霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 月音(つきおと)し〔二〇三四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻 篇:第2篇 イドムの嵐 よみ(新仮名遣い):いどむのあらし
章:第7章 月音し よみ(新仮名遣い):つきおとし 通し章番号:2034
口述日:1934(昭和9)年08月05日(旧06月25日) 口述場所:伊豆別院 筆録者:林弥生 校正日: 校正場所: 初版発行日:1934(昭和9)年12月30日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
エールス王、妃サックス姫、左守チクターの三名はある日、大栄山の絶勝地に月見の宴を張った。ここは奇岩の岩壁の上から、はるかに深く早く流れる水乃川を見下ろす絶景の奇勝である。
エールス王は月明かりに照る紅葉をめでながら、左守チクターの追従の歌にいい機嫌になり、泥酔してろれつも回らないほどに飲んでいた。
実はサックス姫と左守のチクターは深い恋仲になっており、折あらば王を亡き者にして思いを遂げようと画策していたのであった。チクターが目配せすると、サックス姫は全身の力を込めて、エールス王を断崖から突き落としてしまった。
サックス姫とチクターは示し合わせて、エールス王が泥酔して水乃川に落ちたと城内に触れ回り、表面は悲しげな風をして、配下の者たちに王の捜索を命じた。
この騒ぎに軍師エーマンは夜中急ぎ登城し、サックス姫、チクターの様子を見て首をかしげたが、何も言わずに黙っていた。
やがて、水乃川の深淵でエールス王の遺体が発見され、型のごとく葬儀が行われた。以後、サックス姫は女王としてサール国に君臨し、チクターは依然として左守を務めることとなった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日: OBC :rm8107
愛善世界社版: 八幡書店版:第14輯 462頁 修補版: 校定版:149頁 普及版: 初版: ページ備考:
001地上(ちじやう)楽土(らくど)(きこ)えたる
002イドムの(くに)(あき)さりて
003四方(よも)山野(やまの)(にしき)()
004()()(かぜ)(さはや)かに
005(むし)()()(すが)しくて
006天津(あまつ)御国(みくに)(おも)ひあり
007大栄山(おほさかやま)百樹々(ももきぎ)
008(にしき)(ころも)着飾(きかざ)りて
009天津(あまつ)御空(みそら)(そばだ)ちぬ
010この(うるは)しき大栄(おほさか)
011百谷(ももだに)千溪(ちだに)清流(せいりう)
012(あつ)めて(なが)るる水乃川(みなのがは)
013川幅(かははば)(ひろ)(みづ)(あを)
014(そこ)ひも()らぬ深淵(しんえん)
015岸辺(きしべ)壁立(かべた)巌ケ根(いはがね)
016(かみ)(をの)もてけづりたる
017(ごと)奇勝(きしよう)()(うへ)
018()ゆる紅葉(もみぢ)(うるは)しさ
019(まつ)(みどり)をちりばめて
020小鳥(ことり)(さへづ)(むし)()
021(ゆふ)さり()れば(つき)宿(やど)
022イドム唯一(ゆいつ)絶勝地(ぜつしようち)
023ここに(あそ)べる艶人(あでびと)
024(あら)たにイドムの城主(じやうしゆ)となりし
025エールス(わう)(はじ)めとし
026サツクス(ひめ)やチクターの
027(ほか)供人(ともびと)なかりけり
028淵瀬(ふちせ)(うつ)月光(つきかげ)
029あかなく()つつ(さけ)()(かは)
030歓喜(くわんき)(つく)しゐたりける。
031 エールス(わう)は、032ほろ()機嫌(きげん)にて、033水面(みのも)(うつ)月光(つきかげ)(なが)めながら(うた)ふ。
034宵々(よひよひ)(さけ)()(かは)(よひ)(つき)
035(よひ)をさまして(なが)るる川水(かはみづ)
036この(ふち)人魚(にんぎよ)()むと(ひと)のいふも
037うべなり水底(みそこ)()えぬ深淵(ふかぶち)
038(くれなゐ)()紅葉(もみぢば)(ゆふ)されば
039かげ黒々(くろぐろ)(みづ)にうつろふ
040(つき)かげに(ゑが)ける(いはほ)のかげ()れば
041(ふち)紅葉(もみぢ)(ひと)(いろ)なり
042(うるは)しき天国(てんごく)浄土(じやうど)()心地(ここち)
043しつつ天地(てんち)(めぐ)みによふかな
044()(さけ)(あぢ)一入(ひとしほ)かんばしし
045(つき)(なが)るる水面(みのも)(なが)めて
046泡立(あわだ)ちて(なが)るる(みづ)はしろじろと
047真玉(まだま)かがよふ(つき)(ひか)りに
048小夜(さよ)()けて(むし)()(ほそ)くなりつれど
049(やかた)(かへ)らむ(こころ)(おこ)らず
050()めよ()(さわ)げよ(さわ)()(なか)
051(ひかり)(やみ)のゆき()()なれば
052月影(つきかげ)(みづ)にうつろふ(すが)しさに
053(こひ)しくなりぬ水乃(みなの)(かは)なり
054大栄(おほさか)(やま)より()つる水乃川(みなのがは)
055(みぎは)()める河鹿(かじか)声々(こゑごゑ)
056星影(ほしかげ)(なが)して()める水乃川(みなのがは)
057真砂(まさご)(しろ)(つき)()らひて』
058 サツクス(ひめ)(うた)ふ。
059『わが(きみ)御供(みとも)(つか)へて水乃川(みなのがは)
060(なが)るる夜半(よは)(つき)()しかな
061(はる)もよし(なつ)もよけれど秋月(あきづき)
062(なが)るるさまは一入(ひとしほ)さやけし
063水乃川(みなのがは)瀬筋(せすぢ)(なが)るる月影(つきかげ)
064千々(ちぢ)(くだ)けて面白(おもしろ)きかな
065(しづ)かなる(つき)にはあれど()(なみ)
066谷間(たにま)(くだ)けてうつろふかげかな
067(みぎ)(ひだり)(なみ)にさゆるる月光(つきかげ)
068()のさまざまのあかしなりけり』
069 チクターは(さかづき)(ささ)げながら(うた)ふ。
070(きみ)(したが)壁立(かべた)(いは)
071()して月見(つきみ)(さけ)()
072(むし)()()河鹿(かじか)はうたふ
073(つき)波間(なみま)舞踏(ぶたう)する
074(やま)大栄(おほさか)人魚(にんぎよ)真珠(しんじゆ)
075(つき)(なが)るる水乃川(みなのがは)
076(うへ)(した)とに秋月(あきづき)(なが)
077紅葉(もみぢ)()()(さけ)()
078(まつ)紅葉(もみぢ)(かげ)黒々(くろぐろ)
079(かは)(おもて)(ゑが)いてる
080(まつ)(こずゑ)(つき)()(わた)
081(さけ)()まりし顔紅葉(かほもみぢ)
082(つき)皎々(かうかう)御空(みそら)()めど
083(こひ)(くも)りしわが(こころ)
084(こひ)黒雲(くろくも)()(はら)はむと
085壁立(かべた)巌根(いはね)月見酒(つきみざけ)
086()けよ川風(かはかぜ)うたへよ河鹿(かじか)
087(つき)(さけ)()(をとこ)あり
088(きみ)(いさ)まし高山(たかやま)()えて
089イドムの(あるじ)()(たま)
090()める月光(つきかげ)(なが)るる(かは)
091(きし)(さけ)()みや(むし)()く』
092 エールス(わう)機嫌(きげん)(ななめ)ならず、093チクターの(うた)()()され、094(さけ)(あし)をとられ、095よろよろしながら常磐樹(ときはぎ)(まつ)片手(かたて)()け、096ロレツも(まは)らぬ(した)もて(うた)ふ。
097心地(ここち)よきかなイドムの(しろ)
098(はな)紅葉(もみぢ)のすみどころ
099(はな)(せん)()()()(ひと)
100(こころ)もむなよわが(つま)
101(さけ)()()一升(いつしよう)(さけ)
102(かは)(なが)れも()()らぬ
103(つき)()れどもわれより()れば
104(あた)真暗(まつくら)(しん)(やみ)
105西(にし)(ひがし)(わか)らぬまでに
106()ふて(くる)しき月見酒(つきみざけ)
107(つき)(つゆ)ほど美味酒(うまざけ)()んで
108()ふて(くる)しむ(かは)(そば)
109小夜(さよ)()けて(むし)()()細々(ほそぼそ)
110(はや)(やかた)(かへ)りたい』
111 サツクス(ひめ)(うた)ふ。
112(きみ)言葉(ことば)(きこ)えませぬよ
113此処(ここ)もあなたの()らす(くに)
114(やかた)ばかりが(いへ)ではないに
115(やかた)こがるる(きみ)をかし
116(かは)瀬音(せおと)(みみ)すませつつ
117明日(あす)(あさ)まで()ちませう』
118 チクターは(うた)ふ。
119(まへ)(うしろ)(わか)らぬまでに
120(きみ)()はすか面白(おもしろ)
121(ひめ)(さま)日頃(ひごろ)謀計(たくみ)(いま)()場所(ばしよ)
122やつて()なされ(こひ)(ため)
123(わる)(こと)とは()つては()れど
124(こひ)(ため)には是非(ぜひ)もない』
125 エールス(わう)は、126(つま)のサツクス(ひめ)左守(さもり)のチクターとが(ふか)恋仲(こひなか)となつてゐる(こと)(ゆめ)にも()らず、127両人(りやうにん)におびき()され、128無性(むしやう)矢鱈(やたら)(さけ)()み、129前後(ぜんご)(わか)らずなれるを見澄(みす)まし、130チクターはサツクスに目配(めくば)せするや、131(こひ)悪魔(あくま)にとらはれしサツクス(ひめ)は、132(とき)こそ(いた)れりと、133エールス(わう)背後(はいご)()(まは)り、134全身(ぜんしん)(ちから)()めてウンとばかり()(おと)せば、135何条(なんでう)(もつ)(たま)るべき、136エールス(わう)壁立(かべた)(がけ)よりザンブとばかり()(おと)され、137水泡(みなわ)となりて()えにけり。
138 サツクス(ひめ)は、139いやらしき(ゑみ)(うか)べ、140水面(みのも)(なが)めながら、
141天地(あめつち)一度(いちど)にひらくる心地(ここち)かな
142わが仇雲(あだくも)水泡(みなわ)となれり
143わが(きみ)(うやま)(つか)へまつりたる
144(ひと)水泡(みなわ)となりにけらしな
145大空(おほぞら)(かがや)(たま)月影(つきかげ)
146(あふ)げば(なに)(おそ)ろしきわれ
147さりながら(つき)(かた)らじ川水(かはみづ)
148今宵(こよひ)のさまを(つた)へざるべし
149(むし)()河鹿(かじか)(こゑ)(なん)となく
150われは(さび)しくなりにけるかも
151さりながらチクターの(きみ)今日(けふ)よりは
152(した)しく()まむと(おも)へば(たの)し』
153 チクターは(うた)ふ。
154(おそ)ろしき(ひめ)にますかも()(きみ)
155(かは)(おと)して微笑(ほほゑ)ますとは
156われも(また)第二(だいに)のエールス(わう)なるかと
157(おも)へばにはかに(おそ)ろしくなりぬ
158如何(いか)にせむかくなる(うへ)はわが(きみ)
159行方(ゆくへ)()れずと()()らすべきか
160病気(いたづき)()()(たま)ふと()(なか)
161しばしのうちを(つた)()かむか』
162 サツクス(ひめ)(うた)ふ。
163(こころ)(よわ)(こと)()らすなわが(きみ)
164水泡(みなわ)とせしは(なんぢ)ならずや
165直々(ぢきぢき)()(くだ)さねど()(こころ)
166わが()をかりて(ころ)したるなり
167天地(あめつち)(かみ)御前(みまへ)(おそ)ろしと
168(おも)(こころ)()()(たま)へ』
169 チクターは(うた)ふ。
170『わが(きみ)(さけ)()はせて水乃川(みなのがは)
171(ふち)()ちしと()()らすべし
172かくすれば(われ)()(うたが)ひかかるまじ
173(かく)すは(かへ)りて(あら)はるるもとよ
174いざさらば(いそ)(かへ)りて城内(じやうない)
175(きみ)溺死(できし)報告(ほうこく)()さむ』
176 サツクス(ひめ)(うた)ふ。
177『われわれの謀計(たくみ)(まつた)()(あた)
178(あは)れエールス水屑(みくづ)となりぬ
179いざさらば(いそ)(かへ)らむイドム(じやう)
180長居(ながゐ)(おそ)れよ人目(ひとめ)なくとも』
181 かくて両人(りやうにん)は、182(なに)()はぬ(かほ)にてイドム(じやう)(かへ)り、183(さけ)()ひつぶれたる(ふう)(よそほ)ひ、184群臣(ぐんしん)一間(ひとま)(あつ)めて、185エールス(わう)訃音(ふいん)(つた)へむと(うた)ふ。
186 サツクス(ひめ)
187水乃川(みなのがは)(なが)るる(つき)()ながらに
188わが()(きみ)(さけ)()みつつ
189()(きみ)月見(つきみ)(さけ)()ひつぶれ
190よろめき淵瀬(ふちせ)におちさせ(たま)へり
191チクターは素裸体(すつぱだか)となり深淵(ふかぶち)
192()()(さが)せど(おん)(かげ)()えず
193(ひま)どらばことぎれやせむと(われ)(また)
194水中(みなか)()()(きみ)をさがせり
195大空(おほぞら)(つき)()れども(よる)なれや
196(きみ)(おん)(かげ)()るよしもなし
197(なれ)(たち)()らす(あひだ)にことぎれむと
198二人(ふたり)生命(いのち)からがら(たづ)ねし
199わが(きみ)()果敢(はか)なみて(なみだ)ながら
200(いそ)(やかた)にわれ(かへ)()
201(なれ)(たち)水乃(みなの)(かは)()()りて
202水底(みそこ)(くぐ)(たづ)(きた)れよ
203平和(へいわ)なるイドムの(しろ)黒雲(くろくも)
204(つつ)まれし(ごと)われは(かな)しき』
205 チクターは(うた)ふ。
206姫君(ひめぎみ)(おほ)せの(ごと)(かは)()
207(くぐ)(さが)せど(おん)(かげ)なかりき
208生命(いのち)にもかへて(たふと)(わが)(きみ)
209あはれ行方(ゆくへ)()えずなりけり
210如何(いか)にしてサツクス(ひめ)御心(みこころ)
211(なぐさ)めむかと(こころ)(くだ)きぬ
212姫君(ひめぎみ)(なげ)(おも)へばわれも(また)
213生命(いのち)いらなく(おも)ひけらしな
214(つかさ)()数多(あまた)(ひと)水乃川(みなのがは)
215上津瀬(かみつせ)下津瀬(しもつせ)(くば)(さが)させよ』
216 夜中(やちう)(こと)ながら、217軍師(ぐんし)のエーマンは(いそ)登城(とじやう)し、218二人(ふたり)様子(やうす)()(かうべ)(かたむ)け、219無言(むごん)のまま(もだ)()たりける。220諸々(もろもろ)(つかさ)(たち)はエールス(わう)死体(したい)(もと)めむと、221(かね)太鼓(たいこ)打鳴(うちな)らし、222群集(ぐんしふ)(あつ)水中(すいちう)(くま)なく捜索(そうさく)結果(けつくわ)223壁立(かべた)巌根(いはね)深淵(ふかぶち)に、224(わう)死体(したい)発見(はつけん)し、225(かた)(ごと)盛大(せいだい)なる土葬式(どさうしき)(おこな)ひける。
226 これより、227サツクス(ひめ)女王(ぢよわう)として君臨(くんりん)し、228チクターは依然(いぜん)として左守(さもり)(つと)め、229両人(りやうにん)(こころ)秘密(ひみつ)一人(ひとり)として()るもの()かりける。
230昭和九・八・五 旧六・二五 於伊豆別院 林弥生謹録)
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