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第一〇章 牡丹餅(ぼたもち)〔五六〇〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第14巻 如意宝珠 丑の巻 篇:第3篇 高加索詣 よみ(新仮名遣い):こーかすまいり
章:第10章 牡丹餅 よみ(新仮名遣い):ぼたもち 通し章番号:560
口述日:1922(大正11)年03月24日(旧02月26日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年11月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
弥次彦、勝彦、与太彦、六公の四人は、ようやく谷間を這い上がって小鹿山峠の坂道に着いた。
六公は、途中に松屋という飲食所があるので、そこで休もうと提案する。また、弥次彦の奇妙な宣伝使服の重ね着と自分の衣服を交換する。
一行は店に入ると牡丹餅を注文して食べ始めた。食べ終わると、六公は店の下女のお竹に、お釣りは取っておくようにと鷹揚に代金を支払う。しかしお竹は六公の顔を見て六だとわかると、逃げてしまう。
三人は、どういうことかと六公に尋ねると、六公は店を飛び出して逃げてしまった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-12-28 15:40:31 OBC :rm1410
愛善世界社版:169頁 八幡書店版:第3輯 220頁 修補版: 校定版:175頁 普及版:80頁 初版: ページ備考:
001 弥次彦(やじひこ)002勝彦(かつひこ)003与太彦(よたひこ)004六公(ろくこう)()(にん)谷間(たにま)()(あが)り、005(やうや)くにして小鹿山(こしかやま)(たうげ)坂道(さかみち)()いた。
006()『ヤア此処(ここ)芝居(しばゐ)序幕(じよまく)(えん)じたところだ。007随分(ずゐぶん)(かぜ)(かみ)(やつ)008(えら)()()はしよつたものだ』
009(ろく)貴方達(あなたがた)羽織(はおり)(さん)(まい)()て、010(しか)(うへ)()るものを(した)穿()いたりするものだから、011アンナ()()ふたのですよ』
012()(それ)でも上下(うへした)(そろ)ふて()(をさ)めるぞよと(かみ)(さま)仰有(おつしや)るのだ。013(しか)(ろく)(にん)宣伝使(せんでんし)から頂戴(ちやうだい)した結構(けつこう)なお召物(めしもの)()()るのに、014(かみ)(さま)(ばち)()てると()(はず)もあるまい』
015(ろく)『それでも羽織(はおり)(はかま)穿()くと()(こと)は、016()(かんが)へものですなア』
017()『さうだと()つて、018裸体(らたい)道中(だうちう)もなるまいし、019仕方(しかた)がない(わい)
020(ろく)(この)(たうげ)は、021時々(ときどき)レコード(やぶ)りの(かぜ)()きますから、022随分(ずゐぶん)()をつけて()かずばなりますまい。023この(さか)(くだ)ると(つぎ)十九(じふく)番目(ばんめ)大峠(おほたうげ)です、024その(たうげ)までに二三(にさん)()展開(てんかい)した曠野(くわうや)があつて、025其処(そこ)には沢山(たくさん)人家(じんか)()(なら)んで()ます。026そこまで()つて一服(いつぷく)しませうか』
027()『さうしませうよ、028(しか)しながらコンナ(ふう)をして、029沢山(たくさん)(ひと)()(ところ)(とほ)るのも(へん)なものだ。030(なん)とか工夫(くふう)はあるまいか』
031(ろく)『ヤア(わたくし)はお(とも)032貴方(あなた)宣伝使(せんでんし)(さま)だ、033()うでせう、034(わたくし)着物(きもの)()()へつこをして村落(そんらく)(とほ)(こと)にしましたら』
035()『さう(ねが)へれば結構(けつこう)だ。036アヽ六公(ろくこう)037(はや)裸体(らたい)となつたのかい、038(なん)()(はや)(をとこ)だなア』
039(ろく)(つる)一声(ひとこゑ)言行(げんかう)一度(いちど)一致(いつち)()ふやり(かた)です、040愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して()(みづ)()されると(つま)りませぬからなア、041アハヽヽヽ』
042 (ここ)弥次彦(やじひこ)六公(ろくこう)衣服(いふく)着換(きか)へ、043六公(ろくこう)羽織(はおり)(さん)(まい)(はかま)(なみ)前後(まへうしろ)()ながら、044(つる)(おび)(かた)瓢箪(へうたん)のやうに(こし)(くく)り、
045(ろく)『サアこれで(せん)(りやう)役者(やくしや)早替(はやが)はりだ、046しかし役者(やくしや)だと()ふても、047もう芝居(しばゐ)はやめですよ、048サア()きませうかい』
049と、050ドンドンと(くだ)(ざか)(はし)つて()く。051(やうや)くにして(ふもと)村落(そんらく)()いた。
052(かつ)大分(だいぶ)(はら)(むし)空虚(くうきよ)(うつた)へて()だした、053何処(どこ)此辺(ここら)飲食店(いんしよくてん)でもあれば這入(はい)つて(はら)(こしら)へたいものだなア』
054()055()『サアさうお(あつら)(むき)出来(でき)()れば、056結構(けつこう)だが』
057(ろく)『イヤ、058()心配(しんぱい)()無用(むよう)059(すこ)(さき)()きますと、060松屋(まつや)()つて、061一寸(ちよつと)した飲食店(いんしよくてん)があります、062其処(そこ)には別嬪(べつぴん)()りますぜ』
063()(それ)豪気(がうき)だ、064ともかく其処迄(そこまで)もう一息(ひといき)だ。065(なん)だか(にはか)元気(げんき)()いた』
066()ひつつ()(にん)速度(そくど)(はや)めて駆出(かけだ)した。
067()『ヤア此処(ここ)松屋(まつや)だ。068いよいよ目的(もくてき)地点(ちてん)無事(ぶじ)()到着(たうちやく)か、069アハヽヽヽ、070(ひさ)(ぶり)弁才天(べんざいてん)拝観(はいくわん)出来(でき)ると()ふものだ』
071()御校正本でも「弥」になっているが弥次彦のセリフが二つ続くのはおかしい。そもそも「弁才天の拝観も出来る」と言っておきながらすぐに「弁才天はどうでも好い」と否定するのはおかしい。このセリフは勝彦か与太彦の間違いであろう。以降のセリフを考えると、おそらく与太彦のセリフであろう。弁才天(べんざいてん)はどうでも()い、072(はや)()(まんま)()りつきたい(わい)073もう()うなれば色気(いろけ)より食気(くひけ)だ』
074 松屋(まつや)門口(かどぐち)一人(ひとり)下女(げぢよ)()(あら)はれ、
075下女(げぢよ)『モシモシ、076(きやく)サン、077コーカス(まゐ)りですか、078随分(ずゐぶん)(きつ)(さか)でお草臥(くたび)れでせう、079何卒(どうぞ)(ひと)つお(ちや)でも()んで一服(いつぷく)してお(いで)なされませ』
080()()ふにや(およ)ぶ、081吾々(われわれ)一行(いつかう)()(にん)松屋(まつや)をさして休息(きうそく)予定(よてい)でお()(あそ)ばしたのだ。082一服(いつぷく)してやらう、083ナンゾ、084小美味(こうまい)ものは()いか』
085下女(げぢよ)(たけ)『ハイハイ、086(なん)でも御座(ござ)います。087(のぞ)次第(しだい)(かね)次第(しだい)です』
088()『チエツ、089(すぐ)(これ)だから(いや)になつて仕舞(しま)ふ、090(かね)(かね)(なん)だ。091矢張(やつぱり)ウラル(けう)空気(くうき)(ただよ)ふてゐるな、092仕方(しかた)()(わい)093(はら)()つては(いくさ)出来(でき)ないから』
094()つて与太彦(よたひこ)(さき)にたち()()む。
095下女(げぢよ)『マア、096マア、097二人(ふたり)のお(かた)098ホヽヽヽヽ、099(めう)(ふう)をなさいまして』
100()(めう)(ふう)でも(なん)でもお(まへ)()れて()れと()いやしないし、101着物(きもの)()して()れとも()やしないから、102いらぬ(くち)(たた)くな、103(はや)小美味(こうまい)ものを()さぬかい』
104 (おく)(はう)から中年増(ちうどしま)()アサンが、105ヒヨコヒヨコとやつて()て、
106(ばば)『アヽこれはこれはお客様(きやくさま)107よう一服(いつぷく)して(くだ)さいました。108(なん)なと()註文(ちゆうもん)次第(しだい)109仰有(おつしや)つて(くだ)さいませ』
110(ろく)牡丹餅(ぼたもち)()いかなア』
111(ばば)『ヘエヘエ、112御座(ござ)います、113彼岸(ひがん)牡丹餅(ぼたもち)(いま)(こしら)へた(ところ)114ヌクヌクのホコホコの、115()から()るやうなのが、116沢山(たくさん)(にぎ)つてあります』
117()(はじめ)(にぎ)つた(やつ)真黒(まつくろ)けと(ちが)ふかね』
118(ばば)滅相(めつさう)な、119(きよ)めた(うへ)にも(きよ)めた、120清潔(きれい)牡丹餅(ぼたもち)です。121牡丹餅(ぼたもち)(きら)ひなお(かた)此処(ここ)(にぎ)(まま)がございます。122貴方達(あなたがた)遠方(ゑんぱう)(かた)()えますが、123随分(ずゐぶん)(あし)達者(たつしや)なお(かた)らしい、124(まる)牡丹餅(ぼたもち)のやうな健脚家(けんきやくか)だ。125毎日(まいにち)コーカス(まゐ)りの道者(だうしや)(とほ)られますが、126牡丹餅(ぼたもち)のお(きやく)(すくな)い、127握飯(にぎりめし)随分(ずゐぶん)(おほ)いやうですワ。128オホヽヽヽ』
129()()アサン、130牡丹餅(ぼたもち)のお(きやく)だとか、131握飯(にぎりめし)のお(きやく)だとか、132それや一体(いつたい)(なん)(こと)だい。133(おれ)(かほ)牡丹餅(ぼたもち)のやうな不恰好(ぶかつかう)だと()ふて嘲弄(てうろう)するのだな』
134(ばば)『オホヽヽヽ、135(それ)(たとへ)御座(ござ)います。136握飯(にぎりめし)(まる)い、137牡丹餅(ぼたもち)一寸(ちよつと)(かど)()つて()る。138或時(あるとき)握飯(にぎりめし)牡丹餅(ぼたもち)とがマラソン競争(きやうさう)をやりました。139さうしたところが、140(まる)(はう)握飯(にぎりめし)()たねばならぬ(はず)だのに、141中途(ちうと)平太張(へたば)つて仕舞(しま)つて、142牡丹餅(ぼたもち)はとうとう決勝点(けつしようてん)まで安着(あんちやく)されて名誉(めいよ)優勝旗(いうしようき)()(はい)りました。143そこで饅頭(まんじう)がやつて()て、144牡丹餅(ぼたもち)よ、145(まへ)一寸(ちよつと)()てもぼたぼたして(あし)(おそ)いと(おも)つたに、146勝利(しようり)()たのは()うした(わけ)かと(たづ)ねよりたら、147牡丹餅(ぼたもち)()ふには、148(わたくし)あづきつけとるから道中(だうちう)安心(あんしん)だと、149オホヽヽヽ小豆の赤い色には魔除けの効果があるという言い伝えがあるので、それで「安心だ」と洒落ているのではないか?
150()『ナアーンダイ、151この(はら)()いとるのに(おと)(ばなし)をしよつて、152気楽(きらく)()アサンだなア』
153(ばば)『コンナ(はな)しでもして、154(きやく)サンを(たら)かし(ひま)()れて(はら)()かし、155その(あひだ)牡丹餅(ぼたもち)()いて(しん)ぜると()此方(こなた)(かんが)へ、156もう一寸(ちよつと)()つて(くだ)さい、157(いま)(めし)()いて()ります、158(すぐ)小豆(あづき)(ころも)()せて、159どつさり()つて(もら)ひます』
160()『ヤアヤア牡丹餅(ぼたもち)()けば、161(にはか)咽喉(のど)(むし)がグウグウと催促(さいそく)をし()した。162(なん)でもよいから手早(てばや)くやつて(くだ)さい』
163()『オイ与太公(よたこう)164此処(ここ)には素敵(すてき)別嬪(べつぴん)(むすめ)があるぢやないか、165貴様(きさま)()うだ。166思召(おぼしめし)()いか』
167()『どうだ、168女子(ぢよし)国有(こくいう)にして()(くに)さへもあるのだから、169吾々(われわれ)()(にん)(なん)とかして四国(しこく)協調(けふてう)結果(けつくわ)彼奴(あいつ)国有(こくいう)にしたらどうだ。170毎晩(まいばん)交代(かうたい)にあの尤物(いうぶつ)をエンプレスして(たのし)まうぢやないか』
171(かつ)『ソンナ エンプレスと()ふやうな(こと)をやると此処(ここ)人気娘(にんきむすめ)を、172(この)(むら)(ほこ)りとして()るのだから、173貴様(きさま)村民(そんみん)怨府(えんぷ)となるかも()れないぞ。174とは()ふものの(たて)から()ても(よこ)から()ても、175三十三(さんじふさん)(さう)具備(ぐび)したあななし(ひめ)だ。176(をとこ)(うま)れた甲斐(かひ)には()めて一遍(いつぺん)(くらゐ)はエンプレスをやつて()たいやうな()もせぬでは()いが、177(なに)()ふても(いか)めしい三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)だから、178どうする(こと)出来(でき)やしない、179(たから)(やま)(はい)つて裸体(らたい)(かへ)るやうな心持(こころもち)がする(わい)
180(ばば)『サアサア(みな)サン、181牡丹餅(ぼたもち)出来(でき)た、182(あが)りなさいませ』
183()『これはこれは有難(ありがた)御座(ござ)います、184マア(ゆつ)くりと頂戴(ちやうだい)(いた)しませう』
185(ばば)『サア(わたくし)がついで()げませう』
186()『ヘイ、187ヘイ、188ヘイ、189アヽ、190それは結構(けつこう)ですが、191(おな)(こと)ならあのそれ、192(うめ)お竹の誤字か? 御校正本・校定版・愛世版いずれも「お梅」になっている。サンによそつて(もら)へば一入(ひとしほ)193美味(おいし)いやうな()(いた)します(わい)
194(ばば)『ホヽヽヽヽ、195貴方(あなた)もよほど苦労人(くらうにん)()える(わい)196渋皮(しぶかは)のやうなお()で、197牡丹餅(ぼたもち)()つて()げても、198()()しますまい、199(わたくし)()るのがお()()らねば、200もう牡丹餅(ぼたもち)()べて(もら)(こと)真平(まつぴら)御免(ごめん)(かうむ)ります』
201()『マア、202マア、203マア()つて(くだ)さい、204これは冗談(じやうだん)ですよ、205さう()()けて(もら)つては(こま)ります』
206(ばば)冗談(じやうだん)から(ひま)()る。207瓢箪(へうたん)から(こま)()る。208青瓢箪(あをべうたん)黒焦(くろこげ)のやうな(かほ)をして年寄(としより)()()らないの、209スツポンのと、210それやお(まへ)(なに)()ふのだ。211さう老人(としより)見下(みさ)げたものぢやない、212人間(にんげん)(とし)をとつて(こけ)がついて()(ほど)(ねうち)出来(でき)るのだよ』
213(かつ)左様(さやう)左様(さやう)214御尤(ごもつと)もだ』
215(ばば)『ソンナら勝手(かつて)()つて()ひなさい』
216()アサンはむつとした(かほ)をして(おく)()る。217()(にん)熊手(くまで)のやうな()()して、218餓虎(がこ)のやうに、219グイグイと()()み、
220()(にん)『ヨー美味(うま)い、221コンナ美味(おいし)牡丹餅(ぼたもち)は、222(へそ)()()つてから()つた(こと)がないワイ。223コンナ(やつ)なら、224一遍(いつぺん)(はら)(はぢ)けても(かま)はぬ、225(ひやく)でも二百(にひやく)でも咽喉(のど)(むし)()苦労(くらう)()苦労(くらう)()ふて(すべ)()んで仕舞(しま)ふやうだ』
226堆高(うづたか)()んであつた沢山(たくさん)牡丹餅(ぼたもち)一息(ひといき)(たひら)げてしまつた。
227下女(げぢよ)のお(たけ)『お(きやく)サン、228よういけましたなア、229(こめ)相場(さうば)(くる)ひますぜ、230(かは)りはどうです』
231()餅屋(もちや)喧嘩(けんくわ)で、232餅論(もちろん)だ。233(はや)()したり()したり』
234(たけ)『マアマアお(きやく)サン、235貴方達(あなたがた)(かんぬき)(むか)ふに()る、236(つの)()えたお(かた)のやうな(かた)ですなア、237モウ モウ モウ(あき)れましたよ』
238()()うでもよい、239(はや)()して(もら)はうかい、240(はら)(むし)得心(とくしん)したやうだが、241()(した)()とが羨望(せんばう)(ねん)()られて()るやうだ。242(おな)(ひと)つの(からだ)だ、243(はら)ばかり可愛(かあい)がつて、244()(した)とを埒外(らちぐわい)()()すと()ふのも、245吾々(われわれ)宣伝使(せんでんし)として(なさけ)(わきま)へぬと()ふものだ。246アハヽヽヽ』
247(たけ)『サアサア、248(かは)りが出来(でき)ました。249(ゆつ)くりお(あが)りなさいませ』
250 ()(にん)(また)もや一斉(いつせい)二膳(にぜん)片箸(かたはし)同盟軍(どうめいぐん)(つく)つて、251複縦陣(ふくじうぢん)(そな)へを()り、252爆弾(ばくだん)のやうな牡丹餅(ぼたもち)(また)もやパクつき(はじ)めた。
253()『オイお(たけ)サン、254馬鹿(ばか)にするない、255見本(みほん)美味(うま)(やつ)()しよつて、256これは大変(たいへん)(あぢ)(わる)いぢやないか、257一番(いちばん)(さき)()したやうな(やつ)()して()れないかい、258上皮(うはかは)(はう)には(うま)(やつ)(なら)べよつて、259(した)になる(ほど)不味(まづ)牡丹餅(ぼたもち)(なら)べといたつて、260(おれ)(した)がよく御存(ごぞん)じだぞ』
261(たけ)『それや(なに)()ふのぢや、262美味(うま)いも不味(まづい)もあつたものか、263(みな)(おな)(あぢ)(つく)つてあるのですよ、264(まへ)サン(はら)()つた(とき)()つたから美味(うま)かつたのだ。265(はら)(ふく)れてから(なに)()つたからつて美味(うま)(こと)はありやしない。266ソンナ小言(こごと)()ふのなら、267()ふだけの権利(けんり)がない、268食物(しよくもつ)(あぢ)(たい)しては()(どく)ながら神経(しんけい)麻痺(まひ)だ。269サアサア()加減(かげん)()つたらお(あし)をお(はら)ひなさい』
270(ろく)懐中(くわいちう)より)『それ、271剰金(つり)()らないぞ、272(あと)はお(まへ)小遣(こづか)ひだ』
273(たけ)(おほ)きに有難(ありがた)御座(ござ)いました』
274(かほ)見上(みあ)ぐる途端(とたん)に、
275お竹『ヤアお(まへ)(ろく)サンだつたかい』
276(ころ)げるやうにして裏口(うらぐち)をさして姿(すがた)(かく)して仕舞(しま)つた。
277()『オイ(ろく)278貴様(きさま)(つみ)(ふか)(やつ)だ。279(なに)(これ)には秘密(ひみつ)(こも)つて()るだらう、280それだから松屋(まつや)()らう()らうと()ひよつたのだなア、281()でも蒟蒻(こんにやく)でも()かぬ(やつ)だ。282目出度(めでた)(ところ)()せつけよつて、283(あま)馬鹿(ばか)にするない』
284六公『ヤア、285(なん)でもよい、286退却(たいきやく)々々(たいきやく)
287羽織(はおり)(はかま)をバサバサと穿(うが)ちながら、288一散(いつさん)()()した。289(さん)(にん)()むを()ず、
290三人(弥次彦、与太彦、勝彦)『オイ六公(ろくこう)()つた』
291 六公(ろくこう)(あと)()()(なが)ら、
292六公『マツたも松屋(まつや)もあつたものかい、293マア、294一所(いつしよ)()てこないかい』
295(いき)せき()つて(はし)()す。296(さん)(にん)は、
297三人『あゝ合点(がてん)()かぬ突発(とつぱつ)事件(じけん)だ。298仕方(しかた)がない、299ソンナラそろそろ()かうかい』
300(また)もや牡丹餅(ぼたもち)(ばら)(ゆす)りながら、301六公(ろくこう)(あと)追跡(つゐせき)する。
302大正一一・三・二四 旧二・二六 加藤明子録)
303(昭和一〇・三・一五 於高雄港口官舎 王仁校正)
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