霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第二章 副守(ふくしゆの)(ささやき)〔七一四〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻 篇:第1篇 南海の山 よみ(新仮名遣い):なんかいのやま
章:第2章 副守囁 よみ(新仮名遣い):ふくしゅのささやき 通し章番号:714
口述日:1922(大正11)年06月10日(旧05月15日) 口述場所: 筆録者:外山豊二 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月19日
概要: 舞台:熊野の若彦館 あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
熊野の那智の滝で罪穢れを洗い清めた若彦の館に、魔我彦と竹彦が訪ねて来た。魔我彦、竹彦は玉照彦・玉照姫の使者として来たのだ、と傲然と構えている。
魔我彦と竹彦は、聖地で杢助と初稚姫が幅を利かせているために高姫が非常に心配をしている、と報告し、言依別命が玉能姫と不倫をしているなどど嘘の報告をなし、若彦を取り崩そうとする。
しかし若彦は、それが本当だとしても小さなことだ、と取り合わない。魔我彦は必死で若彦の心を崩そうとするが、竹彦が茶々を入れて邪魔をする。竹彦は神懸りになって、魔我彦・竹彦が国依別と玉治別を谷底へ突き落としたことを仄めかすようなことを言い、逆に魔我彦が焦り出す。
そこへ、若彦に三人の男の来客があった。若彦は魔我彦・竹彦が逃げないように見張りをつけて、接客に出た。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-06-22 19:57:35 OBC :rm2302
愛善世界社版:24頁 八幡書店版:第4輯 501頁 修補版: 校定版:24頁 普及版:10頁 初版: ページ備考:
001 (つみ)(けが)れも那智(なち)(たき)002(あら)(なが)した若彦(わかひこ)は、003(こころ)もすがすがしく三五教(あななひけう)教理(けうり)遠近(ゑんきん)(つた)ふべく、004普陀落(ふだらく)(さん)(ふもと)(やかた)(つく)り、005(をしへ)四方(よも)()きつつあつた。006(もん)(たた)いて、
007(たの)まう(たの)まう』
008(おとな)二人(ふたり)宣伝使(せんでんし)がある。009門番(もんばん)秋公(あきこう)010七五三(しめ)(こう)(この)(こゑ)(ねむ)りを()まし、011大欠伸(おほあくび)をしながら、
012七五三(しめ)(こう)『オイ秋公(あきこう)013(たれ)だか門外(もんぐわい)(おとな)(ひと)がある。014(はや)()きて()けてやらないか』
015秋公(あきこう)()(ろく)()けてゐないのに、016()(もん)()ける必要(ひつえう)があるか。017(すこ)時刻(じこく)(はや)いから、018マア一寝入(ひとねいり)したがよからう』
019 (もん)(たた)(こゑ)益々(ますます)(いそが)はしい。020七五三(しめ)(こう)夜具(やぐ)(かぶ)つた(まま)
021七五三公『オイオイ()けるのは秋公(あきこう)(やく)だ。022(はや)()きぬかい』
023秋公(あきこう)(それ)(ほど)(やかま)しく()ふなら、024貴様(きさま)()けてやれ』
025七五三公『オレは(その)()(ごと)しめ(やく)だ。026愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して()ると、027(また)若彦(わかひこ)大将(たいしやう)からお目玉(めだま)頂戴(ちやうだい)するぞ。028エー仕方(しかた)()(やつ)だ』
029寝巻(ねまき)(まま)030仏頂面(ぶつちやうづら)()げて片足(かたあし)下駄(げた)031片足(かたあし)草履(ざうり)穿()き、032三尺帯(さんしやくおび)引摺(ひきず)(なが)ら、033(もん)をガラガラと(ひら)いた。034二人(ふたり)丁寧(ていねい)会釈(ゑしやく)し、
035二人の宣伝使若彦(わかひこ)宣伝使(せんでんし)()在宅(ざいたく)ですかな』
036七五三(しめ)(こう)『そんな(むつ)かしいことを()つて(わか)るかい。037()るか、038()らぬかと()ふのか。039さうしてお(まへ)(なん)()宣伝使(せんでんし)だ』
040『ハイ(わたくし)魔我彦(まがひこ)041(ほか)一人(ひとり)竹彦(たけひこ)()つて三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)です。042大神(おほかみ)(さま)()命令(めいれい)()つて、043遥々(はるばる)(まゐ)つたのですから案内(あんない)して(くだ)さい』
044七五三公(まが)つたとか、045(まが)らぬとか、046案内(あんない)とか、047門内(もんない)とか、048(まへ)()(こと)全然(さつぱり)(わけ)(わか)らぬ。049そんな英語(えいご)使(つか)はずに(おれ)(たち)(わか)(やう)()つて()れ』
050魔我彦(まがひこ)『アハヽヽヽ、051(わけ)(わか)らぬ門番(もんばん)もあつたもんぢやなア。052こんな(やつ)門番(もんばん)して()(くらゐ)だから、053大抵(たいてい)若彦(わかひこ)()手並(てなみ)(わか)つてゐるワイ』
054七五三(しめ)(こう)一寸(ちよつと)()つて()れ。055(いま)(まへ)此家(ここ)()主人(しゆじん)若彦(わかひこ)()つたなア。056何故(なぜ)若彦(わかひこ)さまと()はないのだ。057そんな無茶(むちや)なこと()(やつ)は、058()(もん)(とほ)されぬのだ。059大方(おほかた)魔谷(まや)(だけ)蜈蚣姫(むかでひめ)乾児(こぶん)だらう。060三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)だなんて、061うまく(ばけ)()たのではないかな。062……オイ秋公(あきこう)063貴様(きさま)()きて()い。064大変(たいへん)(やつ)がやつて来居(きを)つたぞ』
065 秋公(あきこう)(この)(こゑ)(おどろ)いて、066寝巻(ねまき)(まま)(この)()(あら)はれ(きた)り、
067秋公大変(たいへん)(やつ)とは此奴(こいつ)か。068如何(どう)したといふのだ』
069七五三公此方(こちら)主人(しゆじん)若彦(わかひこ)なんて()びつけにしやがるものだから、070むかつくのだよ秋公(あきこう)
071秋公『それはむかつくとも、072オイ何処(どこ)(やつ)()らぬが今日(けふ)(かへ)つて()れ』
073魔我彦(まがひこ)(その)(はう)()はば若彦(わかひこ)門番(もんばん)でないか。074大神(おほかみ)(さま)()命令(めいれい)()吾々(われわれ)を、075(とほ)すの(とほ)さぬのと()権利(けんり)があるか。076(はや)案内(あんない)(いた)せ』
077(やや)(いか)りを()びた語気(ごき)呶鳴(どな)りつけた。078二人(ふたり)(あたま)()(なが)ら、
079秋公(あきこう)『マア(これ)から吾々(われわれ)門番(もんばん)手水(てうづ)使(つか)ひ、080着物(きもの)着換(きか)へ、081朝飯(あさめし)()つて(ゆつ)くりと案内(あんない)をしてやるから、082それ(まで)其処(そこ)()つてゐるが()いワイ』
083竹彦(たけひこ)魔我彦(まがひこ)さま、084(ひろ)いと()つてもたか()れた若彦(わかひこ)屋敷(やしき)085サア、086()きませう』
087(さき)()(おく)()る。088若彦(わかひこ)(すず)しさうな薄衣(うすぎぬ)()て、089庭先(にはさき)掃除(さうぢ)余念(よねん)()く、090箒目(はうきめ)(ただ)しく(すな)(うへ)(ゑが)いてゐる。
091魔我彦(まがひこ)『アヽ()れが()うやら若彦(わかひこ)宣伝使(せんでんし)らしい。092大将(たいしやう)(あさ)(はや)くから()(とほ)り、093(はうき)(もつ)園丁(ゑんてい)(やく)(つと)めて()るのに、094門番(もんばん)(やつ)グウグウと()やがつて、095ポンついてゐやがる。096ウラナイ(けう)北山村(きたやまむら)本山(ほんざん)でも、097依然(やつぱり)さうだつた。098門番(もんばん)威張(ゐば)るばかりで(はたら)かぬものだ。099なア竹彦(たけひこ)100貴様(きさま)波斯(フサ)(くに)ではウラナイ(けう)門番(もんばん)をしてゐた(とき)101依然(やつぱり)さうだつたなア』
102竹彦(たけひこ)『そんなことを今頃(いまごろ)()()すものぢやありませぬぞ。103さうしてウラナイ(けう)なんて、104(とう)(むかし)消滅(せうめつ)して(しま)ひ、105(いま)吾々(われわれ)立派(りつぱ)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)だ。106(むかし)門番(もんばん)を、107こんな(ところ)(かつ)()されると吾々(われわれ)沽券(こけん)(さが)る。108そんな過去(すぎさ)つたことを()ふのなら、109青山峠(あをやまたうげ)谷間(たにあひ)突発(とつぱつ)事件(じけん)此処(ここ)開陳(かいちん)しようか』
110魔我彦(まがひこ)『シーツ』
111竹彦(たけひこ)『シーツとはなんだ。112(ひと)四足扱(よつあしあつか)ひにしやがつて、113シーシー()うと、114()んだ(やつ)(また)(うら)めしやーナアーとやつて()るぞ。115縁起(えんぎ)(いは)(かみ)(みち)だ。116()()とは()はぬやうに(つつし)んだがよからう』
117(たたず)んで若彦(わかひこ)掃除(さうぢ)()(なが)二人(ふたり)(ささや)いてゐる。118()(こゑ)(みみ)()若彦(わかひこ)は、119(はうき)()にしながら両人(りやうにん)姿(すがた)(なが)めて、
120若彦(わかひこ)『アヽ貴方(あなた)魔我彦(まがひこ)さまに竹彦(たけひこ)さま、121(あさ)(はや)くから、122よくお入来(いで)になりました。123どうぞ(おく)(とほ)つて(くだ)さい。124一別(いちべつ)以来(いらい)()(はな)しも(ゆつ)くり(うけたま)はりませう』
125 魔我彦(まがひこ)儼然(げんぜん)として、
126魔我彦(わたくし)玉照彦(たまてるひこ)127玉照姫(たまてるひめ)(さま)()使(つかひ)として、128遥々(はるばる)(まゐ)つたもので御座(ござ)います』
129竹彦(たけひこ)()はば(かみ)(さま)()使(つかひ)130(つつし)みて()()きなさるがよろしからう』
131傲然(ごうぜん)(かま)へてゐる。132若彦(わかひこ)(こし)(かが)め、
133若彦(なに)()もあれ、134(おく)()(とほ)(くだ)さいませ』
135(さき)()つ。136二人(ふたり)(はな)座敷(ざしき)(まね)かれ、137茶湯(ちやゆ)饗応(きやうおう)()け、138(しばら)打寛(うちくつろ)いで四方山(よもやま)(はなし)(ふけ)(こと)となつた。139若彦(わかひこ)(おもて)()部下(ぶか)役員(やくゐん)信者(しんじや)(とも)に、140神殿(しんでん)(あさ)拝礼(はいれい)()し、141一場(いちぢやう)説教(せつけう)(をは)朝飯(あさめし)()つて()る。142侍女(じぢよ)膳部(ぜんぶ)(こしら)へ、143(はな)座敷(ざしき)二人(ふたり)(まへ)持運(もちはこ)び、144朝飯(あさめし)をすすめて()る。145若彦(わかひこ)朝餉(あさげ)()まし、146衣紋(えもん)(つくろ)ひ、147離座敷(はなれざしき)二人(ふたり)(まへ)(あら)はれ、
148若彦(わかひこ)『これはこれは()両人(ふたり)(さま)149(なが)らく()()たせ(いた)しました。150遥々(はるばる)()()し、151(なん)()馳走(ちそう)()(まこと)()みませぬ』
152魔我彦(まがひこ)三五教(あななひけう)教理(けうり)一汁(いちじふ)一菜(いつさい)()()規則(きそく)御座(ござ)る。153それにも(かか)はらず、154イヤもう贅沢(ぜいたく)()馳走(ちそう)(あづか)りました。155聖地(せいち)(おい)ては到底(たうてい)玉照彦(たまてるひこ)(さま)でも、156こんな()馳走(ちそう)()られたことも御座(ござ)りませぬ。157(しか)(なが)折角(せつかく)(おん)(こころざし)158()にするも如何(いかが)かと(ぞん)じ、159(こころよ)頂戴(ちやうだい)(いた)しました。160アハヽヽヽ』
161若彦(わかひこ)吾々(われわれ)三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)162一汁(いちじふ)一菜(いつさい)()規則(きそく)はよく(まも)つて()ります。163(しか)(なが)今日(けふ)(かみ)(さま)()入来(いで)ですから、164(かみ)(さま)()馳走(ちそう)(たてまつ)つたのです。165魔我彦(まがひこ)さまや、166竹彦(たけひこ)さまに()()(まを)したのでは御座(ござ)らぬ。167貴方(あなた)(かみ)(さま)()げたものを、168()(どく)だから御食(よば)れましたと仰有(おつしや)つたが、169(かみ)(さま)(ぶん)まで()(あが)りになつたのですか』
170竹篦返(しつぺがへ)しを()はされ、171二人(ふたり)はギヤフンとして(まる)()()く。
172魔我彦(まがひこ)今日(こんにち)吾々(われわれ)(まゐ)つたのは大神(おほかみ)(さま)()命令(めいれい)173玉照彦(たまてるひこ)174玉照姫(たまてるひめ)二柱(ふたはしら)神司(かむづかさ)より、175()神慮(しんりよ)(つた)ふべく出張(しゆつちやう)(いた)しました。176貴方(あなた)聖地(せいち)大変(たいへん)()つて()りますか』
177若彦(わかひこ)聖地(せいち)無事(ぶじ)安穏(あんをん)神業(しんげふ)(さか)えて()るぢやありませぬか』
178魔我彦(まがひこ)『さてさて貴方(あなた)(なが)らく聖地(せいち)(はな)れてゐるから(わか)らぬと()えるワイ。179貴方(あなた)()存知(ぞんぢ)杢助(もくすけ)()(やつ)180全然(すつかり)聖地(せいち)()()み、181初稚姫(はつわかひめ)少女(ちつぺ)()(こと)(たて)()り、182横暴(わうばう)(きは)め、183(たれ)(かれ)人心(じんしん)離反(りはん)し、184(いま)大変動(だいへんどう)(おこ)らんとして()る。185それで高姫(たかひめ)さまも非常(ひじやう)()心配(しんぱい)(あそ)ばして御座(ござ)るのです』
186若彦(わかひこ)『さうすると貴方(あなた)高姫(たかひめ)さまの(むね)(ほう)じて()られたのか、187(あるひ)言依別(ことよりわけ)教主(けうしゆ)(さま)(むね)(ほう)じて()入来(いで)になつたのか、188それから第一番(だいいちばん)()かして(もら)ひませう』
189竹彦(たけひこ)『そんな(こと)如何(どう)でも()いぢやないか』
190()はんとするを魔我彦(まがひこ)周章(あわて)()(とど)め、
191魔我彦(まがひこ)『コレコレ竹彦(たけひこ)さま、192(まへ)約束(やくそく)(まも)らぬか。193(まへ)()ふべきところではない、194()はば従者(じゆうしや)ぢやないか』
195竹彦(たけひこ)従者(じゆうしや)(なに)()らぬが依然(やつぱり)表面(へうめん)魔我彦(まがひこ)同格(どうかく)立派(りつぱ)宣伝使(せんでんし)だ。196(あんま)(えら)さうに()つて(もら)ひますまい。197青山峠(あをやまたうげ)絶頂(ぜつちやう)()うですな』
198(かほ)(のぞ)()む。
199魔我彦(まがひこ)青山(あをやま)()(かく)らば烏羽玉(うばたま)()(いで)なむ。200朝日(あさひ)()(さか)()て、201拷綱(たくづぬ)(しろ)(ただむき)淡雪(あはゆき)(わか)やる(むね)を、202素手抱(すだだ)手抱(ただ)まながり203真玉手(またまで)玉手(たまで)さし()き、204腿長(ももなが)いほしなせ205豊御酒(とよみき)(たてまつ)らせ。206アハヽヽヽ』
207(わら)ひに(まぎ)らす。
208竹彦(たけひこ)『ヘン、209うまい(とこ)脱線(だつせん)するワイ』
210魔我彦(まがひこ)沈黙(ちんもく)だ』
211若彦(わかひこ)杢助(もくすけ)()うしたと()ふのですか』
212魔我彦(まがひこ)杢助(もくすけ)はお(まへ)さまを紀州(きしう)(くんだ)りまで()ひやつて()き、213(まへ)女房(にようばう)玉能姫(たまのひめ)をうまく()()み、214聖地(せいち)()れて()き、215言依別(ことよりわけ)(みこと)(そつ)○○(まるまる)させて、216それを手柄(てがら)威張(ゐば)つて()るのだ。217それが(ため)聖地(せいち)風紀(ふうき)(みだ)れ、218町内(ちやうない)()らぬは亭主(ていしゆ)ばかりなり」と()(こと)突発(とつぱつ)して()ますよ。219(まへ)さんは杢助(もくすけ)や、220言依別(ことよりわけ)(なん)(おも)ひますか。221肝腎(かんじん)女房(にようばう)○○(まるまる)されて、222それで安閑(あんかん)としてゐるのですかな。223高姫(たかひめ)さまが大変(たいへん)憤慨(ふんがい)なされて「アヽ若彦(わかひこ)さんは()(どく)ぢや、224何卒(どうぞ)一日(いちじつ)(はや)(この)(こと)()らして()げ、225(わし)一緒(いつしよ)(ちから)(あは)して聖地(せいち)改革(かいかく)せねばならぬ」と仰有(おつしや)つて、226(にしき)(みや)()(ねが)ひを(あそ)ばしたところ、227玉照彦(たまてるひこ)228玉照姫(たまてるひめ)神司(かむづかさ)大神(おほかみ)()降臨(かうりん)(あそ)ばし、229不届(ふとどき)至極(しごく)言依別(ことよりわけ)230今日(こんにち)より(その)(しよく)(めん)じ、231高姫(たかひめ)一切(いつさい)万事(ばんじ)委任(ゐにん)する。232(つい)ては杢助(もくすけ)(たた)()し、233若彦(わかひこ)さんを総務(そうむ)にするのだから(はや)聖地(せいち)(かへ)つて(もら)へ」との()(がた)(おん)言葉(ことば)234それ(ゆゑ)吾々(われわれ)遥々(はるばる)(まゐ)りました』
235若彦(わかひこ)『それは()苦労(くらう)でした。236(しか)(なが)貴方(あなた)仰有(おつしや)大変(たいへん)とは、237そんなものですか。238それはホンの(ちひ)さい問題(もんだい)ぢやありませぬか。239例令(たとへ)玉能姫(たまのひめ)○○(まるまる)されたと()つても、240吾々(われわれ)さへ(だま)つて()れば()むことだ。241()(くらゐ)(こと)が、242(なに)大変(たいへん)であらう。243アハヽヽヽ』
244()()(わら)ふ。245魔我彦(まがひこ)はキツとなり、
246魔我彦『これは()しからぬ。247自分(じぶん)女房(にようばう)○○(まるまる)され(なが)平気(へいき)(わら)うてゐるとは、248無神経(むしんけい)にも程度(ほど)がある。249イヤ、250貴方(あなた)玉能姫(たまのひめ)以上(いじやう)のナイスが出来(でき)たので、251これ(さいは)ひと(おも)つてゐるのでせう』
252若彦(わかひこ)(わたし)神界(しんかい)(ささ)げた()(うへ)253玉能姫(たまのひめ)()いて(ほか)(をんな)などは一人(ひとり)もナイスだ。254アハヽヽヽ』
255()(はな)(こす)つたように(わら)つて()()はぬ。
256魔我彦(まがひこ)『それよりも()()一大事(いちだいじ)がある。257如意(によい)宝珠(ほつしゆ)や、258(むらさき)(たま)や、259黄金(こがね)(たま)(かく)した張本人(ちやうほんにん)言依別(ことよりわけの)(みこと)だ。260可愛相(かはいさう)黒姫(くろひめ)さまや、261竜国別(たつくにわけ)262鷹依姫(たかよりひめ)(その)()連中(れんちう)は、263(たま)(さが)しに世界中(せかいぢう)()(しま)つた。264さうして言依別(ことよりわけ)教主(けうしゆ)(なん)でも目的(もくてき)があつて、265自分(じぶん)一人(ひとり)何処(どこ)かへ(かく)して(しま)ひよつたのだから、266何処(どこ)までも詮議立(せんぎだて)をしなくてはなりませぬ。267(なに)()つても玉能姫(たまのひめ)○○(まるまる)するために、268(まへ)さまを()んな遠国(ゑんごく)へ、269杢助(もくすけ)(しめ)(あは)せて()ひやるやうな代物(しろもの)だからなア』
270若彦(わかひこ)『アヽさうですか、271(わたし)言依別(ことよりわけ)(さま)(なに)をなさらうとも、272神界(しんかい)(つか)へて()(かた)だから、273(すこ)しも異存(いぞん)(まを)しませぬ、274絶対(ぜつたい)服従(ふくじゆう)ですから』
275魔我彦(まがひこ)服従(ふくじゆう)(こと)()りますよ。276(ちつ)冷静(れいせい)()(かんが)へなさい。277天下(てんか)大事(だいじ)ですから。278教主(けうしゆ)一人(ひとり)天下(てんか)とには(かへ)られますまい』
279若彦(わかひこ)()(かしこ)抜目(ぬけめ)()玉治別(たまはるわけ)や、280国依別(くによりわけ)()いて()るのですから、281滅多(めつた)なことはありますまい。282もしも左様(さやう)なことがあれば、283屹度(きつと)()らして()(はず)になつて()るのですから』
284竹彦(たけひこ)玉治別(たまはるわけ)国依別(くによりわけ)は、285モウ現世(このよ)には………』
286()ひかけるのを、287魔我彦(まがひこ)は『シーツ』と(せい)(とど)める。
288竹彦(たけひこ)(また)(ひと)をシーなんて馬鹿(ばか)にするない。289シーシー死骸(しがい)290死人(しにん)291しぶとい292()らぬ(かみ)(たた)()し。293()んだがマシであつたかいなア』
294(くび)篦棒(べらぼう)()り、295(なが)(した)()してゐる。296魔我彦(まがひこ)(こころ)(こころ)ならず、
297魔我彦(まがひこ)若彦(わかひこ)さま、298(この)(をとこ)(ちつ)逆上(ぎやくじやう)してゐますから、299(なに)()ふか(わか)りませぬ。300チツとキ(じるし)ですから()のつもりで()いて(くだ)さい』
301若彦(わかひこ)玉治別(たまはるわけ)国依別(くによりわけ)さまの消息(せうそく)()存知(ぞんぢ)でせうな』
302魔我彦(まがひこ)『………』
303竹彦(たけひこ)()竹彦(たけひこ)()つても()りませぬ。304(しか)(なが)(ふく)守護神(しゆごじん)()()つてゐますよ』
305 魔我彦(まがひこ)矢庭(やには)両手(りやうて)()み、306竹彦(たけひこ)(むか)つてウンと一声(ひとこゑ)307魔我彦(まがひこ)は、
308魔我彦副守(ふくしゆ)(やつ)309()けーツ』
310呶鳴(どな)()てゐる。
311竹彦(たけひこ)『ウヽヽ油断(ゆだん)(いた)すと谷底(たにぞこ)突落(つきおと)されるぞよ。312一旦(いつたん)谷底(たにぞこ)(おと)した(うへ)(かみ)(たす)けて、313(まこと)御用(ごよう)(いた)さすぞよ。314(この)()(かみ)自由(じいう)であるから、315人間(にんげん)のうまい計画(たくみ)成就(じやうじゆ)(いた)さぬぞよ。316(かはづ)(くち)から、317われとわが()白状(はくじやう)(いた)さして(つら)(かは)引剥(ひんむ)くぞよ』
318魔我彦(まがひこ)(さが)(さが)れ、319(さが)()らう。320(その)(はう)野天狗(のてんぐ)であらう』
321竹彦(たけひこ)野天狗(のてんぐ)でも(なん)でも()いわ、322谷底(たにぞこ)ぢや、323(おし)(おさ)れもせぬ三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)でも、324矢張(やつぱり)()されて谷底(たにぞこ)()ちてアフンと(いた)すことがあるぞよ。325(いま)(うへ)(した)になり(した)(うへ)になるぞよ。326(かみ)(おもて)(あら)はれて(ぜん)(あく)とを立別(たてわけ)るぞよ』
327魔我彦(まがひこ)『エー(やかま)しい野天狗(のてんぐ)だ。328(さが)れと()つたら(さが)らぬか』
329竹彦(たけひこ)『ウヽヽ若彦(わかひこ)殿(どの)330()をつけたがよからうぞよ。331(あく)誘惑(いうわく)()つてはならぬぞよ。332何程(なにほど)うまいこと(まを)して()ても、333(かみ)(うかが)うた(うへ)でなければ、334()いてはならぬぞよ。335マガマガマガ』
336魔我彦(まがひこ)『モシモシ若彦(わかひこ)さま、337(こま)つた邪神(じやしん)憑依(ひようい)したものですなア』
338若彦(わかひこ)『イヤ邪神(じやしん)でもありますまい。339大方(おほかた)()守護神(しゆごじん)()ふことは、340事実(じじつ)(ちか)いやうですよ。341国依別(くによりわけ)342玉治別(たまはるわけ)宣伝使(せんでんし)は、343()しや(あるひ)マガタケ(ひこ)谷底(たにぞこ)()(おと)されたのではありますまいかな』
344竹彦(たけひこ)『ウヽヽ流石(さすが)若彦(わかひこ)宣伝使(せんでんし)だ。345(なんぢ)天眼通(てんがんつう)346天晴(あつぱ)天晴(あつぱ)れ』
347 魔我彦(まがひこ)(かほ)蒼白(あをざ)め、348ソロソロ遁腰(にげごし)になつて(この)()立去(たちさ)らうとする。
349若彦(わかひこ)『マア魔我彦(まがひこ)さま、350(ゆつ)くりなさいませ。351(あめ)(した)には(てき)()ければ味方(みかた)()りませぬよ。352(かみ)(さま)善悪(ぜんあく)()審判(さば)(くだ)さいますから、353吾々(われわれ)何事(なにごと)(おこ)らうとも惟神(かむながら)(まか)して()れば()いのですよ。354サア、355(ちや)なつと召上(めしあが)りませ』
356(ちや)()んで()()す。357魔我彦(まがひこ)身体(しんたい)ワナワナと(をのの)()した。
358 (かか)(ところ)召使(めしつかひ)のお(みつ)()(をんな)359あわただしく(はし)(きた)り、
360(みつ)只今(ただいま)(さん)(にん)のお客様(きやくさま)()えました。361()(いた)しませう』
362若彦(わかひこ)(おもて)(おく)()()(とほ)(まを)して()け』
363魔我彦(まがひこ)『モシモシ()(さん)(にん)(かた)()ふのは、364()んな()(かた)御座(ござ)いますか』
365(みつ)『なんでも宣伝使(せんでんし)さまのやうです。366大変(たいへん)(おほ)きな()(かた)一人(ひとり)(まじ)つてゐられます』
367 魔我彦(まがひこ)面色(かほいろ)はサツと(かは)つた。368竹彦(たけひこ)身体(からだ)をブルブルと(ふる)はせ(なが)ら、369(また)神憑(かむがか)りになつて、
370竹彦(たけひこ)『それ()た それ()た、371(たに)ぢや(たに)ぢや、372(たま)ぢや(たま)ぢや、373クニクニクニモクモクモク』
374呶鳴(どな)()した。375若彦(わかひこ)は、
376若彦(わかひこ)『コレお(みつ)や、377四五(しご)(にん)(をとこ)此処(ここ)()んで()てお()れ』
378 『ハイ』と(こた)へて、379(みつ)(おもて)()して姿(すがた)(かく)し、380(しばら)くありて(かふ)381(おつ)382(へい)383(てい)384(ぼう)()(にん)大男(おほをとこ)()れて()た。
385若彦(わかひこ)『ヤア()(にん)(をとこ)ども、386(わし)(おもて)のお(きやく)さまに(すこ)(よう)があるから、387二人(ふたり)のお(きやく)さまを見放(みはな)さないやうに、388大切(たいせつ)保護(ほご)をして()るのだよ。389出口(でぐち)入口(いりぐち)()をつけて悪魔(あくま)侵入(しんにふ)せないように(まも)つてあげて()れ。390()げられては一寸(ちよつと)都合(つがふ)(わる)いからなア』
391(かふ)『ハイ何事(なにごと)もチヤンと(わたくし)(むね)御座(ござ)います。392()心配(しんぱい)(くだ)さいますな』
393若彦(わかひこ)何分(なにぶん)(よろ)しう(たの)む。394モシ魔我彦(まがひこ)さま、395竹彦(たけひこ)さま、396(わたし)(おもて)客人(きやくじん)一寸(ちよつと)()つて()ます。397()うぞ(ゆつ)くりお(ちや)でも(あが)つて(あそ)んで(くだ)さいませ』
398()(にん)(をとこ)目配(めくば)せし、399悠々(いういう)(この)()()つて表屋(おもや)(はう)姿(すがた)(かく)す。
400大正一一・六・一〇 旧五・一五 外山豊二録)
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