第一七章 再生再会〔二〇四四〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻
篇:第4篇 猛獣思想
よみ(新仮名遣い):もうじゅうしそう
章:第17章 再生再会
よみ(新仮名遣い):さいせいさいかい
通し章番号:2044
口述日:1934(昭和9)年08月15日(旧07月6日)
口述場所:水明閣
筆録者:林弥生
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年12月30日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:偽チンリウ姫を見破り、宴席でそのことを歌にほのめかした従臣の朝月は、はるか孤島の荒島に島流しにされてしまった。
絶海の孤島で、朝月は魚貝を採りつつ飢えをしのぎ、海原を眺めながら述懐の歌を歌っていた。
朝月は述懐の歌に、アララギ・センリウの姦計に陥った故国を憂い、また昨日の夢に不思議にも、命を奪われたかと思われたチンリウ姫が海亀に助けられて無事にイドム国にたどり着いたことを思い返して、神の恵みを祈っていた。
すると、チンリウ姫を救った神亀が荒島の波打ち際にぽかりと姿を現し、朝月を招くかのように首を上下に振りはじめた。朝月は、これぞ琴平別命の化身の救いと喜び、神亀の背中に飛び乗った。亀は朝月を背に乗せると、南へ南へとまっしぐらに進んで行く。
朝月が神亀に感謝の歌を歌ううちに、一日かけて神亀は、イドム国の真砂の浜辺に朝月を送り届けた。
亀に感謝の別れを告げた後、朝月が古木の茂る森に分け入って行くと、小さな小屋があり、そこからはかすかに女性の歌声が聞こえてきた。それは、チンリウ姫の述懐の歌であった。
朝月は自ら名乗ってチンリウ姫に目通りを申し出るが、姫は朝月がこのような場所にいるはずがないことを疑って警戒した。またもし本物だったとしても、朝月も自分とエームス王子の結婚を計った悪人の一人であると非難した。
朝月は、チンリウ姫が島流しにあった後、アララギ・センリウの企みを公の場で暴こうとしたために自分も島流しにあい、神亀に救われた経緯をチンリウ姫に訴え、忠誠を誓った。
チンリウ姫はようやく朝月に心を許し、朝月は姫に仕えてしばらく森の中で時を待つこととなった。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm8117
愛善世界社版:
八幡書店版:第14輯 520頁
修補版:
校定版:363頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 エームス王の妃チンリウ姫は贋物である。002其の実は、003侍女のセンリウ女がアララギと腹を合せ、004エームス王始め数多の重臣どもを籠絡してゐることを覚つた朝月は、005宴会の席に於て其の事をほのめかしたので、006忽ちアララギ、007センリウ等の激怒をかひ、008即座に重罪に処せられ、009海洋万里の荒浪にただよふ荒島に流された。010朝月は、011慷慨悲憤のあまり述懐を歌ふ。
012 潮のひびきは滔々と岩間に木霊し、013寄せ来る浪は白馬の鬣を打ちふり、014岸辺の岩石にかみつく如き物凄じき光景なりけり。015朝月はこの島の王者然として貝などを採集し、016餓を凌ぎつつ運を天に任せながら縹渺たる海原を眺めて歌ふ。
017『仰げば高し久方の
018雲井の空は果てもなく
019青に解け入る吾みたま
022極みも知らぬ大宇宙
026朝日の光に照らされて
028夜さり来れば夕月の
029光はきらきら波間を照らし
030千尋の海の底ひには
031清く澄みきる夕月や
034伊佐子の島を後にして
035千重の荒浪渡りつつ
036独木の舟に来て見れば
037音に名高き荒島は
038ただ一本の木も草も
041堅磐常磐に海中に
042浮ぶも雄々しこの島根
044世塵を知らず安々と
045堅磐常磐に栄ゆなり
046荒浪如何に猛るとも
048何か恐れむ大丈夫が
052永久の住家と定めつつ
053百の魚族友として
057奸計の罠に陥りて
058似ても似つかぬ替玉の
062其の憐れさの身に迫り
063木田山城に開かれし
064祝賀の宴に出席し
066激しき矢玉に怖ぢおそれ
069疑惑の罪と強ひながら
070恋に狂へる若王や
072わが身を憎める其のあまり
075われは大丈夫覚悟はすれど
077宮中深く育ちたる
081名を負ふ隠の島ケ根は
082夕さり来れば荒浪に
084危険の島に捨てたるは
085姫が生命をとらむ為の
087思へば思へば憎らしや
089泣けど悔めど姫君の
090姿は最早荒浪の
093若しも此の世に在すならば
094水底を潜りてこの島に
095来らせ給へ惟神
096天地の神に願ぎまつる
099昨夜の夢にチンリウ姫は
100亀の背中に乗せられて
103庵を造りて住み給ふ
105心にかかるは姫の上
106完全に委曲に御在処を
107知らむと思へど是非もなし
110天青く海原青きこの島に
111姫を偲びて青息つくも
112伊佐子島遠く離れる荒島に
113一人住む身は淋しかりけり
114さりながら世の憂さごとを聞かずして
115一人楽しき今日のわれなり
116木田山の城は間もなく滅ぶべし
117アララギ母子の暴虐の手に
118チンリウ姫隠の島に流されて
119水泡と消えしは果敢なかりけり
120さりながら姫は生命を保たすと
121われは聞けるも夢の枕に
122悪人の栄えて善人の亡ぶべき
123例は神代にあらじとぞ思ふ
124憎みても余りありけりアララギの
125いやしき心に出でし曲業』
126 斯く歌ふ折しも、127チンリウ姫を真砂の浜に送りとどけたる巨大なる神亀は、128波打ち際にボカリと浮き上り、129頸を上下に振りながら朝月を招くものの如く見えける。130朝月はこれぞ全く海の守護神琴平別命の化身ぞと勇み喜び、131直に丘を下りて汀辺に走りつき、
132『有難し琴平別の御迎へ
133伊佐子の島に送らせ給へ』
134と、135合掌しながら神亀の背に飛び乗れば、136亀は波上に大なる頭をもたげ、137南へ南へと波をかきわけながら、138まつしぐらに進みゆく。
140『有難し天地の神の御恵に
141琴平別は現れましにけり
142一本の草も木もなき荒島に
143われは淋しく暮し居たるを
144琴平別神の化身に救はれて
145千重の波路を渡らふ今日かな
146大栄の山は雲間に霞みつつ
147天津日のかげ朧に見ゆるも
148北を吹く風に送られわれは今
149神亀の背に乗りて帰るも
150チンリウ姫もわれと同じくこの亀に
152 斯く歌ひつつ、153亀のゆくままに任せ居たりしが翌日の暁頃、154空に朝月白けて、155海風徐に袖を吹く頃、156真砂の浜辺に着きにける。
157 朝月は、158亀の背より汀に飛び下り、159神亀に向つて合掌しながら歌ふ。
160『波荒き孤島になげきし朝月も
161汝の功に救はれにけり
162何時までも汝の恵みは忘れまじ
164東北の空に霞める高山は
165大栄山かなつかしき山
166この聖所イドムの国の浜ならむ
167大栄山の北に見ゆれば』
168 ここに朝月は亀に感謝し、169別れを告げて汀の真砂をザクザクふみならしながら、170遥か前方にこんもりと古木の茂りたる茂樹の森を目当に辿り行く。
171 朝月は只一人、172茂樹の森かげをあてどもなく辿り行くにぞ、173目立ちて太き槻の根元に萱を以て結びたる矮屋をみとめ、174足音を忍ばせ近より、175中の様子を窺ひ居たりける。176矮屋の中よりは微なる女のうたふ声響き来る。
177『わが国は敵に奪はれわが父母は
178行方知れぬぞ悲しかりけり
179エールスの醜の司にわが父は
181妾亦か弱き身もて敵軍に
183水濁る木田山城にとらへられ
184なげきの月日を泣き暮したり
185二十年われに仕へしアララギは
187如何ならむ罪犯せしか知らねども
188今日の吾身は淋しかりけり
189玉の緒の生命とらむとアララギは
190われを隠の島に送りし
191荒浪に呑まれむとする折もあれ
192琴平別に救はれしはや
193大栄山遥かに高く北の空に
194霞むを見ればわが国なるらむ
195さりながらイドムの国も今ははや
196サールの配下となれる悲しさ
197隠島漸く逃れわれは今
198茂樹の森にかくれ泣くかも
199父母に一度会はまく欲りすれど
200今日の吾身は詮術もなき
201万斛の涙湛へてわれは今
202泣くより外に術なかりけり
203いたづらに森の木蔭に朽ちむかと
204思へば悲しき吾身なりけり』
205 朝月はこの歌を聞き、206正しく隠島に流されしチンリウ姫なることを覚り、207雀躍りしながら声高らかに歌ふ。
208『われこそは木田山城に仕へたる
209朝月司のなれの果てぞや
210この家に忍ばせ給ふは正しくも
212アララギのきたなき心の謀計に
214われも亦チンリウ姫を贋物と
216アララギやセンリウ姫の憤りに
218姫君を案じわづらひ荒島ゆ
219隠の島ケ根遥かに仰ぎぬ
220琴平別神の化身に送られて
221われは真砂の浜に着きぬる』
222 中よりチンリウ姫の声として、
223『いぶかしや茂樹の森に人の声
224聞ゆは狐狸の仕業なるらめ
225わが住家破屋なれど表戸は
226魔神の為には開かざるべし
227朝月は木田山城の左守神
228此処に来らむ理由はあらじ
229いろいろと言葉構へてたぶらかす
230狐狸の謀計の浅はかなるも
231アララギやセンリウ姫と相共に
232われをはかりし朝月の曲津
233よしやよし真の朝月なればとて
236『思ひきや茂樹の森にたどり来て
237姫の怒りの言葉聞くとは
238姫君を陰に日向にかばひつつ
239誠尽せし朝月なるよ
241類と思すが悲しかりけり
242姫君をかばひし言葉にたたられて
244かくなればサールの国へは帰れまじ
245忍びて住まむ茂樹の森に
246木田山の城は滅びむアララギの
248城内の司は四分五裂して
249アララギ母子を呪はぬものなし
250隣国のイドムを攻めたる酬いにて
251サールの国は今に亡びむ
252御父のアヅミの王はやがて今
253伊佐子の島根を領有ぎ給はむ
254朝月の清き心をさとりませ
255姫に仕ふと慕ひ来しものを』
257『いろいろの汝が言霊にわが胸の
258雲は晴れたりとく入りませよ
259なよ草の女一人のこの庵に
260汝が訪ひ来しも不思議なるかな
261汝も亦琴平別に救はれしか
262われも神亀に送られ来りぬ』
263 斯く歌ひながら、264柴の戸を中よりパツと押開けば、265朝月は大地にひれ伏し、266ハラハラと落涙しながら、
267『姫様、268御懐かしう御座います。269私は貴女の御身の上を気の毒に存じ、270大祝賀会の席上に於て、271今のチンリウ姫様は贋物にして、272アララギの奸計より斯くなれるものとの諷刺を歌ひましたため、273アララギ母子及びエームス王の激怒にふれ、274奸佞邪智の心きたなき司どもに審判かれ、275遂に海中の荒島という無人島に流され、276孤独を託ちつつあるところへ、277琴平別の神、278亀と化して現はれ給ひ、279たつた今の先、280真砂の浜辺に私を送りとどけて下さつたのです。281必ずや姫様も隠島より琴平別の神に救はれて、282此の辺りにおしのびの事と察知致しまして、283森林を彷徨ふうち、284フツとこの御住居が目にとまり、285足音をしのばせ近より、286屋内の様子を窺へば、287かすかに聞ゆる御歌のふしに、288てつきり姫様と打ち喜び、289畏れながら屋外に立ち、290歌もて御尋ね致した次第で御座います。291何卒姫様の御仁慈によりまして、292私を僕として御使ひ下さらうならば、293有難い仕合せと存じます。294私は再びサールの国に足を踏み入れる考へは御座いませぬ。295この島も御父の領分とは言ひながら、296サールの国王エールスが暴威を振ふ領域内で御座いますれば、297彼等が手下の奴輩に見つかつては危険で御座いますから、298この森林を幸ひ、299姫様の御側に仕へて時待つ事と致しませう。300一時は御父王は城を捨てて退却されましたなれど、301賢明なるアヅミ王様は必ず軍備を整へ、302捲土重来して、303イドム城を回復し、304善政を敷き給ふものと、305私は今より期待いたして居ります。306次にサールの国は最早や滅亡の徴現はれ居りますれば、307伊佐子の島は全部アヅミ王様の治下に復する事と存じます。308姫様、309御安心なさいませ』
310と、311いろいろと言葉を尽して、312朝月はチンリウ姫を慰めながら、313暫時この森林を住家として時を待ちゐたりける。
314(昭和九・八・一五 旧七・六 於水明閣 林弥生謹録)