チンリウ姫は、侍女母娘の命を憐れに思い、敵国の太子エームスの妃となることを承諾した。
エームス太子は城内に命じて、さっそく結婚式を行うこととした。太子はチンリウ姫を奥殿に招き、この結婚が成ったなら、チンリウ姫の父王をイドム城に迎えて、姫の心に報いよう、と誓った。
結婚式が始まり、仲介役となったアララギは祝歌を歌った。続いてエームス太子、チンリウ姫、朝月、夕月、センリウと喜びの歌を歌い、結婚の儀式を済ませることとなった。
チンリウ姫が太子の寝室に進みいることになった直前、アララギがすぐれない面持ちで姫を別室に招いた。そして語るに、
これまでエームス太子は何度も妃を迎えたが、いずれも一晩きりで命を落としている。
それというのも実は、太子は猛獣の化け物である。
このことは、サール国の侍女たちから噂で聞いた確かな話である。
そこで自分の娘センリウは姫にそっくりであることから、今夜は安全のため、身代わりに立てて様子を見てみましょう。
というものだった。これはアララギの計略であったが、チンリウ姫は疑いもなく乳母の提案を聞き入れ、センリウと着物を着替えてその夜は別室に控えていた。
翌朝、センリウが無事であったのを見て、チンリウ姫はアララギに、『何ともなかったようだが太子は替え玉に気づかれたのだろうか』、と相談した。
アララギは、『太子は替え玉に気づいてはいないようだが、太子の心をもっと姫に向かわせるためには、祭壇にある水晶の花瓶を庭で打つとよい』と姫に勧めた。
チンリウ姫は何の疑いもなく、花瓶を庭に持ち出して打つと、花瓶は二つに割れてしまった。
アララギは突然姫のたぶさを掴んで引きずりまわし、家宝を打ち壊した大罪人、と叫んだ。たちまち姫は捕り手に囲まれてしまった。アララギは、替え玉が気づかれないように姫の口に猿轡をかませ、顔を殴って容貌がわからないようにしてしまった。
チンリウ姫は、家宝を打ち壊した罪人・センリウとして、遠島の刑に処せられることになってしまった。