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第六章 見舞客(みまひきやく)〔六九八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻 篇:第2篇 心猿意馬 よみ(新仮名遣い):しんえんいば
章:第6章 見舞客 よみ(新仮名遣い):みまいきゃく 通し章番号:698
口述日:1922(大正11)年05月25日(旧04月29日) 口述場所: 筆録者:加藤明子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年7月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
高姫は自宅に帰ると発熱して寝込んでしまった。遠州と武州が看病に立ち働いている。そこへ玉治別夫婦が見舞いにやってきた。
玉治別とお勝が病床に来ると、高姫は自分は病気なんかじゃない、演説会で癇癪玉が詰めて熱が出ただけだ、と強がりを言う。
高姫は玉治別に、この件でどんな噂が立っているか聞いた。玉治別は、いろんな意見があってまとまっていないが、高姫に責任があるから聖地を出て玉探索にでるべきだ、という者もいることを伝えた。
高姫は日の出神の生き宮である自分は絶対に聖地を離れない、と言う。玉治別は、玉を現に紛失した責任を高姫自身はどう考えているか、と問いかけた。
高姫は青二才が心配することではない、と返して言依別命や杢助、お初にも八つ当たりをはじめた。玉治別は抗議するが、高姫は自分は生き宮だと権威を嵩にかけ、逆上して吠え立てる。
玉治別はなだめようとするが、高姫は荒れ狂って人に責任をなすりつけようとするのみである。玉治別は仕方なくお勝の手を取って高姫の館から逃げ出した。すると、見舞いにやってきた杢助・お初と門のところでばったり出くわした。
玉治別は杢助に、高姫が杢助・お初にも当り散らしていると忠告すると、帰って行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ:宇都山郷(宇津山郷) データ凡例: データ最終更新日:2021-06-02 17:42:28 OBC :rm2206
愛善世界社版:76頁 八幡書店版:第4輯 408頁 修補版: 校定版:79頁 普及版:35頁 初版: ページ備考:
001 高姫(たかひめ)はすごすごと(わが)()(かへ)頭痛(づつう)がするとて臥床(ふしど)()捩鉢巻(ねぢはちまき)大発熱(だいはつねつ)002大苦悶(だいくもん)003遠州(ゑんしう)004武州(ぶしう)種々(いろいろ)介抱(かいほう)全力(ぜんりよく)(つく)して()る。005玉治別(たまはるわけ)(つま)のお(かつ)(とも)高姫(たかひめ)病気(びやうき)()き、006見舞(みまひ)のために(たづ)ねて()た。007玉治別(たまはるわけ)(には)(おもて)()(はたら)いて()遠州(ゑんしう)(むか)ひ、
008玉治別遠州(ゑんしう)さま、009(うけたま)はれば高姫(たかひめ)さまには(すこ)しお塩梅(あんばい)(わる)いと()きましたが、010()様子(やうす)はどうですかナ』
011遠州『ハイ、012この(あひだ)八尋殿(やひろどの)演説(えんぜつ)をなさつてから肝腎(かんじん)のお(たから)(いし)()けて()つたとか()つて、013(おこ)つて溜池(ためいけ)(なか)(はう)()まれました。014それから気分(きぶん)(わる)いと()うてお(やす)みになつたきり、015毎日(まいにち)日日(ひにち)玉々(たまたま)と、016囈語(うはごと)ばつかり()うて()らつしやいます。017(まこと)(こま)りものですよ』
018玉治別()うか差支(さしつかへ)なくば、019玉治別(たまはるわけ)夫婦(ふうふ)がお見舞(みまひ)(まゐ)つたと、020(つた)へて(くだ)さい』
021遠州承知(しようち)(いた)しました』
022(おく)()耳許(みみもと)(くち)()せて、
023遠州高姫(たかひめ)(さま)024玉治別(たまはるわけ)宣伝使(せんでんし)がお見舞(みまひ)()えました』
025 高姫(たかひめ)人事(じんじ)不省(ふせい)(おちい)りながらも、026(たま)一声(ひとこゑ)にふつと()がつき、
027高姫(なに)028(たま)()()たと、029そりや結構(けつこう)だ。030(はや)()せてお()れ』
031()(あが)つた。032遠州(ゑんしう)(たま)ではない、033玉治別(たまはるわけ)()たのだと(じつ)()かせば、034(また)もや高姫(たかひめ)落胆(らくたん)して重態(ぢゆうたい)(おちい)(こと)(あん)じ、035何気(なにげ)なう、
036遠州『ハイ、037(たま)がお(いで)になりました』
038(みな)まで()はさず、039高姫(たかひめ)は、
040高姫(はや)此処(ここ)()つてお()で』
041 遠州(ゑんしう)は、
042遠州『ハイ』
043(こた)へて(おもて)()で、
044遠州玉治別(たまはるわけ)さま、045(かつ)さま、046どうぞ(おく)へお(とほ)(くだ)さいませ。047高姫(たかひめ)(さま)大変(たいへん)()()ねで御座(ござ)います』
048 玉治別(たまはるわけ)はお(かつ)(とも)つと(おく)(すす)()り、049()れば高姫(たかひめ)真赤(まつか)(かほ)をしながら捩鉢巻(ねぢはちまき)(まま)病床(びやうしやう)(すわ)つて()る。
050玉治別(たまはるわけ)高姫(たかひめ)(さま)051(うけたま)はりますれば()病気(びやうき)との(こと)052()うかとお(あん)(まを)しましてお(たづ)ねに(あが)りました』
053高姫(たかひめ)(べつ)(わたくし)は、054病気(びやうき)なんかありませぬが、055つい癇癪玉(かんしやくだま)がつき()めて(ねつ)()たのです。056(つね)健康(たつしや)なものが(たま)()ると、057大変(たいへん)(うはさ)()つと()えます。058ヤアもう大丈夫(だいぢやうぶ)です』
059(かつ)毎度(まいど)(をつと)がお世話(せわ)になりまして、060一度(いちど)(たづ)(いた)さねばならないのですが、061つい()無礼(ぶれい)(いた)しました』
062高姫『お(まへ)さまが(たま)さまの(おく)さまかい。063ほんに可愛(かあい)らしい()器量(きりやう)のよいお(かた)だこと、064玉治別(たまはるわけ)さまもお仕合(しあは)せな(こと)ですワイ。065(とき)玉治別(たまはるわけ)さま、066(みな)さまは如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(たま)紛失(ふんしつ)(つい)て、067どう()うて()られますかな』
068玉治別『いやもう種々(いろいろ)(うはさ)御座(ござ)います。069高姫(たかひめ)さまが独断(どくだん)黒姫(くろひめ)さまを()()(あそ)ばしたが、070(ひと)(のろ)はば(あな)(ふた)つ、071自分(じぶん)(また)(たま)失敗(しつぱい)して何処(どこ)かへ()()さねばなるまい、072()つて()(ひと)もあり、073(なか)には如意(によい)宝珠(ほつしゆ)(けつ)して紛失(ふんしつ)して()ない、074吾々(われわれ)身魂(みたま)(くも)つて()るから(いし)()えたのだと()(ひと)もあり、075一方(いつぱう)には()うも言依別(ことよりわけの)(みこと)(さま)()処置(しよち)()ぬるいと()つて()(かた)もあります。076つまり(ひやく)(にん)(ひやく)(にん)077種々(いろいろ)意見(いけん)()てて(さわ)いで()ますよ』
078高姫(わたくし)(たれ)(なん)()うても此処(ここ)(うご)きませぬよ。079三千(さんぜん)世界(せかい)(すく)(ぬし)()出神(でのかみ)生宮(いきみや)(はな)れて、080どうして()経綸(しぐみ)成就(じやうじゆ)(いた)しますか。081大神(おほかみ)さまは()出神(でのかみ)生魂(いきだま)()(いた)して三千(さんぜん)世界(せかい)(たす)けると、082筆先(ふでさき)にまで()いて(しめ)して御座(ござ)るのだから』
083玉治別大変(たいへん)()決心(けつしん)結構(けつこう)ですが、084(しか)しあの(たま)()紛失(ふんしつ)して()たら、085貴女(あなた)責任(せきにん)(じやう)どうするお(かんが)へですか』
086高姫青二才(あをにさい)分際(ぶんざい)で、087そんな(こと)までお(かま)ひなさるには(およ)びますまい』
088玉治別何程(なにほど)青二才(あをにさい)だつて、089やつぱり(わたくし)宣伝使(せんでんし)一人(ひとり)090参考(さんかう)までに()いて()かねばなりませぬ』
091高姫(わか)(ひと)(たち)()(こと)ぢやない。092(まへ)(たち)()(かく)(かみ)(さま)のお(はなし)さへして()ればよいのだ。093(わし)()とはお(かほ)(だん)(ちが)ふのだから。094それについても言依別(ことよりわけ)(なん)とかして大勢(おほぜい)(もの)()ひつけて、095(たから)在処(ありか)(さが)して(くだ)さりさうなものぢやに、096エヽ辛気(しんき)(くさ)(こと)だ。097玉照彦(たまてるひこ)さまも、098玉照姫(たまてるひめ)さまも何程(なにほど)立派(りつぱ)(かみ)(さま)だとか()うても、099何分(なにぶん)(とし)(わか)いものだから、100こんな(とき)には仕方(しかた)がない。101アヽ(あたま)(いた)くなつて()た。102もう玉治別(たまはるわけ)()夫婦(ふうふ)(かへ)つて(くだ)さい。103(わし)本復(ほんぷく)(のち)104(とく)(みな)さまに(わか)るやう、105千騎(せんき)一騎(いつき)活動(くわつどう)(あそ)ばすやうに一伍(いちぶ)一什(しじふ)因縁(いんねん)()いて()かして()げます。106(この)(ごろ)聖地(せいち)方々(かたがた)薩張(さつぱ)(をけ)のたががゆるんでしまつて、107(たれ)(かれ)蒟蒻(こんにやく)幽霊(いうれい)()たやうな空気抜(くうきぬ)けばかりぢや、108さうだから結構(けつこう)(たま)全部(ぜんぶ)()られて仕舞(しま)ひ、109平気(へいき)平左(へいざ)でポカンとして()(ところ)()らずと()腑甲斐(ふがひ)ない為体(ていたらく)110(わし)(おも)うても(はら)()ちますワイな。111玉治別(たまはるわけ)さま、112(まへ)さまも、113ちつと(この)(たま)(こと)(つい)()心配(しんぱい)なさつては()うだい。114宇津山(うづやま)(がう)蛙飛(かはづと)ばしの蚯蚓切(みみづき)り、115(いも)赤子(あかご)(そだ)てるのとは、116ちと宣伝使(せんでんし)六ケ敷(むつかし)いですよ。117貴方(あんた)第一(だいいち)チヨカ「チョカ」とは行動が軽いこと。だから(この)(たま)(さが)しに率先(そつせん)して、118もう今頃(いまごろ)にや何処(どこ)かに()んでいつてゐらつしやると(おも)うて()たのに、119気楽(きらく)さうに夫婦(ふうふ)()れで、120ぞろぞろと(ひる)真最中(まつさいちう)(なん)(こと)だいな、121ちと(しつか)りなさらぬか。122人間(にんげん)(うち)女房(にようばう)肝腎(かんじん)ぢやぞえ。123これお(かつ)さまとやら、124(まへ)さまがこの玉治別(たまはるわけ)さまを、125ちつと鞭撻(べんたつ)せなければならぬぞえ。126千騎(せんき)一騎(いつき)()場合(ばあひ)に、127(なに)迂路(うろ)々々(うろ)間誤(まご)ついて御座(ござ)るのぢやい』
128玉治別高姫(たかひめ)さま、129貴女(あなた)(ひと)()むるに(きふ)にして(おのれ)()むると()(こと)()らないのですか』
130高姫『そんな(こと)()うの(むかし)()つて()りますワイな。131よう(かんが)へて御覧(ごらん)なさい。132金剛(こんがう)不壊(ふゑ)宝珠(ほつしゆ)(たま)(むらさき)(たま)は、133()はば一旦(いつたん)(わし)()(うち)のもので、134(わし)御魂(みたま)同然(どうぜん)だ。135(はら)(なか)から()きだしたのと、136()()さぬだけの相違(さうゐ)ぢやないか。137アヽこんな(こと)なら(はら)()んでさへ()れば、138こんな不調法(ぶてうはふ)出来(でき)やしまいのに、139(まへ)さまが仕様(しやう)ない木挽(こびき)杢助(もくすけ)やらお(はつ)のやうな阿魔(あま)つちよを引張(ひつぱ)つて()高姫(たかひめ)(はら)から()()さしたりするものだから、140こんな(こと)になつたのだ。141この大責任(だいせきにん)(もと)(ただ)せば、142(たま)さま、143(まへ)()はねばならぬのだ。144その(つぎ)杢助(もくすけ)(むすめ)のお(はつ)145(これ)でも口答(くちごた)へをするならして()なさい』
146玉治別高姫(たかひめ)さま、147()しからぬ(こと)仰有(おつしや)います。148(たま)()()したのと(この)(たび)紛失(ふんしつ)とは別問題(べつもんだい)ぢやありませぬか。149さう混淆(ごちやまぜ)にせられては(いささ)(わたくし)迷惑(めいわく)(いた)します』
150高姫(その)理屈(りくつ)(わる)いのだよ。151(まへ)さまは()はば新米者(しんまいもの)端役人(はしたやくにん)ぢや。152(わし)()出神(でのかみ)生宮(いきみや)ぢや、153(おな)宣伝使(せんでんし)にしても(てん)()との懸隔(けんかく)がある。154(わし)失敗(しくじ)らしてお(まへ)さまは平気(へいき)()()()か。155(わし)失敗(しくじり)()はば三五教(あななひけう)自滅(じめつ)同然(どうぜん)ぢや。156(まへ)さまが一人(ひとり)二人(ふたり)失敗(しくじ)つたつて、157(けつ)して三五教(あななひけう)影響(えいきやう)(およ)ぼすものでない。158()(かく)大責任(だいせきにん)自覚(じかく)(わし)()りましたと()うて責任(せきにん)()び、159一先(ひとま)(この)()ごみ(にご)しなさい。160その(あひだ)にこの高姫(たかひめ)天眼通(てんがんつう)在処(ありか)(さが)し、161(まへ)さまの無実(むじつ)()らし、162さうして玉治別(たまはるわけ)さまは立派(りつぱ)(ひと)だと()はれて信用(しんよう)益々(ますます)あがつて()る。163(かみ)さまに(つか)へるものは、164これ(くらゐ)犠牲(ぎせい)(てき)精神(せいしん)がなくては駄目(だめ)ぢや、165それが出来(でき)ないやうな(こと)なら宣伝使(せんでんし)返上(へんじやう)なさいませ。166なアお(かつ)さま、167(わし)()(こと)無理(むり)ですか、168無理(むり)なら無理(むり)とハツキリ()うて(くだ)さい』
169(やや)精神(せいしん)異状(いじやう)()びたせいか、170勝手(かつて)気儘(きまま)理屈(りくつ)()(いだ)す。
171玉治別(たまはるわけ)『まアまア高姫(たかひめ)さま、172(しづ)まりなさいませ。173貴女(あなた)(すこ)(ばか)逆上(ぎやくじやう)して()ますから、174病気(びやうき)(がい)になると()まぬによつて、175今日(けふ)一先(ひとま)づお(いとま)(いた)します』
176高姫『これこれ、177(この)重大(ぢうだい)なる責任(せきにん)(この)高姫(たかひめ)()りつけようとするのか。178大方(おほかた)(まへ)さまがそつと何々(なになに)したのぢやなからうかな。179()うも素振(そぶり)(あや)しいぞえ』
180玉治別病人(びやうにん)だと(おも)うてあしらつて()れば(あま)りの(こと)()ひなさる。181これから(わたくし)言依別(ことよりわけ)教主(けうしゆ)さまにお(とど)けして()ます』
182高姫言依別(ことよりわけ)(なん)ぢやいな、183あれは言依姫(ことよりひめ)婿(むこ)ぢやないか。184()はば(わし)(いもうと)婿(むこ)(わし)(おとうと)同然(どうぜん)だ。185(しん)()出神(でのかみ)(かか)つた高姫(たかひめ)()いて、186あんな(もの)(なに)()つたつて(らち)()くものかい。187あれは知慧(ちゑ)(がく)とで、188人間界(にんげんかい)では一寸(ちよつと)(えら)さうに()えるが、189(かみ)(はう)から()へば赤坊(あかんぼ)みたやうなものぢや。190なぜ高姫(たかひめ)()(こと)()きなさらぬのかい』
191()三角(さんかく)にして(にら)みつける。192(かつ)(くや)(なみだ)()()ねて(その)()()(たふ)れる。
193高姫(たかひめ)()いて(こと)()むなら(やす)(こと)だ。194(わし)でも()きたいけれども神政(しんせい)成就(じやうじゆ)(おん)(たから)行方(ゆくへ)(さが)(まで)は、195そんな気楽(きらく)な、196()いてをれますか。197(おほ)きな(くち)()けて、198わあわあと()くお(まへ)さまより、199ぢいつと(こら)へて気張(きば)つて()高姫(たかひめ)(はう)何程(なにほど)(くる)しいか(わか)りませぬぞえ』
200玉治別(たまはるわけ)()(かく)今日(けふ)はお(いとま)(いた)します。201ゆつくりと思案(しあん)して()返事(へんじ)(まゐ)ります』
202高姫『どつこい、203夫婦(ふうふ)(もの)204(この)解決(かいけつ)がつく(まで)一寸(いつすん)(うご)いてはなりませぬぞや』
205玉治別『はて迷惑(めいわく)(こと)だ。206(かつ)207どうしようかなア』
208 お(かつ)(また)もや大声(おほごゑ)()げてオイオイ()()した。209高姫(たかひめ)(まくら)(もと)金盥(かなだらひ)(つめ)でガシガシと()()らし(なが)ら、210もどかしさうに、
211高姫『あゝ(たま)()しい。212(たま)()しい。213(たま)はやつとあつてもがらくた人間(にんげん)どたま(ばか)りで仕方(しかた)がない。214よう(これ)だけ蒟蒻玉(こんにやくだま)(あつ)まつたものだ、215これ(しつか)り……(たま)さま……せぬかいな』
216金盥(かなだらひ)をもつて玉治別(たまはるわけ)(あたま)をガンとやつた。217玉治別(たまはるわけ)は、
218玉治別(こま)つた(こと)になつたものぢや、219()(こと)薩張(さつぱり)支離(しり)滅裂(めつれつ)220到頭(たうとう)(たま)()けて発狂(はつきやう)して(しま)つた』
221(つぶや)くを()(とが)めて、222高姫(たかひめ)(くち)(とが)らし、
223高姫(なに)224(わし)発狂(はつきやう)したと()えますか』
225玉治別(はつ)(はつ)(きやう)嘲弄(からか)貴女(あなた)は、226非常(ひじやう)()()(きやう)(おちい)つて()るやうに()えますワイ。227アハヽヽヽ』
228焼糞(やけくそ)になつて高笑(たかわら)ひをする。229高姫(たかひめ)はムツと(はら)()て、
230高姫長上(めうへ)(たい)して無礼(ぶれい)千万(せんばん)なその振舞(ふるまひ)
231とあべこべに、232(あたま)をこづいた(はう)から無礼(ぶれい)(よば)はりを()びせかけられ、233玉治別(たまはるわけ)はお(かつ)()()り、
234玉治別『サアお(かつ)235長坐(ながゐ)(おそ)れぢや、236()(しづ)まる(まで)(いへ)(かへ)らう』
237(この)()見捨(みす)てて(おもて)駆出(かけだ)した。238高姫(たかひめ)狂気(きやうき)(ごと)(おく)()怒鳴(どな)つて()る。
239 高姫(たかひめ)病気(びやうき)()いて見舞(みまひ)にやつて()杢助(もくすけ)は、240(はつ)()()き、241門口(かどぐち)玉治別(たまはるわけ)夫婦(ふうふ)にベツタリ出会(でつくは)し、
242杢助『ヤア、243先生(せんせい)か』
244玉治別杢助(もくすけ)さまか、245(はつ)さま、246ようお(いで)なさいました』
247杢助高姫(たかひめ)さまの様子(やうす)()うですか』
248玉治別『いやもう大変(たいへん)です。249カンと()られて()ました。250大変(たいへん)に、251(わたし)やお(はつ)さま(はじ)め、252杢助(もくすけ)さまを(うら)んで()ますよ。253用心(ようじん)なさい、254(また)カンとやられちや(たま)りませぬからなア』
255杢助『テンと(わけ)(わか)りませぬなア』
256玉治別(べつ)勘考(かんかう)せいでも(おく)へお(いで)になれば(わか)ります。257一寸(ちよつと)(わたし)(いそ)ぎますから、258(さき)御免(ごめん)(かうむ)ります』
259()ひながら女房(にようばう)のお(かつ)(とも)に、260(あわただ)しく(わが)()をさして(かへ)つて()く。
261大正一一・五・二五 旧四・二九 加藤明子録)
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