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第二章 瀑布(ばくふ)(なみだ)〔二五二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第6巻 霊主体従 巳の巻 篇:第1篇 山陰の雪 よみ(新仮名遣い):さんいんのゆき
章:第2章 瀑布の涙 よみ(新仮名遣い):ばくふのなみだ 通し章番号:252
口述日:1922(大正11)年01月16日(旧12月19日) 口述場所: 筆録者:井上留五郎 校正日: 校正場所: 初版発行日:1922(大正11)年5月10日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
足真彦は鬼城山の麓にやって来た。鬼城山はかつて、棒振彦らが拠点として大八洲彦命ら天使に反抗し、大足彦とも大いに戦った邪神の住処である。
とぼとぼと歩く足真彦を後から呼ばわりながら追ってくる者がある。見れば、馬にまたがった老人と若者の連れであるが、怪しい素振りが見える。若者は、宣伝使に母の三回忌の供養をして欲しいので呼び止めたのだ、という。
魔神の住処の山中で行き暮れた足真彦は、これも神様のご縁と、怪しい主従について一夜の宿を借りることに決めた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2020-04-09 16:25:55 OBC :rm0602
愛善世界社版:14頁 八幡書店版:第1輯 637頁 修補版: 校定版:16頁 普及版:6頁 初版: ページ備考:
001 ()(おそ)ろしき鬼城山(きじやうざん)002(まが)棲処(すみか)(きこ)えたる、003棒振彦(ぼうふりひこ)高虎(たかとら)の、004醜男(しこを)醜女(しこめ)(とりで)(つく)り、005悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)(かぎ)りを(つく)し、006あらゆる(すべ)ての生物(いきもの)を、007(ほふ)りて(くら)枉神(まがかみ)の、008(あさ)(ゆふ)なに()(いき)は、009(かぜ)湿(しめ)りて(なまぐさ)く、010さしもに(ひろ)き、011鬼城河(きじやうがは)012(あけ)(そま)りて(けが)れはて、013地獄(ぢごく)ならねど()(かは)と、014(なが)れも(かは)清鮮(せいせん)の、015(みづ)(すこ)しもナイヤガラ、016一大(いちだい)瀑布(ばくふ)(みぎ)()て、017(あし)(いた)めつ()長雨(ながあめ)そぼ()れて、018この()(すく)真心(まごころ)の、019(ふた)つの()より(ほとばし)る、020(なみだ)(あめ)滝津瀬(たきつせ)か、021(ひび)水音(みなおと)轟々(ぐわうぐわう)と、022この()(のろ)(おに)大蛇(をろち)023曲津(まがつ)(こゑ)(きこ)ゆなる、024深山(みやま)(たに)駆上(かけのぼ)り、025黄昏(たそがれ)(ちか)寒空(さむぞら)に、026とぼとぼ(きた)宣伝使(せんでんし)027大足彦(おほたるひこ)()れの(はて)028(つか)れて(あし)()(なや)み、029大地(だいち)にドツと安坐(あんざ)して、030(いき)(やす)むる足真彦(だるまひこ)031面壁(めんぺき)()(ねん)()れならで、032見上(みあ)ぐる(ばか)りの岸壁(がんぺき)を、033(なが)むる苦念(くねん)(いき)づかひ、034この()(すく)神人(しんじん)の、035(こころ)(そら)はかき(くも)り、036黒白(あやめ)(わか)黄昏(たそがれ)の、037(そら)(なが)めて独言(ひとりごと)
038足真彦(だるまひこ)嗚呼(ああ)(われ)(やみ)()()らさむと、039(こころ)(こま)鞭撻(むちう)つて、040駆廻(かけめぐ)りたる今日(けふ)(たび)041行衛(ゆくゑ)()らぬ月照彦(つきてるひこ)の、042(かみ)(みこと)御舎(みあらか)を、043(たづ)ぬるよしもナイヤガラ、044(こころ)()せる大瀑布(だいばくふ)045滝津(たきつ)(なみだ)()(ひと)ぞ、046()()(すす)常世国(とこよくに)047弥々(いよいよ)ここに鬼城山(きじやうざん)048(もし)魔神(まがみ)(わが)姿(すがた)049美山(みやま)(ひこ)(あら)はれて、050(あま)逆鉾(さかほこ)うち(ふる)ひ、051(すす)みきたらば(なん)とせむ。052嗚呼(ああ)千秋(せんしう)のその(うら)み、053いつの()にかは()らすべき、054(つか)()てたる吾身(わがみ)宿世(すぐせ)055(うゑ)(くる)しみ(なみだ)にかわき、056一人(ひとり)山路(やまぢ)をトボトボと、057(まよ)ひの(くも)(つつ)まれし、058()蒼生(あをひとぐさ)()らさむと、059(こころ)をこめし鹿島立(かしまだち)060(いま)(あだ)とはなりぬるか。061山野(さんや)(くら)せし年月(としつき)を、062天教山(てんけうざん)()()せる、063野立(のだち)(かみ)木花姫(このはなひめ)の、064(かみ)(みこと)(かへ)(ごと)065(まを)さむ(すべ)もナイヤガラ、066(とどろ)(むね)雷霆(いかづち)の、067(こゑ)にも(まが)(たき)()の、068()きせぬ(おも)天地(あめつち)の、069(かみ)推量(すゐりやう)ましませよ』
070宿世(すぐせ)(かこ)(をり)からに、071はるか前方(ぜんぱう)にあたつて騒々(さうざう)しき物音(ものおと)(きこ)()たりぬ。
072 足真彦(だるまひこ)は、073つと()(おこ)し、074(みみ)(かたむ)け、075何者(なにもの)ならむと思案(しあん)()るる(をり)しも、076(うま)(ひづめ)(おと)戞々(かつかつ)(ちか)より()るものありける。
077 見附(みつ)けられては大変(たいへん)と、078(こころ)(はげ)まし(つか)れし(あし)(はこ)びながら、079渓路(たにみち)さして(くだ)()かむとする(とき)しも、080後方(こうはう)よりは()いたる(かみ)()えて、081(しわが)(ごゑ)張揚(はりあ)げながら、
082鬼熊彦(実は蚊取別)『オーイ、083オーイ』
084()ばはりける。085その言霊(ことたま)(にご)れるは、086(ただ)しき(かみ)にあらざるべし。
087 (つか)()てたる(いま)()に、088魔神(まがみ)襲撃(しふげき)されてはたまらじと、089(はこ)ばぬ(あし)無理(むり)やりに、090一歩(いつぽ)一歩(いつぽ)(はし)()く。
091 (こま)()きつれし枉神(まがかみ)()もなく追着(おひつ)きぬ。092進退(しんたい)これ(きは)まりたる足真彦(だるまひこ)は、093わざと元気(げんき)(よそ)ひ、094(つるぎ)(つか)()()けて、095()らば()らむと身構(みがま)()る。
096 このとき薬鑵頭(やくわんあたま)(おやぢ)097両手(りやうて)をついて宣伝使(せんでんし)(むか)ひ、
098鬼熊彦貴下(きか)天下(てんか)宣伝使(せんでんし)見受(みう)(たてまつ)る。099(われ)(ひと)つの(ねがひ)あり。100(ねが)はくば宣伝使(せんでんし)諸人(しよにん)(すく)(たま)慈心(じしん)によつて、101(わが)一生(いつしやう)(ねがひ)(かな)(たま)はずや』
102とさも慇懃(いんぎん)なり。103宣伝使(せんでんし)は、
104足真彦(ねがひ)とは何事(なにごと)ぞ』
105と、106やや緊張(きんちやう)したる顔色(がんしよく)にて()(かへ)せば、107禿頭(はげあたま)(をとこ)はただ(そで)(もつ)(なみだ)(ぬぐ)ひ、108大地(だいち)平伏(へいふく)するのみなりき。109(なか)にも(やや)(わか)き、110(ひたひ)馬鹿(ばか)突出(つきで)たる、111福助頭(ふくすけあたま)(くろ)(かほ)(をとこ)は、112人形(にんぎやう)芝居(しばゐ)人形(にんぎやう)(くび)(やう)器械(きかい)(てき)(かほ)()りながら、113(なみだ)(ぬぐ)真似(まね)をして、
114鬼虎(たび)のお(かた)(ひと)つの()(ねがひ)があります。115(いま)ここに平伏(へいふく)して()るのは(わが)(ちち)であります。116不幸(ふかう)にして(さん)(ねん)以前(いぜん)(つま)(わか)れ、117(いま)老木(おいき)(こころ)(さび)しき余生(よせい)(おく)()(うへ)118せめて今日(けふ)(つま)(さん)(ねん)にあたる命日(めいにち)なれば、119その(れい)(なぐさ)むるため、120この難路(なんろ)往来(わうらい)する旅人(たびびと)供養(くやう)をなし、121(つま)追善(つゐぜん)のため四方(しはう)家僕(かぼく)派遣(はけん)し、122往来(ゆきき)(なや)(たび)(ひと)(たす)け、123(みにく)(わが)茅屋(あばらや)一宿(いつしゆく)(ねが)ひ、124宣伝歌(せんでんか)霊前(れいぜん)(とな)へて、125(その)(れい)(なぐさ)(たま)はるべき()(かた)(もと)めつつあるのであります。126しかるに如何(いか)なる宿世(すぐせ)因縁(いんねん)か、127宣伝使(せんでんし)たる貴下(きか)御姿(みすがた)(はい)し、128(うれ)しさに()へず失礼(しつれい)(かへりみ)ず、129御迹(みあと)()うてここまで到着(たうちやく)いたしました。130(ちち)のためには(つま)なれど、131(わたくし)のためには肉身(にくしん)(うみ)(はは)三年祭(さんねんさい)132父子(おやこ)(とも)宣伝使(せんでんし)往来(わうらい)()つて()ました。133どうぞ一夜(いちや)宿泊(やど)(ねが)ひます』
134と、135(まこと)しやかに洟啜(はなすす)りながら、136(こゑ)までかすめ(ねが)()る。
137 油断(ゆだん)ならずと宣伝使(せんでんし)は、138やや思案(しあん)()れながら、139無言(むごん)のまま佇立(ちよりつ)して(かれ)らの言葉(ことば)(あや)しみつつありける。
140 父子(おやこ)(くち)(そろ)へて、
141鬼熊彦・鬼虎(まこと)貴下(きか)のごとき(たふと)神人(かみ)(わが)茅屋(あばらや)宿泊(やど)(ねが)ふは、142(ぶん)()ぎたる(ねがひ)でありますが、143袖振(そでふり)()ふも多生(たせう)(えん)とやら、144今日(けふ)(つま)(はは)三年祭(さんねんさい)(あた)り、145()くも有難(ありがた)宣伝使(せんでんし)邂逅(かいこう)(たてまつ)るは、146(まつた)(つま)(れい)守護(しゆご)する(こと)(しん)じて(うたが)ひませぬ。147かかる草深(くさふか)山中(さんちゆう)(こと)なれば、148()()ぐべき馳走(ちそう)とてはありませぬが、149鬼城山(きじやうざん)名物(めいぶつ)たる無花果(いちじゆく)果実(このみ)香具(かぐ)果物(このみ)および(やま)(いも)などは、150沢山(たくさん)(たくは)へて()りますから、151どうぞ吾々(われわれ)(ねがひ)(かな)へて(この)痩馬(やせうま)()()しくださらば、152(とも)(つかまつ)ります』
153(たの)()る。
154 足真彦(だるまひこ)(みち)()()れて宿(やど)るべき(ところ)もなく、155かつ(はら)(むな)しく(あし)(つか)れ、156悲観(ひくわん)(きよく)(たつ)した(さい)(こと)なれば、157やや顔色(がんしよく)(やはら)げ、158……エー、159どうならうと(まま)よ。160木花姫(このはなひめ)神勅(しんちよく)には、161(けつ)して一人旅(ひとりたび)(おも)ふな、162(かみ)(なんぢ)背後(あと)()ひて(まも)らむと(あふ)せられたれば、163(これ)(まつた)(かみ)()繰合(くりあは)せならむ……と(こころ)(けつ)し、164(ただち)承諾(しようだく)(むね)(しめ)した。
165 嗚呼(ああ)この父子(ふし)何者(なにもの)ならむか。
166大正一一・一・一六 旧大正一〇・一二・一九 井上留五郎録)
167(第二章 昭和一〇・一・二八 於筑紫別院 王仁校正)
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