魔の岩窟から本物のお節を救い出した一行は、真名井ケ原に進んで行く。五人の男は裸のまま、比治山颪に吹かれながら坂を登っていく。
岩公、勘公、櫟公は寒さしのぎに、平助、お楢、お節を背負って登っていくことにした。
平助は鬼虎・鬼彦の一年前の仕業をまだ根に持っていて、意地の悪いことを言い続ける。鬼虎と鬼彦が相撲をしたはずみに谷へ落ち込んだのを見ても、愉快気に笑って悪態をついている。また平助とお楢は、一同の心を疑って、泥棒扱いをする。
そのうちに鬼彦と鬼虎は自力で谷から上がってきた。すると天から微妙の音楽が聞こえて空中に声がし、岩公、勘公、櫟公に宣伝使服が降された。
宣伝使服は三人に自然に密着すると、三人は天女の姿になって空中を翔けて真名井ケ原に飛んでいった。
この様を見て、お節は泣いて非を詫び、平助とお楢に改心を促した。
次に鬼虎と鬼彦にも宣伝使服が降され、二人も霊地に向かって空中を翔けて行った。
平助はあんな者どもが天女になるなんて、と愚痴をこぼしている。お楢は、自分たち夫婦が若い頃から金に強欲で、人の心を殺してきた罪から、去年お節をさらわれた凶事が出てきたのではないか、と省みた。そして、これは神様が善と悪の鑑を見せてくださったのだ、と平助に改心を促した。
五人の男が羽化登仙したのは、実は肉体では徹底的な改心ができず、神業に参加する資格がないために、神界の慈悲によって凍死せしめたのであった。そうして、天国に救って神業に参加させたのである。
五人の遺体は平助親子の知らぬ間に土中に深く埋められた。
そして真の悦子姫、音彦、青彦、加米彦はすでに真名井ケ原に到着していた。