第一二章 木田山颪〔二〇三九〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻
篇:第3篇 木田山城
よみ(新仮名遣い):きたやまじょう
章:第12章 木田山颪
よみ(新仮名遣い):きたやまおろし
通し章番号:2039
口述日:1934(昭和9)年08月14日(旧07月5日)
口述場所:水明閣
筆録者:林弥生
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年12月30日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:チンリウ姫、乳母のアララギ、アララギの娘センリウの三人は敵城に囚われ、牢獄に入れられて互いに述懐の歌を歌って身の不孝を歎いていた。
三人はイドム国を忍び、王と王妃の行方を案じ、またサール国への恨みを歌っていた。
そこへ、エームス太子の侍従・朝月、夕月の両人が足音を忍ばせてやってきた。そして、エームス太子のチンリウ姫への思いを告げ、牢獄から出ようと思ったら、太子の思いを受け入れるよう説得をはじめた。
チンリウ姫は敵国の太子の情けを受けるくらいなら、生命を捨てた方がましだ、と憤慨した。
朝月、夕月は、姫と太子の結婚が成れば、イドム国も再興されて平和が訪れるだろう、と姫を口説くが、チンリウ姫は頑として二人の説得を拒みつづけた。
朝月、夕月はすごすごと立ち去り、こうなったら力づくで姫を従わせようか、と相談をめぐらしている。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm8112
愛善世界社版:
八幡書店版:第14輯 490頁
修補版:
校定版:254頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 アヅミ王の娘チンリウ姫は、002乳母のアララギ及びアララギの娘センリウ女とともに敵城に虜はれ、003第一の牢獄に縄目の恥を忍びながら、004世をはかなみつつ互に述懐を歌ふ。
006『あぢきなき浮世なるかなわれは今
007縄目の恥にあひて苦しむ
008垂乳根は如何なりけむイドム城は
009いづらに行きしか心許なや
010思はざる敵の軍に攻められて
011わが垂乳根は露と消えしか
012諸々の家臣軍人あれど
013いひ甲斐もなく滅び失せけむ
014祖々の賜ひし国はエールスの
015暴虐の手に奪はれにけむ
016わが力尽きて敵にとらへられ
017今は涙の淵にただよふ
018玉の緒の生命もいつか量られずと
019思へば悲しき吾身なりけり
020如何にしてこの苦しみを逃れむと
021神を力に時の間を生くる
022望みなき吾身となりぬ水乃川の
023月に親しむ術もなければ
024罪もなき人魚を捕りし酬いにて
025わが垂乳根の国亡びしか
026数百里の道をナイトに送られて
027寒き牢獄に世を歎くなり
028天地の神の此世にいますならば
029再び見せよ水乃川の月を
030垂乳根の此世に生命在すならば
031夢になりとも通はせ給へ
032望みなきわが身と思へば悲しけれ
033朝夕われは淋しさに泣く』
035『姫君の歎き言葉を聞くにつけ
036わが身の置場無きが悲しき
037姫君の御供に仕へて二十年
039はるばると敵の国まで送られて
040姫の憂目を見るが悲しき
041情深きイドムの王に生き別れ
042苦しき憂目を敵城に見るも
043天地の神を祈りて今日の日の
044わが姫君のなやみを晴らさむ
045姫君を守る身ながらかくの如
046憂目を見せしわが愚さよ
047姫君よ許させ給へ何事も
048時の力に刃向ふ術無き
049さりながら心安けくおはしませ
050われには一つの計略持ちぬ
051吾娘センリウも亦虜はれの
052苦しき身ぞと思へば悲しも
053如何にしてアヅミの王に詫びむかと
054心を砕く吾身の悲しさ
055水乃川の水は無心の月光を
056浮べて清く流れゆくらむ
057エールスはイドムの城の高殿に
058月を賞めつつ酒を酌むらむ
059エールスのふるまひ思へば憎らしし
060イドムの国を手もなく奪ひて
061エールスは勝ち誇りたる面もちに
062イドムの城に横暴り居るらむ
063邪は正しきに勝つ道はなし
064必ず滅びむ神の怒りに
065今しばし縄目の恥を忍びつつ
066花咲く春を待たせ給はれ
067必ずやエールス王は滅ぶべし
068道に反ける曲業なれば
069姫君とともに牢獄に繋がれて
070朝夕怨むはエールス王なり
071わが王はいづらなるらむ妃の君は
072御無事にますか便り聞きたし
073雁の便りもがもと願へども
074今は詮なし時鳥鳴く
075しとしとと五月雨るる空に時鳥
076鳴き渡るなり一声落して
077時鳥鳴きつる空を眺むれば
079姫君はいふも更なりわが娘も
080われも闇夜の時鳥なり
081力あらばこれの牢獄を破らむと
082思へば詮なし女の腕には
083罪も無きわが姫君をかくの如き
084牢獄に繋ぐは鬼か大蛇か
085鬼大蛇伊猛り狂ふ世の中は
086神ぞ誠の力なりける
087木田川を隔てしこれの牢獄に
088繋がれし吾等は袋の鼠よ
089玉の緒の生命は敵に握られて
090淋しき吾身に雨の音聞く』
092『姫君の歎き宜なりわが母の
094平安の城を屠りてエールスは
095悪魔の性を現はしにけり
096悪神の伊猛り狂ふ世の中と
097思へど悲しき吾等ならずや
098如何にして今日の怨みを晴さむと
099思へど心曇るのみなる
100肝向ふ心は闇にさまよひつ
101朝夕悲しく時鳥聞く
102姫君の生命助くるよしあらば
104姫君と母に代りてわが生命
105捧げむわれは神に祈りて
106わが生命は軽し姫君の御生命
108イドム国の世継といます姫君の
109今日のなやみを思へば悲しき
110如何にして吾姫君を救はむと
111朝夕べを心砕きつ
112五月闇この牢獄に迫り来て
113黒白もわかず心狂ふも』
115『天地に神はまさずや在さずや
117わが父は雄々しくませば必ずや
118生命保ちて再び立たさむ
119わが父の輝きましてこの国を
120言向け和せ給はむと思ふ
121わが父の軍勝ちなば五月闇
122晴れて再び月日を拝まむ
123あてもなき望みながらも何となく
124わが魂に光り見るなり
125罪も無き父の国をば亡ぼして
126時めき渡る曲の忌々しさ
127エールスの曲津の王は天地の
128神の光にふれて滅びむ
129天地に誠の神のいますならば
130必ず父を助け給はむ
131滅ぶべき運命を持つエールスの
132行末思へば憐れなりけり
133今われは縄目の恥を曝せども
134やがて光と世に現はれむ
135村肝の心の奥に何か知らず
137来るべき世を楽しみて今日の日の
140『姫君の雄々しき御心聞くにつけ
141わが魂は輝き初めたり
142朝夕をなやみもだえしわが魂も
143姫の言葉に勇み初めたり
144闇あれば光ある世と知りながら
145愚心に朝夕なやみし』
147『姫君の御心聞きてわれも亦
148心の駒は勇みたちけり
149われも亦月日の駒に跨りて
150永久の安所に進まむと思ふ
151虜はれの悲しき身にも天地の
152便り聞くかな風のまにまに
153身体はよし縛るとも魂は
154自由自在に天地を駆けるも
155虜はれの自由無き身も魂は
156自由に天地を駆けめぐるなり』
157 かかるところへ、158朝月、159夕月の両人は足音を忍ばせながら静かに寄り来り、160朝月は先づ歌ふ。
161『われこそはエームス王の御側近く
162仕ふる朝月、夕月なるぞや
163これの家に忍ばせ給ふ姫君は
165品高く装ひ清しき姫君は
167ほの暗き牢獄のうちになやみ給ふ
169魚心あれば必ず水心
170ありと思せよわが言の葉に
171わが宣らむ言葉に従ひ給ひなば
172今日の憂目はさせまじものを
173果しなく牢獄に苦しみ給ふよりも
174早く安所を望み給はずや
175若王は姫に心を寄せ給ふ
176なびかせ給へチンリウ姫の君』
177 チンリウ姫は、178朝月の歌に憤慨しながら、179儼然として歌ふ。
180『怨みなき人の国をば奪ひてし
181曲の言葉に従ふべしやは
182玉の緒のよしや生命はとらるとも
183如何で靡かむ曲の言葉に
184千秋の恨重なるエールスに
186いらざらむ繰り言宣るないやしくも
188汝が如き賤しき司の言の葉は
189耳にするさへけがらはしと思ふ
190われは今生命を捨つる覚悟なり
191仇の王にまつろふべしやは』
193『姫君の言葉うべよと思へども
194此処は一先づ見直し給へ
195玉の緒の生命死すとも及ぶまじ
196御身の為と聞き直しませ
197アヅミ王の御子とあれます君なれば
198われは真心捧げて仕へむ
199わが若王の妃となりて栄えませよ
200今日のなやみは直にとけなむ』
202『如何ほどに言葉尽して誘ふも
203われ承知はじ曲の言葉に
204エームスの王妃となりて栄ゆより
206玉の緒の生命を捨てて鬼となり
207父のうらみを晴らさむと思ふ
208わが父のなやみ思へば如何にして
209敵の王妃となるべきものかは
210わが父にイドムの国を奉還し
211而して後にわれに当れよ
212イドム城父の御手に帰るまでは
213汝が言葉をわれ耳にせじ
214望みなきわれに言葉をかくる前に
215父に御国を返しまつれよ
216わが父の御許しあればわれとても
217王妃となるを拒まざるべし』
219『姫君の御言畏しさりながら
220今暫時を待たせ給はれ
221姫君はエームス王の妃となりて
222和睦の道を計らせ給へ
223姫君が王妃とならせ給ひなば
224両国平和に治まるべきを』
226『偽りの多き世なれば如何にしても
227汝が言葉に従ふべしやは
228わが父の御許しあれば何時とても
229汝が勧めに応へまつらむ
230わが父の消息今にわからねば
232エールス王わが前に来て詳細に
233父の消息語れと伝へよ
234父母の仇にわが身を任すべき
235われは人の子獣にあらず
236玉の緒の生命惜しまぬわれなれば
237栄華の夢は望まざるべし
238ともかくもわが垂乳根を本城へ
239返しまつりし其の上にせよ
240われも亦サールの国には住まはまじ
242エームス王われに恋すと聞きしより
244万斛の涙をのみてわれは今
245これの牢獄に父母をしのぶも』
247『姫君の堅き心を聞くにつけ
249姫君の正しき言葉聞くよしも
251玉の緒の生命惜しまぬ姫君の
252堅き心に動かされたり
253さりながらエームス王の御なやみ
255千秋の恨しのびて今暫し
257姫君の御心知らぬにあらねども
258御国を思ひてわれは勧むる
259玉の緒の生命限りに姫君を
260恋はすエームス王の憐れさ
261情心あらねば人も木石に
262変らず思ひて靡かせ給へ』
264『無理遣に小暗き牢獄に押し込めて
265恋を語らふ不甲斐なき若王よ
267なぜに吾身を牢獄に苦しむる
268第一にこの解決をつけざれば
270わが耳は汚れ果てたりエームスの
271敵の王の焦るると聞きて』
273『姫君の心の誠察すれど
275姫君のやさしき言葉聞くまでは
276われは此の場を去らずと思ふ
277くやしさをしばし忍びて姫君よ
278末の光りと諾ひ給はれ』
280『如何ならむ甘き言葉も承知はじ
282エームスの王の言葉を聞くにつけ
283われは一入死にたくなりぬ』
284 朝月、285夕月は、286梃でも棒でも動かぬチンリウ姫の強き心に返す言葉も無く、287すごすごとして此の場を立ち去り、288いろいろと相談の結果、289水責め、290食責め、291火責めをもつて、292エームス王の恋心に靡かせむかと、293種々浅はかなる計画をめぐらしつつありける。
294(昭和九・八・一四 旧七・五 於水明閣 林弥生謹録)