(
くまそ
)
の
国
(
くに
)
に
渡
(
わた
)
るなり
036
熊襲
(
くまそ
)
の
国
(
くに
)
は
猛
(
たけ
)
くとも
037
神
(
かみ
)
の
依
(
よ
)
さしの
言霊
(
ことたま
)
に
038
四方
(
よも
)
の
曲霊
(
まがひ
)
を
悉
(
ことごと
)
く
039
言向和
(
ことむけや
)
はせ
天教
(
てんけう
)
の
040
山
(
やま
)
に
坐
(
ま
)
します
木
(
こ
)
の
花姫
(
はなひめ
)
の
041
神
(
かみ
)
の
命
(
みこと
)
や
黄金
(
わうごん
)
の
042
山
(
やま
)
の
麓
(
ふもと
)
に
現
(
あ
)
れませる
043
埴安
(
はにやす
)
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
前
(
まへ
)
に
044
奇
(
く
)
しき
功
(
いさを
)
を
立
(
た
)
つるまで
045
浪路
(
なみぢ
)
を
渡
(
わた
)
る
宣伝使
(
せんでんし
)
046
稜威
(
みいづ
)
も
広
(
ひろ
)
き
広道別
(
ひろみちわけ
)
の
047
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
は
我
(
われ
)
なるぞ
048
神
(
かみ
)
の
使
(
つかひ
)
は
我
(
われ
)
なるぞ』
049
と
歌
(
うた
)
ふ
声
(
こゑ
)
も
幽
(
かす
)
かになり
行
(
ゆ
)
く。
050
二人
(
ふたり
)
は
互
(
たが
)
ひに
立
(
た
)
ち
上
(
あ
)
がり、
051
被面布
(
ひめんぷ
)
を
振
(
ふ
)
つてその
安全
(
あんぜん
)
を
祝
(
しゆく
)
し
合
(
あ
)
ひける。
052
船中
(
せんちう
)
の
人々
(
ひとびと
)
は
亦
(
また
)
もや
雑談
(
ざつだん
)
を
始
(
はじ
)
め
出
(
だ
)
したり。
053
甲
(
かふ
)
『もう、
054
つい
竜宮城
(
りうぐうじやう
)
が
見
(
み
)
えるぜ。
055
おとなしくせぬと、
056
竜宮
(
りうぐう
)
さまが
怒
(
おこ
)
つて
荒浪
(
あらなみ
)
を
立
(
た
)
てられたらまた
昨日
(
きのふ
)
のやうに
八百屋
(
やほや
)
店
(
みせ
)
を
出
(
だ
)
して
苦
(
くる
)
しまねばならぬから、
057
小
(
ちひ
)
さい
声
(
こゑ
)
で
話
(
はな
)
しをしようかい』
058
乙
(
おつ
)
『お
前
(
まへ
)
らこの
竜宮
(
りうぐう
)
の
訳
(
わけ
)
を
知
(
し
)
つてるか、
059
今
(
いま
)
こそかうして
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
つて
瀬戸
(
せと
)
の
海
(
うみ
)
から
竜宮城
(
りうぐうじやう
)
まで
楽
(
らく
)
に
行
(
ゆ
)
けるが、
060
昔
(
むかし
)
は
竜宮
(
りうぐう
)
と
瀬戸
(
せと
)
の
海
(
うみ
)
との
真中
(
まんなか
)
に、
061
それはそれは
高
(
たか
)
い
山
(
やま
)
があつて、
062
その
山
(
やま
)
はシオン
山
(
ざん
)
というてな、
063
何
(
なん
)
でもえらい
玉
(
たま
)
が
出
(
で
)
たといふことだ。
064
それが
大洪水
(
だいこうずゐ
)
のあつた
時
(
とき
)
に、
065
地震
(
ぢしん
)
が
揺
(
ゆ
)
つてその
山
(
やま
)
が
地
(
ち
)
の
底
(
そこ
)
に
沈
(
しづ
)
ンで
了
(
しま
)
ひ、
066
竜宮
(
りうぐう
)
と
瀬戸
(
せと
)
の
海
(
うみ
)
とが
一
(
ひと
)
つになつて
了
(
しま
)
うたといふことだよ』
067
丙
(
へい
)
『そんな
事
(
こと
)
かい、
068
そんな
事
(
こと
)
は
祖父
(
ぢい
)
の
代
(
だい
)
から
誰
(
たれ
)
でも
聞
(
き
)
いてゐる
事
(
こと
)
だよ。
069
もつと
珍
(
めづら
)
しい
話
(
はなし
)
はないのかい』
070
乙
(
おつ
)
『
竜宮城
(
りうぐうじやう
)
には
稚桜姫
(
わかざくらひめ
)
といふ、
071
それはそれは
美
(
うつく
)
しい
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
があつて、
072
そこに
大八洲彦
(
おほやしまひこの
)
命
(
みこと
)
とか、
073
大足彦
(
おほだるひこ
)
とかいふ
立派
(
りつぱ
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
竜宮城
(
りうぐうじやう
)
とヱルサレムの
宮
(
みや
)
を
守
(
まも
)
つて
御座
(
ござ
)
つた。
074
さうすると
常世
(
とこよ
)
の
国
(
くに
)
の
常世姫
(
とこよひめ
)
といふ
偉
(
えら
)
い
女性
(
ぢよせい
)
が
竜宮
(
りうぐう
)
を
占領
(
せんりやう
)
しようと
思
(
おも
)
うて、
075
何遍
(
なんべん
)
も
何遍
(
なんべん
)
も
偉
(
えら
)
い
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
戦
(
たたか
)
ひが
始
(
はじ
)
まつたということだのう。
076
今
(
いま
)
の
竜宮
(
りうぐう
)
もヱルサレムの
宮
(
みや
)
も
昔
(
むかし
)
の
話
(
はなし
)
と
比
(
くら
)
べて
見
(
み
)
ると、
077
本当
(
ほんたう
)
に
みじめ
なものだ。
078
ヨルダン
河
(
がは
)
というて
大
(
おほ
)
きな
河
(
かは
)
があつたのが、
079
その
河
(
かは
)
も
洪水
(
こうずゐ
)
の
時
(
とき
)
に
埋
(
うま
)
つて
了
(
しま
)
ひ、
080
今
(
いま
)
では
小
(
ちい
)
さい
細
(
ほそ
)
い
川
(
かは
)
となつて、
081
汚
(
きたな
)
い
水
(
みづ
)
が
流
(
なが
)
れて
居
(
を
)
る。
082
変
(
かは
)
れば
変
(
かは
)
る
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だ。
083
これを
思
(
おも
)
へば
何
(
ど
)
ンな
偉
(
えら
)
い
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
でも
あかぬ
ものだな。
084
翔
(
た
)
つ
鳥
(
とり
)
も
落
(
お
)
ちる
勢
(
いきほひ
)
の
稚桜姫
(
わかざくらひめ
)
といふ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
も、
085
大八洲
(
おほやしま
)
彦
(
ひこ
)
といふ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
もさつぱり
常世姫
(
とこよひめ
)
とかに
わや
にされて、
086
今
(
いま
)
は
吾々
(
われわれ
)
の
行
(
ゆ
)
く
事
(
こと
)
のできぬ
富士
(
ふじ
)
とやらへ
逃
(
に
)
げて
行
(
ゆ
)
かれたといふ
事
(
こと
)
だよ』
087
丙
(
へい
)
『フーン、
088
さうかい。
089
さうすると
我々
(
われわれ
)
も
今
(
いま
)
豪
(
えら
)
さうに
言
(
い
)
つて
居
(
を
)
つてもどう
変
(
かは
)
るやら
分
(
わか
)
らぬな』
090
乙
(
おつ
)
『
知
(
し
)
れた
事
(
こと
)
よ、
091
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
でも
時世
(
ときよ
)
時節
(
じせつ
)
には
敵
(
かな
)
はぬのだもの、
092
我々
(
われわれ
)
はなほ
更
(
さら
)
の
事
(
こと
)
だ。
093
併
(
しか
)
しこの
船
(
ふね
)
には
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
が
乗
(
の
)
つて
居
(
ゐ
)
られるといふ
事
(
こと
)
だが、
094
一遍
(
いつぺん
)
話
(
はなし
)
を
聞
(
き
)
かして
貰
(
もら
)
つたら
如何
(
どう
)
だらう』
095
甲
(
かふ
)
『イヤ
最
(
も
)
う
宣伝使
(
せんでんし
)
の
歌
(
うた
)
も
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
なものだよ。
096
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわ
)
けるなンて、
097
冷飯
(
ひやめし
)
に
湯気
(
ゆげ
)
が
立
(
た
)
つたやうな
事
(
こと
)
を
吐
(
ぬ
)
かすのだもの、
098
阿呆
(
あはう
)
らしくて
聞
(
き
)
かれたものぢやない。
099
そンな
歌
(
うた
)
は
大洪水
(
だいこうずゐ
)
前
(
ぜん
)
の
事
(
こと
)
だ。
100
大洪水
(
だいこうずゐ
)
のときは
善
(
ぜん
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
天教山
(
てんけうざん
)
とか
天橋
(
てんけう
)
とかに
助
(
たす
)
けられ、
101
悪
(
わる
)
い
者
(
もの
)
は
洪水
(
こうずゐ
)
に
漂
(
ただよ
)
うたり、
102
百足虫
(
むかで
)
の
山
(
やま
)
や
蟻
(
あり
)
の
山
(
やま
)
に
揚
(
あ
)
げられて、
103
善悪
(
ぜんあく
)
の
立別
(
たてわけ
)
がハツキリあつたさうだ。
104
俺
(
おれ
)
等
(
ら
)
の
祖父
(
ぢい
)
の
代
(
だい
)
の
話
(
はなし
)
だから
詳
(
くは
)
しい
事
(
こと
)
は
知
(
し
)
らぬが、
105
今
(
いま
)
ごろにそんな
事
(
こと
)
を
歌
(
うた
)
ふ
奴
(
やつ
)
は、
106
死
(
し
)
ンだ
子
(
こ
)
の
年
(
とし
)
を
数
(
かぞ
)
へるやうなものだ。
107
阿呆
(
あほ
)
らしいぢやないか。
108
これだけ
開
(
ひら
)
けた
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
が、
109
さう
易々
(
やすやす
)
と
立替
(
たてか
)
はつて
堪
(
たま
)
るかい。
110
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわ
)
けるとか
変
(
かは
)
るとかいふが、
111
俺
(
おれ
)
の
処
(
とこ
)
の
村
(
むら
)
の
久公
(
きうこう
)
のやうな
悪人
(
あくにん
)
は
段々
(
だんだん
)
と
栄
(
さか
)
えて
来
(
く
)
るなり、
112
新公
(
しんこう
)
のやうな
善人
(
ぜんにん
)
は
益々
(
ますます
)
貧乏
(
びんばふ
)
して、
113
終
(
しま
)
ひには
道具
(
だうぐ
)
を
売
(
う
)
つて
親子
(
おやこ
)
夫婦
(
ふうふ
)
が
生別
(
いきわか
)
れして
乞食
(
こじき
)
に
出
(
で
)
たぢやないか。
114
俺
(
おれ
)
はそれを
思
(
おも
)
うと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
を
頼
(
たの
)
む
気
(
き
)
にならぬがなア。
115
宣伝使
(
せんでんし
)
の
歌
(
うた
)
なンて
古
(
ふる
)
めかしいわい、
116
六日
(
むゆか
)
の
菖蒲
(
あやめ
)
十日
(
とをか
)
の
菊
(
きく
)
だ。
117
併
(
しか
)
しながら、
118
憂晴
(
うさばら
)
しに
聞
(
き
)
くのは
善
(
よ
)
いが、
119
それを
ほンま
の
事
(
こと
)
だと
思
(
おも
)
つたら、
120
量見
(
りやうけん
)
が
違
(
ちが
)
ふぞ。
121
宣伝使
(
せんでんし
)
といふものは、
122
方便
(
はうべん
)
を
使
(
つか
)
つて
吾々
(
われわれ
)
に
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
をせぬやうにするのだが、
123
今日
(
こんにち
)
のやうに
悪
(
あく
)
が
栄
(
さか
)
えて
善
(
ぜん
)
が
衰
(
おとろ
)
へるやうな
暗
(
くら
)
がりの
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
に、
124
何
(
なに
)
ほど
宣伝使
(
せんでんし
)
が
呶鳴
(
どな
)
つたところで、
125
屁
(
へ
)
の
突張
(
つつぱり
)
にもなつたものぢやないよ』
126
この
時
(
とき
)
、
127
船
(
ふね
)
の
一方
(
いつぱう
)
より、
128
宣伝使
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
129
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわけ
)
る』
130
甲
(
かふ
)
『それ
始
(
はじ
)
まつた、
131
頭
(
あたま
)
が
痛
(
いた
)
い。
132
こいつは
耐
(
たま
)
らぬ。
133
この
船
(
ふね
)
には
怪体
(
けたい
)
な
奴
(
やつ
)
が
乗
(
の
)
つて
けつ
かるものだ』
134
宣伝使
『この
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
135
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
136
ただ
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
137
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
せ
聞直
(
ききなほ
)
せ
138
身
(
み
)
の
過
(
あやまち
)
は
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ』
139
乙
(
おつ
)
『オイ
貴様
(
きさま
)
心配
(
しんぱい
)
せいでもよいわ。
140
宣伝使
(
せんでんし
)
が
今
(
いま
)
乗
(
の
)
り
直
(
なほ
)
すと
言
(
い
)
つてゐた。
141
今
(
いま
)
其処
(
そこ
)
へ
来
(
く
)
る
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
り
直
(
なほ
)
して
呉
(
く
)
れるわい。
142
さうしたらいやな
歌
(
うた
)
は
聞
(
き
)
かいでもよいわ』
143
甲
(
かふ
)
『
早
(
はや
)
く
乗
(
の
)
り
直
(
なほ
)
しやがらぬかいな』
144
宣伝使
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて……』
145
甲
(
かふ
)
『ソレ
亦
(
また
)
始
(
はじ
)
めよつた。
146
アイタヽヽヽ』
147
宣伝使
『
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわけ
)
る……』
148
甲
(
かふ
)
『あゝたゝ
怺
(
たま
)
らぬ
怺
(
たま
)
らぬ』
149
と
言
(
い
)
ひながら、
150
甲
(
かふ
)
は
立
(
た
)
つて、
151
甲
『やいやいやい
宣伝使
(
せんでんし
)
152
それ
来
(
く
)
るそれ
来
(
く
)
る
船
(
ふね
)
が
来
(
く
)
る
153
お
前
(
まへ
)
のやうな
痛
(
いた
)
い
事
(
こと
)
154
囀
(
さへづ
)
る
奴
(
やつ
)
はあの
船
(
ふね
)
に
155
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
乗
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ
156
早
(
はや
)
う
乗
(
の
)
れ
乗
(
の
)
れ
乗
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ
157
そら
来
(
き
)
たそら
来
(
き
)
た
船
(
ふね
)
が
来
(
き
)
た
158
乗
(
の
)
らぬか
乗
(
の
)
らぬか
宣伝使
(
せんでんし
)
159
貴様
(
きさま
)
のお
蔭
(
かげ
)
で
頭痛
(
づつう
)
がする』
160
と
呶鳴
(
どな
)
つてゐる。
161
後
(
うしろ
)
の
方
(
はう
)
より
亦
(
また
)
もや
乙
(
おつ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
立
(
た
)
つて、
162
宣伝使
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
163
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立別
(
たてわけ
)
る』
164
甲
(
かふ
)
『また
出
(
で
)
よつた。
165
一体
(
いつたい
)
この
船
(
ふね
)
は
何
(
なん
)
だい。
166
もう
船
(
ふね
)
の
旅
(
たび
)
は
懲
(
こ
)
り
懲
(
ご
)
りだ』
167
船頭
(
せんどう
)
『お
客
(
きやく
)
さま、
168
船
(
ふね
)
が
着
(
つ
)
いた。
169
早
(
はや
)
く
上
(
あが
)
らつしやれ』
170
と
叫
(
さけ
)
ぶ。
171
甲
(
かふ
)
は
頭
(
あたま
)
を
抱
(
かか
)
へて、
172
いの
一番
(
いちばん
)
に
船
(
ふね
)
を
飛出
(
とびだ
)
し、
173
どこともなく
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
したり。
174
この
男
(
をとこ
)
は
果
(
はた
)
して
何者
(
なにもの
)
ならむか。
175
(
大正一一・二・二
旧一・六
桜井重雄
録)
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