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第61巻(子の巻)
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第69巻(申の巻)
第70巻(酉の巻)
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第72巻(亥の巻)
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天祥地瑞
第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
第76巻(卯の巻)
第77巻(辰の巻)
第78巻(巳の巻)
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第17巻(辰の巻)
序文
凡例
総説歌
第1篇 雪山幽谷
01 黄金の衣
〔612〕
02 魔の窟
〔613〕
03 生死不明
〔614〕
04 羽化登仙
〔615〕
05 誘惑婆
〔616〕
06 瑞の宝座
〔617〕
第2篇 千態万様
07 枯尾花
〔618〕
08 蚯蚓の囁
〔619〕
09 大逆転
〔620〕
10 四百種病
〔621〕
11 顕幽交通
〔622〕
第3篇 鬼ケ城山
12 花と花
〔623〕
13 紫姫
〔624〕
14 空谷の足音
〔625〕
15 敵味方
〔626〕
16 城攻
〔627〕
17 有終の美
〔628〕
霊の礎(三)
暁山雲(謡曲)
余白歌
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第一二章
花
(
はな
)
と
花
(
はな
)
〔六二三〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第17巻 如意宝珠 辰の巻
篇:
第3篇 鬼ケ城山
よみ(新仮名遣い):
おにがじょうざん
章:
第12章 花と花
よみ(新仮名遣い):
はなとはな
通し章番号:
623
口述日:
1922(大正11)年04月23日(旧03月27日)
口述場所:
筆録者:
加藤明子
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年1月10日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
悦子姫は、音彦と加米彦を供として三嶽山に差し掛かった。そこで、谷川で血にまみれた衣をすすぐ一人の美しい女がいた。
音彦が話を聞くと、女は真名井ケ原へ参詣の途中、鬼雲彦の一味である荒鷹・鬼鷹によって、二人の僕と共にさらわれてきたのだ、という。僕の二人は、バラモン教の手下によって殺され、その供養の為に衣を洗っているのだ、と明かした。
女は紫姫と名乗った。加米彦は、心当たりがある様子を見せるが、滑稽なことを言ってごまかす。その様子に紫姫は一行に心を許して行く。
悦子姫ら一行は、荒鷹・鬼鷹らを言向け和すために、一味の隠れ家に案内するように、と提案する。ちょうど荒鷹・鬼鷹は不在で、手下たちだけが留守を守っているというので、紫姫に付いて岩窟に向かう。
加米彦は一味の掘った落とし穴に落ちてしまうが、悦子姫と紫姫が縄梯子を編んで助け出し、一行は岩窟に乗り込んでいく。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-02-14 00:42:12
OBC :
rm1712
愛善世界社版:
185頁
八幡書店版:
第3輯 592頁
修補版:
校定版:
191頁
普及版:
82頁
初版:
ページ備考:
001
メソポタミヤの
瑞穂国
(
みづほくに
)
002
世界
(
せかい
)
の
楽土
(
らくど
)
と
聞
(
きこ
)
えたる
003
顕恩郷
(
けんおんきやう
)
を
振
(
ふ
)
りすてて
004
自転倒
(
おのころ
)
島
(
じま
)
に
逃
(
に
)
げ
来
(
きた
)
り
005
醜
(
しこ
)
の
曲津
(
まがつ
)
の
大江山
(
おほえやま
)
006
山寨
(
とりで
)
を
構
(
かま
)
へて
神国
(
かみくに
)
を
007
蹂躙
(
じうりん
)
せむと
千万
(
ちよろづ
)
に
008
心
(
こころ
)
を
尽
(
つく
)
す
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
は
009
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
に
010
仕
(
つか
)
へまつれる
鬼武彦
(
おにたけひこ
)
に
011
逐
(
お
)
ひ
退
(
やら
)
はれて
中空
(
ちうくう
)
を
012
翔
(
かけ
)
つて
伊吹
(
いぶき
)
の
山
(
やま
)
の
辺
(
へ
)
に
013
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
逃
(
に
)
げ
散
(
ち
)
れど
014
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
が
力
(
ちから
)
と
頼
(
たの
)
む
015
剛力
(
がうりき
)
無双
(
むさう
)
の
曲司
(
まがつかさ
)
016
名
(
な
)
も
怖
(
おそ
)
ろしき
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
は
017
八岐
(
やまた
)
大蛇
(
をろち
)
の
醜
(
しこ
)
の
霊
(
みたま
)
に
操
(
あやつ
)
られ
018
荒鷹
(
あらたか
)
鬼鷹
(
おにたか
)
諸共
(
もろとも
)
に
019
大江
(
おほえ
)
の
山
(
やま
)
の
峰
(
みね
)
つづき
020
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
にと
第二
(
だいに
)
の
砦
(
とりで
)
を
構
(
かま
)
へ
021
時
(
とき
)
を
計
(
はか
)
らひ
捲土
(
けんど
)
重来
(
ぢうらい
)
の
022
秘策
(
ひさく
)
を
凝
(
こ
)
らし
023
一挙
(
いつきよ
)
に
聖地
(
せいち
)
に
攻
(
せ
)
め
寄
(
よ
)
せて
024
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
大神
(
おほかみ
)
や
025
国武彦
(
くにたけひこ
)
の
大神
(
おほかみ
)
の
026
神政
(
しんせい
)
成就
(
じやうじゆ
)
の
経綸地
(
けいりんち
)
027
桶伏山
(
をけふせやま
)
の
蓮華台
(
れんげだい
)
028
続
(
つづ
)
いて
四尾
(
よつを
)
の
神山
(
かみやま
)
を
029
力限
(
ちからかぎ
)
りに
占領
(
せんりやう
)
せむと
030
心
(
こころ
)
を
砕
(
くだ
)
くぞ
果
(
はか
)
無
(
な
)
けれ。
031
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
、
032
悦子姫
(
よしこひめ
)
は
音彦
(
おとひこ
)
、
033
加米彦
(
かめひこ
)
を
伴
(
ともな
)
ひ
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
を
後
(
あと
)
にして
三嶽山
(
みたけやま
)
に
差
(
さし
)
かかる。
034
時
(
とき
)
しもあれや
谷川
(
たにがは
)
に、
035
血
(
ち
)
に
塗
(
まみ
)
れたる
衣
(
ころも
)
を
濯
(
すす
)
ぐ
一人
(
ひとり
)
の
美人
(
びじん
)
、
036
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
姿
(
すがた
)
を
眺
(
なが
)
めて
呆
(
あき
)
れ
顔
(
がほ
)
、
037
音彦
(
おとひこ
)
『モシモシ
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
、
038
此
(
この
)
深山
(
しんざん
)
幽谷
(
いうこく
)
に
見
(
み
)
らるる
如
(
ごと
)
き
妙齢
(
めうれい
)
の
美人
(
びじん
)
唯
(
ただ
)
一人
(
ひとり
)
、
039
血
(
ち
)
に
塗
(
まみ
)
れたる
衣
(
きぬ
)
を
洗
(
あら
)
ひ、
040
吾々
(
われわれ
)
の
姿
(
すがた
)
を
眺
(
なが
)
めて
何
(
なに
)
か
思案顔
(
しあんがほ
)
、
041
これには
深
(
ふか
)
き
様子
(
やうす
)
のある
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いませう。
042
一
(
ひと
)
つあの
女
(
をんな
)
を
引捉
(
ひつとら
)
まへて
詰問
(
きつもん
)
して
見
(
み
)
ませうか』
043
悦子姫
(
よしこひめ
)
『
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
うても
人里
(
ひとざと
)
離
(
はな
)
れし
此
(
この
)
谷川
(
たにがは
)
、
044
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬ
事
(
こと
)
である。
045
貴方
(
あなた
)
御
(
ご
)
苦労
(
くらう
)
だが
柔
(
おと
)
なしくあの
女
(
をんな
)
に
聞
(
き
)
いて
見
(
み
)
て
下
(
くだ
)
さい』
046
音彦
(
おとひこ
)
『
承知
(
しようち
)
致
(
いた
)
しました、
047
加米彦
(
かめひこ
)
、
048
お
前
(
まへ
)
は
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
と
此処
(
ここ
)
に
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
て
呉
(
く
)
れ、
049
俺
(
おれ
)
は
此
(
この
)
谷川
(
たにがは
)
を
渡
(
わた
)
つて
怪
(
あや
)
しの
女
(
をんな
)
に
一
(
ひと
)
つ
質問
(
しつもん
)
をやつて
見
(
み
)
る、
050
大抵
(
たいてい
)
この
山
(
やま
)
の
様子
(
やうす
)
も
分
(
わか
)
らうから』
051
と
云
(
い
)
ふより
早
(
はや
)
く
裾
(
すそ
)
をからげ
谷川
(
たにがは
)
を
向岸
(
むかう
)
へ
渡
(
わた
)
つた。
052
音彦
(
おとひこ
)
『コレヤコレヤ、
053
人里
(
ひとざと
)
離
(
はな
)
れしこの
深山
(
しんざん
)
幽谷
(
いうこく
)
に
浦若
(
うらわか
)
き
女
(
をんな
)
の
一人
(
ひとり
)
、
054
血
(
ち
)
に
塗
(
まみ
)
れたる
衣服
(
いふく
)
を
洗濯
(
せんたく
)
致
(
いた
)
し
居
(
を
)
るは
如何
(
いか
)
なる
理由
(
りいう
)
あつてか、
055
定
(
さだ
)
めて
此
(
この
)
辺
(
へん
)
には
悪神
(
あくがみ
)
の
巣窟
(
さうくつ
)
があつて、
056
人
(
ひと
)
を
取
(
と
)
り
喰
(
くら
)
うと
察
(
さつ
)
せらるる、
057
サア
つぶさ
に
委細
(
ゐさい
)
を
物語
(
ものがた
)
れよ』
058
女
(
をんな
)
は
涙
(
なみだ
)
をはらはらと
流
(
なが
)
しながら、
059
女(紫姫)
『ハイ
私
(
わたくし
)
は
都
(
みやこ
)
の
女
(
をんな
)
で
御座
(
ござ
)
います、
060
大江山
(
おほえやま
)
の
鬼雲彦
(
おにくもひこ
)
が
一味
(
いちみ
)
の
悪神
(
あくがみ
)
、
061
荒鷹
(
あらたか
)
、
062
鬼鷹
(
おにたか
)
の
両人
(
りやうにん
)
が、
063
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
の
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
へ
二人
(
ふたり
)
の
僕
(
しもべ
)
を
従
(
したが
)
へ
参詣
(
さんけい
)
の
途中
(
とちう
)
、
064
言葉
(
ことば
)
巧
(
たくみ
)
に
計略
(
けいりやく
)
をもつて
妾
(
わらは
)
主従
(
しゆじゆう
)
を
連
(
つ
)
れ
来
(
きた
)
り、
065
二人
(
ふたり
)
の
下僕
(
しもべ
)
は
種々
(
いろいろ
)
と
苦役
(
くえき
)
を
命
(
めい
)
ぜられ、
066
身体
(
しんたい
)
疲労
(
ひらう
)
の
結果
(
けつくわ
)
、
067
もはや
手足
(
てあし
)
も
動
(
うご
)
けなくなりまして、
068
苦
(
くる
)
しみ
悶
(
もだ
)
える
所
(
ところ
)
を、
069
慈悲
(
じひ
)
も
情
(
なさけ
)
も
荒鷹
(
あらたか
)
鬼鷹
(
おにたか
)
の
両人
(
りやうにん
)
の
指揮
(
しき
)
の
下
(
もと
)
に、
070
寄
(
よ
)
つて
集
(
たか
)
つて
二人
(
ふたり
)
の
下僕
(
しもべ
)
を
嬲殺
(
なぶりごろ
)
し、
071
手足
(
てあし
)
をもぎ
取
(
と
)
り、
072
真裸
(
まつぱだか
)
となし
土中
(
どちう
)
に
埋
(
う
)
めましたさうです。
073
さうして
妾
(
わらは
)
は
情
(
なさけ
)
ない
荒鷹
(
あらたか
)
、
074
鬼鷹
(
おにたか
)
両人
(
りやうにん
)
に
虐
(
しいた
)
げられ、
075
あるにあられぬ
悲
(
かな
)
しい
月日
(
つきひ
)
を
送
(
おく
)
つて
居
(
を
)
ります。
076
今日
(
けふ
)
は
幸
(
さいは
)
ひ
両人
(
りやうにん
)
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
の
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
が
大将
(
たいしやう
)
の
許
(
もと
)
に
召
(
め
)
されて
参
(
まゐ
)
りました。
077
後
(
あと
)
には
四五
(
しご
)
の
下僕
(
しもべ
)
共
(
ども
)
、
078
二人
(
ふたり
)
の
留守
(
るす
)
を
幸
(
さいは
)
ひお
酒
(
さけ
)
を
呑
(
の
)
ませ
酔
(
よ
)
はして
置
(
お
)
いて、
079
下僕
(
しもべ
)
二人
(
ふたり
)
が
着衣
(
ちやくい
)
を
探
(
さが
)
し
求
(
もと
)
め、
080
此
(
この
)
谷水
(
たにみづ
)
に
洗
(
あら
)
ひ
清
(
きよ
)
め
天日
(
てんぴ
)
に
乾
(
ほ
)
し、
081
これを
夜具
(
やぐ
)
に
造
(
つく
)
り
替
(
か
)
へて、
082
せめては
下僕
(
しもべ
)
の
遺物
(
かたみ
)
と
彼
(
かれ
)
が
菩提
(
ぼだい
)
を
弔
(
とむら
)
うため、
083
妾
(
わらは
)
が
肌身
(
はだみ
)
につけ
其
(
その
)
霊
(
れい
)
を
慰
(
なぐさ
)
めやらむと
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
に、
084
隙
(
すき
)
を
窺
(
うかが
)
ひ
洗濯
(
せんたく
)
に
参
(
まゐ
)
りました』
085
と、
086
ワツと
許
(
ばか
)
りに
泣
(
な
)
き
入
(
い
)
りぬ。
087
音彦
(
おとひこ
)
は
両手
(
りやうて
)
を
組
(
く
)
み
太息
(
ふといき
)
を
吐
(
つ
)
きながら、
088
音彦
『
嗚呼
(
ああ
)
飽迄
(
あくまで
)
も
悪逆
(
あくぎやく
)
無道
(
ぶだう
)
の
大自在天
(
だいじざいてん
)
、
089
バラモン
教
(
けう
)
の
奴輩
(
やつばら
)
の
惨虐
(
ざんぎやく
)
さ』
090
と
音彦
(
おとひこ
)
は
涙
(
なみだ
)
を
腮辺
(
しへん
)
にハラハラと
流
(
なが
)
し、
091
黙念
(
もくねん
)
としてうつむき
居
(
ゐ
)
る。
092
女
(
をんな
)
(紫姫)
『
貴方
(
あなた
)
様
(
さま
)
は
何
(
いづ
)
れの
方
(
かた
)
かは
存
(
ぞん
)
じませぬが、
093
一寸
(
ちよつと
)
お
見受
(
みう
)
け
申
(
まを
)
せば
力
(
ちから
)
の
強
(
つよ
)
さうな
御
(
お
)
姿
(
すがた
)
、
094
美
(
うつく
)
しき
御
(
ご
)
婦人
(
ふじん
)
を
連
(
つ
)
れて
何
(
いづ
)
れへお
越
(
こ
)
し
遊
(
あそ
)
ばしますか。
095
此
(
この
)
三嶽山
(
みたけやま
)
は、
096
大江山
(
おほえやま
)
の
峰続
(
みねつづ
)
き、
097
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
との
中心点
(
ちうしんてん
)
に
聳立
(
そばだ
)
つ、
098
恐
(
おそ
)
ろしき
魔
(
ま
)
の
山
(
やま
)
で
御座
(
ござ
)
います。
099
これから
先
(
さき
)
には
沢山
(
たくさん
)
の
魔神
(
まがみ
)
が
棲
(
す
)
みて
居
(
を
)
りますれば、
100
これより
先
(
さき
)
は
剣呑
(
けんのん
)
千万
(
せんばん
)
、
101
どうぞ
此
(
この
)
場
(
ば
)
よりお
引
(
ひ
)
き
返
(
かへ
)
し
下
(
くだ
)
さいませ、
102
又
(
また
)
妾
(
わらは
)
の
如
(
ごと
)
き
憂目
(
うきめ
)
にお
遇
(
あ
)
ひなされてはお
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
で
御座
(
ござ
)
います』
103
音彦
(
おとひこ
)
は
目
(
め
)
をしばたたきながら、
104
音彦
『オヽお
女中
(
ぢよちう
)
、
105
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
に
能
(
よ
)
く
云
(
い
)
うて
下
(
くだ
)
さいました。
106
併
(
しか
)
しながら
吾々
(
われわれ
)
は、
107
人
(
ひと
)
を
助
(
たす
)
ける
神
(
かみ
)
の
取次
(
とりつぎ
)
、
108
如何
(
いか
)
なる
悪魔
(
あくま
)
も
言向
(
ことむ
)
け
和
(
やは
)
さねばならぬ
神界
(
しんかい
)
の
使命
(
しめい
)
を
帯
(
お
)
びて
参
(
まゐ
)
つたもの、
109
仮令
(
たとへ
)
如何
(
いか
)
なる
鬼
(
おに
)
大蛇
(
をろち
)
、
110
魔神
(
まがみ
)
の
襲来
(
しふらい
)
致
(
いた
)
すとも、
111
一歩
(
いつぽ
)
たりとも
退却
(
たいきやく
)
致
(
いた
)
す
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ませぬ。
112
どうぞ
荒鷹
(
あらたか
)
、
113
鬼鷹
(
おにたか
)
の
住家
(
すみか
)
へ
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
下
(
くだ
)
さいませ』
114
女
(
をんな
)
(紫姫)
『
左様
(
さやう
)
では
御座
(
ござ
)
いませうが
貴方
(
あなた
)
等
(
ら
)
は
一行
(
いつかう
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
、
115
一方
(
いつぱう
)
は
数
(
かず
)
限
(
かぎ
)
りのない
悪魔
(
あくま
)
の
集団
(
しふだん
)
、
116
何程
(
なにほど
)
貴方
(
あなた
)
が
英雄
(
えいゆう
)
豪傑
(
がうけつ
)
でも
多数
(
たすう
)
と
少数
(
せうすう
)
、
117
勝敗
(
しようはい
)
の
数
(
すう
)
は
戦
(
たたか
)
はずして
分
(
わか
)
つて
居
(
を
)
ります。
118
サアサアどうぞ
早
(
はや
)
くお
帰
(
かへ
)
り
遊
(
あそ
)
ばせ』
119
音彦
(
おとひこ
)
『
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
に
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
120
併
(
しか
)
しながら
先刻
(
せんこく
)
承
(
うけたま
)
はれば
貴方
(
あなた
)
は
都
(
みやこ
)
の
女
(
をんな
)
と
仰
(
あふ
)
せられましたが、
121
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
ふお
方
(
かた
)
で
御座
(
ござ
)
います』
122
女
(
をんな
)
(紫姫)
『ハイ、
123
名
(
な
)
を
聞
(
き
)
かれては
恥
(
はづ
)
かしう
御座
(
ござ
)
いますが、
124
妾
(
わらは
)
は
紫姫
(
むらさきひめ
)
と
申
(
まを
)
す
不恙
(
ふつつか
)
な
女
(
をんな
)
で
御座
(
ござ
)
います』
125
谷川
(
たにがは
)
の
向
(
むかう
)
より
加米彦
(
かめひこ
)
、
126
大
(
おほ
)
きな
声
(
こゑ
)
で、
127
加米彦
『オーイオーイ、
128
音彦
(
おとひこ
)
、
129
美人
(
びじん
)
を
捉
(
とら
)
へて
何
(
なに
)
を
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
云
(
い
)
つて
居
(
を
)
るのだ。
130
吾々
(
われわれ
)
を
待
(
ま
)
たして
置
(
お
)
いて
密約
(
みつやく
)
締結
(
ていけつ
)
でもやつて
居
(
を
)
るのか、
131
ソンナ
陽気
(
やうき
)
な
場合
(
ばあひ
)
ぢやないぞ、
132
コンナ
谷底
(
たにそこ
)
でいちやつく
奴
(
やつ
)
があるか、
133
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
談判
(
だんぱん
)
を
切
(
き
)
り
上
(
あ
)
げて
敵情
(
てきじやう
)
を
大本営
(
だいほんえい
)
に
報告
(
はうこく
)
しないか、
134
悦子姫
(
よしこひめ
)
女王
(
ぢよわう
)
様
(
さま
)
が
顔色
(
がんしよく
)
を
変
(
か
)
へて
御
(
ご
)
機嫌斜
(
きげんななめ
)
なりだ。
135
アハヽヽヽ』
136
悦子姫
(
よしこひめ
)
は
聞
(
き
)
き
咎
(
とが
)
め、
137
悦子姫
『これこれ
加米彦
(
かめひこ
)
さま、
138
悦子姫
(
よしこひめ
)
の
御
(
ご
)
機嫌斜
(
きげんななめ
)
なりとは
何
(
なに
)
を
仰有
(
おつしや
)
る』
139
加米彦
(
かめひこ
)
『アア
済
(
す
)
みませぬ、
140
私
(
わたくし
)
の
言葉
(
ことば
)
は
意味
(
いみ
)
深長
(
しんちやう
)
に
聞
(
きこ
)
えたでせう、
141
どうぞ
見直
(
みなほ
)
し
聞直
(
ききなほ
)
して
下
(
くだ
)
さいませ、
142
時
(
とき
)
の
興
(
きよう
)
に
乗
(
じやう
)
じつい
洒落気
(
しやれき
)
になつて
音彦
(
おとひこ
)
に
揶揄
(
からかつ
)
て
見
(
み
)
たのですよ。
143
谷川
(
たにがは
)
の
此方
(
こちら
)
には
花
(
はな
)
を
欺
(
あざむ
)
く
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
、
144
そして
加米彦
(
かめひこ
)
の
配合
(
はいがふ
)
、
145
川
(
かは
)
の
対岸
(
むこう
)
には
妙齢
(
めうれい
)
のナイス、
146
音彦
(
おとひこ
)
の
大丈夫
(
ますらを
)
、
147
谷
(
たに
)
を
隔
(
へだ
)
てて
一対
(
いつつい
)
の
若夫婦
(
わかふうふ
)
然
(
ぜん
)
とした
此
(
この
)
光景
(
くわうけい
)
、
148
絵
(
ゑ
)
にあるやうなスタイルぢやありませぬか。
149
樹木
(
じゆもく
)
の
間
(
あひだ
)
に
雪
(
ゆき
)
はチラチラと
残
(
のこ
)
り、
150
淙々
(
そうそう
)
たる
渓流
(
けいりう
)
は
琴
(
こと
)
を
弾
(
だん
)
じ、
151
幽邃
(
いうすゐ
)
閑雅
(
かんが
)
の
深谷川
(
ふかたにがは
)
、
152
上手
(
じやうず
)
な
画工
(
ぐわこう
)
にでも
写生
(
しやせい
)
させたら
随分
(
ずゐぶん
)
立派
(
りつぱ
)
なものが
出来
(
でき
)
ませう、
153
アハヽヽヽ』
154
悦子姫
(
よしこひめ
)
『
加米彦
(
かめひこ
)
さま、
155
此処
(
ここ
)
は
最
(
もつと
)
も
危険
(
きけん
)
区域
(
くゐき
)
ですよ、
156
些
(
ちつ
)
と
緊張
(
きんちやう
)
しなさらぬか』
157
加米彦
(
かめひこ
)
『
柔
(
じう
)
能
(
よ
)
く
剛
(
がう
)
を
制
(
せい
)
す、
158
剛
(
がう
)
中
(
ちう
)
柔
(
じう
)
あり
柔
(
じう
)
中
(
ちう
)
剛
(
がう
)
あり、
159
敵地
(
てきち
)
に
臨
(
のぞ
)
んで
悠々
(
いういう
)
閑々
(
かんかん
)
綽々
(
しやくしやく
)
として
余裕
(
よゆう
)
を
存
(
ぞん
)
するは、
160
ヒーロー
豪傑
(
がうけつ
)
の
心事
(
しんじ
)
で
御座
(
ござ
)
る、
161
アハヽヽヽ』
162
川向
(
かはむか
)
ふより
音彦
(
おとひこ
)
、
163
音彦
『オーイオーイ
加米彦
(
かめひこ
)
、
164
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
のお
伴
(
とも
)
をして
此地
(
こつち
)
へ
渡
(
わた
)
つて
来
(
こ
)
い、
165
耳
(
みみ
)
よりの
話
(
はなし
)
がある』
166
加米彦
(
かめひこ
)
『ヨシヨシ、
167
悦子姫
(
よしこひめ
)
さま、
168
サア
参
(
まゐ
)
りませう、
169
此
(
この
)
深
(
ふか
)
い
谷川
(
たにがは
)
、
170
貴方
(
あなた
)
は
御
(
ご
)
婦人
(
ふじん
)
の
身
(
み
)
、
171
お
困
(
こま
)
りでせう、
172
何
(
なん
)
なら
加米彦
(
かめひこ
)
の
背
(
せ
)
に
被負
(
おぶさ
)
つて
下
(
くだ
)
さい』
173
悦子姫
(
よしこひめ
)
『
御
(
ご
)
親切
(
しんせつ
)
に
有難
(
ありがた
)
う
御座
(
ござ
)
います、
174
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
加米彦
(
かめひこ
)
さま、
175
自分
(
じぶん
)
の
事
(
こと
)
は
自分
(
じぶん
)
で
処置
(
しよち
)
をつけねばならぬぢやありませぬか、
176
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
教
(
をしへ
)
には
必
(
かなら
)
ず
人
(
ひと
)
を
杖
(
つゑ
)
につくなと
御座
(
ござ
)
います』
177
加米彦
(
かめひこ
)
『
其
(
その
)
お
言葉
(
ことば
)
は
尤
(
もつと
)
もながら
何
(
なん
)
だか
案
(
あん
)
じられてなりませぬ、
178
然
(
しか
)
らばお
手
(
て
)
を
取
(
と
)
つて
上
(
あ
)
げませう、
179
サア
参
(
まゐ
)
りませう』
180
と
裾
(
すそ
)
をからげ、
181
谷川
(
たにがは
)
に
下
(
お
)
りたちぬ。
182
悦子姫
(
よしこひめ
)
『
加米彦
(
かめひこ
)
さま、
183
妾
(
わらは
)
が
貴方
(
あなた
)
の
手
(
て
)
を
引
(
ひ
)
いて
上
(
あ
)
げませう、
184
大変
(
たいへん
)
な
危険
(
きけん
)
な
激流
(
げきりう
)
で
御座
(
ござ
)
いますから』
185
と
互
(
たがひ
)
に
友
(
とも
)
の
危難
(
きなん
)
を
気遣
(
きづか
)
ふ
殊勝
(
しゆしよう
)
さ。
186
加米彦
(
かめひこ
)
『アア
有難
(
ありがた
)
い
有難
(
ありがた
)
い、
187
この
谷川
(
たにがは
)
が
無
(
な
)
くば
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
と
握手
(
あくしゆ
)
したり
提携
(
ていけい
)
したりすると
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
出来
(
でき
)
ない、
188
南無
(
なむ
)
谷川
(
たにがは
)
大明神
(
だいみやうじん
)
』
189
悦子姫
(
よしこひめ
)
『ホヽヽヽ、
190
冗談
(
ぜうだん
)
も
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
になされませ』
191
加米彦
(
かめひこ
)
『
冗談
(
ぜうだん
)
から
暇
(
ひま
)
が
出
(
で
)
る、
192
瓢箪
(
へうたん
)
から
駒
(
こま
)
が
出
(
で
)
る、
193
三嶽山
(
みたけやま
)
から
古今
(
ここん
)
無双
(
むさう
)
のナイスが
現
(
あら
)
はれる、
194
大江山
(
おほえやま
)
から
鬼
(
おに
)
が
出
(
で
)
る、
195
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
から
大蛇
(
をろち
)
が
出
(
で
)
る、
196
私
(
わたし
)
の
口
(
くち
)
から
涎
(
よだれ
)
が
出
(
で
)
る、
197
余
(
あま
)
り
嬉
(
うれ
)
しうて
涙
(
なみだ
)
が
出
(
で
)
る、
198
アハヽヽヽ』
199
悦子姫
(
よしこひめ
)
『ホヽヽヽ、
200
これこれ
加米彦
(
かめひこ
)
さま
確
(
しつか
)
りしなさらぬか、
201
辷
(
すべ
)
つたら
大変
(
たいへん
)
ぢやありませぬか』
202
加米彦
(
かめひこ
)
『
辷
(
すべ
)
つても
転
(
ころ
)
げても
構
(
かま
)
ひますものか、
203
貴女
(
あなた
)
と
私
(
わたし
)
と
此
(
この
)
谷川
(
たにがは
)
で
悦
(
よろこ
)
びて
転
(
ころ
)
こンで
寝転
(
ねころ
)
ンで
辷
(
すべ
)
り
込
(
こ
)
ンで
心中
(
しんぢう
)
したら
一寸
(
ちよつと
)
乙
(
おつ
)
でせう、
204
美男
(
びなん
)
と
美人
(
びじん
)
の
心中
(
しんぢう
)
物語
(
ものがたり
)
、
205
いつの
世
(
よ
)
にか
稗田
(
ひえだ
)
の
阿礼
(
あれい
)
の
二代目
(
にだいめ
)
が
現
(
あら
)
はれて、
206
霊界
(
れいかい
)
物語
(
ものがたり
)
に
此
(
この
)
ローマンスを
針小
(
しんせう
)
棒大
(
ぼうだい
)
に
書
(
か
)
き
立
(
た
)
て、
207
名
(
な
)
を
竹帛
(
ちくはく
)
に
垂
(
た
)
れ
末代
(
まつだい
)
の
語
(
かた
)
り
草
(
ぐさ
)
にして
呉
(
く
)
れるかも
知
(
し
)
れませぬよ、
208
アハヽヽヽ』
209
悦子姫
(
よしこひめ
)
『
加米彦
(
かめひこ
)
さま、
210
何
(
ど
)
うやらお
蔭
(
かげ
)
で
無難
(
ぶなん
)
に
渡
(
わた
)
つて
来
(
き
)
ました』
211
加米彦
(
かめひこ
)
『アヽ
割
(
わ
)
りとは
狭
(
せま
)
い
川
(
かは
)
だ、
212
貴女
(
あなた
)
と
一緒
(
いつしよ
)
に
握手
(
あくしゆ
)
提携
(
ていけい
)
して
歩
(
ある
)
くなら、
213
仮令
(
たとへ
)
河幅
(
かははば
)
が
三
(
さん
)
里
(
り
)
あつても
五
(
ご
)
里
(
り
)
あつても、
214
少
(
すこ
)
しも、
215
遠
(
とほ
)
いとは
思
(
おも
)
ひませぬワ』
216
悦子姫
(
よしこひめ
)
『ホヽヽヽ、
217
加米
(
かめ
)
さま、
218
好
(
よ
)
い
加減
(
かげん
)
に
惚気
(
のろけ
)
て
置
(
お
)
きなさい』
219
とポンと
叩
(
たた
)
く。
220
加米
(
かめ
)
、
221
首
(
くび
)
をすくめ
目
(
め
)
を
細
(
ほそ
)
うし、
222
舌
(
した
)
を
一寸
(
ちよつと
)
出
(
だ
)
して、
223
加米彦
『ヤア
占
(
し
)
めた
占
(
し
)
めた、
224
お
出
(
いで
)
たな、
225
もつともつと
叩
(
たた
)
いて
下
(
くだ
)
さいな』
226
悦子姫
(
よしこひめ
)
『アヽ
加米
(
かめ
)
さまの
好
(
す
)
かぬたらしいお
方
(
かた
)
、
227
ホヽヽヽ』
228
音彦
(
おとひこ
)
『オーイオーイ、
229
加米彦
(
かめひこ
)
、
230
何
(
なん
)
だか
知
(
し
)
らぬが
御
(
ご
)
機嫌斜
(
きげんななめ
)
ならずだなア、
231
要領
(
えうりやう
)
を
得
(
え
)
たのか、
232
密約
(
みつやく
)
は
成立
(
せいりつ
)
したか』
233
悦子姫
(
よしこひめ
)
『ホヽヽヽ』
234
加米彦
(
かめひこ
)
『
何
(
なに
)
、
235
条約
(
でうやく
)
不成立
(
ふせいりつ
)
不得
(
ふとく
)
要領
(
えうりやう
)
だ』
236
音彦
(
おとひこ
)
『
不得
(
ふとく
)
要領
(
えうりやう
)
の
中
(
うち
)
に
要領
(
えうりやう
)
を
得
(
う
)
るのが
戦術家
(
せんじゆつか
)
の
智略
(
ちりやく
)
だ、
237
アハヽヽヽ』
238
紫姫
(
むらさきひめ
)
『ホヽヽヽ、
239
貴方
(
あなた
)
等
(
がた
)
は
気楽
(
きらく
)
なお
方
(
かた
)
ですねえ、
240
最前
(
さいぜん
)
からの
皆様
(
みなさま
)
のお
話
(
はなし
)
で
私
(
わたくし
)
の
心
(
こころ
)
の
憂愁
(
いうしう
)
も
何処
(
どこ
)
へやら
煙散
(
えんさん
)
霧消
(
むせう
)
して
仕舞
(
しま
)
ひましたワ』
241
悦子姫
(
よしこひめ
)
、
242
加米彦
(
かめひこ
)
は
漸
(
やうや
)
く
二人
(
ふたり
)
の
前
(
まへ
)
に
辿
(
たど
)
り
着
(
つ
)
きぬ。
243
音彦
(
おとひこ
)
『モシモシ
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
、
244
此
(
この
)
お
方
(
かた
)
は
紫姫
(
むらさきひめ
)
と
云
(
い
)
つて
都
(
みやこ
)
の
方
(
かた
)
ぢやさうです、
245
二人
(
ふたり
)
の
下僕
(
しもべ
)
を
従
(
したが
)
へ
真名井
(
まなゐ
)
ケ
原
(
はら
)
へ
参詣
(
さんけい
)
の
途中
(
とちう
)
、
246
荒鷹
(
あらたか
)
、
247
鬼鷹
(
おにたか
)
両人
(
りやうにん
)
に
誘拐
(
かどはか
)
され、
248
二人
(
ふたり
)
の
下僕
(
しもべ
)
が
嬲殺
(
なぶりごろ
)
しに
遇
(
あ
)
はされたさうです、
249
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ぢやありませぬか』
250
悦子姫
(
よしこひめ
)
『………』
251
加米彦
(
かめひこ
)
『ナニ、
252
二人
(
ふたり
)
の
下僕
(
しもべ
)
が
嬲殺
(
なぶりごろ
)
しに
遇
(
あ
)
つたと、
253
ヨシ
俺
(
おれ
)
にも
考
(
かんが
)
へがある、
254
サア
音彦
(
おとひこ
)
、
255
其
(
その
)
荒鷹
(
あらたか
)
鬼鷹
(
おにたか
)
と
云
(
い
)
ふ
奴
(
やつ
)
、
256
これから
一
(
ひと
)
つ
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
を
征伐
(
せいばつ
)
の
門出
(
かどで
)
の
血祭
(
ちまつり
)
にしやうではないか、
257
モシモシ
紫姫
(
むらさきひめ
)
様
(
さま
)
、
258
長
(
なが
)
らくお
目
(
め
)
に
懸
(
かか
)
りませぬ、
259
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
宜敷
(
よろし
)
う、
260
誠
(
まこと
)
に
御
(
ご
)
無沙汰
(
ぶさた
)
を
致
(
いた
)
しまして』
261
紫姫
(
むらさきひめ
)
『
貴方
(
あなた
)
は
何方
(
どなた
)
で
御座
(
ござ
)
いましたか、
262
記憶
(
きおく
)
に
浮
(
う
)
かびませぬ』
263
加米彦
(
かめひこ
)
『アヽさうでした、
264
初
(
はじ
)
めてお
目
(
め
)
にぶら
下
(
さが
)
つたのですよ、
265
私
(
わたくし
)
の
若
(
わか
)
い
時
(
とき
)
のスヰートハートしたナイスに、
266
何処
(
どこ
)
やら
能
(
よ
)
く
似
(
に
)
まして
御座
(
ござ
)
るものだから、
267
つい
考
(
かんが
)
へ
違
(
ちが
)
ひを
致
(
いた
)
しました、
268
アハヽヽヽ』
269
音彦
(
おとひこ
)
『ワハヽヽヽ』
270
紫姫
(
むらさきひめ
)
『ホヽヽヽヽ』
271
紫姫
(
むらさきひめ
)
、
272
初
(
はじ
)
めてニタリと
笑
(
わら
)
ふ。
273
音彦
(
おとひこ
)
『
紫姫
(
むらさきひめ
)
さま、
274
貴女
(
あなた
)
の
囚
(
とら
)
はれて
居
(
ゐ
)
る
巌窟
(
がんくつ
)
に
案内
(
あんない
)
して
下
(
くだ
)
さい、
275
これから
行
(
い
)
つて
悪神
(
あくがみ
)
の
奴
(
やつ
)
、
276
片
(
かた
)
つ
端
(
ぱし
)
から
粉砕
(
ふんさい
)
して
呉
(
く
)
れませう、
277
ヤア
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い、
278
腕
(
うで
)
が
鳴
(
な
)
つて
耐
(
たま
)
らないワ、
279
この
握
(
にぎ
)
り
拳
(
こぶし
)
のやり
所
(
どころ
)
が
無
(
な
)
い、
280
サア
早
(
はや
)
く
案内
(
あんない
)
して
下
(
くだ
)
さいナ』
281
紫姫
(
むらさきひめ
)
『ヤアそれはお
見合
(
みあは
)
せ
遊
(
あそ
)
ばせ、
282
大変
(
たいへん
)
で
御座
(
ござ
)
いますよ、
283
ならう
事
(
こと
)
なら
妾
(
わらは
)
も
一緒
(
いつしよ
)
に
連
(
つ
)
れて
逃
(
に
)
げて
下
(
くだ
)
さいませぬか』
284
加米彦
(
かめひこ
)
『エヽ
気
(
き
)
の
弱
(
よわ
)
い
事
(
こと
)
を
仰有
(
おつしや
)
るな、
285
吾々
(
われわれ
)
は
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのをの
)
大神
(
おほかみ
)
の
御
(
ご
)
守護
(
しゆご
)
がある、
286
必
(
かなら
)
ず
必
(
かなら
)
ず
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
なさいますな、
287
サア
案内
(
あんない
)
して
下
(
くだ
)
さい、
288
悦子姫
(
よしこひめ
)
さま、
289
音彦
(
おとひこ
)
殿
(
どの
)
、
290
サア
往
(
ゆ
)
きませう』
291
紫姫
(
むらさきひめ
)
『
左様
(
さやう
)
なら
妾
(
わらは
)
が
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
致
(
いた
)
します、
292
荊棘
(
けいきよく
)
茂
(
しげ
)
る
難路
(
なんろ
)
で
御座
(
ござ
)
います、
293
残
(
のこ
)
ンの
雪
(
ゆき
)
も
溜
(
たま
)
つて
居
(
を
)
りますれば
足許
(
あしもと
)
に
気
(
き
)
をつけて
下
(
くだ
)
さいや』
294
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つ。
295
一行
(
いつかう
)
は
雪
(
ゆき
)
の
坂道
(
さかみち
)
辿
(
たど
)
つて
紫姫
(
むらさきひめ
)
の
後
(
あと
)
について
行
(
ゆ
)
く。
296
紫姫
(
むらさきひめ
)
に
導
(
みちび
)
かれ
二三丁
(
にさんちやう
)
羊腸
(
やうちやう
)
の
小道
(
こみち
)
を
辿
(
たど
)
り
行
(
ゆ
)
く。
297
前方
(
ぜんぱう
)
に
見上
(
みあぐ
)
る
許
(
ばか
)
りの
大岩石
(
だいがんせき
)
広
(
ひろ
)
く
左右
(
さいう
)
に
二三丁
(
にさんちやう
)
許
(
ばか
)
り
展開
(
てんかい
)
し
居
(
ゐ
)
たり。
298
紫姫
(
むらさきひめ
)
は
中央
(
まんなか
)
の
岩石
(
がんせき
)
を
指
(
さ
)
し、
299
紫姫
『
皆様
(
みなさま
)
、
300
あの
巌
(
いはほ
)
の
下
(
した
)
に
巨大
(
きよだい
)
なる
穴
(
あな
)
が
開
(
あ
)
いて
居
(
を
)
ります、
301
今日
(
けふ
)
は
荒鷹
(
あらたか
)
、
302
鬼鷹
(
おにたか
)
の
大将株
(
たいしやうかぶ
)
は
鬼
(
おに
)
ケ
城
(
じやう
)
に
参
(
まゐ
)
りまして
不在
(
ふざい
)
で
御座
(
ござ
)
います。
303
四五
(
しご
)
人
(
にん
)
の
小鬼
(
こおに
)
共
(
ども
)
は
皆
(
みな
)
酒
(
さけ
)
に
酔
(
よ
)
ひ
潰
(
つぶ
)
れて
寝
(
やす
)
みて
居
(
を
)
りますから
大丈夫
(
だいぢやうぶ
)
、
304
御
(
ご
)
安心
(
あんしん
)
して
下
(
くだ
)
さいませ』
305
加米彦
(
かめひこ
)
『ヤア
思惑
(
おもわく
)
とは
洒落
(
しやれ
)
た
事
(
こと
)
を
悪神
(
あくがみ
)
の
奴
(
やつ
)
やつて
居
(
を
)
る
哩
(
わい
)
、
306
山
(
やま
)
又
(
また
)
山
(
やま
)
に
包
(
つつ
)
まれたこの
高山
(
かうざん
)
の
幽谷
(
いうこく
)
、
307
難攻
(
なんこう
)
不落
(
ふらく
)
の
金城
(
きんじやう
)
鉄壁
(
てつぺき
)
とは
此
(
この
)
事
(
こと
)
だ。
308
遉
(
さすが
)
は
悪神
(
あくがみ
)
だけあつて
好
(
よ
)
い
地利
(
ちり
)
を
選
(
えら
)
ンだものだ。
309
一卒
(
いつそつ
)
道
(
みち
)
に
当
(
あた
)
れば
万軍
(
ばんぐん
)
進
(
すす
)
む
能
(
あた
)
はずと
云
(
い
)
ふ
要害
(
えうがい
)
堅固
(
けんご
)
の
絶所
(
ぜつしよ
)
だなア』
310
と
首
(
くび
)
を
傾
(
かたむ
)
け
呆
(
あき
)
れて
舌
(
した
)
を
捲
(
ま
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
311
音彦
(
おとひこ
)
『よく
感心
(
かんしん
)
する
男
(
をとこ
)
だなア、
312
加米
(
かめ
)
さま
気
(
き
)
に
入
(
い
)
つたかな』
313
加米彦
(
かめひこ
)
『
気
(
き
)
に
入
(
い
)
るの
入
(
い
)
らないのつて、
314
いやもうずつと
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りました、
315
風景
(
ふうけい
)
と
云
(
い
)
ひ
要害
(
えうがい
)
と
云
(
い
)
ひ
天下
(
てんか
)
の
珍
(
ちん
)
だ、
316
サアサア
往
(
い
)
きませう、
317
巌窟
(
がんくつ
)
の
探険
(
たんけん
)
も
退屈
(
たいくつ
)
ざましに
面白
(
おもしろ
)
からう』
318
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
走
(
はし
)
り
出
(
だ
)
すを、
319
紫姫
(
むらさきひめ
)
は
手
(
て
)
を
挙
(
あ
)
げて、
320
紫姫
『モシモシ
貴方
(
あなた
)
、
321
妾
(
わらは
)
が
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
致
(
いた
)
しませう、
322
其処
(
そこ
)
には
深
(
ふか
)
い
深
(
ふか
)
い
陥穽
(
おとしあな
)
が
御座
(
ござ
)
います、
323
滅多
(
めつた
)
矢鱈
(
やたら
)
にお
出
(
いで
)
なさつては
剣呑
(
けんのん
)
で
御座
(
ござ
)
いますから』
324
加米彦
(
かめひこ
)
は
耳
(
みみ
)
にもかけず
巌窟
(
がんくつ
)
目蒐
(
めが
)
けて
一目散
(
いちもくさん
)
に
駆出
(
かけだ
)
したるが、
325
忽
(
たちま
)
ちドサツと
音
(
おと
)
して
陥穽
(
おとしあな
)
に
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
みにける。
326
紫姫
(
むらさきひめ
)
『アヽ
大変
(
たいへん
)
大変
(
たいへん
)
、
327
皆様
(
みなさま
)
どうぞ
助
(
たす
)
けて
上
(
あ
)
げて
下
(
くだ
)
さいませ』
328
音彦
(
おとひこ
)
『
慌者
(
あわてもの
)
だなア、
329
仕方
(
しかた
)
が
無
(
な
)
い』
330
と
走
(
はし
)
り
行
(
ゆ
)
かむとするを
紫姫
(
むらさきひめ
)
は、
331
紫姫
『モシモシ
慌
(
あわて
)
て
下
(
くだ
)
さるな、
332
沢山
(
たくさん
)
の
陥穽
(
おとしあな
)
、
333
妾
(
わらは
)
が
御
(
ご
)
案内
(
あんない
)
致
(
いた
)
します、
334
後
(
あと
)
からついて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい』
335
音彦
(
おとひこ
)
『アヽさうかなア、
336
何処迄
(
どこまで
)
も
注意
(
ちうい
)
周到
(
しうたう
)
なものだ、
337
ソンナラ
先頭
(
せんとう
)
を
頼
(
たの
)
みませう、
338
悦子姫
(
よしこひめ
)
様
(
さま
)
、
339
失礼
(
しつれい
)
ながらお
先
(
さき
)
に
参
(
まゐ
)
ります、
340
私
(
わたくし
)
の
足跡
(
あしあと
)
を
踏
(
ふ
)
みて
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さい、
341
危険
(
きけん
)
ですから』
342
悦子姫
(
よしこひめ
)
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う』
343
加米彦
(
かめひこ
)
は
二三丈
(
にさんぢやう
)
もある
深
(
ふか
)
い
陥穽
(
おとしあな
)
に
落
(
お
)
ち
込
(
こ
)
みしが、
344
幸
(
さいは
)
ひ
少
(
すこ
)
しの
怪我
(
けが
)
もなく
井戸
(
ゐど
)
の
底
(
そこ
)
に
突立
(
つつた
)
ちながら、
345
加米彦
『ヤア
悪神
(
わるがみ
)
の
奴
(
やつ
)
、
346
エライ
事
(
こと
)
をしよつた。
347
紫姫
(
むらさきひめ
)
とやら、
348
彼奴
(
あいつ
)
は
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
一味
(
いちみ
)
の
奴
(
やつ
)
に
相違
(
さうゐ
)
ない、
349
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
ると
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまも
音彦
(
おとひこ
)
も
同
(
おな
)
じやうに、
350
空中
(
くうちう
)
滑走
(
かつそう
)
井底
(
せいてい
)
着陸
(
ちやくりく
)
とやられるか
知
(
し
)
れやしないぞ、
351
かうして
井底
(
せいてい
)
に
佇立
(
ちよりつ
)
して
居
(
ゐ
)
る
頭
(
あたま
)
の
上
(
うへ
)
から
岩石
(
がんせき
)
でも
落
(
おと
)
されやうものなら、
352
それこそお
耐
(
たま
)
り
小坊子
(
こぼし
)
が
無
(
な
)
いワイ、
353
嗚呼
(
ああ
)
縮尻
(
しくじつ
)
たりな
縮尻
(
しくじつ
)
たりな、
354
三五教
(
あななひけう
)
は
穴
(
あな
)
が
無
(
な
)
くて
安心
(
あんしん
)
だが、
355
今
(
いま
)
の
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
どこ
も
か
も
穴
(
あな
)
だらけだ。
356
穴
(
あな
)
怖
(
おそ
)
ろしの
娑婆
(
しやば
)
世界
(
せかい
)
』
357
と
呟
(
つぶや
)
き
居
(
ゐ
)
たりしが、
358
足許
(
あしもと
)
の
水溜
(
みづたま
)
りにパツと
写
(
うつ
)
つた
悦子姫
(
よしこひめ
)
の
顔
(
かほ
)
、
359
加米彦
(
かめひこ
)
『ヤア
又
(
また
)
出
(
で
)
やがつたな、
360
彼
(
あ
)
の
谷川
(
たにがは
)
を
渡
(
わた
)
る
時
(
とき
)
、
361
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまに
揶揄
(
からか
)
つたものだから、
362
紫姫
(
むらさきひめ
)
の
奴
(
やつ
)
、
363
加米彦
(
かめひこ
)
は
悦子姫
(
よしこひめ
)
に
現
(
うつつ
)
を
抜
(
ぬ
)
かしてゐると
早合点
(
はやがつてん
)
しよつて、
364
井
(
ゐ
)
の
底
(
そこ
)
に
姫
(
ひめ
)
の
顔
(
かほ
)
を
現
(
あら
)
はしよつたのだな、
365
どつこい
其
(
その
)
手
(
て
)
は
喰
(
く
)
はぬぞ、
366
総
(
すべ
)
て
悪神
(
あくがみ
)
は
色
(
いろ
)
をもつて、
367
男子
(
だんし
)
を
死地
(
しち
)
に
陥入
(
おとしい
)
るると
聞
(
き
)
く、
368
オイ
化物
(
ばけもの
)
、
369
悦子姫
(
よしこひめ
)
の
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
せた
処
(
ところ
)
で
其
(
その
)
手
(
て
)
に
乗
(
の
)
るものかい、
370
道心
(
だうしん
)
堅固
(
けんご
)
の
三五教
(
あななひけう
)
の
加米彦
(
かめひこ
)
だ、
371
馬鹿
(
ばか
)
にするない』
372
頭上
(
づじやう
)
から
悦子姫
(
よしこひめ
)
は、
373
悦子姫
『モシモシ
加米彦
(
かめひこ
)
さま
大変
(
たいへん
)
なお
危
(
あぶ
)
ない
事
(
こと
)
で
御座
(
ござ
)
いました。
374
お
怪我
(
けが
)
は
御座
(
ござ
)
いませぬか』
375
加米彦
(
かめひこ
)
『ヤア
悦子姫
(
よしこひめ
)
さまか、
376
ようマア
無事
(
ぶじ
)
で
陥穽
(
おとしあな
)
へもはまらないで
居
(
ゐ
)
て
下
(
くだ
)
さつた。
377
音彦
(
おとひこ
)
さまはどうなりました。
378
御
(
ご
)
無事
(
ぶじ
)
ですかなア』
379
悦子姫
(
よしこひめ
)
『ハイ
有難
(
ありがた
)
う、
380
此処
(
ここ
)
に
紫姫
(
むらさきひめ
)
さまと
来
(
き
)
て
居
(
を
)
られます、
381
貴方
(
あなた
)
をお
助
(
たす
)
けしやうと
思
(
おも
)
つて
綱
(
つな
)
を
編
(
あ
)
みて
居
(
を
)
るところで
御座
(
ござ
)
います、
382
暫
(
しばら
)
くお
待
(
ま
)
ち
下
(
くだ
)
さいませ』
383
加米彦
(
かめひこ
)
『ヤア
有難
(
ありがた
)
う、
384
神
(
かみ
)
の
救
(
すく
)
ひの
御
(
お
)
綱
(
つな
)
、
385
此
(
この
)
神
(
かみ
)
は
此
(
この
)
人
(
ひと
)
と
思
(
おも
)
うて
綱
(
つな
)
をかけたら
放
(
はな
)
さぬぞよと
云
(
い
)
ふ
御
(
ご
)
神勅
(
しんちよく
)
の
実現
(
じつげん
)
だナア。
386
アヽ
惟神
(
かむながら
)
霊
(
たま
)
幸倍
(
ちはへ
)
坐世
(
ませ
)
』
387
音彦
(
おとひこ
)
、
388
紫姫
(
むらさきひめ
)
の
二人
(
ふたり
)
は
手早
(
てばや
)
く
縄梯子
(
なはばしご
)
を
編
(
あ
)
み、
389
吊
(
つ
)
り
下
(
お
)
ろせば、
390
加米彦
(
かめひこ
)
は、
391
加米彦
『ヤア
有難
(
ありがた
)
い』
392
と
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
しゐる。
393
音彦
(
おとひこ
)
『サア
加米彦
(
かめひこ
)
さま、
394
この
綱
(
つな
)
に
確
(
しつか
)
り
掴
(
つか
)
まつた。
395
三
(
さん
)
人
(
にん
)
が
力
(
ちから
)
を
合
(
あは
)
して
釣
(
つ
)
り
上
(
あ
)
げませう、
396
一
(
いち
)
二
(
に
)
三
(
さん
)
』
397
と
三
(
さん
)
人
(
にん
)
一度
(
いちど
)
に
手繰
(
たぐ
)
り
上
(
あ
)
げたり。
398
加米彦
(
かめひこ
)
『アヽ
有難
(
ありがた
)
う、
399
お
蔭
(
かげ
)
で
命
(
いのち
)
が
助
(
たす
)
かりました。
400
井戸
(
ゐど
)
い
目
(
め
)
に
遇
(
あ
)
うところだつた、
401
アヽハヽヽ』
402
紫姫
(
むらさきひめ
)
『
加米
(
かめ
)
様
(
さま
)
とやら、
403
お
怪我
(
けが
)
が
無
(
な
)
くてお
目出度
(
めでた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
404
サアこれから
巌窟
(
がんくつ
)
に
参
(
まゐ
)
りませう』
405
と
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
ち
細
(
ほそ
)
い
穴
(
あな
)
を
潜
(
くぐ
)
り
入
(
い
)
る。
406
一行
(
いつかう
)
も
続
(
つづ
)
いて
巌窟
(
がんくつ
)
に
姿
(
すがた
)
を
隠
(
かく
)
しける。
407
(
大正一一・四・二三
旧三・二七
加藤明子
録)
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