霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
目 次設 定
設定
印刷用画面を開く [?]プリント専用のシンプルな画面が開きます。文章の途中から印刷したい場合は、文頭にしたい位置のアンカーをクリックしてから開いて下さい。[×閉じる]
話者名の追加表示 [?]セリフの前に話者名が記していない場合、誰がしゃべっているセリフなのか分からなくなってしまう場合があります。底本にはありませんが、話者名を追加して表示します。[×閉じる]
表示できる章
テキストのタイプ [?]ルビを表示させたまま文字列を選択してコピー&ペーストすると、ブラウザによってはルビも一緒にコピーされてしまい、ブログ等に引用するのに手間がかかります。そんな時には「コピー用のテキスト」に変更して下さい。ルビも脚注もない、ベタなテキストが表示され、きれいにコピーできます。[×閉じる]

文字サイズ
フォント

ルビの表示



アンカーの表示 [?]本文中に挿入している3~4桁の数字がアンカーです。原則として句読点ごとに付けており、標準設定では本文の左端に表示させています。クリックするとその位置から表示されます(URLの#の後ろに付ける場合は数字の頭に「a」を付けて下さい)。長いテキストをスクロールさせながら読んでいると、どこまで読んだのか分からなくなってしまう時がありますが、読んでいる位置を知るための目安にして下さい。目障りな場合は「表示しない」設定にして下さい。[×閉じる]


宣伝歌 [?]宣伝歌など七五調の歌は、底本ではたいてい二段組でレイアウトされています。しかしブラウザで読む場合には、二段組だと読みづらいので、標準設定では一段組に変更して(ただし二段目は分かるように一文字下げて)表示しています。お好みよって二段組に変更して下さい。[×閉じる]
脚注 [?][※]や[#]で括られている文字は当サイトで独自に付けた脚注です。まだ少ししか付いていませんが、目障りな場合は「表示しない」設定に変えて下さい。ただし[#]は重要な注記なので表示を消すことは出来ません。[×閉じる]


文字の色
背景の色
ルビの色
傍点の色 [?]底本で傍点(圏点)が付いている文字は、『霊界物語ネット』では太字で表示されますが、その色を変えます。[×閉じる]
外字1の色 [?]この設定は現在使われておりません。[×閉じる]
外字2の色 [?]文字がフォントに存在せず、画像を使っている場合がありますが、その画像の周囲の色を変えます。[×閉じる]

  

表示がおかしくなったらリロードしたり、クッキーを削除してみて下さい。


【新着情報】サブスクのお知らせ
マーキングパネル
設定パネルで「全てのアンカーを表示」させてアンカーをクリックして下さい。

【引数の設定例】 &mky=a010-a021a034  アンカー010から021と、034を、イエローでマーキング。

          

第一章 高春山(たかはるやま)〔六七五〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻 篇:第1篇 千辛万苦 よみ(新仮名遣い):せんしんばんく
章:第1章 高春山 よみ(新仮名遣い):たかはるやま 通し章番号:675
口述日:1922(大正11)年05月16日(旧04月20日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
蜈蚣姫の手下・鷹依姫は、南に瀬戸の海、東南に浪速の里を見下ろす高山・高春山の頂上に岩屋を造り、バラモン教の一派・アルプス教を立てて自転倒島を八岐大蛇の勢力化に置こうと画策していた。
山麓の津田の湖には多数の大蛇が潜伏して、日夜邪気を吐き出していた。高姫と黒姫は、三五教に改心した証として、鷹依姫を言向け和そうと、高春山に飛行船にてやってきた。
高春山の五合目辺りに天の森という巨岩が立ち並ぶ、うっそうたる森がある。森には竜神の祠があり、雨風を自由にするといって鷹依姫が崇拝していた。アルプス教のテーリスタンとカーリンスが、この祠の警護にあたっていた。
そこへ高姫と黒姫が登って来た。二人は、噂に聞く竜神の祠の扉を開けた。高姫は、すぐにでも、鷹依姫が拠り所としているこの竜神を言向け和して手柄を現そうとする。
黒姫は、焦らずにじっくり探りを入れてからとりかかろうと諌めると、高姫は黒姫の過去をあげつらって非難を始めた。
売り言葉に買い言葉で、高姫が師弟の縁を切ると言い出し、黒姫も三五教に来てから粗略に扱われた不満を表して、高姫に暇を告げる。
テーリスタンとカーリンスは、竜神の聖地を汚したと言って現れ、二人を引っ立てようとする。黒姫は、竜神が自分を呼んだのだ、と言い、逆に二人に取り入ってアルプス教に寝返ってしまう。
テーリスタンは、黒姫を鷹依姫に面会させるために、手を引いて頂上の岩屋へと連れて行った。
後に残された高姫は、カーリンスを言向け和そうと説教にかかるが、カーリンスは鷹依姫から、三五教の高姫はアルプス教には間に合わない、と聞かされていた。高姫はカーリンスによって捕縛されてしまう。
鷹依姫は、聖地に密偵を入り込ませていたので、高姫と黒姫が山を登ってやってくることを知っていた。テーリスタンが黒姫を連れて来ると、丁重に出迎えた。そうして、部屋に案内する振りをして、岩屋に閉じ込めてしまう。
鷹依姫は、黒姫を仲間にしようと黒姫の腹の底を油断なく伺っている。また、高姫は如意宝珠を飲み込んでいるので、腹を割いて玉を奪おうと考えていた。
カーリンスが高姫を捕縛してくると、鷹依姫は庭先に下させて、黒姫を呼びにやらせた。黒姫は岩屋の中に座って、自らの心の内を宣伝歌に託して、小声で歌っていた。
黒姫が高姫と喧嘩をして縁を切ったのは、本心ではなく、アルプス教を油断させようと心にもなく高姫を罵ったのであった。
黒姫は鷹依姫の前に呼び出されると、鷹依姫に忠誠を近い、倒れている高姫を拳で打ちすえてみせたそれを見た鷹依姫は、高姫の如意宝珠の玉取りを、黒姫に任せ、秘密の部屋に高姫を運ばせた。
やがて高姫は気がついた。黒姫はここは高春山の岩窟であることを告げ、何事かを高姫にささやく。高姫は、秘密の部屋に紫色の玉があることに気がついた。
黒姫は、これがアルプス教の性念玉であることを告げると、高姫は紫色の玉を餅のように伸ばして飲んでしまった。
秘密室の外には、慌しい足音が駆け出すのが聞こえた。これはテーリスタンとカーリンスであった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-05-02 19:11:05 OBC :rm2101
愛善世界社版:9頁 八幡書店版:第4輯 267頁 修補版: 校定版:9頁 普及版:3頁 初版: ページ備考:
001(くも)(あつ)して(そそ)()
002高春山(たかはるやま)山頂(さんちやう)
003バラモン(けう)(ひら)きたる
004大国別(おほくにわけ)憑依(ひようい)せる
005八岐(やまた)大蛇(をろち)分霊(わけみたま)
006(しこ)曲霊(まがひ)割拠(かつきよ)して
007山野(さんや)河海(かかい)睥睨(へいげい)
008大江(おほえ)(やま)三国岳(みくにだけ)
009六甲山(ろくかふざん)相俟(あいま)つて
010(つめ)たき魔風(まかぜ)()(おく)
011蜈蚣(むかで)(ひめ)手下(てした)なる
012鷹依姫(たかよりひめ)朝夕(あさゆふ)
013(こころ)(くだ)鳩胸(はとむね)
014仕組(しぐみ)(おく)()(いは)
015(きも)()るこそ(おそ)ろしき。
016 (みなみ)瀬戸(せと)(うみ)(ひか)へ、017東南(たつみ)浪速(なには)(さと)見下(みお)ろし、018西北東(せいほくとう)重畳(ちようでふ)たる連山(れんざん)瞰下(かんか)する高春山(たかはるやま)絶頂(ぜつちやう)岩窟(いはや)(つく)り、019バラモン(けう)一派(いつぱ)()て、020アルプス(けう)(しよう)し、021自転倒(おのころ)(じま)()(まで)も、022八岐(やまた)大蛇(をろち)勢力圏(せいりよくけん)(ない)(にぎ)らむと、023昼夜(ちうや)(こころ)(なや)まして()た。024山麓(さんろく)には細長(ほそなが)津田(つだ)(うみ)(よこ)たはつてゐる。025(この)湖水(こすゐ)には大蛇(をろち)分身(ぶんしん)たる数多(あまた)蛇神(じやしん)潜伏(せんぷく)して、026日夜(にちや)邪気(じやき)()()し、027地上(ちじやう)空気(くうき)腐爛(ふらん)せしめつつあつた。028高姫(たかひめ)029黒姫(くろひめ)波斯(フサ)(くに)北山村(きたやまむら)本山(ほんざん)()蠑螈別(いもりわけ)030魔我彦(まがひこ)をして(あと)(まも)らしめおき、031三五教(あななひけう)帰順(きじゆん)したる改心(かいしん)証拠(しようこ)として、032アルプス(けう)鷹依姫(たかよりひめ)言向(ことむ)(やは)さむと、033波斯(フサ)(くに)より()(きた)れる飛行船(ひかうせん)(じやう)じ、034高春山(たかはるやま)山麓(さんろく)()いた。035これより二人(ふたり)巡礼姿(じゆんれいすがた)()(へん)じ、036高春山(たかはるやま)鷹依姫(たかよりひめ)岩窟(がんくつ)(すす)まむと、037(かべ)()てたる(ごと)高山(かうざん)(のぼ)()く。
038 高春山(たかはるやま)五合目(ごがふめ)(ばか)りの(ところ)に、039(あめ)(もり)()巨岩(きよがん)立並(たちなら)び、040中央(ちうあう)樹木(じゆもく)鬱蒼(うつさう)たる(あひだ)に、041(ちひ)さき(ほこら)がある。042(これ)竜神(りうじん)(みや)()ふ。043(この)竜神(りうじん)雨風(あめかぜ)自由(じいう)になす(かみ)(とな)へられ、044鷹依姫(たかよりひめ)唯一(ゆいつ)守護神(しゆごじん)として尊敬(そんけい)して()た。045それが(ため)何人(なにびと)も、046(この)境域(きやうゐき)(ちか)づく(こと)厳禁(げんきん)して()た。047テーリスタン、048カーリンスと()二人(ふたり)荒男(あらをとこ)は、049(この)竜神(りうじん)(みや)(かた)警護(けいご)して()た。050二人(ふたり)(いは)(うへ)高鼾(たかいびき)をかいて(やす)んで()る。051高姫(たかひめ)052黒姫(くろひめ)(やうや)此処(ここ)(のぼ)(きた)り、
053高姫(たかひめ)『なんと立派(りつぱ)(いは)(なら)んで()るぢやありませぬか。054(ひと)(この)景色(けしき)()(ところ)休息(きうそく)して()きませう。055まだ頂上(ちやうじやう)までは余程(よほど)道程(みちのり)がありますから……』
056黒姫(くろひめ)(よろ)しう御座(ござ)いませう』
057碁盤形(ごばんなり)(もん)()()()(おく)(すす)()る。
058高姫『アヽ此処(ここ)には(めう)(ほこら)がある。059()れが(うはさ)名高(なだか)鷹依姫(たかよりひめ)の、060(あめ)()らせ(かぜ)(おこ)唯一(ゆいつ)武器(ぶき)でせう。061(ひと)改心(かいしん)さしてやりませうか。062(しやう)()むとする(もの)()(その)(うま)()よと()(こと)だから、063(この)雨風(あめかぜ)(おこ)悪神(あくがみ)眷属(けんぞく)改心(かいしん)させる(はう)が、064近路(ちかみち)かも()れませぬなア』
065黒姫『マア一寸(ちよつと)()ちなさいませ。066拙劣(へた)間誤(まご)()くと、067大風(おほかぜ)大雨(おほあめ)()められては(こま)りますから、068充分(じうぶん)様子(やうす)(さぐ)つた(うへ)069ゆつくりとやらうぢやありませぬか』
070高姫『そりや黒姫(くろひめ)さま、071(なに)仰有(おつしや)る。072冠島(かむりじま)金剛(こんがう)不壊(ふえ)(たま)(はら)()()んだ(この)高姫(たかひめ)073()はば(わたし)(からだ)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)同然(どうぜん)074多寡(たくわ)()れた(あめ)(かぜ)(おこ)竜神(りうじん)(くらゐ)に、075(なに)躊躇(ちうちよ)する(こと)がありますかい。076(まへ)さまは三五教(あななひけう)帰順(きじゆん)してから、077チツと(へん)になつたぢやありませぬか……イヤ三五教(あななひけう)帰順(きじゆん)する以前(いぜん)から高山彦(たかやまひこ)さまに(たい)し、078余程(よほど)()親切(しんせつ)()ぎたやうですよ。079(かみ)第一(だいいち)主義(しゆぎ)をどつかへ遺失(ゐしつ)し、080高山(たかやま)第一(だいいち)081(かみ)第二(だいに)()(やう)なあなたの態度(たいど)だから、082そんな弱音(よわね)()(やう)になるのだ。083モウ此処(ここ)()たら生命(いのち)(まと)に、084悪神(あくがみ)改心(かいしん)させて大神(おほかみ)(さま)にお()にかけ、085我々(われわれ)今迄(いままで)()無礼(ぶれい)086気障(きざは)りの謝罪(おわび)をせなくてはならぬ。087()はば千騎(せんき)一騎(いつき)性念場(しやうねんば)だ。088チツとしつかりしなさらぬかい』
089黒姫『ハイハイ、090そんな(こと)(はう)けて()(やう)黒姫(くろひめ)()えますかな。091チト残酷(ざんこく)ぢやありませぬか。092それ(ほど)(わたし)信用(しんよう)がないのなれば、093(かへつ)貴女(あなた)()邪魔(じやま)になつては()けませぬから、094あなたユツクリ如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(ちから)発揮(はつき)して手柄(てがら)をなさいませ。095(わたし)飛行船(ひかうせん)借用(しやくよう)して、096自分(じぶん)(しやう)()うた(とこ)活動(くわつどう)(まゐ)ります』
097高姫益々(ますます)(へん)(こと)仰有(おつしや)るぢやないか。098すべて(たたか)ひは結束(けつそく)(かた)くせねば勝利(しようり)()らるるものでない。099味方(みかた)(はう)から裏切(うらぎ)りをする(やう)弱音(よわね)()いて()うなりますか。100飛行船(ひかうせん)(すで)(すで)鷹依姫(たかよりひめ)部下(ぶか)占領(せんりやう)して(しま)つて()ますよ。101飛行船(ひかうせん)なんかモウ必要(ひつえう)はない。102()れから頂上(ちやうじやう)()(いは)(しこ)岩窟(いはや)言向(ことむ)(やは)し、103(すす)んで六甲山(ろくかふざん)()かねばならぬ。104チト(しつか)りしなさい。105あまり高山(たかやま)さまに精神(せいしん)()られて()れるものだから、106曲津(まがつ)憑依(ひようい)したのだらう。107サア(わたし)鎮魂(ちんこん)をして(しら)べてあげよう。108(ばば)アの(くせ)(かみ)()めたり、109薄化粧(うすげしやう)をしたり、110まるで化物(ばけもの)()たやうなそんな柔弱(にうじやく)(こと)でどうして神界(しんかい)御用(ごよう)出来(でき)ますか。111(まへ)さまは(ふた)()に、112言依別(ことよりわけの)(みこと)(さま)柔弱(にうじやく)だとか、113ハイカラだとか非難(ひなん)をしなさるが、114それはお(まへ)さまの(こころ)(うつ)つて()えるのだよ』
115黒姫(なん)仰有(おつしや)つても、116鎮魂(ちんこん)()無用(むよう)です。117さうしてお(ひま)(いただ)きませう』
118高姫()勝手(かつて)になさいませ。119モウ今日(けふ)(かぎ)師弟(してい)(えん)()りますから』
120黒姫(その)言葉(ことば)()つて()ました。121サアサアどうぞ()つて(もら)ひませう』
122高姫『アヽ()つてあげよう。123黒姫(くろひめ)肉体(にくたい)此処(ここ)()いて、124サツサと(かへ)りなさい。125黒姫(くろひめ)はソンナ馬鹿(ばか)(こと)()身霊(みたま)ぢやなからう』
126黒姫(けつ)して(けつ)して守護神(しゆごじん)精霊(せいれい))が()ふのぢやありませぬよ。127黒姫(くろひめ)本人(ほんにん)(まを)すのです。128何程(なんぼ)神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)して、129(わたし)肉体(にくたい)瑕瑾(きず)をつけぬ(やう)()(なほ)して(くだ)さつても、130それは気休(きやす)めです。131どうしてもお(ひま)頂戴(ちやうだい)(いた)します。132本当(ほんたう)()かんたらしい、133驕慢(けうまん)高姫(たかひめ)さま。134どうぞ()()り、135(なん)()つても()(ひま)(いただ)き、136(しこ)岩窟(いはや)鷹依姫(たかよりひめ)(さま)()家来(けらい)となつて活動(くわつどう)(いた)します。137ウラナイ(けう)(とき)には大変(たいへん)(おも)(もち)ひて(くだ)さつたが、138三五教(あななひけう)になつてからは、139あなたを(はじ)め、140(たれ)(かれ)(わたし)馬鹿(ばか)にして……(ざま)()たか、141偉相(えらさう)威張(ゐば)つて()つたが、142(いま)(ざま)(なん)ぢや。143白米(しらが)(もみ)(まじ)つた(やう)(かほ)して、144(すま)くたに(ちひ)さくなつて()らねばならぬぞよ……と(かみ)(さま)仰有(おつしや)つたぢやないか、145その実地(じつち)()たのだ……なんて言依別(ことよりわけの)(みこと)左右(さいう)(はべ)幹部(かんぶ)(れん)が、146(めう)(かほ)をして(わたし)冷笑(れいせう)して()る。147それが第一(だいいち)()()はないのだ。148モウ(わたし)三五教(あななひけう)駄目(だめ)だと(おも)ふ。149しかし(かみ)(さま)結構(けつこう)だ。150取次(とりつぎ)間違(まちが)つて()るのだから、151三五教(あななひけう)(はな)れても、152あなたに(ひま)(もら)つても、153一寸(ちよつと)痛痒(つうよう)(かん)じない。154(かみ)(さま)だけは(わたし)真心(まごころ)()つて()(くだ)さる。155(まへ)さまも将来(さき)になつたら……ア黒姫(くろひめ)はそんな(こころ)であつたか、156流石(さすが)玄人(くろうと)だけあつて(えら)(もん)だつたと、157アフンとしなさる(こと)出来(でき)()ませうぞい』
158高姫随分(ずゐぶん)猛烈(まうれつ)気焔(きえん)ですなア。159どうなつと勝手(かつて)になされ。160(ひと)(つゑ)()くなと()(こと)がある。161(わたし)もこれから独舞台(ひとりぶたい)活動(くわつどう)するのだ』
162黒姫師匠(ししやう)依頼(たより)にするなと(かみ)(さま)仰有(おつしや)つた。163こんな(ねこ)()(やう)(こころ)のクレクレ(かは)高姫(たかひめ)のお師匠(ししやう)さまは、164真平(まつぴら)御免(ごめん)だ。165()(くさ)(えん)()(どき)だ。166(まへ)さまは今日(こんにち)(かぎ)(わたし)宗旨敵(しうしがたき)だからさう(おも)ひなさい。167天晴(あつぱれ)戦場(せんぢやう)で、168堂々(だうだう)とお()にかかりませうかい』
169 (いは)(うへ)()()つた、170最前(さいぜん)二人(ふたり)(をとこ)171ムツクリ()ちあがり、
172男(テーリスタン)『コリヤ(をんな)173此処(ここ)(なん)心得(こころえ)()る、174(あめ)(もり)竜神(りうじん)(さま)()守護(しゆご)(あそ)ばす聖地(せいち)だ。175(けが)らはしい(をんな)分際(ぶんざい)として、176(ことわ)りもなく、177(この)聖地(せいち)蹂躙(じうりん)しやがつた。178サアもう量見(りやうけん)がならぬ。179当山(たうざん)規則(きそく)()らして制敗(せいばい)してやらう。180……オイ、181カーリンス、182(つな)()つて()い。183フン(じば)つて鷹依姫(たかよりひめ)(さま)御前(ごぜん)(ひき)ずり()ゑてやるのだから……』
184黒姫『モシモシお二人(ふたり)のお(かた)185此処(ここ)(まゐ)りましたのは、186(けつ)して蹂躙(じうりん)したのではありませぬ、187竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)(さま)(にく)(みや)188黒姫(くろひめ)(よう)があるから、189一寸(ちよつと)()()れいと、190(あめ)(もり)竜神(りうじん)(さま)仰有(おつしや)つたので、191飛行船(ひかうせん)()つて遥々(はるばる)(まゐ)つたのですよ』
192男(テーリスタン)『ナニ、193(まへ)さんが、194竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)さまの()命令(めいれい)()たと()ふのか』
195黒姫『ハイハイ、196(わたし)乙姫(おとひめ)(さま)(にく)(みや)ですもの』
197男(テーリスタン)(めう)(こと)()ひますな。198我々(われわれ)(おん)大将(たいしやう)鷹依姫(たかよりひめ)さまも、199(この)(ごろ)大変(たいへん)に、200竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)さまがお()でになると()つて、201一生(いつしやう)懸命(けんめい)祈念(きねん)()らして()られますよ』
202黒姫『それ()なさい、203高姫(たかひめ)さま』
204高姫竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)さまは、205(とほ)(むかし)にお(まへ)さまの肉体(にくたい)()て、206(あと)には曲津(まがつ)(かみ)()()んで()るのですよ』
207男(テーリスタン)最前(さいぜん)から我々(われわれ)寝真似(ねまね)をして、208二人(ふたり)(はなし)()いて()れば、209三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)()えるが、210なんだか愚図(ぐづ)々々(ぐづ)喧嘩(けんくわ)をしてゐたぢやないか』
211黒姫没分暁漢(わからずや)高姫(たかひめ)が、212如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)(はら)()()んで()ると()つて、213あんまり威張(ゐば)るものですから、214(いま)(わたし)(はう)から絶縁(ぜつえん)申込(まをしこ)んだ(ところ)です』
215男(テーリスタン)『そりや結構(けつこう)だ。216(まへ)さまは(まつた)我々(われわれ)同志(どうし)だ。217よしよし鷹依姫(たかよりひめ)(さま)申上(まをしあ)げて、218都合(つがふ)()とりなし(いた)しませう』
219黒姫『どうぞ(よろ)しうお(たの)(まを)します。220………コラ高姫(たかひめ)221(ざま)()い、222何程(なにほど)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)でも、223大勢(おほぜい)一人(ひとり)では(かな)ふまいぞや』
224捨台詞(すてぜりふ)(のこ)し、225テーリスタンと()(だい)(をとこ)()()かれ(なが)急坂(きふはん)(のぼ)()く。
226高姫『アヽ仕方(しかた)がない。227到頭(たうとう)悪魔(あくま)容器(いれもの)になつて(しま)つた。228黒姫(くろひめ)今迄(いままで)(なが)らくの苦労(くらう)を、229一朝(いつてう)にして(みづ)(あわ)にして(しま)つたか。230アヽ可哀相(かはいさう)なものだなア。231コレコレそこのカーリンスと()ふお(かた)232(まへ)さまは何処(どこ)から()たのだ、233(うま)れは何処(どこ)だえ』
234カーリンス自分(じぶん)(くに)(うま)れが(わか)(やう)(もの)が、235()んな(ところ)()て、236宮番(みやばん)をするものかい。237馬鹿(ばか)(こと)()ふない』
238高姫『お(まへ)さまは如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)肉体(にくたい)()つて()るか。239()出神(でのかみ)生宮(いきみや)(たれ)だと()(こと)(わか)つて()るかい』
240カーリンス()つて()らいでか。241(まへ)(こと)ぢやないか。242真偽(しんぎ)(ほど)(たしか)でないが、243最前(さいぜん)から二人(ふたり)(はなし)()いて()た。244(まへ)所謂(いはゆる)()出神(でのかみ)生宮(いきみや)だらう』
245高姫(てき)(なか)にも味方(みかた)あり、246味方(みかた)(なか)にも(てき)があるとは、247よう()つたものだ。248(まへ)(わし)知己(ちき)だ。249中々(なかなか)身魂(みたま)がよく(みが)けて()る。250三五教(あななひけう)へでも入信(はい)つたら、251こんな()つぽけな宮番(みやばん)をせなくとも、252立派(りつぱ)宣伝使(せんでんし)になれるがなア』
253カーリンス(わし)宣伝使(せんでんし)(きら)ひだ。254(あさ)から(ばん)まで(さけ)()んでグウグウと()るのが(すき)だ。255彼方(あちら)此方(こちら)乞食(こじき)(やう)真似(まね)をして、256戸別(こべつ)訪問(はうもん)をして、257(いぬ)(やう)(しやく)(みづ)をかけられたり、258(はうき)掃出(はきだ)されたり、259引合(ひきあ)はぬからなア。260(おやぢ)(たん)()まされ、261薯汁(とろろ)(たん)混汁(こんじふ)(すべ)()けて、262揚句(あげく)()てには真裸(まつぱだか)(いばら)(いけ)()()み、263着物(きもの)(てき)から(もら)(やう)(こと)第15巻第9章「薯蕷汁」のエピソード。出来(しゆつたい)するから()めとかうかい』
264高姫『お(まへ)(めう)なことを()ふ。265薯汁(とろろ)(たん)(すべ)()けたのは何時(いつ)(こと)だ。266そして(また)(たれ)(こと)だいなア』
267カーリンス『そりやあお(まへ)さまよく御存(ごぞん)じの(はず)だ』
268高姫『ハテなア。269海洋(かいやう)万里(ばんり)波斯(フサ)(くに)出来事(できごと)(そし)(ばし)りを()いて()るとは、270世間(せけん)(ひろ)いやうなものの(せま)いものだ。271これだから人間(にんげん)(つつし)まねばならぬ。272悪事(あくじ)(せん)()()つて何処迄(どこまで)もよく()きわたるものだなア』
273カーリンス『お(まへ)さまビツクリしただらう』
274高姫『そりやまた、275(たれ)()いたのだい』
276カーリンス今頃(いまごろ)そんな(こと)()らぬ(もの)一人(ひとり)でもあるものか。277随分(ずゐぶん)名高(なだか)(はなし)だぜ。278鷹依姫(たかよりひめ)さまは……おつつけ、279(こころ)()(めくら)280高姫(たかひめ)()(もの)(この)(やま)()()るから、281(ひと)(あわ)()かして改心(かいしん)させてやらねばならぬ。282彼奴(あいつ)改心(かいしん)させたならば、283アルプス(けう)(ため)には大変(たいへん)()()ふ……と()つて()られました。284(まへ)高姫(たかひめ)さまだらうがな』
285高姫『ヘン、286見違(みちが)ひをして(くだ)さるな。287黒姫(くろひめ)(やう)(ねこ)()とは、288チツと(ちが)ひますよ。289サアこれから高姫(たかひめ)獅子(しし)奮迅(ふんじん)(いきほひ)(もつ)て、290鷹依姫(たかよりひめ)(その)()部下(ぶか)(ことごと)言向(ことむ)(やは)すのだ。291万々一(まんまんいち)292高姫(たかひめ)失敗(しつぱい)になる(やう)(こと)であれば、293(ふたた)三五教(あななひけう)へは(かへ)らぬ(つも)りだ。294(のど)でも()いて()んで(しま)うのだから、295(なん)()つても、296バラモン(けう)焼直(やきなほ)しのアルプス(けう)(たい)し、297徹頭(てつとう)徹尾(てつび)298(あたま)()げぬから、299(その)(つも)りで()なさい』
300カーリンス大変(たいへん)(かた)決心(けつしん)だなア』
301高姫(きま)つた(こと)だよ』
302 高姫(たかひめ)谷間(たにま)から(にじ)()清水(しみづ)()(むす)んで、303(かわ)いた(のど)(うるほ)して()る。304(その)(すき)(うかが)ひ、305カーリンスは高姫(たかひめ)(くび)細紐(ほそひも)手早(てばや)くひつ()け、306グツと(くび)()め、
307カーリンス『サアもう大丈夫(だいぢやうぶ)だ。308これで(ひと)つ、309(わし)出世(しゆつせ)出来(でき)る』
310高姫(たかひめ)(せな)()(なが)ら、311急坂(きふはん)をエチエチ(のぼ)つて()く。
312 岩窟(いはや)(なか)には、313アルプス(けう)開山(かいざん)鷹依姫(たかよりひめ)()中婆(ちうばば)ア、314()(かぶ)(つく)つた天然(てんねん)火鉢(ひばち)(まへ)に、315長煙管(ながぎせる)(くは)へ、316二三(にさん)部下(ぶか)(まへ)()ゑて、
317鷹依姫今日(けふ)高姫(たかひめ)318黒姫(くろひめ)()二人(ふたり)(ばば)アが、319此処(ここ)()()(はず)だ。320キツと(かみ)魔力(まりよく)()りて、321(あめ)(もり)竜神(りうじん)(みや)()()(はず)だから、322テーリスタン、323カーリンスの二人(ふたり)に、324待伏(まちぶ)せをさせて()いたのだが、325やがてやつて()時刻(じこく)だらう』
326(かふ)『そんな(こと)は、327どうして(わか)るのですか』
328鷹依姫『そんな(こと)抜目(ぬけめ)のある(わし)かいな。329チヤンと三五教(あななひけう)聖地(せいち)()して密偵(みつてい)這入(はい)()ましてあるから、330それが()らして()たのだよ。331モウつい二人(ふたり)(とも)332此処(ここ)へやつて()(はず)だから、333(まへ)(たち)充分(じうぶん)()()けて、334(わし)(この)煙管(きせる)で「クワン」と(この)磬盤(けいばん)(たた)いたが最後(さいご)()んで()るのだ。335それまでは(つぎ)()で、336(よこ)になり(かんが)へて()るのだよ。337(しか)()(しま)つては()かぬから、338()()けて()るのだぜ』
339 (さん)(にん)は『ハイ』と(こた)へて、340(つぎ)()()(かく)した。341そこへテーリスタンに(とも)なはれて黒姫(くろひめ)這入(はい)つて()た。
342テーリスタン只今(ただいま)(かへ)りました。343あなたの眼識(がんしき)には、344(じつ)敬服(けいふく)(いた)しました。345(この)(とほ)黒姫(くろひめ)(うま)引張(ひつぱ)()みましたから、346()安心(あんしん)(くだ)さいませ』
347鷹依姫(たかよりひめ)『これこれテーリスタン、348(なん)()失礼(しつれい)(こと)()ふのだい。349(おに)岩窟(いはや)(なん)ぞの(やう)に、350()つぱり()みましたなんて、351チツト言霊(ことたま)(つつし)みなさい。352結構(けつこう)なお(かた)()(むか)へして(かへ)りましたと、353何故(なぜ)()はないのだい。354……これはこれは黒姫(くろひめ)(さま)355遥々(はるばる)とよう()(くだ)さいました。356空中(くうちう)余程(よほど)(かぜ)(はげ)しうてお(こま)りでしたらう。357(のち)(ほど)ユルユルとお(はなし)(うけたま)はりますから、358少時(しばらく)(おく)()休息(きうそく)(ねが)ひます』
359黒姫(はじ)めてお()にかかります。360()神徳(しんとく)(たか)()(やま)()えまして、361(くも)までが(みな)謙遜(へりくだ)り、362谷底(たにそこ)遠慮(ゑんりよ)(いた)してゐますなア』
363鷹依姫(くも)()()高春山(たかはるやま)364(まこと)()神徳(しんとく)俗塵(ぞくぢん)(はな)れて中空(ちうくう)(そび)えた聖地(せいち)でなければ本当(ほんたう)神力(しんりき)(あら)はれませぬ。365炮烙(はうらく)()せた(やう)(ひく)(やま)背景(バツク)にして神業(しんげふ)開始(かいし)するなぞと、366てんで(もの)()りませぬワ。367四尾山(よつをやま)高春山(たかはるやま)とは気分(きぶん)(ちが)ひませうがなア』
368黒姫(おほ)きに(ちが)ひます。369(わたし)此処(ここ)(のぼ)つてから(なん)だか気分(きぶん)面白(おもしろ)くなつて()ました。370三五教(あななひけう)のアの()()いても(いや)になりましたよ。371それに言依別(ことよりわけの)(みこと)()ふハイカラな教主(けうしゆ)になつて()るのだから、372内幕(うちまく)腐爛(ふらん)状態(じやうたい)()つたら()(はなし)になりませぬ。373(また)高姫(たかひめ)()ふ……もとは(わたし)のお師匠(ししやう)御座(ござ)いますが、374カンカラカンのカン太郎(たらう)が、375頑固(ぐわんこ)一途(いちづ)()(とほ)すものですから、376(わたし)此処(ここ)までやつて()て、377(あめ)(もり)竜神(りうじん)さまの(まへ)で、378(ひま)()れてやりました』
379鷹依姫『それは(なに)より結構(けつこう)です。380(この)()でさへも()()へがあるのだから、381()加減(かげん)(おも)()つて、382(あたら)しい世界(せかい)()(はう)貴女(あなた)()(ため)ですよ』
383黒姫『ハイ有難(ありがた)御座(ござ)います。384黒姫(くろひめ)(おも)うて()ることをスツカリ仰有(おつしや)つて(くだ)さいまして、385唯一(ゆいつ)共鳴者(きようめいしや)()(やう)心持(こころもち)(いた)します。386(うま)れてからこれ(くらゐ)愉快(ゆくわい)(こと)はありませぬワ』
387鷹依姫『サアどうぞ(おく)()つて()休息(きうそく)(くだ)さいませ』
388とテーリスタンに目配(めくば)せした。
389テーリスタン『サア黒姫(くろひめ)さま、390(おく)()案内(あんない)(いた)しませう』
391()()つて岩室(いはむろ)(なか)案内(あんない)した。392そして(そと)よりガタリと蝦錠(えびぢやう)をおろし、
393テーリスタン『モウ()うなつては、394何程(なにほど)藻掻(もが)いても駄目(だめ)ですから、395充分(じうぶん)()(かんが)()きを(ねが)ひます。396左様(さやう)ならば』
397()()て、398鷹依姫(たかよりひめ)(そば)立帰(たちかへ)り、
399テーリスタン首尾(しゆび)よう岩室(いはむろ)(なか)籠城(ろうじやう)(めい)じて()きました。400(しか)(なが)ら、401あの黒姫(くろひめ)(かぎ)つて、402(けつ)して()心配(しんぱい)()りませぬ。403平岩(ひらいは)(うへ)(おい)てスツカリ、404高姫(たかひめ)黒姫(くろひめ)心中(しんちう)(さぐ)りました。405モウ大丈夫(だいぢやうぶ)ですよ』
406鷹依姫『さう軽々(かるがる)しく楽観(らくくわん)出来(でき)ない。407油断(ゆだん)大敵(たいてき)だ。408(まか)(ちが)へば爆裂弾(ばくれつだん)()いて()るやうなものだからなア』
409テーリスタン竜神(りうじん)(ほこら)(まへ)()るまでは、410両人(りやうにん)はどうしても、411貴女(あなた)三五教(あななひけう)帰順(きじゆん)させると()目算(もくさん)らしう御座(ござ)いましたが、412竜神(りうじん)(ほこら)(なか)から(かみ)(さま)()神霊(しんれい)(あら)はれ、413黒姫(くろひめ)にのり(うつ)られたと()えて、414(にはか)に……(わし)竜宮(りうぐう)乙姫(おとひめ)生宮(いきみや)だと威張(ゐば)()し、415二人(ふたり)喧嘩(けんくわ)をおつ(ぱじ)め、416到頭(たうとう)黒姫(くろひめ)貴女(あなた)部下(ぶか)になると()つて、417ここを目蒐(めが)けて(はし)()しました。418それで(わたくし)もコレコソ(わた)りに(ふね)だと(こころ)(いさ)み、419()()いて此処(ここ)まで()れて(かへ)つたのです。420モウ大丈夫(だいぢやうぶ)ですから()安心(あんしん)(くだ)さいませ』
421鷹依姫『それは結構(けつこう)だが、422モウ一人(ひとり)高姫(たかひめ)はどうなつたのだえ』
423テーリスタン高姫(たかひめ)ですか。424あれは何事(なにごと)にも抜目(ぬけめ)のないカーリンスに一任(いちにん)して()ました。425屹度(きつと)フン(じば)つて、426やがて(のぼ)つて()るでせう』
427鷹依姫『あの高姫(たかひめ)(はら)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)()んで()るのだから、428どうしても(はら)()()つて(えぐ)()さねばならないのだ。429(しか)しうまくカーリンスが()れて(かへ)つて()るだらうかなア。430黒姫(くろひめ)(たま)()しだから、431どうでも()(やう)なものの、432肝腎要(かんじんかなめ)なは高姫(たかひめ)だ。433カーリンスが大変(たいへん)(こま)つて()るだらう。434(まへ)()苦労(くらう)だが、435モウ一度(いちど)加勢(かせい)()つて()れまいか』
436テーリスタン()けと仰有(おつしや)れば、437()かぬ(こと)はありませぬが、438大変(たいへん)に、439彼奴(あいつ)(かほ)()ると()がマクマクするのですよ』
440鷹依姫(なに)441()がマクマクするか、442(まさ)しく如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)()んで()証拠(しようこ)だ。443()(ふさ)いで、444(はや)くどうでもいいからフン(じば)つてなつと、445二人(ふたり)して()れてお()で』
446テーリスタン承知(しようち)(いた)しました』
447とテーリスタンは、448(やま)一散走(いつさんばし)りに駆下(かけくだ)る。449(あと)鷹依姫(たかよりひめ)独言(ひとりごと)
450鷹依姫『アヽ時節(じせつ)()たねばならぬものだなア。451鬼雲彦(おにくもひこ)鬼熊別(おにくまわけ)大将株(たいしやうかぶ)は、452三五教(あななひけう)言霊(ことたま)とやらに()たれて、453()つともない、454(をとこ)(くせ)(くも)(かすみ)本国(ほんごく)逃帰(にげかへ)り、455いい(はぢ)(さら)しをなされたが、456(をんな)一心(いつしん)(いは)でも(とほ)すと()つて、457(をつと)()健気(けなげ)女房(にようばう)蜈蚣姫(むかでひめ)三国(みくに)(だけ)立籠(たてこも)り、458到頭(たうとう)黄金(こがね)(たま)()()れた。459ヤレ(うれ)しやと(おも)()もなく、460(また)しても(その)(たま)三五教(あななひけう)にウマウマと取返(とりかへ)され、461(よろこ)んだのは(つか)()462サツパリ糠喜(ぬかよろこ)びとなつて(しま)つた。463(しか)何程(なにほど)蜈蚣姫(むかでひめ)智慧(ちゑ)があつても、464神徳(しんとく)(そな)はつて()ると()つても、465(この)鷹依姫(たかよりひめ)には足元(あしもと)へも()れない。466チツと(つめ)(あか)でも(せん)じて()まして()げたいものだ。467如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)容器(いれもの)は、468(こゑ)なくして()びつける。469黒姫(くろひめ)(たま)()しだが彼奴(あいつ)黄金(こがね)(たま)在処(ありか)一番(いちばん)よく()つて()ると()(こと)だ。470此間(こないだ)(かへ)つて()虎公(とらこう)報告(はうこく)では黒姫(くろひめ)さへ()()れてうまく白状(はくじやう)させたならば、471黄金(こがね)(たま)()()ると()(こと)だから、472()はば(たま)()()れたも同然(どうぜん)だ。473アヽなんとした結構(けつこう)(こと)出来(でき)()たものだらう』
474とカンカン磬盤(けいばん)長煙管(ながぎせる)()つた。475ウツウツと(ねむ)つて()(さん)(にん)(みみ)には、476早鐘(はやがね)(やう)(きつ)(ひび)いた。477(さん)(にん)はビツクリ仰天(ぎやうてん)(おき)あがり、478周章(あわて)狼狽(ふため)き、479鷹依姫(たかよりひめ)居間(ゐま)(はし)()き、
480三人火事(くわじ)だ 火事(くわじ)だ』
481擂鉢(すりばち)(かか)へて(はし)(やつ)482火鉢(ひばち)(かか)へて()()さうとする(もの)483座敷(ざしき)真中(まんなか)でキリキリ(まひ)をする(やつ)484右往(うわう)左往(さわう)狼狽(うろた)(まは)る。485鷹依姫(たかよりひめ)長煙管(ながぎせる)(さき)(さん)(にん)(あたま)をピシヤピシヤと(たた)き、486(もと)()悠然(いうぜん)として(こし)をおろし、
487鷹依姫『コラコラ貴様(きさま)(たち)は、488(なに)狼狽(うろた)へて()るのだい』
489(おほ)きな(とが)つた(こゑ)(わめ)()てる。
490『ハイハイ(なん)御座(ござ)いますか』
491鷹依姫(たかよりひめ)(なん)でもない。492()()()けなさい。493(いま)タカが一羽(いちは)此家(ここ)()るのだから、494料理(れうり)をせにやならぬ。495(その)用意(ようい)出刃(でば)でも()いで()きなされ』
496(たれ)(たか)(やう)なものを()つたのですか。497彼奴(あいつ)肉食鳥(にくしよくどり)だから(あぢ)(わる)うて、498(くさ)くつて()べられませぬ。499(おほ)きな図体(づうたい)()りとは羽根(はね)ばつかりで、500()(ところ)はチヨビンとよりないものですよ』
501鷹依姫『エーそんな講釈(かうしやく)(あと)にしなさい。502羽根(はね)()いタカが()たのだ』
503 ()(はな)(をり)しも、504カーリンス、505テーリスタンの両人(りやうにん)は、506高姫(たかひめ)(くび)()めた(まま)507(かつ)いで這入(はい)つて()た。
508鷹依姫『アヽ()苦労(くらう)々々々(ごくらう)509マア(には)(すみ)へでも片付(かたづ)けておいて、510ユツクリ(やす)んでお()れ。511随分(ずゐぶん)(ほね)()れただらうなア』
512テーリスタン『イエ(ほね)()りませぬが、513(くび)だけ()めて()きました』
514鷹依姫(はや)(ほど)いてやらないと(いき)()れるぢやないか。515(いき)()れて(しま)へば、516折角(せつかく)(たま)()んで(しま)ふ。517()きた(うち)()らねば()()はぬのだ。518(はや)(はや)う…』
519()()てる。520カーリンス、521テーリスタンの両人(りやうにん)は『ハイ』と(こた)へて、522徳利結(とつくりむす)びにした(くび)(ひも)(ほど)いた。523最早(もはや)高姫(たかひめ)縡切(ことぎ)れたか、524ビクとも(うご)かぬ。
525テーリスタン『ヤア此奴(こいつ)ア、526到頭(たうとう)寂滅(じやくめつ)しやがつたなア。527どうしたら()からうか』
528カーリンス人工(じんこう)呼吸法(こきふはふ)だ』
529両人(りやうにん)一生(いつしやう)懸命(けんめい)高姫(たかひめ)(からだ)(とら)へ、530()(あし)無暗(むやみ)矢鱈(やたら)(うご)かして()る。531(しばら)くあつて、532高姫(たかひめ)は「ウーン」と(いき)()(かへ)す。
533テーリスタン『アヽもう此方(こつち)のものだ。534鷹依姫(たかよりひめ)さま、535(この)(さき)はどうするのですか』
536鷹依姫『マア(ちや)でも()んでユツクリするのだ。537(その)(うち)(わし)から命令(めいれい)(くだ)すから……』
538 (しばら)くあつて鷹依姫(たかよりひめ)は、
539鷹依姫黒姫(くろひめ)さまを()んで()なさい』
540テーリスタン『ハイ』
541(こた)へてテーリスタンは、542黒姫(くろひめ)押込(おしこ)めた岩窟(いはや)(まへ)(はし)()く。543黒姫(くろひめ)(しの)(しの)びに(なに)(うた)つて()る。
544黒姫高天原(たかあまはら)立出(たちい)でて
545三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
546高姫(たかひめ)さまと諸共(もろとも)
547御空(みそら)()ける磐船(いはふね)
548()りてやうやう高春(たかはる)
549(やま)(ふもと)着陸(ちやくりく)
550黄金(こがね)(くさ)をより()けて
551(きり)海原(うなばら)(さぐ)りつつ
552一歩(ひとあし)々々(ひとあし)急坂(きふはん)
553(のぼ)つて()たのが(あめ)(もり)
554巨岩(きよがん)怪石(くわいせき)立並(たちなら)
555風光(ふうくわう)絶佳(ぜつか)霊地(れいち)ぞと
556二人(ふたり)此処(ここ)(いき)(やす)
557竜神(りうじん)さまの(ほこら)をば
558(なが)めて(やす)らふ折柄(をりから)
559()んとは()しにビリビリと
560(ふる)()したる(わが)身体(からだ)
561高姫(たかひめ)さまは()らねども
562(たし)かに(たふと)神懸(かむがか)
563さはさり(なが)黒姫(くろひめ)
564(ゆめ)にも(おも)はぬ囈語(たはごと)
565ベラベラ(しやべ)つて高姫(たかひめ)
566(ちから)(かぎ)(どく)ついた
567(わが)()(きみ)高姫(たかひめ)
568(ねこ)目玉(めだま)のくれくれと
569(こころ)(かは)黒姫(くろひめ)
570(かなら)(おも)うて(くだ)さるな
571()れには(なに)神界(しんかい)
572(ふか)仕組(しぐみ)のあるならむ
573曲津(まがつ)(いくさ)いと(おほ)
574アルプス(けう)(ひら)きたる
575鷹依姫(たかよりひめ)右左(みぎひだり)
576(つかさ)(つか)へしカーリンス
577テーリスタンの両人(りやうにん)
578(いはほ)(うへ)横臥(わうぐわ)して
579(きつね)(たぬき)空寝入(そらねい)
580様子(やうす)(うかが)()ることに
581黒姫(くろひめ)(はや)くも()()いて
582ワザと師匠(ししやう)高姫(たかひめ)
583(こころ)()らぬ(こと)ばかり
584申上(まをしあ)げたは()まないが
585これも(なに)かの()経綸(けいりん)
586(わたし)(こころ)はさうぢやない
587どうぞ(ゆる)して(くだ)さんせ
588生命(いのち)(ささ)げた宣伝使(せんでんし)
589悪魔(あくま)のはびこる(この)岩窟(いはや)
590如何(いか)なる(うき)()るとても
591言向和(ことむけやは)さで()くべきか
592(しばら)()てよ高姫(たかひめ)
593(わが)()(きみ)宣伝使(せんでんし)
594朝日(あさひ)()るとも(くも)るとも
595(つき)()つとも()くるとも
596仮令(たとへ)大地(だいち)(しづ)むとも
597黒姫(くろひめ)如何(いか)になるとても
598三五教(あななひけう)神教(みをしへ)
599天下(てんか)(ひろ)げにや()くものか
600(いは)をも射貫(いぬ)黒姫(くろひめ)
601(かた)(こころ)梓弓(あづさゆみ)
602矢竹(やたけ)(ごころ)高姫(たかひめ)
603(こころ)(まと)命中(めいちう)
604やがては疑雲(ぎうん)(くま)()
605天津(あまつ)()(ごと)()れるだろ
606アヽ惟神(かむながら)々々(かむながら)
607御霊(みたま)(さち)(たま)へかし』
608(うた)つて()る。609カーリンスは(そと)より(いは)()を、610(かぎ)(もつ)押開(おしあ)け、
611カーリンス黒姫(くろひめ)さま、612教主(けうしゆ)(さま)がお()びになりました。613大変(たいへん)(とこ)へお()(まを)して、614さぞ()(はら)()つたでせうが、615ここはどんな立派(りつぱ)なお(かた)でも、616(はじ)めて這入(はい)つて()(かた)は、617(はや)くて三日(みつか)618(おそ)いのは十日(とをか)二十日(はつか)と、619(この)岩窟(いはや)修行(しうぎやう)をさすのが規則(きそく)ですから、620(けつ)して押籠(おしこ)めたなどと(おも)つては()けませぬぞや。621三五教(あななひけう)でさへも、622岩窟(いはと)修行場(しうぎやうば)(こしら)へてあるでせう』
623黒姫『イエイエ(けつ)して(わる)くは(おも)うて()ませぬ。624斯様(かやう)結構(けつこう)(とこ)修行(しうぎやう)をさして(いただ)くなら仮令(たとへ)一月(ひとつき)二月(ふたつき)625(さん)(ねん)()(ねん)(かか)つた(ところ)で、626(べつ)苦痛(くつう)とは(おも)ひませぬよ』
627カーリンス『それはまた大変(たいへん)馬力(ばりき)ですな』
628 黒姫(くろひめ)微笑(ほほゑ)(なが)ら、629イソイソとして鷹依姫(たかよりひめ)(まへ)(あら)はれ、
630黒姫『これはこれは教主(けうしゆ)(さま)631結構(けつこう)修行(しうぎやう)をさして(いただ)きまして有難(ありがた)御座(ござ)います。632成程(なるほど)あの岩窟(がんくつ)(こころ)(しづ)まつて、633結構(けつこう)御座(ござ)いますな』
634鷹依姫結構(けつこう)でせうがな。635あなたは身魂(みたま)洗錬(せんれん)出来(でき)()りますから、636(わづか)一時(ひととき)(くらゐ)卒業(そつげふ)出来(でき)たのですよ。637開教(かいけう)以来(いらい)あなたの(やう)(はや)()(かた)御座(ござ)いませぬ。638芽出度(めでた)御座(ござ)います』
639 黒姫(くろひめ)は、
640黒姫『イヤ有難(ありがた)御座(ござ)いました』
641()()途端(とたん)に、642高姫(たかひめ)(よこ)たはる姿(すがた)()打驚(うちおどろ)き、
643黒姫『ヤア高姫(たかひめ)さまが縡切(ことぎ)れて()らつしやる』
644(かほ)(いろ)をサツと()へた。645鷹依姫(たかよりひめ)は、
646鷹依姫『オツホツホツホヽ、647あんまりカーリンスと格闘(かくとう)をなさつたものだから、648()疲労(ひらう)なさつたものと()えます。649(まへ)さまは(いま)()()れば蒼白(まつさを)(かほ)をしてビツクリなさつたが、650矢張(やつぱ)未練(みれん)がありますかい。651(くたば)つた(ひと)座敷(ざしき)へも()げず、652土間(どま)()かして()いたのは無残(むざん)(やう)貴女(あなた)(おも)つたでせうが、653これは(ひと)つの医療法(いれうはふ)ですよ。654(つち)のお(かげ)血液(けつえき)循環(じゆんかん)(もと)(かへ)り、655(いき)()(かへ)(やう)にしてあるのだ。656やがて蘇生(そせい)されるでせう』
657黒姫『ナニ(わたし)高姫(たかひめ)なんかに未練(みれん)がありますものか。658こんな傲慢(がうまん)不遜(ふそん)頑固者(ぐわんこもの)659(いま)(あめ)(もり)弟子(でし)(はう)から(ひま)()れてやつた(とこ)です。660それを証拠(しようこ)に、661(わたし)貴女(あなた)弟子(でし)になりたいのですが、662使(つか)つて(くだ)さいますか』
663鷹依姫『お(まへ)さまの()(こと)間違(まちが)ひなくば、664(よろこ)んで()引合(ひきあ)うて()きませう』
665黒姫有難(ありがた)御座(ござ)います』
666()ひつつ黒姫(くろひめ)(には)()り、667高姫(たかひめ)(しり)力限(ちからかぎ)りに(にぎ)(こぶし)(かた)めて、668(なな)()()ち、
669黒姫『コリヤ高姫(たかひめ)670(おも)()つたか』
671 高姫(たかひめ)は『ウーン』と(いき)()く。
672黒姫『オホヽヽヽ、673()(くたば)つたものだ。674この(まま)()てておけば()んで(しま)ふのだが、675(しか)此奴(こいつ)貴方(あなた)御存(ごぞん)じの(とほ)如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)()んで()りますから、676吐出(はきだ)さしてアルプス(けう)神宝(しんぽう)にせなくてはなりますまい。677(なん)とかして大事(だいじ)に……イヤイヤ大事(だいじ)にせなくてもよい。678()(かへ)らして生玉(いくだま)()らねばなりませぬから、679(しばら)(たす)けてやつたらどうです』
680鷹依姫黒姫(くろひめ)さまの仰有(おつしや)(とほ)り、681一先(ひとま)()かして、682(たま)()()させねば、683折角(せつかく)苦労(くらう)した効能(かうのう)()い。684(たま)さへ()れば(あと)()()はうと、685()いて()はうと、686(わか)(やつ)()れてやる。687(しか)()(かへ)らうかな』
688黒姫『これは容易(ようい)恢復(くわいふく)しますまい。689何卒(どうぞ)黒姫(くろひめ)(まか)して(くだ)さるまいか。690さうすればキツト(からだ)(もと)(とほ)りにして、691さうして(をり)(かんが)へ、692生玉(いくだま)引抜(ひきぬ)いて()せませう』
693鷹依姫『アヽそんならお前様(まへさま)にお(まか)せするから、694(よろ)しく(たの)みます』
695黒姫(なん)()つても(たま)()んで()るのだから、696(たま)(をさ)めてある(しつ)高姫(たかひめ)死骸(しがい)()さし(わたし)介抱(かいほう)をしてやりますから、697極秘密(ごくひみつ)に、698(たれ)にも(わか)らぬ(やう)にして(くだ)さい。699黒姫(くろひめ)がキツト()つてお()()けます』
700鷹依姫『アヽそんなら()(たの)(まを)します。701(たれ)這入(はい)つた(こと)のない(たま)居間(ゐま)702彼処(あこ)には(むらさき)夜光(やくわう)(たま)(をさ)まつて()る。703()れはアルプス(けう)生玉(いくだま)だから、704(たれ)にも()せないのだが、705(まへ)さまの精神(せいしん)見届(みとど)けたから、706(その)居間(ゐま)一任(いちにん)しませう』
707黒姫『それはそれは(じつ)望外(ばうぐわい)仕合(しあは)せ、708(この)(うへ)粉骨(ふんこつ)砕身(さいしん)709アルプス(けう)(ため)に、710犬馬(けんば)(らう)(をし)みませぬ』
711鷹依姫(わし)(じつ)相談(そうだん)しようにも相手(あひて)がなくて(こま)つて()つたのだ。712()(まへ)さまが此処(ここ)()()れたは(てん)(あた)へ、713肉身(にくしん)(いもうと)()たも同然(どうぜん)だから、714(たがひ)にこれから諒解(りやうかい)()うて秘密(ひみつ)相談(そうだん)(いた)しませう。715サア(わし)案内(あんない)をしますから……』
716(さき)()つ。
717黒姫高姫(たかひめ)死骸(しがい)()つて()かねばなりますまい』
718鷹依姫『アヽさうでしたな。719(しか)(なが)秘密室(ひみつしつ)(たれ)()れる(こと)出来(でき)ないのだから……』
720黒姫(わたし)(かつ)いで(まゐ)りませう。721………ヤイ高姫(たかひめ)722(まへ)幸福者(しあはせもの)だ。723一旦(いつたん)(えん)()つた(わし)(また)世話(せわ)になるのかいやい』
724口汚(くちぎたな)(ののし)(なが)ら、725(わき)にエチエチ引抱(ひつかか)へ、726(あし)引摺(ひきず)りもつて、727鷹依姫(たかよりひめ)(あと)(したが)つて秘密室(ひみつしつ)這入(はい)つて()く。
728鷹依姫『ここが大切(たいせつ)(ところ)だから、729(まへ)さま、730高姫(たかひめ)(いき)()(かへ)(やう)に、731鎮魂(ちんこん)をしてやつて(くだ)さい。732さうして時節(じせつ)()つて生玉(いくだま)()いて(くだ)さいや』
733黒姫何事(なにごと)()()んで()ます。734(その)(かは)りに十日(とをか)(ばか)り、735二人前(ににんまへ)食料(しよくれう)()れて(くだ)さい』
736 鷹依姫(たかよりひめ)はニコニコし(なが)ら、737(わが)居間(ゐま)(かへ)り、738珍味(ちんみ)佳肴(かかう)を、739ソツト秘密室(ひみつしつ)持運(もちはこ)び、740素知(そし)らぬ(かほ)をして()る。
741 高姫(たかひめ)はムクムクと起上(おきあが)り、742四辺(あたり)をキヨロキヨロ見廻(みまは)して、
743高姫『アヽ(わし)(ゆめ)()()たのかいな。744アヽ黒姫(くろひめ)さま、745(まへ)さまと(あめ)(もり)竜神(りうじん)(ほこら)従来(つい)()大喧嘩(おほげんくわ)をして、746それより(わる)(やつ)(のど)()められたと(おも)つて()たが……ヤツパリ(ゆめ)だつたかなア』
747 黒姫(くろひめ)748あたりを(はばか)小声(こごゑ)にて、
749黒姫高姫(たかひめ)さま、750(けつ)して(ゆめ)ぢやありませぬ。751ここは高春山(たかはるやま)()(いは)岩窟(がんくつ)……』
752(みみ)(くち)()て、753何事(なにごと)かヒソヒソと(ささや)いて()る。754高姫(たかひめ)(むらさき)(たま)(なが)め、
755高姫『マア立派(りつぱ)(たま)がありますな』
756黒姫『これがアルプス(けう)性念玉(しやうねんだま)です。757()れさへ()()れば、758アルプス(けう)最早(もはや)寂滅(じやくめつ)759(なん)とかして帰順(きじゆん)させる方法(はうはふ)はありますまいかなア』
760高姫『ナニ、761ありますとも、762この高姫(たかひめ)()んで()つて(かへ)れば()いのだ』
763黒姫(なん)でもあなたは()()みが()いから便利(べんり)ですなア』
764高姫()つて()つて()つて()(たふ)し、765仕組(しぐみ)(おく)生玉(いくだま)()()んだ(この)(わたし)766(この)(たま)(ひと)つや(ふた)()むのに(なん)手間暇(てまひま)()りますものか』
767()ふより(はや)く、768(たま)()()り、769クネクネクネと()(まは)し、770(もち)(やう)(やはら)かくして、771グツと()()んで(しま)つた。772(この)(とき)秘密室(ひみつしつ)(そと)に、773(あわ)ただしく駆出(かけだ)足音(あしおと)(きこ)えた。774()れはテーリスタン、775カーリンスの二人(ふたり)であつた。776嗚呼(ああ)777高姫(たかひめ)778黒姫(くろひめ)運命(うんめい)如何(どう)なるであらうか。
779大正一一・五・一六 旧四・二〇 松村真澄録)
目で読むのに疲れたら耳で聴こう!霊界物語の朗読ユーチューブ
オニド関連サイト最新更新情報
10/22【霊界物語ネット】王仁文庫 第六篇 たまの礎(裏の神諭)』をテキスト化しました。
5/8【霊界物語ネット】霊界物語ネットに出口王仁三郎の第六歌集『霧の海』を掲載しました。
このページに誤字・脱字や表示乱れなどを見つけたら教えて下さい。
返信が必要な場合はメールでお送り下さい。【メールアドレス
合言葉「みろく」を入力して下さい→  
霊界物語ネットは飯塚弘明が運営しています。【メールアドレス】 / 動作に不具合や誤字脱字等を発見されましたら是非お知らせ下さるようお願い申し上げます。 / 本サイトに掲載されている霊界物語等の著作物の電子データは飯塚弘明ほか、多数の方々の協力によって作られました。(スペシャルサンクス) / 本サイトの著作権(デザイン、プログラム、凡例等)は飯塚弘明にあります。出口王仁三郎の著作物(霊界物語等)の著作権は保護期間が過ぎていますのでご自由にお使いいただいて構いません。ただし一部分を引用するのではなく、本サイト掲載の大部分を利用して電子書籍等に転用する場合には、必ず出典と連絡先を記して下さい。→「本サイト掲載文献の利用について」 / 出口王仁三郎の著作物は明治~昭和初期に書かれたものです。現代においては差別的と見なされる言葉や表現もありますが、当時の時代背景を鑑みてそのままにしてあります。 / プライバシーポリシー
(C) 2007-2024 Iizuka Hiroaki