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第70巻(酉の巻)
第71巻(戌の巻)
第72巻(亥の巻)
特別編 入蒙記
天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第21巻(申の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 千辛万苦
01 高春山
〔675〕
02 夢の懸橋
〔676〕
03 月休殿
〔677〕
04 砂利喰
〔678〕
05 言の疵
〔679〕
第2篇 是生滅法
06 小杉の森
〔680〕
07 誠の宝
〔681〕
08 津田の湖
〔682〕
09 改悟の酬
〔683〕
第3篇 男女共権
10 女権拡張
〔684〕
11 鬼娘
〔685〕
12 奇の女
〔686〕
13 夢の女
〔687〕
14 恩愛の涙
〔688〕
第4篇 反復無常
15 化地蔵
〔689〕
16 約束履行
〔690〕
17 酒の息
〔691〕
18 解決
〔692〕
余白歌
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第21巻
> 第1篇 千辛万苦 > 第4章 砂利喰
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第四章
砂利喰
(
じやりくひ
)
〔六七八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻
篇:
第1篇 千辛万苦
よみ(新仮名遣い):
せんしんばんく
章:
第4章 砂利喰
よみ(新仮名遣い):
じゃりくい
通し章番号:
678
口述日:
1922(大正11)年05月16日(旧04月20日)
口述場所:
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年4月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
三人は高熊山の岩窟に詣でて心を洗い魂を清め、進んでいった。戸隠岩の麓に着いて路傍の石に腰を掛けて休息を取った。
するとそこから一丁ばかり先に、五六人の怪しい男たちがたむろして、こちらを窺っている。玉治別は、盗人を改心させるには、盗人の中に入らなければならない、と二人に言う。
玉治別が玉公親分となりすまし、竜公・国公を子分として男たちのところへ行くと、自分は三国ケ岳の鬼婆の片腕だと名乗った。盗人たちは、仲間に入ってくれと言うが、玉治別は、追いはぎなどは小さい盗人のすることだ、と言って、自分に付いて来るようにと男たちを誘う。
玉治別は、黄金の玉と紫の玉があれば三千世界のことが思いのままになる、その玉を取りに行くのだ、と言って盗人たちを自分の子分にしてしまった。
盗人たちが言うには、自分たちの頭がいて、今三五教の本山に、徳公と名乗って入り込んでいるのだ、と明かした。玉治別は、徳公なら知っているが、あの程度の者を頭に頂いているよりも、自分たち宣伝使にしたがった方がよいと、正体を明かして盗人たちを諭す。
盗人たちは玉治別の説得に、一も二もなく、神様の道に仕える事を誓った。このとき、宣伝歌の声が聞こえてきた。宣伝歌は、一行が高春山に乗り込んで活躍する様を歌っていた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-05-02 01:21:24
OBC :
rm2104
愛善世界社版:
80頁
八幡書店版:
第4輯 294頁
修補版:
校定版:
84頁
普及版:
36頁
初版:
ページ備考:
001
梅照彦
(
うめてるひこ
)
が
朝夕
(
あさゆふ
)
に
002
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
を
宣
(
の
)
り
伝
(
つた
)
ふ
003
珍
(
うづ
)
の
館
(
やかた
)
を
後
(
あと
)
にして
004
ここに
三人
(
みたり
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
005
玉照彦
(
たまてるひこ
)
の
生
(
あ
)
れませる
006
高熊山
(
たかくまやま
)
の
巌窟
(
がんくつ
)
に
007
心
(
こころ
)
を
洗
(
あら
)
ひ
魂
(
たま
)
清
(
きよ
)
め
008
神国守
(
かみくにもり
)
に
送
(
おく
)
られて
009
来勿止
(
くなどめ
)
館
(
やかた
)
の
門前
(
もんぜん
)
に
010
暇
(
いとま
)
を
告
(
つ
)
げてスタスタと
011
足
(
あし
)
に
任
(
まか
)
せて
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
012
天狗
(
てんぐ
)
の
岩
(
いは
)
にて
名
(
な
)
も
高
(
たか
)
き
013
境峠
(
さかひたうげ
)
を
打渡
(
うちわた
)
り
014
小幡
(
をばた
)
の
川
(
かは
)
の
上流
(
じやうりう
)
を
015
尻
(
しり
)
を
捲
(
まく
)
つて
対岸
(
むかふぎし
)
016
青野
(
あをの
)
ケ
原
(
はら
)
を
右左
(
みぎひだり
)
017
眺
(
なが
)
めて
進
(
すす
)
む
法貴谷
(
ほふきだに
)
018
戸隠岩
(
とがくしいは
)
の
前
(
まへ
)
に
着
(
つ
)
く。
019
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
激湍
(
げきたん
)
飛沫
(
ひまつ
)
の
音
(
おと
)
高
(
たか
)
き
谷川
(
たにがは
)
に
沿
(
そ
)
へる、
020
樹木
(
じゆもく
)
鬱蒼
(
うつさう
)
たる
谷道
(
たにみち
)
をエチエチ
登
(
のぼ
)
つて、
021
漸
(
やうや
)
く
戸隠岩
(
とがくしいは
)
の
麓
(
ふもと
)
に
着
(
つ
)
き
路傍
(
ろばう
)
の
岩
(
いは
)
に
腰
(
こし
)
打掛
(
うちか
)
け、
022
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
めてゐる。
023
其処
(
そこ
)
より
一丁
(
いつちやう
)
許
(
ばか
)
り
離
(
はな
)
れた
坂道
(
さかみち
)
に
五六
(
ごろく
)
人
(
にん
)
の
怪
(
あや
)
しき
男
(
をとこ
)
の
影
(
かげ
)
、
024
何
(
なに
)
か
頻
(
しき
)
りに
囁
(
ささや
)
いてゐる。
025
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
竜国別
(
たつくにわけ
)
、
026
国依別
(
くによりわけ
)
の
兄貴
(
あにき
)
、
027
何
(
なん
)
だ、
028
向
(
むか
)
ふの
方
(
はう
)
に
怪体
(
けつたい
)
な
奴
(
やつ
)
が
囁
(
ささや
)
いてゐるぢやないか。
029
此
(
こ
)
の
山道
(
やまみち
)
に
何
(
なに
)
をして
居
(
ゐ
)
るのだらうかな』
030
国依別
(
くによりわけ
)
『あれは
泥棒
(
どろばう
)
の
群
(
むれ
)
だ。
031
往来
(
ゆきき
)
の
人
(
ひと
)
の
衣類
(
いるゐ
)
持物
(
もちもの
)
を、
032
すつかり
脱
(
ぬ
)
がせる
追剥
(
おひはぎ
)
商売
(
しやうばい
)
が
現
(
あら
)
はれたのだよ。
033
最前
(
さいぜん
)
も
真裸体
(
まつぱだか
)
になつて
女
(
をんな
)
が
泣
(
な
)
きもつて
通
(
とほ
)
つただらう。
034
あれは
屹度
(
きつと
)
的
(
てき
)
さんにやられたのに
違
(
ちが
)
ひないぞ。
035
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
も
斯
(
か
)
うして
蓑笠
(
みのかさ
)
を
着
(
き
)
て
歩
(
ある
)
いて
居
(
ゐ
)
るものだから、
036
彼
(
あ
)
の
女
(
をんな
)
も
吾々
(
われわれ
)
を
同類
(
どうるゐ
)
と
見
(
み
)
よつたか、
037
恐
(
こは
)
さうにキヤーと
云
(
い
)
つて
一目散
(
いちもくさん
)
に
遁
(
に
)
げたぢやないか』
038
竜国別
(
たつくにわけ
)
『それに
間違
(
まちが
)
ひは
無
(
な
)
い。
039
吾々
(
われわれ
)
も
屹度
(
きつと
)
脱
(
ぬ
)
がされるのだな。
040
一
(
ひと
)
つ
此処
(
ここ
)
で
何
(
なん
)
とか
考
(
かんが
)
へねばなるまいぞ』
041
玉治別
(
たまはるわけ
)
『なアに、
042
往
(
ゆ
)
くとこ
迄
(
まで
)
行
(
い
)
つて
見
(
み
)
な
分
(
わか
)
るものか、
043
刹那心
(
せつなしん
)
だ。
044
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
をするに
及
(
およ
)
ばないぞ、
045
万々一
(
まんまんいち
)
先方
(
むかう
)
が
泥棒
(
どろばう
)
だつたら、
046
此方
(
こちら
)
が
率先
(
そつせん
)
して
泥棒
(
どろばう
)
の
仮声
(
こわいろ
)
を
使
(
つか
)
ひ、
047
泥棒
(
どろばう
)
仲間
(
なかま
)
に
交
(
まじ
)
つて、
048
彼奴
(
あいつ
)
等
(
ら
)
をうまく
改心
(
かいしん
)
させるのだな。
049
木花姫
(
このはなひめの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
は
三十三
(
さんじふさん
)
相
(
さう
)
に
身
(
み
)
を
現
(
げん
)
じ
盗人
(
ぬすびと
)
を
改心
(
かいしん
)
させようと
思
(
おも
)
へば
自分
(
じぶん
)
から
盗人
(
ぬすびと
)
になつて、
050
一緒
(
いつしよ
)
に
働
(
はたら
)
いて
見
(
み
)
て「オイ、
051
盗人
(
ぬすびと
)
と
云
(
い
)
ふものは
随分
(
ずゐぶん
)
世間
(
せけん
)
の
狭
(
せま
)
いものの
怖
(
おそ
)
ろしいものだ。
052
斯
(
こ
)
んな
詮
(
つま
)
らない
事
(
こと
)
は
止
(
や
)
めて
天下
(
てんか
)
晴
(
は
)
れての
正業
(
せいげふ
)
に
就
(
つ
)
かうぢやないか」と
云
(
い
)
つて、
053
盗人
(
ぬすびと
)
を
改心
(
かいしん
)
させなさると
云
(
い
)
ふことだ。
054
酒
(
さけ
)
飲
(
の
)
みを
改心
(
かいしん
)
させるには、
055
自分
(
じぶん
)
も
一緒
(
いつしよ
)
に
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
み、
056
賭博打
(
ばくちうち
)
を
改心
(
かいしん
)
させるには
自分
(
じぶん
)
も
賭博打
(
ばくちう
)
ちになつて、
057
さうして
改心
(
かいしん
)
させるのが
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
だ。
058
吾々
(
われわれ
)
も
一
(
ひと
)
つ
先方
(
むかう
)
が
盗人
(
ぬすびと
)
だつたら、
059
此方
(
こちら
)
も
盗人
(
ぬすびと
)
に
化
(
ば
)
けて、
060
手
(
て
)
を
曳合
(
ひきあ
)
うて
仲間入
(
なかまい
)
りをなし、
061
さうして
改心
(
かいしん
)
させれば
良
(
よ
)
いのだ』
062
国依別
(
くによりわけ
)
『なんぼ
何
(
ど
)
うでも、
063
盗人
(
ぬすびと
)
だけは
断然
(
だんぜん
)
止
(
や
)
めたいなア』
064
玉治別
(
たまはるわけ
)
『ナニ、
065
心
(
こころ
)
から
盗人
(
ぬすびと
)
になれと
云
(
い
)
ふのぢやない。
066
盗人
(
ぬすびと
)
を
止
(
や
)
めさせるための
手段
(
しゆだん
)
だから
構
(
かま
)
はぬぢやないか。
067
それが
観
(
くわん
)
自在天
(
じざいてん
)
の
身魂
(
みたま
)
の
働
(
はたら
)
きだ。
068
万一
(
まんいつ
)
先方
(
むかう
)
が
盗人
(
ぬすびと
)
であつたら、
069
此
(
こ
)
の
玉治別
(
たまはるわけ
)
が
俺
(
おれ
)
は
盗賊
(
たうぞく
)
の
親方
(
おやかた
)
だと
云
(
い
)
つて
威喝
(
ゐかつ
)
するのだから、
070
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
俺
(
おれ
)
の
乾児
(
こぶん
)
に
化
(
ば
)
けて
居
(
ゐ
)
るのだぞ。
071
さうして
竜国別
(
たつくにわけ
)
とか、
072
国依別
(
くによりわけ
)
とか、
073
斯
(
こ
)
んな
道名
(
だうめい
)
を
唱
(
とな
)
へては
先方
(
むかう
)
に
悟
(
さと
)
られるから、
074
此処
(
ここ
)
で
名
(
な
)
を
暫
(
しばら
)
く
改
(
か
)
へて
竜公
(
たつこう
)
、
075
国公
(
くにこう
)
、
076
玉公
(
たまこう
)
親分
(
おやぶん
)
で
行
(
ゆ
)
くことにしよう。
077
先方
(
むかう
)
から「オイ
旅人
(
たびびと
)
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つた、
078
持物
(
もちもの
)
一切
(
いつさい
)
渡
(
わた
)
して
行
(
い
)
かつせエ」なんて
言
(
い
)
はれてからは
面白
(
おもしろ
)
くない。
079
先
(
さき
)
んずれば
人
(
ひと
)
を
制
(
せい
)
すだ。
080
泥棒
(
どろばう
)
と
見込
(
みこ
)
みがついたら、
081
一
(
ひと
)
つ
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
から
口火
(
くちび
)
をつけるのだ。
082
オイ
竜公
(
たつこう
)
、
083
国公
(
くにこう
)
、
084
玉公
(
たまこう
)
親分
(
おやぶん
)
さんに
従
(
つ
)
いて
来
(
こ
)
い』
085
竜国別
(
たつくにわけ
)
『
到頭
(
たうとう
)
宣伝使
(
せんでんし
)
を
泥棒
(
どろばう
)
の
乾児
(
こぶん
)
にして
了
(
しま
)
ひやがつたなア』
086
国依別
(
くによりわけ
)
『エーこれも
仕方
(
しかた
)
がない。
087
観
(
くわん
)
自在天
(
じざいてん
)
の
御
(
ご
)
化身
(
けしん
)
になると
思
(
おも
)
へば、
088
辛抱
(
しんぼう
)
も
出来
(
でき
)
ぬことはない、
089
サア
玉公
(
たまこう
)
親分
(
おやぶん
)
、
090
先
(
さき
)
へ
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
091
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち
大手
(
おほて
)
を
振
(
ふ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
092
五六
(
ごろく
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
の
車座
(
くるまざ
)
になつて
道
(
みち
)
を
塞
(
ふさ
)
いで
居
(
ゐ
)
る
前
(
まへ
)
に
近
(
ちか
)
づき
見
(
み
)
れば、
093
今
(
いま
)
剥
(
は
)
ぎ
取
(
と
)
つたらしい
女
(
をんな
)
の
衣服
(
いふく
)
が
傍
(
かたはら
)
に
在
(
あ
)
るに
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
いた。
094
的切
(
てつき
)
り
此奴
(
こいつ
)
は
泥棒
(
どろばう
)
と、
095
玉治別
(
たまはるわけ
)
はわざと
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で、
096
玉治別
(
たまはるわけ
)
『オイ
竜
(
たつ
)
、
097
国
(
くに
)
、
098
早
(
はや
)
く
来
(
こ
)
んかい。
099
彼処
(
あこ
)
に
五六
(
ごろく
)
人
(
にん
)
の
男
(
をとこ
)
が
居
(
ゐ
)
る。
100
彼奴
(
あいつ
)
の
着物
(
きもの
)
をフン
奪
(
だく
)
つて
真裸
(
まつぱだか
)
にしてやるのだ』
101
と
進
(
すす
)
んで
行
(
ゆ
)
く。
102
五六
(
ごろく
)
人
(
にん
)
の
泥棒
(
どろばう
)
は
此
(
この
)
声
(
こゑ
)
を
聞
(
き
)
いて
何
(
いづ
)
れも
呆気
(
あつけ
)
にとられてゐる。
103
玉治別
(
たまはるわけ
)
『コレヤ
木端
(
こつぱ
)
泥棒
(
どろばう
)
、
104
俺
(
おれ
)
を
誰
(
たれ
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
るか。
105
三国
(
みくに
)
ケ
岳
(
だけ
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
の
片腕
(
かたうで
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
大泥棒
(
おほどろばう
)
の
玉公
(
たまこう
)
親分
(
おやぶん
)
さんぢやぞ。
106
サア
持物
(
もちもの
)
一切
(
いつさい
)
此
(
この
)
方
(
はう
)
にすつぱりと
渡
(
わた
)
さばよし、
107
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
吐
(
ぬか
)
すと
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
一蓮
(
いちれん
)
托生
(
たくしやう
)
、
108
素首
(
そつくび
)
を
引抜
(
ひきぬ
)
いて
了
(
しま
)
ふぞ』
109
甲
(
かふ
)
『
喧
(
やかま
)
しう
云
(
い
)
ふない。
110
俺
(
おれ
)
だつて
同
(
おな
)
じことだ。
111
商売
(
しやうばい
)
の
好
(
よし
)
みで、
112
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
着物
(
きもの
)
だけは
堪
(
こら
)
へて
呉
(
く
)
れ』
113
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
堪
(
こら
)
へて
呉
(
く
)
れとぬかしやア
話
(
はなし
)
の
次第
(
しだい
)
によつては
堪
(
こら
)
へぬ
事
(
こと
)
も
無
(
な
)
いが、
114
何
(
ど
)
うだ、
115
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
だけ
俺
(
おれ
)
に
渡
(
わた
)
さないか。
116
大難
(
だいなん
)
を
小難
(
せうなん
)
にして
赦
(
ゆる
)
してやるのだから』
117
乙
(
おつ
)
『モシ
親方
(
おやかた
)
、
118
一寸
(
ちよつと
)
待
(
ま
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
119
今
(
いま
)
吾々
(
われわれ
)
が
集会
(
しふくわい
)
を
致
(
いた
)
しまして、
120
ヌースー
会社
(
ぐわいしや
)
の
創立
(
さうりつ
)
委員
(
ゐゐん
)
となり、
121
株式
(
かぶしき
)
募集
(
ぼしふ
)
の
協議
(
けふぎ
)
の
最中
(
さいちう
)
でございます。
122
貴方
(
あなた
)
もどうぞ
沢山
(
どつさり
)
株
(
かぶ
)
を
持
(
も
)
つて
下
(
くだ
)
さい、
123
品
(
しな
)
に
依
(
よ
)
つたら
社長
(
しやちやう
)
さまに
推薦
(
すいせん
)
するかも
知
(
し
)
れませぬから』
124
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
俺
(
おれ
)
は
株
(
かぶ
)
は
持
(
も
)
つてはやらうが、
125
一番
(
いちばん
)
の
親方
(
おやかた
)
だから
株代
(
かぶだい
)
は
払
(
はら
)
はないぞ。
126
優先株
(
いうせんかぶ
)
を
八百万
(
はつぴやくまん
)
株
(
かぶ
)
ばかり
俺
(
おれ
)
に
献上
(
けんじやう
)
致
(
いた
)
せ。
127
さうすれば
徹胴
(
てつどう
)
敷設
(
ふせつ
)
でも
何
(
なん
)
でも、
128
うまく
認可
(
にんか
)
してやらう』
129
甲
(
かふ
)
『そんな
認可
(
にんか
)
をして
貰
(
もら
)
つたつて、
130
此
(
こ
)
の
泥棒
(
どろばう
)
会社
(
ぐわいしや
)
に
用
(
よう
)
は
無
(
な
)
い。
131
徹胴
(
てつどう
)
の
刃過
(
にんか
)
(
鉄道
(
てつだう
)
の
認可
(
にんか
)
)や
無銭出
(
むせんで
)
ン
話
(
わ
)
(
無線
(
むせん
)
電話
(
でんわ
)
)や
田紳
(
でんしん
)
(
電信
(
でんしん
)
)の
御
(
お
)
かげで、
132
吾々
(
われわれ
)
の
商売
(
しやうばい
)
の
大変
(
たいへん
)
邪魔
(
じやま
)
になつて
居
(
ゐ
)
るのだから、
133
そんなものは
要
(
い
)
らないわ』
134
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
貴様
(
きさま
)
は
矢張
(
やつぱり
)
狐鼠
(
こそ
)
盗人
(
ぬすと
)
だな。
135
通行人
(
つうかうにん
)
の
着物
(
きもの
)
位
(
くらゐ
)
脱
(
ぬ
)
がして
虐
(
いぢ
)
めて
何
(
なん
)
になるかい。
136
モツト
羽織
(
はおり
)
袴
(
はかま
)
を
着
(
き
)
たり、
137
洋服
(
やうふく
)
をつけて
立派
(
りつぱ
)
に
万年筆
(
まんねんひつ
)
の
先
(
さき
)
で、
138
一遍
(
いつぺん
)
に
難渋万
(
なんじふまん
)
、
139
難迫万
(
なんびやくまん
)
、
140
難船万
(
なんぜんまん
)
と
云
(
い
)
ふ
泥棒
(
どろばう
)
をせぬのかい。
141
徹胴
(
てつどう
)
敷設
(
ふせつ
)
をすればレールをかぢり、
142
道路
(
だうろ
)
を
開鑿
(
かいさく
)
すれば
砂利
(
じやり
)
をかぢり、
143
軍艦
(
ぐんかん
)
を
拵
(
こしら
)
へては
鋼鉄
(
かうてつ
)
をかぢり、
144
缶詰
(
くわんづめ
)
を
請負
(
うけお
)
うては
石
(
いし
)
を
詰込
(
つめこ
)
み、
145
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
ふ
立派
(
りつぱ
)
な
智慧
(
ちゑ
)
を
出
(
だ
)
してヌースー
式
(
しき
)
をやるのだ。
146
さうすれば
別
(
べつ
)
に
斯
(
こ
)
んな
山奥
(
やまおく
)
に
隠
(
かく
)
れて、
147
慄
(
ふる
)
うて
居
(
を
)
らないでも
好
(
い
)
いのだ、
148
白昼
(
はくちう
)
に
堂々
(
だうだう
)
と
大都会
(
だいとくわい
)
の
まん
中
(
なか
)
を
自動車
(
じどうしや
)
を
飛
(
と
)
ばし、
149
白首
(
しらくび
)
を
乗
(
の
)
せて
天下
(
てんか
)
の
馬鹿者
(
ばかもの
)
どもを
睥睨
(
へいげい
)
しつつ、
150
葉巻
(
はまき
)
を
燻
(
くゆ
)
らして
大
(
おほ
)
きな
面
(
つら
)
をしていけるのだぞ。
151
モウ
斯
(
こ
)
んな
仕様
(
しやう
)
もない
小盗人
(
こぬすと
)
は
廃
(
や
)
めて、
152
世界一
(
せかいいち
)
の
宝
(
たから
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れる
商売
(
しやうばい
)
に
乗
(
の
)
り
替
(
か
)
へたら
何
(
ど
)
うだい。
153
軍艦
(
ぐんかん
)
かぢりよりも、
154
レール
喰
(
く
)
ひよりも、
155
砂利
(
じやり
)
喰
(
く
)
ひよりも
何万倍
(
なんまんばい
)
とも
知
(
し
)
れぬ
結構
(
けつこう
)
な
商売
(
しやうばい
)
があるのだぞ』
156
甲
(
かふ
)
『エヽそんな
商売
(
しやうばい
)
が、
157
親方
(
おやかた
)
何処
(
どこ
)
にありますか』
158
玉治別
(
たまはるわけ
)
『あらいでかい。
159
俺
(
おれ
)
にまア
二三
(
にさん
)
日
(
にち
)
ついて
歩
(
ある
)
いて
見
(
み
)
よ。
160
斯
(
か
)
うして
俺
(
おれ
)
は
乞食
(
こじき
)
のやうな
風
(
ふう
)
に
化
(
ば
)
けて
居
(
を
)
るが、
161
其
(
その
)
実
(
じつ
)
は
立派
(
りつぱ
)
なものだぞ。
162
今
(
いま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
家
(
いへ
)
を
飾
(
かざ
)
り、
163
衣服
(
いふく
)
を
飾
(
かざ
)
り、
164
身体中
(
からだぢう
)
金
(
きん
)
ピカに
扮
(
やつ
)
して
居
(
ゐ
)
る
奴
(
やつ
)
は、
165
却
(
かへつ
)
て
内実
(
ないじつ
)
が
苦
(
くる
)
しいものだ。
166
家
(
いへ
)
の
中
(
なか
)
は
火
(
ひ
)
の
雨
(
あめ
)
が
降
(
ふ
)
つて
居
(
を
)
る。
167
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
斯
(
か
)
うして
表面
(
うはべ
)
は
汚
(
きたな
)
い
風
(
ふう
)
をして
居
(
ゐ
)
る
代
(
かは
)
りに、
168
かかり
ものが
沢山
(
やつと
)
はかからず、
169
大変
(
たいへん
)
気楽
(
きらく
)
で、
170
世界
(
せかい
)
の
者
(
もの
)
の
知
(
し
)
らぬ
結構
(
けつこう
)
な
宝
(
たから
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れて、
171
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
嬉
(
うれ
)
し
嬉
(
うれ
)
しの
花
(
はな
)
を
咲
(
さ
)
かして
楽
(
たの
)
しんで
居
(
ゐ
)
るのだ。
172
一
(
ひと
)
つ
貴様
(
きさま
)
も
俺
(
おれ
)
の
乾児
(
こぶん
)
になつたらどうだ。
173
随分
(
ずゐぶん
)
小盗人
(
こぬすと
)
も
苦
(
くる
)
しいものだらうが』
174
甲
(
かふ
)
『お
察
(
さつ
)
しの
通
(
とほ
)
り
随分
(
ずゐぶん
)
苦
(
くる
)
しいものです。
175
併
(
しか
)
し、
176
しようことなしに、
177
斯
(
こ
)
んな
商売
(
しやうばい
)
をやつて
居
(
ゐ
)
るのです』
178
乙
(
おつ
)
『
三国
(
みくに
)
ケ
嶽
(
だけ
)
の
鬼婆
(
おにば
)
アさまは、
179
何
(
なん
)
でも
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
とか
云
(
い
)
うたさうですな。
180
蜈蚣
(
むかで
)
の
精
(
せい
)
から
生
(
うま
)
れたのぢやありませぬか』
181
玉治別
(
たまはるわけ
)
『なアに、
182
そんなことがあるものか、
183
随分
(
ずゐぶん
)
あの
婆
(
ば
)
アさまは
俺
(
おれ
)
の
親方
(
おやかた
)
で
自慢
(
じまん
)
するぢやないが
偉
(
えら
)
いものだよ。
184
世界中
(
せかいぢう
)
の
金銭
(
かね
)
を
自由
(
じいう
)
にして
居
(
ゐ
)
るのだ。
185
それだからお
銭
(
あし
)
(
足
(
あし
)
)が、
186
たんと
有
(
あ
)
るので
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
と
言
(
い
)
ふのだよ』
187
丙
(
へい
)
『アーそれで
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
と
云
(
い
)
ふのですか。
188
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つても
金銭
(
かね
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
ですから、
189
せめて
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
の
乾児
(
こぶん
)
になりとして
欲
(
ほ
)
しいものですな』
190
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
俺
(
おれ
)
が
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
の
代理
(
だいり
)
を
勤
(
つと
)
めて
居
(
を
)
る
玉公
(
たまこう
)
と
云
(
い
)
ふものだ。
191
此処
(
ここ
)
に
二人
(
ふたり
)
、
192
怪体
(
けたい
)
な
面
(
つら
)
をして
来
(
き
)
て
居
(
を
)
る
奴
(
やつ
)
は、
193
竜公
(
たつこう
)
、
194
国公
(
くにこう
)
と
云
(
い
)
つて、
195
随分
(
ずゐぶん
)
貴様
(
きさま
)
の
様
(
やう
)
に
奴甲斐性
(
どがひしやう
)
の
無
(
な
)
い、
196
小
(
ちひ
)
さい
小盗人
(
こぬすと
)
をチヨコチヨコやつて
居
(
を
)
つた
奴
(
やつ
)
だが、
197
到頭
(
たうとう
)
往生
(
わうじやう
)
しよつて
俺
(
おれ
)
の
乾児
(
こぶん
)
になつたのだ。
198
金銭
(
かね
)
よりも
何
(
なに
)
よりも、
199
モツトモツト
立派
(
りつぱ
)
な
宝
(
たから
)
が
発見
(
はつけん
)
されたのだ。
200
それを
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
二人
(
ふたり
)
の
乾児
(
こぶん
)
を
伴
(
つ
)
れて
取
(
と
)
りにゆくのだ、
201
それは
立派
(
りつぱ
)
なものだぞ。
202
紫
(
むらさき
)
の
玉
(
たま
)
に
黄金
(
わうごん
)
の
玉
(
たま
)
だ』
203
乙
(
おつ
)
『へーい、
204
それは
立派
(
りつぱ
)
なものでせうなア』
205
玉治別
(
たまはるわけ
)
『その
玉
(
たま
)
さへあれば、
206
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
事
(
こと
)
は
何
(
なん
)
でも
彼
(
か
)
でも、
207
自分
(
じぶん
)
の
心
(
こころ
)
の
儘
(
まま
)
になるのだ。
208
貴様
(
きさま
)
も
俺
(
おれ
)
の
乾児
(
こぶん
)
にしてやるから、
209
御
(
お
)
供
(
とも
)
をしたらどうだい。
210
さうして
名
(
な
)
は
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふか』
211
甲
(
かふ
)
『ハイ
私
(
わたくし
)
は
遠州
(
ゑんしう
)
と
申
(
まを
)
します、
212
それから
此奴
(
こいつ
)
が
駿州
(
すんしう
)
、
213
此奴
(
こいつ
)
が
甲州
(
かふしう
)
、
214
武州
(
ぶしう
)
に
三州
(
さんしう
)
と
云
(
い
)
ふものです。
215
モー
一人
(
ひとり
)
の
奴
(
やつ
)
は
雲助
(
くもすけ
)
上
(
あ
)
がりだから
雲州
(
うんしう
)
と
云
(
い
)
ふ
名
(
な
)
がつけてあるのです』
216
玉治別
(
たまはるわけ
)
『さうか、
217
よし、
218
それでは
小盗人
(
こぬすと
)
は
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
廃
(
や
)
めるか、
219
何
(
ど
)
うだ』
220
遠州
(
ゑんしう
)
始
(
はじ
)
め
一同
(
いちどう
)
は、
221
一同
『ヘイヘイ
誰
(
たれ
)
が
斯
(
こ
)
んな
小
(
ちひ
)
さい
商売
(
しやうばい
)
を、
222
アタ
恐
(
こは
)
い、
223
致
(
いた
)
しますものか。
224
貴方
(
あなた
)
の
御
(
お
)
供
(
とも
)
を
致
(
いた
)
しまして、
225
これから
其
(
その
)
玉
(
たま
)
を
取
(
と
)
りに
参
(
まゐ
)
りませう』
226
玉治別
(
たまはるわけ
)
『オイ
此処
(
ここ
)
に
居
(
ゐ
)
る
竜州
(
たつしう
)
と
国州
(
くにしう
)
は、
227
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
の
兄貴分
(
あにきぶん
)
だから、
228
よく
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かねばならぬぞ。
229
それも
承知
(
しようち
)
か』
230
遠州
(
ゑんしう
)
『
私
(
わたくし
)
は
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
231
一同
(
いちどう
)
の
奴
(
やつ
)
も
異議
(
いぎ
)
はありますまい』
232
玉治別
(
たまはるわけ
)
『さうか、
233
それならよし。
234
今日
(
けふ
)
からこの
玉州
(
たましう
)
さんの
新乾児
(
しんこぶん
)
だ、
235
オイ
竜州
(
たつしう
)
、
236
国州
(
くにしう
)
、
237
俺
(
おれ
)
は
今
(
いま
)
俄
(
にはか
)
に
腹
(
はら
)
を
痛
(
いた
)
めずに、
238
これだけ
大
(
おほ
)
きな
子
(
こ
)
を
生
(
う
)
んだのだから、
239
貴様
(
きさま
)
達
(
たち
)
は
子守役
(
こもりやく
)
になつて
世話
(
せわ
)
をしてやつて
呉
(
く
)
れよ』
240
竜国別
(
たつくにわけ
)
『エー
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
い。
241
国
(
くに
)
、
242
何
(
ど
)
うするつもりだい』
243
国依別
(
くによりわけ
)
『どうすると
云
(
い
)
つたところで、
244
行
(
ゆ
)
きつきばつたりだ。
245
まア
行
(
い
)
くとこ
迄
(
まで
)
行
(
い
)
つて
玉
(
たま
)
を
掠奪
(
りやくだつ
)
した
上
(
うへ
)
のことだ。
246
オイオイ
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
は
俺
(
おれ
)
の
弟分
(
おとうとぶん
)
だ。
247
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
神妙
(
しんめう
)
に
聞
(
き
)
くのだぞ。
248
どんな
用
(
よう
)
があつても
直接
(
ちよくせつ
)
に、
249
お
頭領
(
かしら
)
の
玉州
(
たましう
)
さんに
口
(
くち
)
を
利
(
き
)
いちやならない。
250
この
国州
(
くにしう
)
や
竜州
(
たつしう
)
に
相談
(
そうだん
)
をかけ、
251
指揮
(
しき
)
を
仰
(
あふ
)
ぐのだぞ』
252
遠州
(
ゑんしう
)
『ハイ
委細
(
ゐさい
)
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
253
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
私
(
わたくし
)
の
大親分
(
おほおやぶん
)
に
天州
(
てんしう
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
があります。
254
此
(
こ
)
の
天州
(
てんしう
)
は
今
(
いま
)
三五教
(
あななひけう
)
の
本山
(
ほんざん
)
へ、
255
何
(
なに
)
か
結構
(
けつこう
)
な
玉
(
たま
)
があるに
違
(
ちが
)
ひないといつて、
256
信者
(
しんじや
)
に
化込
(
ばけこ
)
んで
這入
(
はい
)
つて
居
(
を
)
ります。
257
それは
徳公
(
とくこう
)
と
云
(
い
)
ふ
智慧
(
ちゑ
)
も
力
(
ちから
)
も
立派
(
りつぱ
)
に
備
(
そな
)
はつた
大親分
(
おほおやぶん
)
です』
258
玉治別
(
たまはるわけ
)
『ナニ、
259
あの
徳公
(
とくこう
)
が
貴様
(
きさま
)
の
親分
(
おやぶん
)
と
云
(
い
)
ふのか。
260
彼奴
(
あいつ
)
は
聖地
(
せいち
)
で
門掃
(
かどはき
)
をして
居
(
を
)
つた
奴
(
やつ
)
ぢや。
261
あんな
奴
(
やつ
)
を
親分
(
おやぶん
)
に
仰
(
あふ
)
ぐ
貴様
(
きさま
)
だから
知
(
し
)
れたものだ。
262
実
(
じつ
)
の
所
(
ところ
)
は
俺
(
おれ
)
は
泥棒
(
どろばう
)
でも
何
(
なん
)
でもない、
263
三五教
(
あななひけう
)
の
誠
(
まこと
)
一
(
ひと
)
つの
教
(
をしへ
)
を
宣伝
(
せんでん
)
する
玉治別
(
たまはるわけ
)
のプロパガンデイストだ。
264
さうしてこの
御
(
お
)
二方
(
ふたかた
)
は
竜国別
(
たつくにわけ
)
、
265
国依別
(
くによりわけ
)
と
云
(
い
)
ふ
立派
(
りつぱ
)
な
宣伝使
(
せんでんし
)
だ。
266
サアこれから
其方
(
そのはう
)
等
(
ら
)
が、
267
すつぱりと
改心
(
かいしん
)
をして、
268
誠
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
に
復帰
(
たちかへ
)
るか、
269
さうでなければ、
270
其
(
その
)
方
(
はう
)
達
(
たち
)
に
言霊
(
ことたま
)
を
発射
(
はつしや
)
して、
271
ビリツとも
出来
(
でき
)
ないやうに、
272
五
(
ご
)
年
(
ねん
)
でも
十
(
じふ
)
年
(
ねん
)
でも
固
(
かた
)
めて
置
(
お
)
くがそれでもよいか』
273
一同
(
いちどう
)
『エー
貴方
(
あなた
)
は、
274
さうすると
三国
(
みくに
)
ケ
嶽
(
だけ
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
の
乾児
(
こぶん
)
ではないのですか』
275
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
だよ。
276
誰
(
たれ
)
が
泥棒
(
どろばう
)
商売
(
しやうばい
)
のやうな、
277
世間
(
せけん
)
の
狭
(
せま
)
い
引合
(
ひきあ
)
はぬことをするものかい。
278
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
人
(
ひと
)
を
相手
(
あひて
)
にせず、
279
天
(
てん
)
を
相手
(
あひて
)
にすると
云
(
い
)
ふ、
280
実
(
じつ
)
に
武勇
(
ぶゆう
)
絶倫
(
ぜつりん
)
なる
不世出
(
ふせいしゆつ
)
の
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
だ』
281
甲
(
かふ
)
『
泥棒
(
どろばう
)
の
親分
(
おやぶん
)
でさへ
結構
(
けつこう
)
だと
思
(
おも
)
つてゐるのに、
282
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
とは
思
(
おも
)
ひもよりませなんだ。
283
併
(
しか
)
し
泥棒
(
どろばう
)
より
幾千倍
(
いくせんばい
)
、
284
イヤ
天
(
てん
)
と
地
(
ち
)
との
差異
(
ちがひ
)
ある
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
道
(
みち
)
、
285
どうぞ
吾々
(
われわれ
)
を
可愛
(
かあい
)
がつて
救
(
すく
)
うて
下
(
くだ
)
さいませぬか』
286
玉治別
(
たまはるわけ
)
『ヨシヨシ
救
(
すく
)
うてやる。
287
その
代
(
かは
)
りに
吾々
(
われわれ
)
の
指揮
(
しき
)
命令
(
めいれい
)
に
盲従
(
もうじう
)
を
続
(
つづ
)
けるのだよ』
288
此
(
この
)
時
(
とき
)
空中
(
くうちう
)
に
涼
(
すず
)
しき
宣伝歌
(
せんでんか
)
と
思
(
おも
)
はるる
曲
(
きよく
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
き
)
た。
289
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
梅
(
うめ
)
の
花
(
はな
)
290
一度
(
いちど
)
に
開
(
ひら
)
く
時
(
とき
)
来
(
きた
)
り
291
本霊
(
もとつみたま
)
を
曇
(
くも
)
らせし
292
憐
(
あは
)
れな
世人
(
よびと
)
を
悉
(
ことごと
)
く
293
誠
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
の
御教
(
みをしへ
)
に
294
救
(
すく
)
ふ
時
(
とき
)
とは
成
(
な
)
りにけり
295
この
谷道
(
たにみち
)
に
現
(
あら
)
はれし
296
遠州
(
ゑんしう
)
、
武州
(
ぶしう
)
を
始
(
はじ
)
めとし
297
甲州
(
かふしう
)
三州
(
さんしう
)
其
(
その
)
他
(
ほか
)
の
298
曲津
(
まがつ
)
をことごと
言向
(
ことむ
)
けて
299
神
(
かみ
)
の
誠
(
まこと
)
の
教
(
のり
)
を
説
(
と
)
き
300
いよいよ
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
睦
(
むつ
)
び
合
(
あ
)
ひ
301
力
(
ちから
)
を
協
(
あは
)
せて
高春
(
たかはる
)
の
302
山
(
やま
)
の
尾
(
を
)
の
上
(
へ
)
に
巣
(
す
)
を
造
(
つく
)
る
303
アルプス
教
(
けう
)
の
司神
(
つかさがみ
)
304
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
が
本城
(
ほんじやう
)
に
305
どつと
乗
(
の
)
り
込
(
こ
)
み
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
306
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
や
紫
(
むらさき
)
の
307
玉
(
たま
)
をマンマと
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れて
308
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
を
神
(
かみ
)
の
世
(
よ
)
に
309
立直
(
たてなほ
)
さむは
目
(
ま
)
の
当
(
あた
)
り
310
遠州
(
ゑんしう
)
駿州
(
すんしう
)
甲州
(
かふしう
)
武州
(
ぶしう
)
311
雲州
(
うんしう
)
三州
(
さんしう
)
諸共
(
もろとも
)
に
312
来
(
きた
)
れや
来
(
きた
)
れいざ
来
(
きた
)
れ
313
敵
(
てき
)
は
幾万
(
いくまん
)
あるとても
314
何
(
なん
)
の
懼
(
おそ
)
るることやある
315
直日
(
なほひ
)
の
剣
(
つるぎ
)
抜
(
ぬ
)
きつれて
316
群
(
むら
)
がる
奴輩
(
やつばら
)
悉
(
ことごと
)
く
317
神
(
かみ
)
の
誠
(
まこと
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
318
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
に
攻
(
せ
)
めなやめ
319
勝鬨
(
かちどき
)
上
(
あ
)
げて
神界
(
しんかい
)
の
320
堅磐
(
かきは
)
常磐
(
ときは
)
の
御使
(
みつかひ
)
と
321
千代
(
ちよ
)
万代
(
よろづよ
)
に
名
(
な
)
を
揚
(
あ
)
げて
322
尽
(
つ
)
きぬ
生命
(
いのち
)
を
何時
(
いつ
)
迄
(
まで
)
も
323
生
(
い
)
かして
通
(
とほ
)
る
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
324
朝日
(
あさひ
)
は
照
(
て
)
るとも
曇
(
くも
)
るとも
325
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
326
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
の
手
(
て
)
に
持
(
も
)
てる
327
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
を
取
(
と
)
り
還
(
かへ
)
し
328
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
救
(
すく
)
ひの
神
(
かみ
)
として
329
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
と
倶
(
とも
)
に
抜群
(
ばつぐん
)
の
330
功名
(
こうみやう
)
手柄
(
てがら
)
をしよぢやないか
331
アヽ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
332
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませと
333
○
334
さしもに
嶮
(
けは
)
しき
山坂
(
やまさか
)
を
335
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つてぞ
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
336
瑞
(
みづ
)
の
御霊
(
みたま
)
の
三柱
(
みはしら
)
に
337
五
(
い
)
つの
身魂
(
みたま
)
を
加
(
くは
)
へつつ
338
三五
(
さんご
)
の
月
(
つき
)
照
(
て
)
る
夜半
(
よなか
)
ごろ
339
別院村
(
べつゐんむら
)
を
乗
(
の
)
り
越
(
こ
)
えて
340
大槻並
(
おほつきなみ
)
や
能勢
(
のせ
)
の
里
(
さと
)
341
乗
(
の
)
せて
馳行
(
はせゆ
)
く
口車
(
くちぐるま
)
342
摂津
(
せつつ
)
の
国
(
くに
)
の
多田
(
ただ
)
の
里
(
さと
)
343
波
(
なみ
)
を
湛
(
たた
)
へし
津田
(
つだ
)
の
湖
(
うみ
)
344
畔
(
ほとり
)
にこそは
着
(
つ
)
きにける
345
○
346
此
(
こ
)
の
物語
(
ものがたり
)
長
(
なが
)
けれど
347
眠
(
ねむ
)
りの
神
(
かみ
)
に
誘
(
さそ
)
はれて
348
横
(
よこ
)
に
寝
(
ね
)
乍
(
なが
)
ら
根
(
ね
)
の
国
(
くに
)
や
349
華胥
(
くわしよ
)
の
国
(
くに
)
に
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く
350
アヽ
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
351
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませと
352
後
(
あと
)
振
(
ふ
)
り
返
(
かへ
)
り
眺
(
なが
)
むれば
353
外山
(
とやま
)
の
霞
(
かすみ
)
晴渡
(
はれわた
)
り
354
高春山
(
たかはるやま
)
の
頂
(
いただ
)
きに
355
豊二
(
ゆたかに
)
照
(
て
)
らす
朝日影
(
あさひかげ
)
356
上
(
あが
)
るを
待
(
ま
)
つて
此
(
こ
)
の
続
(
つづ
)
き
357
いと
細
(
こま
)
やかに
伝
(
つた
)
ふべし。
358
(
大正一一・五・一六
旧四・二〇
外山豊二
録)
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