霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第六章 月見(つきみ)(えん)〔二〇三三〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻 篇:第1篇 伊佐子の島 よみ(新仮名遣い):いさごのしま
章:第6章 月見の宴 よみ(新仮名遣い):つきみのえん 通し章番号:2033
口述日:1934(昭和9)年08月05日(旧06月25日) 口述場所:伊豆別院 筆録者:谷前清子 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年12月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
イドム国を手に入れたサール国王エールスは、風光明媚なイドム城に妃や重臣たちを集め、宴を開いていた。
述懐の歌を歌う中に、左守のチクターは、王を主の神と称え、重臣を高鉾・神鉾の天津神になぞらえて王を賞賛した。
右守のナーリスは左守の行き過ぎた言葉を戒めるが、逆に王の不興を買ってしまう。王は右守に、本国を守るように言いつけてサール国に帰し、厄介払いしてしまう。
忠臣でうるさがたの右守がいなくなった後は、左守チクター、軍師エーマンらの奸臣のみが残ることとなった。重臣たちは国務を忘れて、王、王妃とともに詩歌管弦・酒宴の歓楽にふけっていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm8106
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 454頁 修補版: 校定版:123頁 普及版: 初版: ページ備考:
001 イドムの(しろ)風光(ふうくわう)絶佳(ぜつか)勝地(しようち)にして、002東北(とうほく)(なが)るる水乃川(みなのがは)大栄山(おほさかやま)溪々(たにだに)(なが)れを(あつ)めて川幅(かははば)(ひろ)淙々(そうそう)たり。
003 サールの国王(こくわう)エールスは、004大栄山(おほさかやま)()()え、005大兵(たいへい)(ひき)ゐて不意(ふい)にイドム(じやう)占領(せんりやう)し、006数多(あまた)従神(じうしん)(とも)此処(ここ)()みけるが、007大栄山(おほさかやま)北面(ほくめん)のサールの(くに)風光(ふうくわう)(くら)べて()心地(ここち)よく、008春夏(しゆんか)秋冬(しうとう)(あたか)花園(はなぞの)()心地(ここち)して、009地上(ちじやう)天国(てんごく)生活(せいくわつ)(たの)しみける。
010 (つき)蒼空(あをぞら)皎々(かうかう)として(かがや)き、011(むし)()(すが)しき(ゆふ)べ、012水乃川(みなのがは)(めん)せる大殿(おほとの)(まど)()(ひら)き、013(かは)(おもて)瞰下(かんか)しながら、014軍師(ぐんし)(はじ)左守(さもり)015右守(うもり)その()重臣(ぢうしん)(たち)月見(つきみ)(えん)(ひら)き、016水乃川(みなのがは)水面(すゐめん)(うか)(つき)をほめながら、017恍惚(くわうこつ)として美酒(びしゆ)美食(びしよく)にあきゐたりける。
018 エールス(わう)水乃川(みなのがは)(よる)(なが)れを()やりながら(うた)ふ。
019(きた)(くに)サールの(みやこ)()()でて
020イドムの(しろ)(われ)(さけ)()
021(はる)もよし(なつ)(また)よし(あき)もよし
022イドムの(くに)地上(ちじやう)天国(てんごく)
023イドム(じやう)(あるじ)アヅミを()()らし
024武勇(ぶゆう)天下(てんか)(あら)はしにけり
025(わが)武勇(ぶゆう)伊佐子(いさご)(しま)(つた)はりて
026四方(よも)木草(きくさ)(われ)になびけり
027村肝(むらきも)(こころ)にかかるは月光(つきみつ)
028(やま)にひそめるアヅミ(わう)なり
029()(しば)(もも)(いくさ)をととのへて
030月光山(つきみつやま)(とりで)をはふらむ
031真珠(しんじゆ)(なみだ)(つく)真珠湖(しんじゆこ)
032人魚(にんぎよ)をとりてなぐさまむかな
033水乃川(みなのがは)(なが)るる月日(つきひ)(かげ)()れば
034真珠(しんじゆ)(たま)にさも()たるかな
035(やま)()(あを)(すが)しく(とり)(こゑ)
036(むし)()()ゆるイドムの(しろ)かも
037()(なか)(たの)しきものは(くに)ひろめ
038(いくさ)(みち)勝利(しようり)なりけり
039(われ)(いま)伊佐子(いさご)(しま)()(まも)
040国津神(くにつかみ)()(きみ)となりけり』
041 サツクス(ひめ)(うた)ふ。
042(わが)(きみ)謀計(はかりごと)(みな)()(あた)
043イドムの(しろ)吾手(わがて)()れり
044春夏(はるなつ)(なが)(たへ)なるこの(くに)
045(あるじ)とならす(きみ)雄々(をを)しさ
046アヅミ(わう)(ゆめ)(さま)して水乃川(みなのがは)
047(しづ)かに(うか)(つき)()のかげ
048魚族(うろくづ)(あそ)べる(さま)(あき)らかに
049この高殿(たかどの)()ゆる広川(ひろかは)
050真珠湖(しんじゆこ)人魚(にんぎよ)をとりてこの(かは)
051(はな)ちて()れば面白(おもしろ)かるらむ
052さるにてもアヅミの(わう)(かなら)ずや
053イドムの(しろ)(うかが)ひゐるらむ
054アヅミ(わう)(とりで)をはふり月光(つきみつ)
055(やま)()はずば(こころ)もとなし
056(よる)されば(まくら)(たか)(やす)らかに
057(いね)むと(おも)へばアヅミ(わう)(ほろ)ぼせ
058(ゆた)かなるイドムの(くに)月光(つきみつ)
059(やま)(とりで)黒雲(くろくも)(まよ)
060(つき)()もさはやかに()るイドムの(くに)
061黒雲(くろくも)なるよ月光山(つきみつやま)は』
062 左守(さもり)チクターは(うた)ふ。
063天ケ下(あめがした)風致(ふうち)にとめるイドム(じやう)
064(きみ)(さけ)()今宵(こよひ)(たの)しさ
065(つき)()(きよ)(なが)るる水乃川(みなのがは)
066瞰下(みおろ)すこれの(やかた)めでたき
067(つき)()真下(ました)(なが)るるこの(しろ)
068紫微(しび)宮居(みやゐ)にまがふべらなる
069紫微(しび)(みや)如何(いか)(すが)しくありとても
070イドムの(しろ)(およ)ばざるべし
071(わが)(きみ)()大神(おほかみ)左守(さもり)(われ)
072高鉾(たかほこ)(かみ)右守(うもり)神鉾(かみほこ)
073()(かみ)高鉾(たかほこ)神鉾(かみほこ)二柱(ふたはしら)
074(したが)へイドムの(しろ)天降(あも)らせり
075かかる()にかかる目出度(めでた)(くに)()
076四海(しかい)(のぞ)(きみ)()(かみ)
077 右守(うもり)のナーリスは(うた)ふ。
078心得(こころえ)左守(さもり)チクターの言葉(ことば)かな
079(かみ)無視(なみ)せることの(おそ)ろし
080(ひと)(くに)(ちから)(うば)ひほこらかに
081(かみ)(なぞら)ふは(おそ)(おほ)きよ
082()(かみ)(いつ)(まつ)りて朝夕(あさゆふ)
083(つか)へざりせば(くに)(ほろ)びむ
084エールスの(わが)(きみ)(はじ)めチクター()
085(こころ)かへずば(あやま)ちあらむ
086(わが)言葉(ことば)(うべな)(たま)ひて今日(けふ)よりは
087()大神(おほかみ)(うやま)(たま)
088(きみ)()にイドムの(しろ)()りたれど
089()だゑらぐべき(とき)(きた)らじ
090国津(くにつ)(かみ)(こころ)(いま)(わが)(きみ)
091(こころ)のままに(したが)はざるべし
092(わが)(きみ)威力(ゐりよく)(ふく)したるのみぞ
093(こころ)(そこ)より(まつろ)()らじ
094この(しろ)(うつく)しけれど国津(くにつ)(かみ)
095(うらみ)(まと)となりしを()らずや』
096 エールス(わう)憤然(ふんぜん)として面色(かほいろ)()へながら(うた)ふ。
097『ナーリスの(ゐや)なき言葉(ことば)()くにつけ
098(わが)心持(こころもち)(とが)()めたり
099大栄山(おほさかやま)(けん)()えたる(われ)なれば
100(なれ)言葉(ことば)杞憂(きいう)なるべし
101イドム(じやう)(われ)にかなへりとこしへに
102これの勝地(しようち)()まむと(おも)
103村肝(むらきも)(こころ)にかかるは故郷(ふるさと)
104サールの(くに)吾子(わがこ)(おも)へり
105明日(あす)よりはサールの(くに)()(かへ)
106(しろ)をかためて(かた)(まも)れよ
107諸々(もろもろ)(つかさ)(つか)ねナーリスは
108サールの(くに)(やす)きを(まも)
109この(くに)左守(さもり)のチクター、エーマンの
110軍師(ぐんし)のあれば(やす)けかるらむ』
111 右守(うもり)のナーリスは(うた)ふ。
112(わが)(きみ)御言(みこと)(かしこ)(いま)よりは
113サールの(くに)(いそ)(かへ)らむ
114(わが)(きみ)よサツクス(ひめ)よゆるみなく
115イドムの(くに)(のぞ)ませ(たま)
116(きみ)()(おそ)れて数多(あまた)(つかさ)()
117(こころ)ならずも(したが)()るぞや
118すきあらば(もも)(つかさ)()(あが)
119(きみ)(おそ)はむと(はか)らひ()るも
120村肝(むらきも)(こころ)(おご)りて(おも)はざる
121なやみに()はせ(たま)ふまじ(きみ)
122 エーマンは(うた)ふ。
123(わが)(きみ)(いくさ)(ひき)(やうや)くに
124イドムの(くに)(まつろ)へやはしぬ
125(わが)(きみ)御稜威(みいづ)(われ)()軍略(ぐんりやく)
126イドムの(しろ)(おちい)りにけり
127イドム(わう)アヅミの(けらい)数多(かずおほ)
128ひそみてあれば(こころ)(ゆる)せじ
129さりながら軍師(ぐんし)エーマンのある(かぎ)
130(わが)(きみ)(やす)(おだひ)にましませ
131幾万(いくまん)(てき)一度(いちど)()()とも
132(わが)戦略(せんりやく)()ちこらし()む』
133 エールス(わう)欣然(きんぜん)として(うた)ふ。
134『エーマンの言葉(ことば)吾意(わがい)にかなひたり
135かたく(まも)れよイドムの(くに)
136()()なに(つき)(なが)るる水乃川(みなのがは)
137ながめて(われ)(さけ)()まむかな』
138 サツクス(ひめ)(うた)ふ。
139『エーマンの(いづ)言霊(ことたま)(いさ)ましし
140右守(うもり)(こころ)裏表(うらおもて)なる
141(あが)(きみ)(むね)をそこなふナーリスは
142(くに)(かへ)りて()(かた)めよや』
143 ナーリスは(うた)ふ。
144『いざさらば(くに)(かへ)らむ(わが)(きみ)
145いますイドムの(しろ)(はな)れて』
146 かくてナーリスはエールス(わう)(はじ)一同(いちどう)(いとま)()げ、147月下(げつか)原野(げんや)四五(しご)(にん)従者(じうしや)(とも)(うま)(むち)うち、148大栄山(おほさかやま)(いただき)さしてサールの故国(ここく)(かへ)らむと(いそ)ぎける。
149 エールス(わう)誠忠(せいちう)無比(むひ)なる右守(うもり)のナーリスが言葉(ことば)()(きら)ひ、150チクターやエーマンの奸佞(かんねい)邪智(じやち)なる贋忠臣(にせちうしん)言葉(ことば)(よろこ)び、151(つね)にナーリスに(たい)して心中(しんちう)おだやかならざりけるが、152(あま)住心地(すみごこち)よからぬサールの(くに)(まも)りとして右守(うもり)()(かへ)し、153故国(ここく)(まも)らしむることとなり、154右守(うもり)(とほ)膝下(ひざもと)(はな)大栄山(おほさかやま)()えて(かへ)りければ、155(わう)機嫌(きげん)はこの(うへ)なく、156昼夜(ちうや)区別(くべつ)なく国内(こくない)(うつく)しき女神(めがみ)(あつ)めて、157詩歌(しいか)管絃(くわんげん)快楽(けらく)(ふけ)(こと)となりぬ。
158 軍師(ぐんし)のエーマンも、159左守(さもり)のチクターも、160(とも)国務(こくむ)(わす)れて歓楽(くわんらく)(ふけ)り、161(あだか)もイドム(じやう)青楼(せいろう)(ごと)(かん)(てい)しけり。
162 満月(まんげつ)(そら)(かがや)(ゆふべ)163エールス(わう)はサツクス(ひめ)(はじ)め、164左守(さもり)のチクター、165軍師(ぐんし)エーマンその()(つかさ)一堂(いちだう)(あつ)め、166数多(あまた)美人(びじん)(しやく)をさせながら心地(ここち)よげに(うた)ふ。
167(ぼく)はサールの(みやこ)(あるじ)
168(いま)はイドムの(きみ)となる
169(つき)皎々(かうかう)青空(あをぞら)(わた)
170(われ)はいういう(さけ)()
171(つき)()かるる水乃(みなの)(かは)
172()つつ(さけ)()むイドム(じやう)
173右守(うもり)ナーリス故国(ここく)(かへ)
174(むね)雲霧(くもきり)()(わた)
175伊佐子(いさご)島根(しまね)(ふた)つに()ぎる
176大栄(おほさか)山脈(さんみやく)なけりやよい
177(やま)がなければサールが()える
178サール(こひ)しく(ひめ)(おも)
179(くに)(のこ)せし(しち)(にん)をとめ
180さぞや()つだろ(なげ)くだろ
181あまた(けらい)をサールに(のこ)
182(われ)はイドムの(しろ)()
183(そら)青々(あをあを)(そこ)ひも()れぬ
184(ほし)真砂(まさご)のきらきらと
185イドム城址(じやうし)のアヅミの(わう)
186生命(いのち)からがら月光山(つきみつやま)
187月光山(つきみつやま)にはアヅミがこもる
188どうで一度(いちど)涙雨(なみだあめ)
189人魚(にんぎよ)()むてふ真珠(しんじゆ)(うみ)
190うかぶ真珠(しんじゆ)(つき)(かげ)
191()にも名高(なだか)きイドムの(しろ)
192(いま)(われ)()()みどころ
193伊佐子(いさご)島根(しまね)(ひろ)しと()へど
194おなじ月日(つきひ)(かげ)(をが)む』
195(すこぶ)上機嫌(じやうきげん)である。
196 サツクス(ひめ)(また)(うた)ふ。
197真珠(しんじゆ)湖水(こすゐ)人魚(にんぎよ)をとりて
198真珠(しんじゆ)()かして(あそ)びたい
199(もち)(つき)()るこの高殿(たかどの)
200真珠(しんじゆ)みたよな(ほし)()
201(つき)()()御空(みそら)(たか)
202(のぼ)(のぼ)りて()()ける
203水乃川(みなのがは)河鹿(かじか)(こゑ)
204(きみ)威勢(ゐせい)をうたふてる
205(きみ)威勢(ゐせい)にイドムの(しろ)
206()ちて(すず)しき(つき)()
207野辺(のべ)()()夏夜(なつよ)(かぜ)
208のりて()()(むし)(こゑ)
209(はな)(かを)りは()夏風(なつかぜ)
210(しろ)(なか)まで()いて()
211(はる)(はな)()(なつ)さり()れば
212(つき)()みきるイドム(じやう)
213(つき)(なが)るる水乃(みなの)(かは)
214(あした)(ゆふ)べに(むし)()
215(きよ)(なが)れの水乃(みなの)(かは)
216いく()()るともあきはせぬ
217(あき)月夜(つきよ)水乃(みなの)(かは)
218さぞや(すず)しかろ(すが)しかろ』
219 左守(さもり)のチクターは(うた)ふ。
220(きみ)御稜威(みいづ)御光(みひか)()けて
221今日(けふ)はイドムの(つき)()
222(やま)大栄(おほさか)(なが)れは水乃(みなの)
223(しろ)はイドムよ(そら)(つき)
224(つき)()()(ひがし)(やま)
225(くも)悋気(りんき)(かげ)かくす
226十重(とへ)二十重(はたへ)(つつ)める(くも)
227()けてのぞいた(つき)(かほ)
228(くも)のとばりをそと()()けて
229(つき)がのぞいたイドム(じやう)
230(みづ)淙々(そうそう)常磐(ときは)(なが)
231(きみ)隆々(りうりう)()()らす
232この()からなる天国住(てんごくずま)
233(ゆめ)(うつつ)かおもしろや
234日頃(ひごろ)企画(たくみ)(おも)ひは()れて
235(いま)はイドムの(しろ)()
236(むし)()()小鳥(ことり)(こゑ)
237(きみ)千歳(ちとせ)(うた)ふてる
238姿(すがた)(すが)しきサツクス(ひめ)
239(はな)(かむばせ)(つき)()
240(はな)(さくら)牡丹(ぼたん)百合(ゆり)
241(きみ)御側(みそば)(はな)がよい
242(せみ)のなく()河鹿(かじか)(こゑ)
243今日(けふ)のお(さけ)(さかな)ぞや』
244 エーマンは(うた)ふ。
245右守(うもり)ナーリス、サールに(かへ)
246(いま)(この)()(おに)はない
247右守司(うもりつかさ)日頃(ひごろ)言葉(ことば)
248いつも(わたし)(しやく)となる
249(くも)(はら)ふたイドムの(しろ)
250()れて(すが)しき(あき)(つき)
251(つき)御空(みそら)水乃(みなの)(かは)
252(きよ)(すが)しく()(わた)
253(うへ)(した)とに月影(つきかげ)ながめ
254(きみ)御側(みそば)(さけ)()
255戦争(いくさ)するより(はたら)くよりも
256(つき)(さけ)()むおもしろさ
257()んで花身(はなみ)()かぬと()けば
258()きて物言(ものい)(はな)()
259(よひ)月光(つきかげ)ながめて(さけ)
260()ふてよいよい(よる)(はな)
261(よる)(はな)をば手折(たを)りてここに
262天津(あまつ)御国(みくに)(さけ)()
263(そら)(そび)ゆる大栄山(おほさかやま)
264(うへ)()()(くも)(みね)
265ながめゐる()姿(すがた)(かは)
266(くも)(みね)かよ(わが)(こころ)
267(さけ)物言(ものい)(はな)さへあれば
268たとへお(しろ)(ほろ)ぶとも
269アヅミ、ムラジの(すま)ひし(しろ)
270(つき)()ながら(さけ)びたり』
271 エールス(わう)()(あが)り、272エーマンをしつかと(にら)み、273酔眼(すいがん)朦朧(もうろう)として(うた)ふ。
274『エーマンの言葉(ことば)(ゐや)なしこの(しろ)
275(ほろ)ぶと()ひしそのたはごとは
276とこしへに(さかえ)あれよと(いの)るこそ
277(なれ)日頃(ひごろ)(つと)めならずや
278()くの(ごと)(こころ)()ちて(わが)(ぐん)
279(つかさ)とするは(あやふ)かるべし』
280 エーマンは(おそ)(おそ)(うた)ふ。
281(わが)(きみ)(ゆる)(たま)はれ(わが)()りし
282言葉(ことば)(さけ)戯言(たはごと)なりしよ
283(さけ)()(やつ)(こころ)(うば)はれて
284あらぬ(こと)をば口走(くちばし)りつつ
285(わが)(きみ)御代(みよ)(やす)かれと朝夕(あさゆふ)
286戦争(いくさ)(わざ)をはげむ(われ)なり
287(ねが)はくば(ひろ)(こころ)()(なほ)
288(ゆる)させ(たま)(ゐや)なき言葉(ことば)を』
289 サツクス(ひめ)(なか)をとりて(うた)ふ。
290(わが)(きみ)にこひのみ(まう)すエーマンが
291(ゐや)なき言葉(ことば)(ゆる)(たま)はれ
292エーマンは酒癖(さけぐせ)(わる)(をとこ)(ゆゑ)
293(こころ)にもなきことを()くなり
294エーマンの(きよ)(こころ)(かね)()
295(わが)(こと)わけを(ゆる)しませ(きみ)
296 さしも(にぎ)はひたる月見(つきみ)宴席(えんせき)は、297エーマンの脱線歌(だつせんか)にエールス(わう)憤激(ふんげき)となり、298一座(いちざ)(きよう)ざめ、299しらけ()つたるまま()深々(しんしん)()けわたり、300宴席(えんせき)()ぢられにける。
301 さりながらエールス(わう)(いか)りは(やうや)くにとけ、302エーマンは(なん)(とが)めもなく、303(もと)軍師(ぐんし)(しよく)異動(いどう)なかりける。
304昭和九・八・五 旧六・二五 於伊豆別院 谷前清子謹録)
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