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第25巻(子の巻)
序文
総説
第1篇 相縁奇縁
01 水禽の音
〔747〕
02 与太理縮
〔748〕
03 鶍の恋
〔749〕
04 望の縁
〔750〕
第2篇 自由活動
05 酒の滝壺
〔751〕
06 三腰岩
〔752〕
07 大蛇解脱
〔753〕
08 奇の巌窟
〔754〕
第3篇 竜の宮居
09 信仰の実
〔755〕
10 開悟の花
〔756〕
11 風声鶴唳
〔757〕
12 不意の客
〔758〕
第4篇 神花霊実
13 握手の涙
〔759〕
14 園遊会
〔760〕
15 改心の実
〔761〕
16 真如の玉
〔762〕
第5篇 千里彷徨
17 森の囁
〔763〕
18 玉の所在
〔764〕
19 竹生島
〔765〕
余白歌
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> 第1篇 相縁奇縁 > 第2章 与太理縮
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(B)
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第二章
与太理縮
(
よたりすく
)
〔七四八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第25巻 海洋万里 子の巻
篇:
第1篇 相縁奇縁
よみ(新仮名遣い):
あいえんきえん
章:
第2章 与太理縮
よみ(新仮名遣い):
よたりすく
通し章番号:
748
口述日:
1922(大正11)年07月07日(旧閏05月13日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年5月25日
概要:
舞台:
地恩城
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
蜈蚣姫は、友彦が攻めて来るという噂を黄竜姫に話し、自分に出陣を申し付けるようにと説得していた。黄竜姫は、もし友彦が攻めてきたとしても、あくまで言霊の力で言向け和すだけだと反対する。
あくまで抗戦を主張する蜈蚣姫に対し、黄竜姫は三五教の除名を申し渡した。そして蜈蚣姫を縛するようにと金州を呼んだ。
金州、銀州、鉄州の諌めによって、黄竜姫は蜈蚣姫の除名を解いた。そしてもし友彦が襲来するようなことがあれば、自分が陣頭に立ってあくまで抗戦するつもりだと胸の内を蜈蚣姫に明かした。
そこへ鶴公がやってきて、友彦襲来の噂の真偽を黄竜姫に問うた。蜈蚣姫は、その場にいる金州、銀州、鉄州が他ならぬその報告者だと明かした。鶴公は、三人はこの一ケ月城外に出たことがないのに、なぜネルソン山以西の動静を知っているのか、と三人を問い詰めた。
三人はとたんにしどろもどろになって、答えをはぐらかしている。黄竜姫と蜈蚣姫の前で問い詰められて、ついに三人は、友彦襲来の噂は、鶴公派を出陣させて、その間に清公と宇豆姫を結婚させてしまおうという計略の作り話であったことを白状した。
蜈蚣姫は清公を呼ぼうとするが、鉄州があくまで自分たちが、清公に身を固めてもらって城内を固めてもらおうと思った真心から出た計略だったと有り体に白状したことから、このことは不問となった。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-08-23 18:38:05
OBC :
rm2502
愛善世界社版:
30頁
八幡書店版:
第5輯 40頁
修補版:
校定版:
31頁
普及版:
13頁
初版:
ページ備考:
001
地恩城
(
ちおんじやう
)
の
奥殿
(
おくでん
)
には
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
と
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
、
002
侍女
(
じぢよ
)
を
遠
(
とほ
)
ざけ、
003
頭
(
かうべ
)
を
垂
(
た
)
れ
物憂
(
ものう
)
し
気
(
げ
)
に、
004
何事
(
なにごと
)
か
首
(
くび
)
を
鳩
(
あつ
)
めてヒソビソ
話
(
ばなし
)
に
耽
(
ふけ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
005
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
様
(
さま
)
、
006
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
ました。
007
あの
意地
(
いぢ
)
くね
の
悪
(
わる
)
い
鼻曲
(
はなまが
)
りの
友彦
(
ともひこ
)
が、
008
ネルソン
山
(
ざん
)
を
西
(
にし
)
に
渉
(
わた
)
り、
009
獰猛
(
だうまう
)
なる
土人
(
どじん
)
をチヨロ
魔化
(
まくわ
)
し、
010
テールス
姫
(
ひめ
)
と
言
(
い
)
ふ
妖女
(
えうぢよ
)
を
抱
(
だ
)
き
込
(
こ
)
み、
011
表面
(
へうめん
)
三五教
(
あななひけう
)
を
標榜
(
へうぼう
)
し、
012
衆
(
しう
)
を
集
(
あつ
)
めて
此
(
この
)
地恩郷
(
ちおんきやう
)
に
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
り、
013
お
前
(
まへ
)
さまを
否応
(
いやおう
)
なしに
又
(
また
)
元
(
もと
)
の
女房
(
にようばう
)
にしようとの
企
(
たく
)
み、
014
今
(
いま
)
に
本城
(
ほんじやう
)
へ
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
るとの、
015
金
(
きん
)
、
016
銀
(
ぎん
)
、
017
鉄
(
てつ
)
の
注進
(
ちゆうしん
)
、
018
万一
(
まんいち
)
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
が
実現
(
じつげん
)
して、
019
友彦
(
ともひこ
)
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
攻
(
せ
)
め
来
(
きた
)
る
事
(
こと
)
あらば、
020
お
前
(
まへ
)
さまは
如何
(
どう
)
なさる
考
(
かんが
)
へですか、
021
御
(
ご
)
意中
(
いちう
)
を
承
(
うけたま
)
はりたい』
022
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
『
母様
(
ははさま
)
、
023
左様
(
さやう
)
な
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
に
及
(
およ
)
びませぬ。
024
柔
(
じう
)
よく
剛
(
がう
)
を
制
(
せい
)
すと
言
(
い
)
つて、
025
如何
(
いか
)
なる
頑強
(
ぐわんきやう
)
不霊
(
ふれい
)
の
友彦
(
ともひこ
)
なりとて、
026
妾
(
わたし
)
が
三寸
(
さんずん
)
の
舌剣
(
ぜつけん
)
を
以
(
もつ
)
て
腸
(
はらわた
)
まで
抉
(
えぐ
)
り
出
(
だ
)
し、
027
見事
(
みごと
)
改心
(
かいしん
)
させて
見
(
み
)
せませう。
028
友彦
(
ともひこ
)
如
(
ごと
)
きは
物
(
もの
)
の
数
(
かず
)
でもありませぬ。
029
あの
様
(
やう
)
な
者
(
もの
)
が
恐
(
おそ
)
ろしくて、
030
此
(
この
)
野蛮
(
やばん
)
未開
(
みかい
)
の
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
が
如何
(
どう
)
して
拓
(
ひら
)
けませう。
031
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
はなさいますな、
032
ホヽヽヽヽ』
033
とオチヨボ
口
(
ぐち
)
に
袖
(
そで
)
を
当
(
あ
)
て、
034
手
(
て
)
もなく
笑
(
わら
)
ふ。
035
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
は
真面目
(
まじめ
)
な
心配相
(
しんぱいさう
)
な
顔付
(
かほつき
)
にて、
036
蜈蚣姫
『
何程
(
なにほど
)
悧巧
(
りかう
)
だと
言
(
い
)
つても
未
(
ま
)
だお
前
(
まへ
)
は
年
(
とし
)
が
若
(
わか
)
いから、
037
さう
楽観
(
らくくわん
)
をして
居
(
を
)
られますが、
038
恋
(
こひ
)
の
意地
(
いぢ
)
と
言
(
い
)
ふものは
又
(
また
)
格別
(
かくべつ
)
なもので、
039
なかなか
油断
(
ゆだん
)
はなりませぬ。
040
寝
(
ね
)
ても
醒
(
さめ
)
ても
小糸姫
(
こいとひめ
)
に
馬鹿
(
ばか
)
にしられたと
怨
(
うら
)
んで
居
(
ゐ
)
る
友彦
(
ともひこ
)
の
事
(
こと
)
だから、
041
一
(
いち
)
時
(
じ
)
は
時
(
とき
)
到
(
いた
)
らずとして
尾
(
を
)
を
捲
(
ま
)
き
目
(
め
)
を
塞
(
ふさ
)
ぎ
爪
(
つめ
)
を
隠
(
かく
)
して、
042
猫
(
ねこ
)
の
様
(
やう
)
になつて
居
(
ゐ
)
たものの、
043
今
(
いま
)
やジヤンナの
郷
(
さと
)
に
於
(
おい
)
て、
044
飛
(
た
)
つ
鳥
(
とり
)
も
落
(
おと
)
す
様
(
やう
)
な
勢
(
いきほひ
)
になつたのを
幸
(
さいは
)
ひ、
045
日頃
(
ひごろ
)
の
鬱憤
(
うつぷん
)
を
晴
(
はら
)
すは
今
(
いま
)
此
(
この
)
時
(
とき
)
と
戦備
(
せんび
)
を
整
(
ととの
)
へ
捲土
(
けんど
)
重来
(
ぢうらい
)
する
以上
(
いじやう
)
は
到底
(
たうてい
)
なかなか
一筋
(
ひとすぢ
)
や
二筋
(
ふたすぢ
)
では
納
(
をさ
)
まりますまい。
046
年寄
(
としより
)
の
冷水
(
ひやみづ
)
、
047
老婆心
(
らうばしん
)
の
繰言
(
くりごと
)
とお
笑
(
わら
)
ひなさるか
知
(
し
)
りませぬが、
048
年寄
(
としより
)
は
家
(
いへ
)
の
宝
(
たから
)
、
049
経験
(
けいけん
)
がつんで
居
(
ゐ
)
るからチツとは
母
(
はは
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
もお
聞
(
き
)
きなされ。
050
後
(
あと
)
の
後悔
(
こうくわい
)
は
間
(
ま
)
にあひませぬ』
051
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
『あの、
052
マア
母様
(
ははさま
)
にも
似合
(
にあ
)
はぬ
御
(
ご
)
心配相
(
しんぱいさう
)
なお
顔付
(
かほつき
)
、
053
母上
(
あなた
)
も
顕恩郷
(
けんおんきやう
)
では
随分
(
ずゐぶん
)
剛胆
(
がうたん
)
な
事
(
こと
)
をなさいましたではありませぬか。
054
それのみならず、
055
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
の
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
山
(
ざん
)
に
敗
(
やぶ
)
れ
三国
(
みくに
)
ケ
嶽
(
だけ
)
に
砦
(
とりで
)
を
構
(
かま
)
へ、
056
次
(
つい
)
で
魔谷
(
まや
)
ケ
嶽
(
だけ
)
、
057
国城山
(
くにしろやま
)
と
大活動
(
だいくわつどう
)
をなされた
時
(
とき
)
は、
058
夜叉
(
やしや
)
の
様
(
やう
)
なお
勢
(
いきほひ
)
で
御座
(
ござ
)
つたぢやありませぬか。
059
それに
今日
(
こんにち
)
、
060
母上
(
あなた
)
の
口
(
くち
)
からそんな
弱
(
よわ
)
い
音色
(
ねいろ
)
が
出
(
で
)
るとは
思
(
おも
)
ひも
掛
(
か
)
けませぬ。
061
此
(
この
)
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
、
062
仮令
(
たとへ
)
百
(
もも
)
の
友彦
(
ともひこ
)
、
063
万
(
まん
)
の
友彦
(
ともひこ
)
来
(
きた
)
るとも、
064
三五教
(
あななひけう
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
神力
(
しんりき
)
、
065
吾
(
わが
)
言霊
(
ことたま
)
の
威力
(
ゐりよく
)
に
拠
(
よ
)
つて
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
し、
066
前非
(
ぜんぴ
)
を
悔
(
く
)
いしめ、
067
至善
(
しぜん
)
至美
(
しび
)
の
身魂
(
みたま
)
に
研
(
みが
)
き
上
(
あ
)
げて
助
(
たす
)
けてやる
妾
(
わたし
)
の
所存
(
しよぞん
)
、
068
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
遊
(
あそ
)
ばしますな』
069
と
脇息
(
けふそく
)
に
肱
(
ひぢ
)
を
乗
(
の
)
せ
忍冬
(
にんどう
)
の
茶
(
ちや
)
を
一口
(
ひとくち
)
グツと
飲
(
の
)
んで、
070
黄竜姫
『
母様
(
ははさま
)
、
071
何卒
(
どうぞ
)
お
寝
(
やす
)
み
遊
(
あそ
)
ばしませ。
072
最早
(
もはや
)
夜
(
よ
)
も
更
(
ふ
)
けかけました。
073
いづれネルソン
山
(
ざん
)
へは
数百
(
すうひやく
)
里
(
り
)
の
道程
(
みちのり
)
、
074
友彦
(
ともひこ
)
が
攻
(
せ
)
めて
来
(
く
)
ると
言
(
い
)
つても、
075
まだ
十日
(
とをか
)
や
半月
(
はんつき
)
は
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
です。
076
あまり
周章
(
あわ
)
てるには
及
(
およ
)
びませぬ』
077
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『
油断
(
ゆだん
)
大敵
(
たいてき
)
、
078
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
猶予
(
いうよ
)
はなりませぬ。
079
妾
(
わたし
)
は
先程
(
さきほど
)
一同
(
いちどう
)
の
者
(
もの
)
に、
080
防戦
(
ばうせん
)
と
出陣
(
しゆつぢん
)
の
用意
(
ようい
)
を
命
(
めい
)
じて
置
(
お
)
きました。
081
やがて
出陣
(
しゆつぢん
)
するでせう』
082
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
『それは
誰
(
たれ
)
の
吩咐
(
いひつけ
)
で
出陣
(
しゆつぢん
)
をお
命
(
めい
)
じになりましたか』
083
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『ハイ、
084
妾
(
わたし
)
の
計
(
はか
)
らひで……』
085
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
『それは
又
(
また
)
、
086
不都合
(
ふつがふ
)
千万
(
せんばん
)
、
087
私人
(
しじん
)
としては
貴女
(
あなた
)
は
妾
(
わたし
)
の
母
(
はは
)
、
088
されど
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
道
(
みち
)
から
言
(
い
)
へば
妾
(
わたし
)
が
教主
(
けうしゆ
)
も
同然
(
どうぜん
)
、
089
妾
(
わたし
)
の
命令
(
めいれい
)
をも
聞
(
き
)
かずに、
090
公私
(
こうし
)
混淆
(
こんかう
)
、
091
自他
(
じた
)
本末
(
ほんまつ
)
を
混乱
(
こんらん
)
して
左様
(
さやう
)
な
命令
(
めいれい
)
を
出
(
だ
)
されては
困
(
こま
)
るぢやありませぬか。
092
何卒
(
どうぞ
)
早
(
はや
)
く
取消
(
とりけ
)
しをして
下
(
くだ
)
さい』
093
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『
何程
(
なんぼ
)
お
前様
(
まへさま
)
が
教主
(
けうしゆ
)
だと
言
(
い
)
つて
威張
(
ゐば
)
つた
処
(
ところ
)
で、
094
矢張
(
やつぱ
)
り
親
(
おや
)
は
親
(
おや
)
だ。
095
親
(
おや
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
かぬ
様
(
やう
)
では
鬼
(
おに
)
も
同様
(
どうやう
)
です。
096
それでは
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
道
(
みち
)
を
守
(
まも
)
る
人
(
ひと
)
とは
申
(
まを
)
されますまい。
097
此
(
この
)
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
も
猪食
(
ししく
)
た
犬
(
いぬ
)
丈
(
だけ
)
あつて、
098
何
(
ど
)
んな
経験
(
けいけん
)
も
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
る。
099
今
(
いま
)
こそ
可愛
(
かあい
)
い
娘
(
むすめ
)
の
光
(
ひかり
)
を
出
(
だ
)
したいばかりに、
100
目
(
め
)
を
塞
(
ふさ
)
ぎ
爪
(
つめ
)
を
隠
(
かく
)
し、
101
灰猫婆
(
はひねこばば
)
アになつて
居
(
ゐ
)
るものの、
102
まさかと
言
(
い
)
ふ
時
(
とき
)
になれば
忽
(
たちま
)
ち
虎猫
(
とらねこ
)
になりますよ。
103
虎
(
とら
)
も
目
(
め
)
を
塞
(
ふさ
)
ぎ
爪
(
つめ
)
を
隠
(
かく
)
して
柔和
(
おとな
)
しく
見
(
み
)
せて
居
(
を
)
れば、
104
何時
(
いつ
)
までも
厄介者
(
やつかいもの
)
だと
蔑
(
さげす
)
み、
105
年寄
(
としよ
)
つたの、
106
耄碌
(
まうろく
)
したのと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
ようが、
107
いつかないつかな
此
(
この
)
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
、
108
国家
(
こくか
)
興亡
(
こうばう
)
の
此
(
この
)
際
(
さい
)
、
109
何時迄
(
いつまで
)
も
爪
(
つめ
)
を
隠
(
かく
)
す
訳
(
わけ
)
にはゆかない。
110
虎猫
(
とらねこ
)
の
本性
(
ほんしやう
)
を
現
(
あら
)
はし、
111
之
(
これ
)
から
大活動
(
だいくわつどう
)
を
演
(
えん
)
ずる
覚悟
(
かくご
)
ですよ。
112
平和
(
へいわ
)
の
時
(
とき
)
はお
前
(
まへ
)
さまを
大将
(
たいしやう
)
にして
置
(
お
)
いてもかなり
勤
(
つと
)
まるが、
113
斯
(
こ
)
んな
非常
(
ひじやう
)
の
場合
(
ばあひ
)
は
生温
(
なまぬる
)
い
事
(
こと
)
で
如何
(
どう
)
なりませう。
114
アタ
小面憎
(
こづらにく
)
い
友彦
(
ともひこ
)
の
首
(
くび
)
を
引
(
ひ
)
き
抜
(
ぬ
)
いて、
115
思
(
おも
)
ひ
知
(
し
)
らしてやらねばなりませぬ。
116
エー、
117
煩
(
うるさ
)
い
事
(
こと
)
だ。
118
又
(
また
)
年寄
(
としより
)
に
一苦労
(
ひとくらう
)
さすのかいな』
119
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
『
母様
(
ははさま
)
、
120
貴方
(
あなた
)
はそれだから
困
(
こま
)
ります。
121
三五教
(
あななひけう
)
の
御教
(
みをしへ
)
をお
忘
(
わす
)
れになりましたか』
122
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『エー、
123
融通
(
ゆうづう
)
の
利
(
き
)
かぬ
娘
(
むすめ
)
だな。
124
三五教
(
あななひけう
)
の
教
(
をしへ
)
は
天下
(
てんか
)
太平
(
たいへい
)
の
御代
(
みよ
)
には
実
(
じつ
)
に
重宝
(
ちようほう
)
な
教
(
をしへ
)
だが、
125
危機
(
きき
)
一髪
(
いつぱつ
)
の
此
(
この
)
際
(
さい
)
、
126
あの
様
(
やう
)
な
柔弱
(
じうじやく
)
な
無抵抗
(
むていかう
)
主義
(
しゆぎ
)
の
教理
(
けうり
)
は、
127
マドロしうて
聞
(
き
)
いてゐられますものか。
128
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
が
無抵抗
(
むていかう
)
主義
(
しゆぎ
)
を
採
(
と
)
れと
仰有
(
おつしや
)
るのは……
為
(
す
)
な、
129
せい……と
言
(
い
)
ふ
謎
(
なぞ
)
ぢや。
130
お
前
(
まへ
)
さまは
何
(
なん
)
と
言
(
い
)
つても
未
(
ま
)
だ
年
(
とし
)
が
若
(
わか
)
いから
正直
(
しやうぢき
)
に
聞
(
き
)
くので
困
(
こま
)
る。
131
口
(
くち
)
の
端
(
はた
)
に
乳
(
ちち
)
が
附
(
つ
)
いて
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
言
(
い
)
つて……
如何
(
どう
)
して
此
(
この
)
地恩城
(
ちおんじやう
)
が
維持
(
ゐぢ
)
出来
(
でき
)
ますか』
132
と
最後
(
さいご
)
の
言葉
(
ことば
)
に
力
(
ちから
)
を
入
(
い
)
れて、
133
畳
(
たたみ
)
を
握
(
にぎ
)
り
拳
(
こぶし
)
でポンと
叩
(
たた
)
いて
見
(
み
)
せた。
134
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
『アヽ
情
(
なさけ
)
ない
母様
(
ははさま
)
の
御
(
ご
)
精神
(
せいしん
)
、
135
如何
(
どう
)
したら
本当
(
ほんたう
)
の
改心
(
かいしん
)
をして
下
(
くだ
)
さるであらう。
136
……
何卒
(
どうぞ
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
、
137
一時
(
ひととき
)
も
早
(
はや
)
く
真
(
まこと
)
の
道
(
みち
)
が、
138
私
(
わたし
)
の
一人
(
ひとり
)
よりない
大切
(
たいせつ
)
な
母
(
はは
)
に
解
(
わか
)
ります
様
(
やう
)
に、
139
何卒
(
どうぞ
)
心
(
こころ
)
の
鏡
(
かがみ
)
に
光明
(
くわうみやう
)
を
与
(
あた
)
へ、
140
心
(
こころ
)
の
暗黒
(
あんこく
)
を
照
(
て
)
らして
下
(
くだ
)
さいませ。
141
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
142
と
合掌
(
がつしやう
)
し
涙
(
なみだ
)
含
(
ぐ
)
む。
143
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『
何程
(
なにほど
)
人間
(
にんげん
)
が
改心
(
かいしん
)
したと
言
(
い
)
つても、
144
元
(
もと
)
から
悪
(
あく
)
の
素質
(
そしつ
)
を
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
る
吾々
(
われわれ
)
の
身魂
(
みたま
)
、
145
譬
(
たと
)
へて
言
(
い
)
へば、
146
大
(
おほ
)
きな
鉢
(
はち
)
の
中
(
なか
)
へ
泥水
(
どろみづ
)
を
盛
(
も
)
り、
147
それが
時節
(
じせつ
)
の
力
(
ちから
)
で
泥
(
どろ
)
は
鉢
(
はち
)
の
底
(
そこ
)
に
沈
(
いさ
)
り、
148
表面
(
うはつら
)
は
清水
(
せいすゐ
)
に
澄
(
す
)
み
渡
(
わた
)
つて
居
(
を
)
つても、
149
何
(
なに
)
か
一
(
ひと
)
つ
揺
(
ゆさ
)
ぶるものがあると、
150
折角
(
せつかく
)
底
(
そこ
)
に
沈
(
いさ
)
つて
居
(
ゐ
)
た
泥
(
どろ
)
が
又
(
また
)
もや
浮
(
う
)
き
上
(
あが
)
り、
151
元
(
もと
)
の
泥水
(
どろみづ
)
となるのは
自然
(
しぜん
)
の
道理
(
だうり
)
だ。
152
之
(
これ
)
が
惟神
(
かむながら
)
のお
道
(
みち
)
です。
153
体
(
たい
)
を
以
(
もつ
)
て
体
(
たい
)
に
対
(
たい
)
し、
154
霊
(
れい
)
を
以
(
もつ
)
て
霊
(
れい
)
に
対
(
たい
)
し、
155
力
(
ちから
)
を
以
(
もつ
)
て
力
(
ちから
)
に
対
(
たい
)
するは
天地
(
てんち
)
の
道理
(
だうり
)
ぢやありませぬか。
156
アインスタインの
相対性
(
さうたいせい
)
原理
(
げんり
)
の
説明
(
せつめい
)
だつて、
157
さうぢやないか。
158
お
前
(
まへ
)
さまの
様
(
やう
)
な
其
(
そ
)
んな
時代
(
じだい
)
遅
(
おく
)
れの
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
ると、
159
蟹
(
かに
)
の
手足
(
てあし
)
をもぎ
取
(
と
)
り、
160
鳥
(
とり
)
の
翼
(
つばさ
)
を
剥
(
は
)
ぎ
取
(
と
)
つた
様
(
やう
)
な
目
(
め
)
に
遭
(
あ
)
はされますぞ。
161
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
に
子
(
こ
)
を
思
(
おも
)
はぬ
親
(
おや
)
がありませうか。
162
お
前
(
まへ
)
が
可愛
(
かあい
)
いばつかりに、
163
妾
(
わし
)
はお
気
(
き
)
に
召
(
め
)
さぬ
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
ふのだが、
164
親
(
おや
)
の
意見
(
いけん
)
と
茄子
(
なすび
)
の
花
(
はな
)
は、
165
千
(
せん
)
に
一
(
ひと
)
つも
仇花
(
あだばな
)
はありませぬぞ。
166
良薬
(
りやうやく
)
口
(
くち
)
に
苦
(
にが
)
し、
167
甘
(
あま
)
いものは
蛔虫
(
くわいちう
)
の
源
(
もと
)
、
168
何卒
(
どうぞ
)
母
(
はは
)
が
一生
(
いつしやう
)
のお
願
(
ねが
)
ひだから、
169
出陣
(
しゆつぢん
)
を
見合
(
みあは
)
す
事
(
こと
)
は
思
(
おも
)
ひ
止
(
とど
)
まつて
下
(
くだ
)
さい。
170
妾
(
わたし
)
も
之
(
これ
)
から
清公
(
きよこう
)
の
左守
(
さもりの
)
神
(
かみ
)
を
引率
(
ひきつ
)
れ、
171
年寄
(
としより
)
の
花
(
はな
)
を
咲
(
さ
)
かし、
172
冥途
(
めいど
)
の
土産
(
みやげ
)
に
一戦
(
ひといくさ
)
やつて
見
(
み
)
よう
程
(
ほど
)
に、
173
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
柔弱
(
じうじやく
)
な
精神
(
せいしん
)
を
発揮
(
はつき
)
して、
174
折角
(
せつかく
)
張
(
は
)
り
詰
(
つ
)
めた
母
(
はは
)
の
勇猛心
(
ゆうまうしん
)
を
挫
(
くじ
)
いて
下
(
くだ
)
さるな。
175
親
(
おや
)
が
子
(
こ
)
に
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
して
頼
(
たの
)
みます。
176
海
(
うみ
)
往
(
ゆ
)
かば
水漬
(
みづ
)
く
屍
(
かばね
)
、
177
山
(
やま
)
往
(
ゆ
)
かば
草
(
くさ
)
生
(
む
)
す
屍
(
かばね
)
、
178
大神
(
おほかみ
)
の
辺
(
へ
)
にこそ
死
(
し
)
なめ、
179
閑
(
のど
)
には
死
(
し
)
なじ
顧
(
かへりみ
)
はせじと、
180
弥
(
いや
)
進
(
すす
)
みに
進
(
すす
)
み、
181
弥
(
いや
)
逼
(
せま
)
りに
逼
(
せま
)
り、
182
友彦
(
ともひこ
)
が
軍勢
(
ぐんぜい
)
を
山
(
やま
)
の
尾
(
を
)
毎
(
ごと
)
に
追
(
お
)
ひ
伏
(
ふ
)
せ、
183
河
(
かは
)
の
瀬
(
せ
)
毎
(
ごと
)
に
薙散
(
なぎち
)
らして
服
(
まつろ
)
へ
和
(
やは
)
し、
184
一泡
(
ひとあわ
)
吹
(
ふ
)
かして
懲
(
こ
)
らしめ
呉
(
く
)
れむは
案
(
あん
)
の
中
(
うち
)
、
185
必
(
かなら
)
ず
邪魔
(
じやま
)
召
(
め
)
さるな』
186
と
血相
(
けつさう
)
を
変
(
か
)
へて
長押
(
なげし
)
の
薙刀
(
なぎなた
)
を
取
(
と
)
るより
早
(
はや
)
く、
187
蜈蚣姫
『
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
、
188
さらば……』
189
と
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
でむとする。
190
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
『
地恩城
(
ちおんじやう
)
の
女王
(
ぢよわう
)
、
191
三五教
(
あななひけう
)
の
神司
(
かむづかさ
)
、
192
今
(
いま
)
改
(
あらた
)
めて
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
に
対
(
たい
)
し、
193
三五教
(
あななひけう
)
を
除名
(
ぢよめい
)
する。
194
有難
(
ありがた
)
くお
受
(
う
)
け
召
(
め
)
され』
195
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
は
二足
(
ふたあし
)
三足
(
みあし
)
引返
(
ひきかへ
)
し、
196
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
をハツタと
睨
(
にら
)
み、
197
蜈蚣姫
『
久離
(
きうり
)
絶
(
き
)
つても、
198
親子
(
おやこ
)
ぢやないか。
199
親子
(
おやこ
)
の
情
(
じやう
)
は
何処迄
(
どこまで
)
も
変
(
かは
)
るものぢやない。
200
仮令
(
たとへ
)
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
、
201
天地
(
てんち
)
の
神
(
かみ
)
の
怒
(
いか
)
りに
触
(
ふ
)
れ、
202
水火
(
すゐくわ
)
の
責苦
(
せめく
)
に
会
(
あ
)
うとても、
203
吾
(
わが
)
子
(
こ
)
の
為
(
た
)
めには
厭
(
いと
)
ひはせぬ。
204
三五教
(
あななひけう
)
を
除名
(
ぢよめい
)
された
上
(
うへ
)
は、
205
最早
(
もはや
)
其
(
その
)
方
(
はう
)
に
制縛
(
せいばく
)
は
受
(
う
)
けぬ、
206
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
の
活動
(
くわつどう
)
を
致
(
いた
)
すは
之
(
これ
)
からだ。
207
愈
(
いよいよ
)
清公
(
きよこう
)
以下
(
いか
)
の
勇士
(
ゆうし
)
を
引率
(
ひきつ
)
れ、
208
華々
(
はなばな
)
しき
功名
(
かうみやう
)
手柄
(
てがら
)
を
現
(
あら
)
はし
呉
(
く
)
れむ。
209
小糸姫
(
こいとひめ
)
、
210
さらばで
御座
(
ござ
)
る』
211
と
又
(
また
)
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
でむとするを、
212
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
は
言葉
(
ことば
)
厳
(
おごそ
)
かに、
213
黄竜姫
『
最早
(
もはや
)
三五教
(
あななひけう
)
を
除名
(
ぢよめい
)
せし
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
、
214
左守
(
さもりの
)
神
(
かみ
)
たる
清公
(
きよこう
)
を
初
(
はじ
)
め、
215
其
(
その
)
他
(
た
)
一同
(
いちどう
)
を
指揮
(
しき
)
する
権利
(
けんり
)
はあるまい。
216
御
(
ご
)
勝手
(
かつて
)
に
只
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
お
出
(
い
)
で
遊
(
あそ
)
ばせ。
217
飛
(
と
)
んで
火
(
ひ
)
に
入
(
い
)
る
夏
(
なつ
)
の
虫
(
むし
)
、
218
子
(
こ
)
の
愛
(
あい
)
に
溺
(
おぼ
)
れて
真
(
まこと
)
の
神
(
かみ
)
の
愛
(
あい
)
を
忘
(
わす
)
れ
給
(
たま
)
ひし
不届者
(
ふとどきもの
)
、
219
天
(
てん
)
に
代
(
かは
)
つて
懲戒
(
いましめ
)
致
(
いた
)
す。
220
……ヤアヤア
金州
(
きんしう
)
は
在
(
あ
)
らざるか、
221
早
(
はや
)
く
来
(
きた
)
つて
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
を
縛
(
ばく
)
せよ』
222
と
呼
(
よば
)
はつた。
223
折
(
をり
)
から
金
(
きん
)
、
224
銀
(
ぎん
)
、
225
鉄
(
てつ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
226
スタスタと
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
227
親子
(
おやこ
)
が
此
(
この
)
体
(
てい
)
を
見
(
み
)
て
不審
(
ふしん
)
の
眉
(
まゆ
)
を
顰
(
ひそ
)
め
乍
(
なが
)
ら、
228
金州
(
きんしう
)
『コレハコレハ、
229
お
二人
(
ふたり
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
様子
(
やうす
)
、
230
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
い
仔細
(
しさい
)
が
御座
(
ござ
)
いませうが、
231
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づお
静
(
しづ
)
まり
下
(
くだ
)
さいませ』
232
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
『
仔細
(
しさい
)
は
申
(
まを
)
すに
及
(
およ
)
ばず、
233
地恩郷
(
ちおんきやう
)
の
女王
(
ぢよわう
)
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
が
命令
(
めいれい
)
だ。
234
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
を
縛
(
しば
)
り
上
(
あ
)
げよ』
235
金州
(
きんしう
)
『コレハコレハ、
236
案
(
あん
)
に
相違
(
さうゐ
)
の
女王
(
ぢよわう
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
237
一向
(
いつかう
)
合点
(
がてん
)
が
参
(
まゐ
)
り
申
(
まを
)
さぬ。
238
如何
(
いか
)
なる
事情
(
じじやう
)
の
在
(
おは
)
しますとも、
239
子
(
こ
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として、
240
天
(
てん
)
にも
地
(
ち
)
にも
掛替
(
かけが
)
へなき、
241
山海
(
さんかい
)
の
恩
(
おん
)
ある
御
(
おん
)
母上
(
ははうへ
)
を
縛
(
ばく
)
せよとは
何
(
なん
)
たる
不孝
(
ふかう
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
242
女王
(
ぢよわう
)
様
(
さま
)
は
狂気
(
きやうき
)
召
(
め
)
されたか』
243
と
涙
(
なみだ
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ふ。
244
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『コレハコレハ
金州
(
きんしう
)
、
245
お
前
(
まへ
)
の
言
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
りだ。
246
父
(
ちち
)
と
母
(
はは
)
とは
天地
(
てんち
)
に
譬
(
たと
)
へてある。
247
父
(
ちち
)
の
恩
(
おん
)
は
天
(
てん
)
より
高
(
たか
)
く、
248
母
(
はは
)
の
恩
(
おん
)
は
地
(
ち
)
より
重
(
おも
)
しと
聞
(
き
)
く。
249
地
(
ち
)
の
恩
(
おん
)
に
因
(
ちな
)
みたる
此
(
この
)
地恩郷
(
ちおんきやう
)
の
女王
(
ぢよわう
)
となり
乍
(
なが
)
ら、
250
母
(
はは
)
の
恩
(
おん
)
、
251
所謂
(
いはゆる
)
地恩
(
ちおん
)
を
忘
(
わす
)
れた
小糸姫
(
こいとひめ
)
、
252
サア、
253
もう
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
親
(
おや
)
の
権利
(
けんり
)
を
以
(
もつ
)
て
小糸姫
(
こいとひめ
)
を
放逐
(
はうちく
)
する。
254
汝
(
なんぢ
)
……
金
(
きん
)
、
255
銀
(
ぎん
)
、
256
鉄
(
てつ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
257
此
(
この
)
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
が
命令
(
めいれい
)
を
聞
(
き
)
き、
258
友彦
(
ともひこ
)
の
軍勢
(
ぐんぜい
)
に
向
(
むか
)
つて
応戦
(
おうせん
)
の
用意
(
ようい
)
を
致
(
いた
)
せ。
259
さはさり
乍
(
なが
)
ら
身
(
み
)
に
寸鉄
(
すんてつ
)
を
帯
(
お
)
びよと
言
(
い
)
ふのではない。
260
善言
(
ぜんげん
)
美辞
(
びじ
)
の
言霊
(
ことたま
)
と
親切
(
しんせつ
)
の
行為
(
かうゐ
)
を
以
(
もつ
)
て、
261
敵
(
てき
)
を
悦服
(
えつぷく
)
致
(
いた
)
さすのだ。
262
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
誤解
(
ごかい
)
を
致
(
いた
)
すでないぞ』
263
金州
(
きんしう
)
『
理義
(
りぎ
)
明白
(
めいはく
)
なる
貴女
(
あなた
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
264
金州
(
きんしう
)
確
(
たしか
)
に
承知
(
しようち
)
仕
(
つかまつ
)
りました。
265
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
今
(
いま
)
貴女
(
あなた
)
がお
手
(
て
)
に
持
(
も
)
たせ
給
(
たま
)
ふ
薙刀
(
なぎなた
)
は、
266
何
(
なん
)
の
為
(
た
)
めにお
持
(
も
)
ちで
御座
(
ござ
)
いますか』
267
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『
之
(
これ
)
は
敵
(
てき
)
を
薙
(
な
)
ぎ
払
(
はら
)
ふ
武器
(
ぶき
)
では
無
(
な
)
い。
268
味方
(
みかた
)
の
軍勢
(
ぐんぜい
)
を
励
(
はげ
)
ます
為
(
た
)
めの
武器
(
ぶき
)
だ。
269
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
致
(
いた
)
して
居
(
ゐ
)
ると、
270
此
(
この
)
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
がお
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
を
片端
(
かたつぱし
)
から
薙
(
な
)
ぎ
払
(
はら
)
ふも
知
(
し
)
れぬぞ。
271
サア
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
は
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
に
続
(
つづ
)
けツ。
272
小糸姫
(
こいとひめ
)
に
用
(
よう
)
は
無
(
な
)
い』
273
と
又
(
また
)
もや
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
慌
(
あわただ
)
しく
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
でむとする。
274
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
『
地恩郷
(
ちおんきやう
)
の
女王
(
ぢよわう
)
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
、
275
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
を
除名
(
ぢよめい
)
したる
以上
(
いじやう
)
は、
276
金
(
きん
)
、
277
銀
(
ぎん
)
、
278
鉄
(
てつ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
者共
(
ものども
)
、
279
彼
(
かれ
)
が
命
(
めい
)
を
奉
(
ほう
)
ずるには
及
(
およ
)
ばぬぞ。
280
心
(
こころ
)
を
鎮
(
しづ
)
めて
妾
(
わらは
)
が
言葉
(
ことば
)
を
篤
(
とつく
)
と
聞
(
き
)
けよ』
281
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
に
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
平伏
(
へいふく
)
し、
282
銀州
(
ぎんしう
)
『
之
(
これ
)
は
又
(
また
)
異
(
い
)
なる
事
(
こと
)
を
承
(
うけたま
)
はるものかな。
283
何
(
ど
)
の
咎
(
とが
)
あつて
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
様
(
さま
)
に
対
(
たい
)
し
除名
(
ぢよめい
)
の
処分
(
しよぶん
)
をなされましたか。
284
一応
(
いちおう
)
理由
(
りいう
)
を
承
(
うけたま
)
はり
度
(
た
)
う
御座
(
ござ
)
います』
285
鉄州
(
てつしう
)
『
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
の
暑熱
(
しよねつ
)
の
為
(
ため
)
に
精神
(
せいしん
)
を
逆上
(
ぎやくじやう
)
させ、
286
非理
(
ひり
)
非道
(
ひだう
)
なる
悪言
(
あくげん
)
暴語
(
ばうご
)
をお
吐
(
は
)
き
遊
(
あそ
)
ばす
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
様
(
さま
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
287
天地
(
てんち
)
の
道理
(
だうり
)
に
反
(
はん
)
したる
貴女
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
には、
288
吾々
(
われわれ
)
は
絶対
(
ぜつたい
)
に
服従
(
ふくじゆう
)
する
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ』
289
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
『
今
(
いま
)
更
(
あらた
)
めて
銀
(
ぎん
)
、
290
鉄
(
てつ
)
の
両人
(
りやうにん
)
を
除名
(
ぢよめい
)
する』
291
銀
(
ぎん
)
、
292
鉄
(
てつ
)
『コレハコレハ
心得
(
こころえ
)
ぬ
貴女
(
あなた
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
、
293
何
(
なん
)
の
咎
(
とが
)
あつて
除名
(
ぢよめい
)
遊
(
あそ
)
ばすのか。
294
無道
(
ぶだう
)
の
除名
(
ぢよめい
)
処分
(
しよぶん
)
には
決
(
けつ
)
して
服従
(
ふくじう
)
仕
(
つかまつ
)
らぬ。
295
また
仮令
(
たとへ
)
除名
(
ぢよめい
)
されても
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
様
(
さま
)
を
奉
(
ほう
)
じ、
296
此
(
こ
)
の
地恩城
(
ちおんじやう
)
を
守護
(
しゆご
)
致
(
いた
)
す
考
(
かんが
)
へで
御座
(
ござ
)
れば、
297
少
(
すこ
)
しも
痛痒
(
つうよう
)
は
感
(
かん
)
じませぬ。
298
何卒
(
なにとぞ
)
々々
(
なにとぞ
)
、
299
今一度
(
いまいちど
)
お
考
(
かんが
)
へ
直
(
なほ
)
しを
願
(
ねが
)
ひ
度
(
た
)
う
存
(
ぞん
)
じまする』
300
金州
(
きんしう
)
『
女王
(
ぢよわう
)
様
(
さま
)
に
申上
(
まをしあ
)
げます。
301
御
(
ご
)
立腹
(
りつぷく
)
は
御尤
(
ごもつと
)
もなれども、
302
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
つても、
303
絶
(
き
)
つても
絶
(
き
)
れぬ
御
(
ご
)
親子
(
しんし
)
の
間柄
(
あひだがら
)
、
304
斯様
(
かやう
)
な
事
(
こと
)
が
城外
(
じやうぐわい
)
に
洩
(
も
)
れましては、
305
第一
(
だいいち
)
、
306
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
のお
道
(
みち
)
の
汚
(
けが
)
れ、
307
余
(
あま
)
り
褒
(
ほ
)
めた
話
(
はなし
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬ。
308
何卒
(
どうぞ
)
親子
(
おやこ
)
仲
(
なか
)
よく
遊
(
あそ
)
ばして
下
(
くだ
)
さいませ』
309
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
『
今
(
いま
)
改
(
あらた
)
めて
母上
(
ははうへ
)
様
(
さま
)
に
申上
(
まをしあ
)
げます。
310
万々一
(
まんまんいち
)
敵軍
(
てきぐん
)
襲来
(
しふらい
)
致
(
いた
)
す
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
あらば、
311
此
(
この
)
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
が
陣頭
(
ぢんとう
)
に
立
(
た
)
ち、
312
華々
(
はなばな
)
しく
神界
(
しんかい
)
の
為
(
た
)
めに
活動
(
くわつどう
)
してお
目
(
め
)
に
懸
(
か
)
けませう。
313
今迄
(
いままで
)
の
無礼
(
ぶれい
)
の
言葉
(
ことば
)
お
赦
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ。
314
除名
(
ぢよめい
)
の
事
(
こと
)
は
今
(
いま
)
改
(
あらた
)
めて
取消
(
とりけ
)
しませう。
315
又
(
また
)
……
銀
(
ぎん
)
、
316
鉄
(
てつ
)
の
両人
(
りやうにん
)
に
対
(
たい
)
する
除名
(
ぢよめい
)
の
言霊
(
ことたま
)
も
只今
(
ただいま
)
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
しませう』
317
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『アヽ
流石
(
さすが
)
は
妾
(
わし
)
が
血
(
ち
)
を
分
(
わ
)
けた
娘
(
むすめ
)
だけあつて
偉
(
えら
)
いものだなア。
318
さうなれば、
319
さうと……
何故
(
なぜ
)
早
(
はや
)
く
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さらぬのだ。
320
年寄
(
としより
)
に
要
(
い
)
らぬ
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
まして、
321
親
(
おや
)
に
余
(
あま
)
り
孝行
(
かうかう
)
……な
仕打
(
しうち
)
ぢやなからうに』
322
と
笑
(
わら
)
ひ
泣
(
な
)
きに
泣
(
な
)
く。
323
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
『
最初
(
さいしよ
)
より
此
(
この
)
精神
(
せいしん
)
で
妾
(
わたし
)
は
申上
(
まをしあ
)
げて
居
(
ゐ
)
ましたけれども、
324
母様
(
ははさま
)
は
余
(
あま
)
り
血気
(
けつき
)
に
逸
(
はや
)
り、
325
其
(
その
)
儘
(
まま
)
城外
(
おもて
)
へ
御
(
お
)
出
(
いで
)
になれば、
326
それこそ
吾々
(
われわれ
)
親子
(
おやこ
)
を
初
(
はじ
)
め、
327
地恩城
(
ちおんじやう
)
一同
(
いちどう
)
の
大恥辱
(
だいちじよく
)
になると
思
(
おも
)
ひ、
328
無礼
(
ぶれい
)
な
事
(
こと
)
を
申上
(
まをしあ
)
げました。
329
何卒
(
どうぞ
)
お
赦
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
330
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『
心安
(
こころやす
)
い
親子
(
おやこ
)
の
仲
(
なか
)
、
331
さう
更
(
あらた
)
まつて
御
(
ご
)
挨拶
(
あいさつ
)
には
及
(
およ
)
びますまい』
332
と
機嫌
(
きげん
)
を
直
(
なほ
)
し
薙刀
(
なぎなた
)
を
長押
(
なげし
)
に
掛
(
か
)
け、
333
忍冬茶
(
にんどうちや
)
をグツと
飲
(
の
)
んで
脇息
(
けふそく
)
に
凭
(
もた
)
れる。
334
斯
(
か
)
かる
処
(
ところ
)
へ
足音
(
あしおと
)
高
(
たか
)
く
入
(
い
)
り
来
(
きた
)
る
鶴公
(
つるこう
)
は、
335
恭
(
うやうや
)
しく
両手
(
りやうて
)
をつき、
336
鶴公
『
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
様
(
さま
)
に
申上
(
まをしあ
)
げます。
337
只今
(
ただいま
)
承
(
うけたま
)
はりますれば、
338
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
様
(
さま
)
より
出陣
(
しゆつぢん
)
の
用意
(
ようい
)
を
致
(
いた
)
せ……とのお
言葉
(
ことば
)
、
339
敵
(
てき
)
無
(
な
)
きに
出陣
(
しゆつぢん
)
とは
心得
(
こころえ
)
申
(
まを
)
さぬ。
340
之
(
これ
)
には
何
(
なに
)
か
深
(
ふか
)
い
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
の
在
(
おは
)
する
事
(
こと
)
ならむ。
341
一応
(
いちおう
)
其
(
その
)
真相
(
しんさう
)
を、
342
私
(
わたし
)
に
差支
(
さしつか
)
へ
無
(
な
)
くばお
洩
(
も
)
らし
下
(
くだ
)
さいませ』
343
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
は
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
の
言葉
(
ことば
)
も
待
(
ま
)
たず、
344
二足
(
ふたあし
)
三足
(
みあし
)
膝
(
ひざ
)
を
摺
(
す
)
り
寄
(
よ
)
せ、
345
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『お
前
(
まへ
)
はそれだから
間抜者
(
まぬけ
)
と
言
(
い
)
ふのだ。
346
友彦
(
ともひこ
)
が
獰猛
(
だうまう
)
なる
蕃人隊
(
ばんじんたい
)
を
引
(
ひ
)
き
率
(
つ
)
れ、
347
本城
(
ほんじやう
)
へ
復讐
(
ふくしう
)
の
為
(
た
)
め
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
ると
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
が
分
(
わか
)
らぬのか』
348
鶴公
(
つるこう
)
『はて、
349
心得
(
こころえ
)
ぬ
貴女
(
あなた
)
のお
言葉
(
ことば
)
、
350
天
(
あめ
)
が
下
(
した
)
に
善
(
ぜん
)
に
敵
(
てき
)
する
仇
(
あだ
)
はありますまい。
351
何
(
なに
)
を
苦
(
くるし
)
んで
防戦
(
ばうせん
)
の
用意
(
ようい
)
とか、
352
出陣
(
しゆつぢん
)
とかを
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
になつたのですか。
353
さうして
又
(
また
)
友彦
(
ともひこ
)
が
果
(
はた
)
して
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
ると
言
(
い
)
ふ、
354
的確
(
てきかく
)
なる
調査
(
しらべ
)
がついて
居
(
を
)
りますか』
355
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『
現在
(
げんざい
)
此処
(
ここ
)
に
居
(
ゐ
)
る
金
(
きん
)
、
356
銀
(
ぎん
)
、
357
鉄
(
てつ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が、
358
注進
(
ちゆうしん
)
に
来
(
き
)
て
居
(
ゐ
)
るのだよ』
359
鶴公
(
つるこう
)
『はて
心得
(
こころえ
)
ぬ。
360
金
(
きん
)
、
361
銀
(
ぎん
)
、
362
鉄
(
てつ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
一
(
いつ
)
ケ
月
(
げつ
)
許
(
ばか
)
り
此
(
この
)
門内
(
もんない
)
を
出
(
で
)
た
事
(
こと
)
は
御座
(
ござ
)
らぬ。
363
如何
(
どう
)
して
其
(
そ
)
んな
急報
(
きふはう
)
が
耳
(
みみ
)
に
入
(
はい
)
つたのだらう。
364
……コレコレ
金
(
きん
)
、
365
銀
(
ぎん
)
、
366
鉄
(
てつ
)
の
三人共
(
さんにんども
)
、
367
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
何人
(
なにびと
)
に
左様
(
さやう
)
な
事
(
こと
)
を
聞
(
き
)
いたのか』
368
金州
(
きんしう
)
『ハイ……あの……それ……
今
(
いま
)
の……
何
(
なん
)
で
御座
(
ござ
)
います。
369
エー、
370
さうして……
先方
(
むかう
)
が……
何
(
なん
)
ですから
此方
(
こつち
)
も
何々
(
なになに
)
して
置
(
お
)
かねば……
何々
(
なになに
)
の
間
(
うち
)
に
何
(
なん
)
だと……
思
(
おも
)
ひまして
一寸
(
ちよつと
)
申上
(
まをしあ
)
げました。
371
これと
言
(
い
)
ふも
全
(
まつた
)
く
清公
(
きよこう
)
様
(
さま
)
……オツトドツコイ……
きよ
や
昨日
(
きのふ
)
の
事
(
こと
)
では
御座
(
ござ
)
いませぬ。
372
誠
(
まこと
)
に
恐惶
(
きようくわう
)
(
清公
(
きよこう
)
)
頓首
(
とんしゆ
)
の
次第
(
しだい
)
で
御座
(
ござ
)
います』
373
鶴公
(
つるこう
)
『
其
(
その
)
方
(
はう
)
の
申
(
まを
)
す
事
(
こと
)
は
少
(
すこ
)
しも
分
(
わか
)
らない。
374
も
少
(
すこ
)
し、
375
はつきりと
申
(
まを
)
さないか』
376
金州
(
きんしう
)
『オイ、
377
銀州
(
ぎんしう
)
、
378
貴様
(
きさま
)
チツと
応援
(
おうゑん
)
して
呉
(
く
)
れ。
379
俺
(
おれ
)
ばつかりに
言
(
い
)
はすとは
余
(
あんま
)
りぢやないか、
380
貴様
(
きさま
)
が
発頭人
(
ほつとうにん
)
だよ。
381
アーア
発頭人
(
ほつとうにん
)
に
此
(
この
)
答弁
(
たふべん
)
を
譲
(
ゆづ
)
つて、
382
私
(
わし
)
は
ホーツ
と
息
(
いき
)
をつき
乍
(
なが
)
ら
金公
(
きんこう
)
……オツトドツコイ……
キン
聴
(
ちやう
)
する
事
(
こと
)
にしようかい』
383
銀州
(
ぎんしう
)
『ハイ、
384
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
様
(
さま
)
、
385
其
(
その
)
他
(
た
)
の
方々
(
かたがた
)
の
御前
(
ごぜん
)
を
憚
(
はばか
)
り
乍
(
なが
)
ら、
386
謹
(
つつし
)
み
敬
(
うやま
)
ひ
言上
(
ごんじやう
)
仕
(
つかまつ
)
りまする。
387
抑々
(
そもそも
)
地恩城
(
ちおんじやう
)
は
四面
(
しめん
)
山
(
やま
)
に
囲
(
かこ
)
まれ、
388
メソポタミヤの
顕恩郷
(
けんおんきやう
)
にも
勝
(
まさ
)
る
楽園地
(
らくゑんち
)
で
御座
(
ござ
)
いますれば、
389
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
も
日
(
ひ
)
に
日
(
ひ
)
に
旭日
(
きよくじつ
)
昇天
(
しようてん
)
の
勢
(
いきほひ
)
、
390
それに
日頃
(
ひごろ
)
慕
(
した
)
はせ
給
(
たま
)
ふ
母様
(
ははさま
)
に
無事
(
ぶじ
)
に
会
(
あ
)
はせ
給
(
たま
)
うて、
391
其
(
その
)
御
(
おん
)
顔色
(
かんばせ
)
恐悦
(
きようえつ
)
至極
(
しごく
)
、
392
左守
(
さもり
)
の
清公
(
きよこう
)
様
(
さま
)
、
393
右守
(
うもり
)
の
鶴公
(
つるこう
)
様
(
さま
)
の
誠心
(
まごころ
)
籠
(
こ
)
めての
日夜
(
にちや
)
のお
活動
(
はたらき
)
、
394
其
(
その
)
為
(
た
)
め
地恩郷
(
ちおんきやう
)
は
益々
(
ますます
)
隆盛
(
りうせい
)
に
向
(
むか
)
ひ、
395
斯
(
こ
)
んな
喜
(
よろこ
)
ばしい
事
(
こと
)
は
又
(
また
)
と
世界
(
せかい
)
にありませうか。
396
然
(
しか
)
るに
味
(
あぢ
)
良
(
よ
)
き
果物
(
くだもの
)
には
害虫
(
がいちう
)
多
(
おほ
)
く、
397
美
(
うるは
)
しき
花
(
はな
)
には
風雨
(
ふうう
)
の
害
(
がい
)
甚
(
はなはだ
)
しとやら、
398
治
(
ち
)
に
居
(
ゐ
)
て
乱
(
らん
)
を
忘
(
わす
)
れず、
399
乱
(
らん
)
に
居
(
ゐ
)
て
治
(
ち
)
を
忘
(
わす
)
れず、
400
治乱
(
ちらん
)
興敗
(
こうはい
)
は
天下
(
てんか
)
の
常
(
つね
)
と
存
(
ぞん
)
じますれば、
401
吾々
(
われわれ
)
は
先見
(
せんけん
)
の
明
(
めい
)
なくとも
斯
(
か
)
くの
如
(
ごと
)
きは
能
(
よ
)
く
御
(
ご
)
合点
(
がつてん
)
の
某
(
それがし
)
、
402
御
(
ご
)
忠告
(
ちうこく
)
までに
申上
(
まをしあ
)
げ
奉
(
たてまつ
)
りまする』
403
鶴公
(
つるこう
)
『
益々
(
ますます
)
不分明
(
ふぶんめい
)
なる
汝
(
なんぢ
)
の
言葉
(
ことば
)
、
404
左様
(
さやう
)
な
問題
(
もんだい
)
を
尋
(
たづ
)
ねたものでは
無
(
な
)
い。
405
友彦
(
ともひこ
)
一件
(
いつけん
)
は
何人
(
なにびと
)
より
聞
(
き
)
いたのかと
尋
(
たづ
)
ねて
居
(
ゐ
)
るのだ』
406
銀州
(
ぎんしう
)
『オイ、
407
鉄
(
てつ
)
、
408
何
(
なん
)
とか
テツボ
をあはして
呉
(
く
)
れぬと、
409
俺
(
おれ
)
はスンデの
事
(
こと
)
で
テツ
棒
(
ぼう
)
を
喰
(
く
)
はされる
処
(
ところ
)
だ。
410
初
(
はじめ
)
から
約束
(
やくそく
)
の
通
(
とほ
)
り、
411
第一線
(
だいいつせん
)
危
(
あやふ
)
き
時
(
とき
)
は
第二線
(
だいにせん
)
が
防
(
ふせ
)
ぎ
戦
(
たたか
)
ひ、
412
第二線
(
だいにせん
)
敗
(
やぶ
)
るる
時
(
とき
)
は
第三線
(
だいさんせん
)
が
力戦
(
りきせん
)
苦闘
(
くとう
)
するは、
413
締盟
(
ていめい
)
当時
(
たうじ
)
の
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
の
決心
(
けつしん
)
、
414
サア
手坪
(
てつぼ
)
をあはして
巧
(
うま
)
く
弁解
(
べんかい
)
をするのだよ。
415
此
(
この
)
言霊戦
(
ことたません
)
に
敗
(
はい
)
をとれば
吾々
(
われわれ
)
は、
416
もう
駄目
(
だめ
)
だよ』
417
と
耳
(
みみ
)
の
側
(
はた
)
に
囁
(
ささや
)
く。
418
鉄州
(
てつしう
)
『ハイ、
419
……
何
(
なん
)
で
御座
(
ござ
)
いますか。
420
最前
(
さいぜん
)
から
金
(
きん
)
、
421
銀
(
ぎん
)
の
答弁
(
たふべん
)
を
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば
徹頭
(
てつ
とう
)
徹尾
(
てつ
び
)
、
422
此
(
この
)
鉄
(
てつ
)
も
意味
(
いみ
)
貫徹
(
くわん
てつ
)
しませぬ。
423
鉄瓶
(
てつ
びん
)
の
口
(
くち
)
から
湯気
(
ゆげ
)
を
立
(
た
)
てて
居
(
ゐ
)
る
様
(
やう
)
な
二人
(
ふたり
)
の
陳弁
(
ちんべん
)
の
有様
(
ありさま
)
、
424
側
(
そば
)
の
見
(
み
)
る
目
(
め
)
も
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
なりける
次第
(
しだい
)
なりです。
425
斯
(
か
)
かる
事
(
こと
)
は
夢
(
ゆめ
)
の
中
(
なか
)
の
状態
(
じやうたい
)
で、
426
五里
(
ごり
)
霧中
(
むちゆう
)
に
葬
(
はうむ
)
り
去
(
さ
)
るが
安穏
(
あんのん
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
427
夢
(
ゆめ
)
は
袋
(
ふくろ
)
に、
428
刀
(
かたな
)
は
鞘
(
さや
)
に、
429
秘密
(
ひみつ
)
は
腹
(
はら
)
に
包
(
つつ
)
んで
置
(
お
)
くが
最
(
もつと
)
も
悧巧
(
りかう
)
なやり
方
(
かた
)
、
430
吾々
(
われわれ
)
は
此
(
これ
)
以上
(
いじやう
)
申上
(
まをしあ
)
げる
事
(
こと
)
は
徹頭
(
てつ
とう
)
徹尾
(
てつ
び
)
ありませぬ。
431
此
(
この
)
問題
(
もんだい
)
は
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
り
撤廃
(
てつぱい
)
を
願
(
ねが
)
ひませう』
432
鶴公
(
つるこう
)
『
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
三人共
(
さんにんとも
)
、
433
実
(
じつ
)
に
瞹昧
(
あいまい
)
模糊
(
もこ
)
として
不徹底
(
ふてつてい
)
極
(
きは
)
まる
答弁
(
たふべん
)
、
434
……コリヤ
金州
(
きんしう
)
、
435
左様
(
さやう
)
な
瓢鯰
(
へうねん
)
式
(
しき
)
の
言葉
(
ことば
)
を
用
(
もち
)
ゐず、
436
友彦
(
ともひこ
)
が
襲来
(
しふらい
)
に
関
(
くわん
)
し、
437
何人
(
なにびと
)
より
聞
(
き
)
きしか
明
(
あきら
)
かに
申上
(
まをしあ
)
げよ』
438
金州
(
きんしう
)
『ハイ
是非
(
ぜひ
)
に
及
(
およ
)
ばず
申上
(
まをしあ
)
げまする、
439
実
(
じつ
)
は……その……
何
(
なん
)
で
御座
(
ござ
)
います。
440
実
(
じつ
)
に
清公
(
きよこう
)
さまの……エー……
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
、
441
マア……
一
(
ひと
)
つの
計略
(
けいりやく
)
ですな』
442
鶴公
(
つるこう
)
『コリヤコリヤ
金州
(
きんしう
)
、
443
畏
(
おそれおほ
)
くも
女王
(
ぢよわう
)
様
(
さま
)
、
444
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
様
(
さま
)
の
御前
(
ごぜん
)
なるぞ。
445
真面目
(
まじめ
)
に
謹
(
つつし
)
んで
答弁
(
たふべん
)
致
(
いた
)
さぬか』
446
金州
(
きんしう
)
『ハイ、
447
おい
第二線
(
だいにせん
)
だ……
吟味
(
ぎんみ
)
が
斯
(
か
)
う
厳
(
きび
)
しうては
逃
(
に
)
げ
道
(
みち
)
がない。
448
貴様
(
きさま
)
の
雄弁
(
ゆうべん
)
を
以
(
もつ
)
て
其処
(
そこ
)
はそれ……
何々
(
なになに
)
してやつて
呉
(
く
)
れぬかい』
449
と
耳
(
みみ
)
に
口
(
くち
)
を
寄
(
よ
)
せ
囁
(
ささや
)
く。
450
銀州
(
ぎんしう
)
は
迷惑相
(
めいわくさう
)
な
顔
(
かほ
)
をし
乍
(
なが
)
ら
頭
(
あたま
)
を
掻
(
か
)
き、
451
一寸
(
ちよつと
)
鶴公
(
つるこう
)
の
顔
(
かほ
)
を
見上
(
みあ
)
げ、
452
銀州
『エー、
453
何分
(
なにぶん
)
……
金州
(
きんしう
)
の
申
(
まを
)
した
通
(
とほ
)
り、
454
私
(
わたし
)
が
発起人
(
ほつきにん
)
で
御座
(
ござ
)
います。
455
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
神
(
かみ
)
の
奥
(
おく
)
には
奥
(
おく
)
があると
同様
(
どうやう
)
に、
456
発起人
(
ほつきにん
)
の
奥
(
おく
)
にも
奥
(
おく
)
が
御座
(
ござ
)
いまして……
如何
(
どう
)
もハツキリと
申上
(
まをしあ
)
げ
憎
(
にく
)
う
御座
(
ござ
)
います。
457
奥
(
おく
)
を
申上
(
まをしあ
)
げるのは
何
(
なん
)
だか
臆劫
(
おくくう
)
な
様
(
やう
)
で、
458
奥歯
(
おくば
)
に
物
(
もの
)
が
挟
(
はさ
)
まつた
様
(
やう
)
な
感
(
かん
)
が
致
(
いた
)
します。
459
怯
(
お
)
めず
臆
(
おく
)
せず、
460
記憶
(
きおく
)
に
存
(
ぞん
)
する
事
(
こと
)
は
臆面
(
おくめん
)
も
無
(
な
)
く
申上
(
まをしあ
)
ぐるが
順当
(
じゆんたう
)
では
御座
(
ござ
)
いまするが、
461
矢張
(
やつぱ
)
り、
462
エー
何
(
なん
)
で
御座
(
ござ
)
いまする。
463
本当
(
ほんたう
)
の
事
(
こと
)
は
清公
(
きよこう
)
さまと
宇豆姫
(
うづひめ
)
さまの
関係
(
くわんけい
)
から
起
(
おこ
)
つた
問題
(
もんだい
)
ですから、
464
何卒
(
どうぞ
)
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し、
465
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
466
人
(
ひと
)
の
非
(
ひ
)
を
人
(
ひと
)
の
前
(
まへ
)
に
曝
(
さら
)
す
事
(
こと
)
は、
467
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
のお
戒
(
いまし
)
めに
背
(
そむ
)
くと
申
(
まを
)
すもの、
468
之
(
これ
)
ばかりはお
道
(
みち
)
の
精神
(
せいしん
)
を
守
(
まも
)
つて
沈黙
(
ちんもく
)
を
致
(
いた
)
しませう』
469
鶴公
(
つるこう
)
『
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
は
何事
(
なにごと
)
か
申
(
まを
)
し
合
(
あは
)
せ、
470
吾々
(
われわれ
)
を
嘲弄
(
てうろう
)
致
(
いた
)
すのだなア』
471
銀州
(
ぎんしう
)
『
滅相
(
めつさう
)
もない。
472
嘲弄
(
てうろう
)
と
言
(
い
)
へば
左守神様
(
さもりのかみさま
)
は
長老
(
ちやうらう
)
臭
(
くさ
)
い。
473
貴方
(
あなた
)
が
地恩城
(
ちおんじやう
)
の
長老
(
ちやうらう
)
に
成
(
な
)
られるが
最後
(
さいご
)
、
474
吾々
(
われわれ
)
はお
払
(
はら
)
ひ
箱
(
ばこ
)
になるのは
定
(
きま
)
つた
事
(
こと
)
、
475
長老
(
ちやうらう
)
の
斧
(
をの
)
を
以
(
もつ
)
て
竜車
(
りうしや
)
に
向
(
むか
)
ふ
如
(
ごと
)
く
一
(
ひと
)
たまりも
御座
(
ござ
)
いますまい。
476
それだから
実
(
じつ
)
の
処
(
ところ
)
は、
477
友彦
(
ともひこ
)
襲来
(
しふらい
)
の
兆候
(
てうこう
)
ありと
仮想敵
(
かさうてき
)
を
作
(
つく
)
りスマートボール
其
(
その
)
他
(
た
)
のヤンチヤ
連中
(
れんちう
)
は
城内
(
じやうない
)
より
追放
(
おつぽ
)
り
出
(
だ
)
し、
478
後
(
あと
)
に
清公
(
きよこう
)
さまを
純然
(
じゆんぜん
)
たる
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
長老
(
ちやうらう
)
、
479
即
(
すなは
)
ち
宰相
(
さいしやう
)
たるの
実権
(
じつけん
)
を
握
(
にぎ
)
らせ、
480
言
(
い
)
ふと
済
(
す
)
まぬが、
481
エー
右守
(
うもりの
)
神
(
かみ
)
の
何々
(
なになに
)
さまを
排斥
(
はいせき
)
しようと
言
(
い
)
ふ
吾々
(
われわれ
)
の
計略
(
けいりやく
)
で……はありませぬ。
482
畢竟
(
つまり
)
夢
(
ゆめ
)
の
浮世
(
うきよ
)
の
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
たばかりの
事
(
こと
)
、
483
吾々
(
われわれ
)
が
悪
(
あく
)
を
企
(
たく
)
んだのだとは
夢々
(
ゆめゆめ
)
疑
(
うたが
)
うて
下
(
くだ
)
さいますな』
484
鶴公
(
つるこう
)
『イヤ、
485
もう
何
(
なに
)
も
聞
(
き
)
く
必要
(
ひつえう
)
は
無
(
な
)
い、
486
人
(
ひと
)
の
非
(
ひ
)
を
穿鑿
(
せんさく
)
する
吾々
(
われわれ
)
は
考
(
かんが
)
へも
無
(
な
)
いから、
487
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
し
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
して
置
(
お
)
きませう。
488
……モーシ、
489
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
様
(
さま
)
、
490
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
様
(
さま
)
、
491
実
(
じつ
)
に
水禽
(
すゐきん
)
の
羽撃
(
はばた
)
きに
恐
(
おそ
)
れたる
平家
(
へいけ
)
の
軍勢
(
ぐんぜい
)
の
如
(
ごと
)
き
馬鹿
(
ばか
)
らしき
此
(
この
)
騒
(
さわ
)
ぎ、
492
いやもう
油断
(
ゆだん
)
のならぬ
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
で
御座
(
ござ
)
いますワイ』
493
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『
金
(
きん
)
、
494
銀
(
ぎん
)
、
495
鉄
(
てつ
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
綜合
(
そうがふ
)
すれば、
496
どうやら
左守
(
さもりの
)
神
(
かみ
)
の
清公
(
きよこう
)
が
張本人
(
ちやうほんにん
)
と
見
(
み
)
える。
497
……
清公
(
きよこう
)
を
之
(
これ
)
へ
呼
(
よ
)
んで
来
(
き
)
なさい。
498
金州
(
きんしう
)
、
499
サア
早
(
はや
)
く』
500
金州
(
きんしう
)
『ハイ、
501
お
言葉
(
ことば
)
で
御座
(
ござ
)
いまするが、
502
叔母
(
をば
)
の
死
(
し
)
んだも
直休
(
ぢきやす
)
み、
503
漸
(
やうや
)
く
内乱
(
ないらん
)
鎮定
(
ちんてい
)
の
曙光
(
しよくわう
)
を
認
(
みと
)
めた
処
(
ところ
)
ですから、
504
少
(
すこ
)
し
休養
(
きうやう
)
を
願
(
ねが
)
つてお
使
(
つか
)
ひを
致
(
いた
)
しませう』
505
鉄州
(
てつしう
)
『
実際
(
じつさい
)
の
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
しますれば、
506
清公
(
きよこう
)
さまは
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り、
507
実
(
じつ
)
に
立派
(
りつぱ
)
なお
方
(
かた
)
で
御座
(
ござ
)
います。
508
ブランジーとして
実
(
じつ
)
に
申分
(
まをしぶん
)
なきお
方
(
かた
)
、
509
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
らクロンバーが
無
(
な
)
ければ
陰陽
(
いんやう
)
合致
(
がつち
)
致
(
いた
)
さず、
510
それが
為
(
ため
)
に
宇豆姫
(
うづひめ
)
さまをクロンバーの
位置
(
ゐち
)
に
据
(
す
)
ゑ
度
(
た
)
いと、
511
吾々
(
われわれ
)
仲間
(
なかま
)
の
者
(
もの
)
は
内々
(
ないない
)
運動
(
うんどう
)
を
開始
(
かいし
)
して
居
(
ゐ
)
ました。
512
処
(
ところ
)
が
肝腎
(
かんじん
)
の
宇豆姫
(
うづひめ
)
さまは
察
(
さつ
)
する
処
(
ところ
)
、
513
鶴公
(
つるこう
)
さまに
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
り、
514
ブランジーの
清公
(
きよこう
)
さまに、
515
エツパツパを
喰
(
く
)
はさむとする
形勢
(
けいせい
)
ほの
見
(
み
)
えたれば、
516
何
(
なん
)
とか
事
(
こと
)
を
構
(
かま
)
へ、
517
右守
(
うもりの
)
神
(
かみ
)
鶴公
(
つるこう
)
さまを
先頭
(
せんとう
)
に、
518
スマートボール、
519
貫州
(
くわんしう
)
、
520
武公
(
たけこう
)
、
521
チヤンキー、
522
モンキー、
523
其
(
その
)
他
(
た
)
の
連中
(
れんちう
)
を
城外
(
じやうぐわい
)
に
放
(
はう
)
り
出
(
だ
)
し、
524
城門
(
じやうもん
)
を
固
(
かた
)
く
鎖
(
とざ
)
し、
525
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
さず
無理
(
むり
)
往生
(
わうじやう
)
にしてでも
宇豆姫
(
うづひめ
)
さまをクロンバーの
役
(
やく
)
に
就
(
つ
)
かせ、
526
夫婦
(
ふうふ
)
合衾
(
がふきん
)
の
式
(
しき
)
を
挙
(
あ
)
げさせ
度
(
た
)
いと
鳩首
(
きうしゆ
)
凝議
(
ぎようぎ
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
527
一寸
(
ちよつと
)
狂言
(
きやうげん
)
を
致
(
いた
)
したに
過
(
す
)
ぎませぬ。
528
此
(
この
)
暑
(
あつ
)
いのに
何百
(
なんびやく
)
里
(
り
)
もあるネルソン
山
(
ざん
)
の
彼方
(
かなた
)
迄
(
まで
)
、
529
誰
(
たれ
)
が
偵察
(
ていさつ
)
に
参
(
まゐ
)
る
者
(
もの
)
がありませうぞ。
530
全
(
まつた
)
く
以
(
もつ
)
て
真赤
(
まつか
)
な
嘘言
(
うそ
)
で
御座
(
ござ
)
いました。
531
身
(
み
)
の
過
(
あやま
)
ちは
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せと
言
(
い
)
ふ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御教
(
みをしへ
)
を
奉体
(
ほうたい
)
遊
(
あそ
)
ばす
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
さま、
532
人
(
ひと
)
をお
赦
(
ゆる
)
し
遊
(
あそ
)
ばす
慈愛
(
じあい
)
の
権化
(
ごんげ
)
、
533
滅多
(
めつた
)
にお
叱
(
しか
)
り
遊
(
あそ
)
ばす
様
(
やう
)
な、
534
天則
(
てんそく
)
違反
(
ゐはん
)
的
(
てき
)
な
行為
(
かうゐ
)
には
出
(
で
)
られますまいから、
535
安心
(
あんしん
)
して
実状
(
じつじやう
)
を
申上
(
まをしあ
)
げました』
536
と
流石
(
さすが
)
鉄面皮
(
てつめんぴ
)
の
鉄州
(
てつしう
)
も、
537
稍
(
やや
)
羞恥
(
しうち
)
の
念
(
ねん
)
に
駆
(
か
)
られてか、
538
俯向
(
うつむ
)
いて
真赤
(
まつか
)
な
顔
(
かほ
)
をして
居
(
ゐ
)
る。
539
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『エーエー、
540
しようもない
悪企
(
わるだく
)
みをして
此
(
この
)
妾
(
わし
)
まで
心配
(
しんぱい
)
させ、
541
親子
(
おやこ
)
喧嘩
(
げんくわ
)
までオツ
始
(
ぱじ
)
めさせた
太
(
ふと
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
542
……ナア
鶴公
(
つるこう
)
さま、
543
油断
(
ゆだん
)
も
隙
(
すき
)
もあつたものぢや
御座
(
ござ
)
いませぬなア』
544
鶴公
(
つるこう
)
『お
言葉
(
ことば
)
の
通
(
とほ
)
り
実
(
じつ
)
に
寒心
(
かんしん
)
致
(
いた
)
しました。
545
然
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
之
(
これ
)
全
(
まつた
)
く
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
吾々
(
われわれ
)
に
対
(
たい
)
するお
気付
(
きづ
)
けでせう。
546
之
(
これ
)
に
鑑
(
かんが
)
み
今後
(
こんご
)
は、
547
人
(
ひと
)
の
言
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
を
軽々
(
かるがる
)
しく
まる
聞
(
ぎ
)
きしてはなりますまい』
548
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『
斯
(
か
)
く
事実
(
じじつ
)
の
判明
(
はんめい
)
した
上
(
うへ
)
は
何
(
なに
)
をか
言
(
い
)
はむ。
549
今日
(
こんにち
)
は
之
(
これ
)
にて
忘
(
わす
)
れて
遣
(
つか
)
はす。
550
サア
妾
(
わたし
)
と
共
(
とも
)
に
神殿
(
しんでん
)
に
於
(
おい
)
て、
551
感謝
(
かんしや
)
祈願
(
きぐわん
)
の
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
致
(
いた
)
しませう』
552
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち、
553
一同
(
いちどう
)
と
共
(
とも
)
に
神殿
(
しんでん
)
に
足音
(
あしおと
)
静
(
しづか
)
に
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
る。
554
(
大正一一・七・七
旧閏五・一三
北村隆光
録)
555
(昭和一〇・六・四 王仁校正)
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