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第61巻(子の巻)
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第73巻(子の巻)
第74巻(丑の巻)
第75巻(寅の巻)
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第23巻(戌の巻)
序文
総説
第1篇 南海の山
01 玉の露
〔713〕
02 副守囁
〔714〕
03 松上の苦悶
〔715〕
04 長高説
〔716〕
第2篇 恩愛の涙
05 親子奇遇
〔717〕
06 神異
〔718〕
07 知らぬが仏
〔719〕
08 縺れ髪
〔720〕
第3篇 有耶無耶
09 高姫騒
〔721〕
10 家宅侵入
〔722〕
11 難破船
〔723〕
12 家島探
〔724〕
13 捨小舟
〔725〕
14 籠抜
〔726〕
第4篇 混線状態
15 婆と婆
〔727〕
16 蜈蚣の涙
〔728〕
17 黄竜姫
〔729〕
18 波濤万里
〔730〕
霊の礎(八)
余白歌
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第一七章
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
〔七二九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻
篇:
第4篇 混線状態
よみ(新仮名遣い):
こんせんじょうたい
章:
第17章 黄竜姫
よみ(新仮名遣い):
おうりょうひめ
通し章番号:
729
口述日:
1922(大正11)年06月13日(旧05月18日)
口述場所:
筆録者:
外山豊二
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1923(大正12)年4月19日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
蜈蚣姫の前に連れて来られた友彦はたちまち頭を床にすりつけて平謝りする。蜈蚣姫は自分の娘の小糸姫の行方を友彦に尋ねる。
友彦は、小糸姫に愛想をつかされて、小糸姫はある夜一枚の書置きを残してどこかへ逃げてしまったことを明かした。その書置きは、見たこともない字で書かれていて、友彦には読めないという。
そのスパルタ文字で書かれた書置きを見た蜈蚣姫は、小糸姫が友彦に愛想をつかした文面を読んで笑ってしまう。そしてそこに、小糸姫がオーストラリヤに渡って一旗上げるつもりだと書いてあるのを見て、現在噂に名高いオーストラリヤの黄竜姫というのが、小糸姫だと覚った。
そうと知った蜈蚣姫は、オーストラリヤに渡ろうとする。友彦は一緒に連れて行ってくれと蜈蚣姫に頼むが、蜈蚣姫は途中までは連れて行くが、娘に合わせることは絶対にできないと言って友彦の申し出を拒絶する。
友彦は高姫と貫州にとりなしを頼むが、二人は今は刹那心で着いて行く他にないと友彦に答える。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
竜宮島・オーストラリヤ(オースタリヤ)
データ凡例:
データ最終更新日:
2021-07-08 17:23:42
OBC :
rm2317
愛善世界社版:
272頁
八幡書店版:
第4輯 595頁
修補版:
校定版:
277頁
普及版:
128頁
初版:
ページ備考:
001
高姫
(
たかひめ
)
の
後
(
あと
)
に
従
(
つ
)
いて
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
にやつて
来
(
き
)
た
友彦
(
ともひこ
)
は、
002
忽
(
たちま
)
ち
頭
(
かしら
)
を
床
(
ゆか
)
にすりつけ
乍
(
なが
)
ら、
003
友彦
(
ともひこ
)
『コレはコレは
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
様
(
さま
)
、
004
久
(
ひさ
)
し
振
(
ぶ
)
りで
御
(
ご
)
壮健
(
さうけん
)
なる
御
(
ご
)
尊顔
(
そんがん
)
を
拝
(
はい
)
し、
005
友彦
(
ともひこ
)
身
(
み
)
に
取
(
と
)
つて
恐悦
(
きようえつ
)
至極
(
しごく
)
に
存
(
ぞん
)
じ
奉
(
たてまつ
)
りまする。
006
唯
(
ただ
)
何事
(
なにごと
)
も
神直日
(
かむなほひ
)
、
007
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し、
008
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
し
下
(
くだ
)
さいまして、
009
今迄
(
いままで
)
の
重々
(
ぢうぢう
)
の
罪科
(
つみとが
)
を
御
(
お
)
赦
(
ゆる
)
し
下
(
くだ
)
さいます
様
(
やう
)
、
010
懇願
(
こんぐわん
)
仕
(
つかまつ
)
りまする』
011
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『オホヽヽヽ、
012
コレ
友彦
(
ともひこ
)
、
013
お
前
(
まへ
)
も
長
(
なが
)
らく
世間
(
せけん
)
をして
来
(
き
)
た
徳
(
とく
)
に
依
(
よ
)
つて、
014
随分
(
ずゐぶん
)
弁舌
(
べんぜつ
)
は
巧
(
たくみ
)
になつたものだなア。
015
お
前
(
まへ
)
は
顕恩郷
(
けんおんきやう
)
に
於
(
おい
)
て、
016
我
(
わ
)
が
一人
(
ひとり
)
の
娘
(
むすめ
)
小糸姫
(
こいとひめ
)
をチヨロマカし、
017
飛
(
と
)
び
出
(
で
)
て
了
(
しま
)
つた
不届
(
ふとど
)
きな
男
(
をとこ
)
だが、
018
一体
(
いつたい
)
小糸姫
(
こいとひめ
)
は
何処
(
どこ
)
へ
隠
(
かく
)
してあるのだ。
019
可愛
(
かあい
)
い
娘
(
むすめ
)
の
恋男
(
こひをとこ
)
だから、
020
成
(
な
)
る
可
(
べ
)
く
親
(
おや
)
として
添
(
そ
)
はしてやりたいは
山々
(
やまやま
)
なれど、
021
苟
(
いやし
)
くもバラモン
教
(
けう
)
の
副棟梁
(
ふくとうりやう
)
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
養子
(
やうし
)
としては、
022
余
(
あま
)
り
御
(
お
)
粗末
(
そまつ
)
だから
我
(
わ
)
が
夫
(
をつと
)
は
何
(
ど
)
うしても
御
(
ご
)
承諾
(
しようだく
)
遊
(
あそ
)
ばさず、
023
妾
(
わたし
)
は
母親
(
ははおや
)
の
事
(
こと
)
とて
娘
(
むすめ
)
の
恋
(
こひ
)
を
叶
(
かな
)
へさしてやりたいばつかりに、
024
いろいろと
申
(
まを
)
し
上
(
あ
)
げたが
中々
(
なかなか
)
御
(
お
)
聞
(
き
)
き
遊
(
あそ
)
ばさず、
025
其
(
その
)
間
(
あひだ
)
にお
前
(
まへ
)
は、
026
天
(
てん
)
にも
地
(
ち
)
にも
一人
(
ひとり
)
より
無
(
な
)
い
我
(
わ
)
が
大事
(
だいじ
)
な
大事
(
だいじ
)
な
娘
(
むすめ
)
を
誘拐
(
かどわか
)
して、
027
行方
(
ゆくへ
)
を
晦
(
くら
)
ました
太
(
ふと
)
い
男
(
をとこ
)
だ。
028
其
(
その
)
娘
(
むすめ
)
を
一体
(
いつたい
)
何
(
ど
)
うして
呉
(
く
)
れたのだ。
029
サ
有体
(
ありてい
)
に
白状
(
はくじやう
)
しなさい。
030
妾
(
わたし
)
にも
一
(
ひと
)
つ
考
(
かんが
)
へがある。
031
お
前
(
まへ
)
の
出様
(
でやう
)
に
依
(
よ
)
つては
又
(
また
)
添
(
そ
)
はしてやらぬものでもない。
032
さうすればお
前
(
まへ
)
も
立派
(
りつぱ
)
な
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
御
(
お
)
世継
(
よつぎ
)
だ』
033
友彦
(
ともひこ
)
『ハイ、
034
貴女
(
あなた
)
の
御
(
お
)
言葉
(
ことば
)
は
肝
(
きも
)
に
銘
(
めい
)
じて
感謝
(
かんしや
)
致
(
いた
)
しまする。
035
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
小糸姫
(
こいとひめ
)
様
(
さま
)
は
私
(
わたくし
)
の
鼻
(
はな
)
の
先
(
さき
)
が
赤
(
あか
)
いとか、
036
口
(
くち
)
が
不恰好
(
ぶかつかう
)
だとか、
037
出歯
(
でば
)
だとかいろいろと
愛想
(
あいさう
)
づかしを
並
(
なら
)
べられ、
038
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
ばかり
添
(
そ
)
うて
居
(
を
)
りましたが、
039
或
(
ある
)
夜
(
よ
)
のこと
遺書
(
かきおき
)
を
残
(
のこ
)
して
私
(
わたくし
)
の
側
(
そば
)
を
離
(
はな
)
れて
了
(
しま
)
ひました。
040
それ
故
(
ゆゑ
)
私
(
わたくし
)
はモー
一度
(
いちど
)
探
(
さが
)
して
会
(
あ
)
ひたいと
思
(
おも
)
ひ、
041
片時
(
かたとき
)
の
間
(
ま
)
も
小糸姫
(
こいとひめ
)
様
(
さま
)
の
事
(
こと
)
を
思
(
おも
)
はぬ
暇
(
ひま
)
はありませぬ。
042
誠
(
まこと
)
に
済
(
す
)
まぬ
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
しました』
043
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『さうするとお
前
(
まへ
)
は
娘
(
むすめ
)
に
愛想
(
あいさう
)
を
尽
(
つ
)
かされたのだな。
044
アーア
矢張
(
やつぱ
)
り
私
(
わし
)
の
娘
(
むすめ
)
だ。
045
一目
(
ひとめ
)
見
(
み
)
ても
反吐
(
へど
)
の
出
(
で
)
るやうなお
前
(
まへ
)
の
面
(
つら
)
つき。
046
何
(
ど
)
うして
彼
(
あ
)
の
綺麗
(
きれい
)
な
娘
(
むすめ
)
がお
前
(
まへ
)
に
恋慕
(
れんぼ
)
したのだらうと、
047
不思議
(
ふしぎ
)
でならなかつた。
048
お
前
(
まへ
)
は
娘
(
むすめ
)
の
幼心
(
をさなごころ
)
につけ
込
(
こ
)
み、
049
いろいろと
威嚇
(
おどし
)
文句
(
もんく
)
を
並
(
なら
)
べて、
050
無理
(
むり
)
に
伴
(
つ
)
れ
出
(
だ
)
したのだらう』
051
友彦
(
ともひこ
)
『イエイエ
滅相
(
めつさう
)
も
無
(
な
)
い、
052
初
(
はじめ
)
の
間
(
うち
)
は
何処
(
どこ
)
へ
往
(
ゆ
)
くにも、
053
影
(
かげ
)
の
如
(
ごと
)
くに
付
(
つ
)
き
纏
(
まと
)
ひ、
054
煩
(
うる
)
さくて
怺
(
たま
)
らなかつた
位
(
くらゐ
)
です。
055
決
(
けつ
)
して
私
(
わたくし
)
の
方
(
はう
)
から
恋慕
(
れんぼ
)
したのぢや
御座
(
ござ
)
いませぬ。
056
小糸姫
(
こいとひめ
)
さまの
切
(
せつ
)
なる
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひに
依
(
よ
)
つて、
057
私
(
わたくし
)
も
已
(
や
)
むを
得
(
え
)
ず
応
(
おう
)
じました。
058
一度
(
いちど
)
刎
(
は
)
ねて
見
(
み
)
ましたところ、
059
小糸姫
(
こいとひめ
)
様
(
さま
)
は「
妾
(
わたし
)
はお
前
(
まへ
)
が
初恋
(
はつこひ
)
ぢや。
060
それに
斯
(
こ
)
う
無下
(
むげ
)
に
肱鉄砲
(
ひぢてつぽう
)
を
喰
(
く
)
はされては、
061
最早
(
もはや
)
此
(
この
)
世
(
よ
)
に
恥
(
はづ
)
かしくて
生
(
いき
)
て
居
(
ゐ
)
る
甲斐
(
かひ
)
が
無
(
な
)
い。
062
妾
(
わたし
)
の
思
(
おも
)
ひを
叶
(
かな
)
へさして
呉
(
く
)
れればよし、
063
さうでなければ
今
(
いま
)
此処
(
ここ
)
で
自害
(
じがい
)
をする。
064
妾
(
わたし
)
の
恋路
(
こひぢ
)
は
普通
(
ふつう
)
一般
(
いつぱん
)
の
恋
(
こひ
)
では
無
(
な
)
い。
065
何処迄
(
どこまで
)
も
九寸
(
くすん
)
五分
(
ごぶ
)
式
(
しき
)
だ」と
光
(
ひか
)
つたものを
出
(
だ
)
して、
066
吾
(
わ
)
れと
吾
(
わが
)
咽喉
(
のんど
)
を
突
(
つ
)
き
立
(
た
)
て
給
(
たま
)
はむとする
時
(
とき
)
、
067
私
(
わたし
)
は
跳
(
と
)
びついて「ヤア、
068
逸
(
はや
)
まり
給
(
たま
)
ふな」と
九寸
(
くすん
)
五分
(
ごぶ
)
を
奪
(
うば
)
ひ
取
(
と
)
り、
069
思
(
おも
)
はず
互
(
たがひ
)
にキツスを
致
(
いた
)
しました。
070
それが
縁
(
えん
)
となつて
到頭
(
たうとう
)
わり
無
(
な
)
き
仲
(
なか
)
となつたので
御座
(
ござ
)
います』
071
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『
小糸姫
(
こいとひめ
)
に
限
(
かぎ
)
つてお
前
(
まへ
)
のやうな
男
(
をとこ
)
に、
072
さう
血道
(
ちみち
)
を
分
(
わ
)
けて
呆
(
はう
)
ける
筈
(
はず
)
が
無
(
な
)
い。
073
片相手
(
かたあひて
)
が
居
(
を
)
らぬと
思
(
おも
)
つて、
074
そんな
嘘
(
うそ
)
を
云
(
い
)
ふのだらう。
075
サアサ、
076
本当
(
ほんたう
)
の
事
(
こと
)
を
言
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
され』
077
友彦
(
ともひこ
)
『
実
(
じつ
)
の
事
(
こと
)
は
恥
(
はづか
)
しい
話
(
はなし
)
ですが、
078
最前
(
さいぜん
)
も
申
(
まを
)
した
通
(
とほ
)
り、
079
私
(
わたくし
)
に
肱鉄
(
ひぢてつ
)
を
喰
(
く
)
はし、
080
たつた
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
の
遺書
(
かきおき
)
を
かたみ
に
雲
(
くも
)
を
霞
(
かすみ
)
と
遁
(
に
)
げて
了
(
しま
)
はれたので
御座
(
ござ
)
います。
081
私
(
わたくし
)
は
何
(
ど
)
うしても
貴女
(
あなた
)
の
御
(
お
)
側
(
そば
)
へ
帰
(
かへ
)
つて
居
(
を
)
られるものと
思
(
おも
)
ひ
詰
(
つめ
)
て
居
(
を
)
りますが、
082
何
(
ど
)
うぞ
隠
(
かく
)
さずに
一度
(
いちど
)
で
宜
(
よろ
)
しい、
083
会
(
あ
)
はして
下
(
くだ
)
さいませ』
084
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『モシ
高姫
(
たかひめ
)
さま、
085
なんと
困
(
こま
)
つた
男
(
をとこ
)
ぢやありませぬか。
086
よう
図々
(
づうづう
)
しい、
087
あんな
事
(
こと
)
が
云
(
い
)
へたものですなア』
088
高姫
(
たかひめ
)
『コレコレ
友彦
(
ともひこ
)
さま、
089
お
前
(
まへ
)
は
余程
(
よつぽど
)
性質
(
たち
)
が
悪
(
わる
)
いぞえ。
090
さうして
其
(
そ
)
の
遺書
(
かきおき
)
とかは
今
(
いま
)
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
りますか』
091
友彦
(
ともひこ
)
『ヘーイ、
092
其
(
そ
)
の
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
の
遺書
(
かきおき
)
が
私
(
わたくし
)
の
生命
(
いのち
)
の
綱
(
つな
)
だ。
093
之
(
これ
)
を
証拠
(
しようこ
)
に
一度
(
いちど
)
邂逅
(
めぐ
)
り
会
(
あ
)
つて
旧交
(
きうかう
)
を
温
(
あたた
)
め、
094
万一
(
まんいち
)
叶
(
かな
)
はずば
恨
(
うらみ
)
の
有
(
あ
)
り
丈
(
だけ
)
を
言
(
い
)
つて、
095
無念
(
むねん
)
晴
(
ばら
)
しをするつもりで、
096
大切
(
たいせつ
)
に
御
(
お
)
守
(
まも
)
りさまとして
持
(
も
)
つて
居
(
を
)
ります』
097
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『なに、
098
娘
(
むすめ
)
の
書
(
か
)
いたものをお
前
(
まへ
)
は
持
(
も
)
つて
居
(
ゐ
)
るか。
099
それを
一
(
ひと
)
つ
此処
(
ここ
)
へ
見
(
み
)
せて
下
(
くだ
)
さい……』
100
友彦
(
ともひこ
)
『
見
(
み
)
せないことはありませぬが、
101
貴女
(
あなた
)
読
(
よ
)
めますかな。
102
何
(
なん
)
だか
符牒
(
ふてふ
)
のやうな
文字
(
もじ
)
が
書
(
か
)
いてあつて、
103
テント
私
(
わたくし
)
には
読
(
よ
)
めませぬ。
104
二三
(
にさん
)
人
(
にん
)
の
友達
(
ともだち
)
にも
見
(
み
)
せましたけれど、
105
こんな
文字
(
もじ
)
は
見
(
み
)
たことが
無
(
な
)
いと
云
(
い
)
つて、
106
誰一人
(
たれひとり
)
読
(
よ
)
むものは
無
(
な
)
し、
107
何
(
なに
)
が
何
(
なん
)
だか
解
(
わか
)
りませぬ。
108
淵川
(
ふちかは
)
へ
身
(
み
)
を
投
(
な
)
げて
死
(
し
)
ぬと
書
(
か
)
いてあるのか、
109
或
(
あるひ
)
は
又
(
また
)
何処
(
どこ
)
かへ
行
(
い
)
つて
待
(
ま
)
つて
居
(
ゐ
)
るから
来
(
こ
)
いと
云
(
い
)
ふのか、
110
薩張
(
さつぱ
)
り
私
(
わたくし
)
には
受取
(
うけと
)
れませぬ』
111
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
妾
(
わたし
)
に
一寸
(
ちよつと
)
お
貸
(
か
)
し』
112
と
云
(
い
)
ひ
乍
(
なが
)
ら、
113
友彦
(
ともひこ
)
の
手
(
て
)
より
之
(
これ
)
を
受取
(
うけと
)
り、
114
ももくちや
だらけの
紙
(
かみ
)
を
両手
(
りやうて
)
で
皺
(
しわ
)
を
伸
(
の
)
ばし
乍
(
なが
)
ら、
115
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『ハヽア、
116
これはスパルタ
文字
(
もじ
)
で
記
(
しる
)
してあるから、
117
余程
(
よつぽど
)
の
学者
(
がくしや
)
で
無
(
な
)
いと
解
(
わか
)
らぬワイ。
118
エー……』
119
一、
120
妾
(
わたし
)
事
(
こと
)
一
(
いち
)
時
(
じ
)
の
情熱
(
じやうねつ
)
に
駆
(
か
)
られ、
121
善悪
(
ぜんあく
)
美醜
(
びしう
)
を
省
(
かへり
)
みる
遑
(
いとま
)
も
無
(
な
)
く、
122
両親
(
りやうしん
)
の
御意
(
ぎよい
)
に
背
(
そむ
)
き、
123
お
前様
(
まへさま
)
の
千言
(
せんげん
)
万語
(
ばんご
)
を
尽
(
つく
)
しての
誘惑
(
いうわく
)
に
陥
(
おちい
)
り、
124
今日
(
けふ
)
で
殆
(
ほとん
)
ど
一
(
いち
)
年
(
ねん
)
ばかり
枕
(
まくら
)
を
共
(
とも
)
に
致
(
いた
)
しましたが
初
(
はじ
)
めに
会
(
あ
)
うた
時
(
とき
)
とは
打
(
う
)
つて
変
(
かは
)
つて
野卑
(
やひ
)
と
下劣
(
げれつ
)
の
生地
(
きぢ
)
現
(
あら
)
はれ、
125
妾
(
わたし
)
としては
女
(
をんな
)
として
鼻持
(
はなも
)
ち
相成
(
あひな
)
り
難
(
がた
)
く、
126
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
乍
(
なが
)
ら
此
(
こ
)
の
紙
(
かみ
)
一
(
いち
)
枚
(
まい
)
を
記念
(
きねん
)
として、
127
お
前
(
まへ
)
に
与
(
あた
)
へる。
128
今後
(
こんご
)
は
決
(
けつ
)
してお
前
(
まへ
)
の
面
(
つら
)
と
相談
(
さうだん
)
し、
129
余
(
あんま
)
り
謀叛気
(
むほんげ
)
を
出
(
だ
)
してはなりませぬぞ。
130
又
(
また
)
妾
(
わたし
)
のやうに
恥
(
はぢ
)
を
掻
(
か
)
かされ、
131
肱鉄砲
(
ひぢてつぽう
)
を
喰
(
く
)
はされて
悲
(
かな
)
しまねばなりませぬ。
132
妾
(
わたし
)
は
是
(
これ
)
より
黒
(
くろ
)
ん
坊
(
ぼう
)
の
沢山
(
たくさん
)
居
(
ゐ
)
る、
133
オースタリヤの
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
へ
渡
(
わた
)
り、
134
黒
(
くろ
)
ん
坊
(
ばう
)
の
女王
(
ぢよわう
)
となつて
栄耀
(
えいよう
)
栄華
(
えいぐわ
)
に
暮
(
くら
)
しまする。
135
何程
(
なにほど
)
色
(
いろ
)
が
黒
(
くろ
)
くてもお
前様
(
まへさま
)
のシヤツ
面
(
つら
)
に
比
(
くら
)
ぶれば
幾
(
いく
)
ら
優
(
ま
)
しか
知
(
し
)
れませぬから、
136
今迄
(
いままで
)
の
縁
(
えん
)
と
諦
(
あきら
)
めて、
137
此
(
こ
)
の
書
(
ふみ
)
を
見
(
み
)
ても
決
(
けつ
)
して
跡
(
あと
)
を
追
(
お
)
うて
出
(
で
)
て
来
(
く
)
るなどの
不了見
(
ふりやうけん
)
を
出
(
だ
)
してはなりませぬぞ。
138
万々一
(
まんまんいち
)
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
うて
来
(
く
)
るやうな
事
(
こと
)
を
致
(
いた
)
したならば、
139
数多
(
あまた
)
の
乾児
(
こぶん
)
に
命
(
めい
)
じ、
140
お
前
(
まへ
)
を
嬲殺
(
なぶりごろ
)
しに
致
(
いた
)
すから、
141
其
(
そ
)
の
覚悟
(
かくご
)
をしたがよい。
142
必
(
かなら
)
ず
生命
(
いのち
)
が
大事
(
だいじ
)
と
思
(
おも
)
はば、
143
今日
(
けふ
)
限
(
かぎ
)
り
一場
(
いちぢやう
)
の
良
(
よ
)
い
夢
(
ゆめ
)
を
見
(
み
)
て
居
(
を
)
つたと
思
(
おも
)
つて、
144
諦
(
あきら
)
めたがよからう。
145
苟
(
いやし
)
くもバラモン
教
(
けう
)
の
副棟梁
(
ふくとうりやう
)
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
の
娘
(
むすめ
)
と
生
(
うま
)
れ、
146
お
前
(
まへ
)
のやうな
馬鹿
(
ばか
)
男
(
をとこ
)
に
汚
(
けが
)
されたかと
思
(
おも
)
へば、
147
残念
(
ざんねん
)
で、
148
恥
(
はづか
)
しくて、
149
父母
(
ふぼ
)
にも
世界
(
せかい
)
の
人
(
ひと
)
にも、
150
何
(
ど
)
うして
顔
(
かほ
)
が
会
(
あ
)
はされやう、
151
アヽ
此
(
こ
)
の
文
(
ふみ
)
を
書
(
か
)
くのも
胸
(
むね
)
が
悪
(
わる
)
くなつて
来
(
き
)
た。
152
水
(
みづ
)
で
書
(
か
)
くのは
余
(
あま
)
り
勿体
(
もつたい
)
ないから、
153
お
前
(
まへ
)
の
小便
(
せうべん
)
の
汁
(
しる
)
で
墨
(
すみ
)
をすつて、
154
茲
(
ここ
)
に
一筆
(
ひとふで
)
書
(
か
)
き
遺
(
のこ
)
し
置
(
お
)
きます。
155
天下
(
てんか
)
の
賢明
(
けんめい
)
なる
淑女
(
しゆくぢよ
)
小糸姫
(
こいとひめ
)
様
(
さま
)
より
156
振
(
ふ
)
られ
男
(
をとこ
)
の
友彦
(
ともひこ
)
殿
(
どの
)
157
と
記
(
しる
)
しありぬ。
158
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
は
之
(
これ
)
を
見
(
み
)
て
思
(
おも
)
はず
大口
(
おほぐち
)
を
開
(
あ
)
け、
159
蜈蚣姫
『オホヽヽヽ、
160
コレ
友彦
(
ともひこ
)
、
161
お
前
(
まへ
)
も
余程
(
よつぽど
)
よい
抜作
(
ぬけさく
)
だなア。
162
今
(
いま
)
改
(
あらた
)
めて
読
(
よ
)
んで
聞
(
き
)
かしてやらうか。
163
イヤイヤ
恥
(
はぢ
)
を
掻
(
か
)
かすも
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
ぢや。
164
読
(
よ
)
まぬがよからう。
165
娘
(
むすめ
)
の
恥
(
はぢ
)
にもなることだから……。
166
モシ
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
、
167
随分
(
ずゐぶん
)
間抜
(
まぬ
)
けた
男
(
をとこ
)
ですワ。
168
さうして
恋
(
こひ
)
しい
娘
(
むすめ
)
の
行方
(
ゆくへ
)
は
分
(
わか
)
りました。
169
サアこれからお
宝
(
たから
)
を
探
(
さが
)
しがてら、
170
娘
(
むすめ
)
の
後
(
あと
)
を
追
(
お
)
うて
参
(
まゐ
)
りませう。
171
高姫
(
たかひめ
)
さま、
172
貴女
(
あなた
)
は
此
(
こ
)
の
館
(
やかた
)
を
守
(
まも
)
つて
下
(
くだ
)
さいませぬか』
173
高姫
(
たかひめ
)
『
滅相
(
めつさう
)
もないこと
仰有
(
おつしや
)
いますな。
174
三
(
みつ
)
つの
宝
(
たから
)
を
探
(
さが
)
し
出
(
だ
)
し、
175
大自在天
(
だいじざいてん
)
様
(
さま
)
に
献上
(
けんじやう
)
する
迄
(
まで
)
は、
176
妾
(
わたし
)
の
身体
(
からだ
)
は
安閑
(
あんかん
)
と
斯様
(
かやう
)
な
処
(
ところ
)
に
居
(
を
)
ることは
出来
(
でき
)
ませぬ。
177
何処
(
どこ
)
までも
貴女
(
あなた
)
とシスターとなつて
目的
(
もくてき
)
を
成就
(
じやうじゆ
)
する
迄
(
まで
)
は
参
(
まゐ
)
らねばなりませぬ』
178
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『アヽそれもさうだ。
179
そんなら
相
(
あひ
)
提携
(
ていけい
)
して
活動
(
くわつどう
)
を
致
(
いた
)
しませう。
180
アヽ
娘
(
むすめ
)
の
所在
(
ありか
)
が
分
(
わか
)
つてこんな
愉快
(
ゆくわい
)
なことは
無
(
な
)
い。
181
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
いて
居
(
を
)
る
竜宮島
(
りうぐうじま
)
の
黄竜姫
(
わうりようひめ
)
といふのが、
182
オースタリヤの
声望
(
せいばう
)
高
(
たか
)
き
女王
(
ぢよわう
)
と
云
(
い
)
ふことだ。
183
そんなら
彼
(
あ
)
の
女王
(
ぢよわう
)
は
我
(
わ
)
が
娘
(
むすめ
)
であつたか。
184
嬉
(
うれ
)
しや
嬉
(
うれ
)
しや、
185
高姫
(
たかひめ
)
さまの
御
(
お
)
かげ
で、
186
到頭
(
たうとう
)
娘
(
むすめ
)
の
所在
(
ありか
)
が
分
(
わか
)
りました。
187
これと
云
(
い
)
ふのも
大神
(
おほかみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
お
)
引合
(
ひきあは
)
せ、
188
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
う
御座
(
ござ
)
います』
189
と
手
(
て
)
を
合
(
あは
)
し
涙
(
なみだ
)
と
共
(
とも
)
に
拝
(
をが
)
み
居
(
ゐ
)
る。
190
友彦
(
ともひこ
)
『モシモシ、
191
高姫
(
たかひめ
)
さまに
伴
(
つ
)
れられて
来
(
き
)
たのではありませぬ。
192
私
(
わたくし
)
は
勝手
(
かつて
)
に
此
(
こ
)
の
岩窟
(
いはや
)
の
入口
(
いりぐち
)
迄
(
まで
)
参
(
まゐ
)
りますと、
193
高姫
(
たかひめ
)
さまが
来
(
き
)
て
居
(
を
)
られたのです。
194
高姫
(
たかひめ
)
様
(
さま
)
に
逢
(
あ
)
うたのも
今日
(
けふ
)
が
初
(
はじ
)
めてだ。
195
高姫
(
たかひめ
)
さまに
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
仰有
(
おつしや
)
るなら、
196
何故
(
なぜ
)
私
(
わたくし
)
に
御
(
お
)
礼
(
れい
)
を
仰有
(
おつしや
)
らぬか』
197
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『
措
(
を
)
きなされ、
198
面
(
つら
)
の
皮
(
かは
)
の
厚
(
あつ
)
い、
199
妾
(
わたし
)
が
是
(
こ
)
れ
丈
(
だ
)
け
心配
(
しんぱい
)
をしたのも、
200
可愛
(
かあい
)
い
娘
(
むすめ
)
が
知
(
し
)
らぬ
他国
(
たこく
)
へ
行
(
い
)
つて
苦労
(
くらう
)
をして
居
(
を
)
るのも、
201
元
(
もと
)
を
糺
(
ただ
)
せば
みんな
お
前
(
まへ
)
が
悪
(
わる
)
い
故
(
ゆゑ
)
だ。
202
何処
(
どこ
)
を
押
(
おさ
)
へたら、
203
そんな
音
(
ね
)
が
出
(
で
)
るのだ。
204
本当
(
ほんたう
)
に
訳
(
わけ
)
の
分
(
わか
)
らぬ
奴
(
やつ
)
だ、
205
一国
(
いつこく
)
の
女王
(
ぢよわう
)
にもなると
云
(
い
)
ふ、
206
流石
(
さすが
)
の
小糸姫
(
こいとひめ
)
が
肱鉄
(
ひぢてつ
)
を
喰
(
く
)
はしたのも
無理
(
むり
)
もない。
207
乞食婆
(
こじきばば
)
だとてお
前
(
まへ
)
のやうな
男
(
をとこ
)
に、
208
秋波
(
しうは
)
を
送
(
おく
)
る
奴
(
やつ
)
があるものか。
209
自惚
(
うぬぼれ
)
も
好
(
い
)
い
加減
(
かげん
)
にしなされ。
210
泥棒面
(
どろぼうづら
)
をさらして
何
(
なん
)
の
態
(
ざま
)
だ。
211
娘
(
むすめ
)
の
行方
(
ゆくへ
)
が
分
(
わか
)
つた
以上
(
いじやう
)
はお
前
(
まへ
)
に
用
(
よう
)
は
無
(
な
)
い。
212
サア、
213
トツトと
帰
(
かへ
)
つて
貰
(
もら
)
ひませう』
214
友彦
(
ともひこ
)
『
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
慈愛
(
じあい
)
を
以
(
もつ
)
て
心
(
こころ
)
となし
給
(
たま
)
ふ。
215
神直日
(
かむなほひ
)
大直日
(
おほなほひ
)
に
見直
(
みなほ
)
し
聞
(
き
)
き
直
(
なほ
)
しと
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
御
(
お
)
忘
(
わす
)
れになりましたか』
216
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『アヽ
仕方
(
しかた
)
がない、
217
それもさうぢや。
218
改心
(
かいしん
)
さへ
出来
(
でき
)
たら、
219
どんな
罪
(
つみ
)
でも
赦
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さる
神
(
かみ
)
さまだから、
220
私
(
わし
)
も
惟神
(
かむながら
)
に
赦
(
ゆる
)
してやりませう』
221
友彦
(
ともひこ
)
『
早速
(
さつそく
)
の
御
(
ご
)
赦免
(
しやめん
)
、
222
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
う
御座
(
ござ
)
います。
223
何
(
ど
)
うぞ
私
(
わたくし
)
も
貴女
(
あなた
)
の
御
(
お
)
供
(
とも
)
をして、
224
オースタリヤの
一
(
ひと
)
つ
島
(
じま
)
迄
(
まで
)
伴
(
つ
)
れて
行
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいませ』
225
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『それや
絶対
(
ぜつたい
)
になりませぬぞ。
226
又
(
また
)
病
(
やまひ
)
が
再発
(
さいはつ
)
すると
親
(
おや
)
が
迷惑
(
めいわく
)
するから、
227
中途
(
ちうと
)
迄
(
まで
)
は
御
(
お
)
供
(
とも
)
を
許
(
ゆる
)
して
上
(
あ
)
げるが、
228
彼
(
あ
)
の
島
(
しま
)
へは
絶対
(
ぜつたい
)
に
伴
(
つ
)
れて
行
(
ゆ
)
くことは
出来
(
でき
)
ませぬ』
229
友彦
(
ともひこ
)
『モシモシ
高姫
(
たかひめ
)
さま、
230
袖
(
そで
)
振
(
ふ
)
り
合
(
あ
)
ふも
多生
(
たしやう
)
の
縁
(
えん
)
だ。
231
貴女
(
あなた
)
、
232
其処
(
そこ
)
を
好
(
よ
)
いやうに
挨拶
(
あいさつ
)
して
下
(
くだ
)
さいなア。
233
……オイ
貫州
(
くわんしう
)
、
234
私
(
わたくし
)
に
代
(
かは
)
つて
一
(
ひと
)
つ
御
(
おん
)
大
(
たい
)
に
御
(
お
)
願
(
ねが
)
ひして
赦
(
ゆる
)
して
貰
(
もら
)
つて
呉
(
く
)
れないか』
235
高姫
(
たかひめ
)
『
私
(
わし
)
も
木石
(
ぼくせき
)
を
以
(
もつ
)
て
造
(
つく
)
つた
肉体
(
にくたい
)
ぢやないから、
236
酸
(
す
)
いも、
237
甘
(
あま
)
いもよく
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
る。
238
併
(
しか
)
し
今
(
いま
)
は
水
(
みづ
)
の
でばな
だ。
239
マア
控
(
ひか
)
へなされ。
240
折
(
をり
)
を
見
(
み
)
て
何
(
なん
)
とか
挨拶
(
あいさつ
)
をして
上
(
あ
)
げるから』
241
貫州
(
くわんしう
)
『
高姫
(
たかひめ
)
さまの
仰
(
あふ
)
せのやうに、
242
マア
暫
(
しば
)
らく
辛抱
(
しんばう
)
するのだなア』
243
蜈蚣姫
(
むかでひめ
)
『
誰
(
たれ
)
が
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
一旦
(
いつたん
)
言
(
い
)
ひ
出
(
だ
)
した
上
(
うへ
)
は、
244
後
(
あと
)
へは
退
(
ひ
)
きませぬぞや』
245
貫州
(
くわんしう
)
『オイ
友彦
(
ともひこ
)
、
246
斯
(
こ
)
う
低気圧
(
ていきあつ
)
がひどく
襲来
(
しふらい
)
しては
駄目
(
だめ
)
だ。
247
グツグツして
居
(
を
)
ると
風雨
(
ふうう
)
雷電
(
らいでん
)
、
248
如何
(
いか
)
なる
地異
(
ちい
)
天変
(
てんぺん
)
が
勃発
(
ぼつぱつ
)
するか
分
(
わか
)
らせぬぞ。
249
マア
取越
(
とりこし
)
苦労
(
くらう
)
は
止
(
や
)
めて、
250
刹那心
(
せつなしん
)
で
従
(
つ
)
いて
行
(
ゆ
)
くのだなア』
251
友彦
(
ともひこ
)
『アーア、
252
昔
(
むかし
)
の
古疵
(
ふるきず
)
が、
253
今
(
いま
)
となつて
うづき
出
(
だ
)
して
苦
(
くる
)
しいことだワイ』
254
(
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