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第二章 (さぐ)()ひ〔六九四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻 篇:第1篇 暗雲低迷 よみ(新仮名遣い):あんうんていめい
章:第2章 探り合ひ よみ(新仮名遣い):さぐりあい 通し章番号:694
口述日:1922(大正11)年05月24日(旧04月28日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年7月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
黒姫は二人を自分の館に連れて帰った。テーリスタンとカーリンスが黄金の玉を盗んだと疑ってきかない黒姫は、二人に滔々と心を入れ替えて玉を差し出すようにと説教をしている。
テーリスタンとカーリンスは自分たちではないと抗弁するが、黒姫は一向に信用しない。そのうちに、テーリスタンとカーリンスが、お互いに相棒が玉を盗んだのではないかと疑い出して、喧嘩を始めた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-05-26 10:31:37 OBC :rm2202
愛善世界社版:24頁 八幡書店版:第4輯 388頁 修補版: 校定版:25頁 普及版:11頁 初版: ページ備考:
001 言依別(ことよりわけ)(たく)されし、002黄金(わうごん)(たま)行方(ゆくへ)をば、003見失(みうしな)ひたる黒姫(くろひめ)は、004テーリスタンやカーリンス、005二人(ふたり)(をとこ)(うたが)ひを、006(いだ)きながらにトボトボと、007(おの)(やかた)()(かへ)り、008二人(ふたり)(まへ)(すわ)らせつ、009(ちや)()(すす)機嫌(きげん)をとり、010(おど)しつ(すか)しつ(たづ)ぬれば、011(もと)より二人(ふたり)白紙(しらかみ)の、012(やま)しき(ところ)なく(なみだ)013(こゑ)(しぼ)つて弁解(べんかい)すれど、014容易(ようい)()れぬ黒姫(くろひめ)の、015(むね)(こころ)(なや)ませつ、016(たがひ)(かほ)見合(みあは)せて、017如何(いかが)はせむと(うで)()み、018差俯向(さしうつむ)いて黙然(もくねん)たるぞ(いぢ)らしき。
019黒姫(くろひめ)人間(にんげん)(かみ)(さま)生宮(いきみや)だから、020何処(どこ)までも正直(しやうぢき)にせなくてはなりませぬぞや。021如何(いか)なる罪科(つみとが)があつても、022()(あらた)めたならば大神(おほかみ)(さま)は、023神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)見直(みなほ)し、024聞直(ききなほ)し、025宣直(のりなほ)して(くだ)さるのだ。026()()(なか)は、027(すみ)から(すみ)まで日月(じつげつ)(ごと)(あきら)かなる(かみ)(さま)()支配(しはい)であるから、028どんな(ちひ)さいことでも(かみ)(おん)()(くら)ますことは出来(でき)ない。029わづか()()目的(もくてき)(たつ)しても、030永遠(ゑいゑん)無窮(むきう)神界(しんかい)(くる)しみを()けるやうなことが出来(でき)ては大変(たいへん)不利益(ふりえき)だから、031(わし)(かみ)(さま)のため、032世人(よびと)のため、033(また)(まへ)(たち)両人(りやうにん)身魂(みたま)幸福(かうふく)のために()ふのだから、034綺麗(きれい)薩張(さつぱり)(たま)在処(ありか)()らしておくれ。035何時(いつ)まで腕組(うでぐみ)思案(しあん)してゐた(ところ)で、036(あく)(ぜん)(かへ)(はず)はない。037(ぬす)むと()一事(いちじ)何処迄(どこまで)万劫(まんがふ)末代(まつだい)()えませぬぞえ。038サ、039あまり世間(せけん)にパツとせない(うち)040(わし)一伍(いちぶ)一什(しじふ)白状(はくじやう)して(くだ)さい。041(わし)落度(おちど)にもなり、042(まへ)さまの(つみ)にもなるのだから、043(いま)(うち)(わし)白状(はくじやう)しさへすれば、044(この)()(かぎ)りで何処(どこ)()天下(てんか)泰平(たいへい)無事(ぶじ)安穏(あんのん)(をさ)まる(わけ)だから。045サア、046テーリスタン、047カーリンス、048(はや)素直(すなほ)()つておくれ』
049テーリスタン『これは(また)してもお(たづ)ねですが、050(なん)仰有(おつしや)つても()らぬ(こと)()らぬと(こた)へるより(ほか)(みち)()いぢやありませぬか』
051黒姫『エー(また)しても(しら)ツぱくれなさるのか。052さてもさても(わか)らぬ(ひと)だなア。053これこれカーリンス、054(まへ)正直者(しやうぢきもの)だ。055(わし)(たす)けて()れただけあつて、056何処(どこ)ともなしに(とく)のある(かほ)をして()る。057(かみ)(さま)のお姿(すがた)みたやうだ。058屹度(きつと)(まへ)霊肉(れいにく)(とも)清浄(せいじやう)潔白(けつぱく)だから、059テーリスタンに(たい)(かた)約束(やくそく)(やぶ)つてはならないと(かく)してゐるのだらうが、060そんな心遣(こころづかひ)()らぬ(こと)だ。061(こと)軽重(けいちよう)大小(だいせう)により(かんが)へて()なさい。062(まへ)(わし)全然(すつかり)白状(はくじやう)をしたと()つても、063(けつ)してテーリスタンを(くる)しめるのでも()めるのでもない。064畢竟(つまり)テーリスタンも、065(わし)も、066(まへ)大慶(たいけい)だし、067ツイ当座(たうざ)出来(でき)(ごころ)だから。068(わか)(とき)には(たれ)しもある(こと)だから、069屹度(きつと)(かみ)(さま)見直(みなほ)聞直(ききなほ)し、070宣直(のりなほ)して(くだ)さる。071(わし)何程(なにほど)(まへ)(わる)うても、072見直(みなほ)し、073聞直(ききなほ)し、074(うぶ)(こころ)(いま)までの(こと)(かは)へサラリと(なが)し、075(こころ)(ゆる)して交際(かうさい)をさして(もら)ふから、076さア、077チヤツとカーリンス、078()はつしやいよ』
079 カーリンスは(あたま)()きながら、
080カーリンス『ヘイ貴女(あなた)()言葉(ことば)はよく(わか)つて()ります』
081黒姫『さうだらう、082(わか)つたぢやらう。083矢張(やつぱ)りお(まへ)はテーリスタンとは、084一寸(ちよつと)兄貴(あにき)だけあつて(かしこ)い、085(えら)いものだ。086正直(しやうぢき)(この)()(たから)だ。087なア、088カーリンス』
089カーリンス『モシ黒姫(くろひめ)(さま)090()らぬことを()つたやうに()つたら、091それでも(まこと)になりますか』
092黒姫()つたことを()らぬと()ふのが(わる)いのだ。093()つたことを「()つて()ります、094斯様(かやう)々々(かやう)(いた)しました」と()ひさへすれば、095途方(とはう)もない玉盗人(たまぬすと)をしたお(まへ)も、096(つみ)()えて(かへつ)素直(すなほ)(やつ)だと大神(おほかみ)(さま)()めて(くだ)さるぞえ』
097カーリンス『オイ、098テーリスタン、099()んな(ばあ)さまに(かか)()つたら、100とりもち(をけ)(あし)突込(つつこ)んだやうなものだなア。101()うしたらよからうか』
102テーリスタン『それだと()つて第一(だいいち)吾々(われわれ)日頃(ひごろ)から大切(たいせつ)にして(くだ)さる黒姫(くろひめ)(さま)()難儀(なんぎ)になるのだから、103あゝして(きび)しう執拗(しつこ)くお(たづ)ねなさるのも仕方(しかた)がない。104黒姫(くろひめ)(さま)のお立場(たちば)になれば無理(むり)もないよ。105ぢやと()つて吾々(われわれ)両人(ふたり)本当(ほんたう)迷惑(めいわく)だなア』
106黒姫『お(まへ)(たち)其処(そこ)(まで)(もの)(わか)つて()りながら、107何故(なぜ)(わし)()らすのだい。108盗人(ぬすびと)猛々(たけだけ)しいとはお(まへ)(たち)のことだよ。109(ひと)温順(おとな)しく()ればつけ(あが)り、110歯抜(はぬ)けが(たこ)()むやうにグヂヤグヂヤと歯切(はぎ)れのせぬ返事(へんじ)ばつかりして………エー辛気臭(しんきくさ)い。111(こま)つた泥坊(どろばう)だなア』
112長煙管(ながぎせる)丸火鉢(まるひばち)をクワンクワンとはたき、113()をキリツと()()げ、114片膝(かたひざ)()てて(しや)(かま)(いき)(はづ)ませて()せた。115折柄(をりから)(にしき)(みや)高楼(たかどの)夜明(よあけ)()えて、116祝詞(のりと)奏上(そうじやう)(はじ)まる五六七(みろく)太鼓(たいこ)(ひび)いて()た。
117テーリスタン『オイ、118カーリンス、119あれは五六七(みろく)太鼓(たいこ)(おと)120モー()(れい)だ。121一先(ひとま)御免(ごめん)(かうむ)つて参拝(さんぱい)をして()うかい』
122カーリンス『オーそうだ、123黒姫(くろひめ)(さま)124ゆつくり(こころ)落着(おちつ)けて吾々(われわれ)無実(むじつ)()(かんが)(くだ)さいませ。125これからお(まゐ)りして()ます』
126黒姫『オホヽヽ、127五六七(みろく)太鼓(たいこ)は、128(まへ)さまの(ため)には結構(けつこう)(たす)(ぶね)だ。129(しか)(なが)五六七(みろく)でも七五三(しちごさん)でもお(まゐ)りは出来(でき)ませぬよ。130()(はなし)解決(かいけつ)がつくまで参拝(さんぱい)黒姫(くろひめ)(ゆる)しませぬ。131そんな盗人(ぬすと)根性(こんじやう)(かみ)(さま)(まゐ)つて、132結構(けつこう)()(みや)(さま)(けが)すと()(こと)があるものか、133罰当(ばちあた)()が、134アルプス(けう)(をしへ)とはチツト(ちが)ふぞえ』
135(また)もや(こゑ)(とが)らせ、136火鉢(ひばち)(たた)く。
137テーリスタン『オイ、138兄弟(きやうだい)139()うしようかな。140エライことに()ツつかまつたものだワイ』
141黒姫()ツつかまるも()ツつかまらぬも、142(まへ)自業(じごう)自得(じとく)だよ。143(こころ)(おに)()()めるのだ。144(まへ)結構(けつこう)身魂(みたま)だが、145()(こころ)(おに)矢張(やつぱ)邪魔(じやま)をするのだらう。146サア(はや)(おに)()()して(うつく)しい身魂(みたま)になつて(たま)在処(ありか)()らすのだよ。147大方(おほかた)鷹依姫(たかよりひめ)指図(さしづ)でお(まへ)(かく)しとるのぢやないかなア。148(むらさき)(たま)気好(きよ)献上(けんじやう)するなんて()ひよつて、149麦飯(むぎめし)(こひ)()るやうな(たく)みをしたのだらう。150(むらさき)(たま)何程(なにほど)立派(りつぱ)でも黄金(わうごん)(たま)(くら)ぶれば(なん)でもない。151却々(なかなか)アルプス(けう)()つた(やつ)油断(ゆだん)がならぬ。152アヽさうぢや、153(まへ)(こと)ばかり()めて()つても(わけ)(わか)らぬ。154大方(おほかた)(かげ)から(あやつ)つて()るのであらう。155()聖地(せいち)()てから鷹依姫(たかよりひめ)は、156始終(しじう)使(つか)()れたお(まへ)(たち)二人(ふたり)(わし)部下(ぶか)にして()れと()つた(てん)からが(そもそ)(うたが)はしい。157(わし)黄金(わうごん)(たま)監督者(かんとくしや)()ふことは、158よく(わか)つて()るのだから、159屹度(きつと)鷹依姫(たかよりひめ)指図(さしづ)であらうがな。160ホヽヽヽ、161(まへ)(たち)忠実(ちうじつ)なものだ。162(ぜん)にも(つよ)ければ(あく)にも(つよ)い。163一旦(いつたん)主人(しゆじん)(あふ)いだ鷹依姫(たかよりひめ)へ、164其処(そこ)まで(つく)親切(しんせつ)見上(みあ)げたものだ。165俄主人(にはかしゆじん)黒姫(くろひめ)()つて(くだ)さらぬのも無理(むり)はない。166アーア(わし)了簡(りやうけん)間違(まちが)つて()つた。167ドレ(これ)から鷹依姫(たかよりひめ)()んで訊問(じんもん)してみよう』
168テーリスタン『滅相(めつさう)なこと仰有(おつしや)いますな。169鷹依姫(たかよりひめ)さまは、170そんなお(かた)ぢやございませぬ。171(いやし)くも三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)竜国別(たつくにわけ)さまの母上(ははうへ)ではありませぬか。172大神(おほかみ)(さま)()神徳(かげ)親子(おやこ)対面(たいめん)出来(でき)たと()つて、173それはそれは温順(おとな)しく(まこと)信仰(しんかう)(はい)つてゐられます。174あんまり()(うたが)ひなさるのは殺生(せつしやう)でございますよ』
175黒姫『アヽ無理(むり)もない、176さうでなければ人間(にんげん)ぢやない、177感心(かんしん)感心(かんしん)178(わし)もそんな家来(けらい)をたとへ半時(はんとき)でも()しいものだ。179(しか)(なが)ら、180よく(かんが)へて()なさい。181(まへ)大神(おほかみ)(さま)(まこと)(みち)(そむ)いても、182一人(ひとり)鷹依姫(たかよりひめ)大切(だいじ)か』
183テーリスタン『これは(いささ)迷惑(めいわく)千万(せんばん)184こんなことを鷹依姫(たかよりひめ)(さま)がお()きにならうものなら、185ビツクリして(きも)(つぶ)されます』
186黒姫『ソリヤ当然(あたりまへ)だよ。187(あま)肝玉(きもだま)(ふと)(こと)をすると(かみ)(さま)(にら)まれ、188(きも)(たま)なしになつて(しま)ふのは天地(てんち)(ゆる)さぬ道理(だうり)189オホヽヽヽ、190さてもさてもしぶとい代物(しろもの)だなア。191ドレドレ五六七(みろく)太鼓(たいこ)()つた。192(あさ)のお(つと)めに()つて()るから、193(まへ)(たち)何処(どこ)にも()げることはならぬぞえ。194鷹依姫(たかよりひめ)とつく()()かし、195(わし)(かへ)(まで)そつ黄金(わうごん)(たま)()つて()()くのだよ』
196テーリスタン、カーリンス『アー()うしたらよからうなア』
197二人(ふたり)吐息(といき)をつく。
198 黒姫(くろひめ)(にしき)(みや)参拝(さんぱい)せむと衣紋(えもん)をつくろひ、199紋付(もんつき)羽織(はおり)(ちやく)し、200(やや)悄気(せうげ)気分(きぶん)になつて道路(みち)(いし)(ひと)(ひと)(かぞ)へるやうな調子(てうし)なめくぢり旅行式(りよかうしき)に、201(ちから)なげに参拝(さんぱい)出掛(でか)けた(あと)二人(ふたり)黒姫(くろひめ)(のこ)して()いた長煙管(ながぎせる)()り、202テーリスタンは黒姫(くろひめ)座席(ざせき)(すわ)り、
203テーリスタン『これこれカーリンス、204(まへ)余程(よつぽど)()()ぢや、205さあチヤツと(たま)在処(ありか)()ふのだよ。206何処(どこ)(かく)したか、207黒姫(くろひめ)(まを)すに(およ)ばず、208このテーリスタンまでが側杖(そばづゑ)()つて、209(つひ)(るゐ)鷹依姫(たかよりひめ)(さま)(およ)ぼさむとして()大切(たいせつ)危急(ききふ)場合(ばあひ)だよ。210黒姫(くろひめ)()(ところ)では()(にく)からうが、211黒姫(くろひめ)代理(だいり)のテーリスタンは(いま)まで兄弟(きやうだい)同様(どうやう)交際(つきあ)つて()たのだから、212何一(なにひと)心遣(こころづか)ひは()らない。213サア、214()つて御覧(ごらん)
215カーリンス『オイオイ兄貴(あにき)216(まへ)までが(なに)()ふのだい。217矢張(やつぱ)(おれ)(うたが)つて()るのか』
218テーリスタン(うたが)はずに()れぬぢやないか。219(この)(あひだ)(おれ)一緒(いつしよ)()かうと()つた(とき)220貴様(きさま)親切(しんせつ)さうに「テーリスタン、221(まへ)風邪(かぜ)をひいて()るから今日(けふ)(やす)め、222(おれ)(かは)りに黒姫(くろひめ)(さま)()保護(ほご)()(かく)れにして()る」と()つただらう。223親切(しんせつ)正直(しやうぢき)貴様(きさま)のことだから、224よもやとは(おも)へども前後(ぜんご)事情(じじやう)から(かんが)へて()れば、225()うしても貴様(きさま)(うたが)はねばならぬのだ。226(まへ)()つたとより(かんが)へられないワ』
227カーリンス『アーア、228(なさけ)ないことになつて()たワイ。229間違(まちが)へば()うも間違(まちが)ふものかなア。230なんとした(わし)因果(いんぐわ)(うま)れつきだらう。231天地(てんち)(かみ)(さま)見放(みはな)されてゐるのか』
232テーリスタン天地(てんち)(かみ)(さま)見放(みはな)されようと見放(みはな)されまいと、233貴様(きさま)(こころ)()ちやう(ひと)つだ。234愚図(ぐづ)々々(ぐづ)してゐると黒姫(くろひめ)さまが(かへ)つて()るぞ。235(はや)(おれ)()つて(しま)へ。236さうすれば(おれ)責任(せきにん)分担(ぶんたん)して「(かく)してゐましたが(じつ)はこれです」とつき()して、237(こら)へて(もら)ふのだから』
238カーリンス『オイ兄貴(あにき)239一寸(ちよつと)(まへ)(した)()りて()れ。240(おれ)其処(そこ)()かぬと(はなし)出来(でき)ぬ』
241テーリスタン『ヨシヨシ()ひさへすれば()いのだ。242如何(どう)でもしてやらう。243サア、244煙草(たばこ)でも(くす)べもつてすつかり()つて(しま)へ。245(おれ)(した)()りて()(やく)だから』
246(ここ)二人(ふたり)位置(ゐち)(へん)じ、247カーリンスは長煙管(ながぎせる)火鉢(ひばち)(たた)きながら眼尻(めじり)()()げ、
248カーリンス『コリヤ、249テーリスタン、250盗人(ぬすびと)猛々(たけだけ)しいとは貴様(きさま)のことだ。251(おぼ)えのない(おれ)自分(じぶん)(あく)()りつけようとするのは()しからぬぢやないか。252(おれ)(この)(あひだ)貴様(きさま)病気(びやうき)()にして親切(しんせつ)()つてやつたら、253それを(さか)()つて(おれ)盗人(ぬすびと)(しゆ)るのか。254さう()貴様(きさま)こそ(あや)しい(てん)がある。255(この)(あひだ)(ばん)だつた、256昨夜(ゆうべ)のやうに(つき)()てない、257(はな)(つま)まれても(わか)らぬやうな(とき)258貴様(きさま)()けたとか、259道路(みち)(わか)らぬとか()つて大変(たいへん)時間(ひま)をとつた(こと)があるだらう。260サア何処(どこ)(かく)した、261有体(ありてい)白状(はくじやう)せ。262もう()うなる以上(いじやう)兄弟(きやうだい)縁切(えんぎ)れだ。263(しか)しさうは()ふものの、264事実(じじつ)さへ白状(はくじやう)すれば、265矢張(やつぱ)(もと)兄弟(きやうだい)だ、266親友(しんいう)だ。267鷹依姫(たかよりひめ)(さま)(すで)改心(かいしん)なさつたのだから、268(たま)()しがる道理(だうり)はない。269さすれば貴様(きさま)()(たま)をもつて、270三国(みくに)(だけ)蜈蚣姫(むかでひめ)(さま)献上(けんじやう)し、271バラモン(けう)羽振(はぶ)りを()かさうとする野心(やしん)があるのだらう。272サアサ、273(はや)(まを)さぬか、274今迄(いままで)のカーリンスとは(わけ)(ちが)ふぞ。275閻魔(えんま)浄玻璃(じやうはり)(かがみ)にかけて善悪(ぜんあく)(いま)立別(たてわ)けて()せる。276さア、277如何(どう)ぢや』
278力任(ちからまか)せに火鉢(ひばち)(なぐ)つた途端(とたん)279(ほそ)(たけ)羅宇(らお)はポクリと()れて、280雁首(がんくび)はテーリスタンの額口(ひたひぐち)()ひついた。
281 テーリスタンはムツと(はら)()て、
282テーリスタン『なに貴様(きさま)283(ひと)(おのれ)(つみ)()りつけようとする大悪人(だいあくにん)()
284両手(りやうて)をひろげて武者(むしや)()りついた。285カーリンスは、
286カーリンス(なに)ツ、287猪口才(ちよこざい)な』
288(にぎ)(こぶし)(かた)めて、289無性(むしやう)矢鱈(やたら)黒姫(くろひめ)留守中(るすちう)大格闘(だいかくとう)(まく)()りた。
290大正一一・五・二四 旧四・二八 外山豊二録)
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