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第21巻(申の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 千辛万苦
01 高春山
〔675〕
02 夢の懸橋
〔676〕
03 月休殿
〔677〕
04 砂利喰
〔678〕
05 言の疵
〔679〕
第2篇 是生滅法
06 小杉の森
〔680〕
07 誠の宝
〔681〕
08 津田の湖
〔682〕
09 改悟の酬
〔683〕
第3篇 男女共権
10 女権拡張
〔684〕
11 鬼娘
〔685〕
12 奇の女
〔686〕
13 夢の女
〔687〕
14 恩愛の涙
〔688〕
第4篇 反復無常
15 化地蔵
〔689〕
16 約束履行
〔690〕
17 酒の息
〔691〕
18 解決
〔692〕
余白歌
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> 第4篇 反復無常 > 第17章 酒の息
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第一七章
酒
(
さけ
)
の
息
(
いき
)
〔六九一〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻
篇:
第4篇 反復無常
よみ(新仮名遣い):
はんぷくむじょう
章:
第17章 酒の息
よみ(新仮名遣い):
さけのいき
通し章番号:
691
口述日:
1922(大正11)年05月21日(旧04月25日)
口述場所:
筆録者:
谷村真友
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年4月5日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
アルプス教の本山・高春山では鷹依姫が、力と頼む臣下のテーリスタンとカーリンスに説教をしていた。二人が酒におぼれて酔っ払っているのを咎めていたのである。
しかしテーリスタンとカーリンスは酔って鷹依姫の小言をまぜっかえしている。そこへお初がつかつかと入ってきて、テーリスタンとカーリンスのお酌をすると申し出た。
お初は、父の杢助が天の森までやってきて、アルプス教をやっつけようとしていることを話した。テーリスタンとカーリンスは、杢助の子分になった方がいいと思い直し、酔ったまま鷹依姫にあからさまに反抗しだした。
鷹依姫は自分に忠誠を誓ったことを持ち出して、テーリスタンとカーリンスを非難する。すると二人は、拳を固めて鷹依姫に殴りかかろうとした。
お初は鷹依姫に対して、悪い奴を信用したものだ、と同情する。テーリスタンとカーリンスは聞きとがめてお初に言い訳をするが、お初は、自分は子供だから思ったことを口にするのだ、と言う。
テーリスタンとカーリンスは、杢助に取り入ろうとお初に胡麻をする。そして、杢助がやってくる前に、高姫と黒姫を岩戸から救出しておこうと相談し、テーリスタンが鷹依姫を見張り、カーリンスは岩窟に向かって走っていった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-05-02 02:31:06
OBC :
rm2117
愛善世界社版:
277頁
八幡書店版:
第4輯 366頁
修補版:
校定版:
286頁
普及版:
125頁
初版:
ページ備考:
001
アルプス
教
(
けう
)
の
仮本山
(
かりほんざん
)
と
聞
(
きこ
)
えたる、
002
高春山
(
たかはるやま
)
の
山巓
(
さんてん
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
数多
(
あまた
)
の
部下
(
ぶか
)
を
集
(
あつ
)
めて、
003
大自在天
(
だいじざいてん
)
大国別
(
おほくにわけの
)
命
(
みこと
)
の
神業
(
しんげふ
)
を
恢興
(
くわいこう
)
せむと、
004
捻鉢巻
(
ねぢはちまき
)
の
大車輪
(
だいしやりん
)
、
005
心胆
(
しんたん
)
を
練
(
ね
)
つて
時
(
とき
)
を
待
(
ま
)
ち
居
(
を
)
るアルプス
教
(
けう
)
の
教主
(
けうしゆ
)
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
は、
006
額
(
ひたひ
)
の
小皺
(
こじわ
)
を
撫
(
な
)
で
乍
(
なが
)
ら、
007
長煙管
(
ながきせる
)
をポンとはたき、
008
股肱
(
ここう
)
の
臣
(
しん
)
なるテーリスタン、
009
カーリンスの
二人
(
ふたり
)
を
膝
(
ひざ
)
近
(
ちか
)
く
招
(
まね
)
き、
010
口角泡
(
こうかくあわ
)
をにじませ
乍
(
なが
)
ら、
011
鷹依姫
『これテーリスタン、
012
カーリンスの
二人
(
ふたり
)
、
013
お
前
(
まへ
)
も
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
酒
(
さけ
)
をやめたらどうだえ。
014
どうやら
大切
(
たいせつ
)
なアルプス
教
(
けう
)
の
秘密
(
ひみつ
)
書類
(
しよるゐ
)
を
紛失
(
ふんしつ
)
してから、
015
廻
(
まは
)
り
廻
(
まは
)
りて
三五教
(
あななひけう
)
の
手
(
て
)
に
入
(
はい
)
つて
居
(
を
)
る
様
(
やう
)
な
感
(
かん
)
じがして
仕方
(
しかた
)
がない。
016
何程
(
なにほど
)
要害
(
えうがい
)
堅固
(
けんご
)
に
固
(
かた
)
めて
居
(
を
)
つても、
017
あの
地図
(
ちづ
)
を
見
(
み
)
られたが
最後
(
さいご
)
、
018
此
(
この
)
本山
(
ほんざん
)
は
没落
(
ぼつらく
)
するより
仕方
(
しかた
)
がない。
019
こんな
危険
(
きけん
)
な
場合
(
ばあひ
)
に
何時迄
(
いつまで
)
も
酒
(
さけ
)
ばかり
飲
(
の
)
んで、
020
管
(
くだ
)
を
巻
(
ま
)
いて
居
(
ゐ
)
る
時
(
とき
)
ぢやありますまい。
021
チツトしつかりして
下
(
くだ
)
さらぬと
此
(
この
)
城
(
しろ
)
が
維持
(
もち
)
ませぬぞえ』
022
テーリスタンはヅブ
六
(
ろく
)
に
酔
(
よ
)
ひ、
023
巻
(
ま
)
き
舌
(
じた
)
になつて、
024
テーリスタン
『そんな
事
(
こと
)
に
抜目
(
ぬけめ
)
のある
様
(
やう
)
なテーリスタンとは、
025
ヘン、
026
チツト
違
(
ちが
)
ひますワイ。
027
あんまり
天下
(
てんか
)
の
勇士
(
ゆうし
)
を
安
(
やす
)
く
買
(
か
)
つて
下
(
くだ
)
さるまいかい。
028
私
(
わたし
)
も
張
(
は
)
り
合
(
あ
)
ひが
御座
(
ござ
)
らぬワ、
029
なア、
030
カーリンス』
031
カーリンス
『オーさうともさうとも、
032
年老
(
としよ
)
りの
冷水
(
ひやみづ
)
と
云
(
い
)
つてナ、
033
冷水
(
ひやみづ
)
をあびせ
掛
(
か
)
けられると、
034
折角
(
せつかく
)
酔
(
よ
)
うた
酒
(
さけ
)
までが
醒
(
さ
)
めて
了
(
しま
)
ふワ。
035
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
が
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
むのは
酔
(
よ
)
うて
管
(
くだ
)
を
巻
(
ま
)
き、
036
浩然
(
かうぜん
)
の
気
(
き
)
を
養
(
やしな
)
ふ
為
(
ため
)
だ。
037
此
(
この
)
きつい
山坂
(
やまさか
)
を
日
(
ひ
)
に
何回
(
なんくわい
)
となく、
038
上
(
のぼ
)
つたり
下
(
くだ
)
つたり
耐
(
たま
)
つたものぢやない。
039
偶
(
たまたま
)
高姫
(
たかひめ
)
が
乗
(
の
)
つて
来
(
き
)
た
飛行船
(
ひかうせん
)
を
占領
(
せんりやう
)
し、
040
ブウブウとやつたと
思
(
おも
)
へば
深霧
(
ふかぎり
)
の
為
(
ため
)
に
方向
(
はうかう
)
を
失
(
うしな
)
ひ、
041
大谷山
(
おほたにやま
)
の
横
(
よこ
)
つ
面
(
つら
)
に
打
(
ぶ
)
つ
付
(
つ
)
けて
割
(
わ
)
つて
了
(
しま
)
ひ、
042
其
(
その
)
時
(
とき
)
にアタ
怪体
(
けつたい
)
の
悪
(
わる
)
い、
043
大切
(
たいせつ
)
な
肱
(
ひじ
)
を
折
(
を
)
り、
044
漸
(
やうや
)
く
今
(
いま
)
旧
(
もと
)
のものになりかけた
所
(
ところ
)
だ。
045
それでも
時々
(
ときどき
)
物
(
もの
)
を
云
(
い
)
ひよつて、
046
冷
(
つめ
)
たい
朝
(
あさ
)
になるとヅキヅキと
痛
(
いた
)
むのだ。
047
これ
丈
(
だけ
)
命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
にアルプス
教
(
けう
)
の
為
(
た
)
めに
活動
(
くわつどう
)
して
居
(
を
)
るのだ。
048
酒
(
さけ
)
の
一杯
(
いつぱい
)
や
二杯
(
にはい
)
飲
(
の
)
んだつて、
049
それがナナ
何
(
なん
)
だい。
050
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
の
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
、
051
人
(
ひと
)
の
頭
(
かしら
)
に
成
(
な
)
らうと
思
(
おも
)
へば、
052
マチツト
大
(
おほ
)
きな
心
(
こころ
)
にならつしやい。
053
イチヤイチヤ
云
(
い
)
ふと
誰
(
たれ
)
も
彼
(
かれ
)
も
愛想
(
あいさう
)
を
尽
(
つ
)
かして、
054
遁
(
に
)
げて
了
(
しま
)
ふぢやないか、
055
ナア、
056
テーリスタン』
057
鷹依姫
『お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
はそれだから
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
ますと
困
(
こま
)
るのよ。
058
酒
(
さけ
)
位
(
くらゐ
)
はチツトも
惜
(
をし
)
くはないが、
059
後
(
あと
)
が
八釜敷
(
やかまし
)
いので
困
(
こま
)
ると
云
(
い
)
ふのだ。
060
今
(
いま
)
にも
三五教
(
あななひけう
)
へ
首
(
くび
)
を
突込
(
つつこ
)
んだとか
云
(
い
)
ふ、
061
豪傑
(
がうけつ
)
の
杢助
(
もくすけ
)
でもやつて
来
(
き
)
たら、
062
それこそ
大変
(
たいへん
)
ぢやないか』
063
テーリスタン
『
何
(
なに
)
、
064
そんな
心配
(
しんぱい
)
がいりますか。
065
それは
老婆心
(
らうばしん
)
と
云
(
い
)
ふものだ。
066
まだ
大将
(
たいしやう
)
は
中婆
(
ちうばあ
)
さんだから、
067
中婆心
(
ちうばしん
)
位
(
くらゐ
)
な
所
(
ところ
)
で
止
(
や
)
めて
置
(
お
)
いて
呉
(
く
)
れるといいのだけれど、
068
余
(
あんま
)
り
深案
(
ふかあん
)
じをなさるから、
069
却
(
かへ
)
つて
計画
(
けいくわく
)
に
齟齬
(
そご
)
を
来
(
きた
)
し、
070
鶍
(
いすか
)
の
嘴
(
はし
)
程
(
ほど
)
することなす
事
(
こと
)
が
食違
(
くひちが
)
ふのだ。
071
杢助
(
もくすけ
)
だらうが
雲助
(
くもすけ
)
だらうが、
072
あんなものが
五打
(
ごダース
)
や
十打
(
じふダース
)
束
(
たば
)
になつて
来
(
き
)
たつて
何
(
なに
)
が
恐
(
こは
)
いのだ。
073
そんな
事
(
こと
)
で
天下
(
てんか
)
万民
(
ばんみん
)
をバラモン
教
(
けう
)
乃至
(
ないし
)
アルプス
教
(
けう
)
へ、
074
入信
(
にふしん
)
させて
救
(
すく
)
ふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
るものか』
075
鷹依姫
『お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
今日
(
けふ
)
にかぎつて、
076
何時
(
いつ
)
もの
謹厳
(
きんげん
)
にも
似
(
に
)
ず、
077
教主
(
けうしゆ
)
の
私
(
わし
)
に、
078
反抗
(
はんかう
)
的
(
てき
)
態度
(
たいど
)
をとるのかい』
079
カーリンス
『
別
(
べつ
)
に
反抗
(
はんかう
)
も
服従
(
ふくじゆう
)
もありませぬワイ。
080
心
(
こころ
)
の
欲
(
ほつ
)
する
儘
(
まま
)
に
酒
(
さけ
)
が
言
(
い
)
はせて
居
(
ゐ
)
るのだ。
081
「
辛抱
(
しんばう
)
して
呉
(
く
)
れ
酒
(
さけ
)
が
言
(
い
)
ふのぢや
女房
(
にようばう
)
共
(
ども
)
」と
云
(
い
)
ふ
冠句
(
くわんく
)
を
何処
(
どこ
)
やらで
聴
(
き
)
いた
事
(
こと
)
がある。
082
決
(
けつ
)
して
肉体
(
にくたい
)
が
言
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
るのぢやありませぬよ。
083
酒
(
さけ
)
が
云
(
い
)
ふのですから
酒
(
さけ
)
を
叱
(
しか
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
084
酒
(
さけ
)
と
云
(
い
)
ふものは
好
(
よ
)
いもの……
悪
(
わる
)
う……ヤツパリないものだ。
085
アヽ、
086
サーサ
浮
(
う
)
いたり
浮
(
う
)
いたり、
087
瓢箪
(
へうたん
)
計
(
ばか
)
りが
浮
(
う
)
き
物
(
もの
)
か、
088
俺達
(
おれ
)
の
心
(
こころ
)
も
浮物
(
うきもの
)
だ。
089
三
(
さん
)
ぷん
五厘
(
ごりん
)
に
浮世
(
うきよ
)
を
暮
(
くら
)
し、
090
浮世
(
うきよ
)
トンボの
楽天
(
らくてん
)
主義
(
しゆぎ
)
、
091
これでなければ
人間
(
にんげん
)
は
長命
(
ながいき
)
は
出来
(
でき
)
ないなア。
092
お
婆
(
ば
)
アさま、
093
そんな
小六ケ敷
(
こむつかし
)
い
顔
(
かほ
)
をせずと、
094
チツトはお
前
(
まへ
)
さまも
酒
(
さけ
)
でも
飲
(
の
)
んで、
095
雪隠
(
せんち
)
の
洪水
(
こうずゐ
)
では
無
(
な
)
いが
糞浮
(
ばばうき
)
になつて
見
(
み
)
たらどうだいなア』
096
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
は
面
(
つら
)
を
膨
(
ふく
)
らし、
097
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
二人
(
ふたり
)
を
睨
(
ね
)
め
付
(
つ
)
けて、
098
鷹依姫
『お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
は
此
(
この
)
大勢
(
おほぜい
)
の
団体
(
だんたい
)
を、
099
統率
(
とうそつ
)
して
行
(
ゆ
)
かねばならぬ
役目
(
やくめ
)
でありながら、
100
何
(
なん
)
といふ
不心得
(
ふこころえ
)
の
事
(
こと
)
だえ。
101
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
はアルプス
教
(
けう
)
の
教主
(
けうしゆ
)
を
軽蔑
(
けいべつ
)
するのかナ』
102
テーリスタン
『どうでバラモン
教
(
けう
)
の
脱走組
(
だつそうぐみ
)
だから、
103
支店
(
してん
)
や
受
(
う
)
け
売
(
うり
)
か
或
(
あるひ
)
は
意匠
(
いしやう
)
登録権
(
とうろくけん
)
侵害教
(
しんがいけう
)
だ、
104
何処
(
どこ
)
に
尊敬
(
そんけい
)
する
価値
(
かち
)
がありますかい。
105
今迄
(
いままで
)
は
猫
(
ねこ
)
を
被
(
かぶ
)
つて
居
(
を
)
つたが、
106
肝腎
(
かんじん
)
の
紫
(
むらさき
)
の
玉
(
たま
)
は
高姫
(
たかひめ
)
に
呑
(
の
)
んでしまはれ、
107
黒姫
(
くろひめ
)
と
高姫
(
たかひめ
)
は
中々
(
なかなか
)
豪
(
がう
)
のものだから、
108
針
(
はり
)
の
穴
(
あな
)
からでも、
109
出
(
で
)
ようと
思
(
おも
)
へば
出
(
で
)
るといふ
魔力
(
まりよく
)
のある
奴
(
やつ
)
だ。
110
彼奴
(
あいつ
)
がアーして
神妙
(
しんめう
)
に
百
(
ひやく
)
日
(
にち
)
も
物
(
もの
)
を
喰
(
く
)
はずに
平然
(
へいぜん
)
として
居
(
を
)
るのは、
111
何
(
なに
)
か
心
(
こころ
)
に
頼
(
たの
)
む
所
(
ところ
)
があるからだ。
112
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
ると
此
(
この
)
館
(
やかた
)
は
三方
(
さんぱう
)
から
三五教
(
あななひけう
)
に
攻撃
(
こうげき
)
せられ、
113
蟹
(
かに
)
の
手足
(
てあし
)
をもいだ
様
(
やう
)
な、
114
身動
(
みうご
)
きもならぬ
憂目
(
うきめ
)
に
逢
(
あ
)
ふのは
目睫
(
もくせふ
)
の
間
(
あひだ
)
に
迫
(
せま
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
115
エーもう
雪隠
(
せんち
)
の
火事
(
くわじ
)
だ。
116
焼糞
(
やけくそ
)
だ。
117
お
前
(
まへ
)
の
様
(
やう
)
な
婆
(
ばば
)
に
相手
(
あひて
)
になつて
居
(
を
)
つても
末
(
すゑ
)
の
見込
(
みこみ
)
がない。
118
サア
怒
(
おこ
)
るなら
怒
(
おこ
)
つて
見
(
み
)
よ。
119
棺桶
(
くわんをけ
)
に
片足
(
かたあし
)
を
突込
(
つつこ
)
んだ
婆
(
ばば
)
と、
120
屈強盛
(
くつきやうざか
)
りのテーリスタン、
121
カーリンスには
到底
(
たうてい
)
歯節
(
はぶし
)
は
立
(
た
)
つまい、
122
アハヽヽヽ』
123
と
徳利
(
とくり
)
を
口
(
くち
)
に
当
(
あ
)
てガブリガブリと
飲
(
の
)
んでは、
124
右
(
みぎ
)
の
手
(
て
)
で
自分
(
じぶん
)
の
額
(
ひたひ
)
を
叩
(
たた
)
き、
125
テーリスタン
『ナア、
126
カーリンス、
127
好
(
よ
)
う
利
(
き
)
く
酒
(
さけ
)
ぢやないか。
128
婆
(
ばば
)
の
耳
(
みみ
)
より
余程
(
よつぽど
)
利
(
き
)
きがよいぞ、
129
オホヽヽヽアハヽヽヽ』
130
と
無性
(
むしやう
)
矢鱈
(
やたら
)
にヤケ
酒
(
ざけ
)
を
煽
(
あふ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
131
其処
(
そこ
)
へ
六
(
ろく
)
歳
(
さい
)
になつたお
初
(
はつ
)
が、
132
御免
(
ごめん
)
とも
何
(
なん
)
とも
言
(
い
)
はずツカツカと
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
133
お初
『
小父
(
をぢ
)
さま、
134
私
(
わたし
)
にも
一杯
(
いつぱい
)
つがして
頂戴
(
ちやうだい
)
な』
135
カーリンス
『ヤアお
前
(
まへ
)
は
何処
(
どこ
)
から
来
(
き
)
たのか。
136
ホンに
可愛
(
かあい
)
い
児
(
こ
)
だなア。
137
婆
(
ばば
)
の
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
てお
小言
(
こごと
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
しながら
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
んでも
根
(
ね
)
つから
甘
(
うま
)
くない、
138
子供
(
こども
)
でもよい、
139
其
(
その
)
可愛
(
かあい
)
らしい
手
(
て
)
で
一
(
ひと
)
つ
酌
(
つ
)
いで
呉
(
く
)
れ。
140
然
(
しか
)
し
徳利
(
とくり
)
が
重
(
おも
)
いから
落
(
おと
)
さぬ
様
(
やう
)
にしてくれよ』
141
お初
『
小父
(
をぢ
)
さま、
142
こんな
徳利
(
とくり
)
が
重
(
おも
)
たいやうな
事
(
こと
)
で、
143
こんな
岩窟
(
いはや
)
へ
一人
(
ひとり
)
這入
(
はい
)
つて
来
(
こ
)
られますか』
144
テーリスタン
『そらさうだ。
145
お
前
(
まへ
)
は
悧巧
(
りかう
)
な
奴
(
やつ
)
だ。
146
さうして
一人
(
ひとり
)
来
(
き
)
たのかい』
147
お初
『イエイエお
父
(
とう
)
さまに
背負
(
おぶさ
)
つて
来
(
き
)
たのよ。
148
お
父
(
とう
)
さまは
今
(
いま
)
高姫
(
たかひめ
)
、
149
黒姫
(
くろひめ
)
さまを
引張
(
ひつぱ
)
りだし、
150
鷹依姫
(
たかよりひめ
)
とかいふお
婆
(
ば
)
アさまを
改心
(
かいしん
)
させ、
151
テー、
152
カーの
両人
(
りやうにん
)
を
乾児
(
こぶん
)
にして
遣
(
や
)
らうと
云
(
い
)
うて、
153
天
(
あめ
)
の
森
(
もり
)
で
相談
(
そうだん
)
をして
居
(
ゐ
)
たよ』
154
テーリスタン
『
何
(
なに
)
、
155
お
前
(
まへ
)
のお
父
(
とう
)
さまが、
156
俺
(
おれ
)
を
乾児
(
こぶん
)
にして
遣
(
や
)
らうと
言
(
い
)
つて
居
(
を
)
つたか。
157
あんな
大将
(
たいしやう
)
の
乾児
(
こぶん
)
になれば、
158
世界
(
せかい
)
に
恐
(
おそ
)
る
可
(
べ
)
き
者
(
もの
)
なしだ。
159
チツト
許
(
ばか
)
りの
酒
(
さけ
)
を
飲
(
の
)
んでも
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
言
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
大将
(
たいしやう
)
に
虱
(
しらみ
)
の
卵
(
たまご
)
の
様
(
やう
)
に
死
(
し
)
んでも
離
(
はな
)
れぬと
云
(
い
)
ふ
様
(
やう
)
な
調子
(
てうし
)
で
随
(
つ
)
いて
居
(
を
)
つては
大変
(
たいへん
)
だ。
160
ヤアこれで
酒
(
さけ
)
もチツトは
味
(
あぢ
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たやうだ。
161
オイ
婆
(
ば
)
アさま、
162
此
(
この
)
テー、
163
カーは
最早
(
もはや
)
お
前
(
まへ
)
の
部下
(
ぶか
)
ではない
程
(
ほど
)
に、
164
勿体
(
もつたい
)
なくも
武術
(
ぶじゆつ
)
の
達人
(
たつじん
)
、
165
湯谷
(
ゆや
)
ケ
嶽
(
だけ
)
の
杢助
(
もくすけ
)
さまの
乾児
(
こぶん
)
だ、
166
いや
兄弟分
(
きやうだいぶん
)
だ。
167
サア、
168
トツトと
城
(
しろ
)
明
(
あ
)
け
渡
(
わた
)
して
出
(
で
)
やつせい。
169
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
ると
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれて、
170
お
前
(
まへ
)
の
土堤腹
(
どてつぱら
)
に
大
(
おほ
)
きな
風穴
(
かぜあな
)
を
穿
(
うが
)
ち、
171
其処
(
そこ
)
から
棍棒
(
こんぼう
)
を
通
(
とほ
)
して、
172
聖地
(
せいち
)
へ
担
(
かつ
)
いで
帰
(
かへ
)
るかも
知
(
し
)
れないぞ。
173
足許
(
あしもと
)
の
明
(
あか
)
るい
間
(
うち
)
に、
174
早
(
はや
)
くトツトと
尻
(
しり
)
引
(
ひ
)
つからげたがお
前
(
まへ
)
の
得
(
とく
)
だらうよ、
175
のうカーリンス』
176
鷹依姫
『
何
(
な
)
んとお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
水臭
(
みづくさ
)
い
奴
(
やつ
)
だなア。
177
何処
(
どこ
)
々々
(
どこ
)
迄
(
まで
)
もお
伴
(
とも
)
を
致
(
いた
)
しますと
誓
(
ちか
)
つたぢやないか』
178
カーリンス
『
馬鹿
(
ばか
)
だなア、
179
さう
言
(
い
)
はなくちや、
180
重
(
おも
)
く
用
(
もち
)
ひて
呉
(
く
)
れないから、
181
処世
(
しよせい
)
上
(
じやう
)
の
慣用
(
くわんよう
)
手段
(
しゆだん
)
として、
182
言
(
い
)
はば
円滑
(
ゑんくわつ
)
な
辞令
(
じれい
)
を
用
(
もち
)
ひたまでだよ、
183
のうテーリスタン』
184
鷹依姫
『
何
(
な
)
んとよくお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
心
(
こころ
)
は
変
(
かは
)
るものだなア』
185
カーリンス
『
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
だ、
186
時
(
とき
)
の
天下
(
てんか
)
に
従
(
したが
)
へと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
がある。
187
何時迄
(
いつまで
)
も
世
(
よ
)
は
持
(
も
)
ち
切
(
き
)
りにはならぬぞ。
188
変
(
かは
)
る
時節
(
じせつ
)
にや
神
(
かみ
)
でも
変
(
かは
)
るのだ。
189
呆
(
とぼ
)
けた
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふない。
190
矢張
(
やつぱり
)
婆
(
ばば
)
だけあつて
頭
(
あたま
)
が
古
(
ふる
)
いなア。
191
チツト
古
(
ふる
)
い
血
(
ち
)
を
出
(
だ
)
して
新
(
あたら
)
しい
血
(
ち
)
と
入
(
い
)
れ
替
(
か
)
へて
遣
(
や
)
らうかい』
192
といきなり
拳
(
こぶし
)
を
固
(
かた
)
めて
叩
(
たた
)
かうとするを、
193
お
初
(
はつ
)
は
遮
(
さへぎ
)
つて、
194
お初
『これこれ
小父
(
をぢ
)
さま、
195
そんな
乱暴
(
らんばう
)
してはいけませぬ。
196
お
婆
(
ば
)
アさま、
197
随分
(
ずゐぶん
)
貴女
(
あなた
)
も
悪
(
わる
)
い
奴
(
やつ
)
を
信用
(
しんよう
)
したものですなア』
198
テーリスタン
『コラコラ
子供
(
こども
)
の
癖
(
くせ
)
に
何
(
な
)
んと
云
(
い
)
ふ
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ふのだい。
199
小父
(
をぢ
)
さまは
斯
(
か
)
う
見
(
み
)
えても
時代
(
じだい
)
に
順応
(
じゆんおう
)
する、
200
立派
(
りつぱ
)
な
文化
(
ぶんくわ
)
生活
(
せいくわつ
)
をやつて
居
(
ゐ
)
る
新
(
あたら
)
しい
人間
(
にんげん
)
だぜ。
201
余
(
あんま
)
り
見損
(
みそこな
)
ひをしてくれるない』
202
お初
『
小父
(
をぢ
)
さま、
203
子供
(
こども
)
だから
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふか
知
(
し
)
れはしないよ。
204
大
(
おほ
)
きな
男
(
をとこ
)
が
学齢
(
がくれい
)
にも
達
(
たつ
)
しない
子供
(
こども
)
を
捉
(
つか
)
まへて、
205
理屈
(
りくつ
)
を
言
(
い
)
ふのが
間違
(
まちが
)
つて
居
(
ゐ
)
るよ、
206
オホヽヽヽ』
207
カーリンス
『ヤア
杢助
(
もくすけ
)
親分
(
おやぶん
)
のお
嬢
(
ぢやう
)
さまだけあつて、
208
さすが
偉
(
えら
)
いものだなア。
209
…お
嬢
(
ぢやう
)
さま、
210
どうぞ
我々
(
われわれ
)
二人
(
ふたり
)
を、
211
お
父
(
とう
)
さまに
好
(
よ
)
く
言
(
い
)
つて、
212
可愛
(
かあい
)
がつて
下
(
くだ
)
さいねエ』
213
お初
『
子供
(
こども
)
に
大人
(
おとな
)
が
可愛
(
かあい
)
がつて
呉
(
く
)
れと
云
(
い
)
ふのは、
214
チツト
可笑
(
をか
)
しいぢやありませぬか、
215
妙
(
めう
)
なおつさんだなア』
216
鷹依姫
『お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
二人
(
ふたり
)
は、
217
ほんたうに
杢助
(
もくすけ
)
の
乾児
(
こぶん
)
になるつもりかい』
218
テーリスタン
『
定
(
き
)
まり
切
(
き
)
つた
事
(
こと
)
だい、
219
早
(
はや
)
く
何処
(
どこ
)
なと
出
(
で
)
て
行
(
ゆ
)
け。
220
今
(
いま
)
に
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
見
(
み
)
えたら、
221
黒姫
(
くろひめ
)
、
222
高姫
(
たかひめ
)
をあんな
処
(
ところ
)
へ
突込
(
つつこ
)
んで
於
(
おい
)
ては
申訳
(
まをしわけ
)
がない。
223
……カーリンス、
224
お
前
(
まへ
)
は
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
監督
(
かんとく
)
し
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
の
見張
(
みは
)
りをして
居
(
を
)
れ。
225
俺
(
おれ
)
は
奥
(
おく
)
へ
行
(
い
)
つて、
226
高姫
(
たかひめ
)
、
227
黒姫
(
くろひめ
)
お
二人
(
ふたり
)
さまにお
願
(
ねが
)
ひ
申
(
まを
)
して、
228
岩戸
(
いはと
)
から
出
(
で
)
て
貰
(
もら
)
ふから、
229
好
(
い
)
いか』
230
カーリンス
『ヨシヨシ
呑
(
の
)
み
込
(
こ
)
んだ、
231
早
(
はや
)
く
行
(
い
)
つてこい。
232
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
ゐ
)
ると
最早
(
もはや
)
難関
(
なんくわん
)
を
突破
(
とつぱ
)
して
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が、
233
二百三
(
にひやくさん
)
高地
(
かうち
)
とも
云
(
い
)
ふ
可
(
べ
)
き
天
(
あめ
)
の
森
(
もり
)
にやつて
来
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
るのだから、
234
開城
(
かいじやう
)
するなら
気
(
き
)
よう
開城
(
かいじやう
)
する
方
(
はう
)
が
後
(
あと
)
の
利益
(
ため
)
だ』
235
と
言
(
い
)
ひ
捨
(
す
)
てて、
236
高姫
(
たかひめ
)
、
237
黒姫
(
くろひめ
)
を
閉
(
と
)
ぢ
込
(
こ
)
めた
岩窟
(
いはや
)
の
前
(
まへ
)
に
周章
(
あわただ
)
しく
駆
(
かけ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
238
(
大正一一・五・二一
旧四・二五
谷村真友
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