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第61巻(子の巻)
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天祥地瑞
第73巻(子の巻)
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第75巻(寅の巻)
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第25巻(子の巻)
序文
総説
第1篇 相縁奇縁
01 水禽の音
〔747〕
02 与太理縮
〔748〕
03 鶍の恋
〔749〕
04 望の縁
〔750〕
第2篇 自由活動
05 酒の滝壺
〔751〕
06 三腰岩
〔752〕
07 大蛇解脱
〔753〕
08 奇の巌窟
〔754〕
第3篇 竜の宮居
09 信仰の実
〔755〕
10 開悟の花
〔756〕
11 風声鶴唳
〔757〕
12 不意の客
〔758〕
第4篇 神花霊実
13 握手の涙
〔759〕
14 園遊会
〔760〕
15 改心の実
〔761〕
16 真如の玉
〔762〕
第5篇 千里彷徨
17 森の囁
〔763〕
18 玉の所在
〔764〕
19 竹生島
〔765〕
余白歌
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> 第5篇 千里彷徨 > 第17章 森の囁
<<< 真如の玉
(B)
(N)
玉の所在 >>>
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第一七章
森
(
もり
)
の
囁
(
ささやき
)
〔七六三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第25巻 海洋万里 子の巻
篇:
第5篇 千里彷徨
よみ(新仮名遣い):
せんりほうこう
章:
第17章 森の囁
よみ(新仮名遣い):
もりのささやき
通し章番号:
763
口述日:
1922(大正11)年07月12日(旧閏05月18日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年5月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
高姫、黒姫、高山彦は、部下のアールとエースを連れて、大船に乗ってタカの港を出港していた。太平洋を横切って、淡路の洲本に帰還し、酋長の東助館にやってきた。
東助館の門番として、虻公と蜂公が控えていた。高姫は傲然として中に入れるように命令するが、虻公と蜂公は、東助から高姫が来ることを言い含められていたようで、取り合わない。
虻公と蜂公は、高姫を何とか誤魔化してこの場に釘付けにしようとするが、聖地で御用があることを匂わせる。高姫は勘違いして東助館の中に秘密があると思って入ろうとする。そこへ東助の妻・お百合が騒ぎを聞きつけて出てきた。
お百合は、館の中は至る所に暗渠があって、地図がないと歩けないのだ、と脅すと、ようやく高姫はあきらめて去っていった。
一方、生田の森の杢助館には、国依別、秋彦、駒彦の三人が留守をしていた。国依別は、今回の竜宮島の神宝納めの神業のために聖地に行かなければならないため、秋彦と駒彦に留守を頼む。
三人が高姫の噂をしていると、窓の外に高姫一行が夜叉のような顔をしてやってくるのが見えた。駒彦は二人を奥の間に隠れさせて、自分が応対係りになると買って出た。
駒彦は高姫らを馬鹿な話で煙に巻こうとする。その中で、すでに神宝は聖地に納まったことを仄めかす。高姫は奥の間にも人がいることに気が付き、国依別と秋彦を見つける。二人は鼠の真似をして高姫を馬鹿にする。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-09-16 19:29:18
OBC :
rm2517
愛善世界社版:
243頁
八幡書店版:
第5輯 120頁
修補版:
校定版:
255頁
普及版:
108頁
初版:
ページ備考:
001
黄金
(
こがね
)
の
玉
(
たま
)
を
紛失
(
ふんしつ
)
し、
002
高姫
(
たかひめ
)
に
追放
(
つゐはう
)
されて、
003
オセアニヤの
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
に
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
さぐ
)
らむと
艱難
(
かんなん
)
辛苦
(
しんく
)
を
冒
(
をか
)
して
立向
(
たちむか
)
うた
黒姫
(
くろひめ
)
は、
004
夫
(
をつと
)
高山彦
(
たかやまひこ
)
と
共
(
とも
)
に、
005
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
の
酋長格
(
しうちやうかく
)
となり、
006
数多
(
あまた
)
の
土人
(
どじん
)
を
手
(
て
)
なづけ、
007
一
(
いち
)
時
(
じ
)
は
武力
(
ぶりよく
)
を
以
(
もつ
)
て
東半分
(
ひがしはんぶん
)
の
地
(
ち
)
に
勢力
(
せいりよく
)
を
扶植
(
ふしよく
)
しつつあつた。
008
其処
(
そこ
)
へ
小糸姫
(
こいとひめ
)
、
009
五十子
(
いそこ
)
姫
(
ひめ
)
、
010
梅子姫
(
うめこひめ
)
、
011
今子姫
(
いまこひめ
)
、
012
宇豆姫
(
うづひめ
)
の
容色
(
ようしよく
)
端麗
(
たんれい
)
なる
美人
(
びじん
)
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
り、
013
土人
(
どじん
)
の
崇敬
(
すうけい
)
殊
(
こと
)
に
甚
(
はなはだ
)
しく、
014
高山彦
(
たかやまひこ
)
、
015
黒姫
(
くろひめ
)
も
之
(
これ
)
を
排斥
(
はいせき
)
するの
余地
(
よち
)
なきを
悟
(
さと
)
り、
016
抜目
(
ぬけめ
)
なき
両人
(
りやうにん
)
は
直
(
ただち
)
に
猫
(
ねこ
)
を
被
(
かぶ
)
つて
小糸姫
(
こいとひめ
)
が
部下
(
ぶか
)
となり、
017
遂
(
つい
)
には
心
(
こころ
)
より
小糸姫
(
こいとひめ
)
に
悦服
(
えつぷく
)
し、
018
地恩城
(
ちおんじやう
)
にブランジー、
019
クロンバーの
職
(
しよく
)
を
務
(
つと
)
め、
020
二年
(
ふたとせ
)
三年
(
みとせ
)
一意
(
いちい
)
専心
(
せんしん
)
に
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
を、
021
土人
(
どじん
)
を
以
(
もつ
)
て
捜索
(
そうさく
)
せしめつつあつた。
022
されども
玉
(
たま
)
らしき
物
(
もの
)
は
何一
(
なにひと
)
つ
手
(
て
)
に
入
(
い
)
らず、
023
殆
(
ほとん
)
ど
絶望
(
ぜつばう
)
の
思
(
おも
)
ひに
沈
(
しづ
)
む
時
(
とき
)
、
024
高姫
(
たかひめ
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
一行
(
いつかう
)
が
此島
(
ここ
)
に
来
(
きた
)
るに
会
(
くわい
)
し、
025
最早
(
もはや
)
本島
(
ほんたう
)
に
用
(
よう
)
は
無
(
な
)
し、
026
仮令
(
たとへ
)
オセアニヤ
全島
(
ぜんたう
)
を
我
(
わが
)
手
(
て
)
に
握
(
にぎ
)
る
共
(
とも
)
、
027
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
宝
(
たから
)
たる
三
(
みつ
)
つの
神宝
(
しんぽう
)
には
及
(
およ
)
ぶ
可
(
べか
)
らず。
028
躊躇
(
ちうちよ
)
逡巡
(
しゆんじゆん
)
せば、
029
又
(
また
)
何人
(
なんぴと
)
にか
宝玉
(
ほうぎよく
)
の
所在
(
ありか
)
を
探
(
さぐ
)
られむと、
030
高姫
(
たかひめ
)
、
031
黒姫
(
くろひめ
)
、
032
高山彦
(
たかやまひこ
)
は、
033
日頃
(
ひごろ
)
手撫
(
てな
)
づけ
置
(
お
)
きたるアール(愛三)、
034
エース(栄三)の
二人
(
ふたり
)
を
引連
(
ひきつ
)
れ、
035
稍
(
やや
)
広
(
ひろ
)
く
大
(
だい
)
なる
樟製
(
くすせい
)
の
船
(
ふね
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ、
036
タカの
港
(
みなと
)
を
秘
(
ひそか
)
に
立出
(
たちい
)
で、
037
後白浪
(
あとしらなみ
)
と
漕
(
こ
)
ぎ
出
(
いだ
)
す。
038
やうやうにして
太平洋
(
たいへいやう
)
の
波濤
(
なみ
)
を
横断
(
よこぎ
)
り、
039
数多
(
あまた
)
の
島嶼
(
たうしよ
)
を
縫
(
ぬ
)
うて
馬関
(
ばくわん
)
を
過
(
よ
)
ぎり、
040
瀬戸
(
せと
)
の
海
(
うみ
)
に
帰還
(
きくわん
)
し、
041
淡路
(
あはぢ
)
の
洲本
(
すもと
)
(
今
(
いま
)
の
岩屋
(
いはや
)
辺
(
あた
)
り)に
漸
(
やうや
)
く
船
(
ふね
)
を
横
(
よこ
)
たへ
高姫
(
たかひめ
)
を
先頭
(
せんとう
)
に
一行
(
いつかう
)
五
(
ご
)
人
(
にん
)
、
042
洲本
(
すもと
)
の
酋長
(
しうちやう
)
東助
(
とうすけ
)
が
館
(
やかた
)
を
指
(
さ
)
して
進
(
すす
)
み
行
(
ゆ
)
く。
043
見
(
み
)
れば
非常
(
ひじやう
)
に
宏大
(
くわうだい
)
なる
邸宅
(
ていたく
)
にして、
044
表門
(
おもてもん
)
には
二人
(
ふたり
)
の
門番
(
もんばん
)
阿吽
(
あうん
)
の
仁王
(
にわう
)
の
様
(
やう
)
に
儼然
(
げんぜん
)
と
扣
(
ひか
)
へて
居
(
ゐ
)
る。
045
よくよく
顔
(
かほ
)
を
眺
(
なが
)
むれば、
046
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
の
杢助館
(
もくすけやかた
)
に
於
(
おい
)
て
出会
(
でつくわ
)
した
虻公
(
あぶこう
)
、
047
蜂公
(
はちこう
)
の
両人
(
りやうにん
)
である。
048
高姫
(
たかひめ
)
『オヽお
前
(
まへ
)
は
虻公
(
あぶこう
)
、
049
蜂公
(
はちこう
)
……
如何
(
どう
)
してマア
泥棒
(
どろばう
)
がそこまで
出世
(
しゆつせ
)
をしたのだい。
050
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
御
(
ご
)
入来
(
にふらい
)
だから、
051
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
館
(
やかた
)
の
主
(
あるじ
)
東助殿
(
とうすけどの
)
に、
052
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
御
(
ご
)
光来
(
くわうらい
)
だと
報告
(
はうこく
)
をしてお
呉
(
く
)
れ』
053
と
横柄
(
わうへい
)
に
命令
(
めいれい
)
する
様
(
やう
)
に
云
(
い
)
ふ。
054
虻公
(
あぶこう
)
『
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
はお
不在
(
るす
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
055
何人
(
どなた
)
がお
入来
(
いで
)
になつても、
056
此
(
この
)
門
(
もん
)
を
通過
(
つうくわ
)
さしてはならないと
言
(
い
)
はれて、
057
斯
(
か
)
う
我々
(
われわれ
)
両人
(
りやうにん
)
が
厳重
(
げんぢう
)
に
固
(
かた
)
めて
居
(
ゐ
)
るのだから、
058
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまであらうが、
059
仮令
(
たとへ
)
国治立
(
くにはるたちの
)
尊
(
みこと
)
様
(
さま
)
であらうが、
060
通
(
とほ
)
す
事
(
こと
)
は
罷
(
まか
)
りなりませぬワイ。
061
主人
(
しゆじん
)
の
在宅
(
ざいたく
)
の
時
(
とき
)
は
門番
(
もんばん
)
は
誰
(
たれ
)
も
居
(
ゐ
)
ないのだが、
062
主人
(
しゆじん
)
が
一寸
(
ちよつと
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御用
(
ごよう
)
で、
063
何々
(
なになに
)
方面
(
はうめん
)
へ
御
(
お
)
越
(
こ
)
し
遊
(
あそ
)
ばし、
064
其
(
その
)
不在中
(
るすちう
)
に
戸惑
(
とまど
)
ひ
者
(
もの
)
……
何々
(
なになに
)
が
四五
(
しご
)
人連
(
にんづれ
)
でやつて
来
(
く
)
るから、
065
決
(
けつ
)
して
入
(
い
)
れてはならぬぞ。
066
若
(
も
)
し
我
(
わが
)
命令
(
めいれい
)
を
破
(
やぶ
)
つて
門内
(
もんない
)
に
通
(
とほ
)
す
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
があつたら、
067
其
(
その
)
方
(
はう
)
は
直
(
すぐ
)
に
暇
(
ひま
)
を
呉
(
く
)
れる。
068
さうすれば
貴様
(
きさま
)
も
虻蜂
(
あぶはち
)
取
(
と
)
らずになつて
了
(
しま
)
ふぞよ……と
厳
(
きび
)
しき
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
だ
絶対
(
ぜつたい
)
に
通
(
とほ
)
す
事
(
こと
)
はなりませぬ……なア
蜂公
(
はちこう
)
、
069
さうぢやないか』
070
蜂公
(
はちこう
)
『さうだ、
071
国依別
(
くによりわけ
)
さまが
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
からお
迎
(
むか
)
へにお
出
(
い
)
でた
時
(
とき
)
、
072
鷹姫
(
たかひめ
)
とか、
073
鳶姫
(
とびひめ
)
とか、
074
烏姫
(
からすひめ
)
とか、
075
黒姫
(
くろひめ
)
とか
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
がキツと
此館
(
ここ
)
へゴテゴテ
言
(
い
)
うて
来
(
く
)
るに
違
(
ちが
)
ひないから、
076
一度
(
いちど
)
でも
顔
(
かほ
)
見知
(
みし
)
つた
虻公
(
あぶこう
)
、
077
蜂公
(
はちこう
)
を
門番
(
もんばん
)
にして
置
(
お
)
くがよからう……と
云
(
い
)
つて、
078
東助
(
とうすけ
)
さまと
相談
(
さうだん
)
の
上
(
うへ
)
、
079
臨時
(
りんじ
)
門番
(
もんばん
)
を
勤
(
つと
)
めて
居
(
ゐ
)
るのだ。
080
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
と
云
(
い
)
ふものは
偉
(
えら
)
いものだ。
081
チヤンと
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
の
様
(
やう
)
に、
082
前
(
さき
)
に
知
(
し
)
つて
御座
(
ござ
)
るのだから
堪
(
たま
)
らぬワイ、
083
アツハヽヽヽ』
084
高姫
(
たかひめ
)
少
(
すこ
)
しく
声
(
こゑ
)
を
尖
(
とが
)
らし、
085
高姫
『
泥棒
(
どろばう
)
上
(
あが
)
りの
虻蜂
(
あぶはち
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として、
086
此
(
この
)
結構
(
けつこう
)
な
神柱
(
かむばしら
)
を
鷹
(
たか
)
だの、
087
鳶
(
とび
)
だの、
088
烏
(
からす
)
だのと、
089
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
口汚
(
くちぎたな
)
い
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
すのだ。
090
大方
(
おほかた
)
言依別
(
ことよりわけ
)
の
奴
(
ど
)
ハイカラから
聞
(
き
)
かされたのだらう』
091
虻公
(
あぶこう
)
『そんなこたア
如何
(
どう
)
でもよい。
092
誰
(
たれ
)
が
言
(
い
)
つたのか
知
(
し
)
らぬが、
093
世界中
(
せかいぢう
)
知
(
し
)
らぬ
者
(
もの
)
はありますまい。
094
つひこの
近
(
ちか
)
くに
結構
(
けつこう
)
な
玉
(
たま
)
が
隠
(
かく
)
してあるのに、
095
オーストラリヤ
三界
(
さんかい
)
まで
飛
(
と
)
んで
行
(
ゆ
)
くと
云
(
い
)
ふ
羽
(
はね
)
の
強
(
つよ
)
いお
前
(
まへ
)
共
(
ども
)
だから、
096
鳥
(
とり
)
に
譬
(
たとへ
)
られても
仕方
(
しかた
)
があるまい。
097
グヅグヅして
居
(
ゐ
)
ると
国依別
(
くによりわけ
)
や
東助
(
とうすけ
)
さまが
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
を
嗅
(
か
)
ぎ
出
(
だ
)
して、
098
又
(
また
)
お
前
(
まへ
)
さまに
取
(
と
)
られぬ
様
(
やう
)
にと
宝
(
たから
)
の
埋換
(
うめかへ
)
を
遊
(
あそ
)
ばすと
見
(
み
)
え、
099
何
(
なん
)
でも
立派
(
りつぱ
)
な
玉
(
たま
)
が
聖地
(
せいち
)
へ
納
(
をさ
)
まるから、
100
お
迎
(
むか
)
へとか、
101
受取
(
うけと
)
りとかに
行
(
ゆ
)
かはりました。
102
お
前
(
まへ
)
さまの
居
(
を
)
らぬ
間
(
ま
)
に
聖地
(
せいち
)
には……
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
くと、
103
何
(
なん
)
でも
近
(
ちか
)
い
内
(
うち
)
、
104
五色
(
ごしき
)
の
玉
(
たま
)
が
納
(
をさ
)
まると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
、
105
それなつと
受取
(
うけと
)
つて、
106
又
(
また
)
お
前
(
まへ
)
さまに
隠
(
かく
)
さしたら、
107
チツトは
高姫
(
たかひめ
)
、
108
黒姫
(
くろひめ
)
の
病気
(
びやうき
)
も
癒
(
なほ
)
るだらうと、
109
国依別
(
くによりわけ
)
さまが
笑
(
わら
)
ひ
半分
(
はんぶん
)
に
言
(
い
)
つてましたよ。
110
アハヽヽヽ』
111
黒姫
(
くろひめ
)
『あの
三
(
み
)
つの
御
(
お
)
宝
(
たから
)
を、
112
言依別
(
ことよりわけ
)
が
又
(
また
)
埋
(
い
)
けなほすと
云
(
い
)
ふのかい、
113
エーエ
胸
(
むね
)
がスイとした。
114
初稚姫
(
はつわかひめ
)
の
様
(
やう
)
な
小
(
こ
)
チツペや、
115
玉能姫
(
たまのひめ
)
などが
末代
(
まつだい
)
の
御用
(
ごよう
)
をしたと
思
(
おも
)
つて……
三十万
(
さんじふまん
)
年
(
ねん
)
未来
(
みらい
)
までは
何
(
なん
)
と
仰有
(
おつしや
)
つても
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げられませぬ……なんて
威張
(
ゐば
)
つて
居
(
を
)
つたのが……
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
可憐
(
いぢ
)
らしいわいの。
116
……それはさうと
言依別
(
ことよりわけ
)
の
奴
(
ど
)
ハイカラ、
117
クレクレと
猫
(
ねこ
)
の
目
(
め
)
程
(
ほど
)
精神
(
せいしん
)
が
変
(
かは
)
るのだから、
118
今度
(
こんど
)
は
又
(
また
)
国依別
(
くによりわけ
)
のヤンチヤや、
119
船頭
(
せんどう
)
あがりの
東助
(
とうすけ
)
に
御用
(
ごよう
)
をさすのらしい。
120
コリヤうつかりとして
居
(
を
)
られますまい。
121
……サア
虻
(
あぶ
)
、
122
蜂
(
はち
)
の
御
(
ご
)
両人
(
りやうにん
)
、
123
そこまで
聞
(
き
)
いて
居
(
ゐ
)
る
以上
(
いじやう
)
は、
124
モツと
詳
(
くは
)
しい
事
(
こと
)
を
御
(
ご
)
承知
(
しようち
)
だらう。
125
お
前
(
まへ
)
は
中々
(
なかなか
)
正直者
(
しやうぢきもの
)
だ、
126
それでこそ
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
が
勤
(
つと
)
まると
云
(
い
)
ふもの、
127
サア
私
(
わたし
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
聖地
(
せいち
)
へ
帰
(
かへ
)
り
様子
(
やうす
)
を
偵察
(
ていさつ
)
して、
128
末代
(
まつだい
)
の
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
に
仕
(
つか
)
へませう。
129
其
(
その
)
代
(
かは
)
り
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
、
130
黒姫
(
くろひめ
)
の
御用
(
ごよう
)
を
聞
(
き
)
けば、
131
立派
(
りつぱ
)
な
御
(
ご
)
出世
(
しゆつせ
)
が
出来
(
でき
)
まする。
132
宜
(
よろ
)
しいかな、
133
分
(
わか
)
りましたか』
134
と
三歳児
(
みつご
)
をたらす
様
(
やう
)
に、
135
甘
(
あま
)
つたるい
声
(
こゑ
)
を
出
(
だ
)
して
抱
(
だ
)
き
込
(
こ
)
まうとする。
136
蜂公
(
はちこう
)
『グヅグヅして
居
(
ゐ
)
ると、
137
国依別
(
くによりわけ
)
が
肝腎
(
かんじん
)
の
御用
(
ごよう
)
をしますで、
138
早
(
はや
)
うお
帰
(
かへ
)
りなされ。
139
悪
(
わる
)
い
事
(
こと
)
は
言
(
い
)
ひませぬ……(
小声
(
こごゑ
)
)と
斯
(
か
)
う
言
(
い
)
うて
門
(
もん
)
を
潜
(
くぐ
)
らさぬ
様
(
やう
)
に、
140
追
(
お
)
ひまくる
様
(
やう
)
にする
俺
(
おれ
)
の
計略
(
けいりやく
)
だ』
141
と
小
(
ちひ
)
さい
声
(
こゑ
)
で
呟
(
つぶや
)
くのを、
142
高姫
(
たかひめ
)
は
耳敏
(
みみざと
)
くも、
143
半分
(
はんぶん
)
計
(
ばか
)
り
聴
(
き
)
き
取
(
と
)
り、
144
高姫
『コリヤ
門番
(
もんばん
)
の
古狸
(
ふるだぬき
)
奴
(
め
)
が、
145
黒姫
(
くろひめ
)
さまはお
前
(
まへ
)
にチヨロまかされても、
146
世界
(
せかい
)
の
大門開
(
おほもんびら
)
きを
致
(
いた
)
す
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
は
東助
(
とうすけ
)
の
門番
(
もんばん
)
位
(
くらゐ
)
に
誤魔化
(
ごまくわ
)
されはせぬぞ。
147
黙
(
だま
)
つて
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
れば
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふか
分
(
わか
)
つたものぢやない。
148
察
(
さつ
)
する
所
(
ところ
)
家島
(
えじま
)
(
絵島
(
ゑじま
)
)か、
149
神島
(
かみじま
)
四辺
(
あたり
)
に
隠
(
かく
)
し
置
(
お
)
いたる
三個
(
さんこ
)
の
宝玉
(
ほうぎよく
)
を、
150
我々
(
われわれ
)
が
遠
(
とほ
)
い
所
(
ところ
)
へ
往
(
い
)
つたのを
幸
(
さいは
)
ひ、
151
ヌツクリと
取
(
と
)
り
出
(
だ
)
し、
152
初稚姫
(
はつわかひめ
)
や
玉能姫
(
たまのひめ
)
に
揚壺
(
あげつぼ
)
を
喰
(
く
)
はし、
153
此
(
この
)
館
(
やかた
)
に
言依別
(
ことよりわけ
)
、
154
国依別
(
くによりわけ
)
、
155
東助
(
とうすけ
)
が
潜
(
ひそ
)
んで、
156
玉
(
たま
)
相談
(
さうだん
)
をやつて
居
(
ゐ
)
る
事
(
こと
)
は、
157
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
天眼通
(
てんがんつう
)
にチヤンと
映
(
うつ
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
158
どうだ、
159
虻
(
あぶ
)
、
160
蜂
(
はち
)
、
161
恐
(
おそ
)
れ
入
(
い
)
つたか』
162
虻
(
あぶ
)
、
163
蜂
(
はち
)
一度
(
いちど
)
に、
164
虻公、蜂公
『アハヽヽヽ、
165
エライ
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
さまだなア。
166
何
(
なに
)
も
彼
(
か
)
もよう
御存
(
ごぞん
)
じだワイ』
167
高姫
(
たかひめ
)
『
定
(
き
)
まつた
事
(
こと
)
だ。
168
世界
(
せかい
)
見
(
み
)
えすく
水晶
(
すゐしやう
)
身魂
(
みたま
)
の
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
様
(
さま
)
の
仰有
(
おつしや
)
る
事
(
こと
)
に
間違
(
まちが
)
ひがあつてたまらうか。
169
……サアサア
高山彦
(
たかやまひこ
)
さま、
170
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
171
アール、
172
エース、
173
……
虻
(
あぶ
)
、
174
蜂
(
はち
)
両人
(
りやうにん
)
を
取押
(
とりおさ
)
へてフン
縛
(
じば
)
り、
175
我々
(
われわれ
)
は
奥
(
おく
)
へ
進
(
すす
)
み
入
(
い
)
つて、
176
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
面
(
つら
)
の
皮
(
かは
)
を
剥
(
む
)
いてやりませう』
177
高山彦
(
たかやまひこ
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さま、
178
コリヤ……
一
(
ひと
)
つ
考
(
かんが
)
へ
物
(
もの
)
ですな。
179
多寡
(
たか
)
が
知
(
し
)
れた
虻
(
あぶ
)
、
180
蜂
(
はち
)
の
門番
(
もんばん
)
、
181
そんな
秘密
(
ひみつ
)
が
分
(
わか
)
らう
筈
(
はず
)
がない。
182
グヅグヅして
居
(
ゐ
)
ると、
183
良
(
い
)
い
翫弄物
(
おもちや
)
にしられるかも
知
(
し
)
れませぬぞ』
184
高姫
(
たかひめ
)
『そら
何
(
なに
)
を
仰有
(
おつしや
)
る
高山
(
たかやま
)
さま、
185
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
の
此
(
この
)
場合
(
ばあひ
)
、
186
チツト
確乎
(
しつかり
)
なさらぬかいな。
187
……
黒姫
(
くろひめ
)
さまも
余程
(
よつぽど
)
耄碌
(
まうろく
)
しましたね』
188
虻公
(
あぶこう
)
『
俺
(
おれ
)
を
取
(
と
)
り
押
(
おさ
)
へるの、
189
フン
縛
(
じば
)
るのと、
190
そりや
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
ふのだ、
191
這
(
は
)
いるなら
這入
(
はい
)
つて
見
(
み
)
よ。
192
危
(
あぶ
)
ない
事
(
こと
)
がして
有
(
あ
)
るぞ。
193
忽
(
たちま
)
ち
神
(
かみ
)
の
罰
(
ばち
)
が
当
(
あた
)
つて、
194
虻蜂
(
あぶはち
)
取
(
と
)
らずの
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
つても
良
(
よ
)
けら、
195
ドシドシとお
通
(
とほ
)
りなさい……と
云
(
い
)
ひたいが、
196
金輪
(
こんりん
)
奈落
(
ならく
)
此
(
この
)
門
(
もん
)
を
通
(
とほ
)
しちやならぬと
云
(
い
)
ふ
厳命
(
げんめい
)
を
受
(
う
)
けて
居
(
ゐ
)
るのだから、
197
表門
(
おもてもん
)
は
俺
(
おれ
)
の
責任
(
せきにん
)
があるから、
198
入口
(
いりぐち
)
は
一所
(
ひとところ
)
ぢやない。
199
貴様
(
きさま
)
勝手
(
かつて
)
に
這入
(
はい
)
つたがよからうぞ。
200
此
(
この
)
前
(
まへ
)
にやつて
来
(
き
)
たお
前
(
まへ
)
に
似
(
に
)
た
様
(
やう
)
な
宣教師
(
せんけうし
)
は
廁
(
かはや
)
の
中
(
なか
)
からでも
逃
(
に
)
げ
出
(
で
)
たのだから、
201
裏
(
うら
)
の
方
(
はう
)
へそつと
廻
(
まは
)
つて、
202
廁
(
かはや
)
の
下
(
した
)
から
糞
(
くそ
)
まぶれになつて
這入
(
はい
)
らうと
這入
(
はい
)
るまいと、
203
ソラお
前
(
まへ
)
の
勝手
(
かつて
)
だ。
204
此
(
この
)
門
(
もん
)
だけは、
205
絶対
(
ぜつたい
)
に
通
(
とほ
)
る
事
(
こと
)
は
罷
(
まか
)
りならぬのだ。
206
ウツフヽヽヽ。
207
……
三
(
みつ
)
つの
玉
(
たま
)
とか、
208
五
(
いつ
)
つの
玉
(
たま
)
とか、
209
今頃
(
いまごろ
)
には
聖地
(
せいち
)
は
玉
(
たま
)
の
光
(
ひかり
)
で
美
(
うつく
)
しい
事
(
こと
)
だらうな。
210
初稚姫
(
はつわかひめ
)
さまも、
211
玉能姫
(
たまのひめ
)
さまも、
212
余
(
あま
)
り
欲
(
よく
)
が
深過
(
ふかす
)
ぎるワイ。
213
三
(
みつ
)
つの
玉
(
たま
)
の
御用
(
ごよう
)
をし
乍
(
なが
)
ら、
214
今度
(
こんど
)
又
(
また
)
竜宮
(
りうぐう
)
の
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
で
結構
(
けつこう
)
な
玉
(
たま
)
を
五
(
いつ
)
つも
手
(
て
)
に
入
(
い
)
れて
八咫烏
(
やあたがらす
)
とかに
乗
(
の
)
つて
帰
(
かへ
)
つて
御座
(
ござ
)
るとか、
215
御座
(
ござ
)
つたとか
云
(
い
)
ふ
無声
(
むせい
)
霊話
(
れいわ
)
が、
216
頻々
(
ひんぴん
)
と
東助
(
とうすけ
)
さまの
館
(
やかた
)
へかかつて
来
(
き
)
た。
217
アヽさうぢや、
218
杢助
(
もくすけ
)
さまも
結構
(
けつこう
)
な
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
の
館
(
やかた
)
を
棄
(
す
)
てて
聖地
(
せいち
)
へ
行
(
ゆ
)
かつしやる
筈
(
はず
)
だ。
219
初稚姫
(
はつわかひめ
)
、
220
玉能姫
(
たまのひめ
)
さまは、
221
年
(
とし
)
は
若
(
わか
)
うても、
222
流石
(
さすが
)
は
立派
(
りつぱ
)
な
方
(
かた
)
だ。
223
一度
(
いちど
)
ならぬ、
224
二度
(
にど
)
ならぬ、
225
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
の
花形
(
はながた
)
役者
(
やくしや
)
だ。
226
心
(
こころ
)
一
(
ひと
)
つの
持様
(
もちやう
)
で、
227
あんな
結構
(
けつこう
)
な
御用
(
ごよう
)
が
出来
(
でき
)
るのだからなア。
228
そこらの
人
(
ひと
)
、
229
爪
(
つめ
)
の
垢
(
あか
)
でも
煎
(
せん
)
じて
飲
(
の
)
んだら
薬
(
くすり
)
になるだらう。
230
ウツフヽヽヽ』
231
高姫
(
たかひめ
)
『
誰
(
たれ
)
が
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
聞
(
き
)
くものか。
232
そんな
巧
(
うま
)
い
事
(
こと
)
云
(
い
)
つて、
233
此
(
この
)
館
(
やかた
)
に
高姫
(
たかひめ
)
を
入
(
い
)
れまいと
防禦線
(
ばうぎよせん
)
を
張
(
は
)
るのだらうが。
234
そんな
事
(
こと
)
を……ヘン
喰
(
く
)
ふ
高姫
(
たかひめ
)
で
御座
(
ござ
)
いますかい。
235
そんなら
宜
(
よろ
)
しい。
236
裏門
(
うらもん
)
から
這入
(
はい
)
つてやらう。
237
さうすればお
前
(
まへ
)
の
顔
(
かほ
)
も
立
(
た
)
つだらう』
238
と
掛合
(
かけあ
)
ふ
所
(
ところ
)
へ、
239
東助
(
とうすけ
)
の
妻
(
つま
)
お
百合
(
ゆり
)
は
門口
(
かどぐち
)
の
喧
(
やかま
)
しき
声
(
こゑ
)
に
気
(
き
)
を
取
(
と
)
られ、
240
座
(
ざ
)
を
立
(
た
)
ちて
一人
(
ひとり
)
の
侍女
(
じぢよ
)
と
共
(
とも
)
に
此
(
この
)
場
(
ば
)
に
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
る。
241
虻公
(
あぶこう
)
『これはこれは
奥様
(
おくさま
)
、
242
よう
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいました。
243
三五教
(
あななひけう
)
のヤンチヤ
組
(
ぐみ
)
の
高姫
(
たかひめ
)
一行
(
いつかう
)
がお
出
(
い
)
でになりやがつて、
244
此
(
この
)
門
(
もん
)
を
通
(
とほ
)
せと
仰有
(
おつしや
)
りやがるのです。
245
如何
(
どう
)
言
(
い
)
つて
謝絶
(
ことわ
)
つても、
246
帰
(
かへ
)
らうと
仰有
(
おつしや
)
りやがらず、
247
それ
程
(
ほど
)
這入
(
はい
)
りたければ、
248
友彦
(
ともひこ
)
の
様
(
やう
)
に
廁
(
かはや
)
の
穴
(
あな
)
からでも
這入
(
はい
)
れと
云
(
い
)
つてゐる
所
(
ところ
)
で
御座
(
ござ
)
います。
249
此
(
この
)
御
(
お
)
館
(
やかた
)
は
表門
(
おもてもん
)
計
(
ばか
)
りで、
250
裏門
(
うらもん
)
と
云
(
い
)
へば
雪隠
(
せついん
)
の
穴
(
あな
)
計
(
ばか
)
り、
251
そこからでも
這入
(
はい
)
らうと
云
(
い
)
ふ
熱心
(
ねつしん
)
な
方
(
かた
)
ですから……どうでせう、
252
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
はあれ
丈
(
だけ
)
厳
(
きび
)
しくお
戒
(
いまし
)
めになつて
居
(
ゐ
)
ますけれども、
253
そこは
又
(
また
)
臨機
(
りんき
)
応変
(
おうへん
)
、
254
どつと
譲歩
(
はづ
)
んで
通
(
とほ
)
してやつたら
如何
(
どう
)
でせう』
255
お
百合
(
ゆり
)
『これはこれは
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
御
(
ご
)
一行
(
いつかう
)
で
御座
(
ござ
)
いますか、
256
噂
(
うはさ
)
に
承
(
うけたま
)
はつて
居
(
を
)
りましたが、
257
ホンに
立派
(
りつぱ
)
なお
方
(
かた
)
計
(
ばか
)
り、
258
ようお
入来
(
いで
)
なさいました』
259
高姫
(
たかひめ
)
『
私
(
わたし
)
は
仰有
(
おつしや
)
る
通
(
とほ
)
り、
260
高姫
(
たかひめ
)
、
261
高山彦
(
たかやまひこ
)
、
262
黒姫
(
くろひめ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
で
御座
(
ござ
)
います。
263
何時
(
いつ
)
やらは
御
(
ご
)
主人
(
しゆじん
)
の
東助
(
とうすけ
)
どんに、
264
家島
(
えじま
)
まで
送
(
おく
)
つて
貰
(
もら
)
ひ、
265
アタ
意地
(
いぢ
)
くねの
悪
(
わる
)
い、
266
私
(
わたし
)
の
家来
(
けらい
)
の
清
(
きよ
)
、
267
鶴
(
つる
)
、
268
武
(
たけ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
自分
(
じぶん
)
の
船
(
ふね
)
に
乗
(
の
)
せ、
269
私
(
わたし
)
を
家島
(
えじま
)
に
島流
(
しまなが
)
しも
同様
(
どうやう
)
な
目
(
め
)
に
会
(
あ
)
はし、
270
其
(
その
)
後
(
のち
)
と
云
(
い
)
ふものはイロイロ
雑多
(
ざつた
)
と
此
(
この
)
高姫
(
たかひめ
)
を
苦
(
くるし
)
めて
下
(
くだ
)
さいまして、
271
実
(
じつ
)
に
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
272
其
(
その
)
お
蔭
(
かげ
)
で
余程
(
よつぽど
)
私
(
わたし
)
は
身魂
(
みたま
)
磨
(
みが
)
きをさして
頂
(
いただ
)
きました』
273
お
百合
(
ゆり
)
『どう
致
(
いた
)
しまして、
274
お
礼
(
れい
)
には
及
(
およ
)
びませぬ。
275
苦労
(
くらう
)
の
塊
(
かたまり
)
の
花
(
はな
)
の
咲
(
さ
)
く
三五教
(
あななひけう
)
で
御座
(
ござ
)
いますから、
276
貴方
(
あなた
)
の
様
(
やう
)
な
肝腎
(
かんじん
)
のお
方
(
かた
)
を
改心
(
かいしん
)
させる
御用
(
ごよう
)
を
勤
(
つと
)
めた
私
(
わたし
)
の
主人
(
しゆじん
)
は、
277
謂
(
い
)
はば
高姫
(
たかひめ
)
のお
師匠
(
ししやう
)
さま
格
(
かく
)
ですな。
278
オツホヽヽヽ』
279
高姫
(
たかひめ
)
『
何
(
なん
)
と、
280
理窟
(
りくつ
)
も
有
(
あ
)
れば
有
(
あ
)
るものだな。
281
海賊
(
かいぞく
)
上
(
あが
)
りの
東助
(
とうすけ
)
の
女房
(
にようばう
)
丈
(
だけ
)
の
事
(
こと
)
あつて、
282
巧
(
うま
)
い
逆理屈
(
さかりくつ
)
をお
捏
(
こ
)
ね
遊
(
あそ
)
ばす。
283
斯
(
こ
)
んな
立派
(
りつぱ
)
な
館
(
やかた
)
を
建
(
た
)
てて、
284
酋長
(
しうちやう
)
々々
(
しうちやう
)
と
言
(
い
)
つて
居
(
を
)
つても、
285
人品
(
じんぴん
)
骨柄
(
こつがら
)
の
下劣
(
げれつ
)
な
事
(
こと
)
、
286
破
(
やぶ
)
れ
船頭
(
せんどう
)
が
性
(
しやう
)
に
合
(
あ
)
ふとる。
287
海賊
(
かいぞく
)
をやつて
沢山
(
たくさん
)
な
宝
(
たから
)
を
奪
(
うば
)
ひ
取
(
と
)
り、
288
財産家
(
ざいさんか
)
となつて、
289
栄耀
(
えいよう
)
栄華
(
えいぐわ
)
の
有
(
あ
)
りたけを
尽
(
つく
)
し、
290
今度
(
こんど
)
は
三
(
みつ
)
つの
御
(
ご
)
神宝
(
しんぱう
)
にソロソロ
目
(
め
)
を
付
(
つ
)
け
出
(
だ
)
した
大泥棒
(
おほどろばう
)
の
計画中
(
けいくわくちう
)
だらう。
291
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
奥
(
おく
)
へ
踏
(
ふ
)
み
込
(
こ
)
み、
292
言依別
(
ことよりわけ
)
、
293
国依別
(
くによりわけ
)
を
助
(
たす
)
けて
失敗
(
しつぱい
)
をさせない
様
(
やう
)
に
注意
(
ちうい
)
するのが
男子
(
なんし
)
の
系統
(
ひつぽう
)
の
高姫
(
たかひめ
)
の
役
(
やく
)
だ。
294
サア
案内
(
あんない
)
をなされ』
295
お
百合
(
ゆり
)
『そんなら
開放
(
かいはう
)
致
(
いた
)
しませう。
296
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
御
(
ご
)
勝手
(
かつて
)
にお
探
(
さが
)
し
遊
(
あそ
)
ばせ。
297
此
(
この
)
館
(
やかた
)
は
四方
(
しはう
)
八方
(
はつぱう
)
蜘蛛
(
くも
)
の
巣
(
す
)
の
如
(
ごと
)
く、
298
到
(
いた
)
る
所
(
ところ
)
に
暗渠
(
あんきよ
)
が
掘
(
ほ
)
つて
御座
(
ござ
)
いますから、
299
うつかりお
這入
(
はい
)
りになると
生命
(
いのち
)
がお
危
(
あぶ
)
なう
御座
(
ござ
)
いますぞ。
300
これ
程
(
ほど
)
広
(
ひろ
)
い
屋敷
(
やしき
)
でも、
301
安心
(
あんしん
)
して
歩行
(
ある
)
ける
所
(
ところ
)
は、
302
ホンの
帯
(
おび
)
程
(
ほど
)
より
有
(
あ
)
りませぬ。
303
それも
生憎
(
あひにく
)
東助殿
(
とうすけどの
)
が
絵図面
(
ゑづめん
)
を
持
(
も
)
つて
出
(
で
)
て
居
(
を
)
られるものですから、
304
私
(
わたし
)
達
(
たち
)
は
庭先
(
にはさき
)
だとて
迂濶
(
うつか
)
り
歩
(
ある
)
けないので
御座
(
ござ
)
います。
305
それ
丈
(
だけ
)
前
(
さき
)
に
御
(
ご
)
注意
(
ちうい
)
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げておきます』
306
虻公
(
あぶこう
)
『
日
(
ひ
)
の
出
(
で
)
の
神
(
かみ
)
の
天眼通
(
てんがんつう
)
様
(
さま
)
、
307
貴女
(
あなた
)
はよく
御存
(
ごぞん
)
じだらう。
308
サア、
309
トツトと
早
(
はや
)
くお
入
(
はい
)
りなされ』
310
高姫
(
たかひめ
)
は
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
んで
思案
(
しあん
)
に
暮
(
く
)
れ
乍
(
なが
)
ら、
311
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
祈願
(
きぐわん
)
を
凝
(
こ
)
らし
出
(
だ
)
した。
312
稍
(
やや
)
あつて
高姫
(
たかひめ
)
は、
313
高姫
『あゝ
此処
(
ここ
)
にはヤツパリ
居
(
を
)
りませぬワイ。
314
……サア
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
315
高山彦
(
たかやまひこ
)
さま、
316
一
(
いち
)
時
(
じ
)
も
早
(
はや
)
く
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
へ
参
(
まゐ
)
りませう。
317
彼
(
あ
)
の
方面
(
はうめん
)
に
三箇
(
さんこ
)
の
宝玉
(
ほうぎよく
)
が
現
(
あら
)
はれました。
318
私
(
わたし
)
の
天眼通
(
てんがんつう
)
にチヤンと
映
(
うつ
)
つた。
319
早
(
はや
)
く
往
(
ゆ
)
かないと
又
(
また
)
チヨロまかされると
大変
(
たいへん
)
だ』
320
お
百合
(
ゆり
)
『どうぞ、
321
さう
仰有
(
おつしや
)
らずと、
322
御
(
ご
)
ゆつくり
遊
(
あそ
)
ばしませ』
323
高姫
(
たかひめ
)
『ヘン
京
(
きやう
)
のお
茶漬
(
ちやづけ
)
は
措
(
お
)
いて
下
(
くだ
)
されや』
324
とプリンプリンと
肩
(
かた
)
や
尻
(
しり
)
を
互交
(
たがひちが
)
ひに
揺
(
ゆ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
325
磯端
(
いそばた
)
の
船
(
ふね
)
に
身
(
み
)
を
任
(
まか
)
せ、
326
アール、
327
エースの
両人
(
りやうにん
)
に
艪櫂
(
ろかい
)
を
操
(
あやつ
)
らせ、
328
一目散
(
いちもくさん
)
に
再度山
(
ふたたびやま
)
の
峰
(
みね
)
を
目標
(
めあて
)
に
漕
(
こ
)
いで
行
(
ゆ
)
く。
329
執着心
(
しふちやくしん
)
に
搦
(
からま
)
れて
330
玉
(
たま
)
を
抜
(
ぬ
)
かれた
高姫
(
たかひめ
)
や
331
黒姫
(
くろひめ
)
二人
(
ふたり
)
の
玉
(
たま
)
探
(
さが
)
し
332
太平洋
(
たいへいやう
)
の
彼方
(
あなた
)
まで
333
心
(
こころ
)
焦
(
いら
)
ちて
駆
(
か
)
け
出
(
い
)
だし
334
どう
探
(
さが
)
しても
玉
(
たま
)
無
(
な
)
しの
335
力
(
ちから
)
も
落
(
お
)
ちて
捨小舟
(
すてをぶね
)
336
高山彦
(
たかやまひこ
)
等
(
ら
)
と
五人
(
ごにん
)
連
(
づ
)
れ
337
折角
(
せつかく
)
永
(
なが
)
の
肝煎
(
きもい
)
りも
338
泡
(
あわ
)
と
消
(
き
)
えゆく
波
(
なみ
)
の
上
(
うへ
)
339
誠明石
(
まことあかし
)
の
向岸
(
むかふぎし
)
340
浪
(
なみ
)
の
淡路
(
あはぢ
)
の
島影
(
しまかげ
)
に
341
船
(
ふね
)
を
漕
(
こ
)
ぎつけ
東助
(
とうすけ
)
が
342
館
(
やかた
)
の
門
(
もん
)
に
走
(
は
)
せついて
343
虻
(
あぶ
)
と
蜂
(
はち
)
との
門番
(
もんばん
)
に
344
上
(
あ
)
げつ
下
(
おろ
)
しつ、
揶揄
(
からか
)
はれ
345
心
(
こころ
)
を
焦
(
いら
)
ちて
高姫
(
たかひめ
)
は
346
又
(
また
)
もや
玉
(
たま
)
に
執着
(
しふちやく
)
を
347
益々
(
ますます
)
強
(
つよ
)
く
起
(
お
)
こしつつ
348
再度山
(
ふたたびやま
)
の
山麓
(
さんろく
)
の
349
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
へと
急
(
いそ
)
ぎ
行
(
ゆ
)
く。
350
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
の
杢助館
(
もくすけやかた
)
には、
351
国依別
(
くによりわけ
)
、
352
秋彦
(
あきひこ
)
、
353
駒彦
(
こまひこ
)
の
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が、
354
臨時
(
りんじ
)
留守居
(
るすゐ
)
役
(
やく
)
として
扣
(
ひか
)
へて
居
(
ゐ
)
た。
355
国依別
(
くによりわけ
)
『
玉能姫
(
たまのひめ
)
さまも
此
(
この
)
館
(
やかた
)
をお
立
(
た
)
ちになつてから、
356
随分
(
ずゐぶん
)
月日
(
つきひ
)
も
経
(
た
)
つたが、
357
どうやら
今度
(
こんど
)
は
竜宮
(
りうぐう
)
の
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
から
結構
(
けつこう
)
な
宝
(
たから
)
を
受取
(
うけと
)
つて、
358
聖地
(
せいち
)
へお
帰
(
かへ
)
りになると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
だ。
359
何
(
いづ
)
れ
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
、
360
玉治別
(
たまはるわけ
)
も
一緒
(
いつしよ
)
だらう。
361
何時
(
いつ
)
までも
私
(
わたし
)
も
斯
(
か
)
うしては
居
(
を
)
られないから、
362
聖地
(
せいち
)
へお
迎
(
むか
)
へに
行
(
ゆ
)
かねばならぬから、
363
……
秋彦
(
あきひこ
)
さま、
364
駒彦
(
こまひこ
)
さまと
両人
(
りやうにん
)
で
此館
(
ここ
)
を
守
(
まも
)
つて
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さい。
365
直
(
すぐ
)
に
又
(
また
)
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
ますから、
366
……』
367
秋彦
(
あきひこ
)
『ハイ
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました。
368
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
万々一
(
まんまんいち
)
、
369
例
(
れい
)
の
高姫
(
たかひめ
)
一行
(
いつかう
)
が
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
て、
370
国依別
(
くによりわけ
)
さまは
何処
(
どこ
)
へ
行
(
い
)
つたと
尋
(
たづ
)
ねた
時
(
とき
)
には、
371
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つて
宜
(
よろ
)
しいか、
372
それを
聞
(
き
)
かして
置
(
お
)
いて
貰
(
もら
)
ひたいですなア』
373
国依別
(
くによりわけ
)
『
滅多
(
めつた
)
に
高姫
(
たかひめ
)
は
帰
(
かへ
)
つて
来
(
く
)
る
様
(
やう
)
な
事
(
こと
)
はあるまい。
374
併
(
しか
)
し
万一
(
まんいち
)
来
(
き
)
たならば、
375
一層
(
いつそう
)
の
事
(
こと
)
、
376
事実
(
じじつ
)
を
以
(
もつ
)
て
話
(
はな
)
すのだな』
377
秋彦
(
あきひこ
)
『そんな
事
(
こと
)
話
(
はな
)
さうものなら、
378
高姫
(
たかひめ
)
は
気違
(
きちがひ
)
になつて
了
(
しま
)
ひますよ。
379
三
(
みつ
)
つの
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
は
分
(
わか
)
らず、
380
それが
為
(
ため
)
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
になつて
居
(
ゐ
)
る
矢先
(
やさき
)
、
381
又
(
また
)
もや
結構
(
けつこう
)
な
五
(
いつ
)
つの
玉
(
たま
)
を、
382
同
(
おな
)
じ
竜宮島
(
りうぐうじま
)
から、
383
初稚姫
(
はつわかひめ
)
様
(
さま
)
や
玉能姫
(
たまのひめ
)
さまが
頂
(
いただ
)
いて
帰
(
かへ
)
つたのだと
言
(
い
)
はうものなら、
384
大変
(
たいへん
)
ですからなア』
385
駒彦
(
こまひこ
)
『オイ
秋彦
(
あきひこ
)
、
386
取越
(
とりこ
)
し
苦労
(
くらう
)
はせなくても
良
(
い
)
いよ。
387
其
(
その
)
時
(
とき
)
は
其
(
その
)
時
(
とき
)
の
事
(
こと
)
だ。
388
……
国依別
(
くによりわけ
)
さま、
389
何事
(
なにごと
)
も
刹那心
(
せつなしん
)
で
我々
(
われわれ
)
はやつてのけますから、
390
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
下
(
くだ
)
さつて、
391
どうぞ
一時
(
いつとき
)
も
早
(
はや
)
く
聖地
(
せいち
)
へお
迎
(
むか
)
へに
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
392
国依別
(
くによりわけ
)
『それぢや
安心
(
あんしん
)
して
参
(
まゐ
)
りませう』
393
と
話
(
はなし
)
して
居
(
ゐ
)
る。
394
窓
(
まど
)
を
透
(
す
)
かしてフト
外
(
そと
)
を
見
(
み
)
れば、
395
夜叉
(
やしや
)
の
様
(
やう
)
な
顔
(
かほ
)
した
高姫
(
たかひめ
)
、
396
黒姫
(
くろひめ
)
、
397
高山彦
(
たかやまひこ
)
外
(
ほか
)
二人
(
ふたり
)
、
398
此方
(
こなた
)
に
向
(
むか
)
つて
慌
(
あはただ
)
しく
進
(
すす
)
んで
来
(
く
)
る。
399
駒彦
(
こまひこ
)
『ヤア
国依別
(
くによりわけ
)
さま、
400
秋彦
(
あきひこ
)
、
401
あれを
見
(
み
)
よ。
402
呼
(
よ
)
ぶより
誹
(
そし
)
れだ。
403
高姫
(
たかひめ
)
が
血相
(
けつさう
)
変
(
か
)
へて
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
よつた。
404
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
斯
(
か
)
うして
居
(
ゐ
)
ると
面倒
(
めんだう
)
だから、
405
先
(
ま
)
づ
此
(
この
)
駒彦
(
こまひこ
)
が
瀬踏
(
せぶ
)
みを
致
(
いた
)
します。
406
あなた
方
(
がた
)
二人
(
ふたり
)
は
奥
(
おく
)
へ
這入
(
はい
)
つて、
407
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へて
居
(
を
)
つて
下
(
くだ
)
さい。
408
私
(
わたし
)
が
一
(
ひと
)
つ
談判
(
だんぱん
)
委員
(
ゐゐん
)
になりますから……サアサア
早
(
はや
)
く、
409
見
(
み
)
つけられぬ
内
(
うち
)
に……』
410
と
促
(
うなが
)
せば、
411
国依別
(
くによりわけ
)
、
412
秋彦
(
あきひこ
)
はニタリと
笑
(
わら
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
413
次
(
つぎ
)
の
間
(
ま
)
に
入
(
い
)
り、
414
火鉢
(
ひばち
)
を
中
(
なか
)
に
松葉
(
まつば
)
煙草
(
たばこ
)
を
燻
(
くす
)
べて
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へて
居
(
ゐ
)
た、
415
漸
(
やうや
)
く
近付
(
ちかづ
)
いて
来
(
き
)
た
高姫
(
たかひめ
)
、
416
表
(
おもて
)
の
戸
(
と
)
を
叩
(
たた
)
いて、
417
高姫
『モシモシ
頼
(
たの
)
みます』
418
中
(
なか
)
より
駒彦
(
こまひこ
)
はワザと
婆
(
ばば
)
アの
作
(
つく
)
り
声
(
ごゑ
)
をし、
419
駒彦
『
此
(
この
)
山中
(
さんちゆう
)
の
一
(
ひと
)
つ
家
(
や
)
を
叩
(
たた
)
くは、
420
水鶏
(
くいな
)
か、
421
狸
(
たぬき
)
か、
422
狐
(
きつね
)
か、
423
高姫
(
たかひめ
)
か……オツトドツコイ
鳶
(
とんび
)
か
真黒
(
まつくろ
)
黒姫
(
くろひめ
)
の
烏
(
からす
)
の
親方
(
おやかた
)
か、
424
ダ……ダ……ダ……
誰
(
たれ
)
だい』
425
外
(
そと
)
から
高姫
(
たかひめ
)
、
426
婆声
(
ばばごゑ
)
を
出
(
だ
)
して、
427
高姫
『
誰
(
たれ
)
でもない、
428
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
生宮
(
いきみや
)
だ。
429
早
(
はや
)
く
戸
(
と
)
を
開
(
あ
)
けぬか』
430
駒彦
(
こまひこ
)
『
今
(
いま
)
は
日
(
ひ
)
の
暮
(
くれ
)
だ、
431
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は
朝方
(
あさがた
)
に
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るものだ。
432
蝙蝠
(
かふもり
)
の
神
(
かみ
)
なれば
戸
(
と
)
を
開
(
あ
)
けてやるが、
433
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
なればマアマア
御免
(
ごめん
)
コウモリだよ。
434
オツホヽヽヽ』
435
高姫
(
たかひめ
)
『
此館
(
ここ
)
には
国依別
(
くによりわけ
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
ど
)
ハイカラが
留守番
(
るすばん
)
をして
居
(
ゐ
)
る
筈
(
はず
)
だが、
436
お
前
(
まへ
)
は
一体
(
いつたい
)
、
437
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
婆
(
ばば
)
アだ。
438
根
(
ね
)
つから
聞
(
き
)
き
慣
(
な
)
れぬ
声
(
こゑ
)
だが、
439
誰
(
たれ
)
に
頼
(
たの
)
まれて
不在
(
るす
)
の
家
(
いへ
)
を
占領
(
せんりやう
)
して
居
(
ゐ
)
るのだ』
440
駒彦
(
こまひこ
)
『オツホヽヽヽ、
441
私
(
わし
)
かいな。
442
私
(
わし
)
は
国依別
(
くによりわけ
)
の
妾
(
めかけ
)
だ。
443
雀百
(
すずめひやく
)
まで
牡鳥
(
をんどり
)
忘
(
わす
)
れぬと
云
(
い
)
うて、
444
棺桶
(
くわんをけ
)
へ
片足
(
かたあし
)
を
突込
(
つつこ
)
んで
居
(
を
)
る
鰕腰
(
えびごし
)
の
婆
(
ばば
)
アでも、
445
姑
(
しうとめ
)
の
十八
(
じふはち
)
を
言
(
い
)
ふぢやないが、
446
昔
(
むかし
)
は
随分
(
ずゐぶん
)
あちらからも
此方
(
こちら
)
からも
袖
(
そで
)
を
引
(
ひ
)
かれ、
447
引
(
ひ
)
く
手
(
て
)
数多
(
あまた
)
の
花菖蒲
(
はなあやめ
)
、
448
それはそれは
随分
(
ずゐぶん
)
もてたものだよ。
449
残
(
のこ
)
りの
色香
(
いろか
)
は
棄
(
す
)
て
難
(
がた
)
く、
450
どこやら、
451
好
(
い
)
い
匂
(
にほ
)
ひがあると
見
(
み
)
えて、
452
色
(
いろ
)
の
道
(
みち
)
には
苦労
(
くらう
)
をなされた
国依別
(
くによりわけ
)
さまが、
453
ゾツコンわたしに
惚込
(
ほれこ
)
んで
五十
(
ごじふ
)
も
違
(
ちが
)
ふ
年
(
とし
)
をし
乍
(
なが
)
ら
朝
(
あさ
)
から
晩
(
ばん
)
まで
大事
(
だいじ
)
にして
下
(
くだ
)
さるのだ。
454
思
(
おも
)
へば
思
(
おも
)
へば
私
(
わし
)
の
様
(
やう
)
な
運
(
うん
)
の
好
(
よ
)
い
者
(
もの
)
が
何処
(
どこ
)
にあらうか。
455
男
(
をとこ
)
やもめ
に
蛆
(
うぢ
)
が
湧
(
わ
)
くと
云
(
い
)
ふが、
456
女
(
をんな
)
やもを
程
(
ほど
)
結構
(
けつこう
)
なものはないワイの。
457
お
前
(
まへ
)
はどこの
婆
(
ばば
)
アだか
知
(
し
)
らぬが、
458
余程
(
よつぽど
)
よい
因果者
(
いんぐわもの
)
と
見
(
み
)
えて、
459
其
(
その
)
面
(
つら
)
は
何
(
なん
)
だい。
460
汐風
(
しほかぜ
)
に
吹
(
ふ
)
かれ
顔
(
かほ
)
の
色
(
いろ
)
は
真黒
(
まつくろ
)
け、
461
何方
(
どちら
)
が
黒姫
(
くろひめ
)
だか、
462
アカ
姫
(
ひめ
)
だかテント
見当
(
けんたう
)
の
取
(
と
)
れぬお
仕組
(
しぐみ
)
だ。
463
オツホヽヽヽ。
464
お
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
様
(
さま
)
乍
(
なが
)
ら、
465
婆
(
ばば
)
ア
一人暮
(
ひとりぐら
)
し、
466
お
茶
(
ちや
)
一
(
ひと
)
つ
上
(
あ
)
げる
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
かぬから、
467
トツトと
帰
(
かへ
)
つて
下
(
くだ
)
され』
468
高姫
(
たかひめ
)
は
戸
(
と
)
の
節穴
(
ふしあな
)
から
一寸
(
ちよつと
)
中
(
なか
)
を
覗
(
のぞ
)
き、
469
高姫
『
日
(
ひ
)
の
暮
(
く
)
れの
事
(
こと
)
とて
確実
(
はつきり
)
は
分
(
わか
)
らぬがお
前
(
まへ
)
は
婆
(
ばば
)
アの
仮声
(
こわいろ
)
を
使
(
つか
)
つて
居
(
ゐ
)
るが
男
(
をとこ
)
ぢやないか。
470
チツと
怪
(
あや
)
しいと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
た。
471
白状
(
はくじやう
)
せぬかい。
472
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
眼
(
め
)
を
晦
(
くら
)
ます
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
やしないぞ』
473
駒彦
(
こまひこ
)
ヤツパリ
婆
(
ばば
)
の
仮声
(
こわいろ
)
を
出
(
だ
)
して、
474
駒彦
『
言霊
(
ことたま
)
は
女
(
をんな
)
で
体
(
からだ
)
は
男
(
をとこ
)
だ。
475
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
の
根本
(
こんぽん
)
の
生粋
(
きつすゐ
)
の
神国魂
(
やまとだましひ
)
の
御
(
おん
)
身魂
(
みたま
)
だよ』
476
高姫
(
たかひめ
)
『ヘンお
前
(
まへ
)
は
元
(
もと
)
は
馬公
(
うまこう
)
と
云
(
い
)
つた
駒彦
(
こまひこ
)
だらう。
477
馬
(
うま
)
い
事
(
こと
)
言
(
い
)
つて
私
(
わたし
)
達
(
たち
)
を
駒
(
こま
)
らさうと
思
(
おも
)
つても、
478
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
は……ヘン、
479
そんな
事
(
こと
)
では
困
(
こま
)
りませぬワイ。
480
グヅグヅ
申
(
まを
)
さずに、
481
サツサと
開
(
あ
)
けなされ』
482
駒彦
(
こまひこ
)
『アツハヽヽヽ、
483
とうと
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
に
発見
(
はつけん
)
せられました。
484
……
叩
(
たた
)
けば
開
(
ひら
)
く
門
(
かど
)
の
口
(
くち
)
。
485
叩
(
たた
)
いて
分
(
わか
)
る
俺
(
おれ
)
の
口
(
くち
)
。
486
サツパリ
化
(
ば
)
けが
現
(
あら
)
はれたか。
487
三千
(
さんぜん
)
世界
(
せかい
)
の
大化物
(
おほばけもの
)
も
薩張
(
さつぱり
)
駄目
(
だめ
)
だ』
488
と
無駄口
(
むだぐち
)
を
叩
(
たた
)
き
乍
(
なが
)
ら、
489
ガラリと
戸
(
と
)
を
押開
(
おしあ
)
け、
490
駒彦
(
こまひこ
)
は
腰
(
こし
)
を
屈
(
かが
)
め、
491
揉
(
も
)
み
手
(
て
)
をし
乍
(
なが
)
ら
女
(
をんな
)
の
声
(
こゑ
)
を
使
(
つか
)
ひ、
492
駒彦
『これはこれは
三五教
(
あななひけう
)
にて
隠
(
かく
)
れなき
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
の
高
(
たか
)
き、
493
変性
(
へんじやう
)
男子
(
なんし
)
の
系統
(
ひつぽう
)
の
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
494
黒姫
(
くろひめ
)
様
(
さま
)
、
495
高山彦
(
たかやまひこ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
一行
(
いつかう
)
、
496
よくよくお
訪
(
たづ
)
ね
下
(
くだ
)
さいました、
497
私
(
わたし
)
は
若彦
(
わかひこ
)
の
妻
(
つま
)
玉能姫
(
たまのひめ
)
と
申
(
まを
)
す
者
(
もの
)
、
498
何時
(
いつ
)
も
何時
(
いつ
)
も
結構
(
けつこう
)
な
御
(
ご
)
教訓
(
けうくん
)
を
賜
(
たま
)
はりまして
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
ります。
499
紀州
(
きしう
)
に
於
(
おい
)
て
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
に
夫婦
(
ふうふ
)
対面
(
たいめん
)
の
所
(
ところ
)
を
見付
(
みつ
)
けられ、
500
イヤモウ
赤面
(
せきめん
)
を
致
(
いた
)
しました。
501
オツホヽヽヽ』
502
高姫
(
たかひめ
)
『コレ
駒彦
(
こまひこ
)
さま、
503
人
(
ひと
)
を
馬鹿
(
ばか
)
にするのかい。
504
大
(
おほ
)
きな
口
(
くち
)
を
無理
(
むり
)
におチヨボ
口
(
ぐち
)
にしたり、
505
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
仮声
(
こわいろ
)
を
使
(
つか
)
つて
何
(
なん
)
の
態
(
ざま
)
だ。
506
婆
(
ばば
)
になつたり、
507
娘
(
むすめ
)
になつたり、
508
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
はチツとどうかしとりますな』
509
駒彦
『ハイ、
510
大
(
おほい
)
にどうかしとります。
511
何分
(
なにぶん
)
三箇
(
さんこ
)
の
玉
(
たま
)
は
紛失
(
ふんしつ
)
致
(
いた
)
し、
512
玉能姫
(
たまのひめ
)
に、
513
折角
(
せつかく
)
御用
(
ごよう
)
を
承
(
うけたま
)
はり
乍
(
なが
)
ら、
514
蛸
(
たこ
)
の
揚壺
(
あげつぼ
)
を
喰
(
く
)
はされ、
515
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
又
(
また
)
五
(
いつ
)
つの
玉
(
たま
)
が
聖地
(
せいち
)
に
這入
(
はい
)
つたとやら
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
、
516
それで
此
(
この
)
駒彦
(
こまひこ
)
も
気
(
き
)
が
気
(
き
)
でならず
心配
(
しんぱい
)
をして
居
(
ゐ
)
ると、
517
最前
(
さいぜん
)
の
様
(
やう
)
に
黒姫
(
くろひめ
)
とか
云
(
い
)
ふ
婆
(
ばば
)
アの
霊
(
れい
)
が
憑
(
うつ
)
つたり、
518
玉能姫
(
たまのひめ
)
の
霊
(
れい
)
が
憑
(
うつ
)
つたり、
519
時々
(
じじ
)
刻々
(
こくこく
)
に
声
(
こゑ
)
までが
変
(
かは
)
ります。
520
ハイハイ
誠
(
まこと
)
に
面目
(
めんぼく
)
次第
(
しだい
)
も
御座
(
ござ
)
りませぬワイ。
521
アツハヽヽヽ』
522
と
肩
(
かた
)
を
揺
(
ゆす
)
る。
523
黒姫
(
くろひめ
)
は、
524
黒姫
『お
前
(
まへ
)
さまは
黒姫
(
くろひめ
)
の
霊
(
れい
)
が
憑
(
うつ
)
つたと
仰有
(
おつしや
)
つたが、
525
それは
誰
(
たれ
)
の
事
(
こと
)
ですか。
526
聞捨
(
ききずて
)
ならぬ
今
(
いま
)
のお
言葉
(
ことば
)
…』
527
と
鼻息
(
はないき
)
を
荒
(
あら
)
くする。
528
駒彦
『
駒彦
(
こまひこ
)
の
身魂
(
みたま
)
は
神
(
かみ
)
が
御用
(
ごよう
)
に
使
(
つか
)
ふて
居
(
ゐ
)
るから、
529
イロイロの
霊魂
(
みたま
)
が
憑
(
うつ
)
るぞよ。
530
駒彦
(
こまひこ
)
が
申
(
まを
)
しても
駒彦
(
こまひこ
)
が
云
(
い
)
ふのでないぞよ。
531
口
(
くち
)
を
借
(
か
)
る
計
(
ばか
)
りであるぞよ。
532
駒彦
(
こまひこ
)
を
恨
(
うら
)
めて
下
(
くだ
)
さるなよ。
533
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
の
仕組
(
しぐみ
)
であるぞよ。
534
駒彦
(
こまひこ
)
は
何
(
なん
)
にも
知
(
し
)
らず…ウンウン』
535
ドスン、
536
バタンと
飛
(
と
)
びあがつて
見
(
み
)
せた。
537
黒姫
(
くろひめ
)
『エー
馬鹿
(
ばか
)
にしなさるな。
538
併
(
しか
)
し
此
(
この
)
館
(
やかた
)
はお
前
(
まへ
)
一人
(
ひとり
)
かな』
539
駒彦
(
こまひこ
)
『
一人
(
ひとり
)
と
言
(
い
)
へば
一人
(
ひとり
)
、
540
大勢
(
おほぜい
)
と
言
(
い
)
へばマア
大勢
(
おほぜい
)
だ』
541
黒姫
(
くろひめ
)
『
其
(
その
)
大勢
(
おほぜい
)
は
何処
(
どこ
)
に
居
(
を
)
るのだい』
542
駒彦
(
こまひこ
)
『
何
(
なに
)
を
言
(
い
)
うても
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
容器
(
いれもの
)
に
造
(
つく
)
られた
此
(
この
)
肉体
(
にくたい
)
、
543
天津
(
あまつ
)
神
(
かみ
)
、
544
国津
(
くにつ
)
神
(
かみ
)
、
545
八百万
(
やほよろづ
)
の
神
(
かみ
)
が
出入
(
でい
)
り
遊
(
あそ
)
ばす
駒彦
(
こまひこ
)
の
肉
(
にく
)
の
宮
(
みや
)
、
546
チヨコチヨコ
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
もおいで
遊
(
あそ
)
ばすなり、
547
竜宮
(
りうぐう
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
さまもチヨコチヨコ
見
(
み
)
えますぞよ。
548
真
(
まこと
)
の
乙姫
(
おとひめ
)
は
此
(
この
)
頃
(
ごろ
)
は
駒彦
(
こまひこ
)
の
肉
(
にく
)
の
宮
(
みや
)
に
宿換
(
やどがへ
)
を
致
(
いた
)
したぞよ……と
仰有
(
おつしや
)
つて
結構
(
けつこう
)
な
玉
(
たま
)
を
見
(
み
)
せて
下
(
くだ
)
さいますワイ。
549
ここにも
現
(
げん
)
に
天
(
てん
)
火
(
くわ
)
水
(
すゐ
)
地
(
ち
)
結
(
けつ
)
の
五
(
いつ
)
つの
玉
(
たま
)
が、
550
ヤツパリ……ヤツパリぢやつた。
551
マア
言
(
い
)
はぬが
花
(
はな
)
ですかいな』
552
高姫
(
たかひめ
)
得意顔
(
したりがほ
)
になり、
553
高姫
『それ、
554
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
555
高山彦
(
たかやまひこ
)
さま、
556
私
(
わたし
)
の
天眼通
(
てんがんつう
)
は
違
(
ちが
)
ひますまい。
557
キツと
生田
(
いくた
)
の
森
(
もり
)
に
隠
(
かく
)
して
有
(
あ
)
るに
違
(
ちが
)
ひないと
言
(
い
)
つたぢやありませぬか。
558
東助館
(
とうすけやかた
)
にグヅグヅして
居
(
ゐ
)
ようものなら
又
(
また
)
後
(
あと
)
の
祭
(
まつり
)
になる
所
(
ところ
)
だつたが、
559
斯
(
か
)
う
自分
(
じぶん
)
の
口
(
くち
)
から
白状
(
はくじやう
)
した
以上
(
いじやう
)
は、
560
てつきり
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
は
此
(
この
)
館
(
やかた
)
に
間違
(
まちがひ
)
ない。
561
……サア
駒彦
(
こまひこ
)
、
562
モウ
叶
(
かな
)
はぬ。
563
綺麗
(
きれい
)
サツパリと
其
(
その
)
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
を
系統
(
ひつぽう
)
の
肉体
(
にくたい
)
にお
明
(
あ
)
かしなされ』
564
駒彦
(
こまひこ
)
『
玉
(
たま
)
の
所在
(
ありか
)
は
竜宮島
(
りうぐうじま
)
の
諏訪
(
すは
)
の
湖
(
みづうみ
)
、
565
玉依姫
(
たまよりひめの
)
命
(
みこと
)
さまが、
566
モウ
時節
(
じせつ
)
が
到来
(
たうらい
)
したから、
567
身魂
(
みたま
)
の
立派
(
りつぱ
)
な
守護神
(
しゆごじん
)
に
渡
(
わた
)
したい
渡
(
わた
)
したいと
仰有
(
おつしや
)
るので、
568
玉照姫
(
たまてるひめ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
に
依
(
よ
)
り、
569
言依別
(
ことよりわけの
)
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から、
570
東助
(
とうすけ
)
さまや
国依別
(
くによりわけ
)
さまに……お
前
(
まへ
)
受取
(
うけと
)
りに
往
(
い
)
つて
来
(
こ
)
んか……と
云
(
い
)
つて
御
(
ご
)
命令
(
めいれい
)
が
下
(
くだ
)
つたさうです、
571
私
(
わたし
)
も
御用
(
ごよう
)
に
行
(
ゆ
)
きたいのだが
怪体
(
けつたい
)
の
悪
(
わる
)
い、
572
留守番
(
るすばん
)
を
命
(
めい
)
ぜられ、
573
指
(
ゆび
)
を
啣
(
くは
)
へて
人
(
ひと
)
の
手柄
(
てがら
)
を
遠
(
とほ
)
い
所
(
ところ
)
から
傍観
(
ばうくわん
)
して
居
(
ゐ
)
るのだ。
574
本当
(
ほんたう
)
に
羨
(
うらや
)
ましい
事
(
こと
)
だワイな』
575
高姫
(
たかひめ
)
『そりや
又
(
また
)
本当
(
ほんたう
)
かい。
576
モウ
既
(
すで
)
に
聖地
(
せいち
)
へ
納
(
をさ
)
まつたと
云
(
い
)
ふぢやないか』
577
駒彦
『
何分
(
なにぶん
)
、
578
時間
(
じかん
)
空間
(
くうかん
)
を
超越
(
てうゑつ
)
した
神界
(
しんかい
)
の
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
だから、
579
過去
(
くわこ
)
とも
未来
(
みらい
)
とも
現在
(
げんざい
)
とも、
580
サツパリ
凡夫
(
ぼんぶ
)
の
我々
(
われわれ
)
にや
分
(
わか
)
りませぬワイ。
581
アツハヽヽヽ』
582
高姫
(
たかひめ
)
『どうやら
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
人
(
ひと
)
の
気配
(
けはい
)
がする。
583
煙草
(
たばこ
)
を
吸
(
す
)
うて
居
(
を
)
るのか、
584
煙管
(
きせる
)
で
火鉢
(
ひばち
)
をポンポン
喰
(
くら
)
はして
居
(
ゐ
)
るぢやないか。
585
松葉
(
まつば
)
臭
(
くさ
)
い
薫
(
かをり
)
がして
来出
(
きだ
)
した。
586
誰
(
たれ
)
が
居
(
ゐ
)
るのだ、
587
白状
(
はくじやう
)
なされ』
588
駒彦
『ハイ
鼠
(
ねずみ
)
が
二三匹
(
にさんびき
)
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
暴
(
あば
)
れて
居
(
ゐ
)
るのでせう』
589
高姫
『それでも
煙
(
けむり
)
が
出
(
で
)
るぢやないか』
590
駒彦
『
鼠
(
ねずみ
)
が
煙草
(
たばこ
)
を
吸
(
す
)
うて
居
(
ゐ
)
るのでせうかい』
591
高姫
(
たかひめ
)
はスタスタと
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
の
襖
(
ふすま
)
を
引
(
ひ
)
き
開
(
あ
)
けて
飛
(
と
)
びこみ、
592
二人
(
ふたり
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
593
高姫
『これはしたり、
594
国依別
(
くによりわけ
)
、
595
秋彦
(
あきひこ
)
の
両人
(
りやうにん
)
、
596
卑怯
(
ひけふ
)
千万
(
せんばん
)
にも
不在
(
るす
)
を
使
(
つか
)
ひ、
597
奥
(
おく
)
の
間
(
ま
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
し、
598
我々
(
われわれ
)
を
邪魔者
(
じやまもの
)
扱
(
あつかひ
)
になさるのかーツ』
599
と
言葉尻
(
ことばじり
)
に
力
(
ちから
)
を
入
(
い
)
れ、
600
角
(
かど
)
を
立
(
た
)
てて
呶鳴
(
どな
)
りつけた。
601
国依別
(
くによりわけ
)
は
杢助流
(
もくすけりう
)
にグレンと
仰向
(
あふむ
)
けにひつくり
返
(
かへ
)
り、
602
手
(
て
)
と
足
(
あし
)
を
上
(
うへ
)
の
方
(
はう
)
にニユウと
伸
(
の
)
ばし、
603
国依別
『チユウ チユウ チユウ』
604
と
鼠
(
ねずみ
)
の
鳴
(
な
)
き
声
(
ごゑ
)
をして
見
(
み
)
せる。
605
秋彦
(
あきひこ
)
は
亦
(
また
)
グレンと
転倒
(
ひつくりかへ
)
り、
606
同
(
おな
)
じく
手足
(
てあし
)
を
天井
(
てんじやう
)
の
方
(
はう
)
へニユウと
伸
(
の
)
ばし、
607
秋彦
『クツクツ キユツ キユツ キユツ』
608
と
脇
(
わき
)
の
下
(
した
)
に
笑
(
わら
)
ひを
抑
(
おさ
)
へて
居
(
ゐ
)
る。
609
高姫
(
たかひめ
)
は、
610
高姫
『
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふ
不作法
(
ぶさはふ
)
な
事
(
こと
)
をなさるのだ。
611
四足
(
よつあし
)
の
真似
(
まね
)
をしたりして、
612
本
(
ほん
)
守護神
(
しゆごじん
)
が
現
(
あら
)
はれたのだ。
613
アヽ
隠
(
かく
)
されぬものだ。
614
身魂
(
みたま
)
と
云
(
い
)
ふものは……
日
(
ひ
)
の
出神
(
でのかみ
)
の
御
(
ご
)
威光
(
ゐくわう
)
に
照
(
て
)
らされて、
615
此
(
この
)
憐
(
あは
)
れな
態
(
ざま
)
、
616
斯
(
こ
)
んな
身魂
(
みたま
)
を
言依別
(
ことよりわけ
)
の
奴
(
ど
)
ハイカラが
信用
(
しんよう
)
して
居
(
ゐ
)
るのだから……
本当
(
ほんたう
)
に
悲
(
かな
)
しくなつて
来
(
き
)
た。
617
幹部
(
かんぶ
)
の
奴
(
やつ
)
は
色盲
(
しきまう
)
計
(
ばか
)
りだから、
618
人物
(
じんぶつ
)
を
視
(
み
)
る
目
(
め
)
が
無
(
な
)
いから
困
(
こま
)
つたものだ。
619
誠
(
まこと
)
のものは
排斥
(
はいせき
)
され、
620
斯
(
こ
)
んな
者
(
もの
)
が
雪隠虫
(
せんちむし
)
の
高上
(
たかあが
)
りをするのだからなア』
621
国依別
(
くによりわけ
)
『チウ チウ チウ』
622
秋彦
(
あきひこ
)
『クウ クウ クウ』
623
国依別
(
くによりわけ
)
『サツパリ………
身魂
(
みたま
)
がチウクウに
迷
(
まよ
)
うて
居
(
ゐ
)
るワイの、
624
ウツフヽヽヽ。
625
キユツ キユツ キユツ キユツ』
626
と
体
(
からだ
)
一面
(
いちめん
)
に
笑
(
わら
)
ひを
忍
(
しの
)
んで、
627
波
(
なみ
)
を
打
(
う
)
たせて
居
(
ゐ
)
る。
628
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ
黒姫
(
くろひめ
)
さま、
629
高山彦
(
たかやまひこ
)
さま、
630
一寸
(
ちよつと
)
来
(
き
)
て
御覧
(
ごらん
)
、
631
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
が
出来
(
しゆつたい
)
致
(
いた
)
しました。
632
天
(
てん
)
が
地
(
ち
)
となり、
633
地
(
ち
)
が
天
(
てん
)
となり、
634
サツパリ
身魂
(
みたま
)
の
性来
(
しやうらい
)
が
現
(
あら
)
はれて、
635
足
(
あし
)
が
上
(
うへ
)
になつて
歩
(
ある
)
く
人間
(
にんげん
)
が
現
(
あら
)
はれました。
636
どうぞ
皆
(
みな
)
さま、
637
やつて
来
(
き
)
て
天津
(
あまつ
)
祝詞
(
のりと
)
を
奏上
(
そうじやう
)
し、
638
元
(
もと
)
の
人間
(
にんげん
)
になる
様
(
やう
)
に
拝
(
をが
)
んでやつて
下
(
くだ
)
さい。
639
あゝ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
、
640
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
641
と
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
さうな
顔
(
かほ
)
して、
642
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
祈願
(
きぐわん
)
をこめて
居
(
ゐ
)
る。
643
(
大正一一・七・一二
旧閏五・一八
松村真澄
録)
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