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第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
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天祥地瑞
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第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
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第77巻(辰の巻)
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第14巻(丑の巻)
序歌
信天翁(四)
凡例
総論歌
第1篇 五里夢中
01 三途川
〔551〕
02 銅木像
〔552〕
03 鷹彦還元
〔553〕
04 馬詈
〔554〕
05 風馬牛
〔555〕
第2篇 幽山霊水
06 楽隠居
〔556〕
07 難風
〔557〕
08 泥の川
〔558〕
09 空中滑走
〔559〕
第3篇 高加索詣
10 牡丹餅
〔560〕
11 河童の屁
〔561〕
12 復縁談
〔562〕
13 山上幽斎
〔563〕
14 一途川
〔564〕
15 丸木橋
〔565〕
16 返り咲
〔566〕
第4篇 五六七号
17 一寸一服
〔567〕
跋文
余白歌
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第一四章
一途川
(
いちづがは
)
〔五六四〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第14巻 如意宝珠 丑の巻
篇:
第3篇 高加索詣
よみ(新仮名遣い):
こーかすまいり
章:
第14章 一途川
よみ(新仮名遣い):
いちずがわ
通し章番号:
564
口述日:
1922(大正11)年03月25日(旧02月27日)
口述場所:
筆録者:
谷村真友
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年11月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
一行は小鹿峠の四十八坂を越えると、水勢轟々と流れる谷川に行き当たった。弥次彦は、コーカス山への参詣街道なのに、自分たち意外に人が一人も通っていないことを不審に思う。
勝公は、ここはまたもや幽界ではないかといぶかる。六公は、川べりの松の木の下に、小さな家を見つける。与太彦は、ふざけて一夜の宿を乞うこっけいな歌を歌う。
家の中から婆の声がするが、ここは三途の川ではなく、一途の川だと言う。婆は四人を家に招き入れた。
見れば一人の病人が伏せっており、中年増の婆さんが枕辺に座っている。婆は、常世姫のお台様が病気で寝ているのだ、という。そして自分は木常姫の生まれ変わりであり、二十坂上で弥次彦らに憑依して苦しめたのも自分だ、という。
婆は、天国に行こうとする者の魂を抜いて地獄に落とすために、偽日の出神、偽乙姫となって信者をたぶらかし、変性女子を困らせてやるのだ、という。
寝ていた婆も起き上がり、包丁を持って四人に襲い掛かる。四人は奮戦するが、ついに勝彦は包丁でぐさりと腰を刺された、と思うと、一行は二十五峠の谷間に、風に吹かれて気絶していたのであった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2020-12-31 16:52:15
OBC :
rm1414
愛善世界社版:
230頁
八幡書店版:
第3輯 243頁
修補版:
校定版:
238頁
普及版:
109頁
初版:
ページ備考:
001
小鹿峠
(
こしかたうげ
)
の
四十八
(
しじふや
)
坂
(
さか
)
をば、
002
一行
(
いつかう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
はやつと
打越
(
うちこ
)
え、
003
見渡
(
みわた
)
す
限
(
かぎ
)
り
茫々
(
ばうばう
)
たる
雑草
(
ざつさう
)
茂
(
しげ
)
る
広野原
(
ひろのはら
)
、
004
足
(
あし
)
にまかせて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
005
ピタリと
行当
(
ゆきあた
)
つた、
006
水勢
(
すゐせい
)
轟々
(
ぐわうぐわう
)
として
飛沫
(
ひまつ
)
を
飛
(
と
)
ばし、
007
渦
(
うづ
)
まき
流
(
なが
)
るる
谷川
(
たにがは
)
の
傍
(
かたはら
)
に
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
いた。
008
弥
(
や
)
『アヽ
吾々
(
われわれ
)
はやうやうにして、
009
小鹿峠
(
こしかたうげ
)
の
四十八
(
しじふや
)
坂
(
さか
)
を
越
(
こ
)
え、
010
此処
(
ここ
)
の
広野原
(
ひろのはら
)
を
一行
(
いつかう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
連
(
づ
)
れ、
011
てくついて
来
(
き
)
たが、
012
此処
(
ここ
)
にピタリと
行詰
(
ゆきつ
)
まつた、
013
偉
(
えら
)
い
川
(
かは
)
が
横
(
よこた
)
はつて
居
(
ゐ
)
るワイ。
014
これからフサの
都
(
みやこ
)
へ
渡
(
わた
)
り、
015
コーカス
山
(
ざん
)
に
行
(
ゆ
)
く
迄
(
まで
)
は、
016
随分
(
ずゐぶん
)
長
(
なが
)
い
道程
(
みちのり
)
だが、
017
それまでには
沢山
(
たくさん
)
の
難所
(
なんしよ
)
が
在
(
あ
)
るだらう。
018
それにしても
絡繹
(
らくえき
)
として
続
(
つづ
)
く
日々
(
ひび
)
の
老若
(
らうにやく
)
男女
(
なんによ
)
の
参詣者
(
さんけいしや
)
は、
019
一体
(
いつたい
)
何処
(
どこ
)
を
通
(
とほ
)
つて
行
(
ゆ
)
くのだらう。
020
この
頃
(
ごろ
)
街道
(
かいだう
)
は
雑沓
(
ざつたふ
)
だと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だのに、
021
吾々
(
われわれ
)
の
通過
(
つうくわ
)
する
処
(
ところ
)
は
人
(
ひと
)
の
子
(
こ
)
一匹
(
いつぴき
)
居
(
を
)
らぬぢやないか。
022
ナンデも
之
(
こ
)
れは
小鹿峠
(
こしかたうげ
)
の
下
(
くだ
)
り
終
(
しま
)
ひから
行手
(
ゆくて
)
に
踏
(
ふ
)
み
迷
(
まよ
)
ひ、
023
反対
(
はんたい
)
の
方向
(
はうかう
)
に
進
(
すす
)
んで
来
(
き
)
たのではあるまいかなア』
024
与
(
よ
)
『
何
(
なん
)
だか、
025
ご
気分
(
きぶん
)
の
冴
(
さ
)
えぬ
天候
(
てんこう
)
と
云
(
い
)
ひ
四辺
(
あたり
)
の
状況
(
じやうきやう
)
と
云
(
い
)
ひ、
026
まるで
幽界
(
いうかい
)
旅行
(
りよかう
)
の
様
(
やう
)
だ。
027
いつやら
谷底
(
たにそこ
)
に
落
(
お
)
ちて
魂
(
たましひ
)
が
宙
(
ちう
)
に
迷
(
まよ
)
ひ、
028
とうとう
六道
(
ろくだう
)
の
辻
(
つじ
)
まで
行
(
い
)
つて
銅木像
(
どうもくざう
)
に
逢
(
あ
)
つた
時
(
とき
)
の
様
(
やう
)
な
按配
(
あんばい
)
式
(
しき
)
だぞ。
029
どうやら
此
(
この
)
川
(
かは
)
も
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
兄弟分
(
きやうだいぶん
)
ぢやあるまいか、
030
何
(
なん
)
だか
変
(
へん
)
な
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
いて
来
(
く
)
るぞ。
031
アヽ
此奴
(
こいつ
)
は
不思議
(
ふしぎ
)
だ、
032
今
(
いま
)
の
今
(
いま
)
まで
泰然
(
たいぜん
)
自若
(
じじやく
)
乙
(
おつ
)
に
構
(
かま
)
へこみて
居
(
ゐ
)
た
山岳
(
さんがく
)
の
奴
(
やつ
)
、
033
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
何処
(
どこ
)
かへ
消
(
き
)
えて
仕舞
(
しま
)
ひよつた、
034
まるで
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
のやうな
按配
(
あんばい
)
式
(
しき
)
だ、
035
ナア
弥次彦
(
やじひこ
)
、
036
貴様
(
きさま
)
はどう
思
(
おも
)
ふか』
037
弥
(
や
)
『
吾々
(
われわれ
)
の
言霊
(
ことたま
)
の
御
(
ご
)
神力
(
しんりき
)
に
恐縮
(
きようしゆく
)
しよつて、
038
山
(
やま
)
の
奴
(
やつ
)
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げ
散
(
ち
)
りよつたなア。
039
随分
(
ずゐぶん
)
三五教
(
あななひけう
)
の
吾々
(
われわれ
)
は
豪勢
(
がうせい
)
なものだワイ』
040
勝
(
かつ
)
『オイ
此処
(
ここ
)
は
冥土
(
めいど
)
を
流
(
なが
)
るる
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
ぢやなからうかな。
041
何
(
なん
)
だか
娑婆
(
しやば
)
の
川
(
かは
)
に
比
(
くら
)
べて
調子
(
てうし
)
が
違
(
ちが
)
ふやうだ』
042
弥
(
や
)
『
調子
(
てうし
)
が
違
(
ちが
)
つたつて
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな、
043
この
弥次
(
やじ
)
サンはドンドンながらポンポンながら、
044
カンカンながら、
045
前後
(
ぜんご
)
〆
(
し
)
めて
弐回
(
にくわい
)
までも、
046
幽界
(
いうかい
)
探険
(
たんけん
)
の
実地
(
じつち
)
経験
(
けいけん
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
るお
兄
(
にい
)
サン。
047
最初
(
さいしよ
)
与太公
(
よたこう
)
と
遣
(
や
)
つて
来
(
き
)
た
時
(
とき
)
には、
048
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
は
実
(
じつ
)
に
綺麗
(
きれい
)
な
水
(
みづ
)
だつた、
049
それが
第二回
(
だいにくわい
)
目
(
め
)
に
来
(
き
)
た
時
(
とき
)
には
何
(
なん
)
とも
知
(
し
)
れぬ、
050
臭気
(
しうき
)
紛々
(
ふんぷん
)
たる
川風
(
かはかぜ
)
が
鼻
(
はな
)
を
突
(
つ
)
くやう、
051
小便
(
せうべん
)
大便
(
だいべん
)
黒血
(
くろち
)
鼻啖
(
はなたん
)
の
混合
(
こんがふ
)
したやうな、
052
汚
(
むさ
)
くるしい
物
(
もの
)
が
流水
(
りうすゐ
)
代用
(
だいよう
)
の
芸当
(
げいたう
)
を
静
(
しづ
)
かにやつて
居
(
ゐ
)
た。
053
その
時
(
とき
)
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
渡守
(
わたしもり
)
兼
(
けん
)
脱衣婆
(
だついばば
)
奴
(
め
)
が、
054
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
奴
(
やつ
)
が
汚
(
けが
)
れた
事
(
こと
)
をしをるから、
055
この
清
(
きよ
)
い
川
(
かは
)
がコンナに
汚
(
きたな
)
くなつたと
云
(
い
)
ひよつた。
056
どうせコンナ
汚
(
きたな
)
い
娑婆
(
しやば
)
が、
057
さう
俄
(
にはか
)
に
清潔
(
せいけつ
)
になるものぢやないから
矢張
(
やつぱり
)
冥土
(
めいど
)
にある
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
なら、
058
依然
(
いぜん
)
として
汚濁
(
をだく
)
の
水
(
みづ
)
が
永久
(
とこしへ
)
に
満
(
み
)
ち
流
(
なが
)
れて
居
(
ゐ
)
る
筈
(
はず
)
だ。
059
之
(
これ
)
はまた
素敵
(
すてき
)
滅法界
(
めつぽふかい
)
な
清流
(
せいりう
)
だ、
060
これを
思
(
おも
)
へば
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
とは、
061
どうしても
受取
(
うけと
)
れないワ』
062
六
(
ろく
)
『モシモシ
皆
(
みな
)
サン、
063
彼処
(
あすこ
)
の
枝振
(
えだぶり
)
の
洒落
(
しやれ
)
た
松
(
まつ
)
の
根許
(
ねもと
)
に
小
(
ちい
)
さい
家
(
いへ
)
が
現
(
あら
)
はれて
居
(
ゐ
)
るぢやありませぬか、
064
あれやきつと
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
の
本宅
(
ほんたく
)
かも
知
(
し
)
れませぬぜ』
065
弥
(
や
)
『ナーニ、
066
あれや
瓦葺
(
かはらぶき
)
だ。
067
婆
(
ばば
)
の
御
(
お
)
館
(
やかた
)
と
云
(
い
)
ふものは、
068
それはそれは
立派
(
りつぱ
)
なものだ。
069
どうしても
比較
(
ひかく
)
にはならない
黄金蔵
(
わうごんぐら
)
の
様
(
やう
)
だよ』
070
与
(
よ
)
『
黄金蔵
(
わうごんぐら
)
つて
何
(
なん
)
だい、
071
この
前
(
まへ
)
に
貴様
(
きさま
)
と
旅行
(
りよかう
)
した
時
(
とき
)
には
見
(
み
)
すぼらしい
雪隠
(
せんち
)
小屋
(
ごや
)
の
様
(
やう
)
な
庵
(
いほり
)
じやなかつたかい』
072
弥
(
や
)
『アハヽヽヽ、
073
頭
(
あたま
)
の
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
だナ、
074
雪隠
(
せんち
)
小屋
(
ごや
)
の
様
(
やう
)
だから、
075
当世流
(
たうせいりう
)
に
黄金蔵
(
わうごんぐら
)
と
言霊
(
ことたま
)
を
詔
(
の
)
り
直
(
なほ
)
したのだよ』
076
与
(
よ
)
『
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
しよるのだ、
077
然
(
しか
)
しどうも
臭
(
くさ
)
いぞ。
078
一
(
ひと
)
つドンナ
奴
(
やつ
)
が
居
(
を
)
るか
訪
(
おとな
)
ふて
見
(
み
)
やうかい』
079
弥
(
や
)
『マア
待
(
ま
)
て
一
(
ひと
)
つ
考
(
かんが
)
へものだ。
080
熟思
(
じゆくし
)
黙考
(
もくかう
)
の
余地
(
よち
)
は
十二分
(
じふにぶん
)
に
存
(
そん
)
する』
081
与
(
よ
)
『ヤア
構
(
かま
)
はぬ
当
(
あた
)
つて
砕
(
くだ
)
けだ。
082
一
(
ひと
)
つ
善
(
ぜん
)
か
悪
(
あく
)
か
虚
(
きよ
)
か
実
(
じつ
)
か
爺
(
ぢぢ
)
か
媼
(
ばば
)
か、
083
絶世
(
ぜつせい
)
の
美人
(
びじん
)
かおかめか、
084
検非
(
けび
)
違使
(
ゐし
)
の
別当
(
べつたう
)
与太衛門
(
よたゑもんの
)
尉
(
じやう
)
無手勝
(
むてかつ
)
公
(
こう
)
が
首実検
(
くびじつけん
)
に
及
(
およ
)
ばうかい』
085
弥
(
や
)
『アハヽヽ、
086
又
(
また
)
そろそろはつしやぎ
出
(
だ
)
したなア、
087
それほどはつしやぐと、
088
日輪
(
にちりん
)
様
(
さま
)
が
御
(
お
)
出
(
で
)
ましになつたら、
089
貴様
(
きさま
)
の
細腕
(
ほそうで
)
が
燻
(
くす
)
ぼつてしもうぞ』
090
与
(
よ
)
『
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
ふのだ、
091
燻
(
くすぼ
)
つて
来
(
き
)
たら、
092
この
川
(
かは
)
にザンブと
浸
(
つけ
)
れば
好
(
よ
)
いのだ。
093
採長
(
さいちやう
)
補短
(
ほたん
)
、
094
水欠
(
すゐけつ
)
水補
(
すゐほ
)
だ、
095
ソンナ
事
(
こと
)
に
心配
(
しんぱい
)
するな。
096
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
の
天地
(
てんち
)
を
跋渉
(
ばつせふ
)
する、
097
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
の
候補者
(
こうほしや
)
だ』
098
と
云
(
い
)
ひながら
小屋
(
こや
)
の
傍
(
かたはら
)
にツツと
立寄
(
たちよ
)
り
妙
(
めう
)
な
腰付
(
こしつ
)
きをして、
099
両手
(
りやうて
)
を
蟷螂
(
かまきり
)
の
様
(
やう
)
に
構
(
かま
)
へたまま
膝
(
ひざ
)
をくの
字
(
じ
)
に
曲
(
ま
)
げ、
100
尻
(
しり
)
を
振
(
ふ
)
りながら、
101
一軒屋
(
いつけんや
)
の
無双窓
(
むさうまど
)
を
覗
(
のぞ
)
き、
102
与太彦
『モウシモウシお
媼
(
ばあ
)
サン
103
一夜
(
いちや
)
の
宿
(
やど
)
を
願
(
ねが
)
ひます
104
それはお
易
(
やす
)
い
事
(
こと
)
ながら
105
これなる
部屋
(
へや
)
を
開
(
あ
)
けまいぞ
106
それは
誠
(
まこと
)
に
有難
(
ありがた
)
う
107
今宵
(
こよひ
)
は
此処
(
ここ
)
にゆつくりと
108
足
(
あし
)
を
伸
(
の
)
ばして
寝
(
ね
)
るであらう
109
お
婆
(
ばば
)
は
口
(
くち
)
を
尖
(
とが
)
らして
110
これなる
居間
(
ゐま
)
を
開
(
あ
)
けまいぞ
111
言
(
い
)
ひつつお
婆
(
ばば
)
は
谷川
(
たにがは
)
に
112
手桶
(
てをけ
)
をさげて
水
(
みづ
)
汲
(
く
)
みに
113
後
(
あと
)
に
与太彦
(
よたひこ
)
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
114
今
(
いま
)
なるお
婆
(
ばば
)
の
云
(
い
)
ふたには
115
これなる
部屋
(
へや
)
を
開
(
あ
)
けなとは
116
てつきりおむすの
添伏
(
そへぶ
)
しか
117
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ
開
(
あ
)
けて
見
(
み
)
よ
118
左手
(
ゆんで
)
に
襖
(
ふすま
)
カラリ
開
(
あ
)
け
119
つらつら
見
(
み
)
ればこは
如何
(
いか
)
に
120
あちらの
隅
(
すみ
)
には
手
(
てて
)
がある
121
こちらの
隅
(
すみ
)
には
足
(
あし
)
がある
122
今宵
(
こよひ
)
この
家
(
や
)
にとまりなば
123
手足
(
てあし
)
も
骨
(
ほね
)
もグダグダに
124
出刄
(
でば
)
で
料理
(
れう
)
つて
塩
(
しほ
)
つけて
125
おほかたお
婆
(
ばば
)
が
喰
(
く
)
ふであろ
126
これやたまらぬと
泡
(
あわ
)
を
吹
(
ふ
)
き
127
裏口
(
うらぐち
)
指
(
さ
)
して
尻
(
しり
)
からげ
128
スタコラヨイサノ、ドツコイシヨ
129
ドツコイサノエツサツサノ、エンサノサ
130
エツササノエササ、エササノサツサイ
131
アハヽヽヽ』
132
弥
(
や
)
『コラこの
大馬鹿
(
おほばか
)
、
133
何
(
なに
)
を
洒落
(
しやれ
)
るのだ、
134
此処
(
ここ
)
はどうやら
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
だぞ。
135
まごまごして
居
(
ゐ
)
ると
本当
(
ほんたう
)
に
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
が、
136
又
(
また
)
着物
(
きもの
)
をすつくり
取
(
と
)
り
上
(
あ
)
げて、
137
親譲
(
おやゆづ
)
りの
洋服
(
やうふく
)
まで
渡
(
わた
)
せと
吐
(
ぬか
)
しよるぞ、
138
君子
(
くんし
)
危
(
あやふ
)
きに
近
(
ちか
)
づかずだ、
139
早
(
はや
)
くこちらへ
逃
(
に
)
げてこぬかい』
140
与
(
よ
)
『エヽ
今回
(
こんくわい
)
も
前回
(
ぜんくわい
)
もあつたものかい、
141
カイツクカイのカイカイカイだ。
142
オーイ
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
、
143
先達
(
せんだつて
)
来
(
き
)
た
与太公
(
よたこう
)
が
又
(
また
)
来
(
き
)
たぞ。
144
モウ
何時
(
なんどき
)
ぢやと
思
(
おも
)
ふて
居
(
ゐ
)
るのだ、
145
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
起
(
お
)
きぬかい』
146
家
(
いへ
)
の
中
(
なか
)
より、
147
中婆
(
ちうばば
)
の
声
(
こゑ
)
として、
148
婆
(
ばば
)
『
誰
(
た
)
れぢや
誰
(
た
)
れぢや、
149
折角
(
せつかく
)
夜中
(
よなか
)
の
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
て
居
(
ゐ
)
るのに、
150
門口
(
かどぐち
)
であた
八釜
(
やかま
)
しい
吐
(
ぬか
)
す
奴
(
やつ
)
は
何奴
(
どいつ
)
ぢやい』
151
与
(
よ
)
『
誰
(
たれ
)
でもないワイ、
152
俺様
(
おれさま
)
ぢや』
153
婆
(
ばば
)
『
俺様
(
おれさま
)
と
言
(
い
)
つたつて
名
(
な
)
を
言
(
い
)
はな
分
(
わか
)
るかい、
154
貴様
(
きさま
)
も
智慧
(
ちゑ
)
の
足
(
た
)
らぬ
奴
(
やつ
)
ぢやなア、
155
目
(
め
)
に
見
(
み
)
えぬ
肝腎
(
かんじん
)
なものを
落
(
お
)
として
来
(
き
)
よつたと
見
(
み
)
えるワイ』
156
与
(
よ
)
『コラコラ
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
奴
(
め
)
、
157
何
(
なに
)
を
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
と
言
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだい。
158
早
(
はや
)
く
手水
(
てうづ
)
をつかつて
与太
(
よた
)
サンの
一行
(
いつかう
)
に、
159
渋茶
(
しぶちや
)
でも
汲
(
く
)
まないかい』
160
婆
(
ばば
)
『
八釜
(
やかま
)
しい
言
(
い
)
ふな、
161
病人
(
びやうにん
)
があるのに
病気
(
びやうき
)
に
障
(
さは
)
るワイ、
162
ゲン
の
悪
(
わる
)
いことを
言
(
い
)
ふて
呉
(
く
)
れな、
163
冥土
(
めいど
)
か
何
(
なん
)
ぞの
様
(
やう
)
に
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
ぢやのと、
164
此処
(
ここ
)
は
一途
(
いちづ
)
の
川
(
かは
)
ぢやぞ』
165
与
(
よ
)
『ヤア
時節柄
(
じせつがら
)
物価
(
ぶつか
)
下落
(
げらく
)
の
影響
(
えいきやう
)
を
受
(
う
)
けて、
166
ドツと
踏張
(
ふんば
)
りよつて
二途
(
にづ
)
を
引
(
ひ
)
き
下
(
さ
)
げたな、
167
サヽ
投
(
な
)
げ
売
(
う
)
り
投
(
な
)
げ
売
(
う
)
り、
168
只
(
ただ
)
より
安
(
やす
)
い
買
(
か
)
ふたり
買
(
か
)
ふたり。
169
このカリカリ
糖
(
たう
)
は
食
(
た
)
べれやおいしい、
170
食
(
く
)
や
美味
(
うま
)
い、
171
ボロリボロリと
歯
(
は
)
脆
(
もろ
)
うて
歯
(
は
)
につかぬ、
172
湿
(
しめ
)
る
例
(
ため
)
しもなし、
173
雨
(
あめ
)
が
降
(
ふ
)
つてもカーリカリだ、
174
アハヽヽヽ』
175
婆
(
ばば
)
『エヽー、
176
アタ
八釜
(
やかま
)
しい、
177
お
前
(
まへ
)
は
何処
(
どこ
)
の
奴乞食
(
どこじき
)
じや。
178
ソンナ
芸
(
げい
)
位
(
くら
)
いしたつて
一文
(
いちもん
)
もやらせぬぞよ』
179
与
(
よ
)
『
一門
(
いちもん
)
残
(
のこ
)
らず
討死
(
うちじに
)
と、
180
聞
(
き
)
く
悲
(
かな
)
しさは
嵯峨
(
さが
)
の
奥
(
おく
)
、
181
泣
(
な
)
いてばつかり
暮
(
くら
)
せしに、
182
一途
(
いちづ
)
の
川
(
かは
)
の
乞食
(
こじき
)
小屋
(
ごや
)
とやらに、
183
鬼婆
(
おにばば
)
がお
坐
(
は
)
しますと、
184
一行
(
いつかう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
手
(
て
)
に
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つて、
185
此処
(
ここ
)
まで
来
(
き
)
たのが
おみ
の
仇
(
あだ
)
、
186
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へばこの
与太
(
よた
)
は、
187
去年
(
きよねん
)
の
秋
(
あき
)
の
病気
(
わづらひ
)
に、
188
一層
(
いつそ
)
死
(
し
)
んでしもうたら、
189
斯
(
こ
)
うした
歎
(
なげ
)
きは
在
(
あ
)
るまいもの、
190
娑婆
(
しやば
)
塞
(
ふさ
)
ぎになるとは
知
(
し
)
りながら、
191
半時
(
はんとき
)
なりと
生
(
い
)
き
長
(
なが
)
らへたいと
思
(
おも
)
ふて
来
(
き
)
たのが
吾身
(
わがみ
)
の
仇
(
あだ
)
、
192
今
(
いま
)
の
思
(
おも
)
ひに
較
(
くら
)
ぶれば、
193
なぜに
三
(
さん
)
年
(
ねん
)
も
先
(
さき
)
にこの
川
(
かは
)
へ、
194
エーマ
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
死
(
し
)
ななんだであらう、
195
アヽヽヽチヤチヤ チヤン チヤン チヤン チヤン チヤぢや』
196
弥
(
や
)
『また
演劇
(
えんげき
)
気分
(
きぶん
)
になつて
居
(
ゐ
)
よるナ、
197
門附
(
かどつけ
)
芸者
(
げいしや
)
の
様
(
やう
)
な、
198
見
(
み
)
つともない。
199
洒落
(
しやれ
)
は
止
(
や
)
めたがよからうぞ』
200
婆
(
ばば
)
『
何処
(
どこ
)
の
奴乞食
(
どこじき
)
か
知
(
し
)
らぬが、
201
表
(
おもて
)
の
戸
(
と
)
をプリンと
押
(
お
)
して
這入
(
はい
)
つて
来
(
き
)
なさい。
202
田子
(
たご
)
の
宿
(
やど
)
で
飲
(
の
)
んだ
様
(
やう
)
な
小便茶
(
せうべんちや
)
なと
汲
(
く
)
んで
上
(
あ
)
げやうかい』
203
与
(
よ
)
『オイオイ
弥次公
(
やじこう
)
、
204
何
(
なに
)
を
怕々
(
おぢおぢ
)
して
居
(
ゐ
)
るのだ、
205
婆
(
ば
)
アサンが
結構
(
けつこう
)
な
茶
(
ちや
)
をヨンデやらうと
云
(
い
)
ふて
居
(
ゐ
)
るぞ。
206
早
(
はや
)
う
来
(
き
)
て
一杯
(
いつぱい
)
グツと
頂戴
(
ちやうだい
)
せぬかい』
207
弥
(
や
)
『モシ
宣伝使
(
せんでんし
)
様
(
さま
)
、
208
どうしませうかな』
209
勝
(
かつ
)
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
這入
(
はい
)
つて
見
(
み
)
ませうか』
210
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
与太彦
(
よたひこ
)
の
後
(
あと
)
に
随
(
つ
)
いて
門口
(
かどぐち
)
を
跨
(
また
)
げた。
211
這入
(
はい
)
つて
見
(
み
)
れば
外
(
そと
)
から
見
(
み
)
たよりは、
212
比較
(
ひかく
)
的
(
てき
)
広
(
ひろ
)
き
二間
(
ふたま
)
造
(
づく
)
りの
座敷
(
ざしき
)
に、
213
この
家
(
や
)
の
主人
(
あるじ
)
と
見
(
み
)
え
中年増
(
ちうどしま
)
の
婆
(
ばば
)
が
横
(
よこた
)
はつて
居
(
ゐ
)
る。
214
その
傍
(
かたはら
)
に
少
(
すこ
)
し
若
(
わか
)
さうな
一人
(
ひとり
)
の
婆
(
ばば
)
が、
215
何
(
なに
)
かと
病人
(
びやうにん
)
の
世話
(
せわ
)
をして
居
(
ゐ
)
る。
216
勝
(
かつ
)
『ヤア
見
(
み
)
れば
当家
(
たうけ
)
には
御
(
ご
)
病人
(
びやうにん
)
が、
217
おありなさると
見
(
み
)
える。
218
是
(
こ
)
れは
是
(
こ
)
れは
御
(
お
)
取込
(
とりこ
)
みの
中
(
なか
)
に
大勢
(
おほぜい
)
のものが
御
(
お
)
邪魔
(
じやま
)
を
致
(
いた
)
しました』
219
婆
(
ばば
)
『ハイハイ、
220
ようマア
立寄
(
たちよ
)
つて
下
(
くだ
)
さつた。
221
此処
(
ここ
)
は
一途
(
いちづ
)
の
川
(
かは
)
と
云
(
い
)
つて、
222
お
前
(
まへ
)
サン
等
(
ら
)
の
身魂
(
みたま
)
の
洗濯
(
せんたく
)
をする
処
(
ところ
)
だ。
223
二人
(
ふたり
)
の
婆
(
ばば
)
が
かたみ
代
(
がは
)
りに、
224
往来
(
ゆきき
)
の
人
(
ひと
)
の
身魂
(
みたま
)
の
皮
(
かは
)
を
脱
(
ぬ
)
がして
洗濯
(
せんたく
)
をする
処
(
ところ
)
だ。
225
サア
此処
(
ここ
)
へ
来
(
き
)
たが
幸
(
さいは
)
ひ、
226
真裸
(
まつぱだか
)
にして
親譲
(
おやゆづ
)
りの
皮
(
かは
)
を
脱
(
ぬ
)
がして
上
(
あ
)
げやう。
227
お
前
(
まへ
)
の
顔
(
かほ
)
は
蕪
(
かぶら
)
の
千枚漬
(
せんまいづけ
)
ぢやないか、
228
随分
(
ずゐぶん
)
厚
(
あつ
)
い
皮
(
かは
)
だ。
229
サア
一枚
(
いちまい
)
々々
(
いちまい
)
隙
(
ひま
)
がいつても
仕様
(
しやう
)
がない、
230
年寄
(
としより
)
に
苦労
(
くらう
)
を
掛
(
か
)
けて
困
(
こま
)
つた
人
(
ひと
)
だな、
231
これもウラル
彦
(
ひこ
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
ぢやから
仕方
(
しかた
)
がないワ。
232
お
前
(
まへ
)
等
(
ら
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
や
信者
(
しんじや
)
であらう、
233
アヽ
三五教
(
あななひけう
)
と
云
(
い
)
ふやつは、
234
男子
(
なんし
)
ぢやとか
女子
(
によし
)
ぢやとか
吐
(
ぬか
)
して、
235
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
を
奪
(
とら
)
うとする
奴
(
やつ
)
ぢや。
236
お
前
(
まへ
)
もその
乾児
(
こぶん
)
だからエーイ
出刄
(
でば
)
でも
持
(
も
)
つて
来
(
き
)
て、
237
その
厚
(
あつ
)
い
皮
(
かは
)
を
剥
(
む
)
いて
遣
(
や
)
らうかい。
238
男子
(
なんし
)
の
方
(
はう
)
はまだしもだが
女子
(
によし
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は
瑞
(
みづ
)
の
御魂
(
みたま
)
で、
239
カメリオンの
様
(
やう
)
な
代物
(
しろもの
)
だ。
240
アンナ
奴
(
やつ
)
の
立
(
た
)
てた
教
(
をしへ
)
に
呆
(
はう
)
けて、
241
まだそこら
中
(
ぢう
)
に
開
(
ひら
)
きに
往
(
ゆ
)
くとは
不都合
(
ふつがふ
)
千万
(
せんばん
)
、
242
エーイ
腰
(
こし
)
の
痛
(
いた
)
い
事
(
こと
)
だワイ』
243
と
右手
(
みぎて
)
に
出刄
(
でば
)
を
持
(
も
)
ち
左手
(
ひだりて
)
を
握
(
にぎ
)
り、
244
腰
(
こし
)
の
辺
(
あたり
)
を
三
(
み
)
つ
四
(
よ
)
つポンポン
打
(
う
)
ちながら、
245
婆
(
ばば
)
『アーエーイ、
246
腰
(
こし
)
の
痛
(
いた
)
いこつちや』
247
弥
(
や
)
『オイ
貴様
(
きさま
)
はウラル
教
(
けう
)
の
悪神
(
あくがみ
)
の
乾児
(
こぶん
)
だな。
248
道理
(
だうり
)
で
星
(
ほし
)
の
紋
(
もん
)
の
付
(
つ
)
いた
布団
(
ふとん
)
を
着
(
き
)
たり、
249
羽織
(
はおり
)
まで
星
(
ほし
)
の
紋
(
もん
)
を
着
(
つ
)
けてゐよるワイ、
250
コラ
婆
(
ば
)
アサン
貴様
(
きさま
)
こそ
改心
(
かいしん
)
したらどうだい』
251
婆
(
ばば
)
『エーイ
八釜
(
やかま
)
しいワイ、
252
常世姫
(
とこよひめの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
のお
台
(
だい
)
サンが
病気
(
びやうき
)
で
寝
(
ね
)
て
御座
(
ござ
)
るのに、
253
何
(
なに
)
をガアガアと
騒
(
さわ
)
ぐのだ。
254
神妙
(
しんめう
)
にせぬと
十万
(
じふまん
)
億土
(
おくど
)
と
云
(
い
)
ふ
処
(
ところ
)
へ、
255
送
(
おく
)
り
届
(
とど
)
けて
万劫
(
まんがふ
)
末代
(
まつだい
)
この
世
(
よ
)
へ
上
(
あ
)
がれぬ
様
(
やう
)
にして
遣
(
や
)
らうか』
256
与
(
よ
)
『
何
(
なん
)
だ
出刄
(
でば
)
を
提
(
さ
)
げよつて、
257
強圧
(
きやうあつ
)
的
(
てき
)
に
矢張
(
やつぱ
)
りウラル
教
(
けう
)
はウラル
式
(
しき
)
だ、
258
奥州
(
あうしう
)
安達
(
あだち
)
ケ
原
(
はら
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
見
(
み
)
た
様
(
やう
)
な
奴
(
やつ
)
だなア。
259
貴様
(
きさま
)
はかうして
此
(
この
)
川辺
(
かはべり
)
に
巣
(
す
)
を
構
(
かま
)
へよつて、
260
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
や
信者
(
しんじや
)
の
身魂
(
みたま
)
を
引抜
(
ひきぬ
)
く
奴
(
やつ
)
ぢやな。
261
コレヤ、
262
その
手
(
て
)
は
喰
(
く
)
はぬぞ、
263
貴様
(
きさま
)
の
身魂
(
みたま
)
を
こな
サンが
引抜
(
ひきぬ
)
いてやらうか』
264
婆
(
ばば
)
『
何
(
なに
)
ほど
八釜
(
やかま
)
しく、
265
じたばた
しても
恟
(
びく
)
とも
動
(
うご
)
くものかい。
266
俺
(
おれ
)
は
善
(
ぜん
)
の
仮面
(
かめん
)
を
被
(
かぶ
)
つてヱルサレムの
宮
(
みや
)
に、
267
出入
(
しゆつにふ
)
をして
居
(
を
)
つた
常世姫
(
とこよひめの
)
命
(
みこと
)
の
一
(
いち
)
の
家来
(
けらい
)
の、
268
木常姫
(
こつねひめ
)
の
生
(
うま
)
れ
替
(
がは
)
りだぞ、
269
酢
(
す
)
でも
蒟蒻
(
こんにやく
)
でも
往
(
ゆ
)
く
婆
(
ばば
)
でないぞ』
270
弥
(
や
)
『
貴様
(
きさま
)
は
木常姫
(
こつねひめ
)
の
生
(
うま
)
れ
替
(
がは
)
りだな、
271
木常姫
(
こつねひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は
仕方
(
しかた
)
のない
奴
(
やつ
)
だ』
272
婆
(
ばば
)
『
仕方
(
しかた
)
がなからう、
273
小鹿峠
(
こしかたうげ
)
の
二十三
(
にじふさん
)
峠
(
たうげ
)
の
上
(
うへ
)
で、
274
この
婆
(
ばば
)
が
貴様
(
きさま
)
を
苦
(
くる
)
しめた
事
(
こと
)
を
覚
(
おぼ
)
えて
居
(
を
)
るだらう、
275
恐
(
こわ
)
かつたか
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つたか』
276
弥
(
や
)
『エー
何
(
なん
)
だか
俺
(
おれ
)
の
背
(
せ
)
に
虻
(
あぶ
)
がとまつたかと
思
(
おも
)
つたら、
277
貴様
(
きさま
)
だつたなア。
278
何
(
なに
)
をへらず
口
(
ぐち
)
叩
(
たた
)
きよるのだ、
279
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
吐
(
ぬか
)
すと
言霊
(
ことたま
)
の
発射
(
はつしや
)
だぞ』
280
木
(
こ
)
『オホヽヽ、
281
仰有
(
おつしや
)
るワイ
仰有
(
おつしや
)
るワイ、
282
あの
時
(
とき
)
に
日
(
ひ
)
の
出別
(
でわけ
)
と
云
(
い
)
ふ
我楽多
(
がらくた
)
神
(
がみ
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
よつて、
283
いらぬチヨツカイを
出
(
だ
)
しよるものだから、
284
戦
(
たたか
)
ひ
利
(
り
)
あらず、
285
時
(
とき
)
非
(
ひ
)
なりと
断念
(
だんねん
)
して、
286
茲
(
ここ
)
に
第二
(
だいに
)
の
作戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
を
立
(
た
)
て、
287
手具脛
(
てぐすね
)
引
(
ひ
)
いて
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
たのだ。
288
モウ
斯
(
こ
)
うなつては
此方
(
こつち
)
のものだ、
289
袋
(
ふくろ
)
の
鼠
(
ねずみ
)
も
同様
(
どうやう
)
、
290
これや
此
(
この
)
出歯
(
でば
)
の
言霊
(
ことたま
)
で
霊
(
たま
)
なしにしてやらうか』
291
弥
(
や
)
『アハヽヽヽヽ、
292
婆
(
ばば
)
の
癖
(
くせ
)
に
剛情
(
がうじやう
)
な
奴
(
やつ
)
だなア。
293
貴様
(
きさま
)
のやうな
奴
(
やつ
)
は
屹度
(
きつと
)
死
(
し
)
んだら、
294
三途
(
せうづ
)
の
川
(
かは
)
の
脱衣婆
(
だついばば
)
の
後任者
(
こうにんしや
)
となつて、
295
終身官
(
しうしんくわん
)
に
任
(
にん
)
ぜられる
代物
(
しろもの
)
だナ』
296
婆
(
ばば
)
『オホヽヽヽ、
297
脱衣婆
(
だついばば
)
の
役
(
やく
)
は
俺
(
わし
)
の
姉
(
あね
)
さまの
役
(
やく
)
だよ、
298
わしは
其
(
その
)
妹
(
いもうと
)
だ、
299
酢
(
す
)
でも
蒟蒻
(
こんにやく
)
でも
梃
(
てこ
)
でも
棒
(
ぼう
)
でも、
300
いつかないつかな
恟
(
びく
)
ともせぬ、
301
我
(
が
)
の
強
(
つよ
)
い
岩
(
いは
)
より
堅
(
かた
)
いカンカンの
鬼婆
(
おにばば
)
だ。
302
如何
(
いか
)
に
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
でも
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
には
敵
(
かな
)
ふまい。
303
一遍
(
いつぺん
)
に
行
(
ゆ
)
かねば、
304
二度
(
にど
)
でも
三度
(
さんど
)
でも、
305
仮令
(
たとへ
)
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
百
(
ひやく
)
年
(
ねん
)
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
かかつても、
306
貴様
(
きさま
)
の
身魂
(
みたま
)
を
抜
(
ぬ
)
き
取
(
と
)
らな
置
(
お
)
くものかい』
307
弥
(
や
)
『
何
(
なん
)
と
執念
(
しふねん
)
深
(
ぶか
)
い
婆
(
ばば
)
ぢやないか、
308
早
(
はや
)
く
修羅
(
しゆら
)
の
妄執
(
まうしふ
)
を
晴
(
は
)
らしよらぬかい。
309
天国
(
てんごく
)
に
往
(
ゆ
)
くのが
好
(
よ
)
いか、
310
地獄
(
ぢごく
)
に
行
(
ゆ
)
くのが
好
(
よ
)
いか、
311
此処
(
ここ
)
は
一
(
ひと
)
つ
思案
(
しあん
)
の
仕処
(
しどこ
)
ちやぞ』
312
婆
(
ばば
)
『
俺
(
おれ
)
は
天国
(
てんごく
)
は
大嫌
(
だいきら
)
ひぢや。
313
天国
(
てんごく
)
へ
往
(
ゆ
)
かうとする
奴
(
やつ
)
を
片
(
かた
)
つ
端
(
ぱし
)
から、
314
霊
(
たま
)
を
抜
(
ぬ
)
いて
地
(
ち
)
の
底
(
そこ
)
へ
送
(
おく
)
るのが、
315
俺
(
おれ
)
の
役
(
やく
)
だ。
316
偽
(
にせ
)
の
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
だぞ。
317
此処
(
ここ
)
に
寝
(
ね
)
て
居
(
ゐ
)
る
常世姫
(
とこよひめ
)
の
懸
(
かか
)
る
肉体
(
にくたい
)
は、
318
偽
(
にせ
)
の
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
ぢや、
319
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
もタンマには
憑
(
うつ
)
つて
来
(
く
)
るぞ。
320
三五教
(
あななひけう
)
の
奴
(
やつ
)
は、
321
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
を
地
(
ぢ
)
に
致
(
いた
)
して
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
殿
(
どの
)
のお
活動
(
はたらき
)
で、
322
この
世
(
よ
)
を
水晶
(
すゐしやう
)
に
致
(
いた
)
すとぬかしよつて
威張
(
ゐば
)
つてをるが、
323
この
世
(
よ
)
が
水晶
(
すゐしやう
)
になつて
耐
(
たま
)
るかい。
324
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
世
(
よ
)
になつたら、
325
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
居
(
を
)
る
処
(
ところ
)
は
無
(
な
)
くなつてしまうワ、
326
それだから
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
のやうな
馬鹿
(
ばか
)
正直
(
しやうぢき
)
な
頓痴気
(
とんちき
)
野郎
(
やらう
)
や、
327
腰抜
(
こしぬ
)
け
女
(
をんな
)
を
鼠
(
ねずみ
)
が
餅
(
もち
)
を
引
(
ひ
)
くやうに、
328
チヨビリチヨビリと
引張
(
ひつぱ
)
り
込
(
こ
)
んで、
329
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
神
(
かみ
)
は
此処
(
ここ
)
ぢや、
330
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
も
此処
(
ここ
)
に
現
(
あら
)
はれて
居
(
ゐ
)
ると、
331
三五教
(
あななひけう
)
の
奴
(
やつ
)
を
誑
(
たぶら
)
かして、
332
女子
(
によし
)
の
霊魂
(
みたま
)
を
困
(
こま
)
らしてやるのだ。
333
アハヽヽヽ、
334
気分
(
きぶん
)
の
好
(
よ
)
い
事
(
こと
)
ぢや、
335
心地
(
ここち
)
が
好
(
よ
)
いワイ、
336
イヒヽヽヽ』
337
勝
(
かつ
)
『ヨウ
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
は
不届
(
ふとどき
)
至極
(
しごく
)
な
婆
(
ばば
)
達
(
たち
)
ぢや、
338
最早
(
もはや
)
貴様
(
きさま
)
の
口
(
くち
)
から
自白
(
じはく
)
致
(
いた
)
した
以上
(
いじやう
)
は、
339
弁解
(
べんかい
)
の
辞
(
ことば
)
はあるまい。
340
曲津
(
まがつ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
は
賢
(
かしこ
)
い
様
(
やう
)
でも
馬鹿
(
ばか
)
だなア、
341
蛙
(
かへる
)
は
口
(
くち
)
から
吾
(
われ
)
と
吾手
(
わがて
)
に
白状
(
はくじやう
)
致
(
いた
)
し
居
(
を
)
つた。
342
アハヽヽヽ』
343
婆
(
ばば
)
『ドウセ
貴様
(
きさま
)
は
只
(
ただ
)
で
帰
(
かへ
)
す
奴
(
やつ
)
ぢやないから、
344
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
企
(
たく
)
みを
隠
(
かく
)
す
必要
(
ひつえう
)
もなし、
345
因果腰
(
いんぐわごし
)
を
定
(
き
)
めて、
346
貴様
(
きさま
)
の
霊
(
れい
)
を
一々
(
いちいち
)
手渡
(
てわた
)
しせい。
347
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
吐
(
ぬか
)
すと
俺
(
おれ
)
が
手
(
て
)
づから、
348
貴様
(
きさま
)
の
土手腹
(
どてつぱら
)
へ
此奴
(
こいつ
)
をグサリと
突
(
つ
)
つ
込
(
こ
)
み、
349
一抉
(
ひとえぐ
)
りに
抉
(
えぐ
)
つて
取
(
と
)
つてやるぞ』
350
弥
(
や
)
『
何
(
なに
)
を
吐
(
ぬか
)
すのだ。
351
顋太
(
あごた
)
許
(
ばか
)
り
叩
(
たた
)
きよつて、
352
脅
(
おど
)
したりすかしたり
貴様
(
きさま
)
の
奥
(
おく
)
の
手
(
て
)
は
好
(
よ
)
く
分
(
わか
)
つて
居
(
ゐ
)
るぞ』
353
婆
(
ばば
)
『
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
は
三五
(
さんご
)
の
月
(
つき
)
の
御教
(
みをしへ
)
だと
吐
(
ぬか
)
して
居
(
ゐ
)
るが、
354
その
月
(
つき
)
は
運
(
うん
)
の
尽
(
つき
)
ぢや、
355
片割月
(
かたわれづき
)
ぢや、
356
ソンナ
月
(
つき
)
が
間
(
ま
)
に
合
(
あ
)
ふか。
357
十五夜
(
じふごや
)
に
片割月
(
かたわれづき
)
はなきものを
358
雲
(
くも
)
に
隠
(
かく
)
れて
此処
(
ここ
)
に
半分
(
はんぶん
)
359
と
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
貴様
(
きさま
)
は
知
(
し
)
つて
居
(
ゐ
)
るか、
360
本当
(
ほんたう
)
の
真如
(
しんによ
)
の
月
(
つき
)
は、
361
此処
(
ここ
)
に
半分
(
はんぶん
)
どころか、
362
丸
(
まる
)
で
隠
(
かく
)
れて
居
(
ゐ
)
るのだ、
363
切
(
き
)
れてばらばら
扇
(
あふぎ
)
の
要
(
かなめ
)
だ。
364
三五教
(
あななひけう
)
は
自在天
(
じざいてん
)
と
盤古
(
ばんこ
)
大神
(
だいじん
)
の
系統
(
けいとう
)
の
神
(
かみ
)
に、
365
ばらばらに
骨
(
ほね
)
を
抜
(
ぬ
)
かれよつたぢやないか、
366
肝腎
(
かんじん
)
の
要
(
かなめ
)
は
此処
(
ここ
)
に
握
(
にぎ
)
つて
居
(
ゐ
)
るのぢや。
367
神
(
かみ
)
の
奥
(
おく
)
には
奥
(
おく
)
があり、
368
その
又
(
また
)
奥
(
おく
)
には
奥
(
おく
)
がある、
369
その
又
(
また
)
奥
(
おく
)
に
奥
(
おく
)
がある、
370
昔々
(
むかしむかし
)
去
(
さ
)
る
昔
(
むかし
)
、
371
ま
一
(
ひと
)
つ
昔
(
むかし
)
の
其
(
その
)
昔
(
むかし
)
、
372
その
又
(
また
)
昔
(
むかし
)
の
大昔
(
おほむかし
)
から、
373
この
世
(
よ
)
を
自由
(
じいう
)
に
致
(
いた
)
さうと
思
(
おも
)
うて、
374
八頭
(
やつがしら
)
八尾
(
やつを
)
の
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
や、
375
金毛
(
きんまう
)
九毛
(
きうび
)
のお
稲荷
(
いなり
)
様
(
さま
)
、
376
酒呑
(
しゆてん
)
童子
(
どうじ
)
のお
身魂
(
みたま
)
様
(
さま
)
が、
377
この
一途
(
いちづ
)
の
川
(
かは
)
の
片傍
(
かたほとり
)
に、
378
仕組
(
しぐみ
)
を
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
るのを
知
(
し
)
らぬか。
379
好
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
目
(
め
)
を
醒
(
さ
)
まして、
380
魂
(
たましひ
)
をこちらへ
潔
(
いさぎよ
)
く
渡
(
わた
)
して、
381
生
(
うま
)
れ
赤子
(
あかご
)
になつて
悪神
(
あくがみ
)
の
眷族
(
けんぞく
)
にならぬかい』
382
弥
(
や
)
『アハヽヽ、
383
コラ
二人
(
ふたり
)
の
婆
(
ばば
)
、
384
何
(
なに
)
を
劫託
(
がふたく
)
ほざきよるのだ。
385
勿体
(
もつたい
)
なくも
五六七
(
みろく
)
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
が
地
(
ち
)
の
高天原
(
たかあまはら
)
に
顕現
(
けんげん
)
なされた
以上
(
いじやう
)
は、
386
何程
(
なんぼ
)
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
が
火
(
ひ
)
になり
蛇
(
じや
)
になり
猿
(
さる
)
になり
狼
(
おほかみ
)
になり
狸
(
たぬき
)
になり、
387
或
(
あるひ
)
は
大蛇
(
おろち
)
、
388
狐
(
きつね
)
、
389
鬼
(
おに
)
になつて、
390
黄糞
(
かにここ
)
をこいて
藻掻
(
もが
)
いたつて
駄目
(
だめ
)
だぞ。
391
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
く
改心
(
かいしん
)
を
致
(
いた
)
したがよからう』
392
婆
(
ばば
)
『イヤイヤ、
393
誰
(
たれ
)
が
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
うても、
394
仮令
(
たとへ
)
百遍
(
ひやつぺん
)
や
二百遍
(
にひやつぺん
)
、
395
生命
(
いのち
)
がなくなつても、
396
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
は
嫌
(
きら
)
ひだ。
397
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
と
見
(
み
)
せ
掛
(
か
)
けて
悪
(
あく
)
を
働
(
はたら
)
くのが
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
身魂
(
みたま
)
の
性来
(
しやうらい
)
だ。
398
金
(
きん
)
は
何処
(
どこ
)
までも
金
(
きん
)
ぢや、
399
瓦
(
かはら
)
は
何処迄
(
どこまで
)
も
瓦
(
かはら
)
ぢや。
400
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
善
(
ぜん
)
の
仮面
(
かめん
)
を
被
(
かぶ
)
つて、
401
高
(
たか
)
い
処
(
とこ
)
へとまつて、
402
熱
(
あつ
)
さ
寒
(
さむ
)
さも
知
(
し
)
らず
顔
(
がほ
)
に、
403
世界
(
せかい
)
の
奴
(
やつ
)
を
睨
(
にら
)
み
下
(
お
)
ろして
居
(
ゐ
)
る
鬼瓦
(
おにがはら
)
ぢやぞ』
404
与
(
や
)
『こりや
鬼婆
(
おにばば
)
、
405
イヤ
鬼瓦
(
おにがはら
)
、
406
道理
(
だうり
)
で
冷酷
(
れいこく
)
な
奴
(
やつ
)
ぢやと
思
(
おも
)
うて
居
(
を
)
つた』
407
婆
(
ばば
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
だ、
408
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
眷属
(
けんぞく
)
や
系統
(
ひつぽう
)
のものが
世界
(
せかい
)
の
奴
(
やつ
)
の
霊
(
みたま
)
をスツクリ
引抜
(
ひきぬ
)
いて、
409
鬼瓦
(
おにがはら
)
の
霊
(
みたま
)
と
入替
(
いれか
)
へをして
置
(
お
)
いたから、
410
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
奴
(
やつ
)
は
皆
(
みな
)
冷酷
(
れいこく
)
無残
(
むざん
)
な
動物霊
(
どうぶつれい
)
になつて、
411
餓鬼
(
がき
)
修羅
(
しゆら
)
畜生
(
ちくしやう
)
の
境遇
(
きやうぐう
)
になり、
412
優勝
(
いうしよう
)
劣敗
(
れつぱい
)
、
413
弱肉
(
じやくにく
)
強食
(
きやうしよく
)
の
体主
(
たいしゆ
)
霊従
(
れいじう
)
的
(
てき
)
非行
(
ひかう
)
を
盛
(
さか
)
んに
続
(
つづ
)
けて
居
(
ゐ
)
るのだ。
414
最早
(
もはや
)
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
は
九分
(
くぶ
)
九厘
(
くりん
)
まで、
415
俺
(
おれ
)
の
心
(
こころ
)
の
儘
(
まま
)
に
曇
(
くも
)
つて
来居
(
きを
)
つたが、
416
困
(
こま
)
るのはモウ
一輪
(
いちりん
)
の
所
(
ところ
)
だ。
417
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
の
身魂
(
みたま
)
はどうなつとして、
418
チヨロマカして
来
(
き
)
たが、
419
歯切
(
はぎ
)
れのせぬのは
金勝要
(
きんかつかね
)
の
神魂
(
かむみたま
)
だ。
420
そこへ
我
(
が
)
の
強
(
つよ
)
い
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
の
御魂
(
みたま
)
や、
421
木
(
こ
)
の
花
(
はな
)
咲耶姫
(
さくやひめ
)
の
御魂
(
みたま
)
が
出
(
で
)
しやばりよつて、
422
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
仕組
(
しぐみ
)
の
邪魔
(
じやま
)
をさらすものだから、
423
多勢
(
おほぜい
)
の
者
(
もの
)
の
難儀
(
なんぎ
)
と
云
(
い
)
ふたら、
424
口
(
くち
)
で
言
(
い
)
ふやうなものでないワイ。
425
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
も
変性
(
へんじやう
)
女子
(
によし
)
やら
木
(
こ
)
の
花姫
(
はなひめ
)
の、
426
霊主
(
れいしゆ
)
体従
(
たいじゆう
)
の
教
(
をしへ
)
を
開
(
ひら
)
きに
廻
(
まは
)
つて、
427
俺
(
おれ
)
等
(
たち
)
の
邪魔
(
じやま
)
をする
奴
(
やつ
)
ぢや。
428
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
貴様
(
きさま
)
の
霊
(
みたま
)
を
引抜
(
ひきぬ
)
かねば、
429
常世姫
(
とこよひめの
)
命
(
みこと
)
に
対
(
たい
)
して
申訳
(
まをしわけ
)
が
立
(
た
)
たず、
430
第一
(
だいいち
)
盤古
(
ばんこ
)
大神
(
だいじん
)
や
自在天
(
じざいてん
)
様
(
さま
)
に
申訳
(
まをしわけ
)
がないワイ。
431
婆
(
ば
)
アの
一心
(
いつしん
)
岩
(
いは
)
をも
突貫
(
つきぬ
)
く、
432
いい
加減
(
かげん
)
に
因果腰
(
いんぐわごし
)
を
据
(
す
)
ゑたが
好
(
よ
)
からうぞ。
433
イヒヽヽヽヽ』
434
勝
(
かつ
)
『ヤアこの
婆
(
ばば
)
、
435
貴様
(
きさま
)
はよつぽど
因縁
(
いんねん
)
の
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
436
本当
(
ほんたう
)
にこの
世界
(
せかい
)
が
ほしい
か、
437
執着心
(
しふちやくしん
)
のきつい
奴
(
やつ
)
だ』
438
婆
(
ばば
)
『ほしいワほしいワ、
439
欲
(
ほ
)
しい
印
(
しるし
)
に
星
(
ほし
)
の
紋
(
もん
)
が
附
(
つ
)
けてあるのも
知
(
し
)
らぬかい。
440
星
(
ほし
)
の
紋
(
もん
)
は
米
(
べい
)
の
紋
(
もん
)
ぢやぞ。
441
それが
欲
(
ほ
)
しいばつかりに
夜昼
(
よるひる
)
なしに
やきやき
して
居
(
ゐ
)
るのぢや、
442
オーン オーン アーン アーン、
443
何
(
なん
)
でもかでも
欲
(
ほ
)
しいワイ
欲
(
ほ
)
しいワイ。
444
三五教
(
あななひけう
)
はどうしてもやめてほしい、
445
此方
(
こつち
)
の
方
(
はう
)
へ
魂
(
みたま
)
を
渡
(
わた
)
して
欲
(
ほ
)
しい、
446
是丈
(
これだ
)
け
梅干婆
(
うめぼしばば
)
にほしいほしいが
重
(
かさ
)
なつて、
447
目
(
め
)
にまで
星
(
ほし
)
が
這入
(
はい
)
つたワイ。
448
蛙
(
かへる
)
の
干乾
(
ひぼし
)
の
様
(
やう
)
な
痩
(
やせ
)
た
身体
(
からだ
)
になつても、
449
それでもまだ
欲
(
ほ
)
しいワイ。
450
欲
(
よく
)
に
呆
(
ほう
)
けた
為
(
ため
)
に
俺
(
おれ
)
の
着物
(
きもの
)
も
梅雨
(
つゆ
)
が
来
(
き
)
て、
451
アチラコチラに
星
(
ほし
)
が
入
(
い
)
つて
来
(
き
)
た、
452
早
(
はや
)
う
土用
(
どよう
)
が
来
(
き
)
てほしいワイ、
453
土用干
(
どようぼし
)
でもせな
星
(
ほし
)
がとれぬワイ』
454
弥
(
や
)
『コラ
婆
(
ば
)
アサン、
455
その
星
(
ほし
)
を
取
(
と
)
つたが
好
(
よ
)
いのか、
456
とらぬが
好
(
よ
)
いか、
457
どつちやか
返答
(
へんたふ
)
が
一寸
(
ちよつと
)
きかしてほしいワイ』
458
婆
(
ばば
)
『
着物
(
きもの
)
の
星
(
ほし
)
は
取
(
と
)
つてほしいが、
459
俺
(
おれ
)
のほしいは
取
(
と
)
つてはならぬワイ』
460
与
(
よ
)
『イヤア
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
、
461
五右衛門
(
ごゑもん
)
風呂
(
ぶろ
)
の
蓋
(
ふた
)
のやうな
事
(
こと
)
を
吐
(
ほざ
)
きよるな、
462
入
(
い
)
るときに
要
(
い
)
らぬ、
463
入
(
い
)
らぬときに
要
(
い
)
る
風呂
(
ふろ
)
の
蓋
(
ふた
)
だ。
464
オイ
風呂蓋
(
ふろふた
)
婆
(
ばば
)
、
465
梅干婆
(
うめぼしばば
)
、
466
貴様
(
きさま
)
も
棺桶
(
くわんをけ
)
に
片足
(
かたあし
)
突込
(
つつこ
)
んで
居
(
を
)
つて、
467
好
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
に
我
(
が
)
を
折
(
を
)
つたらどうだい。
468
ほしい、
469
おしい、
470
可愛
(
かあい
)
い、
471
憎
(
にく
)
い、
472
欲
(
よく
)
に
高慢
(
かうまん
)
、
473
恨
(
うら
)
めしい、
474
苦
(
くる
)
しい
八
(
やつ
)
つの
埃
(
ほこり
)
と
吐
(
ぬ
)
かす
十九
(
じふく
)
世紀
(
せいき
)
の
転理数
(
てんりけう
)
のやうな
奴
(
やつ
)
だな』
475
婆
(
ばば
)
『エーエー
言
(
い
)
はして
置
(
お
)
けば
止
(
と
)
め
度
(
ど
)
なく、
476
痢病
(
りびやう
)
患者
(
くわんじや
)
のやうにビリビリとよう
垂
(
た
)
れる
奴
(
やつ
)
ぢや。
477
くだらぬ
理屈
(
りくつ
)
を
管々
(
くだくだ
)
しく
垂
(
た
)
れ
流
(
なが
)
してエヽ
汚苦
(
むさくる
)
しいワイ。
478
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
も
綺麗
(
きれい
)
さつぱり
御
(
お
)
塵
(
ちり
)
払
(
はら
)
ひをして、
479
この
婆
(
ばば
)
に
根
(
ね
)
こそげ
奉納
(
ほうなふ
)
しよらぬかい。
480
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
ると、
481
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
から
行動
(
かうどう
)
を
開始
(
かいし
)
するぞ。
482
コレコレ
常世姫
(
とこよひめ
)
の
神
(
かみ
)
、
483
もう
起
(
お
)
きてもよかろう、
484
サア
早
(
はや
)
く
起
(
お
)
きて
下
(
くだ
)
さい、
485
二人
(
ふたり
)
寄
(
よ
)
つて
此奴
(
こいつ
)
等
(
ら
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
を
真裸
(
まつぱだか
)
にして、
486
ソツと
猫糞
(
ねこばば
)
をキメやうかいな』
487
伏婆
(
ふしばば
)
むくむくと
起
(
お
)
き
上
(
あが
)
り、
488
婆(常世姫)
『ヤア
最前
(
さいぜん
)
から
病人
(
びやうにん
)
と
詐
(
いつ
)
はり、
489
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へて
居
(
を
)
れば、
490
ようマア
理屈
(
りくつ
)
を
垂
(
た
)
れる
娑婆
(
しやば
)
亡者
(
まうじや
)
、
491
此処
(
ここ
)
は
三五教
(
あななひけう
)
の
女子
(
によし
)
の
系統
(
ひつぽう
)
の
魂
(
みたま
)
がほしさに、
492
寝
(
ね
)
ても
起
(
お
)
きても
一途
(
いちづ
)
の
川
(
かは
)
の
脱衣婆
(
だついば
)
アサンぢや、
493
車
(
くるま
)
の
両輪
(
りやうりん
)
、
494
飯
(
めし
)
食
(
く
)
ふ
箸
(
はし
)
、
495
人間
(
にんげん
)
の
二本
(
にほん
)
のコンパス、
496
両方
(
りやうはう
)
から
ばば
と
ばば
が
狹
(
はさ
)
み
打
(
う
)
ちをしてやる、
497
サアどうぢや』
498
四
(
よ
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に
身構
(
みがま
)
へをなし、
499
四人
『ヤア
何
(
なん
)
と
吐
(
ほざ
)
いた、
500
サア
来
(
こ
)
い
勝負
(
しようぶ
)
』
501
と
手
(
て
)
に
唾
(
つばき
)
し、
502
グツと
睨
(
にら
)
み
付
(
つ
)
けた。
503
婆
(
ばば
)
は
手
(
て
)
に
手
(
て
)
に
出刄
(
でば
)
をひらめかし、
504
突
(
つ
)
いて
掛
(
かか
)
るを
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
汗
(
あせ
)
みどろになつて、
505
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
身
(
み
)
を
躱
(
かは
)
し、
506
奮戦
(
ふんせん
)
格闘
(
かくとう
)
すること
殆
(
ほとん
)
ど
半時
(
はんとき
)
ばかり、
507
勝彦
(
かつひこ
)
は
常世姫
(
とこよひめ
)
の
出刄
(
でば
)
に、
508
腰骨
(
こしぼね
)
をグサリと
突
(
つ
)
かれた
途端
(
とたん
)
に
目
(
め
)
を
覚
(
さ
)
ませば、
509
豈
(
あに
)
図
(
はか
)
らむや
一行
(
いつかう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
二十五
(
にじふご
)
峠
(
たうげ
)
の
麓
(
ふもと
)
の
谷底
(
たにそこ
)
に
風
(
かぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれて
落
(
お
)
ちこみ
居
(
ゐ
)
たりける。
510
(
大正一一・三・二五
旧二・二七
谷村真友
録)
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