玉治別の言葉によって六人の小盗人らは三五教に帰順し、宣伝使の供をすることとなった。
夜の山道にさしかかると、一行は狼の大群がやってくるのに出くわした。皆森林の中に逃げ込むが、玉治別だけは法螺を吹いて、狼たちの行く手に立ちはだかった。すると狼たちはその勢いに辟易したのか、向きを変えて行ってしまった。
玉治別は一人、山の上に登って行き、赤児岩と呼ばれる岩に腰を掛けていた。するとアルプス教の者と思しき二人がやってきて、玉治別を仲間と勘違いし、三五教の宣伝使をやっつける手はずの作戦書を渡して去って行った。
玉治別は書類を持ちながら歩いて行くと、谷底に人家の灯が見える。行くと、一軒の小さな木挽小屋があった。戸を叩くと杢助という男が出てきて、女房の通夜をしているという。
杢助は玉治別が宣伝使と見て取ると、通夜の番を頼んで用事を済ませに出て行ってしまった。玉治別は仕方なく死人の番をする。すると死人の蒲団から手を伸ばして、お供え物の握り飯を食べる者がある。
そこへ、竜国別と国依別ら一行がやってきて、玉治別と合流した。元盗人たちによると、木挽の杢助夫婦は腕力が強く、泥棒仲間も何度もひどい目に会わされて近づかないほどの剛の者だという。遠州ら元盗人たちは、恐れて小屋に入ろうとしない。
三人が話をしていると杢助が帰ってきた。すると死人の蒲団の中から、杢助の娘が出てきた。三人は杢助に頼まれて、死人にお経を上げる。
三人が帰ろうとすると、玉治別がアルプス教の者から受け取った包みに杢助が気づいた。中から、杢助の家の金子が出てきたことから、玉治別は泥棒の一味と間違えられてしまう。
杢助は鉞を振るって三人に襲い掛かるが、玉治別は天の数歌を唱えると、杢助は霊縛されてしまった。その間に玉治別は一部始終を物語り、誤解が解けた。
杢助の家から盗み出された金子はすべて杢助に返し、宣伝使たちはアルプス教の秘密書類だけを携えて、津田の湖に向かって進んで行った。