霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第七章 忍術使(にんじゆつし)〔一一一一〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻 篇:第1篇 天空地平 よみ(新仮名遣い):てんくうちへい
章:第7章 忍術使 よみ(新仮名遣い):にんじゅつし 通し章番号:1111
口述日:1922(大正11)年11月11日(旧09月23日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
右守の手下・マンモスは、忍術を使って左守クーリンスの屋敷に忍び込んだ。そしてクーリンスの寝室をうかがい、鼠を放ってクーリンスが寝入っているかを確認した。
隣の部屋で不寝番をしていたウヰルスは鼠に気づき、主人の寝室をうかがうと黒装束の男が現れ、主人に切りつけようとする。ウヰルスはやにわにふすまを開けて曲者をねじ伏せ、縛り上げてしまった。
クーリンスはこの物音に驚いて目を覚ました。主従が曲者の顔を改めると、右守の近侍・マンモスであることが見て取れた。クーリンスとウヰルスに責められて、マンモスは右守の命令で左守を暗殺に来たことを明かし、命乞いをした。
クーリンスはマンモスの縄を解き、右守に計画失敗を伝えて改心するようにと言い含めた。マンモスは九死に一生を得て闇にまぎれて逃げて行った。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-11 12:20:50 OBC :rm4107
愛善世界社版:96頁 八幡書店版:第7輯 566頁 修補版: 校定版:100頁 普及版:48頁 初版: ページ備考:
001大正(たいしやう)壬戌(みづのえいぬ)(とし)
002月日(つきひ)(こま)もスクスクと
003十一(じふいち)(ねん)晩秋(ばんしう)
004十一月(しもつき)十一(かみのいち)(にち)
005()しき神代(かみよ)物語(ものがたり)
006一千(いつせん)一百(いつぴやく)十一(じふいち)
007節面白(ふしおもしろ)()()つる
008時刻(じこく)恰度(ちやうど)十一(じふいち)()
009(をさ)まる神代(みよ)松村(まつむら)
010昨日(きのふ)(かは)真澄空(ますみぞら)
011百年(ももとせ)千年(ちとせ)(いしずゑ)
012万年筆(まんねんひつ)(はし)らせて
013原稿(げんかう)用紙(ようし)打向(うちむか)
014()もたなしらに(しる)しゆく
015あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
016御霊(みたま)(さち)はひましまして
017(あま)つたひ()(ほし)(かげ)
018きらめき(わた)(あき)(たか)
019(うま)(いなな)(いさ)ましき
020御空(みそら)()める瑞月(ずゐげつ)
021安全(あんぜん)椅子(いす)(よこ)たはり
022(かみ)(をしへ)四方(よも)(くに)
023百八十(ももやそ)(しま)(はて)までも
024(くま)なく(ひら)敷島(しきしま)
025煙草(たばこ)(けむり)()かせつつ
026現幽神(げんいうしん)三界(さんかい)
027超越(てうゑつ)したる物語(ものがたり)
028(をしへ)御子(みこ)()(なか)
029青人草(あをひとぐさ)魂柱(たまはしら)
030(ふと)しく()てむと()()つる
031(この)物語(ものがたり)永久(とこしへ)
032天地(てんち)(とも)(きは)みなく
033(かみ)御苑(みその)(はな)となり
034果実(このみ)となりて五六七(みろく)(しん)
035胎蔵(たいざう)したる五種(いついろ)
036(あぢ)はひうまく調合(てうがふ)
037霊魂(みたま)(ゑさ)とならしめよ。
038
039盤古(ばんこ)神王(しんわう)奉戴(ほうたい)
040ウラルの(みち)(ひら)きたる
041ウラルの(ひこ)やウラル(ひめ)
042三五教(あななひけう)神人(かみびと)
043(しこ)(とりで)をやらはれて
044千代(ちよ)住家(すみか)(かま)へたる
045()にも名高(なだか)きアーメニヤ
046(やかた)をすてて常世国(とこよくに)
047ロツキー(ざん)常世城(とこよじやう)
048(あら)はれ()でて自在天(じざいてん)
049大国彦(おほくにひこ)奉戴(ほうたい)
050バラモン(けう)建設(けんせつ)
051盤古(ばんこ)神王(しんわう)はどこへやら
052押込(おしこ)めおきてバラモンの
053(をしへ)常世(とこよ)国内(くにうち)
054(ひら)()たりし(をり)もあれ
055(また)もや(かみ)(いまし)めに
056常世(とこよ)(くに)()(いだ)
057埃及国(エヂプトこく)打渡(うちわた)
058豊葦原(とよあしはら)中津国(なかつくに)
059メソポタミヤの自凝(おのころ)
060(しま)(わた)りて自在天(じざいてん)
061(をしへ)(ひら)(をり)もあれ
062ウラルの(みち)(つか)へたる
063音彦(おとひこ)亀彦(かめひこ)両人(りやうにん)
064三五教(あななひけう)帰順(きじゆん)して
065(かみ)(つかさ)となりすまし
066大江(おほえ)(やま)三岳山(みたけやま)
067(おに)(じやう)へとかけ(むか)
068言霊戦(ことたません)開始(かいし)して
069(いきほひ)(つよ)()(きた)
070(その)神力(しんりき)辟易(へきえき)
071大国別(おほくにわけ)(つか)へたる
072鬼雲彦(おにくもひこ)大棟梁(だいとうりやう)
073鬼熊別(おにくまわけ)諸共(もろとも)
074(そら)(ふさ)がる黒雲(くろくも)
075(かく)れて()げゆく(つき)(くに)
076ハルナの(みやこ)(きよ)(かま)
077(ふたた)びここにバラモンの
078(をしへ)(ひら)きゐたりしが
079カルマタ(こく)にウラル(ひこ)
080ウラルの(ひめ)初発(しよつぱつ)
081盤古(ばんこ)神王(しんわう)奉戴(ほうたい)
082(みち)(ひら)きしウラル(けう)
083ウラルの(ひこ)系統(けいとう)
084名乗(なの)常暗彦(とこやみひこ)(かみ)
085ウラルの残党(ざんたう)()(あつ)
086(その)(いきほひ)()(つき)
087(さか)りとなりてバラモンの
088(をしへ)根底(こんてい)(くつが)へし
089(いま)(あやふ)くなりにける
090ウラルの(ひこ)やウラル(ひめ)
091(はじ)めに(ひら)きしウラル(けう)
092常世(とこよ)(くに)()()きて
093(あら)たに(ひら)きしバラモン(けう)
094(その)(みなもと)一株(ひとかぶ)
095教主(けうしゆ)(をしへ)主斎神(しゆさいしん)
096盤古(ばんこ)神王(しんわう)自在天(じざいてん)
097(ふた)つに(わか)れし(その)結果(けつくわ)
098(たがひ)(しのぎ)(けづ)りつつ
099(にく)(あらそ)ふぞ是非(ぜひ)もなき。
100 (せう)亜細亜(アジア)神都(しんと)エルサレムの(みやこ)(ちか)黄金山(わうごんさん)()埴安彦(はにやすひこ)101埴安姫(はにやすひめ)(かみ)顕現(けんげん)して、102三五教(あななひけう)(ひら)(たま)ひしより、103八岐(やまた)大蛇(をろち)醜狐(しこぎつね)邪神(じやしん)は、104正神界(せいしんかい)経綸(けいりん)極力(きよくりよく)対抗(たいかう)せむと、105常世彦(とこよひこ)106常世姫(とこよひめ)()なるウラル(ひこ)107ウラル(ひめ)憑依(ひようい)し、108三五教(あななひけう)神柱(かむばしら)国治立(くにはるたちの)(みこと)対抗(たいかう)せむと盤古(ばんこ)神王(しんわう)塩長彦(しほながひこ)(かつ)()げ、109(ここ)にウラル(けう)開設(かいせつ)し、110天下(てんか)攪乱(かくらん)しつつありしが、111三五教(あななひけう)宣伝神(せんでんしん)常住(じやうぢゆう)不断(ふだん)舎身(しやしん)(てき)活動(かつどう)(てき)()ず、112ウラル(さん)113コーカス(ざん)114アーメニヤを()てて常世(とこよ)(くに)(わた)り、115ロツキー(ざん)116常世城(とこよじやう)(とう)にて今度(こんど)大自在天(だいじざいてん)大国彦(おほくにひこの)(みこと)(およ)大国別(おほくにわけの)(みこと)神柱(かむばしら)とし、117(ふたた)びバラモン(けう)開設(かいせつ)して、118三五教(あななひけう)殲滅(せんめつ)せむと計画(けいくわく)し、119エヂプトに(わた)り、120イホの(みやこ)(おい)て、121バラモン(けう)基礎(きそ)(やうや)(かた)むる(をり)しも、122(また)もや三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)()()てられ、123メソポタミヤに()()きて、124ここに(ふたた)基礎(きそ)確立(かくりつ)し、125(いきほひ)(やうや)(さかん)ならむとする(とき)126(かむ)素盞嗚(すさのをの)(みこと)(つか)はし(たま)宣伝使(せんでんし)太玉(ふとたまの)(みこと)神退(かむやら)ひに退(やら)はれ、127当時(たうじ)大教主(だいけうしゆ)(けん)大棟梁(だいとうりやう)たる鬼雲彦(おにくもひこ)黒雲(こくうん)(じやう)じて自転倒(おのころ)(じま)中心地(ちうしんち)大江山(おほえやま)本拠(ほんきよ)(かま)へ、128鬼熊別(おにくまわけ)(とも)大飛躍(だいひやく)(こころ)みむとする(とき)129(また)もや三五教(あななひけう)宣伝使(せんでんし)言霊(ことたま)畏縮(ゐしゆく)して、130フサの(くに)()え、131やうやく(つき)(くに)のハルナの(みやこ)にバラモンの基礎(きそ)(かた)め、132鬼雲彦(おにくもひこ)大黒主(おほくろぬし)改名(かいめい)して印度(いんど)七千(しちせん)()(こく)刹帝利(せつていり)大部分(だいぶぶん)味方(みかた)につけ、133その威勢(ゐせい)日月(じつげつ)(ごと)(かがや)(わた)りつつあつた。134(しか)るにウラル(ひこ)135ウラル(ひめ)初発(しよつぱつ)(ひら)きたる盤古(ばんこ)神王(しんわう)主斎神(しゆさいしん)とするウラル(けう)教徒(けうと)は、136四方(しはう)八方(はつぱう)より何時(いつ)となく(あつ)まり(きた)りて、137ウラル(ひこ)落胤(らくいん)なる常暗彦(とこやみひこ)推戴(すゐたい)し、138デカタン高原(かうげん)東北方(とうほくぱう)にあたるカルマタ(こく)に、139ウラル(けう)本城(ほんじやう)(かま)へ、140本家(ほんけ)分家(ぶんけ)(せつ)主張(しゆちやう)し、141ウラル(けう)常暗彦(とこやみひこ)(ちち)ウラル(ひこ)最初(さいしよ)(ひら)(たま)ひし(をしへ)であり、142バラモン(けう)常世国(とこよのくに)(おい)て、143第二回(だいにくわい)()(ひら)かれし(をしへ)なれば、144教祖(けうそ)同神(どうしん)である。145(ただ)主斎神(しゆさいしん)(ちが)つてゐるのみだ。146ウラル(けう)如何(どう)してもバラモン(けう)(したが)へねば神慮(しんりよ)(かな)はない。147()づバラモン(けう)帰順(きじゆん)せしめ、148一団(いちだん)となつて神力(しんりき)四方(しはう)発揮(はつき)し、149()いで三五教(あななひけう)殲滅(せんめつ)せむものと、150ウラル(けう)幹部(かんぶ)(いき)まきつつあつたのである。
151 (ここ)にバラモン(けう)大黒主(おほくろぬし)(この)消息(せうそく)(みみ)にし、152スワ一大事(いちだいじ)鬼春別(おにはるわけ)153大足別(おほだるわけ)をして一方(いつぱう)はウラル(けう)へ、154一方(いつぱう)三五教(あななひけう)短兵急(たんぺいきふ)()()せしめ、155バラモン(けう)障害(しやうがい)(のぞ)き、156天下(てんか)統一(とういつ)せむと計画(けいくわく)をめぐらし、157(すで)にウラル(けう)本城(ほんじやう)へは大足別(おほだるわけ)部隊(ぶたい)差向(さしむ)け、158三五教(あななひけう)中心地(ちうしんち)(きこ)えるたる斎苑(いそ)(やかた)へは鬼春別(おにはるわけ)をして、159数多(あまた)勇卒(ゆうそつ)(ひき)ゐ、160進撃(しんげき)せしめたるは、161前巻(ぜんくわん)(すで)()ぶる(とほ)りである。
162
163 (あき)夜嵐(よあらし)()(すさ)び、164(あめ)さへ(まじ)り、165()()はバラバラと(おと)して()()く。166左守(さもり)(かみ)クーリンスの高塀(たかへい)()して(しの)()覆面(ふくめん)頭巾(づきん)曲者(くせもの)があつた。167これは右守(うもり)(かみ)(つか)ふるマンモスといふ忍術(にんじゆつ)達人(たつじん)である。168(ここ)忍術(にんじゆつ)(つい)一言(ひとこと)()べておく必要(ひつえう)があると(おも)ふ。
169 忍術(にんじゆつ)とは変幻(へんげん)出没(しゆつぼつ)170肉身(にくしん)自由(じいう)自在(じざい)相手(あひて)(まへ)(けむり)(ごと)消滅(せうめつ)し、171(たくみ)(その)踪跡(そうせき)をくらます魔術(まじゆつ)(やう)(かんが)へてゐる(ひと)もある(やう)だが、172忍術(にんじゆつ)なるものは(けつ)してそんな不可思議(ふかしぎ)なものではない。173忍術(にんじゆつ)とは忍耐術(にんたいじゆつ)意味(いみ)であつて、174敵情(てきじやう)(うかが)ふに(さい)し、175屋根裏(やねうら)(いつ)週間(しうかん)でも十日(とをか)でも()まず()はずに、176(せき)もせず、177(いき)(ひそ)めて様子(やうす)(かんが)へたり、178(あるひ)寒暑(かんしよ)()はず、179目的(もくてき)(たつ)するまで、180仮令(たとへ)十日(とをか)でも二十日(はつか)でも水中(すゐちう)()(ぼつ)し、181(はな)()だけを水面(すゐめん)()して空気(くうき)()ひ、182(かほ)(うへ)()などを(かぶ)つて、183敵情(てきじやう)視察(しさつ)したり、184(あるひ)(ひろ)泉水(せんすゐ)などを(わた)るにも(なみ)()てないやうに、185水音(みづおと)のせない(やう)活動(くわつどう)()(まで)には、186余程(よほど)習練(しふれん)(えう)するのである。187(また)一夜(いちや)(うち)(ひやく)()以上(いじやう)高飛(たかとび)徒歩(とほ)でせなくてはならぬのである。188(その)(ある)(かた)(ひだり)(かた)(さき)にし、189()るべく空気(くうき)(あた)らない(やう)にして(みち)突破(とつぱ)し、190(かに)(ごと)くに(よこ)(あゆ)(とき)は、191足音(あしおと)もせず、192三四倍(さんしばい)(みち)(あゆ)めるのである。193甲地(かふち)にて(よひ)(くち)(ある)目的(もくてき)(たつ)し、194(その)(よる)(うち)(ひやく)()(はな)れた乙地(おつち)到着(たうちやく)して(をさ)まり(かへ)つてゐるのが忍術(にんじゆつ)目的(もくてき)である。195(また)忍術(にんじゆつ)使(つか)(もの)は、196(くろ)(しろ)(あを)(あか)(その)()いろいろの布巾(ふきん)(ふところ)にかくしおき、197白壁(しらかべ)(まへ)()(とき)白布(はくふ)()して(その)()(かく)し、198(くろ)(もの)(そば)立寄(たちよ)(とき)(くろ)(ぬの)(もつ)()(おほ)ひ、199(あを)(ところ)では(あを)(ぬの)()して()(おほ)ひ、200(ひと)()誤魔化(ごまくわ)(こと)(もつ)忍術(にんじゆつ)奥義(おくぎ)としてゐるのである。201つまりカメレオンがあたりの草木(さうもく)(いろ)によつて(へん)ずる(ごと)活動(くわつどう)をするのである。202(また)(うへ)から(した)まで黒装束(くろしやうぞく)(ちやく)し、203四五(しご)(しやく)ばかりもある手拭(てぬぐひ)一筋(ひとすぢ)()ち、204(これ)頬被(ほほかぶ)りにしたり、205(あるひ)(たか)(ところ)から()()りる(つな)にも応用(おうよう)するのである。206(また)一本(いつぽん)鎧透(よろひどう)しといふ(きは)めて丈夫(ぢやうぶ)(いつ)(しやく)ばかりの短刀(たんたう)所持(しよぢ)し、207(その)短刀(たんたう)無銘(むめい)である。208万一(まんいち)(あやま)つて遺失(ゐしつ)した(とき)に、209(その)(ぬし)(わか)らない(やう)との注意(ちゆうい)から無銘(むめい)(かたな)(もち)ひ、210(また)一切(いつさい)(しるし)()つた持物(もちもの)()につけないのである。211そして(その)短刀(たんたう)には三間(さんげん)四間(しけん)もある(なが)丈夫(ぢやうぶ)()()をくくりつけ、212(へい)などを()(とき)は、213()()(はし)手頃(てごろ)(いし)(また)分銅(ふんどう)(くく)りつけ、214庭木(にはき)(えだ)などに、215(そと)からパツとふりかけ、216(つな)(むす)びつけ、217短刀(たんたう)大地(だいち)()て、218(その)(うへ)片足(かたあし)をのせ、219()()(ちから)として()(をど)らし(へい)飛上(とびあが)り、220()()をたぐつて短刀(たんたう)()()れ、221(また)スルスルとほどける(やう)にして()(えだ)から()りおり、222座敷(ざしき)(しの)()るのである。223そして皮袋(かはぶくろ)二三合(にさんがふ)ばかりの(みづ)()れておき、224ソツと敷居(しきゐ)(なが)し、225()をあける(とき)226(おと)をさせぬ(やう)にして暗夜(あんや)(しの)()み、227敵情(てきじやう)視察(しさつ)するのが忍術使(にんじゆつし)職務(しよくむ)であつた。228そして(てき)寝所(しんじよ)(しの)()つた(とき)は、229(あたま)(はう)から(すす)みよるのである。230万一(まんいち)(あし)(はう)から(すす)(さい)231(てき)()をさまし、232起上(おきあが)途端(とたん)(その)姿(すがた)(みと)めらるる(こと)(おそ)るるからである。233(あたま)(はう)から(すす)(とき)は、234(てき)(おどろ)いて起上(おきあが)るを、235(うしろ)から短刀(たんたう)にて()りつくるのに(もつと)便宜(べんぎ)なからである。236(また)室内(しつない)様子(やうす)をよく(かんが)へ、237屏風(びやうぶ)(かげ)とか、238行灯(あんどん)(かげ)とかに()(ひそ)める(こと)(つと)めるものである。239そして(その)(へや)()(まへ)(てき)熟睡(じゆくすい)せるや(いな)やを()ぶみする(ため)に、240平常(ふだん)から()ひならしておいた二匹(にひき)(ねづみ)(ふところ)にかくし()き、241()一匹(いつぴき)室内(しつない)(はな)つて()る。242(ねづみ)(かは)つた(いへ)()つた(とき)は、243うろたへて座敷中(ざしきちう)をガタガタと(さわ)ぎまはるものである。244(その)(ねづみ)(おと)()をさますやうではまだ熟睡(じゆくすい)してゐないのである。245()まぐれにシーツ シーツと相手(あひて)(ねづみ)(しか)り、246(その)(まま)グツと()(しま)ふ。247ソツと障子(しやうじ)(あな)から忍術使(にんじゆつし)(のぞ)くと、248(ねづみ)(その)(かほ)()(ふたた)(ふところ)(かへ)つて()る。249今度(こんど)(また)(ねん)(ため)(つぎ)(ねづみ)一間(ひとま)投入(なげい)れると、250(また)もや(ねづみ)はうろたへて(さわ)いで、251ガサガサとかけ(まは)る。252それでも()がつかずに(ねむ)つてゐたならば、253最早(もはや)忍術使(にんじゆつし)安心(あんしん)して(その)目的(もくてき)(たつ)するのである。
254 クーリンスはセーラン(わう)面会(めんくわい)し、255種々(いろいろ)右守(うもり)(かみ)のカールチンが陰謀(いんぼう)(そな)ふべく、256密議(みつぎ)()らし、257初夜(しよや)(ごろ)(やうや)(わが)()(かへ)り、258草疲(くたび)()てて、259グツと(しん)()いてゐた。260そこへ(へい)()()黒装束(くろしやうぞく)となつてやつて()たのがマンモスであつた。261(かれ)(かた)(ごと)くクーリンスの寝室(しんしつ)(しの)()り、262(ねづみ)(はな)つて()た。263第二回(だいにくわい)()(はな)つた(ねづみ)はうろたへて(ふすま)(やぶ)(あな)から(となり)宿直役(とのゐやく)のウヰルスの()飛込(とびこ)んだ。264ウヰルスはウツラ ウツラ(ねむ)つてゐたが、265飛込(とびこ)んだ(ねづみ)自分(じぶん)(かほ)(はし)つたので、266フツと()をさまし、267起出(おきい)でて()れば合点(がてん)()かぬ(ねづみ)行動(かうどう)268こりやキツト何者(なにもの)かが(しの)()つたに相違(さうゐ)ない……と、269左守(さもり)(かみ)寝室(しんしつ)(みみ)をすまして(うかが)つてゐた。270そこへノツソリと黒装束(くろしやうぞく)(あら)はれた(をとこ)271「ヤア」と一声(ひとこゑ)272左守(さもり)(かみ)(あたま)(はう)から()りつけむとする。273この(こゑ)(おどろ)き、274矢庭(やには)(ふすま)押開(おしあ)け、275夜具(やぐ)()いた(まま)276曲者(くせもの)捩伏(ねぢふ)せ、277短刀(たんたう)(うば)()り、278(ただち)後手(うしろで)(しば)()げて(しま)つた。
279 左守(さもり)(かみ)(この)物音(ものおと)起上(おきあが)り、
280クーリンス(左守)『ウヰルス、281夜中(やちう)にあわただしく何者(なにもの)であつたか』
282(たづ)ぬれば、283ウヰルスは(こゑ)(ふる)はせ(いき)(はづ)ませながら、
284ウヰルス何物(なにもの)か、285あなたの寝室(しんしつ)(しの)()り、286危害(きがい)(くは)へむと(いた)しました(ゆゑ)287()びかかつて短刀(たんたう)をもぎ()り、288後手(うしろで)(しば)()げました。289サア(これ)からよく調(しら)べて()ませう』
290クーリンス『ヤア険呑(けんのん)(ところ)だつた。291よくマア(たす)けてくれた』
292()ひながら、293カンテラの()()()て、294曲者(くせもの)(かほ)をよくよくすかし()れば、295右守(うもり)(かみ)近侍(きんじ)(つと)めるマンモスである。
296ウヰルス『オヽ(その)(はう)はマンモスではないか、297大方(おほかた)カールチンに(たの)まれたのだらう。298(これ)には(ふか)(たく)みのある(こと)ならむ、299様子(やうす)逐一(ちくいち)白状(はくじやう)(いた)せ』
300 マンモスは(うら)めしげに()()ひしばり、301(まる)()をギヨロリと()いて、302ウヰルスを(にら)みつけ、303(くび)左右(さいう)にふつて一言(ひとこと)(こた)へない。304ウヰルスは(こゑ)(はげ)まし、
305ウヰルス委細(ゐさい)白状(はくじやう)すれば(この)(まま)(たす)けてつかはす。306さもなくば(なんぢ)(いのち)()つて、307イルナ(じやう)(わざわひ)(のぞ)かねばならぬ。308これでも返答(へんたふ)いたさぬか、309(その)(はう)はカールチンに(たの)まれて、310左守(さもり)(かみ)(さま)暗殺(あんさつ)()たのだらう』
311マンモス(けつ)して(けつ)してカールチンに(たの)まれたのではない。312つい(めう)(ゆめ)()()らず()らずにここへ飛込(とびこ)んで()たのだ。313(べつ)(なん)()(かんが)へもないのだから、314()無礼(ぶれい)したのは(ゆる)してくれ』
315ウヰルス馬鹿(ばか)(まを)すな、316(その)(はう)(かく)(ごと)忍術(にんじゆつ)装束(しやうぞく)()け、317一切(いつさい)万事(ばんじ)準備(じゆんび)(いた)して()てゐる以上(いじやう)は、318最早(もはや)かくしても駄目(だめ)だ。319白状(はくじやう)(いた)さぬか』
320といひながらマンモスの短刀(たんたう)(もつ)て、321(むね)のあたりを(しき)りに(くすぐ)つてみた。322マンモスは可笑(をか)しさ(いた)さに(わら)()きしながら、
323マンモス『アハヽヽヽ、324イヒヽヽヽ、325(いた)(いた)()ひます()ひますキツト()ひます、326どうぞこらへて(くだ)さい』
327ウヰルス最早(もはや)白状(はくじやう)するに(およ)ばぬ、328証拠(しようこ)歴然(れきぜん)たるものだ。329それよりもチツと(こそ)ばかして、330(わら)はしてやらうかい』
331(また)もや(むね)のあたりをクルリクルリとさいなむ。
332マンモス『アハヽヽヽ、333イヒヽヽヽ(いた)(いた)いどうぞこらへて(くだ)さいませ。334(じつ)(ところ)右守(うもり)(かみ)カールチンさまから(たの)まれました。335左守(さもり)(かみ)(わが)大望(たいまう)邪魔(じやま)(いた)()(うへ)(こぶ)だから、336(なんぢ)得意(とくい)忍術(にんじゆつ)にて(うま)仕留(しと)(かへ)りなば、337()がイルナの国王(こくわう)となつた(とき)338(その)(はう)右守(うもり)(かみ)にしてやらうと仰有(おつしや)いましたので、339つい(よく)にかられて(わる)(こと)とは()りながら、340出世(しゆつせ)(もと)だと(おも)ひ、341(しの)()みました。342モウ今度(こんど)はキツと心得(こころえ)ますから、343どうぞお(ゆる)しを(ねが)ひます』
344ウヰルス旦那(だんな)(さま)345如何(いかが)取計(とりはか)らひませうか』
346左守(さもり)『ウン、347(おれ)(まか)せ』
348()ひながらマンモスの(かほ)をグツと(にら)みつけ、
349クーリンス(ゆる)(がた)悪人(あくにん)なれども、350今日(けふ)()のがしてくれる。351(いち)()(はや)右守(うもり)(かみ)(やかた)立帰(たちかへ)り、352クーリンスはビチビチ(いた)して()る。353其方(そなた)(はや)改心(かいしん)なさらぬと(おん)()(わざわひ)354()のあたりに(せま)つてゐますぞ。355(いま)(うち)()改心(かいしん)をなされと、356よつく(つた)へよ』
357といひながら(いまし)めの(なは)()(はな)ちやれば、358マンモスは九死(きうし)一生(いつしやう)難関(なんくわん)(のが)れ、359(よろこ)(いさ)み、360足早(あしばや)(やみ)(まぎ)れて、361(やかた)裏口(うらぐち)より一目散(いちもくさん)()げてゆく。
362大正一一・一一・一一 旧九・二三 松村真澄録)
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