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霊界物語
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第1巻(子の巻)
第2巻(丑の巻)
第3巻(寅の巻)
第4巻(卯の巻)
第5巻(辰の巻)
第6巻(巳の巻)
第7巻(午の巻)
第8巻(未の巻)
第9巻(申の巻)
第10巻(酉の巻)
第11巻(戌の巻)
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如意宝珠
第13巻(子の巻)
第14巻(丑の巻)
第15巻(寅の巻)
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第18巻(巳の巻)
第19巻(午の巻)
第20巻(未の巻)
第21巻(申の巻)
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第25巻(子の巻)
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第29巻(辰の巻)
第30巻(巳の巻)
第31巻(午の巻)
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第33巻(申の巻)
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第35巻(戌の巻)
第36巻(亥の巻)
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第37巻(子の巻)
第38巻(丑の巻)
第39巻(寅の巻)
第40巻(卯の巻)
第41巻(辰の巻)
第42巻(巳の巻)
第43巻(午の巻)
第44巻(未の巻)
第45巻(申の巻)
第46巻(酉の巻)
第47巻(戌の巻)
第48巻(亥の巻)
真善美愛
第49巻(子の巻)
第50巻(丑の巻)
第51巻(寅の巻)
第52巻(卯の巻)
第53巻(辰の巻)
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第55巻(午の巻)
第56巻(未の巻)
第57巻(申の巻)
第58巻(酉の巻)
第59巻(戌の巻)
第60巻(亥の巻)
山河草木
第61巻(子の巻)
第62巻(丑の巻)
第63巻(寅の巻)
第64巻(卯の巻)上
第64巻(卯の巻)下
第65巻(辰の巻)
第66巻(巳の巻)
第67巻(午の巻)
第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
第79巻(午の巻)
第80巻(未の巻)
第81巻(申の巻)
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第14巻(丑の巻)
序歌
信天翁(四)
凡例
総論歌
第1篇 五里夢中
01 三途川
〔551〕
02 銅木像
〔552〕
03 鷹彦還元
〔553〕
04 馬詈
〔554〕
05 風馬牛
〔555〕
第2篇 幽山霊水
06 楽隠居
〔556〕
07 難風
〔557〕
08 泥の川
〔558〕
09 空中滑走
〔559〕
第3篇 高加索詣
10 牡丹餅
〔560〕
11 河童の屁
〔561〕
12 復縁談
〔562〕
13 山上幽斎
〔563〕
14 一途川
〔564〕
15 丸木橋
〔565〕
16 返り咲
〔566〕
第4篇 五六七号
17 一寸一服
〔567〕
跋文
余白歌
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(B)
(N)
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第八章
泥
(
どろ
)
の
川
(
かは
)
〔五五八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第14巻 如意宝珠 丑の巻
篇:
第2篇 幽山霊水
よみ(新仮名遣い):
ゆうざんれいすい
章:
第8章 泥の川
よみ(新仮名遣い):
どろのかわ
通し章番号:
558
口述日:
1922(大正11)年03月24日(旧02月26日)
口述場所:
筆録者:
谷村真友
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年11月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
弥次彦と勝彦は、三途の川のほとりにいた。弥次彦は勝手知った脱衣婆の小屋を訪ね、夫婦気取りで気安く脱衣婆を呼び出すが、脱衣婆は弥次彦の現界での行いをあげつらって非難をし始めた。
脱衣婆は綿々と説教を垂れるが、最後に弥次彦のようなヤンチャを地獄に通すと、閻魔大王から叱られるのが恐い、と本音を吐く。弥次彦はますます調子に乗って、吹きだす。勝公が横から茶々を入れる。
さんざんおかしな問答を交わした後、脱衣婆は与太彦や六が探しているから、娑婆に帰るように、と諭す。また、芝居口調でコーカス山やアーメニヤの分け目の戦いに参加せずに幽界に戻ってくるなら、このあばら家には入れない、とふざける。弥次彦、勝公も調子に乗って合いの手を入れる。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-12-26 18:11:57
OBC :
rm1408
愛善世界社版:
131頁
八幡書店版:
第3輯 205頁
修補版:
校定版:
136頁
普及版:
61頁
初版:
ページ備考:
001
果
(
はて
)
しも
知
(
し
)
れぬ
枯野原
(
かれのはら
)
、
002
神
(
かみ
)
の
恵
(
めぐみ
)
も
嵐
(
あらし
)
吹
(
ふ
)
く、
003
濁
(
にご
)
り
切
(
き
)
りたる
川
(
かは
)
の
辺
(
べ
)
に、
004
二人
(
ふたり
)
は
漸
(
やうや
)
く
着
(
つ
)
きにける。
005
弥
(
や
)
『ヤ、
006
何
(
なん
)
だい、
007
又
(
また
)
もや
幽界
(
いうかい
)
へ
逆転
(
ぎやくてん
)
旅行
(
りよかう
)
だな、
008
オウ
此処
(
ここ
)
は
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
だ。
009
勝公
(
かつこう
)
、
010
ナンデもこの
辺
(
へん
)
に
俺
(
おれ
)
の
なじみ
の
頗
(
すこぶ
)
る
別嬪
(
べつぴん
)
が、
011
楽隠居
(
らくいんきよ
)
をやつて
居
(
ゐ
)
る
筈
(
はず
)
だがナア』
012
勝
(
かつ
)
『
弥次彦
(
やじひこ
)
サン、
013
此処
(
ここ
)
はどうやら
娑婆気
(
しやばけ
)
の
離
(
はな
)
れた
処
(
ところ
)
のやうですなア、
014
小鹿峠
(
こしかたうげ
)
を
暴風
(
ばうふう
)
に
梳
(
くしけ
)
づり、
015
突貫
(
とつくわん
)
の
最中
(
さいちう
)
何
(
なん
)
だか
気
(
き
)
が
変
(
へん
)
になつたと
思
(
おも
)
つたが
最後
(
さいご
)
、
016
局面
(
きよくめん
)
忽
(
たちま
)
ち
一変
(
いつぺん
)
して
草
(
くさ
)
茫々
(
ばうばう
)
たる
枯野原
(
かれのはら
)
になつて
居
(
ゐ
)
る、
017
別
(
べつ
)
に
飛行機
(
ひかうき
)
に
乗
(
の
)
つた
覚
(
おぼ
)
えもないのに、
018
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にコンナ
処
(
ところ
)
に
来
(
き
)
ただらう、
019
哲学者
(
てつがくしや
)
たら
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
の
好
(
よ
)
く
云
(
い
)
ふ
夢中
(
むちう
)
遊行
(
いうかう
)
でも
遣
(
や
)
つたのぢやあるまいか。
020
誰
(
たれ
)
か
催眠術
(
さいみんじゆつ
)
の
上手
(
じやうず
)
な
奴
(
やつ
)
を
連
(
つ
)
れて
来
(
き
)
て、
021
早
(
はや
)
く
覚醒
(
かくせい
)
でもさして
呉
(
く
)
れないと、
022
まかり
間違
(
まちが
)
へば
幽界
(
いうかい
)
旅行
(
りよかう
)
となるかも
知
(
し
)
れないなア』
023
弥
(
や
)
『
知
(
し
)
れないも
何
(
なに
)
もあつたものか、
024
正
(
まさ
)
に
幽界
(
いうかい
)
旅行
(
りよかう
)
だ、
025
此処
(
ここ
)
は
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
渡場
(
わたしば
)
だよ』
026
勝
(
かつ
)
『それにしては、
027
婆
(
ばば
)
アが
居
(
を
)
らぬじやないか』
028
弥
(
や
)
『この
頃
(
ごろ
)
は
物価
(
ぶつか
)
騰貴
(
とうき
)
で
収支
(
しうし
)
償
(
つぐな
)
はぬと
見
(
み
)
えて、
029
廃業
(
はいげふ
)
しよつたのだらうよ、
030
それよりもマア
俺
(
おれ
)
の
昔
(
むかし
)
なじみ
の
別嬪
(
べつぴん
)
が
囲
(
かこ
)
つて
在
(
あ
)
るのだ、
031
それに
面会
(
めんくわい
)
さして
遣
(
や
)
らうかい』
032
勝
(
かつ
)
『
貴様
(
きさま
)
は
何処
(
どこ
)
までも
弥次
(
やじ
)
式
(
しき
)
だな、
033
処
(
ところ
)
もあらうに
怪態
(
けたい
)
の
悪
(
わる
)
い、
034
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
傍
(
ほとり
)
に
妾宅
(
せふたく
)
を
構
(
かま
)
へると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものかい』
035
弥
(
や
)
『それでも
向
(
むか
)
ふが
妾宅
(
せふたく
)
したのだから
仕方
(
しかた
)
がないさ。
036
新月
(
しんげつ
)
の
眉
(
まゆ
)
濃
(
こま
)
やかに、
037
緑
(
みどり
)
したたる
眼
(
め
)
の
光
(
ひか
)
り、
038
鼻
(
はな
)
の
恰好
(
かつかう
)
から
口
(
くち
)
の
恰好
(
かつかう
)
、
039
ホンノリとした
桃色
(
ももいろ
)
の
頬
(
ほつぺた
)
、
040
それはそれは
何
(
なに
)
ともかとも
云
(
い
)
へぬ
逸品
(
いつぴん
)
だよ』
041
勝
(
かつ
)
『ヨウ、
042
ソンナ
逸品
(
いつぴん
)
があるのか、
043
俺
(
おれ
)
にも
いつぴん
見
(
み
)
せて
呉
(
く
)
れぬかい』
044
弥
(
や
)
『
洒落
(
しやれ
)
ない、
045
これから
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
だよ、
046
青
(
あを
)
、
047
黒
(
くろ
)
、
048
赤
(
あか
)
、
049
白
(
しろ
)
、
050
橄欖
(
かんらん
)
、
051
種々
(
しゆじゆ
)
雑多
(
ざつた
)
の
百鬼
(
ひやくき
)
千鬼
(
せんき
)
万鬼
(
ばんき
)
と
格闘
(
かくとう
)
をせなければならないのだ。
052
アハヽヽヽヽ』
053
勝
(
かつ
)
『
何者
(
なにもの
)
が
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
るとも、
054
神変
(
しんぺん
)
不可思議
(
ふかしぎ
)
の
言霊
(
ことたま
)
の
武器
(
ぶき
)
を
使用
(
しよう
)
すれば
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
だ、
055
夫
(
それ
)
よりも
早
(
はや
)
くその
逸品
(
いつぴん
)
とやらを、
056
御
(
ご
)
高覧
(
かうらん
)
に
供
(
そな
)
へ
奉
(
まつ
)
らぬかい』
057
弥
(
や
)
『よしよし
驚
(
おどろ
)
くな、
058
随分
(
ずゐぶん
)
別嬪
(
べつぴん
)
だぞ、
059
一度
(
いちど
)
お
顔
(
かほ
)
を
拝
(
をが
)
んだが
最後
(
さいご
)
、
060
万劫
(
まんご
)
末代
(
まつだい
)
五六七
(
みろく
)
の
代
(
よ
)
までも
忘
(
わす
)
れることの
出来
(
でき
)
ないやうな、
061
すごい
様
(
やう
)
な
恐
(
おそ
)
ろしい
別嬪
(
べつぴん
)
だ。
062
一寸
(
ちよつと
)
俺
(
おれ
)
に
随
(
つ
)
いて
来
(
こ
)
い、
063
それ
其処
(
そこ
)
に
見越
(
みこ
)
しの
松
(
まつ
)
といふ
小
(
こ
)
ちん
まりとした、
064
妾宅
(
せふたく
)
があると
思
(
おも
)
つたのは
夢
(
ゆめ
)
だ、
065
茅葺
(
かやぶき
)
の
雪隠
(
せんち
)
小屋
(
ごや
)
のやうな
中
(
なか
)
に、
066
今頃
(
いまごろ
)
はビイビイチヨンだ』
067
勝
(
かつ
)
『
怪体
(
けたい
)
な
言
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふぢやないか、
068
何
(
なに
)
がビイビイチヨンだい』
069
弥次彦
(
やじひこ
)
は
藁小屋
(
わらごや
)
の
戸
(
と
)
の
隙
(
すき
)
より
一寸
(
ちよつと
)
覗
(
のぞ
)
いて、
070
弥
(
や
)
『ヤー
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
だなア、
071
また
遣
(
や
)
つて
来
(
き
)
ました、
072
オツトドツコイ
女房
(
にようばう
)
の
脱衣場
(
だついば
)
のお
婆
(
ば
)
アサン、
073
二世
(
にせ
)
の
夫
(
つま
)
天下
(
てんか
)
一品
(
いつぴん
)
の
色黒
(
いろくろ
)
い
男
(
をとこ
)
、
074
弥次彦
(
やじひこ
)
サンだ、
075
早
(
はや
)
う
戸
(
と
)
を
開
(
あ
)
けぬかい』
076
藁小屋
(
わらごや
)
の
中
(
なか
)
より、
077
婆
『エーエーまた
来
(
き
)
たのか、
078
よう
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ふて
来
(
く
)
る
餓鬼
(
がき
)
だな、
079
この
川
(
かは
)
は
一遍
(
いつぺん
)
渡
(
わた
)
つたら
渡
(
わた
)
る
事
(
こと
)
の
出来
(
でき
)
ぬ
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
だのに、
080
何
(
なに
)
しに
娑婆
(
しやば
)
から
冥土
(
めいど
)
に
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ふて
来
(
く
)
るのだい、
081
娑婆
(
しやば
)
の
幽霊
(
いうれい
)
奴
(
め
)
が』
082
弥
(
や
)
『コラコラ
夫婦
(
ふうふ
)
と
云
(
い
)
ふものは、
083
ソンナ
水臭
(
みづくさ
)
いものぢやないぞ、
084
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
と
云
(
い
)
ふからは
三度
(
さんど
)
までは、
085
渡
(
わた
)
るのは
当
(
あた
)
り
前
(
まへ
)
だ。
086
飯
(
めし
)
でも
一
(
いち
)
日
(
にち
)
に
三度
(
さんど
)
は
食
(
く
)
はねばその
日
(
ひ
)
が
暮
(
く
)
れぬのだ、
087
娑婆
(
しやば
)
の
幽霊
(
いうれい
)
とはそれや
何
(
なに
)
をぬかしよるのだい』
088
婆
(
ばば
)
『お
前
(
まへ
)
は
娑婆
(
しやば
)
の
幽霊
(
いうれい
)
だよ、
089
幽霊
(
いうれい
)
会社
(
くわいしや
)
に
首
(
くび
)
を
突
(
つ
)
き
出
(
だ
)
したり、
090
幽霊株
(
いうれいかぶ
)
を
振
(
ふ
)
り
廻
(
まは
)
したり、
091
これやちつと
有利得
(
いうりえ
)
の
株
(
かぶ
)
だと
云
(
い
)
へば、
092
欲
(
よく
)
の
皮
(
かは
)
を
突
(
つ
)
つ
張
(
ぱ
)
つて、
093
身魂
(
みたま
)
を
汚
(
けが
)
し、
094
女房
(
にようばう
)
子供
(
こども
)
に
苦労
(
くらう
)
をさせ、
095
世間
(
せけん
)
の
奴
(
やつ
)
に
迷惑
(
めいわく
)
をかけ、
096
どうして
娑婆
(
しやば
)
に
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
けやうかなぞと、
097
腰
(
こし
)
から
足
(
あし
)
の
無
(
な
)
い
奴
(
やつ
)
の
様
(
やう
)
に、
098
藻掻
(
もが
)
きよつて
宙
(
ちう
)
ぶらりの
影
(
かげ
)
の
薄
(
うす
)
い
代物
(
しろもの
)
だ。
099
娑婆
(
しやば
)
の
幽霊
(
いうれい
)
と
云
(
い
)
ふたのが
何
(
なに
)
が
不思議
(
ふしぎ
)
だい。
100
幽冥界
(
いうめいかい
)
には
貴様
(
きさま
)
のやうな
亡者
(
まうじや
)
は
一人
(
ひとり
)
も
居
(
を
)
らないぞ、
101
学亡者
(
がくまうじや
)
の
親方
(
おやかた
)
奴
(
め
)
が』
102
弥
(
や
)
『コリヤ
婆
(
ばば
)
ア、
103
それや
何
(
なに
)
ぬかしよるのだ、
104
女房
(
にようばう
)
が
老爺
(
おやぢ
)
を
ぼろ
糞
(
くそ
)
に
言
(
い
)
ふと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか、
105
貞操
(
ていさう
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るか、
106
不貞腐
(
ふてくさ
)
れ
婆
(
ばば
)
奴
(
め
)
が』
107
婆
(
ばば
)
『
不貞腐
(
ふてくされ
)
とは
何
(
なん
)
だ、
108
女
(
をんな
)
ばかりが
不貞腐
(
ふてくさ
)
れぢやない、
109
男
(
をとこ
)
の
奴
(
やつ
)
にも
沢山
(
たくさん
)
不貞腐
(
ふてくさ
)
れがあるぢやないか。
110
貴様
(
きさま
)
は
何
(
なん
)
だ、
111
娑婆
(
しやば
)
に
居
(
を
)
つて
彼方
(
あちら
)
へ
小便
(
せうべん
)
ひつかけ、
112
此方
(
こちら
)
へ
糞
(
くそ
)
をひつかけ、
113
隣
(
となり
)
の
嬶
(
かか
)
をチョロマカシ、
114
近所
(
きんじよ
)
の
娘
(
むすめ
)
を
誑
(
たぶら
)
かし、
115
嬶
(
かか
)
アが
古
(
ふる
)
くなつたと
云
(
い
)
つては、
116
博労
(
ばくらう
)
が
馬
(
うま
)
か
牛
(
うし
)
を
入
(
い
)
れ
替
(
かへ
)
する
様
(
やう
)
に、
117
人間
(
にんげん
)
を
畜生
(
ちくしやう
)
か
機械
(
きかい
)
の
様
(
やう
)
な
扱
(
あつかひ
)
をしよつて、
118
不貞腐
(
ふてくさ
)
れの
張本
(
ちやうほん
)
奴
(
め
)
が。
119
この
婆
(
ばば
)
は
斯
(
こ
)
う
見
(
み
)
えても
地獄
(
ぢごく
)
開設
(
かいせつ
)
以来
(
いらい
)
、
120
この
川端
(
かはばた
)
で
規則
(
きそく
)
を
守
(
まも
)
つて
職務
(
しよくむ
)
忠実
(
ちうじつ
)
に
勤
(
つと
)
めて
居
(
ゐ
)
るのぢや、
121
貴様
(
きさま
)
のやうに
月給
(
げつきふ
)
が
高
(
たか
)
いの
安
(
やす
)
いの、
122
此処
(
ここ
)
は
辛度
(
しんど
)
いの
楽
(
らく
)
だのと、
123
猫
(
ねこ
)
の
目
(
め
)
のやうにクレクレと
変
(
かは
)
りよつて
落着
(
おちつ
)
きのない
我楽多
(
がらくた
)
人間
(
にんげん
)
とは、
124
チート
訳
(
わけ
)
が
違
(
ちが
)
ふのだよ。
125
又
(
また
)
しても
又
(
また
)
しても、
126
この
婆
(
ばば
)
に
厄介
(
やくかい
)
をかけよつて、
127
モウ
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
退却
(
たいきやく
)
せい、
128
貴様
(
きさま
)
の
来
(
く
)
るのはモチツト
早
(
はや
)
いワ。
129
此処
(
ここ
)
へ
来
(
く
)
るのは、
130
娑婆
(
しやば
)
の
罪
(
つみ
)
を
亡
(
ほろ
)
ぼした
奴
(
やつ
)
の
来
(
く
)
る
所
(
ところ
)
だ。
131
貴様
(
きさま
)
は
罪悪
(
ざいあく
)
の
借金
(
しやくきん
)
を
沢山
(
たくさん
)
積
(
つ
)
んで
居
(
を
)
るから、
132
モツトモツト
苦
(
くる
)
しい
目
(
め
)
をしてから
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るのだ。
133
罪悪
(
ざいあく
)
の
借金
(
しやくきん
)
を
娑婆
(
しやば
)
へ
残
(
のこ
)
して、
134
コンナ
処
(
ところ
)
へ
逃
(
に
)
げて
来
(
く
)
るとは、
135
余
(
あんま
)
り
狡
(
ずる
)
いぢやないか、
136
薄志
(
はくし
)
弱行
(
じやくかう
)
にも
程
(
ほど
)
があるワ、
137
この
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
はドンナ
所
(
ところ
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
を
)
るか、
138
貴様
(
きさま
)
の
身魂
(
みたま
)
を
洗濯
(
せんたく
)
する
所
(
どころ
)
かい、
139
天
(
てん
)
で
言
(
い
)
へば
天
(
あめ
)
の
安河
(
やすかは
)
も
同様
(
どうやう
)
な
処
(
ところ
)
ぢやぞ』
140
弥
(
や
)
『エー
八釜敷
(
やかまし
)
い、
141
口
(
くち
)
の
好
(
よ
)
い
嬶
(
かか
)
だ、
142
女
(
をんな
)
賢
(
さか
)
しうて
牛
(
うし
)
売
(
う
)
りそこなふと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある、
143
折角
(
せつかく
)
夫婦
(
ふうふ
)
になつてやつたが、
144
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
三
(
み
)
くだり
半
(
はん
)
をやるから
覚悟
(
かくご
)
せい、
145
夫婦
(
ふうふ
)
喧嘩
(
げんくわ
)
は
犬
(
いぬ
)
でも
喰
(
く
)
はぬと
云
(
い
)
ふが、
146
この
弥次彦
(
やじひこ
)
サンはソンナ
執着心
(
しふちやくしん
)
のある
男
(
をとこ
)
ぢやないぞ』
147
婆
(
ばば
)
『
誰
(
たれ
)
が
弥次彦
(
やじひこ
)
の
女房
(
にようばう
)
になると
云
(
い
)
つたか、
148
貴様
(
きさま
)
が
勝手
(
かつて
)
に
此
(
この
)
前
(
まへ
)
に
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ふて
来
(
き
)
た
時
(
とき
)
に、
149
わしの
名
(
な
)
は
弥次彦
(
やじひこ
)
だから、
150
お
前
(
まへ
)
の
老爺彦
(
おやぢひこ
)
だと
言
(
い
)
ひよつて、
151
自分
(
じぶん
)
一人
(
ひとり
)
できめたのでないか、
152
正式
(
せいしき
)
結婚
(
けつこん
)
でもなけりや、
153
自由
(
じいう
)
結婚
(
けつこん
)
でもない、
154
貴様
(
きさま
)
の
方
(
はう
)
は
何
(
なに
)
ほど
縁談
(
えんだん
)
を
申込
(
まをしこ
)
んでも、
155
此方
(
こちら
)
の
方
(
はう
)
から
真平
(
まつぴら
)
御免
(
ごめん
)
だ、
156
肱鉄
(
ひぢてつ
)
だ。
157
この
広
(
ひろ
)
い
幽冥
(
いうめい
)
世界
(
せかい
)
に
貴様
(
きさま
)
の
女房
(
にようばう
)
になる
奴
(
やつ
)
は、
158
半人
(
はんにん
)
でも
四半人
(
しはんにん
)
でも
在
(
あ
)
ると
思
(
おも
)
ふか、
159
余
(
あんま
)
り
自惚
(
うぬぼれ
)
するない、
160
罪悪
(
ざいあく
)
に
満
(
み
)
ちた
娑婆
(
しやば
)
でさへも、
161
愛想
(
あいさう
)
をつかされた
結果
(
けつくわ
)
、
162
コンナ
結構
(
けつこう
)
な
地獄
(
ぢごく
)
に
出
(
で
)
て
来
(
き
)
よつて、
163
女房
(
にようばう
)
ぢやの、
164
ヘツたくれぢやのと、
165
何
(
なに
)
を
劫託
(
がふたく
)
云
(
い
)
ふのぢや、
166
此処
(
ここ
)
に
釘
(
くぎ
)
抜
(
ぬ
)
きがあるから、
167
舌
(
した
)
でも
抜
(
ぬ
)
いてやらうかい』
168
弥
(
や
)
『コラ
古婆
(
ふるばば
)
、
169
それや
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しよるのだ、
170
貴様
(
きさま
)
は
世間
(
せけん
)
見
(
み
)
ずだから、
171
ソンナ
馬鹿
(
ばか
)
な
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふのだ。
172
廿四
(
にじふし
)
世紀
(
せいき
)
の
今日
(
こんにち
)
に、
173
原始
(
げんし
)
時代
(
じだい
)
のやうな、
174
古
(
ふる
)
い
頭
(
あたま
)
を
持
(
も
)
つてゐるから
判
(
わか
)
らぬのだ、
175
今日
(
こんにち
)
の
娑婆
(
しやば
)
を
何
(
なん
)
と
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
る、
176
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
の
完成
(
くわんせい
)
時代
(
じだい
)
だ。
177
中空
(
ちうくう
)
を
翔
(
か
)
ける
飛行機
(
ひかうき
)
飛行船
(
ひかうせん
)
はすでに
廃物
(
はいぶつ
)
となり、
178
天
(
あま
)
の
羽衣
(
はごろも
)
と
云
(
い
)
ふ
精巧
(
せいかう
)
無比
(
むひ
)
の
機械
(
きかい
)
が
発明
(
はつめい
)
され、
179
汽車
(
きしや
)
は
宙
(
ちう
)
を
走
(
はし
)
つて
一
(
いち
)
時間
(
じかん
)
に
五百
(
ごひやく
)
哩
(
マイル
)
といふ
速力
(
そくりよく
)
だ、
180
蓮華
(
れんげ
)
の
花
(
はな
)
は
所
(
ところ
)
狭
(
せま
)
きまで
咲
(
さ
)
き
乱
(
みだ
)
れ、
181
何
(
なん
)
ともかとも
知
(
し
)
れない
黄金
(
わうごん
)
世界
(
せかい
)
が
現出
(
げんしゆつ
)
して
居
(
を
)
るのだ。
182
それに
貴様
(
きさま
)
は
開闢
(
かいびやく
)
の
昔
(
むかし
)
から
涎掛
(
よだれかけ
)
を
沢山
(
たくさん
)
首
(
くび
)
にかけて
道端
(
みちばた
)
にチヨコナンと、
183
番卒
(
ばんそつ
)
の
役
(
やく
)
を
勤
(
つと
)
めて
居
(
を
)
る
奴
(
やつ
)
の
様
(
やう
)
に、
184
コンナ
ちつぽけ
な
雪隠
(
せんち
)
小屋
(
ごや
)
に
焦附
(
こげつ
)
きよつて、
185
娑婆
(
しやば
)
が
何
(
ど
)
うだの
斯
(
こ
)
うだのと
云
(
い
)
ふ
資格
(
しかく
)
があるか、
186
廿四
(
にじふし
)
世紀
(
せいき
)
の
兄
(
にい
)
サンだぞ』
187
婆
(
ばば
)
『さうかいやい、
188
それほど
娑婆
(
しやば
)
が
結構
(
けつこう
)
なら、
189
なぜ
娑婆
(
しやば
)
に
居
(
を
)
つて
苦業
(
くげふ
)
をせぬのかい、
190
ナンボ
開
(
ひら
)
けたと
言
(
い
)
つても、
191
日輪
(
にちりん
)
様
(
さま
)
が
二
(
ふた
)
つも
三
(
みつ
)
つも
出
(
で
)
てをる
筈
(
はず
)
もなからう、
192
何時
(
いつ
)
も
何時
(
いつ
)
も
満月
(
まんげつ
)
許
(
ばか
)
りと
云
(
い
)
ふ
訳
(
わけ
)
にも
行
(
ゆ
)
くまい、
193
五十六
(
ごじふろく
)
億
(
おく
)
七千万
(
しちせんまん
)
年
(
ねん
)
の
昔
(
むかし
)
から
変
(
かは
)
らぬものは
誠
(
まこと
)
許
(
ばか
)
りだ。
194
どうだ
貴様
(
きさま
)
は
物質
(
ぶつしつ
)
的
(
てき
)
の
欲望
(
よくばう
)
とか、
195
文明
(
ぶんめい
)
とか
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
に
眩惑
(
げんわく
)
されよつて、
196
視力
(
しりよく
)
を
失
(
うしな
)
つたのだらう、
197
資力
(
しりよく
)
がなくては
娑婆
(
しやば
)
に
居
(
を
)
つたとて、
198
会社
(
くわいしや
)
の
一
(
ひと
)
つも
立
(
た
)
ちはせぬぞ、
199
株券
(
かぶけん
)
買
(
か
)
ふと
云
(
い
)
つたつて、
200
株
(
かぶ
)
の
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
も
買
(
か
)
へはしまい、
201
貴様
(
きさま
)
は
二十四
(
にじふし
)
世紀
(
せいき
)
だと
云
(
い
)
ふて
威張
(
ゐば
)
つて
居
(
を
)
るが、
202
十五万
(
じふごまん
)
年
(
ねん
)
ほど
昔
(
むかし
)
の
過去
(
くわこ
)
となつて
居
(
を
)
るのが
分
(
わか
)
らないか、
203
今
(
いま
)
は
一万
(
いちまん
)
八千
(
はつせん
)
世紀
(
せいき
)
だぞ、
204
古
(
ふる
)
い
奴
(
やつ
)
だなア』
205
弥
(
や
)
『オイ
婆
(
ば
)
アサン、
206
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つて
呉
(
く
)
れ、
207
俺
(
おれ
)
は
紀元前
(
きげんぜん
)
五十万
(
ごじふまん
)
年
(
ねん
)
の
昔
(
むかし
)
に、
208
娑婆
(
しやば
)
に
現
(
あら
)
はれて
大活動
(
だいくわつどう
)
を
続
(
つづ
)
け、
209
つい
たつた
今
(
いま
)
、
210
小鹿峠
(
こしかたうげ
)
を
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
謳
(
うた
)
つて
通
(
とほ
)
つた
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
ふが、
211
何
(
なん
)
だ、
212
それから
十万
(
じふまん
)
年
(
ねん
)
も
暮
(
く
)
れたとは、
213
一寸
(
ちよつと
)
合点
(
がつてん
)
が
行
(
ゆ
)
かぬワイ』
214
婆
(
ばば
)
『
光陰
(
くわういん
)
は
矢
(
や
)
の
如
(
ごと
)
しだと、
215
十八
(
じふはつ
)
世紀
(
せいき
)
の
豆人間
(
まめにんげん
)
が
吐
(
ほざ
)
き
居
(
を
)
つたが、
216
光陰
(
くわういん
)
の
立
(
た
)
つのはソンナ
遅
(
おそ
)
いものぢやない、
217
ヂヤイロコンパスが
一
(
いつ
)
分間
(
ぷんかん
)
に
八千
(
はつせん
)
回転
(
くわいてん
)
を
廻
(
まは
)
る
様
(
やう
)
に、
218
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
な
分
(
わか
)
らぬ
奴
(
やつ
)
には
頓着
(
とんちやく
)
なしに、
219
ドシドシと
進行
(
しんかう
)
して
行
(
ゆ
)
くのだ。
220
貴様
(
きさま
)
も
罪
(
つみ
)
の
決算期
(
けつさんき
)
が
来
(
く
)
るまで、
221
まア
一度
(
いちど
)
娑婆
(
しやば
)
へ
帰
(
かへ
)
つて、
222
苦労
(
くらう
)
をして
来
(
く
)
るが
可
(
よ
)
からうぞ。
223
一時
(
いつとき
)
でも
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
つて
民衆
(
みんしう
)
運動
(
うんどう
)
でもやつて、
224
ポリスの
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
にでもなつて
来
(
こ
)
い、
225
さうせないと
貴様
(
きさま
)
の
罪
(
つみ
)
は
重
(
おも
)
いから、
226
この
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
を
渡
(
わた
)
るが
最後
(
さいご
)
石仏
(
いしぼとけ
)
を
放
(
はう
)
り
込
(
こ
)
んだ
様
(
やう
)
にブルブルとも
何
(
なん
)
とも
言
(
い
)
はずに
寂滅
(
じやくめつ
)
為楽
(
ゐらく
)
だよ』
227
弥
(
や
)
『オツト
待
(
ま
)
つた、
228
一旦
(
いつたん
)
亡者
(
まうじや
)
になつたものが、
229
また
川
(
かは
)
へはまつて、
230
寂滅
(
じやくめつ
)
為楽
(
ゐらく
)
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があつてたまるかい、
231
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
婆
(
ばば
)
だなア』
232
婆
(
ばば
)
『
貴様
(
きさま
)
は
分
(
わか
)
らぬ
訳
(
わけ
)
だ、
233
娑婆
(
しやば
)
の
奴
(
やつ
)
は
二重
(
にぢう
)
転売
(
てんばい
)
と
吐
(
ぬ
)
かして、
234
一遍
(
いつぺん
)
売
(
う
)
りよつて
二度
(
にど
)
売
(
う
)
つたり
仕様
(
しやう
)
もない
六〇六
(
ろくぴやくろく
)
号
(
がう
)
の
御
(
ご
)
厄介
(
やくかい
)
にならねばならぬ
様
(
やう
)
な
腐
(
くさ
)
れ
女
(
をんな
)
に、
235
涎
(
よだれ
)
を
垂
(
た
)
らしながら
揚句
(
あげく
)
の
果
(
は
)
てには
二次会
(
にじくわい
)
とか
三次会
(
さんじくわい
)
とか
吐
(
ぬ
)
かして
騒
(
さわ
)
ぐぢやないか。
236
それさへあるに
一夫
(
いつぷ
)
一婦
(
いつぷ
)
の
天則
(
てんそく
)
を
破
(
やぶ
)
り、
237
第一
(
だいいち
)
夫人
(
ふじん
)
第二
(
だいに
)
夫人
(
ふじん
)
だの、
238
第一
(
だいいち
)
妾宅
(
せふたく
)
だの
第二
(
だいに
)
第三
(
だいさん
)
、
239
何々
(
なになに
)
妾宅
(
せふたく
)
だのと
洒落
(
しやれ
)
よつて、
240
体主
(
たいしゆ
)
霊従
(
れいじう
)
のありつ
丈
(
た
)
けを
尽
(
つく
)
して
居
(
ゐ
)
る
虫
(
むし
)
けらの
如
(
や
)
うな
人間
(
にんげん
)
許
(
ばか
)
りだらう。
241
現界
(
げんかい
)
の
事
(
こと
)
は
直
(
ただち
)
に
幽界
(
いうかい
)
に
写
(
うつ
)
るのだ、
242
一遍
(
いつぺん
)
死
(
し
)
んだ
位
(
くらゐ
)
ぢや
死太
(
しぶと
)
い
身魂
(
みたま
)
が、
243
仲々
(
なかなか
)
改心
(
かいしん
)
いたさぬから
今
(
いま
)
一遍
(
いつぺん
)
出直
(
でなほ
)
し、
244
それでも
改心
(
かいしん
)
せずば
三遍
(
さんぺん
)
四遍
(
しへん
)
と
何遍
(
なんべん
)
でも
焼
(
や
)
き
滅
(
ほろぼ
)
すのだ。
245
貴様
(
きさま
)
は
娑婆
(
しやば
)
で
廿
(
にじつ
)
世紀
(
せいき
)
頃
(
ごろ
)
に
始
(
はじ
)
まつた
三五教
(
あななひけう
)
の
教
(
をしへ
)
を
聞
(
き
)
いてゐるだらう、
246
改心
(
かいしん
)
をいたさねば
何遍
(
なんべん
)
でも、
247
身魂
(
みたま
)
を
焼
(
や
)
いて
遣
(
や
)
るぞよと
云
(
い
)
ふことがあるだらう、
248
今
(
いま
)
の
娑婆
(
しやば
)
の
奴
(
やつ
)
は
一度
(
いちど
)
死
(
し
)
んだら、
249
二度
(
にど
)
は
死
(
し
)
なないと、
250
多寡
(
たくわ
)
をくくつて
居
(
ゐ
)
やがるが、
251
一度
(
いちど
)
あつた
事
(
こと
)
は、
252
二度
(
にど
)
も
三度
(
さんど
)
もあるものだぞ、
253
何遍
(
なんべん
)
でも
死
(
し
)
なねばならないぞ』
254
弥
(
や
)
『ヤア、
255
文明
(
ぶんめい
)
の
風
(
かぜ
)
がコンナ
所
(
ところ
)
まで
吹
(
ふ
)
いて
来
(
き
)
よつて、
256
婆
(
ばば
)
の
奴
(
やつ
)
この
前
(
まへ
)
に
旅行
(
りよかう
)
した
時
(
とき
)
とは、
257
よほど
娑婆気
(
しやばけ
)
のある
事
(
こと
)
を
吐
(
ぬ
)
かしよる、
258
かうして
見
(
み
)
ると
時代
(
じだい
)
の
力
(
ちから
)
は
偉
(
えら
)
いものだ、
259
幽界
(
いうかい
)
までも
支配
(
しはい
)
すると
見
(
み
)
えるワイ』
260
婆
(
ばば
)
『それや
何
(
なに
)
を
幽界
(
いうかい
)
、
261
貴様
(
きさま
)
は
小鹿峠
(
こしかたうげ
)
を
通
(
とほ
)
る
時
(
とき
)
に、
262
一方
(
いつぱう
)
の
男
(
をとこ
)
の
間抜面
(
まぬけづら
)
を
見込
(
みこ
)
んで、
263
肩
(
かた
)
を
組
(
く
)
み
合
(
あは
)
せ、
264
屁
(
へ
)
の
如
(
や
)
うな
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
き
散
(
ち
)
らされよつて、
265
冥土
(
めいど
)
の
道連
(
みちづ
)
れに
勝公
(
かつこう
)
を
幽界
(
いうかい
)
に
誘拐
(
いうかい
)
して
来
(
き
)
よつた
奴
(
やつ
)
だ、
266
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
ぬかさずと、
267
もう
一遍
(
いつぺん
)
甦生
(
よみがへ
)
りて
一苦労
(
ひとくらう
)
して
来
(
こ
)
い。
268
まだまだ
地獄
(
ぢごく
)
に
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
丈
(
だ
)
け
資格
(
しかく
)
が
具備
(
ぐび
)
して
居
(
ゐ
)
ないワ、
269
孰
(
いづ
)
れ
一度
(
いちど
)
や
二度
(
にど
)
はこの
川
(
かは
)
を
渡
(
わた
)
る
丈
(
だ
)
けの
権利
(
けんり
)
は、
270
登記簿
(
とうきぼ
)
にチヤンと
附
(
つ
)
けて、
271
確
(
たしか
)
に
保留
(
ほりう
)
して
置
(
お
)
いてやるワ、
272
どうだ
嬉
(
うれ
)
しいか』
273
弥
(
や
)
『エヽ、
274
ツベコベと
能
(
よ
)
う
吐
(
ぬ
)
かす
婆
(
ばば
)
ぢやないか、
275
碌
(
ろく
)
な
事
(
こと
)
は
一寸
(
ちよつと
)
も
言
(
い
)
ひよらぬワイ。
276
道理
(
だうり
)
ぢや、
277
老婆心
(
らうばしん
)
で
吐
(
ぬ
)
かすことだから、
278
これもあまり
誅究
(
ちうきう
)
するのは
可愛想
(
かあいさう
)
だ。
279
オイオイ
勝公
(
かつこう
)
、
280
貴様
(
きさま
)
は
何故
(
なぜ
)
沈黙
(
ちんもく
)
を
守
(
まも
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだ、
281
チツト
位
(
くらゐ
)
砲門
(
はうもん
)
を
開
(
ひら
)
いて
砲撃
(
はうげき
)
をやつたらどうだい、
282
敵
(
てき
)
は
間近
(
まぢか
)
く
押寄
(
おしよ
)
せたりだ、
283
なにほど
堅牢
(
けんらう
)
な
船
(
ふね
)
だと
云
(
い
)
つたつて
艦齢
(
かんれい
)
の
過
(
す
)
ぎた
老朽艦
(
らうきうかん
)
のしかもたつた
一隻
(
いつせき
)
だよ』
284
勝
(
かつ
)
『オイ
弥次公
(
やじこう
)
、
285
場所柄
(
ばしよがら
)
を
弁
(
わきま
)
へぬかい、
286
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふたつて
此処
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
たらお
婆
(
ばあ
)
サンの
勢力
(
せいりよく
)
範囲
(
はんゐ
)
だ、
287
従順
(
じゆうじゆん
)
に
服従
(
ふくじゆう
)
するより
仕方
(
しかた
)
がないじやないか、
288
魚心
(
うをごころ
)
あれば
水心
(
みづごころ
)
だ、
289
なアお
婆
(
ば
)
アサン、
290
なんぼ
悪道
(
あくだう
)
なお
役
(
やく
)
だと
言
(
い
)
つても
矢張
(
やつぱり
)
血
(
ち
)
もあり
涙
(
なみだ
)
もあるだらう、
291
この
弥次公
(
やじこう
)
は
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り
生
(
うま
)
れつきの
弥次
(
やじ
)
的
(
てき
)
一片
(
いつぺん
)
の
男
(
をとこ
)
ですから、
292
お
気
(
き
)
にさえられず
神直日
(
かむなほひ
)
、
293
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
して、
294
許
(
ゆる
)
してやつて
下
(
くだ
)
さいませ』
295
婆
(
ばば
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つてもこの
男
(
をとこ
)
はこれだから………
今度
(
こんど
)
から、
296
先
(
さき
)
の
地獄
(
ぢごく
)
にやりたいのだけれども、
297
閻魔
(
えんま
)
サマから、
298
何
(
なん
)
の
為
(
た
)
めに
貴様
(
きさま
)
は、
299
川番
(
かはばん
)
をして
居
(
を
)
つたのぢや、
300
コンナ
ヤンチヤ
を
通過
(
つうくわ
)
さすと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があるものか、
301
何
(
なん
)
で
娑婆
(
しやば
)
へ
追返
(
おひかへ
)
さないのかと、
302
免職
(
めんしよく
)
を
喰
(
くら
)
ふか
分
(
わか
)
らない。
303
サヽ
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
尻
(
しり
)
引
(
ひ
)
つからげて
足許
(
あしもと
)
の
明
(
あか
)
るい
内
(
うち
)
にいんだりいんだり』
304
弥
(
や
)
『アハヽヽヽ、
305
とうとう
婆
(
ばば
)
の
奴
(
やつ
)
、
306
本音
(
ほんね
)
を
吹
(
ふ
)
きよつたな、
307
ヤア
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い、
308
エーこの
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
を
ばサン
ばサンと
向
(
むか
)
ふに
渡
(
わた
)
つて、
309
青
(
あを
)
黒
(
くろ
)
白
(
しろ
)
赤
(
あか
)
と
種々
(
しゆじゆ
)
雑多
(
ざつた
)
の
鬼
(
おに
)
共
(
ども
)
を、
310
片
(
かた
)
つ
端
(
ぱし
)
から
鷲掴
(
わしづかみ
)
、
311
香物桶
(
かうものをけ
)
の
中
(
なか
)
にブチ
込
(
こ
)
んで、
312
上
(
うへ
)
からグツと
千引岩
(
ちびきいは
)
の
おもし
をかけ
味噌漬
(
みそづけ
)
にして、
313
朝夕
(
あさゆふ
)
の
副食物
(
ふくしよくぶつ
)
にしてやるのだ、
314
娑婆
(
しやば
)
に
居
(
ゐ
)
たつて
堅
(
かた
)
パンを
一
(
ひと
)
つか
三
(
みつ
)
つばかりパクついて、
315
甘
(
うま
)
いの
味
(
あぢ
)
ないのと
言
(
い
)
ふて
居
(
を
)
るよりも、
316
温
(
ぬ
)
く
温
(
ぬ
)
くの
鬼
(
おに
)
味噌漬
(
みそづけ
)
だ、
317
稀代
(
きたい
)
の
珍味
(
ちんみ
)
佳肴
(
かかう
)
だ、
318
吾々
(
われわれ
)
の
前途
(
ぜんと
)
は
有望
(
いうばう
)
だ、
319
オツトドツコイ
幽霊
(
いうれい
)
だ、
320
サアババサン
緩
(
ゆる
)
りと、
321
水
(
みづ
)
の
流
(
なが
)
れを
見
(
み
)
て
暮
(
くら
)
シヤンセ、
322
人間
(
にんげん
)
は
老少
(
らうせう
)
不定
(
ふぢやう
)
だ、
323
必
(
かなら
)
ず
達者
(
たつしや
)
にして
暮
(
くら
)
せよ、
324
アハヽヽヽヽ』
325
婆
(
ばば
)
『エーエ
八釜敷
(
やかまし
)
いワイ、
326
渡
(
わた
)
ろと
云
(
い
)
ふたつて
渡
(
わた
)
しては
遣
(
や
)
らないぞ』
327
弥
(
や
)
『
何
(
なに
)
、
328
渡
(
わた
)
さむと
仰有
(
おつしや
)
つても
渡
(
わた
)
しは
渡
(
わた
)
しの
考
(
かんが
)
へで
此
(
この
)
渡
(
わた
)
しを
渡
(
わた
)
つて
見
(
み
)
せますワイ、
329
渡
(
わた
)
しの
御
(
ご
)
神徳
(
しんとく
)
を
川
(
かは
)
の
端
(
はた
)
から
指
(
ゆび
)
を
食
(
くわ
)
へて
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さいや、
330
お
婆
(
ば
)
アサン
左様
(
さやう
)
なら』
331
婆
(
ばば
)
『オツト
待
(
ま
)
つた
待
(
ま
)
つた、
332
待
(
ま
)
てと
申
(
まを
)
せば
待
(
ま
)
つたが
好
(
よ
)
からうぞ』
333
弥
(
や
)
『
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しよるのだい、
334
春先
(
はるさき
)
になるとそろそろ
逆上
(
ぎやくじやう
)
しよつて、
335
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
婆
(
ばば
)
奴
(
め
)
、
336
三途
(
せうづ
)
のない
奴
(
やつ
)
だ、
337
然
(
しか
)
しながら
此
(
この
)
川
(
かは
)
は
大変
(
たいへん
)
濁
(
にご
)
つて
居
(
を
)
るぢやないか、
338
この
前
(
まへ
)
に
旅行
(
りよかう
)
した
時
(
とき
)
とは
天地
(
てんち
)
の
相違
(
さうゐ
)
だ』
339
婆
(
ばば
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
よ、
340
娑婆
(
しやば
)
の
奴
(
やつ
)
が
毎日
(
まいにち
)
、
341
日
(
ひ
)
にち
汚
(
きたな
)
い
事
(
こと
)
ばつかりしやがつて、
342
結構
(
けつこう
)
な
水神
(
すゐじん
)
の
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
遊
(
あそ
)
ばす
溝川
(
みぞがは
)
へ、
343
糞滓
(
くそかす
)
、
344
小便
(
せうべん
)
を
垂流
(
たれなが
)
して、
345
一等
(
いつとう
)
旅館
(
りよくわん
)
だの、
346
特等
(
とくとう
)
旅館
(
りよくわん
)
だとか
吐
(
ほざ
)
いて、
347
そこら
中
(
ぢう
)
を
糞
(
くそ
)
まぶれに
汚
(
よご
)
すなり、
348
サツカリンの
這入
(
はい
)
つた
腐
(
くさ
)
つた
酒
(
さけ
)
を、
349
ガブガブ
飲
(
の
)
みよつて
肺臓
(
はいざう
)
を
痛
(
いた
)
め、
350
そこら
中
(
ぢう
)
に
血
(
ち
)
を
吐
(
は
)
き
散
(
ち
)
らすものだから、
351
雨
(
あめ
)
が
降
(
ふ
)
る
度
(
たび
)
に
皆
(
みな
)
この
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
に
流
(
なが
)
れ
込
(
こ
)
むのだ、
352
それだからこの
通
(
とほ
)
り
川
(
かは
)
が
濁
(
にご
)
つてしもうのだ、
353
この
川
(
かは
)
の
中
(
なか
)
には
貴様
(
きさま
)
の
糞
(
くそ
)
も
小便
(
せうべん
)
も
交
(
まじ
)
つて
居
(
ゐ
)
るワイ、
354
一杯
(
いつぱい
)
喉
(
のど
)
が
乾
(
かわ
)
いたら
飲
(
の
)
んだらどうだい』
355
弥
(
や
)
『
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬ
)
かしよるのだ、
356
コンナ
物
(
もの
)
が
飲
(
の
)
めるかいやい、
357
ソンナ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
くとこの
川
(
かは
)
を
渡
(
わた
)
るのが
嫌
(
いや
)
になつて
来
(
き
)
た、
358
婆
(
ばば
)
の
云
(
い
)
ふ
通
(
とほり
)
イヤだけど、
359
再
(
ふたた
)
び
娑婆
(
しやば
)
へ
引返
(
ひきかへ
)
さうかな』
360
婆
(
ばば
)
『お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
糞
(
くそ
)
や
小便
(
せうべん
)
や
血
(
ち
)
や
啖
(
たん
)
のこの
川
(
かは
)
が
汚
(
きたな
)
いのか、
361
お
前
(
まへ
)
の
身体
(
からだ
)
は
何
(
なに
)
だ、
362
糞
(
くそ
)
よりも
小便
(
せうべん
)
よりも、
363
鼻啖
(
はなたん
)
よりも、
364
もつと
穢苦
(
むさくる
)
しいぞ、
365
糞
(
くそ
)
の
身体
(
からだ
)
が
糞水
(
くそみづ
)
に
浸
(
つか
)
つて
糞水
(
くそみづ
)
を
飲
(
の
)
むのが、
366
それが、
367
何
(
なに
)
が
汚
(
きたな
)
いのぢや、
368
共飲
(
ともの
)
みぢや
遠慮
(
ゑんりよ
)
はいらぬ、
369
貴様
(
きさま
)
の
物
(
もの
)
を、
370
貴様
(
きさま
)
が
飲
(
の
)
むのぢやないかい』
371
弥
(
や
)
『これは
怪
(
け
)
しからぬ、
372
共食
(
ともぐひ
)
共飲
(
ともの
)
みとは
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
に
大違反
(
だいゐはん
)
の
罪悪
(
ざいあく
)
だ、
373
人
(
ひと
)
が
人
(
ひと
)
を
喰
(
く
)
ひ、
374
猫
(
ねこ
)
が
猫
(
ねこ
)
を
食
(
く
)
ふと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
があつて
耐
(
たま
)
らうかい』
375
婆
(
ばば
)
『
吐
(
ぬ
)
かすな
吐
(
ぬ
)
かすな、
376
貴様
(
きさま
)
は
親
(
おや
)
の
脛
(
すね
)
を
噛
(
か
)
ぢつて
食
(
く
)
い
足
(
た
)
らないで、
377
山
(
やま
)
を
飲
(
の
)
み
家
(
いへ
)
を
飲
(
の
)
み、
378
まだ
喰
(
く
)
ひ
足
(
た
)
らずに
蔵
(
くら
)
を
喰
(
く
)
ひよつて、
379
揚句
(
あげく
)
の
果
(
はて
)
には
可愛
(
かあい
)
い
子
(
こ
)
まで
鬼
(
おに
)
の
様
(
やう
)
に
売
(
う
)
つて
喰
(
く
)
ふて、
380
それでもまだ
足
(
た
)
らいで
友達
(
ともだち
)
を
食
(
く
)
ひ、
381
世間
(
せけん
)
のおとなしい
人間
(
にんげん
)
の
汗
(
あせ
)
や
脂
(
あぶら
)
を
搾
(
しぼ
)
つて
舐
(
ね
)
ぶり、
382
餓鬼
(
がき
)
のやうな
奴
(
やつ
)
ぢや、
383
余
(
あんま
)
り
大
(
おほ
)
きい
顔
(
かほ
)
して
頬
(
ほほ
)
げたを
叩
(
たた
)
くものぢやないぞ』
384
弥
(
や
)
『ヤアこの
婆
(
ばば
)
仲々
(
なかなか
)
ヒラけてゐよるワイ、
385
一寸
(
ちよつと
)
談
(
はな
)
せる
奴
(
やつ
)
だ』
386
勝
(
かつ
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
よ、
387
毎日
(
まいにち
)
日
(
ひ
)
にち
世界中
(
せかいぢう
)
のいはゆる
文明
(
ぶんめい
)
亡者
(
まうじや
)
が、
388
此処
(
ここ
)
を
通過
(
つうくわ
)
するのだから、
389
門前
(
もんぜん
)
の
雀
(
すずめ
)
経
(
きやう
)
を
読
(
よ
)
むとか
云
(
い
)
ふてな、
390
聞
(
き
)
き
覚
(
おぼ
)
え
見覚
(
みおぼ
)
えて
居
(
ゐ
)
るのだ、
391
貴様
(
きさま
)
は
小学校
(
せうがくかう
)
出
(
で
)
、
392
俺
(
おれ
)
は
赤門
(
あかもん
)
出
(
で
)
のチヤーチヤー
大先生
(
だいせんせい
)
だと
吹
(
ふ
)
きよつたが、
393
このお
婆
(
ば
)
アサンは
赤門
(
あかもん
)
どころか、
394
よつぽど
黒門
(
くろもん
)
だ。
395
早稲田
(
わせだ
)
大学
(
だいがく
)
出身
(
しゆつしん
)
の
大
(
だい
)
博士
(
はかせ
)
だ、
396
洋行
(
やうかう
)
婆
(
ば
)
アサンだぞ、
397
うつかりして
居
(
ゐ
)
ると
赤門
(
あかもん
)
先生
(
せんせい
)
赤恥
(
あかはぢ
)
を
掻
(
か
)
いてアフンと
致
(
いた
)
さねばならぬぞよ』
398
弥
(
や
)
『コラ、
399
カカ
勝公
(
かつこう
)
、
400
横槍
(
よこやり
)
を
入
(
い
)
れない、
401
尋常
(
じんじやう
)
学校
(
がくかう
)
の
落第生
(
らくだいせい
)
奴
(
め
)
が』
402
勝
(
かつ
)
『
今
(
いま
)
の
学校
(
がくかう
)
を
卒業
(
そつげふ
)
したつて
何
(
なに
)
になるのだ、
403
碌
(
ろく
)
でもない
事
(
こと
)
ばつかり
教
(
をし
)
へられよつて、
404
尋常
(
じんじやう
)
の
間
(
あひだ
)
が
本当
(
ほんたう
)
の
教育
(
けういく
)
だ、
405
それ
以上
(
いじやう
)
になると
薩張
(
さつぱ
)
り
四足
(
よつあし
)
身魂
(
みたま
)
の
教育
(
けういく
)
だ、
406
余
(
あんま
)
り
学者
(
がくしや
)
振
(
ぶ
)
るな、
407
学者
(
がくしや
)
の
覇
(
は
)
の
利
(
き
)
いた
時代
(
じだい
)
は
廿
(
にじつ
)
世紀
(
せいき
)
の
初頭
(
しよとう
)
だ、
408
二十四
(
にじふし
)
世紀
(
せいき
)
になつて
居
(
ゐ
)
るのに
学
(
がく
)
のナンノと、
409
学
(
がく
)
が
聞
(
き
)
いてあきれるワ』
410
弥
(
や
)
『それでも
矢張
(
やは
)
り
形式
(
けいしき
)
を
踏
(
ふ
)
まねば、
411
ナンボ
二十四
(
にじふし
)
世紀
(
せいき
)
だとてあまり
買手
(
かひて
)
がないぞ、
412
赤門
(
あかもん
)
出
(
で
)
と
云
(
い
)
へば
アカンモン
でも
威張
(
ゐば
)
つて
直
(
すぐ
)
に
買手
(
かひて
)
が
付
(
つ
)
くし、
413
卒業
(
そつげふ
)
早々
(
さうさう
)
立派
(
りつぱ
)
な
会社
(
くわいしや
)
の
予約
(
よやく
)
済
(
ず
)
みに
成
(
な
)
れるのだ』
414
勝『まるで
人間
(
にんげん
)
を
貨物
(
くわもつ
)
と
間違
(
まちが
)
へてゐる
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だから
仕方
(
しかた
)
がないワイ、
415
時世
(
ときよ
)
時節
(
じせつ
)
の
力
(
ちから
)
には
神
(
かみ
)
もかなはぬと
仰有
(
おつしや
)
るのだから、
416
俺
(
おれ
)
も
時勢
(
じせい
)
に
逆行
(
ぎやくかう
)
する
様
(
やう
)
な、
417
馬鹿
(
ばか
)
でないからまア
一寸
(
ちよつと
)
此処
(
ここ
)
らで
切上
(
きりあ
)
げて
置
(
お
)
かうかい。
418
なア
赤門
(
あかもん
)
先生
(
せんせい
)
』
419
弥
(
や
)
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つたつて
赤門
(
あかもん
)
出
(
で
)
は
貨物
(
くわもつ
)
だらうが、
420
物品
(
ぶつぴん
)
だらうが、
421
価
(
あたひ
)
が
好
(
よ
)
いから、
422
仕様
(
しやう
)
がないワ、
423
この
婆
(
ば
)
アサンのやうに
何程
(
なんぼ
)
大学
(
だいがく
)
を
卒業
(
そつげふ
)
したつて、
424
黒門
(
くろもん
)
(
苦労者
(
くらうもん
)
)
出
(
で
)
で
何
(
なん
)
ぼ
立派
(
りつぱ
)
でも
使
(
つか
)
ひ
手
(
て
)
がないのだ、
425
それだから
カンカ
不遇
(
ふぐう
)
で
何時
(
いつ
)
も
川端柳
(
かはばたやなぎ
)
を
見
(
み
)
てクヨクヨと、
426
脱衣婆
(
だついばば
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
に
甘
(
あま
)
んぜねばならないのだよ。
427
アヽ
私
(
わし
)
はどうして
赤門
(
あかもん
)
に
這入
(
はい
)
らなかつたらう、
428
鈍
(
どん
)
な
アカンモン
でも
赤門
(
あかもん
)
出
(
で
)
なれば
ドント
出世
(
しゆつせ
)
は
出来
(
でき
)
るが、
429
私
(
わし
)
は
又
(
また
)
どうして
黒門
(
くろもん
)
(
苦労者
(
くらうもん
)
)になつただらうといくら
悔
(
くや
)
んでも
後
(
あと
)
の
祭
(
まつ
)
りだ、
430
何時
(
いつ
)
の
世
(
よ
)
にも
蔓
(
つる
)
と
云
(
い
)
ふものをたぐらねば
出世
(
しゆつせ
)
は
出来
(
でき
)
はしないぞ。
431
あの
芋
(
いも
)
を
見
(
み
)
よ、
432
蔓
(
つる
)
にぶら
下
(
さが
)
つてなつて
居
(
ゐ
)
るのぢや、
433
それだから
游泳術
(
いうえいじゆつ
)
の
上手
(
じやうず
)
な
奴
(
やつ
)
をみんな
芋蔓
(
いもづる
)
と
云
(
い
)
ふのだよ』
434
勝
(
かつ
)
『エヽ
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふな、
435
まるで
薩摩
(
さつま
)
の
芋屁
(
いもぺ
)
でも
放
(
ひ
)
つた
様
(
やう
)
な
臭
(
くさ
)
い
臭
(
くさ
)
い
理窟
(
りくつ
)
を
伸
(
の
)
べよつて
鼻
(
はな
)
持
(
も
)
ちがならぬワイ。
436
ヤアお
婆
(
ば
)
アサン、
437
長
(
なが
)
らく
御
(
ご
)
面倒
(
めんだう
)
いたしました、
438
末長
(
すゑなが
)
う
宜
(
よろ
)
しうお
頼
(
たの
)
み
申
(
まを
)
します、
439
オツトドツコイ
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
のお
婆
(
ば
)
アサンにお
頼
(
たの
)
みするやうでは、
440
六
(
ろく
)
な
事
(
こと
)
ぢやない、
441
末長
(
すゑなが
)
うお
頼
(
たの
)
み
申
(
まを
)
しませぬワ、
442
アハヽヽヽ』
443
婆
(
ばば
)
『ア、
444
さうださうだ、
445
私
(
わし
)
の
厄介
(
やくかい
)
になるやうな
奴
(
やつ
)
は、
446
どうで
碌
(
ろく
)
な
奴
(
やつ
)
ぢやないワ、
447
それよりもお
前
(
まへ
)
の
連
(
つれ
)
の
与太
(
よた
)
や
六
(
ろく
)
が
心配
(
しんぱい
)
をして
目
(
め
)
を
爛
(
ただ
)
らして
探
(
さが
)
して
居
(
ゐ
)
る。
448
早
(
はや
)
く
帰
(
かへ
)
つてやりなさいよ』
449
弥
(
や
)
『オーさうだつた、
450
ウツカリ
婆
(
ば
)
アサンとの
外交
(
ぐわいかう
)
談判
(
だんぱん
)
に
貴重
(
きちよう
)
な
光陰
(
くわういん
)
を
夢中
(
むちう
)
になつて
消費
(
せうひ
)
して
居
(
を
)
つたものだから、
451
二人
(
ふたり
)
の
奴
(
やつ
)
、
452
俺
(
おれ
)
の
記憶
(
きおく
)
から
消滅
(
せうめつ
)
して
仕舞
(
しま
)
つて
居
(
を
)
つた、
453
消滅
(
せうめつ
)
地獄
(
ぢごく
)
に
落
(
お
)
ちたやうだ。
454
今頃
(
いまごろ
)
はさぞ
心身
(
しんみ
)
を
焦
(
こ
)
がして
居
(
ゐ
)
るであらう
程
(
ほど
)
に、
455
もうしもうし
勝五郎
(
かつごろう
)
サンエ、
456
勝
(
かつ
)
チヤンえ、
457
此処
(
ここ
)
らあたりは
山家
(
やまが
)
故
(
ゆゑ
)
、
458
オツトドツコイ
川
(
かは
)
べり
故
(
ゆゑ
)
、
459
嘸
(
さぞ
)
寒
(
さむ
)
かつたで
御座
(
ござ
)
んしようなア
[
※
浄瑠璃の『箱根霊験躄仇討』のシャレ。
]
』
460
勝
(
かつ
)
『オイしつかりせぬかい、
461
此処
(
ここ
)
は
箱根山
(
はこねやま
)
ぢやないぞ、
462
俺
(
おれ
)
を
躄
(
いざり
)
と
間違
(
まちが
)
へて
貰
(
もら
)
つては
迷惑
(
めいわく
)
千万
(
せんばん
)
だ』
463
婆
(
ばば
)
『ヤレこの
障子
(
しやうじ
)
開
(
あ
)
けまいぞ
開
(
あ
)
けまいぞ、
464
そも
三浦
(
みうら
)
が
帰
(
かへ
)
りしとは
坂本
(
さかもと
)
の
城
(
しろ
)
に
帰
(
かへ
)
りしか、
465
よも
此処
(
ここ
)
へのめのめと
迷
(
まよ
)
ふて
出
(
で
)
て
来
(
く
)
る
弥次彦
(
やじひこ
)
ぢやあるまい、
466
そりや
人違
(
ひとちが
)
ひ、
467
若
(
も
)
し
又
(
また
)
それが
諚
(
ぢやう
)
なれば、
468
コーカス
山
(
ざん
)
、
469
アーメニヤ
分
(
わ
)
け
目
(
め
)
の
大事
(
だいじ
)
の
戦
(
たたか
)
ひに
参加
(
さんか
)
もせずに
戻
(
もど
)
つて
来
(
く
)
る
不届者
(
ふとどきもの
)
この
茅屋根
(
あばらやね
)
の
家
(
うち
)
は
婆
(
ばば
)
が
城廓
(
じやうくわく
)
、
470
その
臆
(
おく
)
れた
魂
(
たましひ
)
でこの
藁戸
(
わらと
)
一重
(
ひとへ
)
破
(
やぶ
)
らるるならサヽヽ
破
(
やぶ
)
つて
見
(
み
)
よと
[
※
浄瑠璃の『鎌倉三代記』の「三浦別の段」のシャレ。
]
』
471
弥
(
や
)
『
百筋
(
ももすぢ
)
千筋
(
ちすぢ
)
の
理
(
り
)
を
分
(
わ
)
けて、
472
引
(
ひ
)
つかづいたる
あばらや
の
内
(
うち
)
、
473
チヤンチヤンぢや』
474
勝
(
かつ
)
『ハハアそのお
言葉
(
ことば
)
を
忘
(
わす
)
れねばこそ、
475
故郷
(
こきやう
)
を
出
(
いで
)
て
今日
(
けふ
)
まで
一度
(
いちど
)
の
便
(
たよ
)
りも
致
(
いた
)
さねど、
476
お
命
(
いのち
)
も
危
(
あやふ
)
しと
聞
(
き
)
くより
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
き
飛
(
と
)
ばされ、
477
玉
(
たま
)
は
碎
(
くだ
)
け
胸
(
むね
)
は
痛
(
いた
)
み、
478
眼
(
まなこ
)
眩
(
くら
)
んで
三五
(
あななひ
)
の
道
(
みち
)
を
忘
(
わす
)
れし
不調法
(
ぶてうはふ
)
、
479
真平
(
まつぴら
)
御免
(
ごめん
)
下
(
くだ
)
されかし、
480
いで
戦場
(
せんぢやう
)
へ
駆向
(
かけむか
)
ひ、
481
華々
(
はなばな
)
しき
功名
(
こうみやう
)
して、
482
コーカス
山
(
ざん
)
におつつけ
凱陣
(
がいぢん
)
仕
(
つかまつ
)
らむ』
483
弥
(
や
)
『アハヽヽヽヽヽ』
484
婆
(
ばば
)
『オホヽヽヽヽ、
485
もう
御
(
お
)
しばい
だよ』
486
(
大正一一・三・二四
旧二・二六
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