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第22巻(酉の巻)
序文
凡例
総説
第1篇 暗雲低迷
01 玉騒疑
〔693〕
02 探り合ひ
〔694〕
03 不知火
〔695〕
04 玉探志
〔696〕
第2篇 心猿意馬
05 壇の浦
〔697〕
06 見舞客
〔698〕
07 囈語
〔699〕
08 鬼の解脱
〔700〕
第3篇 黄金化神
09 清泉
〔701〕
10 美と醜
〔702〕
11 黄金像
〔703〕
12 銀公着瀑
〔704〕
第4篇 改心の幕
13 寂光土
〔705〕
14 初稚姫
〔706〕
15 情の鞭
〔707〕
16 千万無量
〔708〕
第5篇 神界経綸
17 生田の森
〔709〕
18 布引の滝
〔710〕
19 山と海
〔711〕
20 三の魂
〔712〕
余白歌
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第六章
見舞客
(
みまひきやく
)
〔六九八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻
篇:
第2篇 心猿意馬
よみ(新仮名遣い):
しんえんいば
章:
第6章 見舞客
よみ(新仮名遣い):
みまいきゃく
通し章番号:
698
口述日:
1922(大正11)年05月25日(旧04月29日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1922(大正11)年7月30日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高姫は自宅に帰ると発熱して寝込んでしまった。遠州と武州が看病に立ち働いている。そこへ玉治別夫婦が見舞いにやってきた。
玉治別とお勝が病床に来ると、高姫は自分は病気なんかじゃない、演説会で癇癪玉が詰めて熱が出ただけだ、と強がりを言う。
高姫は玉治別に、この件でどんな噂が立っているか聞いた。玉治別は、いろんな意見があってまとまっていないが、高姫に責任があるから聖地を出て玉探索にでるべきだ、という者もいることを伝えた。
高姫は日の出神の生き宮である自分は絶対に聖地を離れない、と言う。玉治別は、玉を現に紛失した責任を高姫自身はどう考えているか、と問いかけた。
高姫は青二才が心配することではない、と返して言依別命や杢助、お初にも八つ当たりをはじめた。玉治別は抗議するが、高姫は自分は生き宮だと権威を嵩にかけ、逆上して吠え立てる。
玉治別はなだめようとするが、高姫は荒れ狂って人に責任をなすりつけようとするのみである。玉治別は仕方なくお勝の手を取って高姫の館から逃げ出した。すると、見舞いにやってきた杢助・お初と門のところでばったり出くわした。
玉治別は杢助に、高姫が杢助・お初にも当り散らしていると忠告すると、帰って行った。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
宇都山郷(宇津山郷)
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-06-02 17:42:28
OBC :
rm2206
愛善世界社版:
76頁
八幡書店版:
第4輯 408頁
修補版:
校定版:
79頁
普及版:
35頁
初版:
ページ備考:
001
高姫
(
たかひめ
)
はすごすごと
我
(
わが
)
家
(
や
)
に
帰
(
かへ
)
り
頭痛
(
づつう
)
がするとて
臥床
(
ふしど
)
に
入
(
い
)
り
捩鉢巻
(
ねぢはちまき
)
の
大発熱
(
だいはつねつ
)
、
002
大苦悶
(
だいくもん
)
。
003
遠州
(
ゑんしう
)
、
004
武州
(
ぶしう
)
は
種々
(
いろいろ
)
と
介抱
(
かいほう
)
に
全力
(
ぜんりよく
)
を
尽
(
つく
)
して
居
(
ゐ
)
る。
005
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
妻
(
つま
)
のお
勝
(
かつ
)
と
共
(
とも
)
に
高姫
(
たかひめ
)
の
病気
(
びやうき
)
と
聞
(
き
)
き、
006
見舞
(
みまひ
)
のために
訪
(
たづ
)
ねて
来
(
き
)
た。
007
玉治別
(
たまはるわけ
)
は
庭
(
には
)
の
表
(
おもて
)
に
立
(
た
)
ち
働
(
はたら
)
いて
居
(
ゐ
)
る
遠州
(
ゑんしう
)
に
向
(
むか
)
ひ、
008
玉治別
『
遠州
(
ゑんしう
)
さま、
009
承
(
うけたま
)
はれば
高姫
(
たかひめ
)
さまには
少
(
すこ
)
しお
塩梅
(
あんばい
)
が
悪
(
わる
)
いと
聞
(
き
)
きましたが、
010
御
(
ご
)
様子
(
やうす
)
はどうですかナ』
011
遠州
『ハイ、
012
この
間
(
あひだ
)
八尋殿
(
やひろどの
)
で
演説
(
えんぜつ
)
をなさつてから
肝腎
(
かんじん
)
のお
宝
(
たから
)
が
石
(
いし
)
に
化
(
ば
)
けて
居
(
を
)
つたとか
云
(
い
)
つて、
013
怒
(
おこ
)
つて
溜池
(
ためいけ
)
の
中
(
なか
)
に
放
(
はう
)
り
込
(
こ
)
まれました。
014
それから
気分
(
きぶん
)
が
悪
(
わる
)
いと
云
(
い
)
うてお
寝
(
やす
)
みになつたきり、
015
毎日
(
まいにち
)
日日
(
ひにち
)
玉々
(
たまたま
)
と、
016
囈語
(
うはごと
)
ばつかり
云
(
い
)
うて
居
(
ゐ
)
らつしやいます。
017
誠
(
まこと
)
に
困
(
こま
)
りものですよ』
018
玉治別
『
何
(
ど
)
うか
差支
(
さしつかへ
)
なくば、
019
玉治別
(
たまはるわけ
)
夫婦
(
ふうふ
)
がお
見舞
(
みまひ
)
に
参
(
まゐ
)
つたと、
020
伝
(
つた
)
へて
下
(
くだ
)
さい』
021
遠州
『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました』
022
と
奥
(
おく
)
に
入
(
い
)
り
耳許
(
みみもと
)
に
口
(
くち
)
を
寄
(
よ
)
せて、
023
遠州
『
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
024
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
がお
見舞
(
みまひ
)
に
見
(
み
)
えました』
025
高姫
(
たかひめ
)
は
人事
(
じんじ
)
不省
(
ふせい
)
に
陥
(
おちい
)
りながらも、
026
玉
(
たま
)
の
一声
(
ひとこゑ
)
にふつと
気
(
き
)
がつき、
027
高姫
『
何
(
なに
)
、
028
玉
(
たま
)
が
出
(
で
)
て
来
(
き
)
たと、
029
そりや
結構
(
けつこう
)
だ。
030
早
(
はや
)
く
見
(
み
)
せてお
呉
(
く
)
れ』
031
と
起
(
お
)
き
上
(
あが
)
つた。
032
遠州
(
ゑんしう
)
は
玉
(
たま
)
ではない、
033
玉治別
(
たまはるわけ
)
が
来
(
き
)
たのだと
実
(
じつ
)
を
明
(
あ
)
かせば、
034
又
(
また
)
もや
高姫
(
たかひめ
)
が
落胆
(
らくたん
)
して
重態
(
ぢゆうたい
)
に
陥
(
おちい
)
る
事
(
こと
)
を
案
(
あん
)
じ、
035
何気
(
なにげ
)
なう、
036
遠州
『ハイ、
037
玉
(
たま
)
がお
出
(
いで
)
になりました』
038
と
皆
(
みな
)
まで
云
(
い
)
はさず、
039
高姫
(
たかひめ
)
は、
040
高姫
『
早
(
はや
)
く
此処
(
ここ
)
へ
持
(
も
)
つてお
出
(
い
)
で』
041
遠州
(
ゑんしう
)
は、
042
遠州
『ハイ』
043
と
答
(
こた
)
へて
表
(
おもて
)
に
出
(
い
)
で、
044
遠州
『
玉治別
(
たまはるわけ
)
さま、
045
お
勝
(
かつ
)
さま、
046
どうぞ
奥
(
おく
)
へお
通
(
とほ
)
り
下
(
くだ
)
さいませ。
047
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
が
大変
(
たいへん
)
お
待
(
ま
)
ち
兼
(
か
)
ねで
御座
(
ござ
)
います』
048
玉治別
(
たまはるわけ
)
はお
勝
(
かつ
)
と
共
(
とも
)
に
つと
奥
(
おく
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
り、
049
見
(
み
)
れば
高姫
(
たかひめ
)
は
真赤
(
まつか
)
な
顔
(
かほ
)
をしながら
捩鉢巻
(
ねぢはちまき
)
の
儘
(
まま
)
病床
(
びやうしやう
)
に
坐
(
すわ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
050
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
051
承
(
うけたま
)
はりますれば
御
(
ご
)
病気
(
びやうき
)
との
事
(
こと
)
、
052
何
(
ど
)
うかとお
案
(
あん
)
じ
申
(
まを
)
しましてお
訪
(
たづ
)
ねに
上
(
あが
)
りました』
053
高姫
(
たかひめ
)
『
別
(
べつ
)
に
私
(
わたくし
)
は、
054
病気
(
びやうき
)
なんかありませぬが、
055
つい
癇癪玉
(
かんしやくだま
)
がつき
詰
(
つ
)
めて
熱
(
ねつ
)
が
出
(
で
)
たのです。
056
常
(
つね
)
に
健康
(
たつしや
)
なものが
偶
(
たま
)
に
寝
(
ね
)
ると、
057
大変
(
たいへん
)
な
噂
(
うはさ
)
が
立
(
た
)
つと
見
(
み
)
えます。
058
ヤアもう
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
です』
059
お
勝
(
かつ
)
『
毎度
(
まいど
)
夫
(
をつと
)
がお
世話
(
せわ
)
になりまして、
060
一度
(
いちど
)
お
訪
(
たづ
)
ね
致
(
いた
)
さねばならないのですが、
061
つい
御
(
ご
)
無礼
(
ぶれい
)
を
致
(
いた
)
しました』
062
高姫
『お
前
(
まへ
)
さまが
玉
(
たま
)
さまの
奥
(
おく
)
さまかい。
063
ほんに
可愛
(
かあい
)
らしい
御
(
ご
)
器量
(
きりやう
)
のよいお
方
(
かた
)
だこと、
064
玉治別
(
たまはるわけ
)
さまもお
仕合
(
しあは
)
せな
事
(
こと
)
ですワイ。
065
時
(
とき
)
に
玉治別
(
たまはるわけ
)
さま、
066
皆
(
みな
)
さまは
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
の
紛失
(
ふんしつ
)
に
就
(
つい
)
て、
067
どう
云
(
い
)
うて
居
(
ゐ
)
られますかな』
068
玉治別
『いやもう
種々
(
いろいろ
)
の
噂
(
うはさ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
069
高姫
(
たかひめ
)
さまが
独断
(
どくだん
)
で
黒姫
(
くろひめ
)
さまを
追
(
お
)
ひ
出
(
だ
)
し
遊
(
あそ
)
ばしたが、
070
人
(
ひと
)
を
呪
(
のろ
)
はば
穴
(
あな
)
二
(
ふた
)
つ、
071
自分
(
じぶん
)
も
亦
(
また
)
玉
(
たま
)
で
失敗
(
しつぱい
)
して
何処
(
どこ
)
かへ
逃
(
に
)
げ
出
(
だ
)
さねばなるまい、
072
と
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
る
人
(
ひと
)
もあり、
073
中
(
なか
)
には
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
は
決
(
けつ
)
して
紛失
(
ふんしつ
)
して
居
(
ゐ
)
ない、
074
吾々
(
われわれ
)
の
身魂
(
みたま
)
が
曇
(
くも
)
つて
居
(
ゐ
)
るから
石
(
いし
)
に
見
(
み
)
えたのだと
云
(
い
)
ふ
人
(
ひと
)
もあり、
075
一方
(
いつぱう
)
には
何
(
ど
)
うも
言依別
(
ことよりわけの
)
命
(
みこと
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
処置
(
しよち
)
が
手
(
て
)
ぬるいと
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
る
方
(
かた
)
もあります。
076
つまり
百
(
ひやく
)
人
(
にん
)
が
百
(
ひやく
)
人
(
にん
)
、
077
種々
(
いろいろ
)
の
意見
(
いけん
)
を
立
(
た
)
てて
騒
(
さわ
)
いで
居
(
ゐ
)
ますよ』
078
高姫
『
私
(
わたくし
)
は
誰
(
たれ
)
が
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
うても
此処
(
ここ
)
は
動
(
うご
)
きませぬよ。
079
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
救
(
すく
)
ひ
主
(
ぬし
)
の
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
が
離
(
はな
)
れて、
080
どうして
御
(
お
)
経綸
(
しぐみ
)
が
成就
(
じやうじゆ
)
致
(
いた
)
しますか。
081
大神
(
おほかみ
)
さまは
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生魂
(
いきだま
)
を
地
(
ぢ
)
と
致
(
いた
)
して
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
を
助
(
たす
)
けると、
082
お
筆先
(
ふでさき
)
にまで
書
(
か
)
いて
示
(
しめ
)
して
御座
(
ござ
)
るのだから』
083
玉治別
『
大変
(
たいへん
)
な
御
(
ご
)
決心
(
けつしん
)
で
結構
(
けつこう
)
ですが、
084
併
(
しか
)
しあの
玉
(
たま
)
が
若
(
も
)
し
紛失
(
ふんしつ
)
して
居
(
ゐ
)
たら、
085
貴女
(
あなた
)
の
責任
(
せきにん
)
上
(
じやう
)
どうするお
考
(
かんが
)
へですか』
086
高姫
『
青二才
(
あをにさい
)
の
分際
(
ぶんざい
)
で、
087
そんな
事
(
こと
)
までお
構
(
かま
)
ひなさるには
及
(
およ
)
びますまい』
088
玉治別
『
何程
(
なにほど
)
青二才
(
あをにさい
)
だつて、
089
やつぱり
私
(
わたくし
)
も
宣伝使
(
せんでんし
)
の
一人
(
ひとり
)
、
090
参考
(
さんかう
)
までに
聞
(
き
)
いて
置
(
お
)
かねばなりませぬ』
091
高姫
『
若
(
わか
)
い
人
(
ひと
)
達
(
たち
)
の
聞
(
き
)
く
事
(
こと
)
ぢやない。
092
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
は
兎
(
と
)
に
角
(
かく
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
話
(
はなし
)
さへして
居
(
を
)
ればよいのだ。
093
私
(
わし
)
等
(
ら
)
とはお
顔
(
かほ
)
の
段
(
だん
)
が
違
(
ちが
)
ふのだから。
094
それについても
言依別
(
ことよりわけ
)
も
何
(
なん
)
とかして
大勢
(
おほぜい
)
の
者
(
もの
)
に
云
(
い
)
ひつけて、
095
宝
(
たから
)
の
在処
(
ありか
)
を
探
(
さが
)
して
下
(
くだ
)
さりさうなものぢやに、
096
エヽ
辛気
(
しんき
)
臭
(
くさ
)
い
事
(
こと
)
だ。
097
玉照彦
(
たまてるひこ
)
さまも、
098
玉照姫
(
たまてるひめ
)
さまも
何程
(
なにほど
)
立派
(
りつぱ
)
な
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
だとか
云
(
い
)
うても、
099
何分
(
なにぶん
)
年
(
とし
)
が
若
(
わか
)
いものだから、
100
こんな
時
(
とき
)
には
仕方
(
しかた
)
がない。
101
アヽ
頭
(
あたま
)
が
痛
(
いた
)
くなつて
来
(
き
)
た。
102
もう
玉治別
(
たまはるわけ
)
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
103
私
(
わし
)
が
本復
(
ほんぷく
)
の
後
(
のち
)
、
104
篤
(
とく
)
と
皆
(
みな
)
さまに
分
(
わか
)
るやう、
105
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
活動
(
くわつどう
)
を
遊
(
あそ
)
ばすやうに
一伍
(
いちぶ
)
一什
(
しじふ
)
の
因縁
(
いんねん
)
を
説
(
と
)
いて
聞
(
き
)
かして
上
(
あ
)
げます。
106
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
の
聖地
(
せいち
)
の
方々
(
かたがた
)
は
薩張
(
さつぱ
)
り
桶
(
をけ
)
のたががゆるんでしまつて、
107
誰
(
たれ
)
も
彼
(
かれ
)
も
蒟蒻
(
こんにやく
)
の
幽霊
(
いうれい
)
見
(
み
)
たやうな
空気抜
(
くうきぬ
)
けばかりぢや、
108
さうだから
結構
(
けつこう
)
な
玉
(
たま
)
を
全部
(
ぜんぶ
)
盗
(
と
)
られて
仕舞
(
しま
)
ひ、
109
平気
(
へいき
)
の
平左
(
へいざ
)
でポカンとして
為
(
な
)
す
所
(
ところ
)
を
知
(
し
)
らずと
云
(
い
)
ふ
腑甲斐
(
ふがひ
)
ない
為体
(
ていたらく
)
、
110
私
(
わし
)
は
思
(
おも
)
うても
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
ちますワイな。
111
玉治別
(
たまはるわけ
)
さま、
112
お
前
(
まへ
)
さまも、
113
ちつと
此
(
この
)
玉
(
たま
)
の
事
(
こと
)
に
就
(
つい
)
て
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさつては
何
(
ど
)
うだい。
114
宇津山
(
うづやま
)
郷
(
がう
)
の
蛙飛
(
かはづと
)
ばしの
蚯蚓切
(
みみづき
)
り、
115
薯
(
いも
)
の
赤子
(
あかご
)
を
育
(
そだ
)
てるのとは、
116
ちと
宣伝使
(
せんでんし
)
は
六ケ敷
(
むつかし
)
いですよ。
117
貴方
(
あんた
)
第一
(
だいいち
)
チヨカ
[
※
「チョカ」とは行動が軽いこと。
]
だから
此
(
この
)
玉
(
たま
)
探
(
さが
)
しに
率先
(
そつせん
)
して、
118
もう
今頃
(
いまごろ
)
にや
何処
(
どこ
)
かに
飛
(
と
)
んでいつてゐらつしやると
思
(
おも
)
うて
居
(
ゐ
)
たのに、
119
気楽
(
きらく
)
さうに
夫婦
(
ふうふ
)
連
(
づ
)
れで、
120
ぞろぞろと
昼
(
ひる
)
の
真最中
(
まつさいちう
)
に
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だいな、
121
ちと
確
(
しつか
)
りなさらぬか。
122
人間
(
にんげん
)
の
家
(
うち
)
は
女房
(
にようばう
)
が
肝腎
(
かんじん
)
ぢやぞえ。
123
これお
勝
(
かつ
)
さまとやら、
124
お
前
(
まへ
)
さまがこの
玉治別
(
たまはるわけ
)
さまを、
125
ちつと
鞭撻
(
べんたつ
)
せなければならぬぞえ。
126
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
此
(
こ
)
の
場合
(
ばあひ
)
に、
127
何
(
なに
)
を
迂路
(
うろ
)
々々
(
うろ
)
と
間誤
(
まご
)
ついて
御座
(
ござ
)
るのぢやい』
128
玉治別
『
高姫
(
たかひめ
)
さま、
129
貴女
(
あなた
)
は
人
(
ひと
)
を
責
(
せ
)
むるに
急
(
きふ
)
にして
己
(
おのれ
)
を
責
(
せ
)
むると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
知
(
し
)
らないのですか』
130
高姫
『そんな
事
(
こと
)
は
疾
(
と
)
うの
昔
(
むかし
)
に
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
りますワイな。
131
よう
考
(
かんが
)
へて
御覧
(
ごらん
)
なさい。
132
金剛
(
こんがう
)
不壊
(
ふゑ
)
の
宝珠
(
ほつしゆ
)
の
玉
(
たま
)
や
紫
(
むらさき
)
の
玉
(
たま
)
は、
133
謂
(
い
)
はば
一旦
(
いつたん
)
私
(
わし
)
の
身
(
み
)
の
内
(
うち
)
のもので、
134
私
(
わし
)
の
御魂
(
みたま
)
同然
(
どうぜん
)
だ。
135
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
から
吐
(
は
)
きだしたのと、
136
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
さぬだけの
相違
(
さうゐ
)
ぢやないか。
137
アヽこんな
事
(
こと
)
なら
腹
(
はら
)
に
呑
(
の
)
んでさへ
居
(
を
)
れば、
138
こんな
不調法
(
ぶてうはふ
)
は
出来
(
でき
)
やしまいのに、
139
お
前
(
まへ
)
さまが
仕様
(
しやう
)
ない
木挽
(
こびき
)
の
杢助
(
もくすけ
)
やらお
初
(
はつ
)
のやうな
阿魔
(
あま
)
つちよを
引張
(
ひつぱ
)
つて
来
(
き
)
て
高姫
(
たかひめ
)
の
腹
(
はら
)
から
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
さしたりするものだから、
140
こんな
事
(
こと
)
になつたのだ。
141
この
大責任
(
だいせきにん
)
は
元
(
もと
)
を
糺
(
ただ
)
せば、
142
玉
(
たま
)
さま、
143
お
前
(
まへ
)
が
負
(
お
)
はねばならぬのだ。
144
その
次
(
つぎ
)
に
杢助
(
もくすけ
)
の
娘
(
むすめ
)
のお
初
(
はつ
)
、
145
是
(
これ
)
でも
口答
(
くちごた
)
へをするならして
見
(
み
)
なさい』
146
玉治別
『
高姫
(
たかひめ
)
さま、
147
怪
(
け
)
しからぬ
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
います。
148
玉
(
たま
)
を
吐
(
は
)
き
出
(
だ
)
したのと
此
(
この
)
度
(
たび
)
の
紛失
(
ふんしつ
)
とは
別問題
(
べつもんだい
)
ぢやありませぬか。
149
さう
混淆
(
ごちやまぜ
)
にせられては
聊
(
いささ
)
か
私
(
わたくし
)
も
迷惑
(
めいわく
)
致
(
いた
)
します』
150
高姫
『
其
(
その
)
理屈
(
りくつ
)
が
悪
(
わる
)
いのだよ。
151
お
前
(
まへ
)
さまは
謂
(
い
)
はば
新米者
(
しんまいもの
)
の
端役人
(
はしたやくにん
)
ぢや。
152
私
(
わし
)
は
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
ぢや、
153
同
(
おな
)
じ
宣伝使
(
せんでんし
)
にしても
天
(
てん
)
と
地
(
ち
)
との
懸隔
(
けんかく
)
がある。
154
私
(
わし
)
を
失敗
(
しくじ
)
らしてお
前
(
まへ
)
さまは
平気
(
へいき
)
で
見
(
み
)
て
居
(
を
)
る
気
(
き
)
か。
155
私
(
わし
)
の
失敗
(
しくじり
)
は
謂
(
い
)
はば
三五教
(
あななひけう
)
の
自滅
(
じめつ
)
も
同然
(
どうぜん
)
ぢや。
156
お
前
(
まへ
)
さまが
一人
(
ひとり
)
や
二人
(
ふたり
)
失敗
(
しくじ
)
つたつて、
157
決
(
けつ
)
して
三五教
(
あななひけう
)
に
影響
(
えいきやう
)
を
及
(
およ
)
ぼすものでない。
158
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
大責任
(
だいせきにん
)
を
自覚
(
じかく
)
し
私
(
わし
)
が
盗
(
と
)
りましたと
云
(
い
)
うて
責任
(
せきにん
)
を
帯
(
お
)
び、
159
一先
(
ひとま
)
ず
此
(
この
)
場
(
ば
)
の
ごみ
を
濁
(
にご
)
しなさい。
160
その
間
(
あひだ
)
にこの
高姫
(
たかひめ
)
が
天眼通
(
てんがんつう
)
で
在処
(
ありか
)
を
探
(
さが
)
し、
161
お
前
(
まへ
)
さまの
無実
(
むじつ
)
を
晴
(
は
)
らし、
162
さうして
玉治別
(
たまはるわけ
)
さまは
立派
(
りつぱ
)
な
人
(
ひと
)
だと
云
(
い
)
はれて
信用
(
しんよう
)
が
益々
(
ますます
)
あがつて
来
(
く
)
る。
163
神
(
かみ
)
さまに
仕
(
つか
)
へるものは、
164
これ
位
(
くらゐ
)
な
犠牲
(
ぎせい
)
的
(
てき
)
精神
(
せいしん
)
がなくては
駄目
(
だめ
)
ぢや、
165
それが
出来
(
でき
)
ないやうな
事
(
こと
)
なら
宣伝使
(
せんでんし
)
を
返上
(
へんじやう
)
なさいませ。
166
なアお
勝
(
かつ
)
さま、
167
私
(
わし
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
無理
(
むり
)
ですか、
168
無理
(
むり
)
なら
無理
(
むり
)
とハツキリ
云
(
い
)
うて
下
(
くだ
)
さい』
169
と
稍
(
やや
)
精神
(
せいしん
)
に
異状
(
いじやう
)
を
帯
(
お
)
びたせいか、
170
勝手
(
かつて
)
気儘
(
きまま
)
な
理屈
(
りくつ
)
を
吹
(
ふ
)
き
出
(
いだ
)
す。
171
玉治別
(
たまはるわけ
)
『まアまア
高姫
(
たかひめ
)
さま、
172
お
鎮
(
しづ
)
まりなさいませ。
173
貴女
(
あなた
)
は
少
(
すこ
)
し
許
(
ばか
)
り
逆上
(
ぎやくじやう
)
して
居
(
ゐ
)
ますから、
174
病気
(
びやうき
)
の
害
(
がい
)
になると
済
(
す
)
まぬによつて、
175
今日
(
けふ
)
は
一先
(
ひとま
)
づお
暇
(
いとま
)
致
(
いた
)
します』
176
高姫
『これこれ、
177
此
(
この
)
重大
(
ぢうだい
)
なる
責任
(
せきにん
)
を
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
に
塗
(
ぬ
)
りつけようとするのか。
178
大方
(
おほかた
)
お
前
(
まへ
)
さまがそつと
何々
(
なになに
)
したのぢやなからうかな。
179
何
(
ど
)
うも
素振
(
そぶり
)
が
怪
(
あや
)
しいぞえ』
180
玉治別
『
病人
(
びやうにん
)
だと
思
(
おも
)
うて
あし
らつて
居
(
を
)
れば
余
(
あま
)
りの
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ひなさる。
181
これから
私
(
わたくし
)
も
言依別
(
ことよりわけ
)
の
教主
(
けうしゆ
)
さまにお
届
(
とど
)
けして
来
(
き
)
ます』
182
高姫
『
言依別
(
ことよりわけ
)
が
何
(
なん
)
ぢやいな、
183
あれは
言依姫
(
ことよりひめ
)
の
婿
(
むこ
)
ぢやないか。
184
謂
(
い
)
はば
私
(
わし
)
の
妹
(
いもうと
)
の
婿
(
むこ
)
で
私
(
わし
)
の
弟
(
おとうと
)
も
同然
(
どうぜん
)
だ。
185
真
(
しん
)
の
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
憑
(
かか
)
つた
高姫
(
たかひめ
)
を
措
(
お
)
いて、
186
あんな
者
(
もの
)
に
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
つたつて
埒
(
らち
)
が
開
(
あ
)
くものかい。
187
あれは
知慧
(
ちゑ
)
と
学
(
がく
)
とで、
188
人間界
(
にんげんかい
)
では
一寸
(
ちよつと
)
豪
(
えら
)
さうに
見
(
み
)
えるが、
189
神
(
かみ
)
の
方
(
はう
)
から
云
(
い
)
へば
赤坊
(
あかんぼ
)
みたやうなものぢや。
190
なぜ
高姫
(
たかひめ
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
きなさらぬのかい』
191
と
目
(
め
)
を
三角
(
さんかく
)
にして
睨
(
にら
)
みつける。
192
お
勝
(
かつ
)
は
悔
(
くや
)
し
涙
(
なみだ
)
に
堪
(
た
)
へ
兼
(
か
)
ねて
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
泣
(
な
)
き
倒
(
たふ
)
れる。
193
高姫
(
たかひめ
)
『
泣
(
な
)
いて
事
(
こと
)
が
済
(
す
)
むなら
易
(
やす
)
い
事
(
こと
)
だ。
194
私
(
わし
)
でも
泣
(
な
)
きたいけれども
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
御
(
おん
)
宝
(
たから
)
の
行方
(
ゆくへ
)
を
探
(
さが
)
す
迄
(
まで
)
は、
195
そんな
気楽
(
きらく
)
な、
196
泣
(
な
)
いてをれますか。
197
大
(
おほ
)
きな
口
(
くち
)
を
開
(
あ
)
けて、
198
わあわあと
泣
(
な
)
くお
前
(
まへ
)
さまより、
199
ぢいつと
耐
(
こら
)
へて
気張
(
きば
)
つて
居
(
を
)
る
高姫
(
たかひめ
)
の
方
(
はう
)
が
何程
(
なにほど
)
苦
(
くる
)
しいか
分
(
わか
)
りませぬぞえ』
200
玉治別
(
たまはるわけ
)
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
今日
(
けふ
)
はお
暇
(
いとま
)
を
致
(
いた
)
します。
201
ゆつくりと
思案
(
しあん
)
して
御
(
ご
)
返事
(
へんじ
)
に
参
(
まゐ
)
ります』
202
高姫
『どつこい、
203
夫婦
(
ふうふ
)
の
者
(
もの
)
、
204
此
(
この
)
解決
(
かいけつ
)
がつく
迄
(
まで
)
一寸
(
いつすん
)
も
動
(
うご
)
いてはなりませぬぞや』
205
玉治別
『はて
迷惑
(
めいわく
)
の
事
(
こと
)
だ。
206
お
勝
(
かつ
)
、
207
どうしようかなア』
208
お
勝
(
かつ
)
は
又
(
また
)
もや
大声
(
おほごゑ
)
を
上
(
あ
)
げてオイオイ
泣
(
な
)
き
出
(
だ
)
した。
209
高姫
(
たかひめ
)
は
枕
(
まくら
)
許
(
もと
)
の
金盥
(
かなだらひ
)
を
爪
(
つめ
)
でガシガシと
掻
(
か
)
き
鳴
(
な
)
らし
乍
(
なが
)
ら、
210
もどかしさうに、
211
高姫
『あゝ
玉
(
たま
)
が
欲
(
ほ
)
しい。
212
玉
(
たま
)
が
欲
(
ほ
)
しい。
213
玉
(
たま
)
はやつとあつても
がらくた
人間
(
にんげん
)
の
どたま
計
(
ばか
)
りで
仕方
(
しかた
)
がない。
214
よう
是
(
これ
)
だけ
蒟蒻玉
(
こんにやくだま
)
が
集
(
あつ
)
まつたものだ、
215
これ
確
(
しつか
)
り……
玉
(
たま
)
さま……せぬかいな』
216
と
金盥
(
かなだらひ
)
をもつて
玉治別
(
たまはるわけ
)
の
頭
(
あたま
)
をガンとやつた。
217
玉治別
(
たまはるわけ
)
は、
218
玉治別
『
困
(
こま
)
つた
事
(
こと
)
になつたものぢや、
219
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
薩張
(
さつぱり
)
支離
(
しり
)
滅裂
(
めつれつ
)
、
220
到頭
(
たうとう
)
魂
(
たま
)
が
抜
(
ぬ
)
けて
発狂
(
はつきやう
)
して
了
(
しま
)
つた』
221
と
呟
(
つぶや
)
くを
聞
(
き
)
き
咎
(
とが
)
めて、
222
高姫
(
たかひめ
)
は
口
(
くち
)
を
尖
(
とが
)
らし、
223
高姫
『
何
(
なに
)
、
224
私
(
わし
)
が
発狂
(
はつきやう
)
したと
見
(
み
)
えますか』
225
玉治別
『
八
(
はつ
)
(
発
(
はつ
)
)
狂
(
きやう
)
と
嘲弄
(
からか
)
ふ
貴女
(
あなた
)
は、
226
非常
(
ひじやう
)
に
九
(
く
)
(
苦
(
く
)
)
境
(
きやう
)
に
陥
(
おちい
)
つて
居
(
ゐ
)
るやうに
見
(
み
)
えますワイ。
227
アハヽヽヽ』
228
と
焼糞
(
やけくそ
)
になつて
高笑
(
たかわら
)
ひをする。
229
高姫
(
たかひめ
)
はムツと
腹
(
はら
)
を
立
(
た
)
て、
230
高姫
『
長上
(
めうへ
)
に
対
(
たい
)
して
無礼
(
ぶれい
)
千万
(
せんばん
)
なその
振舞
(
ふるまひ
)
』
231
とあべこべに、
232
頭
(
あたま
)
をこづいた
方
(
はう
)
から
無礼
(
ぶれい
)
呼
(
よば
)
はりを
浴
(
あ
)
びせかけられ、
233
玉治別
(
たまはるわけ
)
はお
勝
(
かつ
)
の
手
(
て
)
を
取
(
と
)
り、
234
玉治別
『サアお
勝
(
かつ
)
、
235
長坐
(
ながゐ
)
は
畏
(
おそ
)
れぢや、
236
気
(
き
)
の
鎮
(
しづ
)
まる
迄
(
まで
)
家
(
いへ
)
に
帰
(
かへ
)
らう』
237
と
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
見捨
(
みす
)
てて
表
(
おもて
)
へ
駆出
(
かけだ
)
した。
238
高姫
(
たかひめ
)
は
狂気
(
きやうき
)
の
如
(
ごと
)
く
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
で
怒鳴
(
どな
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
239
高姫
(
たかひめ
)
の
病気
(
びやうき
)
と
聞
(
き
)
いて
見舞
(
みまひ
)
にやつて
来
(
き
)
た
杢助
(
もくすけ
)
は、
240
お
初
(
はつ
)
の
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
き、
241
門口
(
かどぐち
)
で
玉治別
(
たまはるわけ
)
夫婦
(
ふうふ
)
にベツタリ
出会
(
でつくは
)
し、
242
杢助
『ヤア、
243
先生
(
せんせい
)
か』
244
玉治別
『
杢助
(
もくすけ
)
さまか、
245
お
初
(
はつ
)
さま、
246
ようお
出
(
いで
)
なさいました』
247
杢助
『
高姫
(
たかひめ
)
さまの
様子
(
やうす
)
は
何
(
ど
)
うですか』
248
玉治別
『いやもう
大変
(
たいへん
)
です。
249
カンと
叩
(
や
)
られて
来
(
き
)
ました。
250
大変
(
たいへん
)
に、
251
私
(
わたし
)
やお
初
(
はつ
)
さま
始
(
はじ
)
め、
252
杢助
(
もくすけ
)
さまを
恨
(
うら
)
んで
居
(
ゐ
)
ますよ。
253
用心
(
ようじん
)
なさい、
254
又
(
また
)
カンとやられちや
耐
(
たま
)
りませぬからなア』
255
杢助
『テンと
訳
(
わけ
)
が
分
(
わか
)
りませぬなア』
256
玉治別
『
別
(
べつ
)
に
勘考
(
かんかう
)
せいでも
奥
(
おく
)
へお
出
(
いで
)
になれば
分
(
わか
)
ります。
257
一寸
(
ちよつと
)
私
(
わたし
)
は
急
(
いそ
)
ぎますから、
258
お
先
(
さき
)
へ
御免
(
ごめん
)
蒙
(
かうむ
)
ります』
259
と
云
(
い
)
ひながら
女房
(
にようばう
)
のお
勝
(
かつ
)
と
共
(
とも
)
に、
260
慌
(
あわただ
)
しく
吾
(
わが
)
家
(
や
)
をさして
帰
(
かへ
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
261
(
大正一一・五・二五
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