霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 恩愛(おんあい)(なみだ)〔六八八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻 篇:第3篇 男女共権 よみ(新仮名遣い):だんじょきょうけん
章:第14章 恩愛の涙 よみ(新仮名遣い):おんあいのなみだ 通し章番号:688
口述日:1922(大正11)年05月20日(旧04月24日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月5日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
玉治別と杢助・お初親子は、津田の湖水を渡って高春山の正面から攻め上った。三人は途中、一人の女がアルプス教の手の者たちに捕らえられて責められているところに出くわした。
杢助によってアルプス教の者たちは追い払われた。女は玉治別の妻・お勝であった。お勝は父の松鷹彦の病気を夫に知らせるためにやってきたのであった。
しかし玉治別は今は宣伝使の使命として高春山の言霊戦に携わる身であり、女を連れることはできないと言い渡した。そして、自分の使命を知っていながら情に曇らされて行動するような女は自分の妻ではない、と厳しくお勝を諌めた。
玉治別の言葉にお勝は自分の非を悟り、帰って行った。杢助は玉治別の心中を察して慰めの言葉をかけ、三人は高春山へと登っていく。
お勝は帰り道の道中、自分の非を悔い、夫の諭しに感謝をする宣伝歌を歌った。武志の宮に帰りつくと、父の松鷹彦は気分良く天の真浦に介抱されながら、お勝の帰りを出迎えた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-05-16 19:33:11 OBC :rm2114
愛善世界社版:229頁 八幡書店版:第4輯 348頁 修補版: 校定版:236頁 普及版:103頁 初版: ページ備考:
001 玉治別(たまはるわけ)津田(つだ)湖水(こすゐ)(わた)つて、002高春山(たかはるやま)正面(しやうめん)より()(のぼ)()く。003杢助(もくすけ)はお(はつ)(せな)()(その)(あと)(したが)ふ。004()(やうや)()()てて、005(つき)雪雲(ゆきぐも)(つつ)まれ、006姿(すがた)朧気(おぼろげ)天空(てんくう)明滅(めいめつ)して()る。007一行(いつかう)は、008とある木蔭(こかげ)立寄(たちよ)りて(いき)(やす)める折柄(をりから)に、009(あわ)ただしき数多(あまた)(ひと)足音(あしおと)010刻々(こくこく)近寄(ちかよ)(きた)る。011玉治別(たまはるわけ)012杢助(もくすけ)朧月夜(おぼろづきよ)木蔭(こかげ)に、013何事(なにごと)ならむと()かし()れば、014一人(ひとり)(をんな)猿轡(さるぐつわ)()ませ、015エイヤエイヤと()ひつつ(かつ)(きた)る。016様子(やうす)あらんと両人(りやうにん)(いき)()らして(なが)むれば、017数多(あまた)(をとこ)は、018一人(ひとり)(をんな)()(まへ)木蔭(こかげ)(やや)(ひろ)(ところ)(おろ)し、019猿轡(さるぐつわ)()何事(なにごと)かよつて(たか)つて、020訊問(じんもん)(はじ)()した。
021『コレヤ(をんな)022貴様(きさま)何処(いづこ)(もの)だ。023白状(はくじやう)いたせ』
024女(お勝)(わたし)(みやこ)(もの)御座(ござ)います』
025馬鹿(ばか)()ふな。026(この)(くろ)()でチヨツと(にら)んだら間違(まちがひ)はないぞ。027貴様(きさま)田舎(ゐなか)(をんな)であらうがな』
028女(お勝)『それを(たづ)ねてどうなさいますか』
029必要(ひつえう)があつて(たづ)ねるのだ。030綺麗(きれい)サツパリと白状(はくじやう)(いた)して(しま)へ』
031女(お勝)(わたし)浪速(なには)(みやこ)(うま)れた(もの)御座(ござ)います。032(ちち)もなければ、033(はは)もなし、034兄弟姉妹(きやうだい)もなき(あは)れな独身者(ひとりもの)035(この)山奥(やまおく)(まぎ)()み、036あなた(がた)(とら)へられたので御座(ござ)いますが、037何一(なにひと)(わる)(こと)(いた)した(おぼ)えがありませぬ。038どうぞ見遁(みのが)して(くだ)さいませ』
039貴様(きさま)はアルプス(けう)重要(ぢうえう)書類(しよるゐ)()()れた(やつ)女房(にようばう)間違(まちが)ひない。040サア有体(ありてい)(きさま)(をつと)所在(ありか)(および)書類(しよるゐ)所在(ありか)白状(はくじやう)(いた)せ』
041女(お勝)(なに)かと(おも)へば、042(おも)ひも()けぬ(めう)()(たづ)ね、043左様(さやう)(こと)(いま)聞始(ききはじ)めで御座(ござ)いますワ』
044(きさま)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)の……()(わす)れたが……女房(にようばう)であらう』
045女(お勝)『イエイエ(けつ)して(けつ)して、046左様(さやう)(もの)では御座(ござ)いませぬ』
047度渋(どしぶ)とい、048白々(しらじら)しい(をんな)だ。049仮令(たとへ)水責(みづぜ)火責(ひぜ)めに()はしても、050白状(はくじやう)させねば()くものか』
051女(お勝)(なん)仰有(おつしや)りましても、052()らぬ(こと)何処迄(どこまで)()りませぬ』
053此奴(こいつ)ア、054一通(ひととほ)りでは(ぬか)すまい……オイ(みな)(やつ)055真裸(まつぱだか)にして面白(おもしろ)芸当(げいたう)をやらしてやらうぢやないか』
056一同『よからう よからう』
057一同(いちどう)()きひしる(をんな)真裸(まつぱだか)になし、
058『サア(をんな)059ワンと()へ、060(ぬか)さな、061(この)かつ(くひ)貴様(きさま)(あたま)にお見舞(みまひ)(まを)すぞ』
062女(お勝)(なん)仰有(おつしや)つても、063人間(にんげん)畜生(ちくしやう)真似(まね)出来(でき)ませぬワ』
064出来(でき)なくば白状(はくじやう)(いた)すのだ。065……サア、066ワンと(まを)せ』
067 一同(いちどう)(こゑ)(そろ)へて、
068一同『ワツハヽヽヽ………』
069(わら)ふ。070(たちま)(かた)への()小蔭(こかげ)より、
071(杢助)『ヤアヤア アルプス(けう)悪魔(あくま)(ども)072よつく()け。073(それがし)こそは、074湯谷(ゆや)(だけ)(ふもと)(おい)英雄(えいゆう)豪傑(がうけつ)(きこ)えたる、075木挽(こびき)杢助(もくすけ)076本名(ほんみやう)時置師(ときおかしの)(かみ)だ。077(いち)()(はや)前非(ぜんぴ)()い、078(その)(をんな)衣服(いふく)()せ、079(なんぢ)()真裸(まつぱだか)となつて()(ばひ)になり、080ワンワンと()えよ。081違背(ゐはい)(およ)ばば(この)杢助(もくすけ)片端(かたつぱし)から(なんぢ)()素首(そつくび)捻切(ねぢき)つてやるぞ』
082『オイ(えら)(やつ)()んな(ところ)までやつて()やがつたぢやないか。083真裸(まつぱだか)になつて()(ばい)になるのは残念(ざんねん)だし、084どうしようかなア』
085『サア、086()げろ()げろ』
087杢助『コレヤ者共(ものども)088()げようといつても、089(にが)しはせぬぞ。090()げるなら()げて()よ。091四方(しはう)八方(はつぱう)味方(みかた)強者(つはもの)取巻(とりま)かせ()いたれば、092一寸(いつすん)でも(この)()(うご)くが最後(さいご)093(なんぢ)身体(しんたい)木端(こつぱ)微塵(みぢん)だ。094それでも(かま)はねば、095どちらへなりと勝手(かつて)(はし)れ』
096『オイ(みな)(やつ)097どうしようかなア』
098(なん)()つても生命(いのち)大事(だいじ)だ。099(はだか)になつて、100また着物(きもの)()れば()いぢやないか。101仮令(たとへ)ワンワンと()つた(ところ)で、102(その)(まま)(いぬ)になつて(しま)ふのでもなし、103此処(ここ)(ひと)安全策(あんぜんさく)に、104()註文(ちゆうもん)(どほ)真裸(まつぱだか)となり、105ワンと一声(ひとこゑ)()えて()ようぢやないか』
106(この)(さむ)いのに真裸(まつぱだか)になつたら、107(ふる)ひあがるぢやないか』
108杢助貴様(きさま)(さむ)いのも、109(この)(をんな)(さむ)いのも(おな)(こと)だ。110(はや)(をんな)着物(きもの)をお()(まを)せ。111愚図(ぐづ)々々(ぐづ)(いた)すと、112杢助(もくすけ)(なんぢ)雁首(がんくび)引抜(ひきぬ)かうか』
113(丙?)『マアマアマア杢助(もくすけ)さん、114貴方(あなた)()芳名(はうめい)(この)(へん)()らない(もの)はありませぬ。115(えら)(かた)()(こと)は、116我々(われわれ)仲間(なかま)もよく()つて()ります。117どうぞ()つて(くだ)さいませ』
118杢助(はや)着物(きもの)()せないか』
119『ハイ、120コラコラ(みな)(やつ)121着物(きもの)()つて()い。122(この)()婦人(ふじん)鄭重(ていちよう)()せるのだ』
123 (へい)(おそ)(おそ)着物(きもの)()つて、124コハゴハ(をんな)(うしろ)()(きた)り、125一間(いつけん)(ほど)距離(きより)から、126(をんな)背中(せなか)()がけてポイと()り、127二三間(にさんげん)(あと)ずさりし、128()(かぶ)(つまづ)いてドスンと尻餅(しりもち)をつき、129「アイタヽヽ」と(かほ)をしかめて()る。130(をんな)早速(さつそく)(その)着物(きもの)()け、
131女(お勝)(いづ)れの(かた)(ぞん)じませぬが、132危急(ききふ)場合(ばあひ)133ようお(たす)(くだ)さいました』
134杢助(その)()(れい)には(およ)びませぬ。135……ヤイヤイ(みな)(やつ)136そこに真裸(まつぱだか)となつて()はないか。137(はや)()はぬと(くび)引抜(ひきぬ)くぞ』
138 一同(いちどう)はブツブツ小声(こごゑ)(つぶや)(なが)ら、139真裸(まつぱだか)(まま)140蛙突這(かへるつくばひ)になつて(ふる)うて()る。
141杢助『コレコレお女中(ぢよちう)142(その)着物(きもの)をお(まへ)さまは()苦労(くらう)だが、143一々(いちいち)(たた)んで始末(しまつ)をつけて(くだ)さい。144さうして一所(ひととこ)(あつ)め、145(おび)でグツと(くく)り、146(この)杢助(もくすけ)(かつ)いで津田(つだ)(うみ)へ、147ドンブリと()()んで(しま)(かんが)へだから……』
148『モシモシ(この)(さむ)いのに着物(きもの)()られては、149息絶(いきつ)いて(しま)ひます。150どうぞ着物(きもの)だけは(ゆる)して(くだ)さい』
151杢助『ヨシ、152それなら着物(きもの)(その)(まま)にして()かう。153(おれ)泥棒(どろばう)になつたと()はれては末代(まつだい)(はぢ)だから……、154(しか)(この)杢助(もくすけ)一度(いちど)()()したら(あと)へは()かぬ(をとこ)だ。155サア、156一度(いちど)にワンと()へ』
157 一同(いちどう)(かほ)見合(みあは)(なが)ら、158(ちひ)さい(こゑ)で、
159甲乙丙『イイ……ワン』
160()える。
161杢助『コレヤコレヤ貴様(きさま)162ワンの(まへ)(なん)だか()いて()たぢやないか』
163『ハイ……イウイウ……幽霊(いうれい)()いて()りました』
164杢助貴様(きさま)は……ワンと()(なが)ら……イワンと(ぬか)すのか。165どこまでも負惜(まけをし)みの(つよ)(やつ)だな。166マア一時(ひととき)ばかり……ワンは()()りで(こら)へてやる、167(その)(かは)りに赤裸(はだか)辛抱(しんばう)(いた)せ。168何程(なにほど)(さむ)くても(この)杢助(もくすけ)はカマワンぢや、169アハヽヽヽ。170モシモシお女中(ぢよちう)さま、171(まへ)さまは何処(どこ)のお(かた)だ』
172女(お勝)『ハイ、173(わたし)宇都山(うづやま)(むら)(もの)御座(ござ)います。174老人(としより)急病(きふびやう)(こま)つて()りますので、175(わが)(をつと)玉治別(たまはるわけ)()らさうと(おも)ひ、176聖地(せいち)(まゐ)つて(うけたま)はれば、177高春山(たかはるやま)言霊戦(ことたません)出陣(しゆつぢん)したとやら、178旦夕(たんせき)(せま)(ちち)生命(いのち)179(いち)()(はや)(わたし)(をんな)()なれども、180高春山(たかはるやま)言向(ことむ)(せん)()加勢(かせい)をなし、181(ちち)生存中(せいぞんちゆう)(をつと)()はせたいばつかりにやつて()ました』
182杢助(なに)183玉治別(たまはるわけ)宣伝使(せんでんし)貴女(あなた)(をつと)とな。184コレコレ玉治別(たまはるわけ)さま、185(おく)さまがお()えになつて()ます。186なぜ()挨拶(あいさつ)をなさいませぬか』
187玉治別(わたし)高春山(たかはるやま)言霊戦(ことたません)()みますまで、188(をんな)()れる(こと)出来(でき)ませぬ。189(だん)じて(わたし)女房(にようばう)ではありますまい』
190杢助『それでも(いま)本人(ほんにん)がさう仰有(おつしや)つたではありませぬか』
191玉治別『ヤアそれなる(をんな)192(わが)女房(にようばう)()(いつは)り──不届(ふとどき)至極(しごく)(やつ)193(わが)女房(にようばう)女々(めめ)しくも神業(しんげふ)のため出陣(しゆつぢん)したる(をつと)(あと)()(ごと)狼狽者(うろたへもの)ではない。194仮令(たとへ)(おや)急病(きふびやう)なればとて、195公私(こうし)混同(こんどう)し、196(をつと)大事(だいじ)(あやま)らしむる(ごと)馬鹿(ばか)女房(にようばう)()たない。197(いづ)れの(をんな)()らねども一刻(いつこく)(はや)(この)()立去(たちさ)れ』
198 お(かつ)(なみだ)(ふる)ひ、
199お勝『あなたの()心中(しんちう)……イヤお言葉(ことば)はよく(わか)りました。200(けつ)して(わたし)玉治別(たまはるわけ)宣伝使(せんでんし)女房(にようばう)では御座(ござ)いませぬ』
201杢助不届(ふとど)きな(をんな)(ども)()202我々(われわれ)男子(だんし)(たば)かるとは何事(なにごと)ぞ。203…コレコレ玉治別(たまはるわけ)さま、204(ひと)()らしめておやりなさい』
205 玉治別(たまはるわけ)熱涙(ねつるゐ)()(なが)ら、206(かつ)(まへ)(すす)()り、
207玉治別不届(ふとど)至極(しごく)(をんな)()208(なんぢ)真裸(まつぱだか)にして(かは)()()んでも、209(なほ)()らぬ不届(ふとどき)(やつ)なれど、210今日(けふ)差赦(さしゆる)して(つか)はす。211サア(はや)(この)()立去(たちさ)れ。212玉治別(たまはるわけ)女房(にようばう)(けつ)してそんな未練(みれん)(わけ)(わか)らぬ(もの)ではないぞ。213アハヽヽヽ、214杢助(もくすけ)さま、215(めう)(やつ)もあるものですな』
216杢助『それなる(をんな)217(なんぢ)(かなら)(をつと)があるであらう。218(をつと)名誉(めいよ)毀損(きそん)する(やう)行状(ぎやうじやう)(けつ)して(いた)すでないぞや。219(また)(なんぢ)(をつと)ありとせば、220(かなら)(をつと)無情(むじやう)(うら)んではならぬぞや』
221 お(かつ)(なみだ)(ぬぐ)(なが)ら、
222お勝『ハイ(わたし)御存(ごぞん)じの(とほ)りの狼狽(うろた)へた(をんな)御座(ござ)います。223まだ(さいはひ)(をつと)()ちませぬ。224(しか)(なが)ら、225()霊魂(れいこん)(じやう)(をつと)がありとすれば、226如何(いか)なる無情(むじやう)仕打(しうち)をなされましても(けつ)して(うら)みとは(ぞん)じませぬ。227(をんな)はしたない(こころ)から、228皆様(みなさま)()心配(しんぱい)をかける(やう)(こと)(つつし)みます。229これから(わたし)(くに)(かへ)りますから、230皆様(みなさま)()安心(あんしん)(くだ)さいませ』
231玉治別道中(だうちう)小盗人(こぬすと)往来(わうらい)(いた)して()るから、232神言(かみごと)奏上(そうじやう)し、233随分(ずゐぶん)()()けて(かへ)つたがよからうぞ』
234お勝『ハイハイ有難(ありがた)御座(ござ)います。235あなたの()親切(しんせつ)なお言葉(ことば)はどこまでも(わす)れませぬ。236左様(さやう)なれば不束者(ふつつかもの)(をんな)237これでお(わか)(いた)します。238随分(ずゐぶん)皆様(みなさま)239()()けてお()でなさいませ。240()成功(せいこう)()つて()ります』
241杢助『ヤア()女中(ぢよちう)242()心底(しんてい)()(さつ)(まを)す。243(この)杢助(もくすけ)だとて、244()もあれば(なみだ)もある。245(いま)(なに)()はぬが(はな)246(また)()にかかる(こと)がありませう』
247お勝『ハイハイ有難(ありがた)御座(ござ)います』
248とシホシホとして足早(あしばや)(あと)()(かへ)り、249()(かへ)り、250月夜(つきよ)木蔭(こかげ)()えて(しま)つた。
251杢助玉治別(たまはるわけ)さま、252(めう)(こと)出会(でつくは)したものですなア。253随分(ずゐぶん)(かみ)(さま)御用(ごよう)をして()ると、254局面(きよくめん)(たちま)一変(いつぺん)し、255愉快(ゆくわい)(こと)があつたり、256(つら)(こと)があつたり、257イヤもう大変(たいへん)結構(けつこう)()神徳(しんとく)(いただ)きました。258あなたも(さだ)めて()修行(しうぎやう)出来(でき)たでせう』
259玉治別『ハイ有難(ありがた)う。260千万(せんばん)無量(むりやう)(おも)ひ……(いな)()神徳(しんとく)(いただ)きました』
261お初『サアサア小父(をぢ)さま、262(とう)さま、263ボツボツ(まゐ)りませう』
264 杢助(もくすけ)()うた()(をし)へられ、265浅瀬(あさせ)(わた)心地(ここち)にて、266森林(しんりん)(なか)山上(さんじやう)()がけてスタスタと(のぼ)()く。267玉治別(たまはるわけ)時々(ときどき)(ふと)(いき)をつき(なが)ら、268ワザと元気(げんき)(よそほ)ひ、269(あと)()いて()く。
270 お(かつ)道々(みちみち)小声(こごゑ)(うた)(なが)ら、271(あし)(はや)めて帰路(きろ)()いた。
272お勝(かみ)(おもて)(あら)はれて
273(ぜん)(あく)とを立別(たてわけ)
274三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)
275玉治別(たまはるわけ)(あら)はれて
276言依別(ことよりわけ)神言(かみごと)
277(かしこ)みまつり三人(みたり)()
278高春山(たかはるやま)(いさぎよ)
279()でます(あと)(かな)しくも
280(ちから)(おも)父上(ちちうへ)
281(にはか)(やまひ)()(たま)
282(めい)旦夕(たんせき)(せま)()
283(あめ)真浦(まうら)宣伝使(せんでんし)
284(あに)(みこと)はましませど
285義理(ぎり)(なか)なる(おとうと)
286玉治別(たまはるわけ)のわが(をつと)
287(ちち)()()()はずして
288(むな)しく(かへ)(たま)ひなば
289(なん)とて(みち)(かな)ふべき
290(かみ)(ゐやま)ひわが(おや)
291孝養(かうやう)(つく)すは()たる()
292(つと)めと(かた)()くからは
293女房(にようばう)()として()てらりよか
294(あに)(みこと)(ゆる)されて
295(ちち)病気(びやうき)(すく)はむと
296聖地(せいち)(まゐ)真心(まごころ)
297()めて恢復(くわいふく)(いの)りつつ
298(こころ)(やみ)(つつ)まれて
299(とほ)(みち)をばスタスタと
300玉治別(たまはるわけ)国依別(くによりわけ)
301(かな)しき(なか)兄弟(きやうだい)
302(ちち)様子(やうす)()らさむと
303(きた)りて()ればアルプスの
304(かみ)(をしへ)手下(てした)(ども)
305われを(とら)へて難題(なんだい)
306()きかけ(きた)(おそ)ろしさ
307わが()(あや)ふくなりし(とき)
308(たちま)木蔭(こかげ)(ひと)(こゑ)
309杢助(もくすけ)さまとか()(ひと)
310(あら)はれ(たま)ひて悪者(わるもの)
311()退(しりぞ)けて(くだ)さつた
312あゝ有難(ありがた)有難(ありがた)
313(かみ)(わたし)をどこまでも
314(いた)はりますか(たふと)やと
315(なみだ)(むせ)(をり)(をり)
316(をつと)(こゑ)によく()たる
317(その)言霊(ことたま)(むね)(をど)
318()()きたくは(おも)へども
319悪魔(あくま)征途(せいと)(のぼ)りたる
320玉治別(たまはるわけ)はどこまでも
321(つま)ではないとしらばくれ
322千万(せんまん)無量(むりやう)(かな)しみを
323(こころ)(つつ)(たま)ひつつ
324事理(じり)明白(めいはく)(おん)(をしへ)
325世間(せけん)義理(ぎり)にからまれて
326不覚(ふかく)()りし(われ)こそは
327()(あさ)ましき(こころ)かな
328あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
329御霊(みたま)(さち)はひましまして
330(まよ)()てたるわが(こころ)
331直日(なほひ)見直(みなほ)聞直(ききなほ)
332()(なほ)しませ三五(あななひ)
333(をしへ)(みち)大御神(おほみかみ)
334(わたし)(これ)より本国(ほんごく)
335()()()いで立帰(たちかへ)
336(ちち)看護(かんご)余念(よねん)なく
337国依別(くによりわけ)のわが(あに)
338玉治別(たまはるわけ)のわが(つま)
339(かは)りて孝養(かうやう)(つく)します
340何卒(なにとぞ)(ゆる)させ(たま)へかし
341女心(をんなごころ)はしたなき
342(いま)仕業(しわざ)大神(おほかみ)
343(ひろ)(こころ)見直(みなほ)して
344(まよ)ひの(つみ)(ゆる)せかし
345仮令(たとへ)天地(てんち)(かは)るとも
346(わたし)(こころ)何時(いつ)までも
347(いま)(たま)はりし御教(みをしへ)
348(きも)(めい)じて(わす)れまじ
349(かみ)隈手(くまで)(つつが)なく
350(はや)(かへ)らせ(たま)へかし
351あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
352御霊(みたま)(さち)はひましませよ』
353樹木(じゆもく)鬱蒼(うつさう)たる猛獣(まうじう)(たけ)(くる)山路(やまみち)を、354一人(ひとり)スタスタ(かへ)()く。
355 お(かつ)武志(たけし)(みや)社務所(ながどこ)(やうや)(かへ)()いた。356不思議(ふしぎ)(ちち)松鷹彦(まつたかひこ)は、357今日(けふ)何時(いつ)もよりは気分(きぶん)()しとて、358庭先(にはさき)枝振(えだぶ)りの()(まつ)(なが)めて、359(あめ)真浦(まうら)介抱(かいほう)され(なが)ら、360(うれ)しげにお(かつ)(かへ)(きた)りし姿(すがた)(なが)めて()た。
361大正一一・五・二〇 旧四・二四 松村真澄録)
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