第一三章 思ひの掛川〔二〇四〇〕
インフォメーション
著者:出口王仁三郎
巻:霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻
篇:第3篇 木田山城
よみ(新仮名遣い):きたやまじょう
章:第13章 思ひの掛川
よみ(新仮名遣い):おもいのかけがわ
通し章番号:2040
口述日:1934(昭和9)年08月14日(旧07月5日)
口述場所:水明閣
筆録者:内崎照代
校正日:
校正場所:
初版発行日:1934(昭和9)年12月30日
概要:
舞台:
あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]:一方エームス太子は、木田山城の奥殿に恋の悩みを述懐の歌に歌っていた。父王がイドム国を滅ぼしたために、自分がチンリウ姫の親の敵になってしまったことで、父王エームスへの恨みを歌った。
そこへ朝月、夕月が帰ってきて、チンリウ姫の心は固く、説得に失敗したことを報告した。そこでエームス太子は、侍女のアララギをこちら側に引き入れて、姫を説得させる策を思いついた。
さっそくアララギを縛ったまま太子の前に引き出した。朝月は、このまま姫が太子の思いを拒み続ければ牢獄に苦しみつづけ、思いを受け入れれば太子妃として栄華を得られるだろう、と二者択一を迫り、アララギを問い詰めた。
するとアララギは恐れ気もなく、姫を必ず説得させようと太子の前で約束した。そして牢獄に送還されたアララギは、言葉を尽くしてチンリウ姫を説得にかかった。
このままでは、我々は処刑されてしまう、それよりはエームス太子の妃になって牢獄から抜け出せば、命も助かり、よい暮らしも出来、イドム国の再興もなるだろう。何より、従者である自分たちの命を憐れと思い、どうか助けてください、と最後は姫の情に訴えた。
アララギ、センリウ母娘の嘆願によって、チンリウ姫は憐れみの心から、ついにエームス太子の思いを受け入れることに決めた。
エームス太子はさっそく三人を牢獄から解放し、立派な衣装に着替えさせ、宮殿に迎え入れた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる]:
備考:
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データ凡例:
データ最終更新日:
OBC :rm8113
愛善世界社版:
八幡書店版:第14輯 497頁
修補版:
校定版:280頁
普及版:
初版:
ページ備考:
001 木田山城の奥殿には、002エームス王只一人黙然として恋に悩みながら、003微な声にて述懐を歌ひつつありぬ。
004『この世に生れて二十年
005父と母との膝下に
006貴の御子よと育まれ
007朝な夕なに諸々の
009楽しき春秋おくり来て
010ここに二十年の春を迎へ
017日に夜に身体細りつつ
018玉の生命も朦朧と
019行方知らずの思ひなり
023わが父の力は如何に勝るとも
024情は如何に深くとも
027玉の緒の生命消えむと思ふまで
039姫の恨を如何にして
042鳴く時鳥声かれて
043血を吐く思ひのわが身なり
044朝月、夕月二柱
046何の答も夏の夜の
047短き心を如何にして
049清きなく音も百花の
050香りも吾には醜の声
051醜の小草の花なれや
052見るもの聞くもの悉く
053悲しみの種憂の種
055斯くなる上はわが生命
056生きて詮なし木田川の
057水の藻屑になり果てて
062礼なき振舞ひ今となりて
063吾を恋路に泣かしむるか
066わが恋ふる人は敵ゆゑ真心を
068恋人はわが敵国の王の御子と
069聞けばきく程悲しかりけり
070かなはざる恋と思へどわが力
072心なき花の香愛づる不甲斐なさ
074わが恋を許さぬ娘の真心を
076われは今恋の悪魔にとらはれて
077行く手も見えず闇にさまよふ
078手折るべき花にあらずと思へども
079思ひかへせぬ術なき吾なり
080よしや身は川の藻屑となるとても
081この恋心永久に失せざらむ
082朝月の生言霊も夕月の
083情言葉も聞かぬ姫かな
085姫の心を動かさむかな』
086 斯く歌ふ折しも、087朝月、088夕月は恭しくも御前に進み来りて歌ふ。
089朝月『いろいろと言霊戦射向へど
090千引の巌の動くともせず
091チンリウの姫の心は大岩の
093村肝の心つくしてかけ合へど
095わが王に会はさむ顔もなきままに
096悩みて居りぬ夕月と共に』
098『若王の清き心を照らさむと
100御父を恨む心の深くして
101チンリウ姫は少しも動かず
102わが力最早尽きたりこの上は
103手玉を替へてのぞまむと思ふ』
105『さまざまと汝等二人が働きを
107この上は侍女のアララギ呼び出し
108先づは言向け和すべきかな
109利を以てさそへば侍女のアララギは
110必ず靡かむ如何に思ふぞ』
111 朝月は手を拍つて歌ふ。
112『若王の御言かしこみアララギを
113招きて姫の心をさそはむ』
115『アララギの心動かば必ずや
116チンリウ姫もまつろひ来らむ』
117 斯くて朝月、118夕月は獄吏に命じ、119アララギを縛りたるまま、120王の前に引き来らしめければ、121万事に抜目なきアララギは、122斯くやと早合点しつつエームス王の前に引出され、123平然として控へ居る。124朝月は先づアララギに向ひて歌ふ。
125『チンリウの姫に仕ふる汝は乳母の
127苦しかる獄舎につながれうごかぬ姫は
129さまざまの責苦にあふより安らけく
131汝が心一つによりてチンリウ姫
132センリウ姫も花と栄ゆべきを
133チンリウの姫を殺すも永遠に
134花と活かすも汝の力よ
135アララギよ心しづめて答へせよ
136汝が生死の境なるぞや
137わが王の厚き心をなみすれば
138三人の生命は危ふかるべし』
139 アララギは怖気もなく満面に笑みを湛へつつ歌ふ。
140『及ばざる吾なりながら姫君に
141王の心を伝へ奉らむ
142二十年を仕へ来りし姫なれば
143わが言霊をうべなひ給はむ
144さりながら姫は御父御母を
145恨ませ給へば受け合ひがたし
146言霊のあらむ限りを打ち出して
147姫の心を動かして見む』
148 朝月は面をやはらげながら、
149『アララギの言葉よろしも若王の
150御為誠をつくし給はれ
151若王の心にかなひ奉りなば
152汝も御国の花と栄えむ
153永遠の生命保ちてこの城に
154花と匂ひつ清く栄えよ』
156『さかしかる汝アララギを力とし
157姫のよろしき便を待たむ
158わが思ひ汝が力になるならば
159吾は報いむ位を与へて』
161『ありがたし若王様の御宣言
162生命捨ててもかなはせ奉らむ』
163 これよりアララギは、164王の御前をさがり、165朝月、166夕月の従神に送られ、167チンリウ姫が押し込められて居る獄舎に帰り来り、168チンリウ姫の心を動かすべく、169言葉をつくして歌ふ。
170『チンリウ姫よ聞し召せ
171われは御前に引き出され
173王の御言を目のあたり
175吾等三人は今宵限り
176夕べの露と消ゆる身よ
177水責め火責めは未だ愚か
182和め奉ると百千々に
183心を砕きし甲斐ありて
184姫君様の返辞
195惜しき生命を保ちませ
199恐れ多くも姫様を
202許させ給へ姫君よ
203恋しき御父御母に
207忠義一途に固まりし
209完全に委曲に聞し召し
211満たさせ給へ惟神
212神の仕組と思ふ故
213真心こめて願ぎ奉る
216尊き御身は忽ちに
217重き生命を奪はれて
220千代に八千代に浮ぶ瀬は
221泣くなく歎きに沈むらむ
223許させ給へと願ぎ奉る。
224姫君の心知らずにあらねども
226姫君の生命を無事にささへつつ
227御親の恨みはらさむと思ふ』
228 チンリウ姫はわづかに歌ふ。
229『情なき乳母アララギの言葉かな
230敵にわが身を任すべきやは
231武士の娘と生れし吾なれば
233アララギの礼なき言葉聞くにつけ
235玉の緒の生命惜しみて父母の
237千万の甘き言葉も吾身には
238濁れる曲のささやきなりける』
240『姫君の言葉うべよと思へども
241ここ暫くを忍ばせ給へ
242姫君の心一つにつながりし
243吾等が生命あはれみ給へ
244姫君の答の如何は三人の
245玉の生命にかかはるものぞや
246わが母と吾等が生命諸共に
247救はせ給へチンリウの姫君』
249『恨めしき仇なりながら汝等母子の
250生命思へばためらひ心湧く
251如何にせむ行きもかへりもならぬ身の
252吾は死すより苦しかりけり
253アララギやセンリウ姫を殺すかと
254思へばかなしき生命のわが身よ
255わが心かなはずまでも今暫し
256エームス王の御言にかなはむ』
257 斯く歌ひ終るや、258朝月、259夕月は物蔭より現はれ来り、260声もさはやかに歌ふ。
262『あはれあはれ姫の心の大きさに
263木田山城は甦りたり
264エームスの王はさぞかし御心の
265清きを聞きて歓ぎ給はむ
266吾もまたチンリウ姫の御言葉
267聞きて生命の栄えを思ふ』
269『ありがたし心つくしの海の面に
270冴えたる月は浮ばせ給へり
271チンリウ姫雄々しき心聞くにつけ
273ありがたき御代の栄えのためしかな
274エームス王に妃迎へて
275いざさらば王の御前にまつぶさに
276姫の真心伝へ奉らむ
278心安かれやがて迎へむ』
280『ありがたしチンリウ姫の真心に
281われ等が生命救はれしはや
282エームスの王の御前にわが宣りし
283生言霊を伝へ給へよ』
285『アララギの心づくしの功績を
286うまらに王に伝へ奉らむ
287よき便り待たせ給へよ吾は今
288王の御前にかへりごとせむ』
289 斯くしてエームス王の恋は漸く曙光見えたれば、290王は直ちにチンリウ姫以下を牢獄より開放し、291立派なる衣裳に着替へさせ、292王の宮殿に参入せしむることとはなりぬ。
293(昭和九・八・一四 旧七・五 於水明閣 内崎照代謹録)