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第41巻(辰の巻)
序文
総説
第1篇 天空地平
01 入那の野辺
〔1105〕
02 入那城
〔1106〕
03 偽恋
〔1107〕
04 右守館
〔1108〕
05 急告
〔1109〕
06 誤解
〔1110〕
07 忍術使
〔1111〕
第2篇 神機赫灼
08 無理往生
〔1112〕
09 蓮の川辺
〔1113〕
10 狼の岩窟
〔1114〕
11 麓の邂逅
〔1115〕
12 都入り
〔1116〕
第3篇 北光神助
13 夜の駒
〔1117〕
14 慈訓
〔1118〕
15 難問題
〔1119〕
16 三番叟
〔1120〕
第4篇 神出鬼没
17 宵企み
〔1121〕
18 替へ玉
〔1122〕
19 当て飲み
〔1123〕
20 誘惑
〔1124〕
21 長舌
〔1125〕
余白歌
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> 第1篇 天空地平 > 第5章 急告
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第五章
急告
(
きふこく
)
〔一一〇九〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻
篇:
第1篇 天空地平
よみ(新仮名遣い):
てんくうちへい
章:
第5章 急告
よみ(新仮名遣い):
きゅうこく
通し章番号:
1109
口述日:
1922(大正11)年11月10日(旧09月22日)
口述場所:
筆録者:
北村隆光
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年6月15日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
マンモスは、同じカールチン配下のユーフテスと出世を争っていた。マンモスはセーラン王の館の玄関口でサモア姫と出くわした。サモア姫は、ユーフテスが左守クーリンスの娘・セーリス姫と密会してカールチンの計略を洩らしていたことを告げた。
マンモスは、そのことをカールチンに注進に来たのであった。しかしカールチンは、マンモスとユーフテスが地位争いをしていることを知っていたので、事の真偽を図りかねていた。
そこへユーフテスがやってきた。マンモスは突然のことでまごついた。カールチンは、ユーフテスに直々に尋ねたいことがあるとマンモスを下がらせた。
カールチンは、セーリス姫の居間に行ったことについてユーフテスを問いただした。ユーフテスは平然として、自分に惚れているセーリス姫を利用して王の動向を探らせているのだ、とカールチンに報告した。
そしてユーフテスは、セーリス姫の探偵の結果をカールチンに報告した。セーラン王は実はサマリー姫を愛するあまり、姫と元のように添えるならば王位をカールチンに譲って退位する心であるという。
カールチン夫婦はこの報告を信じて、サマリー姫を引き出して盛装を整えさせ、イルナ城に送り届けることになった。マンモスはユーフテスによって牢獄に投げ込まれてしまった
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2022-12-09 10:09:49
OBC :
rm4105
愛善世界社版:
67頁
八幡書店版:
第7輯 555頁
修補版:
校定版:
69頁
普及版:
33頁
初版:
ページ備考:
001
セーラン
王
(
わう
)
の
館
(
やかた
)
の
玄関口
(
げんくわんぐち
)
にて
出会
(
であ
)
つたのは
右守
(
うもり
)
のカールチンが
右
(
みぎ
)
の
腕
(
うで
)
と
頼
(
たの
)
むマンモスとサモア
姫
(
ひめ
)
である。
002
サモア姫
『オー、
003
マンモス
様
(
さま
)
、
004
今日
(
けふ
)
は
大変
(
たいへん
)
にお
早
(
はや
)
い
御
(
ご
)
登城
(
とじやう
)
で
厶
(
ござ
)
りますな。
005
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
出世
(
しゆつせ
)
の
妨
(
さまた
)
げになると
何時
(
いつ
)
も
仰有
(
おつしや
)
るユーフテスの
事
(
こと
)
に
就
(
つ
)
いて、
006
私
(
わたし
)
が
一
(
ひと
)
つ
確
(
たしか
)
な
証拠
(
しようこ
)
を
握
(
にぎ
)
りましたから、
007
何卒
(
どうぞ
)
ソツと
一寸
(
ちよつと
)
私
(
わたし
)
の
居間
(
ゐま
)
まで
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいませぬか。
008
ここでは
人目
(
ひとめ
)
がはげしう
厶
(
ござ
)
りますから、
009
聞
(
き
)
かれちや
大変
(
たいへん
)
ですワ』
010
マンモスは
声
(
こゑ
)
を
潜
(
ひそ
)
めて、
011
マンモス
『
何
(
なに
)
、
012
ユーフテスの
何
(
なに
)
か
欠点
(
けつてん
)
を
見出
(
みい
)
だしたと
云
(
い
)
ふのか。
013
よしよしそれなら
行
(
ゆ
)
きませう』
014
サモア姫
『
何卒
(
どうぞ
)
足音
(
あしおと
)
を
忍
(
しの
)
ばせて
妾
(
わたし
)
の
室
(
しつ
)
まで
来
(
き
)
て
下
(
くだ
)
さいませ』
015
と
四五間
(
しごけん
)
離
(
はな
)
れて
先
(
さき
)
に
立
(
た
)
つて
行
(
ゆ
)
く。
016
マンモスは
姫
(
ひめ
)
の
後
(
うしろ
)
から
何喰
(
なにく
)
はぬ
顔
(
かほ
)
して
従
(
したが
)
ひつつ
後姿
(
うしろすがた
)
を
眺
(
なが
)
めて、
017
マンモス
『
何
(
なん
)
と
好
(
い
)
い
女
(
をんな
)
だなア。
018
何処
(
どこ
)
ともなしに
気
(
き
)
が
利
(
き
)
いてる
奴
(
やつ
)
だ。
019
器量
(
きりやう
)
と
云
(
い
)
ひ、
020
あの
足
(
あし
)
の
運
(
はこ
)
び
様
(
やう
)
と
云
(
い
)
ひ、
021
何処
(
どこ
)
に
欠点
(
けつてん
)
のない
女
(
をんな
)
だ。
022
俺
(
おれ
)
も
早
(
はや
)
く
思惑
(
おもわく
)
を
立
(
た
)
ててサモア
姫
(
ひめ
)
の
歓心
(
くわんしん
)
を
買
(
か
)
ひ、
023
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
く
結婚
(
けつこん
)
の
式
(
しき
)
を
挙
(
あ
)
げたいものだ。
024
姫
(
ひめ
)
も
姫
(
ひめ
)
で
俺
(
おれ
)
には
特別
(
とくべつ
)
の
秘密
(
ひみつ
)
を
明
(
あか
)
して
呉
(
く
)
れるのだから
占
(
し
)
めたものだ。
025
俺
(
おれ
)
位
(
ぐらゐ
)
幸福
(
かうふく
)
な
者
(
もの
)
は
此
(
この
)
イルナの
国
(
くに
)
には、
026
も
一人
(
ひとり
)
とあるまい。
027
先方
(
むかふ
)
も
俺
(
おれ
)
にはチヨイ
惚
(
ぼ
)
れなり
俺
(
おれ
)
の
方
(
はう
)
からは
大惚
(
おほぼ
)
れと
来
(
き
)
て
居
(
を
)
るのだから
堪
(
たま
)
らないわ、
028
エヘヽヽヽ』
029
と
独
(
ひと
)
り
笑
(
わら
)
ひ
独
(
ひと
)
り
囁
(
ささや
)
き、
030
サモア
姫
(
ひめ
)
の
室
(
しつ
)
に
忍
(
しの
)
び
入
(
い
)
る。
031
サモア
姫
(
ひめ
)
は
長煙管
(
ながぎせる
)
で
煙草
(
たばこ
)
をつぎ
一服
(
いつぷく
)
吸
(
す
)
ひつけて、
032
吸口
(
すひぐち
)
を
着物
(
きもの
)
の
袖
(
そで
)
で
拭
(
ふ
)
きながら
柳
(
やなぎ
)
の
葉
(
は
)
の
様
(
やう
)
な
細
(
ほそ
)
い
目
(
め
)
をして、
033
サモア姫
『さあマンモスさま、
034
一服
(
いつぷく
)
お
上
(
あが
)
り』
035
と
差出
(
さしだ
)
す。
036
マンモスも
亦
(
また
)
団栗眼
(
どんぐりまなこ
)
を
無理
(
むり
)
に
細
(
ほそ
)
くし、
037
猫
(
ねこ
)
の
様
(
やう
)
に
喉
(
のど
)
をゴロゴロならせ、
038
色男
(
いろをとこ
)
気取
(
きど
)
りですまし
込
(
こ
)
んで、
039
サモア
姫
(
ひめ
)
の
差出
(
さしだ
)
す
煙管
(
きせる
)
をソツと
受取
(
うけと
)
り、
040
体
(
たい
)
を
斜
(
しや
)
に
構
(
かま
)
へスパスパと
煙
(
けむり
)
を
輪
(
わ
)
に
吹
(
ふ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
041
サモア
姫
(
ひめ
)
は
小声
(
こごゑ
)
になつて、
042
サモア姫
『これ、
043
マンモスさま、
044
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
が
見付
(
みつ
)
かりましたよ。
045
屹度
(
きつと
)
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
出世
(
しゆつせ
)
の
種
(
たね
)
ですわ』
046
マンモス
亦
(
また
)
小声
(
こごゑ
)
になり、
047
マンモス
『サモアさま、
048
何
(
なん
)
ですか、
049
早
(
はや
)
く
云
(
い
)
つて
下
(
くだ
)
さいな』
050
サモア
姫
(
ひめ
)
はツと
立上
(
たちあが
)
り
戸口
(
とぐち
)
を
少
(
すこ
)
しく
開
(
ひら
)
き、
051
顔
(
かほ
)
を
外
(
そと
)
へつき
出
(
だ
)
して
四辺
(
あたり
)
をキヨロキヨロ
見廻
(
みまは
)
し、
052
幸
(
さいは
)
ひ
人
(
ひと
)
無
(
な
)
きにヤツと
安心
(
あんしん
)
したものの
如
(
ごと
)
く、
053
ピシヤリと
戸
(
と
)
を
締
(
し
)
め、
054
中
(
なか
)
から
固
(
かた
)
く
錠
(
ぢやう
)
を
下
(
おろ
)
し、
055
マンモスの
前
(
まへ
)
に
静
(
しづか
)
に
坐
(
ざ
)
し、
056
マンモスの
左
(
ひだり
)
の
手
(
て
)
をグツと
握
(
にぎ
)
り、
057
二
(
ふた
)
つ
三
(
み
)
つ
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
り
立
(
た
)
て、
058
サモア姫
『これマンモスさま、
059
確
(
しつ
)
かりなさいませ。
060
ここが
貴方
(
あなた
)
の
登竜門
(
とうりうもん
)
だ。
061
ユーフテスさまが
内証
(
ないしよう
)
でクーリンスの
娘
(
むすめ
)
セーリス
姫
(
ひめ
)
のお
居間
(
ゐま
)
へ
忍
(
しの
)
び
入
(
い
)
り、
062
カールチン
様
(
さま
)
の
凡
(
すべ
)
ての
計略
(
けいりやく
)
を
密々
(
ひそびそ
)
と
洩
(
も
)
らしてゐましたよ。
063
屹度
(
きつと
)
二人
(
ふたり
)
は
情約
(
じやうやく
)
締結
(
ていけつ
)
が
私
(
わたし
)
と
貴方
(
あなた
)
の
様
(
やう
)
に
済
(
す
)
んでゐると
見
(
み
)
えますワ。
064
そしてセーラン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
に
一切
(
いつさい
)
の
秘密
(
ひみつ
)
を
打明
(
うちあ
)
ける
考
(
かんが
)
へらしう
厶
(
ござ
)
りましたよ』
065
マンモス
『そりや
本当
(
ほんたう
)
の
事
(
こと
)
ですか。
066
本当
(
ほんたう
)
ならば
私
(
わたし
)
と
貴女
(
あなた
)
にとつては
大変
(
たいへん
)
な
幸運
(
かううん
)
が
向
(
む
)
いて
来
(
き
)
たやうなものです』
067
サモア姫
『もしマンモスさま』
068
と
耳
(
みみ
)
に
口
(
くち
)
をよせ
何事
(
なにごと
)
か
暫
(
しばら
)
くの
間
(
あひだ
)
囁
(
ささや
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
069
マンモスは
幾度
(
いくたび
)
も
打頷
(
うちうなづ
)
きながら、
070
マンモス
『サモア
姫
(
ひめ
)
殿
(
どの
)
、
071
随分
(
ずゐぶん
)
気
(
き
)
をおつけなさい。
072
私
(
わたし
)
はこれからカールチン
様
(
さま
)
の
館
(
やかた
)
に
参
(
まゐ
)
つて
注進
(
ちゆうしん
)
を
致
(
いた
)
し、
073
ユーフテスの
反逆
(
はんぎやく
)
を
逐一
(
ちくいち
)
申上
(
まをしあ
)
げ、
074
彼
(
かれ
)
を
制敗
(
せいばい
)
致
(
いた
)
して
貰
(
もら
)
ひませう。
075
さうすれば、
076
吾々
(
われわれ
)
はカールチン
様
(
さま
)
の
一
(
いち
)
の
家来
(
けらい
)
となり、
077
お
前
(
まへ
)
さまと
安楽
(
あんらく
)
に
立派
(
りつぱ
)
に
楽
(
たの
)
しい
月日
(
つきひ
)
が
送
(
おく
)
れますからな。
078
何程
(
なにほど
)
セーラン
王
(
わう
)
様
(
さま
)
が
御
(
ご
)
威勢
(
ゐせい
)
が
高
(
たか
)
いと
云
(
い
)
つても、
079
鬼熊別
(
おにくまわけ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
系統
(
ひつぱう
)
だから
決
(
けつ
)
して
恐
(
おそ
)
るるには
足
(
た
)
りますまい。
080
カールチン
様
(
さま
)
は
右守
(
うもり
)
でも
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
のお
気
(
き
)
に
入
(
い
)
りだから
大
(
たい
)
したものですよ。
081
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
旗色
(
はたいろ
)
のよい
方
(
はう
)
へつくが
利口
(
りこう
)
の
人間
(
にんげん
)
のやり
方
(
かた
)
ですからな』
082
と
悪
(
あく
)
に
抜目
(
ぬけめ
)
のないマンモスは
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に
城内
(
じやうない
)
を
立
(
た
)
ち
出
(
い
)
で、
083
カールチンの
館
(
やかた
)
へ
慌
(
あわただ
)
しく
駆
(
か
)
け
込
(
こ
)
む。
084
マンモスはカールチンの
館
(
やかた
)
の
裏口
(
うらぐち
)
から
忍
(
しの
)
び
入
(
い
)
り、
085
其
(
その
)
儘
(
まま
)
奥
(
おく
)
に
進
(
すす
)
み、
086
カールチン、
087
テーナ
姫
(
ひめ
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
前
(
まへ
)
に
両手
(
りやうて
)
をつき、
088
マンモス
『
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
089
奥様
(
おくさま
)
、
090
大変
(
たいへん
)
な
事
(
こと
)
が
起
(
おこ
)
りました。
091
御
(
ご
)
用心
(
ようじん
)
なされませ』
092
カールチンは
此
(
この
)
言葉
(
ことば
)
に
驚
(
おどろ
)
き
立膝
(
たてひざ
)
になつて、
093
カールチン
『
何
(
なに
)
、
094
大変
(
たいへん
)
とは
何事
(
なにごと
)
ぞ。
095
早
(
はや
)
く
委細
(
ゐさい
)
を
物語
(
ものがた
)
れ』
096
とせき
立
(
た
)
てる。
097
マンモスは
汗
(
あせ
)
を
拭
(
ぬぐ
)
ひ、
098
マンモス
『はい、
099
貴方
(
あなた
)
の
御
(
ご
)
信任
(
しんにん
)
遊
(
あそ
)
ばすユーフテスの
事
(
こと
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
100
貴方
(
あなた
)
は
彼
(
かれ
)
を
此上
(
こよ
)
なき
者
(
もの
)
と
御
(
ご
)
信用
(
しんよう
)
遊
(
あそ
)
ばして
居
(
を
)
られますが、
101
彼
(
かれ
)
はセーラン
王
(
わう
)
の
間者
(
かんじや
)
で
厶
(
ござ
)
りますから
用心
(
ようじん
)
なさいませ。
102
人
(
ひと
)
もあらうにクーリンスの
娘
(
むすめ
)
セーリス
姫
(
ひめ
)
と
情
(
じやう
)
を
通
(
つう
)
じ、
103
一切
(
いつさい
)
の
秘密
(
ひみつ
)
をセーラン
王
(
わう
)
やクーリンスの
許
(
もと
)
へ
報告
(
はうこく
)
致
(
いた
)
して
居
(
を
)
りまする。
104
今
(
いま
)
の
間
(
うち
)
に
彼
(
かれ
)
を
御
(
ご
)
制敗
(
せいばい
)
遊
(
あそ
)
ばされねば、
105
貴方
(
あなた
)
の
御
(
お
)
生命
(
いのち
)
にも
関
(
かか
)
はる
一大事
(
いちだいじ
)
が
何時
(
いつ
)
起
(
おこ
)
るかも
知
(
し
)
れませぬ。
106
私
(
わたし
)
はサモア
姫
(
ひめ
)
に
云
(
い
)
ひ
含
(
ふく
)
めて
様子
(
やうす
)
を
考
(
かんが
)
へさして
居
(
を
)
りました
所
(
ところ
)
、
107
確
(
たしか
)
な
証拠
(
しようこ
)
を
握
(
にぎ
)
りましたから、
108
今
(
いま
)
にも
彼
(
かれ
)
を
呼
(
よ
)
び
出
(
だ
)
して
御
(
ご
)
制敗
(
せいばい
)
なさるのがお
家
(
いへ
)
のため、
109
お
身
(
み
)
のためと
恐
(
おそ
)
れながら
考
(
かんが
)
へます』
110
カールチン
『
何
(
なに
)
、
111
ユーフテスが
左様
(
さやう
)
な
裏返
(
うらがへ
)
り
的
(
てき
)
な
行動
(
かうどう
)
を
採
(
と
)
つて
居
(
を
)
るか。
112
そりや
怪
(
け
)
しからぬ。
113
此
(
この
)
儘
(
まま
)
に
捨
(
す
)
ておく
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
くまい』
114
テーナ姫
『もし
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
115
ユーフテスは
実
(
じつ
)
に
吾々
(
われわれ
)
に
対
(
たい
)
し
忠実
(
ちうじつ
)
な
男
(
をとこ
)
で
厶
(
ござ
)
りますから、
116
よもや、
117
そんな
事
(
こと
)
は
致
(
いた
)
しますまい。
118
人
(
ひと
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
直
(
すぐ
)
に
信
(
しん
)
じてはなりませぬ。
119
一応
(
いちおう
)
取調
(
とりしら
)
べた
上
(
うへ
)
でなくては
是非
(
ぜひ
)
の
判断
(
はんだん
)
はつきますまい。
120
これマンモス、
121
お
前
(
まへ
)
は
大変
(
たいへん
)
慌
(
あわ
)
てて
居
(
ゐ
)
る
様子
(
やうす
)
だが、
122
トツクリ
調
(
しら
)
べた
上
(
うへ
)
の
事
(
こと
)
か。
123
或
(
あるひ
)
は
人
(
ひと
)
の
噂
(
うはさ
)
を
聞
(
き
)
いたのか』
124
マンモス
『テーナ
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
、
125
私
(
わたし
)
も
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
恩顧
(
おんこ
)
を
受
(
う
)
けて
居
(
を
)
る
者
(
もの
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
126
何
(
なに
)
しに
証拠
(
しようこ
)
なき
事
(
こと
)
を
申上
(
まをしあ
)
げて
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
のお
気
(
き
)
を
揉
(
も
)
ませませうか。
127
正真
(
しやうしん
)
正銘
(
しやうめい
)
の
生中
(
きなか
)
の
掛値
(
かけね
)
もない
証拠
(
しようこ
)
が
厶
(
ござ
)
ります。
128
何卒
(
どうぞ
)
時
(
とき
)
を
移
(
うつ
)
さずユーフテスを
召捕
(
めしと
)
り
遊
(
あそ
)
ばしてお
家
(
いへ
)
の
禍根
(
くわこん
)
をお
除
(
のぞ
)
き
下
(
くだ
)
さいませ。
129
何程
(
なにほど
)
事務
(
じむ
)
が
執
(
と
)
れると
云
(
い
)
つても、
130
あの
男
(
をとこ
)
のする
位
(
ぐらゐ
)
の
事
(
こと
)
は
私
(
わたし
)
でも
致
(
いた
)
します。
131
時
(
とき
)
おくれては
一大事
(
いちだいじ
)
、
132
さあ
早
(
はや
)
く
御
(
ご
)
決心
(
けつしん
)
を
願
(
ねが
)
ひます』
133
カールチンはマンモスの
言葉
(
ことば
)
を
半
(
なかば
)
信
(
しん
)
じ
半
(
なかば
)
疑
(
うたが
)
つて
居
(
ゐ
)
る。
134
其
(
その
)
理由
(
わけ
)
はユーフテスは
自分
(
じぶん
)
の
最
(
もつと
)
も
信任
(
しんにん
)
する
男
(
をとこ
)
であり、
135
二人
(
ふたり
)
の
中
(
なか
)
に
地位
(
ちゐ
)
の
争
(
あらそ
)
ひが
暗
(
あん
)
に
起
(
おこ
)
つてゐる
事
(
こと
)
をよく
承知
(
しようち
)
して
居
(
ゐ
)
たから、
136
マンモスが
斯
(
こ
)
んな
事
(
こと
)
を
捏造
(
ねつざう
)
してユーフテスを
陥
(
おとしい
)
れる
考
(
かんが
)
へではあるまいかとも
思
(
おも
)
つてゐたのである。
137
カールチン
『マンモス、
138
其方
(
そち
)
の
云
(
い
)
ふ
事
(
こと
)
は
一分
(
いちぶ
)
一厘
(
いちりん
)
間違
(
まちが
)
ひはないか』
139
マンモス
『
決
(
けつ
)
して
決
(
けつ
)
して
嘘
(
うそ
)
偽
(
いつは
)
りは
申
(
まを
)
しませぬ。
140
愚図
(
ぐづ
)
々々
(
ぐづ
)
して
居
(
を
)
ればお
館
(
やかた
)
の
一大事
(
いちだいじ
)
ですから、
141
取
(
と
)
る
物
(
もの
)
も
取
(
と
)
り
敢
(
あ
)
へず
城内
(
じやうない
)
を
駆
(
か
)
け
出
(
だ
)
し
内報
(
ないはう
)
に
参
(
まゐ
)
りました』
142
カールチン、
143
テーナの
二人
(
ふたり
)
は
双手
(
もろて
)
を
組
(
く
)
みマンモスの
報告
(
はうこく
)
の
虚実
(
きよじつ
)
を
判
(
はん
)
じかね、
144
暫
(
しば
)
し
黙然
(
もくねん
)
として
考
(
かんが
)
へこんで
居
(
ゐ
)
る。
145
そこへ
何気
(
なにげ
)
なうやつて
来
(
き
)
たのはユーフテスである。
146
ユーフテスは
此
(
この
)
場
(
ば
)
の
様子
(
やうす
)
の
啻
(
ただ
)
ならざると、
147
マンモスの
其
(
その
)
場
(
ば
)
に
居
(
を
)
るに
少
(
すこ
)
しく
不審
(
ふしん
)
を
起
(
おこ
)
し、
148
ユーフテス
『
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
、
149
奥様
(
おくさま
)
、
150
御
(
ご
)
機嫌
(
きげん
)
宜
(
よろ
)
しう
厶
(
ござ
)
りますか。
151
ヤア
其方
(
そなた
)
はマンモス、
152
吾々
(
われわれ
)
の
許
(
ゆる
)
しもなく
直接
(
ちよくせつ
)
に
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
に
面会
(
めんくわい
)
を
願
(
ねが
)
ふとは
合点
(
がてん
)
が
参
(
まゐ
)
らぬ。
153
何
(
なに
)
か
急用
(
きふよう
)
な
事
(
こと
)
でも
起
(
おこ
)
つたのか』
154
と
少
(
すこ
)
しく
声
(
こゑ
)
に
力
(
ちから
)
を
入
(
い
)
れて
詰
(
なじ
)
る
様
(
やう
)
に
問
(
と
)
ひつめる。
155
マンモスは
不意
(
ふい
)
を
打
(
う
)
たれて
俄
(
にはか
)
の
返答
(
へんたふ
)
に
困
(
こま
)
り、
156
マンモス
『ハイ、
157
いやもう
貴方
(
あなた
)
も
御
(
ご
)
壮健
(
さうけん
)
で
恐悦
(
きようえつ
)
至極
(
しごく
)
に
存
(
ぞん
)
じます。
158
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
もお
達者
(
たつしや
)
で、
159
まあまあ
目出度
(
めでた
)
い
目出度
(
めでた
)
い』
160
と
上下
(
じやうげ
)
の
言葉
(
ことば
)
使
(
づか
)
ひを
取違
(
とりちが
)
へ、
161
マゴついてゐる。
162
ユーフテス
『
何
(
なん
)
とも
合点
(
がてん
)
の
行
(
ゆ
)
かぬマンモスの
挙動
(
きよどう
)
、
163
何
(
なに
)
か
拙者
(
せつしや
)
の
行動
(
かうどう
)
について
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
に
内通
(
ないつう
)
をしに
来
(
き
)
たのだらう。
164
汝
(
なんぢ
)
等
(
ら
)
下役
(
したやく
)
の
来
(
く
)
るべき
所
(
ところ
)
でない、
165
お
下
(
さが
)
り
召
(
め
)
され』
166
カールチン
『
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
167
ユーフテスに
尋
(
たづ
)
ね
問
(
と
)
ふべき
仔細
(
しさい
)
あれば、
168
マンモス、
169
其方
(
そなた
)
は
暫
(
しば
)
し
居間
(
ゐま
)
へ
下
(
さが
)
つて、
170
此方
(
こちら
)
の
命令
(
めいれい
)
を
待
(
ま
)
つがよかろうぞ』
171
と
厳
(
きび
)
しき
鶴
(
つる
)
の
一声
(
ひとこゑ
)
にマンモスは
返
(
かへ
)
す
言葉
(
ことば
)
もなく、
172
手持
(
てもち
)
無沙汰
(
ぶさた
)
に
後
(
あと
)
に
心
(
こころ
)
を
残
(
のこ
)
し、
173
吾
(
わが
)
居間
(
ゐま
)
さして
帰
(
かへ
)
り
行
(
ゆ
)
く。
174
カールチンは
半信
(
はんしん
)
半疑
(
はんぎ
)
の
雲
(
くも
)
に
包
(
つつ
)
まれながら
言葉
(
ことば
)
厳
(
おごそ
)
かに、
175
カールチン
『ユーフテス、
176
お
前
(
まへ
)
に
一
(
ひと
)
つ
尋
(
たづ
)
ねたい
事
(
こと
)
があるが、
177
セーリス
姫
(
ひめ
)
の
居間
(
ゐま
)
へ
行
(
い
)
つたのは
何用
(
なによう
)
あつてか、
178
その
理由
(
わけ
)
を
包
(
つつ
)
まず
隠
(
かく
)
さず
吾
(
わが
)
前
(
まへ
)
に
陳述
(
ちんじゆつ
)
せよ』
179
と
語気
(
ごき
)
を
荒
(
あ
)
らげ
問
(
と
)
ひかけた。
180
ユーフテスは
平然
(
へいぜん
)
として、
181
ユーフテス
『
実
(
じつ
)
は
其
(
その
)
事
(
こと
)
に
就
(
つ
)
いて
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
に
一伍
(
いちぶ
)
一什
(
しじふ
)
を
申上
(
まをしあ
)
げむと、
182
登城
(
とじやう
)
を
済
(
す
)
ませ、
183
急
(
いそ
)
いで
御前
(
ごぜん
)
へ
罷
(
まか
)
り
出
(
い
)
でました
所
(
ところ
)
で
厶
(
ござ
)
ります。
184
マンモスの
奴
(
やつ
)
、
185
何
(
なに
)
か
申上
(
まをしあ
)
げたのでは
厶
(
ござ
)
りませぬか』
186
カールチン
『うん』
187
テーナ姫
『
其方
(
そなた
)
はセーリス
姫
(
ひめ
)
と
何
(
なに
)
か
企
(
たく
)
んで
居
(
ゐ
)
るのではありませぬか。
188
セーリス
姫
(
ひめ
)
は
誰
(
たれ
)
の
娘
(
むすめ
)
だと
思
(
おも
)
つて
居
(
ゐ
)
ますか。
189
お
前
(
まへ
)
さまの
行動
(
かうどう
)
が
怪
(
あや
)
しいと
云
(
い
)
ふので、
190
今
(
いま
)
マンモスが
注進
(
ちゆうしん
)
に
来
(
き
)
た
所
(
ところ
)
だよ。
191
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
の
疑
(
うたがひ
)
を
晴
(
は
)
らすために、
192
何事
(
なにごと
)
も
包
(
つつ
)
まず
隠
(
かく
)
さず
云
(
い
)
つたが
宜
(
よ
)
かろうぞや』
193
ユーフテス
『お
尋
(
たづ
)
ねまでもない
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
の
様子
(
やうす
)
を
申上
(
まをしあ
)
げむと
参上
(
さんじやう
)
致
(
いた
)
しましたので
厶
(
ござ
)
ります。
194
実
(
じつ
)
はセーリス
姫
(
ひめ
)
、
195
私
(
わたし
)
の
男
(
をとこ
)
らしい
処
(
ところ
)
に
属根
(
ぞつこん
)
惚
(
ほ
)
れ
込
(
こ
)
み、
196
幾度
(
いくたび
)
となく
艶書
(
えんしよ
)
を
送
(
おく
)
り
来
(
く
)
る
可笑
(
をか
)
しさ。
197
こいつはテツキリ、
198
クーリンスの
内命
(
ないめい
)
で
自分
(
じぶん
)
の
腹
(
はら
)
を
探
(
さぐ
)
らして
居
(
を
)
るに
違
(
ちが
)
ひないと
存
(
ぞん
)
じ、
199
固造
(
かたざう
)
と
仇名
(
あだな
)
をとつた
此
(
この
)
ユーフテスは
幾度
(
いくたび
)
となく
肱鉄
(
ひぢてつ
)
をかまし、
200
昨日
(
きのふ
)
まで
暮
(
く
)
れて
来
(
き
)
ました
所
(
ところ
)
、
201
女
(
をんな
)
の
一心
(
いつしん
)
と
云
(
い
)
ふものは
偉
(
えら
)
いもので、
202
セーリス
姫
(
ひめ
)
が
態々
(
わざわざ
)
吾
(
わが
)
家
(
や
)
に
訪
(
たづ
)
ねて
参
(
まゐ
)
り、
203
埒
(
らち
)
もない
事
(
こと
)
を
申
(
まを
)
して、
204
恋
(
こひ
)
しいの
何
(
なん
)
のと
口説
(
くど
)
き
立
(
た
)
て、
205
いやもう
手
(
て
)
も
足
(
あし
)
もつけやうなく、
206
此
(
この
)
上
(
うへ
)
情
(
つれ
)
なく
致
(
いた
)
せば
自害
(
じがい
)
も
致
(
いた
)
しかねまじき
権幕
(
けんまく
)
、
207
そこで
私
(
わたし
)
が
思
(
おも
)
ふやうには、
208
こりや
決
(
けつ
)
して
廻
(
まは
)
し
者
(
もの
)
ではない。
209
恋
(
こひ
)
に
上下
(
じやうげ
)
の
隔
(
へだ
)
てはないと
考
(
かんが
)
へ、
210
態
(
わざ
)
と
軟
(
やはら
)
かく
出
(
で
)
て
見
(
み
)
れば、
211
姫
(
ひめ
)
は
益々
(
ますます
)
本性
(
ほんしやう
)
を
現
(
あら
)
はし、
212
ぞつこん
私
(
わたくし
)
に
惚
(
ほれ
)
きつて
居
(
ゐ
)
ると
云
(
い
)
ふことが
明白
(
めいはく
)
になりました。
213
さうなれば
彼
(
かれ
)
を
利用
(
りよう
)
してセーラン
王
(
わう
)
の
動静
(
どうせい
)
を
探
(
さぐ
)
り、
214
且
(
かつ
)
先方
(
むかふ
)
に
計略
(
けいりやく
)
あらば
其
(
その
)
裏
(
うら
)
を
掻
(
か
)
くには
持
(
も
)
つて
来
(
こ
)
いと
存
(
ぞん
)
じまして、
215
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
には
内証
(
ないしよう
)
なれど、
216
一寸
(
ちよつと
)
此
(
この
)
ユーフテスが
気
(
き
)
を
利
(
き
)
かしたので
厶
(
ござ
)
ります』
217
カールチン
『あゝさうだつたか、
218
お
前
(
まへ
)
の
事
(
こと
)
だから
如才
(
じよさい
)
はあるまいと
思
(
おも
)
つてゐた。
219
持
(
も
)
つべきものは
家来
(
けらい
)
なりけりだ。
220
そりや
良
(
よ
)
いことをして
呉
(
く
)
れた。
221
よい
探偵
(
たんてい
)
の
手蔓
(
てづる
)
が
出来
(
でき
)
たものだな。
222
大自在天
(
だいじざいてん
)
様
(
さま
)
も、
223
まだ
此
(
この
)
カールチンを
捨
(
す
)
て
給
(
たま
)
はぬと
見
(
み
)
えるわい。
224
アハヽヽヽ、
225
いやテーナ、
226
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
せよ』
227
テーナ姫
『それ
聞
(
き
)
いてチツとばかり
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
しましたが、
228
まだ
十分
(
じふぶん
)
気
(
き
)
を
許
(
ゆる
)
す
所
(
ところ
)
へは
参
(
まゐ
)
りますまい。
229
そしてユーフテス、
230
何
(
なに
)
かよい
事
(
こと
)
を
探
(
さぐ
)
つて
来
(
き
)
たであらうな』
231
ユーフテス
『ハイ、
232
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
信任
(
しんにん
)
を
受
(
う
)
けて
居
(
を
)
るセーリス
姫
(
ひめ
)
の
事
(
こと
)
ですから、
233
何
(
なん
)
でもよく
知
(
し
)
つてゐます。
234
女
(
をんな
)
と
云
(
い
)
ふものは
賢
(
かしこ
)
い
様
(
やう
)
でも
あだ
といものですワ。
235
一伍
(
いちぶ
)
一什
(
しじふ
)
私
(
わたし
)
の
口車
(
くちぐるま
)
にのつて
皆
(
みな
)
喋
(
しやべ
)
つて
了
(
しま
)
ひました』
236
カールチン
『どんなことを
言
(
い
)
つて
居
(
ゐ
)
たのかな』
237
ユーフテス
『
私
(
わたし
)
もまだ
一度
(
いちど
)
会
(
あ
)
つたきりで
十分
(
じふぶん
)
のことは
聞
(
き
)
きませなんだ。
238
そして
又
(
また
)
あまり
追究
(
つゐきふ
)
致
(
いた
)
しますと
怪
(
あや
)
しく
思
(
おも
)
はれてはならぬと
存
(
ぞん
)
じ、
239
少
(
すこ
)
しばかり、
240
それとはなしに
探
(
さぐ
)
つて
見
(
み
)
ました
所
(
ところ
)
が、
241
王
(
わう
)
様
(
さま
)
は
非常
(
ひじやう
)
にサマリー
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
をお
慕
(
した
)
ひ
遊
(
あそ
)
ばし、
242
姫
(
ひめ
)
と
添
(
そ
)
ふのならば
王位
(
わうゐ
)
を
棄
(
す
)
てて、
243
姫
(
ひめ
)
の
父親
(
てておや
)
カールチン
様
(
さま
)
に
後
(
あと
)
を
継
(
つ
)
がせても
宜
(
よ
)
いとのお
考
(
かんが
)
へで
厶
(
ござ
)
ります。
244
あまり
御
(
ご
)
夫婦
(
ふうふ
)
の
仲
(
なか
)
がいいものですから
意茶
(
いちや
)
づき
喧嘩
(
げんくわ
)
を
遊
(
あそ
)
ばし、
245
到頭
(
とうとう
)
サマリー
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
は
吾
(
わが
)
家
(
や
)
へお
帰
(
かへ
)
りになつたので
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
心配
(
しんぱい
)
、
246
口
(
くち
)
で
申
(
まを
)
す
様
(
やう
)
のことでは
厶
(
ござ
)
りませぬ』
247
テーナ姫
『
何
(
なに
)
、
248
王
(
わう
)
様
(
さま
)
はサマリー
姫
(
ひめ
)
をそれだけ
愛
(
あい
)
して
居
(
を
)
られるのか、
249
そらさうだらう。
250
夫婦
(
ふうふ
)
の
情愛
(
じやうあい
)
は
又
(
また
)
格別
(
かくべつ
)
のものだからな』
251
と
嬉
(
うれ
)
しげにテーナはうなづく。
252
ユーフテス
『
姫
(
ひめ
)
様
(
さま
)
と
旧
(
もと
)
の
如
(
ごと
)
く
添
(
そ
)
はれるのならば、
253
刹帝利
(
せつていり
)
の
王位
(
わうゐ
)
を
棄
(
す
)
てて
右守
(
うもり
)
の
司様
(
かみさま
)
に
後
(
あと
)
を
継
(
つ
)
いで
貰
(
もら
)
つても
差支
(
さしつかへ
)
ないと
時々
(
ときどき
)
お
洩
(
も
)
らしぢやさうです。
254
もはや
王
(
わう
)
様
(
さま
)
に
於
(
おい
)
て
其
(
その
)
お
心
(
こころ
)
ある
上
(
うへ
)
は、
255
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
くサマリー
姫
(
ひめ
)
を
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
御許
(
みもと
)
に
返
(
かへ
)
し、
256
大黒主
(
おほくろぬし
)
様
(
さま
)
の
応援
(
おうゑん
)
を
断
(
ことわ
)
つて、
257
円満
(
ゑんまん
)
解決
(
かいけつ
)
の
道
(
みち
)
を
講
(
かう
)
じられる
方
(
はう
)
が
将来
(
しやうらい
)
の
為
(
た
)
め、
258
大変
(
たいへん
)
結構
(
けつこう
)
で
厶
(
ござ
)
りませう。
259
国民
(
こくみん
)
に
対
(
たい
)
しても
信用
(
しんよう
)
上
(
じやう
)
大変
(
たいへん
)
に
都合
(
つがふ
)
が
宜
(
よろ
)
しいだらうと
存
(
ぞん
)
じます』
260
カールチン
『そりや
果
(
はた
)
して
真実
(
しんじつ
)
か、
261
それが
真実
(
しんじつ
)
とすれば
此方
(
こちら
)
も
一
(
ひと
)
つ
考
(
かんが
)
へねばなるまい。
262
平地
(
へいち
)
に
波
(
なみ
)
を
起
(
おこ
)
す
必要
(
ひつえう
)
もないからのう』
263
ユーフテス
『そら、
264
さうで
厶
(
ござ
)
いますとも。
265
吾々
(
われわれ
)
だつて
旦那
(
だんな
)
様
(
さま
)
が
刹帝利
(
せつていり
)
の
位
(
くらゐ
)
におつき
遊
(
あそ
)
ばす
以上
(
いじやう
)
は
左守
(
さもり
)
の
司
(
かみ
)
に
任
(
にん
)
じて
頂
(
いただ
)
けるのですから、
266
一生
(
いつしやう
)
懸命
(
けんめい
)
に、
267
ここ
迄
(
まで
)
探
(
さぐ
)
つたので
厶
(
ござ
)
ります。
268
これ
以上
(
いじやう
)
は
又
(
また
)
明日
(
あす
)
登城
(
とじやう
)
致
(
いた
)
しましてセーリス
姫
(
ひめ
)
に
篤
(
とく
)
と
申
(
まを
)
し
聞
(
き
)
かせ、
269
王
(
わう
)
の
信任
(
しんにん
)
ある
彼
(
かれ
)
の
口
(
くち
)
より、
270
一
(
いち
)
日
(
にち
)
も
早
(
はや
)
く
王
(
わう
)
様
(
さま
)
の
自決
(
じけつ
)
される
様
(
やう
)
勧
(
すす
)
めませう』
271
と
早
(
はや
)
くもユーフテスはセーリス
姫
(
ひめ
)
の
罠
(
わな
)
にかかり、
272
カールチン
夫婦
(
ふうふ
)
をうまくチヨロまかして
了
(
しま
)
つた。
273
さうしてサマリー
姫
(
ひめ
)
を
獄舎
(
ひとや
)
より
引
(
ひ
)
き
出
(
だ
)
し
両親
(
りやうしん
)
にお
詫
(
わび
)
をさせ、
274
盛装
(
せいさう
)
を
整
(
ととの
)
へ
輿
(
こし
)
に
打乗
(
うちの
)
せて
入那城
(
いるなじやう
)
へ
送
(
おく
)
り
届
(
とど
)
ける
事
(
こと
)
となつた。
275
マンモスはユーフテスの
計
(
はか
)
らひにて
忽
(
たちま
)
ち
牢獄
(
らうごく
)
に
投
(
な
)
げ
込
(
こ
)
まれて
了
(
しま
)
つた。
276
(
大正一一・一一・一〇
旧九・二二
北村隆光
録)
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