竜国別は社の下から這い出して、灯りをつけた。女は自分は里の娘でお作と名乗った。お作はこの社に願をかけて密かに夜分詣でていたのを、アルプス教の男たちに待ち伏せされたのだ、と語った。
女は、竜国別はアルプス教ではなく三五教の宣伝使だろう、と図星を指す。そして、自分がこの社に詣でていたのは、夫を探していて、神夢にお宮に三週間詣でると本当の夫に会える、その日が今日だから、竜国別が自分の夫だと言い出した。
竜国別は高春山の悪魔退治の途上だから、女房を持つことはおろか、後の約束でも今することはできない、と堅持する。
しかしお作は弁を尽くして竜国別に迫る。竜国別がそれなら約束だけなら、と言いかけると、頭上より「馬鹿」と竜国別に怒鳴りつける者がある。
竜国別は戒めを受けて前言を取り消すが、お作はあれは天狗の声だとなおも迫り、竜国別の手を握る。
竜国別は観念して、自分からもお作の手を握り返そうとすると、突然お作は怒って竜国別をその場に突き倒した。そして曲津退治の途上で、いかなる理由や誘惑があろうとも、決心を翻すとは何事かと竜国別を叱り付けた。
たちまちとどろく雷鳴の音に眼を覚ますと、それは夢であり、竜国別は依然として社の縁の下に身を横たえていた。
竜国別は神前に額づき、夢の教訓に感謝して心魂を練り、いよいよ高春山の征服に赴くことになった。