第一六章 亀神の救ひ〔二〇四三〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻
篇:第4篇 猛獣思想
よみ(新仮名遣い):もうじゅうしそう
章:第16章 亀神の救ひ
よみ(新仮名遣い):きしんのすくい
通し章番号:2043
口述日:1934(昭和9)年08月15日(旧07月6日)
口述場所:水明閣
筆録者:谷前清子
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年12月30日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:センリウと取り替えられたチンリウ姫は、丸木舟に乗せられて嘆きの歌を歌いつつ、「かくれ島」に送られていた。
姫を護送してきた騎士は島につくと、姫を上陸させ、送り届けた印に姫の左の耳を切り落として去っていった。
次第に島は水没してゆき、姫は進退窮まってただ死期を待つのみとなってしまった。
島の頂上に立って悲嘆の歌を歌ううちに、海水は姫の膝まで届くほどになり、最早これまでと覚悟を決めた。
するとその折、大きな亀がどこからともなく現れ来ると、姫の前にぽっかりと甲羅を浮かせた。そして、背中に乗れとばかりに頭をもたげて控えている。
チンリウ姫は、これこそ神の助けと亀の背中に乗ると、亀は荒波をくぐりつつ南へ南へと泳ぎ始めた。
姫は海亀の助けに感謝し、またこれまでを述懐するうちに、敵国の王妃になったセンリウの身の上に憐れを催し、自分の身魂が汚されずに済んだことに感謝を覚えた。アララギの悪計も、結果として自分の操を守ることになったことに思いを致していた。
亀はイドム国の海岸を指して海を泳ぎ渡り、イドム国真砂ケ浜に姫を下ろした。チンリウ姫が感謝の歌を歌うと、亀は二、三度うなずいて海中に姿を消した。
真砂ケ浜は月光山の西方の峰伝いに位置し、丘陵が迫った森林地帯であった。姫は、現在父母が月光山に篭もっているとは夢にも知らず、ただ木の実を探ろうと、不案内のまま森林深く忍び行ることとなった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm8116
愛善世界社版:
八幡書店版:第14輯 516頁
修補版:
校定版:347頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001山川は清く爽けく果実は 002豊かに実る伊佐子の島の真秀良場や
003天国楽土と聞えたる
006アヅミ、ムラジが二人が仲に
007昇る朝日と諸共に 008初声挙げしチンリウ姫は
011育みここに二十年 012花の盛りの春の宵
014暴虐無道の魔軍に
015攻め破られて父母は
018一陽来復時待ち給ふ。
022吾等が今日の悲しみを
023救はせ給へ惟神
025春の夜の暖かき夢を破られて 026敵に捕はれ縄目の恥を
027主従三人遇ひながら
030恋しき故国を後にして
031大栄山の嶮を越え 032前も後も魔軍に
034木田山城の牢獄に
035歎きの月日を送る折 036仇の太子の恋慕より
038賢しき乳母の忠言を
040木田山城の奥の間に
042儀式を挙ぐる間もあらず
046口には嵌ます猿轡
047撃ち打擲のその揚句 048血潮したたり面破れ
051数多の騎士に送られて 052荒浪猛る磯ばたに
053送られ是より独木舟
055身を捨小舟忽ちに
060言問ふ由も泣く涙
062吾憂きことを垂乳根の
063御側近く伝へむと 064思へど望みは水の泡
066闇路を辿る心地かな
067闇路にさまよふ心地かな』
068 独木舟をあやつり、069ここに送り来りし一人の毛武者の騎士は、070隠の島に姫を上陸させ、071声もあらあらしく、
072『こりや尼つちよ、073端女の分際としてお国の宝を打ち毀した天罰によつて、074その方はこの隠島に捨てられたのだ。075もうかうなる上は、076今日ぎりの生命だ、077覚悟するがよからう。078この島は隠の島と言つて、079昼は水面にポツカリと浮んでゐるが、080そろそろ陽が沈み出すと潮が高まり来り、081この島はずんぼりと波の底に沈んで仕舞ふのだ。082この島に捨てられたが最後、083魚でない限り到底生命の助かりつこはない。084てもさてもいぢらしいものだ。085俺も内密で貴様の様な美人を助け出し、086女房にしたいは山々なれど、087磯端には沢山の目附が騎士を引き連れて監視してゐるから、088それも仕方がない。089可哀さうだが、090もう暫くの生命だ。091いづれ鮫がやつて来て腹の中へ葬つてくれるだらう。092まあ感謝したがよからう。093泣いても叫んでも、094かうなりや仕方がない。095然しながら貴様をこの島に捨てたと言ふ標がなくては承知せまい。096肉の附いた一握りの髪の毛を持つて帰るか、097お前の耳をそいで帰るか、098それでなくちや袖でも捩ぢ断つて、099隠島特有の貝でも持ち帰り、100証拠にせなくつちや今日の勤めが果せぬのだ。101可哀想だが、102たつた今死ぬる生命だ。103耳の一つ位取つたつて惜しくもあるまい』
104と言ひながら石刀を懐より取り出し、105姫を矢場に地上に打ち倒し、106しきりと泣き叫ぶ姫に目もくれず、107鋸引きにして左の耳を切りとり、108血の滴る姫の顔を冷やかに打ち眺めながら、
109『ヤアもう時刻が迫つた、110ぐづぐづしてゐると、111俺の舟までどうなるか解らない』
112と言ひながら足早に独木舟に飛び乗り、113艪をあやつり夕靄の包む海原を急ぎ帰りゆく。
114 姫は進退維谷まり悲歎やる方なく、115運を天にまかせて、116死期を待つより何の手段もなかりける。
117 姫は刻々に沈みゆく島の頂上に立ち微かに歌ふ。
118『思ひ廻せば廻す程
119吾ほど悲しき者は世に
122今は行方も白雲の
124妾は騎士に送られて
125敵の本城木田山に
126縄目の恥を忍びつつ
127昼夜の別ちもあら涙
130色々様々言問はれ
131止むを得ざれば本心を
135心汚き乳母母子に
137吾身は悲しき捨小舟
140今に知死期を待たむより
141果敢なき吾身となりにけり
142この世に生きて仇人の
143牢獄に繋がれ朝夕を
146また父母の御上に
149浪は次ぎ次ぎ高まりて
150吾立つ島は荒潮に
156今は知死期を待つのみぞ
157浪の音いや高まりて寄せ来るは
158吾身の生命を奪ひ去る
161 斯く歎きの歌を歌ふ折しも、162隠島の最頂上に立てる姫の膝を没するまで水量まさりけるが、163姫は最早これまでなりと覚悟を極むる折もあれ、164大いなる亀いづくよりか現はれ来り、165姫の前にボツカリと甲羅を浮かせ、166わが背に乗り給へと言はむばかり頭をもたげてひかへ居る。167チンリウ姫はこれこそ神の助けと矢場に亀の背に打ち乗れば、168亀は荒浪をくぐりながら南へ南へと泳ぎゆく。
169 チンリウ姫は亀の背に立ちながら微かに歌ふ。
170『この亀は神の使かわが生命
171完全に委曲に救ひたるはや
172大いなる海亀の背にのせられて
173故郷に帰ると思へば嬉しも
174様々の悩ひに遇ひて海亀の
176亀よ亀よサールの国に近よらず
177イドムの磯辺に吾を送れよ
178独木舟にまして大けきこの亀は
179海の旅路も安けかるべし
180海原に立ちのぼりたる靄も晴れて
181御空の月は輝き初めたり
182天地の神も憐れみ給ひしか
183助けの舟を遣はし給へり
184何事も神の心にまかせつつ
185浪路を渡りて国に帰らむ
186曲神の伊猛り狂ふ醜国に
187送られ吾は悩みてしかな
188アララギの深き奸計は憎けれど
189吾は忘れむ今日を限りに
190たのみなき人の心を悟りけり
191乳母アララギの為せし仕業に
192センリウは吾身に全くなりすまし
194外国の仇の王の妻となる
196吾霊魂身体共に汚さるる
198かく思へばアララギとても憎まれじ
199吾操をば守りたる彼
200暫くの栄華の夢を結ばむと
201仇に従ふ心の憐れさ
202吾は又心の弱きそのままに
204ありがたし神の恵の深くして
205吾身体は汚さずありけり
206夕されば波間に沈む島ケ根に
207捨てられし吾も救はれにけり
208この亀は次第々々に太りつつ
210大空に水底に月は輝きて
211海原明るく真昼の如し
212亀よ亀イドムの国に送れかし
214 亀は無言のまま荒浪を分け、215一瀉千里の勢ひにてサールの国の方面へは頭を向けず、216南へ南へと、217イドムの海岸さして走りつつありける。
218 暁近き頃、219大亀は数百ノットの海面を乗りきり、220イドムの国の真砂ケ浜に安着した。
221 チンリウ姫は無事浜辺に上陸し、222亀に向つて感謝の心を歌ふ。
223『汝こそは尊き神の化身かな
224玉の生命を救ひ給ひし
225いつの世か汝が功を忘れまじ
226海原守る神とあがめて
227あぢ気なき吾身をここに送り来し
228汝は生命の親なりにけり』
229 斯く歌ひ終るや、230亀は二三回頷きながら水中にズボリと沈み、231跡白浪となりにける。
232 この地点は月光山の峰伝ひ、233遠く西方に延長したる丘陵近き森林なりけるが、234姫はイドムの国とは略察すれども、235現在父母の隠生せる月光山の麓の森林とは夢にも知らず、236不案内のまま雨露をしのぎ、237木の実を探らむと森林深く忍び入りける。
238(昭和九・八・一五 旧七・六 於水明閣 谷前清子謹録)