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霊界物語
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第2巻(丑の巻)
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第61巻(子の巻)
第62巻(丑の巻)
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第66巻(巳の巻)
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第68巻(未の巻)
第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第14巻(丑の巻)
序歌
信天翁(四)
凡例
総論歌
第1篇 五里夢中
01 三途川
〔551〕
02 銅木像
〔552〕
03 鷹彦還元
〔553〕
04 馬詈
〔554〕
05 風馬牛
〔555〕
第2篇 幽山霊水
06 楽隠居
〔556〕
07 難風
〔557〕
08 泥の川
〔558〕
09 空中滑走
〔559〕
第3篇 高加索詣
10 牡丹餅
〔560〕
11 河童の屁
〔561〕
12 復縁談
〔562〕
13 山上幽斎
〔563〕
14 一途川
〔564〕
15 丸木橋
〔565〕
16 返り咲
〔566〕
第4篇 五六七号
17 一寸一服
〔567〕
跋文
余白歌
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第一〇章
牡丹餅
(
ぼたもち
)
〔五六〇〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第14巻 如意宝珠 丑の巻
篇:
第3篇 高加索詣
よみ(新仮名遣い):
こーかすまいり
章:
第10章 牡丹餅
よみ(新仮名遣い):
ぼたもち
通し章番号:
560
口述日:
1922(大正11)年03月24日(旧02月26日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年11月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
弥次彦、勝彦、与太彦、六公の四人は、ようやく谷間を這い上がって小鹿山峠の坂道に着いた。
六公は、途中に松屋という飲食所があるので、そこで休もうと提案する。また、弥次彦の奇妙な宣伝使服の重ね着と自分の衣服を交換する。
一行は店に入ると牡丹餅を注文して食べ始めた。食べ終わると、六公は店の下女のお竹に、お釣りは取っておくようにと鷹揚に代金を支払う。しかしお竹は六公の顔を見て六だとわかると、逃げてしまう。
三人は、どういうことかと六公に尋ねると、六公は店を飛び出して逃げてしまった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-12-28 15:40:31
OBC :
rm1410
愛善世界社版:
169頁
八幡書店版:
第3輯 220頁
修補版:
校定版:
175頁
普及版:
80頁
初版:
ページ備考:
001
弥次彦
(
やじひこ
)
、
002
勝彦
(
かつひこ
)
、
003
与太彦
(
よたひこ
)
、
004
六公
(
ろくこう
)
の
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
谷間
(
たにま
)
を
這
(
は
)
ひ
上
(
あが
)
り、
005
漸
(
やうや
)
くにして
小鹿山
(
こしかやま
)
峠
(
たうげ
)
の
坂道
(
さかみち
)
に
着
(
つ
)
いた。
006
弥
(
や
)
『ヤア
此処
(
ここ
)
が
芝居
(
しばゐ
)
の
序幕
(
じよまく
)
を
演
(
えん
)
じたところだ。
007
随分
(
ずゐぶん
)
風
(
かぜ
)
の
神
(
かみ
)
の
奴
(
やつ
)
、
008
豪
(
えら
)
い
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
はしよつたものだ』
009
六
(
ろく
)
『
貴方達
(
あなたがた
)
は
羽織
(
はおり
)
を
三
(
さん
)
枚
(
まい
)
着
(
き
)
て、
010
而
(
しか
)
も
上
(
うへ
)
に
着
(
き
)
るものを
下
(
した
)
に
穿
(
は
)
いたりするものだから、
011
アンナ
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
ふたのですよ』
012
弥
(
や
)
『
夫
(
それ
)
でも
上下
(
うへした
)
揃
(
そろ
)
ふて
世
(
よ
)
を
治
(
をさ
)
めるぞよと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
仰有
(
おつしや
)
るのだ。
013
而
(
しか
)
も
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
から
頂戴
(
ちやうだい
)
した
結構
(
けつこう
)
なお
召物
(
めしもの
)
を
着
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
るのに、
014
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
罰
(
ばち
)
を
当
(
あ
)
てると
云
(
い
)
ふ
筈
(
はず
)
もあるまい』
015
六
(
ろく
)
『それでも
羽織
(
はおり
)
を
袴
(
はかま
)
に
穿
(
は
)
くと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は、
016
些
(
ち
)
と
考
(
かんが
)
へものですなア』
017
弥
(
や
)
『さうだと
云
(
い
)
つて、
018
裸体
(
らたい
)
で
道中
(
だうちう
)
もなるまいし、
019
仕方
(
しかた
)
がない
哩
(
わい
)
』
020
六
(
ろく
)
『
此
(
この
)
峠
(
たうげ
)
は、
021
時々
(
ときどき
)
レコード
破
(
やぶ
)
りの
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
きますから、
022
随分
(
ずゐぶん
)
気
(
き
)
をつけて
往
(
ゆ
)
かずばなりますまい。
023
この
坂
(
さか
)
を
下
(
くだ
)
ると
次
(
つぎ
)
は
十九
(
じふく
)
番目
(
ばんめ
)
の
大峠
(
おほたうげ
)
です、
024
その
峠
(
たうげ
)
までに
二三
(
にさん
)
里
(
り
)
も
展開
(
てんかい
)
した
曠野
(
くわうや
)
があつて、
025
其処
(
そこ
)
には
沢山
(
たくさん
)
の
人家
(
じんか
)
も
立
(
た
)
ち
並
(
なら
)
んで
居
(
ゐ
)
ます。
026
そこまで
往
(
い
)
つて
一服
(
いつぷく
)
しませうか』
027
弥
(
や
)
『さうしませうよ、
028
併
(
しか
)
しながらコンナ
風
(
ふう
)
をして、
029
沢山
(
たくさん
)
な
人
(
ひと
)
の
居
(
ゐ
)
る
処
(
ところ
)
を
通
(
とほ
)
るのも
変
(
へん
)
なものだ。
030
何
(
なん
)
とか
工夫
(
くふう
)
はあるまいか』
031
六
(
ろく
)
『ヤア
私
(
わたくし
)
はお
伴
(
とも
)
、
032
貴方
(
あなた
)
は
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
だ、
033
何
(
ど
)
うでせう、
034
私
(
わたくし
)
の
着物
(
きもの
)
と
取
(
と
)
つ
換
(
か
)
へつこをして
村落
(
そんらく
)
を
通
(
とほ
)
る
事
(
こと
)
にしましたら』
035
弥
(
や
)
『さう
願
(
ねが
)
へれば
結構
(
けつこう
)
だ。
036
アヽ
六公
(
ろくこう
)
、
037
早
(
はや
)
裸体
(
らたい
)
となつたのかい、
038
何
(
なん
)
と
気
(
き
)
の
早
(
はや
)
い
男
(
をとこ
)
だなア』
039
六
(
ろく
)
『
鶴
(
つる
)
の
一声
(
ひとこゑ
)
言行
(
げんかう
)
一度
(
いちど
)
に
一致
(
いつち
)
と
云
(
い
)
ふやり
方
(
かた
)
です、
040
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
ゐ
)
て
水
(
みづ
)
を
注
(
さ
)
されると
約
(
つま
)
りませぬからなア、
041
アハヽヽヽ』
042
茲
(
ここ
)
に
弥次彦
(
やじひこ
)
は
六公
(
ろくこう
)
の
衣服
(
いふく
)
と
着換
(
きか
)
へ、
043
六公
(
ろくこう
)
は
羽織
(
はおり
)
三
(
さん
)
枚
(
まい
)
を
袴
(
はかま
)
並
(
なみ
)
に
前後
(
まへうしろ
)
に
着
(
き
)
ながら、
044
蔓
(
つる
)
の
帯
(
おび
)
を
堅
(
かた
)
く
瓢箪
(
へうたん
)
のやうに
腰
(
こし
)
に
縛
(
くく
)
り、
045
六
(
ろく
)
『サアこれで
千
(
せん
)
両
(
りやう
)
役者
(
やくしや
)
の
早替
(
はやが
)
はりだ、
046
しかし
役者
(
やくしや
)
だと
云
(
い
)
ふても、
047
もう
芝居
(
しばゐ
)
はやめですよ、
048
サア
往
(
ゆ
)
きませうかい』
049
と、
050
ドンドンと
下
(
くだ
)
り
坂
(
ざか
)
を
走
(
はし
)
つて
往
(
ゆ
)
く。
051
漸
(
やうや
)
くにして
麓
(
ふもと
)
の
村落
(
そんらく
)
に
着
(
つ
)
いた。
052
勝
(
かつ
)
『
大分
(
だいぶ
)
に
腹
(
はら
)
の
虫
(
むし
)
が
空虚
(
くうきよ
)
を
訴
(
うつた
)
へて
来
(
き
)
だした、
053
何処
(
どこ
)
ぞ
此辺
(
ここら
)
に
飲食店
(
いんしよくてん
)
でもあれば
這入
(
はい
)
つて
腹
(
はら
)
を
拵
(
こしら
)
へたいものだなア』
054
弥
(
や
)
、
055
与
(
よ
)
『サアさうお
誂
(
あつら
)
へ
向
(
むき
)
に
出来
(
でき
)
て
居
(
を
)
れば、
056
結構
(
けつこう
)
だが』
057
六
(
ろく
)
『イヤ、
058
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
御
(
ご
)
無用
(
むよう
)
、
059
些
(
すこ
)
し
先
(
さき
)
に
往
(
ゆ
)
きますと、
060
松屋
(
まつや
)
と
云
(
い
)
つて、
061
一寸
(
ちよつと
)
した
飲食店
(
いんしよくてん
)
があります、
062
其処
(
そこ
)
には
別嬪
(
べつぴん
)
も
居
(
を
)
りますぜ』
063
与
(
よ
)
『
夫
(
それ
)
は
豪気
(
がうき
)
だ、
064
ともかく
其処迄
(
そこまで
)
もう
一息
(
ひといき
)
だ。
065
何
(
なん
)
だか
俄
(
にはか
)
に
元気
(
げんき
)
が
付
(
つ
)
いた』
066
と
云
(
い
)
ひつつ
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
速度
(
そくど
)
を
速
(
はや
)
めて
駆出
(
かけだ
)
した。
067
弥
(
や
)
『ヤア
此処
(
ここ
)
が
松屋
(
まつや
)
だ。
068
いよいよ
目的
(
もくてき
)
地点
(
ちてん
)
に
無事
(
ぶじ
)
御
(
ご
)
到着
(
たうちやく
)
か、
069
アハヽヽヽ、
070
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶり
)
で
弁才天
(
べんざいてん
)
の
拝観
(
はいくわん
)
も
出来
(
でき
)
ると
云
(
い
)
ふものだ』
071
弥
(
や
)
[
※
御校正本でも「弥」になっているが弥次彦のセリフが二つ続くのはおかしい。そもそも「弁才天の拝観も出来る」と言っておきながらすぐに「弁才天はどうでも好い」と否定するのはおかしい。このセリフは勝彦か与太彦の間違いであろう。以降のセリフを考えると、おそらく与太彦のセリフであろう。
]
『
弁才天
(
べんざいてん
)
はどうでも
好
(
よ
)
い、
072
早
(
はや
)
く
御
(
お
)
飯
(
まんま
)
に
有
(
あ
)
りつきたい
哩
(
わい
)
、
073
もう
斯
(
こ
)
うなれば
色気
(
いろけ
)
より
食気
(
くひけ
)
だ』
074
松屋
(
まつや
)
の
門口
(
かどぐち
)
に
一人
(
ひとり
)
の
下女
(
げぢよ
)
立
(
た
)
ち
現
(
あら
)
はれ、
075
下女
(
げぢよ
)
『モシモシ、
076
お
客
(
きやく
)
サン、
077
コーカス
詣
(
まゐ
)
りですか、
078
随分
(
ずゐぶん
)
強
(
きつ
)
い
坂
(
さか
)
でお
草臥
(
くたび
)
れでせう、
079
何卒
(
どうぞ
)
一
(
ひと
)
つお
茶
(
ちや
)
でも
飲
(
の
)
んで
一服
(
いつぷく
)
してお
出
(
いで
)
なされませ』
080
与
(
よ
)
『
云
(
い
)
ふにや
及
(
およ
)
ぶ、
081
吾々
(
われわれ
)
一行
(
いつかう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
松屋
(
まつや
)
をさして
休息
(
きうそく
)
の
予定
(
よてい
)
でお
越
(
こ
)
し
遊
(
あそ
)
ばしたのだ。
082
一服
(
いつぷく
)
してやらう、
083
ナンゾ、
084
小美味
(
こうまい
)
ものは
無
(
な
)
いか』
085
下女
(
げぢよ
)
お
竹
(
たけ
)
『ハイハイ、
086
何
(
なん
)
でも
御座
(
ござ
)
います。
087
お
望
(
のぞ
)
み
次第
(
しだい
)
お
金
(
かね
)
次第
(
しだい
)
です』
088
与
(
よ
)
『チエツ、
089
直
(
すぐ
)
に
之
(
これ
)
だから
嫌
(
いや
)
になつて
仕舞
(
しま
)
ふ、
090
お
銭
(
かね
)
お
銭
(
かね
)
と
何
(
なん
)
だ。
091
矢張
(
やつぱり
)
ウラル
教
(
けう
)
の
空気
(
くうき
)
が
漂
(
ただよ
)
ふてゐるな、
092
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
い
哩
(
わい
)
、
093
腹
(
はら
)
が
減
(
へ
)
つては
戦
(
いくさ
)
が
出来
(
でき
)
ないから』
094
と
云
(
い
)
つて
与太彦
(
よたひこ
)
は
先
(
さき
)
にたち
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
む。
095
下女
(
げぢよ
)
『マア、
096
マア、
097
お
二人
(
ふたり
)
のお
方
(
かた
)
、
098
ホヽヽヽヽ、
099
妙
(
めう
)
な
風
(
ふう
)
をなさいまして』
100
与
(
よ
)
『
妙
(
めう
)
な
風
(
ふう
)
でも
何
(
なん
)
でもお
前
(
まへ
)
に
惚
(
ほ
)
れて
呉
(
く
)
れと
云
(
い
)
いやしないし、
101
着物
(
きもの
)
を
貸
(
か
)
して
呉
(
く
)
れとも
云
(
い
)
やしないから、
102
いらぬ
口
(
くち
)
を
叩
(
たた
)
くな、
103
早
(
はや
)
く
小美味
(
こうまい
)
ものを
出
(
だ
)
さぬかい』
104
奥
(
おく
)
の
方
(
はう
)
から
中年増
(
ちうどしま
)
の
婆
(
ば
)
アサンが、
105
ヒヨコヒヨコとやつて
来
(
き
)
て、
106
婆
(
ばば
)
『アヽこれはこれはお
客様
(
きやくさま
)
、
107
よう
一服
(
いつぷく
)
して
下
(
くだ
)
さいました。
108
何
(
なん
)
なと
御
(
ご
)
註文
(
ちゆうもん
)
次第
(
しだい
)
、
109
仰有
(
おつしや
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
110
六
(
ろく
)
『
牡丹餅
(
ぼたもち
)
は
無
(
な
)
いかなア』
111
婆
(
ばば
)
『ヘエヘエ、
112
御座
(
ござ
)
います、
113
お
彼岸
(
ひがん
)
の
牡丹餅
(
ぼたもち
)
を
今
(
いま
)
拵
(
こしら
)
へた
処
(
ところ
)
。
114
ヌクヌクのホコホコの、
115
手
(
て
)
から
漏
(
も
)
るやうなのが、
116
沢山
(
たくさん
)
に
握
(
にぎ
)
つてあります』
117
弥
(
や
)
『
初
(
はじめ
)
に
握
(
にぎ
)
つた
奴
(
やつ
)
は
真黒
(
まつくろ
)
けと
違
(
ちが
)
ふかね』
118
婆
(
ばば
)
『
滅相
(
めつさう
)
な、
119
清
(
きよ
)
めた
上
(
うへ
)
にも
清
(
きよ
)
めた、
120
清潔
(
きれい
)
な
牡丹餅
(
ぼたもち
)
です。
121
牡丹餅
(
ぼたもち
)
の
嫌
(
きら
)
ひなお
方
(
かた
)
は
此処
(
ここ
)
に
握
(
にぎ
)
り
飯
(
まま
)
がございます。
122
貴方達
(
あなたがた
)
は
遠方
(
ゑんぱう
)
の
方
(
かた
)
と
見
(
み
)
えますが、
123
随分
(
ずゐぶん
)
お
足
(
あし
)
の
達者
(
たつしや
)
なお
方
(
かた
)
らしい、
124
恰
(
まる
)
で
牡丹餅
(
ぼたもち
)
のやうな
健脚家
(
けんきやくか
)
だ。
125
毎日
(
まいにち
)
コーカス
詣
(
まゐ
)
りの
道者
(
だうしや
)
が
通
(
とほ
)
られますが、
126
牡丹餅
(
ぼたもち
)
のお
客
(
きやく
)
は
少
(
すくな
)
い、
127
握飯
(
にぎりめし
)
が
随分
(
ずゐぶん
)
多
(
おほ
)
いやうですワ。
128
オホヽヽヽ』
129
弥
(
や
)
『
婆
(
ば
)
アサン、
130
牡丹餅
(
ぼたもち
)
のお
客
(
きやく
)
だとか、
131
握飯
(
にぎりめし
)
のお
客
(
きやく
)
だとか、
132
それや
一体
(
いつたい
)
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だい。
133
俺
(
おれ
)
の
顔
(
かほ
)
が
牡丹餅
(
ぼたもち
)
のやうな
不恰好
(
ぶかつかう
)
だと
云
(
い
)
ふて
嘲弄
(
てうろう
)
するのだな』
134
婆
(
ばば
)
『オホヽヽヽ、
135
夫
(
それ
)
は
譬
(
たとへ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
136
握飯
(
にぎりめし
)
は
丸
(
まる
)
い、
137
牡丹餅
(
ぼたもち
)
は
一寸
(
ちよつと
)
角
(
かど
)
が
立
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
138
或時
(
あるとき
)
に
握飯
(
にぎりめし
)
と
牡丹餅
(
ぼたもち
)
とがマラソン
競争
(
きやうさう
)
をやりました。
139
さうしたところが、
140
丸
(
まる
)
い
方
(
はう
)
の
握飯
(
にぎりめし
)
が
勝
(
か
)
たねばならぬ
筈
(
はず
)
だのに、
141
中途
(
ちうと
)
で
平太張
(
へたば
)
つて
仕舞
(
しま
)
つて、
142
牡丹餅
(
ぼたもち
)
はとうとう
決勝点
(
けつしようてん
)
まで
安着
(
あんちやく
)
されて
名誉
(
めいよ
)
の
優勝旗
(
いうしようき
)
が
手
(
て
)
に
入
(
はい
)
りました。
143
そこで
饅頭
(
まんじう
)
がやつて
来
(
き
)
て、
144
牡丹餅
(
ぼたもち
)
よ、
145
お
前
(
まへ
)
は
一寸
(
ちよつと
)
見
(
み
)
てもぼたぼたして
足
(
あし
)
が
遅
(
おそ
)
いと
思
(
おも
)
つたに、
146
勝利
(
しようり
)
を
得
(
え
)
たのは
何
(
ど
)
うした
訳
(
わけ
)
かと
尋
(
たづ
)
ねよりたら、
147
牡丹餅
(
ぼたもち
)
が
云
(
い
)
ふには、
148
私
(
わたくし
)
は
あづき
つけとるから
道中
(
だうちう
)
は
安心
(
あんしん
)
だと、
149
オホヽヽヽ
[
※
小豆の赤い色には魔除けの効果があるという言い伝えがあるので、それで「安心だ」と洒落ているのではないか?
]
』
150
弥
(
や
)
『ナアーンダイ、
151
この
腹
(
はら
)
の
空
(
す
)
いとるのに
落
(
おと
)
し
話
(
ばなし
)
をしよつて、
152
気楽
(
きらく
)
な
婆
(
ば
)
アサンだなア』
153
婆
(
ばば
)
『コンナ
話
(
はな
)
しでもして、
154
お
客
(
きやく
)
サンを
誑
(
たら
)
かし
暇
(
ひま
)
を
入
(
い
)
れて
腹
(
はら
)
を
空
(
す
)
かし、
155
その
間
(
あひだ
)
に
牡丹餅
(
ぼたもち
)
を
炊
(
た
)
いて
進
(
しん
)
ぜると
云
(
い
)
ふ
此方
(
こなた
)
の
考
(
かんが
)
へ、
156
もう
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さい、
157
今
(
いま
)
飯
(
めし
)
が
噴
(
ふ
)
いて
居
(
を
)
ります、
158
直
(
すぐ
)
に
小豆
(
あづき
)
の
衣
(
ころも
)
を
着
(
き
)
せて、
159
どつさり
食
(
く
)
つて
貰
(
もら
)
ひます』
160
与
(
よ
)
『ヤアヤア
牡丹餅
(
ぼたもち
)
と
聞
(
き
)
けば、
161
俄
(
にはか
)
に
咽喉
(
のど
)
の
虫
(
むし
)
がグウグウと
催促
(
さいそく
)
をし
出
(
だ
)
した。
162
何
(
なん
)
でもよいから
手早
(
てばや
)
くやつて
下
(
くだ
)
さい』
163
弥
(
や
)
『オイ
与太公
(
よたこう
)
、
164
此処
(
ここ
)
には
素敵
(
すてき
)
な
別嬪
(
べつぴん
)
の
娘
(
むすめ
)
があるぢやないか、
165
貴様
(
きさま
)
は
何
(
ど
)
うだ。
166
思召
(
おぼしめし
)
は
無
(
な
)
いか』
167
与
(
よ
)
『どうだ、
168
女子
(
ぢよし
)
を
国有
(
こくいう
)
にして
居
(
を
)
る
国
(
くに
)
さへもあるのだから、
169
吾々
(
われわれ
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
が
何
(
なん
)
とかして
四国
(
しこく
)
協調
(
けふてう
)
の
結果
(
けつくわ
)
彼奴
(
あいつ
)
を
国有
(
こくいう
)
にしたらどうだ。
170
毎晩
(
まいばん
)
交代
(
かうたい
)
にあの
尤物
(
いうぶつ
)
をエンプレスして
楽
(
たのし
)
まうぢやないか』
171
勝
(
かつ
)
『ソンナ エンプレスと
云
(
い
)
ふやうな
事
(
こと
)
をやると
此処
(
ここ
)
の
人気娘
(
にんきむすめ
)
を、
172
此
(
この
)
村
(
むら
)
の
誇
(
ほこ
)
りとして
居
(
ゐ
)
るのだから、
173
貴様
(
きさま
)
は
村民
(
そんみん
)
の
怨府
(
えんぷ
)
となるかも
知
(
し
)
れないぞ。
174
とは
云
(
い
)
ふものの
縦
(
たて
)
から
見
(
み
)
ても
横
(
よこ
)
から
見
(
み
)
ても、
175
三十三
(
さんじふさん
)
相
(
さう
)
具備
(
ぐび
)
したあななし
姫
(
ひめ
)
だ。
176
男
(
をとこ
)
と
生
(
うま
)
れた
甲斐
(
かひ
)
には
切
(
せ
)
めて
一遍
(
いつぺん
)
位
(
くらゐ
)
はエンプレスをやつて
見
(
み
)
たいやうな
気
(
き
)
もせぬでは
無
(
な
)
いが、
177
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふても
厳
(
いか
)
めしい
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
だから、
178
どうする
事
(
こと
)
も
出来
(
でき
)
やしない、
179
宝
(
たから
)
の
山
(
やま
)
に
入
(
はい
)
つて
裸体
(
らたい
)
で
帰
(
かへ
)
るやうな
心持
(
こころもち
)
がする
哩
(
わい
)
』
180
婆
(
ばば
)
『サアサア
皆
(
みな
)
サン、
181
牡丹餅
(
ぼたもち
)
が
出来
(
でき
)
た、
182
お
上
(
あが
)
りなさいませ』
183
与
(
よ
)
『これはこれは
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います、
184
マア
悠
(
ゆつ
)
くりと
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
しませう』
185
婆
(
ばば
)
『サア
私
(
わたくし
)
がついで
上
(
あ
)
げませう』
186
与
(
よ
)
『ヘイ、
187
ヘイ、
188
ヘイ、
189
アヽ、
190
それは
結構
(
けつこう
)
ですが、
191
同
(
おな
)
じ
事
(
こと
)
ならあのそれ、
192
お
梅
(
うめ
)
[
※
お竹の誤字か? 御校正本・校定版・愛世版いずれも「お梅」になっている。
]
サンによそつて
貰
(
もら
)
へば
一入
(
ひとしほ
)
、
193
美味
(
おいし
)
いやうな
気
(
き
)
が
致
(
いた
)
します
哩
(
わい
)
』
194
婆
(
ばば
)
『ホヽヽヽヽ、
195
貴方
(
あなた
)
もよほど
苦労人
(
くらうにん
)
と
見
(
み
)
える
哩
(
わい
)
、
196
渋皮
(
しぶかは
)
のやうなお
手
(
て
)
で、
197
牡丹餅
(
ぼたもち
)
を
盛
(
も
)
つて
上
(
あ
)
げても、
198
お
気
(
き
)
に
召
(
め
)
しますまい、
199
私
(
わたくし
)
が
盛
(
も
)
るのがお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らねば、
200
もう
牡丹餅
(
ぼたもち
)
は
食
(
た
)
べて
貰
(
もら
)
ふ
事
(
こと
)
は
真平
(
まつぴら
)
御免
(
ごめん
)
蒙
(
かうむ
)
ります』
201
弥
(
や
)
『マア、
202
マア、
203
マア
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さい、
204
これは
冗談
(
じやうだん
)
ですよ、
205
さう
真
(
ま
)
に
受
(
う
)
けて
貰
(
もら
)
つては
困
(
こま
)
ります』
206
婆
(
ばば
)
『
冗談
(
じやうだん
)
から
暇
(
ひま
)
が
出
(
で
)
る。
207
瓢箪
(
へうたん
)
から
駒
(
こま
)
が
出
(
で
)
る。
208
青瓢箪
(
あをべうたん
)
の
黒焦
(
くろこげ
)
のやうな
顔
(
かほ
)
をして
年寄
(
としより
)
が
気
(
き
)
に
入
(
い
)
らないの、
209
スツポンのと、
210
それやお
前
(
まへ
)
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
211
さう
老人
(
としより
)
を
見下
(
みさ
)
げたものぢやない、
212
人間
(
にんげん
)
は
年
(
とし
)
をとつて
苔
(
こけ
)
がついて
来
(
く
)
る
程
(
ほど
)
値
(
ねうち
)
が
出来
(
でき
)
るのだよ』
213
勝
(
かつ
)
『
左様
(
さやう
)
左様
(
さやう
)
、
214
御尤
(
ごもつと
)
もだ』
215
婆
(
ばば
)
『ソンナら
勝手
(
かつて
)
に
取
(
と
)
つて
食
(
く
)
ひなさい』
216
と
婆
(
ば
)
アサンはむつとした
顔
(
かほ
)
をして
奥
(
おく
)
に
入
(
い
)
る。
217
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
熊手
(
くまで
)
のやうな
手
(
て
)
を
出
(
だ
)
して、
218
餓虎
(
がこ
)
のやうに、
219
グイグイと
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
み、
220
四
(
よ
)
人
(
にん
)
『ヨー
美味
(
うま
)
い、
221
コンナ
美味
(
おいし
)
い
牡丹餅
(
ぼたもち
)
は、
222
臍
(
へそ
)
の
緒
(
を
)
切
(
き
)
つてから
食
(
く
)
つた
事
(
こと
)
がないワイ。
223
コンナ
奴
(
やつ
)
なら、
224
一遍
(
いつぺん
)
に
腹
(
はら
)
が
弾
(
はぢ
)
けても
構
(
かま
)
はぬ、
225
百
(
ひやく
)
でも
二百
(
にひやく
)
でも
咽喉
(
のど
)
の
虫
(
むし
)
が
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
と
云
(
い
)
ふて
辷
(
すべ
)
り
込
(
こ
)
んで
仕舞
(
しま
)
ふやうだ』
226
と
堆高
(
うづたか
)
く
積
(
つ
)
んであつた
沢山
(
たくさん
)
の
牡丹餅
(
ぼたもち
)
を
一息
(
ひといき
)
に
平
(
たひら
)
げてしまつた。
227
下女
(
げぢよ
)
のお
竹
(
たけ
)
『お
客
(
きやく
)
サン、
228
よういけましたなア、
229
お
米
(
こめ
)
の
相場
(
さうば
)
が
狂
(
くる
)
ひますぜ、
230
お
代
(
かは
)
りはどうです』
231
与
(
よ
)
『
餅屋
(
もちや
)
の
喧嘩
(
けんくわ
)
で、
232
餅論
(
もちろん
)
だ。
233
早
(
はや
)
く
出
(
だ
)
したり
出
(
だ
)
したり』
234
お
竹
(
たけ
)
『マアマアお
客
(
きやく
)
サン、
235
貴方達
(
あなたがた
)
は
閂
(
かんぬき
)
の
向
(
むか
)
ふに
居
(
を
)
る、
236
角
(
つの
)
の
生
(
は
)
えたお
方
(
かた
)
のやうな
方
(
かた
)
ですなア、
237
モウ モウ モウ
呆
(
あき
)
れましたよ』
238
弥
(
や
)
『
何
(
ど
)
うでもよい、
239
早
(
はや
)
く
出
(
だ
)
して
貰
(
もら
)
はうかい、
240
腹
(
はら
)
の
虫
(
むし
)
は
得心
(
とくしん
)
したやうだが、
241
未
(
ま
)
だ
舌
(
した
)
と
眼
(
め
)
とが
羨望
(
せんばう
)
の
念
(
ねん
)
に
駆
(
か
)
られて
居
(
ゐ
)
るやうだ。
242
同
(
おな
)
じ
一
(
ひと
)
つの
体
(
からだ
)
だ、
243
腹
(
はら
)
ばかり
可愛
(
かあい
)
がつて、
244
眼
(
め
)
と
舌
(
した
)
とを
埒外
(
らちぐわい
)
に
放
(
ほ
)
り
出
(
だ
)
すと
云
(
い
)
ふのも、
245
吾々
(
われわれ
)
宣伝使
(
せんでんし
)
として
情
(
なさけ
)
を
弁
(
わきま
)
へぬと
云
(
い
)
ふものだ。
246
アハヽヽヽ』
247
お
竹
(
たけ
)
『サアサア、
248
お
代
(
かは
)
りが
出来
(
でき
)
ました。
249
悠
(
ゆつ
)
くりお
食
(
あが
)
りなさいませ』
250
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
又
(
また
)
もや
一斉
(
いつせい
)
に
二膳
(
にぜん
)
片箸
(
かたはし
)
の
同盟軍
(
どうめいぐん
)
を
作
(
つく
)
つて、
251
複縦陣
(
ふくじうぢん
)
の
備
(
そな
)
へを
取
(
と
)
り、
252
爆弾
(
ばくだん
)
のやうな
牡丹餅
(
ぼたもち
)
を
又
(
また
)
もやパクつき
始
(
はじ
)
めた。
253
与
(
よ
)
『オイお
竹
(
たけ
)
サン、
254
馬鹿
(
ばか
)
にするない、
255
見本
(
みほん
)
は
美味
(
うま
)
い
奴
(
やつ
)
を
出
(
だ
)
しよつて、
256
これは
大変
(
たいへん
)
味
(
あぢ
)
が
悪
(
わる
)
いぢやないか、
257
一番
(
いちばん
)
先
(
さき
)
に
出
(
だ
)
したやうな
奴
(
やつ
)
を
出
(
だ
)
して
呉
(
く
)
れないかい、
258
上皮
(
うはかは
)
の
方
(
はう
)
には
甘
(
うま
)
い
奴
(
やつ
)
を
並
(
なら
)
べよつて、
259
下
(
した
)
になる
程
(
ほど
)
不味
(
まづ
)
い
牡丹餅
(
ぼたもち
)
を
並
(
なら
)
べといたつて、
260
俺
(
おれ
)
の
舌
(
した
)
がよく
御存
(
ごぞん
)
じだぞ』
261
お
竹
(
たけ
)
『それや
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのぢや、
262
美味
(
うま
)
いも
不味
(
まづい
)
もあつたものか、
263
皆
(
みな
)
同
(
おな
)
じ
味
(
あぢ
)
に
造
(
つく
)
つてあるのですよ、
264
お
前
(
まへ
)
サン
腹
(
はら
)
の
空
(
へ
)
つた
時
(
とき
)
に
食
(
く
)
つたから
美味
(
うま
)
かつたのだ。
265
腹
(
はら
)
が
膨
(
ふく
)
れてから
何
(
なに
)
を
食
(
く
)
つたからつて
美味
(
うま
)
い
事
(
こと
)
はありやしない。
266
ソンナ
小言
(
こごと
)
を
云
(
い
)
ふのなら、
267
食
(
く
)
ふだけの
権利
(
けんり
)
がない、
268
食物
(
しよくもつ
)
の
味
(
あぢ
)
に
対
(
たい
)
しては
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ながら
神経
(
しんけい
)
麻痺
(
まひ
)
だ。
269
サアサア
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
食
(
く
)
つたらお
銭
(
あし
)
をお
払
(
はら
)
ひなさい』
270
六
(
ろく
)
(
懐中
(
くわいちう
)
より)『それ、
271
お
剰金
(
つり
)
は
要
(
い
)
らないぞ、
272
後
(
あと
)
はお
前
(
まへ
)
の
小遣
(
こづか
)
ひだ』
273
お
竹
(
たけ
)
『
大
(
おほ
)
きに
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
いました』
274
と
顔
(
かほ
)
を
見上
(
みあ
)
ぐる
途端
(
とたん
)
に、
275
お竹
『ヤアお
前
(
まへ
)
は
六
(
ろく
)
サンだつたかい』
276
と
転
(
ころ
)
げるやうにして
裏口
(
うらぐち
)
をさして
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
して
仕舞
(
しま
)
つた。
277
与
(
よ
)
『オイ
六
(
ろく
)
、
278
貴様
(
きさま
)
は
罪
(
つみ
)
の
深
(
ふか
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
279
何
(
なに
)
か
之
(
これ
)
には
秘密
(
ひみつ
)
が
籠
(
こも
)
つて
居
(
ゐ
)
るだらう、
280
それだから
松屋
(
まつや
)
に
寄
(
よ
)
らう
寄
(
よ
)
らうと
云
(
い
)
ひよつたのだなア、
281
酢
(
す
)
でも
蒟蒻
(
こんにやく
)
でも
行
(
ゆ
)
かぬ
奴
(
やつ
)
だ。
282
お
目出度
(
めでた
)
い
処
(
ところ
)
を
見
(
み
)
せつけよつて、
283
余
(
あま
)
り
馬鹿
(
ばか
)
にするない』
284
六公
『ヤア、
285
何
(
なん
)
でもよい、
286
退却
(
たいきやく
)
々々
(
たいきやく
)
』
287
と
羽織
(
はおり
)
の
袴
(
はかま
)
をバサバサと
穿
(
うが
)
ちながら、
288
一散
(
いつさん
)
に
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
した。
289
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
止
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず、
290
三人(弥次彦、与太彦、勝彦)
『オイ
六公
(
ろくこう
)
待
(
ま
)
つた』
291
六公
(
ろくこう
)
は
後
(
あと
)
振
(
ふ
)
り
向
(
む
)
き
乍
(
なが
)
ら、
292
六公
『マツたも
松屋
(
まつや
)
もあつたものかい、
293
マア、
294
一所
(
いつしよ
)
に
出
(
で
)
てこないかい』
295
と
息
(
いき
)
せき
切
(
き
)
つて
走
(
はし
)
り
出
(
だ
)
す。
296
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は、
297
三人
『あゝ
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
突発
(
とつぱつ
)
事件
(
じけん
)
だ。
298
仕方
(
しかた
)
がない、
299
ソンナラそろそろ
行
(
い
)
かうかい』
300
と
又
(
また
)
もや
牡丹餅
(
ぼたもち
)
腹
(
ばら
)
を
揺
(
ゆす
)
りながら、
301
六公
(
ろくこう
)
の
後
(
あと
)
を
追跡
(
つゐせき
)
する。
302
(
大正一一・三・二四
旧二・二六
加藤明子
録)
303
(昭和一〇・三・一五 於高雄港口官舎 王仁校正)
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