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天祥地瑞
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第75巻(寅の巻)
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第17巻(辰の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 雪山幽谷
01 黄金の衣
〔612〕
02 魔の窟
〔613〕
03 生死不明
〔614〕
04 羽化登仙
〔615〕
05 誘惑婆
〔616〕
06 瑞の宝座
〔617〕
第2篇 千態万様
07 枯尾花
〔618〕
08 蚯蚓の囁
〔619〕
09 大逆転
〔620〕
10 四百種病
〔621〕
11 顕幽交通
〔622〕
第3篇 鬼ケ城山
12 花と花
〔623〕
13 紫姫
〔624〕
14 空谷の足音
〔625〕
15 敵味方
〔626〕
16 城攻
〔627〕
17 有終の美
〔628〕
霊の礎(三)
暁山雲(謡曲)
余白歌
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第一六章
城攻
(
しろぜめ
)
〔六二七〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第17巻 如意宝珠 辰の巻
篇:
第3篇 鬼ケ城山
よみ(新仮名遣い):
おにがじょうざん
章:
第16章 城攻
よみ(新仮名遣い):
しろぜめ
通し章番号:
627
口述日:
1922(大正11)年04月23日(旧03月27日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年1月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
鬼熊別と蜈蚣姫は宣伝使らが三嶽の岩窟を破って鬼ケ城に進んできたことを知り、城内の兵士を集めて作戦会議を開いた。
荒鷹、鬼鷹は、紫姫、丹州、鹿公、馬公とともに言霊戦に立ち向かうことを申し出、鬼熊別・蜈蚣姫の許可を得た。
鬼ケ城側が防戦準備をしていると、加米彦が寄せ手として宣伝歌を歌いながら進んできた。
加米彦の宣伝歌に鬼ケ城の士卒たちは苦悶の態を現したが、鬼ケ城からは丹州が応戦した。丹州の歌は、鬼熊別を弁護するようでいて、それとなく改心を勧める歌であった。
続いて夏彦が、攻撃側として宣伝歌を歌うが、こっけいな言霊で、加米彦からからかわれる。
守備側の鬼ケ城では、鹿公が立って防戦の歌を歌うが、これもまたこれまでの経緯を滑稽に歌った歌で、歌い終わると鹿公は、一目散に三五教の陣に走ってきて降伏してしまう。
鹿公の様子のおかしさに、宣伝使一同は吹きだす。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-02-14 01:02:21
OBC :
rm1716
愛善世界社版:
251頁
八幡書店版:
第3輯 617頁
修補版:
校定版:
258頁
普及版:
113頁
初版:
ページ備考:
001
冷
(
つめ
)
たき
風
(
かぜ
)
も
福知山
(
ふくちやま
)
、
002
世
(
よ
)
を
艮
(
うしとら
)
の
大空
(
おほぞら
)
に
聳
(
そそ
)
り
立
(
た
)
ちたる
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
、
003
千引
(
ちびき
)
の
岩
(
いは
)
にて
固
(
かた
)
めたる、
004
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
が
千代
(
ちよ
)
の
住家
(
すみか
)
、
005
金城
(
きんじやう
)
鉄壁
(
てつぺき
)
一卒
(
いつそつ
)
これを
守
(
まも
)
れば
万卒
(
ばんそつ
)
攻
(
せ
)
むべからざる、
006
敵
(
てき
)
の
攻撃
(
こうげき
)
に
対
(
たい
)
しては
絶対
(
ぜつたい
)
的
(
てき
)
の
安全
(
あんぜん
)
地帯
(
ちたい
)
、
007
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
に
築
(
きづ
)
きたる
八尋殿
(
やひろどの
)
に
砦
(
とりで
)
の
棟梁
(
とうりやう
)
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
は、
008
角
(
つの
)
の
生
(
は
)
えたる
命
(
いのち
)
の
女房
(
にようばう
)
、
009
顔色
(
かほいろ
)
黒
(
くろ
)
い
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
数多
(
あまた
)
の
人足
(
にんそく
)
従
(
したが
)
へて
夜昼
(
よるひる
)
堅固
(
けんご
)
に
守
(
まも
)
り
居
(
ゐ
)
る。
010
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
が
懐中刀
(
ふところがたな
)
と
頼
(
たの
)
みたる、
011
荒鷹
(
あらたか
)
、
012
鬼鷹
(
おにたか
)
始
(
はじ
)
めとし、
013
紫姫
(
むらさきひめ
)
や
容貌
(
みめかたち
)
美
(
よ
)
き
丹州
(
たんしう
)
の、
014
味方
(
みかた
)
の
兵士
(
つはもの
)
を
呼
(
よ
)
び
集
(
あつ
)
め、
015
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
016
悦子姫
(
よしこひめ
)
が
率
(
ひき
)
ゐ
来
(
きた
)
る
言霊隊
(
ことたまたい
)
の
進軍
(
しんぐん
)
に
対
(
たい
)
して、
017
防戦
(
ばうせん
)
の
協議
(
けふぎ
)
を
凝
(
こ
)
らす
大会議
(
だいくわいぎ
)
、
018
数多
(
あまた
)
の
従卒
(
じゆうそつ
)
岩窟戸
(
いはやど
)
の
周囲
(
まはり
)
を
十重
(
とへ
)
二十重
(
はたへ
)
に
取
(
と
)
り
囲
(
かこ
)
み、
019
敵
(
てき
)
の
襲来
(
しふらい
)
に
備
(
そな
)
へ
居
(
ゐ
)
るその
物々
(
ものもの
)
しさ、
020
よその
見
(
み
)
る
目
(
め
)
も
勇
(
いさ
)
ましき。
021
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
は
一同
(
いちどう
)
に
向
(
むか
)
ひ、
022
鬼熊別
『
三五教
(
あななひけう
)
の
奴原
(
やつばら
)
、
023
大江山
(
おほえやま
)
に
在
(
ましま
)
す
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
の
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
の
館
(
やかた
)
を
蹂躙
(
じうりん
)
し、
024
尚
(
な
)
ほ
進
(
すす
)
みて
三嶽
(
みたけ
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
を
破壊
(
はくわい
)
し
去
(
さ
)
り、
025
今
(
いま
)
や
少数
(
せうすう
)
の
神軍
(
しんぐん
)
をもつて
本城
(
ほんじやう
)
に
押
(
お
)
し
寄
(
よ
)
せ
来
(
きた
)
るとの
注進
(
ちうしん
)
、
026
吾
(
われ
)
は
名
(
な
)
に
負
(
お
)
ふ
大軍
(
たいぐん
)
を
擁
(
よう
)
し、
027
斯
(
かか
)
る
堅城
(
けんじやう
)
鉄壁
(
てつぺき
)
を
構
(
かま
)
へ
居
(
を
)
れば、
028
如何
(
いか
)
なる
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
鬼神
(
きしん
)
の
襲来
(
しふらい
)
と
雖
(
いへど
)
も
屈
(
くつ
)
するに
及
(
およ
)
ばず、
029
然
(
さ
)
はさりながら
油断
(
ゆだん
)
は
大敵
(
たいてき
)
、
030
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
は
是
(
これ
)
より、
031
味方
(
みかた
)
の
数多
(
あまた
)
の
部下
(
ぶか
)
を
引率
(
いんそつ
)
し、
032
所在
(
あらゆる
)
武器
(
ぶき
)
をもつて
敵
(
てき
)
に
向
(
むか
)
ひ、
033
只
(
ただ
)
一戦
(
いつせん
)
に
殲滅
(
せんめつ
)
せよ、
034
夫
(
それ
)
についての
作戦
(
さくせん
)
計画
(
けいくわく
)
、
035
意見
(
いけん
)
あらば
各
(
かく
)
吾前
(
わがまへ
)
へ
開陳
(
かいちん
)
せよ』
036
と
厳命
(
げんめい
)
したりければ、
037
荒鷹
(
あらたか
)
は
進
(
すす
)
み
出
(
い
)
で、
038
荒鷹
(
あらたか
)
『
御
(
おん
)
大将
(
たいしやう
)
の
御
(
おん
)
仰
(
あふ
)
せ、
039
一応
(
いちおう
)
御尤
(
ごもつと
)
もでは
御座
(
ござ
)
いますが、
040
御存
(
ごぞん
)
じの
通
(
とほ
)
り
大江山
(
おほえやま
)
の
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
は
数多
(
あまた
)
の
味方
(
みかた
)
を
擁
(
よう
)
しながら、
041
僅
(
わづか
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
のために
一敗
(
いつぱい
)
地
(
ち
)
に
塗
(
まみ
)
れて
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
遁走
(
とんそう
)
せられたる
如
(
ごと
)
く、
042
到底
(
たうてい
)
天来
(
てんらい
)
の
神軍
(
しんぐん
)
に
対
(
たい
)
し
武器
(
ぶき
)
をもつて
向
(
むか
)
ふは
心許
(
こころもと
)
なし、
043
何
(
なに
)
か
良
(
よ
)
き
方法
(
はうはふ
)
あらばお
示
(
しめ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ』
044
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『さうだと
申
(
まを
)
して
此
(
この
)
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
に
於
(
おい
)
ては、
045
槍
(
やり
)
、
046
長刀
(
なぎなた
)
、
047
剣
(
つるぎ
)
の
外
(
ほか
)
に
敵
(
てき
)
に
対
(
たい
)
する
武器
(
ぶき
)
はあらず。
048
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
如何
(
いか
)
に
致
(
いた
)
す
所存
(
しよぞん
)
にや、
049
良策
(
りやうさく
)
あらば
遠慮
(
ゑんりよ
)
なく
開陳
(
かいちん
)
せよ』
050
鬼鷹
(
おにたか
)
『
畏
(
おそ
)
れながら、
051
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
、
052
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
様
(
さま
)
に
申上
(
まをしあげ
)
ます、
053
敵
(
てき
)
は
言霊
(
ことたま
)
を
以
(
もつ
)
て
迫
(
せま
)
り
来
(
きた
)
り、
054
五色
(
ごしき
)
の
霊光
(
れいくわう
)
を
放射
(
はうしや
)
し
敵
(
てき
)
を
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
に
駆悩
(
かけなや
)
ます
神力
(
しんりき
)
を
具備
(
ぐび
)
し
居
(
を
)
れば、
055
到底
(
たうてい
)
此
(
この
)
儘
(
まま
)
にては
叶
(
かな
)
ひ
難
(
がた
)
し。
056
吾
(
われ
)
は
幸
(
さいは
)
ひ
一声
(
いつせい
)
天地
(
てんち
)
を
震撼
(
しんかん
)
し、
057
一言
(
いちげん
)
風雨
(
ふうう
)
雷霆
(
らいてい
)
を
叱咤
(
しつた
)
する
神力
(
しんりき
)
を
図
(
はか
)
らずも
三嶽山
(
みたけやま
)
の
山上
(
さんじやう
)
に
於
(
おい
)
て
白髪
(
はくはつ
)
異様
(
いやう
)
の
神人
(
しんじん
)
より
伝授
(
でんじゆ
)
されました、
058
もう
此
(
この
)
上
(
うへ
)
は
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
、
059
仮令
(
たとへ
)
幾万
(
いくまん
)
の
武器
(
ぶき
)
ありとも、
060
部下
(
ぶか
)
の
身体
(
からだ
)
を
霊縛
(
れいばく
)
されなば
如何
(
いかん
)
ともする
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ますまい、
061
吾々
(
われわれ
)
は
言霊
(
ことたま
)
を
以
(
もつ
)
て
寄
(
よ
)
せ
来
(
く
)
る
敵
(
てき
)
を
殲滅
(
せんめつ
)
するを
最上
(
さいじやう
)
の
策
(
さく
)
と
存
(
ぞん
)
じます』
062
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
『
汝
(
なんぢ
)
一人
(
ひとり
)
如何
(
いか
)
に
言霊
(
ことたま
)
を
応用
(
おうよう
)
すればとて、
063
其
(
その
)
他
(
た
)
の
部将
(
ぶしやう
)
は
如何
(
いかが
)
致
(
いた
)
す
積
(
つも
)
りだ』
064
鬼鷹
(
おにたか
)
『
畏
(
おそ
)
れながら、
065
荒鷹
(
あらたか
)
、
066
丹州
(
たんしう
)
、
067
紫姫
(
むらさきひめ
)
のお
歴々
(
れきれき
)
は、
068
私
(
わたし
)
と
一度
(
いちど
)
に
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
言霊
(
ことたま
)
の
妙術
(
めうじゆつ
)
を
神人
(
しんじん
)
より
伝授
(
でんじゆ
)
され
居
(
を
)
りますれば、
069
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
あらせられな、
070
仮令
(
たとへ
)
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
071
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
霊術
(
れいじゆつ
)
をもつて
迫
(
せま
)
り
来
(
きた
)
るとも、
072
吾
(
わ
)
が
言霊
(
ことたま
)
の
威力
(
ゐりよく
)
を
以
(
もつ
)
て、
073
縦横
(
じうわう
)
無尽
(
むじん
)
にかけ
悩
(
なや
)
まさむ、
074
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
数多
(
あまた
)
の
部下
(
ぶか
)
を
労
(
らう
)
し、
075
兇器
(
きようき
)
をもつて
向
(
むか
)
はせ
給
(
たま
)
ふべからず、
076
確
(
たしか
)
に
吾々
(
われわれ
)
勝算
(
しようさん
)
が
御座
(
ござ
)
る』
077
と
事
(
こと
)
もなげに
述
(
の
)
べ
立
(
た
)
てたるに、
078
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
、
079
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
は
満面
(
まんめん
)
に
笑
(
ゑみ
)
を
湛
(
たた
)
へ、
080
鬼熊別
『
然
(
しか
)
らば
鬼鷹
(
おにたか
)
汝
(
なんぢ
)
に
全軍
(
ぜんぐん
)
の
指揮
(
しき
)
を
命
(
めい
)
ず、
081
必
(
かなら
)
ず
共
(
とも
)
に
油断
(
ゆだん
)
致
(
いた
)
すな、
082
吾
(
われ
)
は
是
(
これ
)
より
高楼
(
たかどの
)
に
登
(
のぼ
)
り、
083
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
が
奮戦
(
ふんせん
)
の
状況
(
じやうきやう
)
を
見
(
み
)
む、
084
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
来
(
きた
)
れ』
085
と
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
つて
奥
(
おく
)
の
一間
(
ひとま
)
に
悠々
(
いういう
)
と
忍
(
しの
)
び
入
(
い
)
る。
086
忽
(
たちま
)
ち
聞
(
きこ
)
ゆる
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
声
(
こゑ
)
に
耳
(
みみ
)
を
聳立
(
そばだ
)
て、
087
鬼鷹
(
おにたか
)
『ヤアヤアかたがた、
088
敵
(
てき
)
は
間近
(
まぢか
)
く
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せました、
089
何
(
いづ
)
れも
防戦
(
ばうせん
)
の
用意
(
ようい
)
あれ』
090
荒鷹
(
あらたか
)
『
仮令
(
たとへ
)
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
091
悦子姫
(
よしこひめ
)
、
092
音彦
(
おとひこ
)
、
093
加米彦
(
かめひこ
)
、
094
青瓢箪
(
あをべうたん
)
彦
(
ひこ
)
、
095
腰
(
こし
)
の
曲
(
まが
)
つた
夏彦
(
なつひこ
)
、
096
狐
(
きつね
)
のやうに
目
(
め
)
の
釣
(
つ
)
り
上
(
あが
)
つた
常彦
(
つねひこ
)
押寄
(
おしよ
)
せ
来
(
きた
)
るとも、
097
吾
(
われ
)
は
孫呉
(
そんご
)
の
秘術
(
ひじゆつ
)
を
揮
(
ふる
)
ひ、
098
否々
(
いないな
)
神変
(
しんぺん
)
不思議
(
ふしぎ
)
の
言霊
(
ことたま
)
の
妙術
(
めうじゆつ
)
を
発揮
(
はつき
)
し、
099
敵
(
てき
)
を
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
に
駆悩
(
かけなや
)
まし、
100
勝鬨
(
かちどき
)
上
(
あ
)
げるは
瞬
(
またた
)
く
間
(
うち
)
』
101
と
勇
(
いさ
)
める
顔色
(
がんしよく
)
英気
(
えいき
)
に
満
(
み
)
ち、
102
威風
(
ゐふう
)
凛々
(
りんりん
)
として
四辺
(
あたり
)
を
払
(
はら
)
ふ
勇
(
いさ
)
ましさ。
103
一同
(
いちどう
)
は
双手
(
もろて
)
を
打
(
う
)
ち
一斉
(
いつせい
)
にウローウローと
鬨
(
とき
)
の
声
(
こゑ
)
、
104
山岳
(
さんがく
)
も
崩
(
くづ
)
るる
許
(
ばか
)
りの
光景
(
くわうけい
)
なり。
105
宣伝歌
(
せんでんか
)
の
声
(
こゑ
)
に
一同
(
いちどう
)
は
勇
(
いさ
)
み
立
(
た
)
ち、
106
鬼鷹
(
おにたか
)
、
107
荒鷹
(
あらたか
)
其
(
その
)
他
(
た
)
の
言霊隊
(
ことたまたい
)
は
廊下
(
らうか
)
に
立
(
た
)
ち
現
(
あら
)
はれ、
108
寄
(
よ
)
せ
来
(
く
)
る
神軍
(
しんぐん
)
の
言霊
(
ことたま
)
の
散弾
(
さんだん
)
に
向
(
むか
)
つて
防戦
(
ばうせん
)
の
用意
(
ようい
)
に
取
(
と
)
りかかりぬ。
109
寄手
(
よせて
)
の
部将
(
ぶしやう
)
加米彦
(
かめひこ
)
は
声
(
こゑ
)
も
涼
(
すず
)
しく
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
宣
(
の
)
り
始
(
はじ
)
めたり。
110
加米彦
『
神
(
かみ
)
が
表
(
おもて
)
に
現
(
あら
)
はれて
111
善
(
ぜん
)
と
悪
(
あく
)
とを
立
(
た
)
て
別
(
わ
)
ける
112
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
運
(
うん
)
の
尽
(
つ
)
き
113
亡
(
ほろ
)
び
行
(
ゆ
)
く
世
(
よ
)
は
如月
(
きさらぎ
)
の
114
三五
(
さんご
)
の
月
(
つき
)
は
大空
(
おほぞら
)
に
115
明皎々
(
めいかうかう
)
と
輝
(
かがや
)
きて
116
鬼
(
おに
)
の
頭
(
かしら
)
を
照
(
てら
)
すなり
117
万代
(
よろづよ
)
祝
(
いは
)
ふ
加米彦
(
かめひこ
)
が
118
悪魔
(
あくま
)
の
砦
(
とりで
)
に
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せて
119
宣
(
の
)
る
言霊
(
ことたま
)
は
天地
(
あめつち
)
の
120
百
(
もも
)
の
神
(
かみ
)
達
(
たち
)
八百万
(
やほよろづ
)
121
諾
(
うべな
)
ひ
給
(
たま
)
へ
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
122
群
(
むら
)
がる
曲
(
まが
)
を
言向
(
ことむ
)
けて
123
西
(
にし
)
の
海
(
うみ
)
へと
逐散
(
おひち
)
らし
124
豊葦原
(
とよあしはら
)
の
瑞穂国
(
みづほくに
)
125
隈
(
くま
)
なく
照
(
てら
)
す
言霊
(
ことたま
)
の
126
誠
(
まこと
)
の
水火
(
いき
)
を
受
(
う
)
けて
見
(
み
)
よ
127
槍
(
やり
)
雉刀
(
なぎなた
)
や
剣
(
つるぎ
)
太刀
(
たち
)
128
穂先
(
ほさき
)
を
揃
(
そろ
)
へて
攻
(
せ
)
め
来
(
く
)
とも
129
皇
(
すめ
)
大神
(
おほかみ
)
の
守
(
まも
)
ります
130
吾
(
わが
)
加米彦
(
かめひこ
)
の
誠心
(
まごころ
)
は
131
火
(
ひ
)
にも
焼
(
や
)
けない
又
(
また
)
水
(
みづ
)
に
132
溺
(
おぼ
)
れもせない
如意
(
によい
)
宝珠
(
ほつしゆ
)
133
万代
(
よろづよ
)
朽
(
く
)
ちぬ
生身魂
(
いくみたま
)
134
玉
(
たま
)
の
御柱
(
みはしら
)
立
(
た
)
て
直
(
なほ
)
し
135
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
す
其
(
その
)
ために
136
今
(
いま
)
や
加米彦
(
かめひこ
)
向
(
むか
)
うたり
137
吾
(
われ
)
と
思
(
おも
)
はむ
奴原
(
やつばら
)
は
138
一人
(
ひとり
)
二人
(
ふたり
)
は
面倒
(
めんだう
)
だ
139
千万
(
せんまん
)
人
(
にん
)
も
一時
(
ひととき
)
に
140
小束
(
こたば
)
となつて
攻
(
せ
)
め
来
(
きた
)
れ
141
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
142
神
(
かみ
)
の
御魂
(
みたま
)
を
蒙
(
かかぶ
)
りて
143
息吹
(
いぶき
)
の
狭霧
(
さぎり
)
に
吹
(
ふ
)
き
払
(
はら
)
ひ
144
風
(
かぜ
)
に
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
の
散
(
ち
)
る
如
(
ごと
)
く
145
吹
(
ふ
)
き
散
(
ち
)
らさむは
目
(
ま
)
のあたり
146
心
(
こころ
)
改
(
あらた
)
め
吾
(
わが
)
前
(
まへ
)
に
147
帰順
(
きじゆん
)
致
(
いた
)
すかさもなくば
148
城
(
しろ
)
を
枕
(
まくら
)
に
討死
(
うちじに
)
か
149
それも
厭
(
いや
)
なら
逸早
(
いちはや
)
く
150
城
(
しろ
)
明
(
あ
)
け
渡
(
わた
)
し
逃
(
に
)
げ
出
(
いだ
)
せ
151
月
(
つき
)
は
盈
(
み
)
つとも
虧
(
か
)
くるとも
152
仮令
(
たとへ
)
大地
(
だいち
)
は
沈
(
しづ
)
むとも
153
此
(
この
)
加米彦
(
かめひこ
)
が
麻柱
(
あななひ
)
の
154
心
(
こころ
)
の
魂
(
たま
)
に
言向
(
ことむ
)
けて
155
丹波
(
たんば
)
の
空
(
そら
)
に
塞
(
ふさ
)
がれる
156
雲霧
(
くもきり
)
四方
(
よも
)
に
吹
(
ふ
)
き
払
(
はら
)
ひ
157
清
(
きよ
)
めて
晴
(
は
)
らす
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
158
嗚呼
(
ああ
)
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い
159
神
(
かみ
)
の
守
(
まも
)
りの
宣伝使
(
せんでんし
)
160
嗚呼
(
ああ
)
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
161
御魂
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひ
坐
(
まし
)
ませよ』
162
と
謡
(
うた
)
ひ
終
(
をは
)
りし
加米彦
(
かめひこ
)
が
宣伝歌
(
せんでんか
)
に
四辺
(
あたり
)
を
守
(
まも
)
る
数多
(
あまた
)
の
部卒
(
ぶそつ
)
は
頭
(
あたま
)
を
振
(
ふ
)
り
暫
(
しばら
)
く
苦悶
(
くもん
)
の
体
(
てい
)
を
現
(
あら
)
はしける。
163
少壮
(
せうさう
)
白面
(
はくめん
)
の
丹州
(
たんしう
)
は、
164
加米彦
(
かめひこ
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
応戦
(
おうせん
)
すべく
白扇
(
はくせん
)
を
披
(
ひら
)
き
左右左
(
さいうさ
)
に
打
(
う
)
ちふりながら、
165
丹州
『
誠
(
まこと
)
の
風
(
かぜ
)
の
福知山
(
ふくちやま
)
166
人
(
ひと
)
の
心
(
こころ
)
の
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
167
鬼
(
おに
)
も
大蛇
(
をろち
)
も
言向
(
ことむ
)
けて
168
世人
(
よびと
)
を
救
(
すく
)
ふ
神心
(
かみごころ
)
169
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
はバラモンの
170
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
171
素
(
もと
)
より
悪
(
あし
)
き
者
(
もの
)
ならず
172
顔色
(
かほいろ
)
黒
(
くろ
)
き
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
173
色
(
いろ
)
の
黒
(
くろ
)
いに
霊
(
たま
)
ぬかれ
174
知
(
し
)
らず
識
(
し
)
らずに
水晶
(
すゐしやう
)
の
175
清
(
きよ
)
き
霊
(
みたま
)
は
曇
(
くも
)
り
果
(
は
)
て
176
常夜
(
とこよ
)
の
暗
(
やみ
)
となり
果
(
は
)
てぬ
177
さはさりながら
加米彦
(
かめひこ
)
よ
178
人
(
ひと
)
は
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
神
(
かみ
)
の
宮
(
みや
)
179
悪
(
あく
)
の
中
(
なか
)
にも
善
(
ぜん
)
がある
180
善
(
ぜん
)
に
見
(
み
)
えても
悪
(
あく
)
がある
181
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
大将
(
たいしやう
)
は
182
欲
(
よく
)
に
心
(
こころ
)
を
曇
(
くも
)
らせて
183
曲
(
まが
)
の
言霊
(
ことたま
)
宣
(
の
)
りつれど
184
時節
(
じせつ
)
来
(
きた
)
れば
又
(
また
)
元
(
もと
)
の
185
神
(
かみ
)
の
霊
(
みたま
)
と
立
(
た
)
ち
復
(
かへ
)
り
186
神
(
かみ
)
の
御
(
おん
)
為
(
た
)
め
国
(
くに
)
のため
187
世人
(
よびと
)
のために
勲功
(
いさをし
)
を
188
ひよつと
立
(
た
)
てまいものでない
189
許
(
ゆる
)
せよ
許
(
ゆる
)
せ
麻柱
(
あななひ
)
の
190
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
191
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
りし
神直日
(
かむなほひ
)
192
心
(
こころ
)
も
広
(
ひろ
)
き
大直日
(
おほなほひ
)
193
唯
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
人
(
ひと
)
の
世
(
よ
)
は
194
直日
(
なほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
せ
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
せ
195
身
(
み
)
の
過
(
あやま
)
ちは
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ
196
これぞ
天地
(
てんち
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
197
御旨
(
みむね
)
に
等
(
ひと
)
しき
心
(
こころ
)
なり
198
嗚呼
(
ああ
)
加米彦
(
かめひこ
)
よ
加米彦
(
かめひこ
)
よ
199
これの
砦
(
とりで
)
に
立
(
た
)
ち
向
(
むか
)
ひ
200
言霊戦
(
ことたません
)
を
開始
(
かいし
)
して
201
勝鬨
(
かちどき
)
あぐる
汝
(
な
)
が
心
(
こころ
)
202
さはさりながらさりながら
203
満
(
み
)
つれば
欠
(
か
)
くる
世
(
よ
)
の
習
(
なら
)
ひ
204
弱
(
よわ
)
きを
助
(
たす
)
け
強
(
つよ
)
きをば
205
抑
(
おさ
)
へて
行
(
ゆ
)
くが
神
(
かみ
)
の
道
(
みち
)
206
勝
(
かち
)
に
乗
(
じやう
)
じて
徒
(
いたづら
)
に
207
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
が
味方
(
みかた
)
を
悩
(
なや
)
ますな
208
神
(
かみ
)
の
御眼
(
みめ
)
より
見給
(
みたま
)
へば
209
世界
(
せかい
)
の
者
(
もの
)
は
皆
(
みな
)
我
(
わ
)
が
子
(
こ
)
210
神
(
かみ
)
は
親
(
おや
)
なり
人
(
ひと
)
は
子
(
こ
)
よ
211
人
(
ひと
)
と
人
(
ひと
)
とは
兄弟
(
きやうだい
)
よ
212
兄弟
(
けうだい
)
喧嘩
(
げんくわ
)
は
両親
(
りやうしん
)
に
213
対
(
たい
)
して
不幸
(
ふかう
)
となるものぞ
214
吾
(
わ
)
が
言霊
(
ことたま
)
の
一
(
ひと
)
つだに
215
汝
(
なんぢ
)
が
耳
(
みみ
)
に
入
(
い
)
るならば
216
早
(
はや
)
く
此
(
この
)
場
(
ば
)
を
立
(
た
)
ち
去
(
さ
)
れよ
217
世人
(
よびと
)
を
救
(
すく
)
ふ
宣伝使
(
せんでんし
)
218
嗚呼
(
ああ
)
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
219
御魂
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はへましませよ』
220
と
謡
(
うた
)
ひ
終
(
をは
)
り
忽
(
たちま
)
ち
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
したり。
221
加米彦
(
かめひこ
)
『
何
(
なん
)
だ
丹州
(
たんしう
)
の
奴
(
やつ
)
、
222
敵
(
てき
)
だか
味方
(
みかた
)
だか
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
事
(
こと
)
を
云
(
い
)
ひよつたな、
223
エヽ
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
奴
(
やつ
)
だ。
224
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
に
余程
(
よほど
)
気兼
(
きがね
)
をして
居
(
ゐ
)
ると
見
(
み
)
える
哩
(
わい
)
、
225
アハヽヽヽヽ』
226
腰
(
こし
)
のくの
字
(
じ
)
に
曲
(
まが
)
つた
小男
(
こをとこ
)
の
夏彦
(
なつひこ
)
は
敵
(
てき
)
の
岩窟
(
がんくつ
)
に
向
(
むか
)
ひ、
227
言霊戦
(
ことたません
)
を
開始
(
かいし
)
すべく
宣伝歌
(
せんでんか
)
を
歌
(
うた
)
ひ
始
(
はじ
)
めたり。
228
夏彦
『
鬼
(
おに
)
の
棲家
(
すみか
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
229
曲津
(
まがつ
)
の
潜
(
ひそ
)
む
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
230
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
や
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
231
牛
(
うし
)
のやうなる
角
(
つの
)
生
(
は
)
やし
232
虎皮
(
こひ
)
の
褌
(
ふんどし
)
きうと
締
(
し
)
め
233
広
(
ひろ
)
い
世界
(
せかい
)
をのそのそと
234
吾物顔
(
わがものがほ
)
に
蹂躙
(
ふみにじ
)
り
235
彼方
(
あちら
)
此方
(
こちら
)
の
女
(
をんな
)
達
(
たち
)
236
弱
(
よわ
)
いと
見
(
み
)
たら
忽
(
たちま
)
ちに
237
小脇
(
こわき
)
に
掻
(
か
)
い
込
(
こ
)
み
連
(
つ
)
れ
帰
(
かへ
)
り
238
寄
(
よ
)
つてかかつて
嬲者
(
なぶりもの
)
239
生血
(
いきち
)
を
啜
(
すす
)
り
肉
(
にく
)
を
喰
(
く
)
ひ
240
未
(
ま
)
だ
飽
(
あ
)
き
足
(
た
)
らで
人
(
ひと
)
の
家
(
や
)
に
241
隙
(
すき
)
を
窺
(
うかが
)
ひ
忍
(
しの
)
び
込
(
こ
)
み
242
目
(
め
)
より
大事
(
だいじ
)
と
蓄
(
たくは
)
へた
243
金
(
かね
)
や
宝
(
たから
)
をぼつたくり
244
栄耀
(
えいよう
)
栄華
(
えいぐわ
)
の
仕放題
(
しはうだい
)
245
雲
(
くも
)
に
聳
(
そび
)
ゆる
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
246
殊更
(
ことさら
)
高
(
たか
)
い
高楼
(
たかどの
)
に
247
登
(
のぼ
)
つて
悠
(
ゆつ
)
くり
酒
(
さけ
)
喰
(
くら
)
ひ
248
世人
(
よびと
)
を
眼下
(
がんか
)
に
見下
(
みくだ
)
して
249
暑
(
あつ
)
さ
寒
(
さむ
)
さも
知
(
し
)
らず
顔
(
がほ
)
250
いかい
眼
(
め
)
を
剥
(
む
)
き
鼻
(
はな
)
を
剥
(
む
)
き
251
大
(
でつか
)
い
口
(
くち
)
をかつと
開
(
あ
)
け
252
人
(
ひと
)
を
見下
(
みお
)
ろす
鬼瓦
(
おにがはら
)
253
夏彦司
(
なつひこつかさ
)
の
言霊
(
ことたま
)
の
254
霰
(
あられ
)
を
喰
(
く
)
つて
忽
(
たちま
)
ちに
255
がらりがらりとめげ
落
(
お
)
ちる
256
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
身
(
み
)
の
果
(
は
)
てぞ
257
今
(
いま
)
から
思
(
おも
)
ひやられける
258
春
(
はる
)
とは
云
(
い
)
へど
夏彦
(
なつひこ
)
が
259
誠
(
まこと
)
にアツき
言霊
(
ことたま
)
の
260
矢玉
(
やだま
)
を
一
(
ひと
)
つ
喰
(
く
)
つて
見
(
み
)
よ
261
鬼鷹
(
おにたか
)
、
荒鷹
(
あらたか
)
、
鹿
(
しか
)
に
馬
(
うま
)
262
紫姫
(
むらさきひめ
)
も
丹州
(
たんしう
)
も
263
風
(
かぜ
)
に
木葉
(
このは
)
の
散
(
ち
)
る
如
(
ごと
)
く
264
不意
(
ふい
)
を
喰
(
くら
)
つてばらばらばら
265
夕立
(
ゆふだち
)
のやうな
涙雨
(
なみだあめ
)
266
乾
(
かわ
)
く
間
(
ま
)
もなき
袖時雨
(
そでしぐれ
)
267
月
(
つき
)
は
御空
(
みそら
)
に
輝
(
かがや
)
けど
268
汝
(
なんぢ
)
がためには
運
(
うん
)
の
尽
(
つ
)
き
269
ウロ
つき
間誤
(
まご
)
つき
キヨロ
つき
の
270
ウロつき
廻
(
まは
)
る
狐憑
(
きつねつ
)
き
271
鬼
(
おに
)
に
大蛇
(
をろち
)
はつきものぢや
272
昔々
(
むかしむかし
)
の
神代
(
かみよ
)
より
273
鬼
(
おに
)
の
夫
(
をつと
)
に
蛇
(
じや
)
の
女房
(
にようばう
)
274
世
(
よ
)
の
諺
(
ことわざ
)
はあるものに
275
これや
又
(
また
)
何
(
なん
)
とした
事
(
こと
)
か
276
鬼
(
おに
)
の
女房
(
にようばう
)
に
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
277
青
(
あを
)
い
爺
(
おやぢ
)
に
黒
(
くろ
)
い
嬶
(
かか
)
278
サア
是
(
これ
)
からは
夏彦
(
なつひこ
)
が
279
日頃
(
ひごろ
)
鍛
(
きた
)
へし
言霊
(
ことたま
)
の
280
霊弾
(
ひだま
)
を
向
(
む
)
けて
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
281
紅蓮
(
ぐれん
)
の
舌
(
した
)
で
舐
(
な
)
めてやろ
282
嗚呼
(
ああ
)
面黒
(
おもくろ
)
い
面赤
(
おもあか
)
い
283
嗚呼
(
ああ
)
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
284
とても
叶
(
かな
)
はぬ
叶
(
かな
)
はぬから
285
耐
(
たま
)
りませぬと
鬼
(
おに
)
共
(
ども
)
が
286
逃
(
に
)
げ
行
(
ゆ
)
く
姿
(
すがた
)
を
目
(
ま
)
の
当
(
あた
)
り
287
見
(
み
)
る
吾
(
われ
)
こそは
楽
(
たの
)
しけれ
288
見
(
み
)
る
吾
(
われ
)
こそは
面白
(
おもしろ
)
き。
289
アハヽヽヽ』
290
加米彦
(
かめひこ
)
『オイ
夏彦
(
なつひこ
)
、
291
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふまづい
言霊
(
ことたま
)
だ、
292
ソンナ
事
(
こと
)
で
敵
(
てき
)
が
降服
(
かうふく
)
するものか、
293
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せ』
294
夏彦
(
なつひこ
)
『
身魂
(
みたま
)
相応
(
さうおう
)
の
言霊
(
ことたま
)
をやつたのだ、
295
何程
(
なにほど
)
宣
(
の
)
り
直
(
なほ
)
せと
云
(
い
)
うても、
296
はや
品切
(
しなぎれ
)
に
相成
(
あひなり
)
申候
(
まをしさふらふ
)
だよ』
297
加米彦
(
かめひこ
)
『アハヽヽヽ、
298
怪体
(
けたい
)
の
言霊
(
ことたま
)
もあるものだなア、
299
併
(
しか
)
しこれも
今度
(
こんど
)
の
戦闘
(
せんとう
)
の
景物
(
けいぶつ
)
と
思
(
おも
)
へば
辛抱
(
しんばう
)
が
出来
(
でき
)
るよ』
300
夏彦
(
なつひこ
)
『
何
(
いづ
)
れ
腰
(
こし
)
が
曲
(
まが
)
つて
居
(
ゐ
)
るものだから、
301
臍下
(
さいか
)
丹田
(
たんでん
)
から
出
(
で
)
る
言霊
(
ことたま
)
も
何
(
ど
)
うせ
腰折
(
こしを
)
れ
歌
(
うた
)
だよ、
302
アハヽヽヽ』
303
岩窟
(
がんくつ
)
の
方
(
はう
)
より
鹿公
(
しかこう
)
は
立
(
た
)
ち
上
(
あが
)
り、
304
又
(
また
)
もや
扇
(
あふぎ
)
を
打振
(
うちふ
)
り
打振
(
うちふ
)
り、
305
寄
(
よ
)
せ
手
(
て
)
に
向
(
むか
)
つて
大音声
(
だいおんぜう
)
に
言霊戦
(
ことたません
)
を
開始
(
かいし
)
したり。
306
その
歌
(
うた
)
、
307
鹿公
『
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
に
現
(
あ
)
れませる
308
豊国姫
(
とよくにひめ
)
の
大神
(
おほかみ
)
に
309
詣
(
まう
)
でむものと
紫姫
(
むらさきひめ
)
の
310
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
は
都
(
みやこ
)
をば
311
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
で
給
(
たま
)
ひ
馬
(
うま
)
と
鹿
(
しか
)
312
二人
(
ふたり
)
の
伴
(
とも
)
を
従
(
したが
)
へて
313
山
(
やま
)
越
(
こ
)
え
谷
(
たに
)
越
(
こ
)
え
川
(
かは
)
を
越
(
こ
)
え
314
大野
(
おほの
)
ケ
原
(
はら
)
や
里
(
さと
)
を
越
(
こ
)
え
315
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
手前
(
てまへ
)
迄
(
まで
)
316
進
(
すす
)
み
来
(
きた
)
れる
折柄
(
をりから
)
に
317
三嶽
(
みたけ
)
の
岩窟
(
いはや
)
に
立
(
た
)
て
籠
(
こも
)
る
318
荒鷹
(
あらたか
)
、
鬼鷹
(
おにたか
)
両人
(
りやうにん
)
が
319
部下
(
てした
)
の
魔神
(
まがみ
)
に
欺
(
あざむ
)
かれ
320
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
は
此方
(
こちら
)
ぢやと
321
云
(
い
)
うた
言葉
(
ことば
)
を
真
(
ま
)
に
受
(
う
)
けて
322
暗
(
くら
)
き
岩窟
(
いはや
)
に
誘
(
いざな
)
はれ
323
深
(
ふか
)
い
穴
(
あな
)
へと
放
(
ほ
)
り
込
(
こ
)
まれ
324
馬
(
うま
)
と
鹿
(
しか
)
とは
馬鹿
(
ばか
)
を
見
(
み
)
た
325
紫姫
(
むらさきひめ
)
は
幸
(
さいはひ
)
に
326
渋皮
(
しぶかは
)
剥
(
む
)
けたるお
蔭
(
かげ
)
にて
327
鬼鷹
(
おにたか
)
荒鷹
(
あらたか
)
両人
(
りやうにん
)
が
328
お
目
(
め
)
に
留
(
と
)
まつて
助
(
たす
)
けられ
329
チンコ
、
はいこ
と
敬
(
うやま
)
はれ
330
岩窟
(
いはや
)
の
女王
(
ぢよわう
)
となり
済
(
す
)
まし
331
権威
(
けんゐ
)
を
揮
(
ふる
)
ふ
凄
(
すさま
)
じさ
332
間
(
ま
)
もなく
出
(
で
)
て
来
(
き
)
た
麻柱
(
あななひ
)
の
333
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
334
容貌
(
みめ
)
も
形
(
かたち
)
も
悦子姫
(
よしこひめ
)
335
松
(
まつ
)
吹
(
ふ
)
く
風
(
かぜ
)
の
音彦
(
おとひこ
)
や
336
背
(
せなか
)
の
堅
(
かた
)
い
加米彦
(
かめひこ
)
が
337
のそのそ
来
(
きた
)
る
谷
(
たに
)
の
口
(
くち
)
338
バサンバサンと
衣
(
きぬ
)
洗
(
あら
)
ふ
339
婆々
(
ばば
)
にはあらぬ
紫姫
(
むらさきひめ
)
の
340
神
(
かみ
)
の
司
(
つかさ
)
の
優姿
(
やさすがた
)
341
肝
(
きも
)
を
潰
(
つぶ
)
して
加米彦
(
かめひこ
)
が
342
荊棘
(
いばら
)
の
茂
(
しげ
)
る
坂道
(
さかみち
)
を
343
転
(
こ
)
けつ
辷
(
すべ
)
りつ
漸
(
やうや
)
うに
344
岩窟
(
いはや
)
の
前
(
まへ
)
にやつて
来
(
き
)
て
345
思
(
おも
)
ひがけなき
陥穽
(
おとしあな
)
346
ドスンと
落
(
お
)
ちて
尻餅
(
しりもち
)
を
347
ついたかつかぬか
俺
(
おれ
)
や
知
(
し
)
らぬ
348
それから
三
(
さん
)
人
(
にん
)
のこのこと
349
紫姫
(
むらさきひめ
)
に
誘
(
いざな
)
はれ
350
岩窟
(
いはや
)
の
中
(
なか
)
にやつて
来
(
き
)
て
351
俺
(
おれ
)
を
助
(
たす
)
けて
呉
(
く
)
れた
故
(
ゆゑ
)
352
そこで
二人
(
ふたり
)
は
麻柱
(
あななひ
)
の
353
神
(
かみ
)
の
教
(
をしへ
)
に
入信
(
にふしん
)
し
354
三嶽
(
みたけ
)
の
山
(
やま
)
の
絶頂
(
ぜつちやう
)
で
355
レコード
破
(
やぶ
)
りの
風
(
かぜ
)
に
遇
(
あ
)
ひ
356
これや
耐
(
たま
)
らぬと
四
(
よ
)
つ
這
(
ば
)
ひに
357
なつて
漸
(
やうや
)
う
木
(
き
)
の
茂
(
しげ
)
み
358
一同
(
いちどう
)
此処
(
ここ
)
に
息
(
いき
)
やすめ
359
白河
(
しらかは
)
夜船
(
よぶね
)
と
寝
(
ね
)
て
居
(
を
)
れば
360
鬼鷹
(
おにたか
)
荒鷹
(
あらたか
)
やつて
来
(
き
)
て
361
鹿
(
しか
)
と
馬
(
うま
)
とを
後手
(
うしろで
)
に
362
縛
(
しば
)
つて
又
(
また
)
もや
岩窟
(
いはやど
)
に
363
押
(
お
)
し
込
(
こ
)
められた
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
て
364
ビツクリ
仰天
(
ぎやうてん
)
起
(
お
)
き
上
(
あが
)
り
365
月
(
つき
)
の
光
(
ひかり
)
を
賞
(
ほ
)
めながら
366
其辺
(
そこら
)
をぶらつく
時
(
とき
)
もあれ
367
現
(
あら
)
はれ
来
(
きた
)
る
黒
(
くろ
)
い
影
(
かげ
)
368
摺
(
す
)
つた
揉
(
も
)
みたといさかいつ
369
とうとう
鬼鷹
(
おにたか
)
荒鷹
(
あらたか
)
の
370
二人
(
ふたり
)
の
奴
(
やつ
)
を
言向
(
ことむ
)
けて
371
三五教
(
あななひけう
)
に
導
(
みちび
)
きつ
372
悦子
(
よしこ
)
の
姫
(
ひめ
)
の
命令
(
めいれい
)
で
373
帰
(
かへ
)
つて
来
(
き
)
たは
表向
(
おもてむき
)
374
おつとどつこいこれや
違
(
ちが
)
ふ
375
俺
(
おれ
)
が
言
(
い
)
ふのぢやなかつたに
376
余
(
あま
)
り
嬉
(
うれ
)
して
間違
(
まちが
)
つた
377
ヤイヤイ
夏彦
(
なつひこ
)
常彦
(
つねひこ
)
よ
378
ドツコイすべつた
灰小屋
(
はひごや
)
で
379
灰
(
はひ
)
にまみれて
真黒気
(
まつくろけ
)
380
もう
斯
(
か
)
うなれば
是非
(
ぜひ
)
もない
381
他人
(
ひと
)
は
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
俺
(
おれ
)
だけは
382
今
(
いま
)
を
限
(
かぎ
)
りに
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
383
大将
(
たいしやう
)
に
尻
(
しり
)
を
喰
(
か
)
ますぞよ
384
むかづくまいぞよ
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
385
うつかり
剥
(
は
)
げた
嘘
(
うそ
)
の
皮
(
かは
)
386
俺
(
おれ
)
の
身魂
(
みたま
)
はまだ
暗
(
くら
)
い
387
言霊戦
(
ことたません
)
は
皆
(
みな
)
駄目
(
だめ
)
だ
388
嗚呼
(
ああ
)
惟神
(
かむながら
)
々々
(
かむながら
)
389
御霊
(
みたま
)
幸
(
さち
)
はひましませよ
390
蛙
(
かわづ
)
は
口
(
くち
)
から
知
(
し
)
らぬ
間
(
ま
)
に
391
腹
(
はら
)
の
中
(
なか
)
をば
曝
(
さら
)
け
出
(
だ
)
し
392
もう
叶
(
かな
)
はぬから
逃
(
に
)
げて
出
(
で
)
る
393
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
394
本当
(
ほんたう
)
に
吾
(
われ
)
は
帰順
(
きじゆん
)
する
395
何
(
ど
)
うぞ
赦
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
されや』
396
と
尻
(
しり
)
を
捲
(
まく
)
つて
一散走
(
いちさんばし
)
り、
397
音彦
(
おとひこ
)
が
戦陣
(
せんぢん
)
に
向
(
むか
)
つて、
398
一目散
(
いちもくさん
)
に
逃
(
に
)
げ
来
(
きた
)
る
可笑
(
をか
)
しさ、
399
悦子姫
(
よしこひめ
)
、
400
音彦
(
おとひこ
)
、
401
加米彦
(
かめひこ
)
は
可笑
(
をか
)
しさに
吹
(
ふ
)
き
出
(
だ
)
し、
402
笑
(
わら
)
ひ
転
(
こ
)
けたり。
403
(
大正一一・四・二三
旧三・二七
加藤明子
録)
404
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