霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第九章 高姫(たかひめ)(さわぎ)〔七二一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻 篇:第3篇 有耶無耶 よみ(新仮名遣い):うやむや
章:第9章 高姫騒 よみ(新仮名遣い):たかひめさわぎ 通し章番号:721
口述日:1922(大正11)年06月11日(旧05月16日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1923(大正12)年4月19日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
若彦の館の門を潜って一人の女が入ってきた。門番がとがめると、女は門番をたしなめて足早に奥に入って行った。女は玄関番の久助と言い争い、そこへ若彦が現れて女を見ると、はっとして奥へ通した。
女は若彦の妻・玉能姫であった。玉能姫は、高姫が若彦に対して陰謀を企んでいる危急を知らせに来たのであった。玉能姫は、高姫またはその使いが食べ物を持って来たなら、決して口にしてはならない、と告げた。
若彦は承知して、玉能姫に礼を言う。そこへ玄関に騒々しい争いの声が聞こえてきた。高姫がやってきて、玉能姫がここへ来ただろうと怒鳴っている。
高姫は奥へ勝手に入ってきて、若彦と玉能姫が会談している部屋に現れた。そして憎まれ口を叩いている。高姫は二人を脅したりすかしたりして、玉の隠し場所を白状させようとする。
若彦は怒り、玉能姫は去ろうとするが、高姫は食ってかかって怒鳴りたてる。そこへ常楠夫婦、木山彦夫婦、秋彦、駒彦、虻公、蜂公がやってきて、奥の争い声を聞いてやってきた。
一行は若彦の前に平伏する。高姫は皆が陰謀を企てにやってきたのだろう、と非難を始めるが、駒彦、秋彦は何のことやらわからずに途方に暮れている。久助が一行を大広間に案内しようとすると、高姫はまたもや言いがかりをつけて一行の行く手を阻む。
秋彦と駒彦は、自分たちは教主・言依別命に絶対服従しており、若彦を玉能姫を崇敬していると言って高姫を無視して通ろうとした。
高姫は怒って秋彦と駒彦のえりを掴んで引き倒した。それを見た常楠は怒って、大力に任せて高姫の襟首を掴み、館の外へと放り出した。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2021-06-29 17:24:57 OBC :rm2309
愛善世界社版:141頁 八幡書店版:第4輯 545頁 修補版: 校定版:143頁 普及版:65頁 初版: ページ備考:
001 若彦(わかひこ)(もん)(くぐ)つて()(きた)一人(ひとり)美人(びじん)があつた。002門番(もんばん)秋公(あきこう)003七五三(しめ)(こう)両人(りやうにん)(この)姿(すがた)()て、
004秋公(あきこう)『モシモシ、005何処(どこ)のお女中(ぢよちう)()りませぬが、006(なん)御用(ごよう)御座(ござ)るか、007門番(もんばん)(わたくし)一応(いちおう)御用(ごよう)(おもむき)()かして(くだ)さいませ』
008(をんな)(すこ)しく様子(やうす)あつて……()(かく)主人(しゆじん)()()御座(ござ)いますから』
009七五三(しめ)(こう)()(わか)らぬ(をんな)(とほ)(こと)(まか)()りませぬ』
010(をんな)『お(まへ)此処(ここ)門番(もんばん)ではないか、011(わたし)如何(いか)なる(もの)(わか)らぬ(やう)(こと)で、012門番(もんばん)(つと)まりますか』
013たしなめ(なが)ら、014足早(あしばや)(おく)(ふか)(すす)()つた。
015七五三(しめ)(こう)『アヽ薩張(さつぱり)駄目(だめ)だ、016(をんな)()(やつ)()(けつ)(つよ)いものだ。017(しか)彼奴(あいつ)何処(どこ)ともなしに気品(きひん)(たか)(をんな)であつたが一体(いつたい)(なに)だらうかなア』
018秋公(あきこう)『ひよつとしたら大将(たいしやう)レコかも()れぬぞ』
019小指(こゆび)()して()せる。
020七五三(しめ)(こう)当家(うち)大将(たいしやう)(かぎ)つてそんな(もの)があつて(たま)らうかい。021玉能姫(たまのひめ)(さま)()立派(りつぱ)奥様(おくさま)があるのだが、022(いま)再度山(ふたたびさん)(ふもと)生田(いくた)(もり)に、023三五教(あななひけう)(やかた)()てて熱心(ねつしん)活動(くわつどう)して()られると()(こと)だ。024()夫婦(ふうふ)遥々(はるばる)(くに)(へだ)てて忠実(ちうじつ)()神業(しんげふ)()さると()つて、025大変(たいへん)評判(へうばん)だから、026そんな(こと)があつて(たま)るものか』
027秋公(あきこう)『さうだと()つて思案(しあん)(ほか)()(こと)がある。028ひよつとしたら玉能姫(たまのひめ)さまが()入来(いで)になつたのぢやあるまいかな』
029七五三(しめ)(こう)馬鹿(ばか)()へ、030玉能姫(たまのひめ)(さま)がどうして一人(ひとり)入来(いで)になるものか。031(すく)なくとも一人(ひとり)二人(ふたり)のお(とも)は、032屹度(きつと)()いて()らねばならぬ(はず)だ』
033秋彦(あきひこ)『そこが……微行(しのび)()(こと)がある。034きつと大将(たいしやう)(こひ)しくなつて、035()微行(びかう)出掛(でか)けられたのだらう』
036門番(もんばん)美人(びじん)(うはさ)有頂天(うちやうてん)になつて()る。
037 美人(びじん)(おく)(ふか)(すす)()玄関先(げんくわんさき)()ち、038小声(こごゑ)になつて、
039(をんな)若彦(わかひこ)(さま)()在宅(ざいたく)御座(ござ)いますか』
040(おとな)うた。041玄関番(げんくわんばん)久助(きうすけ)(この)(こゑ)(はし)()で、
042久助(きうすけ)『ハイ、043若彦(わかひこ)()主人(しゆじん)(いま)(おく)()られます。044誰方(どなた)御座(ござ)いますか、045()()()かして(くだ)さいませ』
046(をんな)(すこ)しく()(まを)()げられぬ仔細(しさい)御座(ござ)います。047()(まを)しさへすれば(わか)りますから、048何卒(どうぞ)(をんな)一人(ひとり)(たづ)ねに(まゐ)つた」と(つた)へて(くだ)さいませ』
049久助(きうすけ)(わたし)姓名(せいめい)(うけたま)はらずにお取次(とりつぎ)(いた)しますると、050大変(たいへん)(しか)られますから、051何卒(どうぞ)()()つて(くだ)さい、052さうでなければお取次(とりつぎ)絶対(ぜつたい)出来(でき)ませぬ』
053(をんな)左様(さやう)なれば(わたし)から(すす)んでお()(かか)るべく(とほ)りませう』
054久助(きうすけ)(これ)()しからぬ(こと)仰有(おつしや)る。055此処(ここ)(わたし)関所(せきしよ)056さう無暗(むやみ)(とほ)(こと)(まか)りなりませぬ』
057(をんな)左様(さやう)なれば取次(とりつ)いで(くだ)さいませ』
058久助(きうすけ)()れば貴女(あなた)相当(さうたう)人格者(じんかくしや)()えるが、059(わたし)()(こと)(わか)りませぬか。060玄関番(げんくわんばん)玄関番(げんくわんばん)としての職責(しよくせき)(まも)らねばなりませぬから、061何程(なにほど)(とほ)して()()くとも、062姓名(せいめい)(わか)らない(かた)化物(ばけもの)だか(なん)だか()れませぬ。063()(どく)(なが)何卒(どうぞ)(かへ)(くだ)さいませ』
064 美人(びじん)(やや)(こゑ)(たか)め、
065(をんな)『コレ久助(きうすけ)066(まへ)はまだ聖地(せいち)(のぼ)つた(こと)もなく、067生田(いくた)(もり)()(こと)()いので(わか)らぬのも無理(むり)はないが、068()名告(なの)らずとも玄関番(げんくわんばん)をして()(くらゐ)なら、069大抵(たいてい)(わか)りさうなものだ。070(なん)()つても(わたし)(とほ)るのだから邪魔(じやま)をして(くだ)さるな』
071何処(どこ)やらに強味(つよみ)のある()()り。
072 久助(きうすけ)(くび)(かたむ)け、
073久助(きうすけ)『ハテナ、074貴女(あなた)奥様(おくさま)では御座(ござ)いませぬか。075ア、076いやいや奥様(おくさま)ではあるまい。077(たふと)玉能姫(たまのひめ)(さま)結構(けつこう)()神業(しんげふ)(あそ)ばして、078(いま)では女房(にようばう)とは()(なが)ら、079格式(かくしき)がズツと(うへ)になられ、080当家(たうけ)()主人(しゆじん)(さま)容易(ようい)にお(そば)()れないと()(こと)だ。081そんな立派(りつぱ)(かた)(とも)()れずに、082軽々(かるがる)しく一人(ひとり)()入来(いで)(あそ)ばす道理(だうり)がない。083アヽ此奴(こいつ)は、084てつきり魔性(ましやう)のものだ。085……こりやこりや(をんな)086絶対(ぜつたい)(とほ)(こと)(まか)りならぬぞ』
087大声(おほごゑ)呶鳴(どな)りつけてゐる。088若彦(わかひこ)久助(きうすけ)大声(おほごゑ)何事(なにごと)(おこ)りしかと、089()()つて(この)()(あら)はれ(きた)り、090美人(びじん)姿(すがた)()()(おどろ)き、
091若彦『ア、092(まへ)(たま)……』
093()ひかけて(にはか)(くち)つぐみ、094()(なほ)つて、
095若彦(いづ)れの女中(ぢよちう)(ぞん)じませぬが、096何卒(どうぞ)(おく)へお(とほ)(くだ)さいませ』
097(をんな)『ハイ、098()(がた)御座(ござ)います。099()神務(しんむ)()多忙(たばう)(なか)()邪魔(じやま)(あが)りまして、100(まこと)()迷惑(めいわく)(さま)御座(ござ)いませう。101左様(さやう)なればお言葉(ことば)(したが)ひ、102(おく)(とほ)して(いただ)きませう』
103若彦(わかひこ)『サア(わたし)()いて()入来(いで)なさいませ。104コレ久助(きうすけ)105(まへ)此処(ここ)にしつかりと玄関番(げんくわんばん)をして()るのだよ、106一足(ひとあし)(おく)()てはいけないから』
107()()てて両人(りやうにん)(おく)()姿(すがた)(かく)した。108(あと)見送(みおく)つた久助(きうすけ)(くび)(やや)左方(さはう)(かたむ)(した)(はすかい)()()し、109(めう)目付(めつき)をして合点(がてん)()かぬ面持(おももち)にて天井(てんじやう)(なが)めて()る。110若彦(わかひこ)(おく)()(をんな)二人(ふたり)(しづ)かに()()め、
111若彦(わかひこ)貴方(あなた)玉能姫(たまのひめ)殿(どの)では御座(ござ)らぬか。112大切(たいせつ)()神業(しんげふ)奉仕(ほうし)しながら、113何故(なぜ)案内(あんない)()一人(ひとり)此処(ここ)へお入来(いで)になりましたか。114(わたし)(かみ)(さま)(ちか)つた以上(いじやう)115貴女(あなた)(この)(やかた)面会(めんくわい)する(こと)(おも)ひも()りませぬ』
116玉能姫(たまのひめ)『お言葉(ことば)御尤(ごもつと)もで御座(ござ)いますが、117(これ)には(ふか)仔細(しさい)があつて(まゐ)りました。118貴方(あなた)御存(ごぞん)じの(とほ)り、119言依別(ことよりわけ)(さま)より大切(たいせつ)神業(しんげふ)(めい)ぜられ、120(つい)生田(いくた)(もり)(やかた)主人(あるじ)となりましたが、121それに()いて高姫(たかひめ)さまの部下(ぶか)(つか)へて()(ひと)(たち)が、122三個(さんこ)神宝(しんぽう)は、123屹度(きつと)(わたし)貴方(あなた)とが(まを)(あは)当館(たうやかた)(かく)してあるに相違(さうゐ)ないから、124若彦(わかひこ)生命(いのち)をとつてでも、125(その)神宝(しんぽう)所在(ありか)白状(はくじやう)させねばならぬ」と()つて、126大変(たいへん)陰謀(いんぼう)(くはだ)てて()りますから、127(わたし)もそれを()いて(こころ)()()かず、128(なん)にも御存(ごぞん)じの()貴方(あなた)()迷惑(めいわく)()けては、129(つま)たる(わたし)責任(せきにん)()むまいと(おも)つて、130長途(ちやうと)(たび)(ただ)一人(ひとり)(しの)んで()報告(はうこく)(まゐ)りました』
131若彦(わかひこ)左様(さやう)御座(ござ)つたか。132それは()親切(しんせつ)有難(ありがた)御座(ござ)います。133(しか)(なが)何事(なにごと)(かみ)(さま)(まか)した(わたし)134仮令(たとへ)高姫(たかひめ)如何(いか)なる(たく)みを(もつ)(まゐ)りませうとも、135(かみ)(さま)のお(ちから)()つて()()ける覚悟(かくご)御座(ござ)います。136何卒(どうぞ)()安心(あんしん)(うへ)137休息(きうそく)なされたら一時(ひととき)(はや)くお(かへ)(くだ)さいませ。138万一(まんいち)(この)(こと)()()れましてはお(たがひ)迷惑(めいわく)若彦(わかひこ)139玉能姫(たまのひめ)立派(りつぱ)(もの)だと(おも)つて()たのに、140矢張(やつぱり)人目(ひとめ)(しの)んで夫婦(ふうふ)会合(くわいがふ)して()る」と()はれてはなりませぬから、141教主(けうしゆ)のお(ゆる)しある(まで)絶対(ぜつたい)にお()(かか)(こと)出来(でき)ませぬ。142その(かは)(わたし)何処(どこ)までも独身(どくしん)(みち)(まも)つて()りますから、143()安心(あんしん)(くだ)さいませ』
144玉能姫(たまのひめ)貴方(あなた)(かぎ)つて左様(さやう)気遣(きづか)ひは()りますものか。145(たがひ)(こころ)(うち)信用(しんよう)()つた(なか)ですから、146(けつ)して(けつ)して左様(さやう)さもしい(こころ)(おこ)しませぬ。147()承知(しようち)御座(ござ)いませうが(いづ)(とほ)からぬ(うち)148高姫(たかひめ)さまか、149(また)部下(ぶか)方々(かたがた)食物(たべもの)(もつ)()えませうから、150(けつ)してお(あが)りになつてはなりませぬ。151(これ)だけは(とく)にお(ねが)(いた)して()きます』
152若彦(わかひこ)『ハイ、153()(がた)御座(ござ)います、154(なに)から(なに)まで()注意(ちうい)(くだ)さいまして()親切(しんせつ)(だん)155何時迄(いつまで)忘却(ばうきやく)(いた)しませぬ』
156 玉能姫(たまのひめ)(うれ)()若彦(わかひこ)言葉(ことば)()いて笑顔(ゑがほ)(つく)り、157(うれ)(なみだ)(にじ)ませて()る。
158 ()かる(ところ)玄関(げんくわん)(あた)つて(あらそ)ひの(こゑ)おいおい(たか)くなつて()る。159二人(ふたり)何事(なにごと)ならんと(みみ)()ませ()()れば、160高姫(たかひめ)癇声(かんごゑ)として、
161高姫此処(ここ)玉能姫(たまのひめ)()たであらう』
162久助(きうすけ)(こゑ)『イヤイヤ(けつ)して(けつ)して(をんな)らしい(もの)一人(ひとり)()ませぬ。163(この)(やかた)()主人(しゆじん)命令(めいれい)()つて当分(たうぶん)(うち)164(をんな)禁制(きんせい)御座(ござ)る』
165高姫(たかひめ)(こゑ)(なん)()つて(かく)してもチヤンと門番(もんばん)()いて()たのだ。166(をんな)一人(ひとり)此処(ここ)這入(はい)つて()(はず)だ、167(うへ)(した)(こころ)(あは)せ、168しやうも()(をんな)()()()み、169体主(たいしゆ)霊従(れいじう)のあり()けを(つく)し、170表面(うはべ)(まこと)らしく()せて()若彦(わかひこ)(たく)みであらう。171彼奴(あいつ)青彦(あをひこ)()つて、172(わし)(そだ)ててやつた(をとこ)だ。173エー、174(とほ)すも(とほ)さぬもあるか、175()はば弟子(でし)(やかた)師匠(ししやう)()たのだ。176邪魔(じやま)(いた)すな』
177呶鳴(どな)()て、178久助(きうすけ)(とど)むるを()(はら)ひ、179三四(さんよ)(にん)(をとこ)玄関(げんくわん)()たせ()き、180(たたみ)(あし)にて(きつ)威喝(ゐかつ)させ(なが)若彦(わかひこ)居間(ゐま)(すす)(きた)り、
181高姫(たかひめ)『オホヽヽヽ、182若彦(わかひこ)さま、183(わる)(ところ)へカシヤ(ばば)(まゐ)りまして(まこと)()迷惑(めいわく)(さま)184折角(せつかく)意茶(いちや)つかうと(おも)ひなさつた(ところ)を、185風流気(ふうりうげ)()皺苦茶(しわくちや)(ばば)這入(はい)つて()て、186折角(せつかく)(きよう)()ましました。187(まへ)さまは羊頭(やうとう)(かか)げて狗肉(くにく)()山師(やまし)(やう)宣伝使(せんでんし)ぢや。188玉能姫(たまのひめ)殿(どの)189(この)高姫(たかひめ)眼力(がんりき)(たが)はず、190表面(うはべ)立派(りつぱ)(こと)を……ヘン……仰有(おつしや)つて言依別(ことよりわけ)教主(けうしゆ)誤魔化(ごまくわ)して御座(ござ)つたが、191今日(けふ)醜態(ざま)(なん)御座(ござ)りますか。192貴方(あなた)()身分(みぶん)一人(ひとり)(とも)()れずに、193大切(たいせつ)神業(しんげふ)(あそ)ばす(をつと)(そば)(しの)んで()るとは、194(じつ)立派(りつぱ)貴方(あなた)(おこな)ひ、195高姫(たかひめ)(じつ)感心(かんしん)(いた)しました。196本当(ほんたう)(すご)いお腕前(うでまへ)197(つめ)(あか)でも(せん)じて(いただ)()御座(ござ)いますワ。198オホヽヽヽ』
199若彦(わかひこ)『これはこれは高姫(たかひめ)(さま)200遠方(ゑんぱう)(ところ)ようこそいらせられました』
201高姫(たかひめ)『よう()たのでは()い、202(わる)()たのですよ。203(まへ)さまも気持(きもち)()(たの)しまうと(おも)つて()(ところ)へ、204皺苦茶(しわくちや)(ばば)アがやつて()て、205折角(せつかく)(たの)しみを滅茶(めちや)々々(めちや)にされて(むね)(わる)いでせう。206(つき)村雲(むらくも)207(はな)には(あらし)208()(なか)(おも)(やう)には()きますまいがな。209西(にし)妹山(いもやま)210(ひがし)背山(せやま)211(なか)(へだ)つる高姫川(たかひめがは)212本当(ほんたう)(わる)(やつ)()(まゐ)りました。213コレコレ玉能姫(たまのひめ)さま、214(はづ)かし(さう)(あか)(かほ)して(なん)ぢやいな。215阿婆擦(あばずれ)(をんな)(くせ)に、216殊勝(しゆしよう)らしう()せようと(おも)つて、217そんな芝居(しばゐ)をしても、218(はた)のお(かた)誤魔化(ごまくわ)されませうが、219(この)高姫(たかひめ)(かぎ)つて(その)()()ひませぬぞエ。220「その()でお釈迦(しやか)(かほ)()でた」と()ふのはお(まへ)さまの(こと)だ。221アヽア(こは)(こは)い、222こりや一通(ひととほ)りの(たぬき)ではあるまい。223愚図(ぐづ)々々(ぐづ)して()ると高姫(たかひめ)睾丸(きんたま)……オツトドツコイ……胆玉(きもだま)まで()かれますワイ』
224玉能姫(たまのひめ)『これはこれは高姫(たかひめ)(さま)225遠方(ゑんぱう)(ところ)()苦労(くらう)(さま)御座(ござ)いました。226(いま)(うけたま)はれば貴方(あなた)色々(いろいろ)我々(われわれ)夫婦(ふうふ)(こと)()いて、227誤解(ごかい)をして()らつしやいますが、228(けつ)して左様(さやう)(かんが)へを(もつ)()たのでは御座(ござ)いませぬ』
229高姫(たかひめ)『そんな(こと)今々(いまいま)信者(しんじや)仰有(おつしや)(こと)だ。230蹴爪(けづめ)()えた高姫(たかひめ)には、231()つから通用(つうよう)(いた)しませぬワイなア』
232小面(こづら)憎気(にくげ)(あご)をしやくつて()せる。233玉能姫(たまのひめ)(かへ)言葉(ことば)()迷惑相(めいわくさう)俯向(うつむ)いて()る。
234高姫(たかひめ)『コレ、235玉能姫(たまのひめ)さま、236イヤお(せつ)さま、237(わる)(こと)出来(でき)ますまいがな。238(まこと)水晶(すゐしやう)生粋(きつすゐ)日本(やまと)(だましひ)ぢやと教主(けうしゆ)見込(みこ)んで、239大切(たいせつ)()神業(しんげふ)()()けられた貴女(あなた)精神(せいしん)が、240さうグラ()(やう)(こと)では如何(どう)なりますか。241(わたし)(これ)から貴女(あなた)夫婦(ふうふ)会合(くわいがふ)実地(じつち)目撃(もくげき)した証拠人(しようこにん)だから、242三五教(あななひけう)一般(いつぱん)報告(はうこく)(いた)しまして信者(しんじや)大会(たいくわい)(ひら)き、243(まへ)さまの御用(ごよう)取上(とりあ)げて仕舞(しま)はねば、244折角(せつかく)大神(おほかみ)(さま)三千(さんぜん)(ねん)()苦労(くらう)(みづ)(あわ)になります。245サア如何(どう)ぢや、246返答(へんたふ)をしなされ。247()つの(たま)何処(どこ)(かく)してある。248それを()かねば、249(まへ)さまの(やう)なグラグラする瓢箪鯰(へうたんなまづ)には秘密(ひみつ)(まも)れませぬ。250サア玉能姫(たまのひめ)さま、251若彦(わかひこ)さま、252夫婦(ふうふ)共謀(きようぼう)してドハイカラの言依別(ことよりわけ)誤魔化(ごまくわ)して()つたが、253最早(もはや)()けの(あら)はれ(どき)254(なん)()つても高姫(たかひめ)承知(しようち)しませぬぞエ。255一般(いつぱん)報告(はうこく)されるのが(くる)しければ……魚心(うをごころ)あれば水心(みづごころ)ありとやら……(この)高姫(たかひめ)()もあれば(なみだ)もある。256(けつ)してお(まへ)さま(たち)()迷惑(めいわく)()て、257心地(ここち)よいとは滅多(めつた)(おも)ひませぬ。258サア玉能姫(たまのひめ)さま、259(まへ)さまはチツと(わし)()(やう)(きつ)うて(はら)()つであらうが、260そこは神直日(かむなほひ)大直日(おほなほひ)見直(みなほ)()(なほ)して、261()神宝(しんぽう)所在(ありか)(わし)にソツと()つて(くだ)さい。262さうすればお(まへ)さま()夫婦(ふうふ)のアラも(わか)らず、263(わし)(また)(まこと)()神業(しんげふ)出来(でき)結構(けつこう)だから』
264玉能姫(たまのひめ)(わたし)一度(いちど)教主(けうしゆ)(さま)から(たま)はお(あづか)(いた)しましたが、265不思議(ふしぎ)(かた)(あら)はれて(とほ)(くに)()つて()かれましたから、266実際(じつさい)(こと)何処(どこ)(かく)されてあるか、267(わたし)風情(ふぜい)(わか)つて(たま)りますか。268(また)仮令(たとへ)()つて()りましても、269三十万(さんじふまん)(ねん)(あひだ)口外(こうぐわい)出来(でき)ない(こと)になつて()りますから、270それ(ばか)りは如何(どう)仰有(おつしや)つても(まを)()げられませぬ。271何卒(どうぞ)貴女(あなた)天眼通(てんがんつう)()出神(でのかみ)()守護(しゆご)とで、272(たま)所在(ありか)()発見(はつけん)なさるが(よろ)しう御座(ござ)いませう』
273高姫(たかひめ)『エー、274ツベコベと小理屈(こりくつ)()(かた)ぢやなア。275そんな(こと)勿体(もつたい)ない、276()出神(でのかみ)()苦労(くらう)()けたり、277天眼通(てんがんつう)使(つか)うて(たま)りますか。278(まへ)さまが(ただ)一言(ひとこと)()()うぢや」と()ひさへすれば()いぢやないか』
279若彦(わかひこ)現在(げんざい)(をつと)(わたくし)にさへも仰有(おつしや)らぬのですから、280何程(なにほど)(たづ)ねになつても駄目(だめ)ですよ』
281高姫(たかひめ)『エー、282(まへ)までが横槍(よこやり)()れるものぢやない。283夫婦(ふうふ)(はら)(あは)して(かく)して()るのであらう。284そんな(こと)はチヤーンと(わか)つて()るのだ』
285 若彦(わかひこ)(やや)語気(ごき)(あら)らげ、
286若彦(わかひこ)()つて()るのなら何故(なぜ)貴女(あなた)勝手(かつて)にお(さが)しなさらぬか。287貴女(あなた)仰有(おつしや)(こと)矛盾(むじゆん)撞着(どうちやく)脱線(だつせん)だらけぢやありませぬか』
288高姫(たかひめ)脱線(だつせん)とはお(まへ)(こと)だ。289教主(けうしゆ)()命令(めいれい)がある(まで)夫婦(ふうふ)(かほ)(あは)さぬと(ちか)(なが)ら、290今日(けふ)脱線(だつせん)()りは(なん)(こと)だ。291矛盾(むじゆん)撞着(どうちやく)はお(まへ)()夫婦(ふうふ)(こと)ぢやないか。292(あんま)(ひと)(こと)けなす(くづ)()ますぞ。293オホヽヽヽ』
294(あざけ)(やう)(わら)ふ。
295玉能姫(たまのひめ)若彦(わかひこ)(さま)296(わたし)(これ)でお(いとま)(いた)します。297高姫(たかひめ)(さま)298何卒(どうぞ)()ゆるりと(あそ)ばしませ。299左様(さやう)なら』
300()(あが)らうとするを、301高姫(たかひめ)はグツと(かた)(おさ)へ、
302高姫(たかひめ)『コレコレ、303()(やう)()つたつて(にが)しはせぬぞえ。304金輪(こんりん)奈落(ならく)(そこ)(まで)305神宝(しんぽう)所在(ありか)白状(はくじやう)させねば()きませぬぞ』
306玉能姫(たまのひめ)(なん)仰有(おつしや)つても(これ)(ばか)りは(まを)()げられませぬ』
307高姫(たかひめ)(なん)と、308マア、309夫婦(ふうふ)がよく(はら)(あは)したものだ。310本当(ほんたう)(うらや)ましい(ほど)311(なか)()()夫婦(ふうふ)(さま)ぢや。312オホヽヽヽ』
313玉能姫(たまのひめ)何卒(どうぞ)高姫(たかひめ)(さま)314其処(そこ)(はな)して(くだ)さいませ。315(わたし)生田(いくた)(もり)(かへ)らねばなりませぬから、316一時(ひととき)()神業(しんげふ)疎略(おろそか)出来(でき)ませぬ』
317高姫(たかひめ)『オホヽヽヽ、318一時(ひととき)()疎略(おろそか)出来(でき)ない()神業(しんげふ)()()てて、319(をつと)(そば)へなれば幾日(いくにち)幾日(いくにち)もかかつて、320遥々(はるばる)()(くに)(まで)()(あそ)ばすのだから、321(じつ)立派(りつぱ)なものだ』
322玉能姫(たまのひめ)『それでも退引(のつぴ)きならぬ御用(ごよう)出来(でき)ましたので、323多忙(たばう)(なか)(かみ)(さま)にお(ねが)(まを)して(まゐ)つたので御座(ござ)います』
324高姫(たかひめ)『その(よう)とは何事(なにごと)御座(ござ)るか、325サア、326それを()かして(もら)はう。327(わし)()かせぬ(やう)御用(ごよう)なら(いづ)(ろく)(こと)ではあるまい。328(まへ)(たち)若夫婦(わかふうふ)()つて如何(どん)(たく)みをして()るか(わか)つたものぢやない。329サアもう()うなつては(わし)勘忍袋(かんにんぶくろ)()()れた。330(なん)()うても(した)()いてでも()はして()せる』
331癇声(かんごゑ)呶鳴(どな)()てて()る。
332 (この)(とき)玄関(げんくわん)騒々(さうざう)しき(ひと)足音(あしおと)(きこ)えて()た。333(しば)らくすると秋彦(あきひこ)334駒彦(こまひこ)335木山彦(きやまひこ)夫婦(ふうふ)(ほか)()(にん)兄弟(きやうだい)336(あわただ)しく(おく)()(こゑ)()きつけて(この)()(あら)はれ(きた)り、337(はち)(にん)一度(いちど)()をついて若彦(わかひこ)(まへ)平伏(へいふく)した。
338若彦(わかひこ)『ヤア、339其方(そなた)駒彦(こまひこ)340秋彦(あきひこ)宣伝使(せんでんし)では御座(ござ)らぬか、341何用(なによう)あつてお()しなされた』
342駒彦(こまひこ)『ハイ、343熊野(くまの)大神(おほかみ)(さま)へお(れい)()めに参拝(さんぱい)(いた)しました』
344 高姫(たかひめ)はカラカラと打笑(うちわら)ひ、
345高姫(たかひめ)『アハヽヽヽ、346オホヽヽヽようもようも(そろ)つたものだ。347(なに)かお(まへ)(たち)(しめ)()はせ大陰謀(だいいんぼう)(くはだ)てて()(ところ)348アタ()(わる)い、349(にく)まれ(もの)高姫(たかひめ)がやつて()()るので(きも)(つぶ)し、350熊野(くまの)大神(おほかみ)(さま)へお(れい)(まゐ)りをしたとは、351子供(こども)(だま)しの(やう)逃口上(にげこうじやう)352立派(りつぱ)聖地(せいち)には大神(おほかみ)(さま)御座(ござ)るぢやないか。353それにも(かか)はらず熊野(くまの)へお(れい)(まゐ)りとは方角(はうがく)(ちが)ひにも(ほど)がある。354何事(なにごと)嘘言(うそ)(かた)めた(こと)(すぐ)()げるものだ。355オホヽヽヽ、356あの、357マア(みな)さんの首尾(しゆび)(わる)(さう)(かほ)わいな。358梟鳥(ふくろどり)夜食(やしよく)(はづ)れてアフンとした(やう)(その)様子(やうす)359写真(しやしん)にでも()つて()いたら、360よい記念(きねん)になりませうぞい』
361言葉尻(ことばじり)をピンと()ねた(やう)捨台詞(すてぜりふ)使(つか)つて()る。362駒彦(こまひこ)一行(いつかう)(なに)(なに)やら合点(がてん)()かず途方(とはう)()れ、363黙然(もくねん)として看守(みまも)つて()る。
364若彦(わかひこ)皆様(みなさま)365(あと)でゆつくりとお(はなし)(うけたま)はりませう。366何卒(どうぞ)()神前(しんぜん)へおいで(あそ)ばして、367(れい)()まして()(くだ)さいませ。368……オイ久助(きうすけ)369()神殿(しんでん)(この)方々(かたがた)()案内(あんない)(まを)せ』
370 久助(きうすけ)玄関(げんくわん)より若彦(わかひこ)(こゑ)()きつけ(はし)(きた)り、
371久助(きうすけ)『サア、372皆様(みなさま)373大広間(おほひろま)()案内(あんない)(いた)しませう』
374高姫(たかひめ)『コレコレ悪人(あくにん)(ども)375イヤ(おな)(あな)狐衆(きつねしう)376(しばら)くお()ちなされ。377若彦(わかひこ)(はら)()はせ、378()神殿(しんでん)へお(れい)()()て、379(うま)(この)()()げて()()所存(しよぞん)であらう。380そんなアダトイ(こと)()さつても、381世界(せかい)()()()出神(でのかみ)生宮(いきみや)はチヤンと()つて()りますぞえ。382何故(なぜ)(をとこ)らしう(この)()斯様(かやう)々々(かやう)次第(しだい)白状(はくじやう)なさらぬのだ。383今日(こんにち)三五教(あななひけう)(おい)て、384(まこと)神力(しんりき)(そな)はつた(かみ)生宮(いきみや)(この)高姫(たかひめ)御座(ござ)る。385高姫(たかひめ)(まを)(こと)()くか、386若彦(わかひこ)言葉(ことば)()くか。387サア(こと)大小(だいせう)388軽重(けいちよう)(かんが)へた(うへ)389(すみや)かに返答(へんたふ)なされ。390返答(へんたふ)次第(しだい)()つて(この)高姫(たかひめ)にも量見(りやうけん)御座(ござ)るぞや』
391 秋彦(あきひこ)392駒彦(こまひこ)(くち)(そろ)へて、
393(あき)394(こま)(わたくし)第一(だいいち)言依別(ことよりわけ)教主(けうしゆ)395(その)(つぎ)には玉能姫(たまのひめ)(さま)396(その)(つぎ)には若彦(わかひこ)さまの崇敬者(すうけいしや)ですよ。397何程(なにほど)高姫(たかひめ)(さま)()神力(しんりき)(つよ)いと()つて、398自家(じか)広告(くわうこく)()さつても、399()つから我々(われわれ)(みみ)には這入(はい)りませぬ。400サア(みな)さま、401()神殿(しんでん)参拝(さんぱい)(いた)しませう』
402(この)()()つて()かうとする。403高姫(たかひめ)夜叉(やしや)(ごと)立腹(りつぷく)し、404秋彦(あきひこ)405駒彦(こまひこ)襟髪(えりがみ)両手(もろて)にひん(にぎ)り、406(ちから)をこめて(うしろ)へドツと()(たふ)した。407常楠(つねくす)408木山彦(きやまひこ)(あま)りの乱暴(らんばう)にムツと(はら)()て、
409常楠(つねくす)何処(どこ)何人(なにびと)()らぬが、410(つみ)()我々(われわれ)(せがれ)打擲(ちやうちやく)するとは言語(ごんご)道断(だうだん)411(とし)()つても(むかし)()つた杵柄(きねづか)(うで)()えは(いま)(かは)りは(いた)さぬ。412さア高姫(たかひめ)とやら、413(おも)()れよ』
414とグツと襟首(えりくび)(つか)みて常楠(つねくす)強力(がうりき)(まか)せて、415(ねこ)(つま)んだ(やう)(やかた)(そと)(はう)()した。416高姫(たかひめ)はそれきり如何(どう)なつたか(しばら)姿(すがた)()せなかつた。417一同(いちどう)神殿(しんでん)(むか)感謝(かんしや)祝詞(のりと)奏上(そうじやう)して高姫(たかひめ)無事(ぶじ)(いの)りけるこそ殊勝(しゆしよう)なれ。
418大正一一・六・一一 旧五・一六 北村隆光録)
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