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第22巻(酉の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 暗雲低迷
01 玉騒疑
〔693〕
02 探り合ひ
〔694〕
03 不知火
〔695〕
04 玉探志
〔696〕
第2篇 心猿意馬
05 壇の浦
〔697〕
06 見舞客
〔698〕
07 囈語
〔699〕
08 鬼の解脱
〔700〕
第3篇 黄金化神
09 清泉
〔701〕
10 美と醜
〔702〕
11 黄金像
〔703〕
12 銀公着瀑
〔704〕
第4篇 改心の幕
13 寂光土
〔705〕
14 初稚姫
〔706〕
15 情の鞭
〔707〕
16 千万無量
〔708〕
第5篇 神界経綸
17 生田の森
〔709〕
18 布引の滝
〔710〕
19 山と海
〔711〕
20 三の魂
〔712〕
余白歌
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> 第3篇 黄金化神 > 第10章 美と醜
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第一〇章
美
(
び
)
と
醜
(
しう
)
〔七〇二〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻
篇:
第3篇 黄金化神
よみ(新仮名遣い):
おうごんけしん
章:
第10章 美と醜
よみ(新仮名遣い):
びとしゅう
通し章番号:
702
口述日:
1922(大正11)年05月26日(旧04月30日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年7月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
三人の女は上枝姫、中枝姫、下枝姫と言った。金助は上枝姫と夫婦気取りで話しかけたが、あたりの様子が鷹鳥山と少し違うことに気がついた。上枝姫は、鷹鳥山からすでに三百里離れたところに来たのだ、と答えた。
上枝姫は、自分とここに楽しく暮らすことができたのも、金助が泉に落ちた玉能姫を助け出そうとした一心が凝ったのだ、と答えた。しかしその後、玉能姫に恩を着せて蜈蚣姫のところに連れて行き、手柄を立てようとしたことを指摘した。
上枝姫によると、玉能姫を救おうという金助の好意が造った世界は短くして終わりを告げ、その後には修羅道が展開するのだ、という。そう言い残して上枝姫は消えてしまった。
金助は暗夜の道を前後左右に狂いまわると、たちまち千尋の谷に落ち込んでしまった。谷底の川に落ち込んだ金助は、鬼婆に救われた。鬼婆は、自分は金助の玉能姫への執着が生み出した存在だから、自分の夫になるようにと言い渡した。
鬼婆は蠑螈姫と名乗り、金助の色欲と金銭欲が凝って出現した存在だと明かした。蠑螈姫は金助に夫になるように迫る。そのおぞましさに金助ははっと気が付けば、泉に飛び込んだ拍子に気絶していたことに気が付いた。
ようやく夜が明けると、スマートボール、カナンボールと五人のバラモン教の部下たちは、あちこちの叢の中に傷だらけになって苦悶していた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-06-08 08:10:36
OBC :
rm2210
愛善世界社版:
136頁
八幡書店版:
第4輯 430頁
修補版:
校定版:
140頁
普及版:
63頁
初版:
ページ備考:
001
玉能姫
(
たまのひめ
)
と
現
(
あら
)
はれたる
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
女
(
をんな
)
は、
002
甲
(
かふ
)
を
上枝姫
(
ほづえひめ
)
と
云
(
い
)
ひ、
003
乙
(
おつ
)
を
中枝姫
(
なかえひめ
)
と
云
(
い
)
ひ、
004
丙
(
へい
)
を
下枝姫
(
しづえひめ
)
と
云
(
い
)
ふ。
005
金
(
きん
)
、
006
銀
(
ぎん
)
、
007
鉄
(
てつ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
漸
(
やうや
)
く
美人
(
びじん
)
に
導
(
みちび
)
かれ、
008
名
(
な
)
も
知
(
し
)
らぬ
山
(
やま
)
の
頂
(
いただき
)
に
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
た。
009
金
(
きん
)
『
上枝
(
ほづえ
)
さま、
010
不思議
(
ふしぎ
)
の
縁
(
えん
)
で
貴女
(
あなた
)
と
斯
(
か
)
う
云
(
い
)
ふ
仲
(
なか
)
になつたのも
何
(
なに
)
かの
因縁
(
いんねん
)
でせうなア。
011
一寸先
(
いつすんさき
)
も
分
(
わか
)
らないやうなあの
山道
(
やまみち
)
を、
012
貴女
(
あなた
)
のお
蔭
(
かげ
)
で
漸
(
やうや
)
く
此処
(
ここ
)
に
登
(
のぼ
)
つて
来
(
き
)
ましたが、
013
どうも
此
(
この
)
辺
(
へん
)
は
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
とは
趣
(
おもむき
)
が
違
(
ちが
)
ふぢやありませぬか』
014
上枝姫
(
ほづえひめ
)
『
違
(
ちが
)
ひますとも。
015
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
を
距
(
さ
)
る
事
(
こと
)
、
016
殆
(
ほとん
)
ど
三百
(
さんびやく
)
里
(
り
)
ですよ』
017
金助
『
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
に、
018
そんなに
遠
(
とほ
)
く
来
(
き
)
たのでせう』
019
上枝姫
『ホヽヽヽヽ、
020
貴方
(
あなた
)
は
御存
(
ごぞん
)
じありますまいが、
021
私
(
わたし
)
は
天人
(
てんにん
)
ですよ。
022
貴方
(
あなた
)
の
体
(
からだ
)
を
翼
(
はがひ
)
の
中
(
なか
)
に
入
(
い
)
れて
来
(
き
)
たのですから、
023
殆
(
ほとん
)
ど
半時
(
はんとき
)
許
(
ばか
)
りの
間
(
ま
)
より
経
(
た
)
つて
居
(
ゐ
)
ませぬ』
024
金助
『それにしても
余
(
あま
)
り
早
(
はや
)
いぢやありませぬか。
025
併
(
しか
)
し
今迄
(
いままで
)
銀
(
ぎん
)
、
026
鉄
(
てつ
)
、
027
外
(
ほか
)
二人
(
ふたり
)
の
姫
(
ひめ
)
さまは
此所
(
ここ
)
へ
一緒
(
いつしよ
)
に
来
(
き
)
た
筈
(
はず
)
だのに、
028
何処
(
どこ
)
へ
往
(
い
)
つて
仕舞
(
しま
)
つたのでせう』
029
上枝姫
『
神界
(
しんかい
)
では、
030
タイムもなければ
遠近
(
ゑんきん
)
もありませぬ。
031
さう
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさらずとも
今
(
いま
)
に
会
(
あ
)
ふ
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ます。
032
今
(
いま
)
と
云
(
い
)
つても
現界
(
げんかい
)
で
云
(
い
)
へば
五十万
(
ごじふまん
)
年
(
ねん
)
の
未来
(
みらい
)
です』
033
金助
『
何
(
なん
)
と
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
いますなア。
034
此処
(
ここ
)
は
現界
(
げんかい
)
ではありませぬか』
035
上枝姫
『
現界
(
げんかい
)
と
云
(
い
)
へば
現界
(
げんかい
)
、
036
神界
(
しんかい
)
と
云
(
い
)
へば
神界
(
しんかい
)
で、
037
顕神幽
(
けんしんいう
)
一致
(
いつち
)
の
大宇宙
(
だいうちう
)
の
世界
(
せかい
)
を
逍遥
(
せうえう
)
して
居
(
を
)
るのですからなア』
038
金助
『
何
(
なん
)
だか
私
(
わたし
)
は
狐
(
きつね
)
に
誑
(
つま
)
まれたやうな
気
(
き
)
が
致
(
いた
)
します。
039
性来
(
うまれつき
)
の
黒
(
くろ
)
ン
坊
(
ばう
)
の
私
(
わたくし
)
、
040
何時
(
いつ
)
の
間
(
ま
)
にやら
艶々
(
つやつや
)
した
皮膚
(
ひふ
)
になり、
041
色
(
いろ
)
迄
(
まで
)
白
(
しろ
)
くなつて
来
(
き
)
ました。
042
さうして
貴女
(
あなた
)
の
様
(
やう
)
な
立派
(
りつぱ
)
なネースに
手
(
て
)
を
曳
(
ひ
)
かれ、
043
見
(
み
)
も
知
(
し
)
らぬ
麗
(
うるは
)
しき
山
(
やま
)
の
頂
(
いただき
)
に
導
(
みちび
)
かれたと
云
(
い
)
ふのは、
044
どうしても
合点
(
がてん
)
が
往
(
ゆ
)
きませぬ。
045
夢
(
ゆめ
)
ぢやありますまいか』
046
上枝姫
『
夢
(
ゆめ
)
は
現界
(
げんかい
)
の
人間
(
にんげん
)
の
見
(
み
)
るものです。
047
聖人
(
せいじん
)
に
夢
(
ゆめ
)
なしと
云
(
い
)
うて、
048
清浄
(
せいじやう
)
潔白
(
けつぱく
)
の
人間
(
にんげん
)
に
夢
(
ゆめ
)
があつて
耐
(
たま
)
りますか。
049
畢竟
(
つまり
)
貴方
(
あなた
)
が
玉能姫
(
たまのひめ
)
さまが
清泉
(
きよいづみ
)
に
陥
(
おちい
)
り
溺死
(
できし
)
をしようとして
居
(
ゐ
)
たのを
助
(
たす
)
けて
上
(
あ
)
げたいと
云
(
い
)
ふ
其
(
その
)
真心
(
まごころ
)
が
凝
(
こ
)
つて、
050
此処
(
ここ
)
に
私
(
わたくし
)
と
斯
(
か
)
う
楽
(
たのし
)
く
暮
(
くら
)
す
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
る
様
(
やう
)
になつたのです。
051
要
(
えう
)
するに
其
(
その
)
心
(
こころ
)
より
玉能姫
(
たまのひめ
)
さま
同様
(
どうやう
)
の
妾
(
わらは
)
を
生出
(
うみだ
)
し
救
(
すく
)
ひの
国
(
くに
)
を
開
(
ひら
)
かれたのです。
052
併
(
しか
)
し
其
(
その
)
次
(
つぎ
)
に
貴方
(
あなた
)
は
玉能姫
(
たまのひめ
)
を
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げ、
053
それを
恩
(
おん
)
に
着
(
き
)
せて
自分
(
じぶん
)
の
物
(
もの
)
にしようと
思
(
おも
)
ひ
且
(
かつ
)
其
(
その
)
言霊
(
ことたま
)
を
使
(
つか
)
つたでせう。
054
それで
其
(
その
)
心
(
こころ
)
と
言葉
(
ことば
)
が
凝
(
こ
)
つて
又
(
また
)
一
(
ひと
)
つの
迷
(
まよ
)
ひの
国
(
くに
)
が
展開
(
てんかい
)
して
居
(
ゐ
)
ます。
055
其処
(
そこ
)
へ
貴方
(
あなた
)
は
是
(
これ
)
から
旅行
(
りよかう
)
せねばなりますまい。
056
も
一
(
ひと
)
つ
奥
(
おく
)
の
国
(
くに
)
は
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
に
褒
(
ほ
)
められて
手柄
(
てがら
)
をしようと
云
(
い
)
ふ
修羅道
(
しゆらだう
)
が
展開
(
てんかい
)
して
居
(
ゐ
)
ます、
057
これも
一度
(
いちど
)
踏
(
ふ
)
まねばなりますまい。
058
私
(
わたくし
)
と
斯
(
か
)
うして
楽
(
たのし
)
く、
059
麗
(
うるは
)
しき
山
(
やま
)
の
頂
(
いただき
)
に、
060
百花
(
ひやくくわ
)
爛漫
(
らんまん
)
たる
種々
(
さまざま
)
の
花
(
はな
)
を
褒
(
ほ
)
めながら
楽
(
たのし
)
むのも
束
(
つか
)
の
間
(
ま
)
ですよ。
061
唯
(
ただ
)
貴方
(
あなた
)
の
初一念
(
しよいちねん
)
の
玉能姫
(
たまのひめ
)
を
救
(
すく
)
ふと
云
(
い
)
ふ
好意
(
かうい
)
が
造
(
つく
)
つた
世界
(
せかい
)
は
極短
(
ごくみじか
)
いものです。
062
左様
(
さやう
)
なら』
063
と
云
(
い
)
ふかと
見
(
み
)
れば
姿
(
すがた
)
は
煙
(
けむり
)
となつて
消
(
き
)
えて
仕舞
(
しま
)
つた。
064
四面
(
しめん
)
暗澹
(
あんたん
)
として
咫尺
(
しせき
)
を
弁
(
べん
)
ぜざるに
至
(
いた
)
つた。
065
金
(
きん
)
は、
066
金助
『モシモシ
上枝
(
ほづえ
)
様
(
さま
)
、
067
何処
(
どこ
)
へお
出
(
いで
)
になりました。
068
も
一度
(
いちど
)
お
顔
(
かほ
)
を
見
(
み
)
せて
下
(
くだ
)
さいませ。
069
アヽもう
姿
(
すがた
)
がなくなつたか、
070
仮令
(
たとへ
)
妖怪
(
えうくわい
)
変化
(
へんげ
)
でも、
071
唯
(
ただ
)
の
一
(
いち
)
時
(
じ
)
でもこんな
愉快
(
ゆくわい
)
な
気分
(
きぶん
)
になる
事
(
こと
)
を
得
(
え
)
ば
死
(
し
)
んでも
満足
(
まんぞく
)
だ。
072
アヽどうしたら
良
(
よ
)
からう』
073
と
暗夜
(
あんや
)
の
道
(
みち
)
を
前後
(
ぜんご
)
左右
(
さいう
)
に
狂
(
くる
)
ひ
廻
(
まは
)
る
途端
(
とたん
)
に、
074
千仭
(
せんじん
)
の
谷
(
たに
)
に
真逆
(
まつさか
)
様
(
さま
)
に
顛落
(
てんらく
)
し、
075
谷川
(
たにがは
)
の
青淵
(
あをふち
)
に
ざんぶ
とばかり
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
んで
仕舞
(
しま
)
つた。
076
何処
(
いづこ
)
ともなく
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
る
一人
(
ひとり
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
、
077
矢庭
(
やには
)
に
真裸
(
まつぱだか
)
となり、
078
金助
(
きんすけ
)
を
小脇
(
こわき
)
に
引
(
ひ
)
き
抱
(
かか
)
へ
救
(
すく
)
ひ
上
(
あ
)
げた。
079
金
(
きん
)
助
(
すけ
)
は
今
(
いま
)
や
溺死
(
できし
)
せむと
苦
(
くるし
)
み
悶
(
もだ
)
えたる
矢先
(
やさき
)
、
080
何人
(
なんぴと
)
かに
救
(
すく
)
はれ、
081
嬉
(
うれ
)
しさの
余
(
あま
)
り、
082
金助
『
何
(
いづ
)
れの
方
(
かた
)
かは
存
(
ぞん
)
じませぬが、
083
よくマア
助
(
たす
)
けて
下
(
くだ
)
さいました。
084
有難
(
ありがた
)
う
存
(
ぞん
)
じます』
085
と
面
(
おもて
)
を
上
(
あ
)
げよくよく
見
(
み
)
れば、
086
いつしか
夜
(
よ
)
は
明
(
あ
)
け
放
(
はな
)
れ、
087
山奥
(
やまおく
)
の
谷川
(
たにがは
)
の
辺
(
ほとり
)
に
見
(
み
)
るも
恐
(
おそ
)
ろしい
鬼婆
(
おにばば
)
に
救
(
すく
)
はれて
居
(
ゐ
)
た。
088
金助
(
きんすけ
)
は
吃驚
(
びつくり
)
仰天
(
ぎやうてん
)
、
089
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
逃
(
に
)
げ
去
(
さ
)
らむとする
時
(
とき
)
、
090
鬼婆
(
おにばば
)
はグツと
素首
(
そつくび
)
を
握
(
にぎ
)
り、
091
鬼婆(蠑螈姫)
『これこれ
金助
(
きんすけ
)
さま、
092
お
前
(
まへ
)
さまを
助
(
たす
)
けたのは
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
だよ。
093
さアこれから
私
(
わたし
)
のハズバンドになつて
下
(
くだ
)
さい』
094
金助
『やア
此奴
(
こいつ
)
は
大変
(
たいへん
)
ぢや。
095
上枝
(
ほづえ
)
様
(
さま
)
のやうな
美人
(
びじん
)
なら、
096
仮令
(
たとへ
)
化衆
(
ばけしう
)
でも
恐
(
おそ
)
ろしくはないが、
097
お
前
(
まへ
)
のやうな
皺苦茶
(
しわくちや
)
だらけの、
098
口
(
くち
)
が
耳
(
みみ
)
まで
裂
(
さ
)
けた
鬼婆
(
おにば
)
アさまの
亭主
(
おやぢ
)
になるのは
許
(
ゆる
)
して
貰
(
もら
)
ひたいなア』
099
鬼婆(蠑螈姫)
『
私
(
わたし
)
は
いもり
姫
(
ひめ
)
と
云
(
い
)
ふ
腹
(
はら
)
に
真赤
(
まつか
)
な
痣
(
あざ
)
があり、
100
南無
(
なむ
)
妙法
(
めうはふ
)
蓮華経
(
れんげきやう
)
と
御
(
お
)
題目
(
だいもく
)
を
天然
(
てんねん
)
に
表
(
あら
)
はした、
101
いもり
の
様
(
やう
)
な
婆
(
ばばあ
)
だ。
102
これもお
前
(
まへ
)
の
心
(
こころ
)
から
造
(
つく
)
つて
生
(
う
)
んだ
鬼婆
(
おにばば
)
だから、
103
お
前
(
まへ
)
の
世話
(
せわ
)
にならいで
誰人
(
だれ
)
の
世話
(
せわ
)
にならう。
104
お
前
(
まへ
)
は
玉能姫
(
たまのひめ
)
を
助
(
たす
)
け、
105
それを
恩
(
おん
)
に
着
(
き
)
せて、
106
恋
(
こひ
)
の
欲望
(
よくばう
)
を
遂
(
と
)
げようとしたではないか。
107
いもり
の
黒焼
(
くろやき
)
振
(
ふ
)
りかけて、
108
女
(
をんな
)
を
思
(
おも
)
ひつかさうとするやうな
虫
(
むし
)
の
好
(
よ
)
い
考
(
かんが
)
へを
起
(
おこ
)
すものだから、
109
たうとう
其
(
その
)
心
(
こころ
)
の
鬼
(
おに
)
が
私
(
わたし
)
を
生
(
う
)
んだのだから、
110
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
離
(
はな
)
れやせぬぞえ』
111
金助
『「
惚薬
(
ほれぐすり
)
、
112
他
(
ほか
)
にないかと
蠑螈
(
いもり
)
に
問
(
と
)
へば、
113
指
(
ゆび
)
を
輪
(
わ
)
にして
見
(
み
)
せたげな」
指
(
ゆび
)
を
輪
(
わ
)
にすると
云
(
い
)
ふ
意味
(
いみ
)
は、
114
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
の
仇敵
(
きうてき
)
として
喜
(
よろこ
)
ばれて
居
(
ゐ
)
る
妙
(
めう
)
な
運命
(
うんめい
)
を
辿
(
たど
)
る
金助
(
きんすけ
)
の
事
(
こと
)
だよ。
115
金
(
きん
)
ちやんには
美人
(
びじん
)
が
惚
(
ほ
)
れる
可能性
(
かのうせい
)
が
備
(
そな
)
はつて
居
(
ゐ
)
る。
116
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
蠑螈姫
(
いもりひめ
)
では
駄目
(
だめ
)
だよ。
117
なんぼ
金
(
きん
)
さまが
色男
(
いろをとこ
)
でも、
118
お
前
(
まへ
)
のやうな
悪
(
あく
)
垂
(
た
)
れ
婆
(
ばば
)
には
聊
(
いささ
)
か
御
(
ご
)
迷惑
(
めいわく
)
千万
(
せんばん
)
、
119
ナンノホウレンゲキヨウだ。
120
今度
(
こんど
)
ばかりは
何
(
ど
)
うか
許
(
ゆる
)
して
呉
(
く
)
れ。
121
又
(
また
)
逢
(
あ
)
ふ
時
(
とき
)
もあらうからなア』
122
鬼婆
(
おにばば
)
の
蠑螈姫
(
いもりひめ
)
は、
123
涙
(
なみだ
)
をハラハラと
流
(
なが
)
し、
124
蠑螈姫(鬼婆)
『そりや
聞
(
きこ
)
えませぬ
金助
(
きんすけ
)
さま。
125
お
前
(
まへ
)
と
私
(
わたし
)
の
其
(
その
)
仲
(
なか
)
は、
126
金助
(
きんすけ
)
や
経惟子
(
きやうかたびら
)
の
事
(
こと
)
かいな。
127
初
(
はじ
)
めて
逢
(
あ
)
うた
其
(
その
)
日
(
ひ
)
から……』
128
金助
『コラコラ、
129
何
(
なに
)
吐
(
ぬか
)
すのだ。
130
昨日
(
きのふ
)
や
今日
(
けふ
)
の
事
(
こと
)
ぢやない、
131
と
云
(
い
)
ひやがるが、
132
現
(
げん
)
に
今
(
いま
)
逢
(
あ
)
うた
許
(
ばか
)
りぢやないか』
133
蠑螈姫(鬼婆)
『そりや
違
(
ちが
)
ひます
金助
(
きんすけ
)
さま。
134
お
言葉
(
ことば
)
無理
(
むり
)
とは
思
(
おも
)
はねど、
135
お
前
(
まへ
)
は
元来
(
ぐわんらい
)
ずるい
人
(
ひと
)
、
136
女
(
をんな
)
の
尻
(
しり
)
を
付
(
つ
)
け
狙
(
ねら
)
ひ、
137
狙
(
ねら
)
ひ
狙
(
ねら
)
うた
魂
(
たましひ
)
が、
138
凝
(
こ
)
り
固
(
かた
)
まつて
七八年
(
ななやとせ
)
、
139
ここに
いもり
の
姫
(
ひめ
)
となり、
140
お
前
(
まへ
)
の
心
(
こころ
)
の
黒幕
(
くろまく
)
を、
141
開
(
あ
)
けて
生
(
うま
)
れた
此
(
この
)
妾
(
わたし
)
、
142
今更
(
いまさら
)
捨
(
す
)
てようとはそりや
聞
(
きこ
)
えませぬ、
143
胴欲
(
どうよく
)
ぢや。
144
仮令
(
たとへ
)
此
(
この
)
身
(
み
)
は
閻魔
(
えんま
)
の
庁
(
ちやう
)
で、
145
如何
(
いか
)
なる
酷
(
きつ
)
い
成敗
(
せいばい
)
に
遭
(
あ
)
はされうとも、
146
私
(
わたし
)
の
夫
(
をつと
)
とも
親
(
おや
)
とも
頼
(
たの
)
む
金助
(
きんすけ
)
さま、
147
どうしてこれが
思
(
おも
)
ひ
切
(
き
)
られようか。
148
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
前
(
さき
)
の
世
(
よ
)
の、
149
まだ
前
(
さき
)
の
世
(
よ
)
の
前
(
さき
)
の
世
(
よ
)
の、
150
昔
(
むかし
)
の
昔
(
むかし
)
のさる
昔
(
むかし
)
、
151
去
(
さ
)
つた
女房
(
にようばう
)
の
怨霊
(
をんりやう
)
や、
152
泣
(
な
)
かした
女
(
をんな
)
の
魂
(
たましひ
)
が、
153
凝
(
こ
)
り
固
(
かた
)
まつて
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
に、
154
お
前
(
まへ
)
に
逢
(
あ
)
うた
嬉
(
うれ
)
しさは、
155
千代
(
ちよ
)
も
八千代
(
やちよ
)
も
万代
(
よろづよ
)
も、
156
忘
(
わす
)
れてならうか
いもり
姫
(
ひめ
)
、
157
逢
(
あ
)
ひたかつた、
158
見
(
み
)
たかつた、
159
明
(
あ
)
けても
暮
(
く
)
れてもお
前
(
まへ
)
の
事
(
こと
)
、
160
夢寐
(
むび
)
にも
忘
(
わす
)
れぬ
女房
(
にようばう
)
が、
161
心
(
こころ
)
を
推量
(
すゐりやう
)
して
下
(
くだ
)
さんせいなア』
162
金助
『こりやこりや、
163
いもり
姫
(
ひめ
)
とやら、
164
切
(
せつ
)
なる
心
(
こころ
)
は
察
(
さつ
)
すれど、
165
某
(
それがし
)
は
鷹鳥山
(
たかとりやま
)
の
岩窟
(
いはや
)
に
立
(
た
)
ち
向
(
むか
)
ひ
華々
(
はなばな
)
しく
言霊戦
(
ことたません
)
を
開始
(
かいし
)
して、
166
当
(
たう
)
の
敵
(
てき
)
たる
鷹鳥姫
(
たかとりひめ
)
を
虜
(
とりこ
)
に
致
(
いた
)
し、
167
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
宝玉
(
ほうぎよく
)
を
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れねばならぬ
大切
(
たいせつ
)
な
身
(
み
)
の
上
(
うへ
)
、
168
夫婦
(
ふうふ
)
になれなら、
169
事
(
こと
)
と
品
(
しな
)
によつてはならぬ
事
(
こと
)
もない。
170
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ
凱旋
(
がいせん
)
の
後
(
のち
)
、
171
否
(
いな
)
やの
返事
(
へんじ
)
を
仕
(
つかまつ
)
らむ。
172
サア
早
(
はや
)
う
其処
(
そこ
)
を
放
(
はな
)
しや。
173
時
(
とき
)
延
(
の
)
びる
程
(
ほど
)
不覚
(
ふかく
)
の
基
(
もとゐ
)
、
174
エヽ
聞
(
き
)
き
分
(
わ
)
けのない
鬼婆
(
おにばば
)
め』
175
蠑螈姫(鬼婆)
『
愛憐
(
いとし
)
き
夫
(
をつと
)
が
討死
(
うちじに
)
の、
176
門出
(
かどで
)
を
見
(
み
)
かけて
女房
(
にようばう
)
が、
177
これが
黙
(
だま
)
つて
居
(
を
)
られうか、
178
泣
(
な
)
く
泣
(
な
)
く
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
す
拳骨
(
げんこつ
)
の
痛
(
いた
)
さ、
179
耐
(
こら
)
へて
往
(
ゆ
)
かしやんせ』
180
金助
『こりや
鬼婆
(
おにばば
)
、
181
洒落
(
しやれ
)
ない。
182
貴様
(
きさま
)
等
(
ら
)
に
拳骨
(
げんこつ
)
を
喰
(
く
)
はされて
耐
(
たま
)
るか、
183
あた
縁起糞
(
げんくそ
)
の
悪
(
わる
)
い、
184
討死
(
うちじに
)
の
門出
(
かどで
)
なんて
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ』
185
蠑螈姫(鬼婆)
『これ
金
(
きん
)
さま、
186
妾
(
わたし
)
の
素性
(
すじやう
)
を
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
るかい。
187
お
前
(
まへ
)
は
女
(
をんな
)
にかけては
随分
(
ずゐぶん
)
ずるい
人
(
ひと
)
だが、
188
金
(
かね
)
にかけては
雪隠
(
せつちん
)
のはたの
猿食柿
(
さるくはず
)
、
189
一名
(
いちめい
)
身不知
(
みしらず
)
と
云
(
い
)
ふ、
190
柿
(
かき
)
のやうな
男
(
をとこ
)
だ。
191
渋
(
しぶ
)
うて、
192
汚
(
きたな
)
うて、
193
細
(
こま
)
かうて、
194
喰
(
く
)
へぬ
男
(
をとこ
)
だと
云
(
い
)
はれて
来
(
き
)
ただらう。
195
そして
鬼金
(
おにきん
)
だ
鬼金
(
おにきん
)
だと
人
(
ひと
)
に
持
(
も
)
て
囃
(
はや
)
された
悪党者
(
あくたうもの
)
だ。
196
金
(
かね
)
が
敵
(
かたき
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
だよ。
197
大勢
(
おほぜい
)
の
恨
(
うらみ
)
とお
前
(
まへ
)
の
鬼心
(
おにごころ
)
が
混淆
(
ごつちや
)
になつて、
198
こんな
いもり
姫
(
ひめ
)
の
鬼婆
(
おにばば
)
が
出現
(
しゆつげん
)
したのだ。
199
云
(
い
)
はば
色
(
いろ
)
と
金
(
かね
)
との
権現
(
ごんげん
)
様
(
さま
)
だ。
200
お
前
(
まへ
)
は
豪
(
えら
)
さうに
人間面
(
にんげんづら
)
を
提
(
さ
)
げて
歩
(
ある
)
いて
居
(
を
)
るが、
201
決
(
けつ
)
してそんな
資格
(
しかく
)
はありませぬぞえ』
202
金助
『エヽ
困
(
こま
)
つた
口
(
くち
)
の
悪
(
わる
)
い
婆
(
ばば
)
が
現
(
あら
)
はれたものだなア、
203
人間
(
にんげん
)
でなければ
三
(
さん
)
げんか、
204
四
(
し
)
けんか、
205
五
(
ご
)
んげんさまか』
206
蠑螈姫(鬼婆)
『
良
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
にお
前
(
まへ
)
さまも
改心
(
かいしん
)
して、
207
解脱
(
げだつ
)
さして
呉
(
く
)
れたら
何
(
ど
)
うだいな。
208
それが
出来
(
でき
)
ねば
何処迄
(
どこまで
)
もお
前
(
まへ
)
さまにくつ
着
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
かねばならぬ。
209
磁石
(
じしやく
)
が
鉄
(
てつ
)
に
吸着
(
すひつ
)
くやうなものだ。
210
スヰートハートした
病
(
やまひ
)
は、
211
お
医者
(
いしや
)
さまでも
有馬
(
ありま
)
の
湯
(
ゆ
)
でも、
212
根
(
ね
)
つから
葉
(
は
)
つから
何処迄
(
どこまで
)
も
癒
(
なほ
)
りやせぬワイなア。
213
アヽ
味気
(
あぢき
)
なき
闇
(
やみ
)
の
浮世
(
うきよ
)
だ。
214
誰
(
たれ
)
がすき
好
(
この
)
んでこんな
鬼婆
(
おにばば
)
になりたいものか、
215
お
前
(
まへ
)
と
云
(
い
)
ふ
男
(
をとこ
)
は
殺生
(
せつしやう
)
な
男
(
をとこ
)
だ。
216
サア
何
(
ど
)
うして
下
(
くだ
)
さる』
217
と
堅
(
かた
)
い
冷
(
つめ
)
たい
皺
(
しわ
)
だらけの
手
(
て
)
で、
218
金助
(
きんすけ
)
の
両腕
(
りやううで
)
を
左手
(
ゆんで
)
に
一掴
(
ひとつか
)
みとなし、
219
右
(
みぎ
)
の
腕
(
うで
)
に
蠑螺
(
さざえ
)
の
壺焼
(
つぼやき
)
を
固
(
かた
)
めて、
220
蠑螈姫(鬼婆)
『これ
金
(
きん
)
さま、
221
お
前
(
まへ
)
は
本当
(
ほんたう
)
に
情
(
つれ
)
ない
人
(
ひと
)
だ。
222
イヤイヤ
喰
(
く
)
へない
人
(
ひと
)
だ。
223
サア
此
(
この
)
婆
(
ばば
)
の
身
(
み
)
を
何
(
ど
)
うして
下
(
くだ
)
さる』
224
と
耳
(
みみ
)
迄
(
まで
)
引
(
ひ
)
き
裂
(
さ
)
けた
口
(
くち
)
をパクパクさせながら
口説
(
くど
)
きたてるその
嫌
(
いや
)
らしさ、
225
身
(
み
)
の
毛
(
け
)
もよだち
首筋元
(
くびすぢもと
)
の
ぞわ
ぞわと
寒
(
さむ
)
さにハツと
気
(
き
)
が
付
(
つ
)
けば、
226
以前
(
いぜん
)
の
清泉
(
きよいづみ
)
の
中
(
なか
)
に
飛
(
と
)
び
込
(
こ
)
んだ
途端
(
とたん
)
、
227
向脛
(
むかふづね
)
を
打
(
う
)
ち、
228
気絶
(
きぜつ
)
して
居
(
ゐ
)
た
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
つた。
229
傍
(
かたはら
)
を
見
(
み
)
れば
人
(
ひと
)
の
呻声
(
うめきごゑ
)
、
230
咫尺
(
しせき
)
を
弁
(
べん
)
ぜぬ
闇
(
やみ
)
の
中
(
なか
)
から
次々
(
つぎつぎ
)
に
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
231
斯
(
か
)
くして
漸
(
やうや
)
く
夜
(
よる
)
は
烏
(
からす
)
の
声
(
こゑ
)
にカアと
明
(
あ
)
け
放
(
はな
)
れ、
232
四辺
(
あたり
)
を
見
(
み
)
れば、
233
銀
(
ぎん
)
、
234
鉄
(
てつ
)
、
235
熊
(
くま
)
、
236
蜂
(
はち
)
、
237
カナンボール、
238
スマートボールの
六
(
ろく
)
人
(
にん
)
は、
239
彼方
(
あなた
)
此方
(
こなた
)
の
草
(
くさ
)
の
中
(
なか
)
に、
240
荊蕀掻
(
いばらか
)
きの
血
(
ち
)
だらけの
顔
(
かほ
)
を
曝
(
さら
)
して
苦悶
(
くもん
)
して
居
(
ゐ
)
た。
241
(
大正一一・五・二六
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加藤明子
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