イルナの都のセーラン王の館の奥の間には、王をはじめ黄金姫、清照姫、テームス、レーブ、カルの六人が上下の座についてひそびそと話し合っていた。
信仰を問うた黄金姫に対し、セーラン王は国治立大神も盤古神王も大自在天も名称が違うだけであると信じていたと答えた。それに対して黄金姫は、盤古神王や大自在天は人類の祖先から生じた邪霊が憑依した神であり、一方国治立尊は本当のこの世の御先祖様であると諭した。
セーラン王は黄金姫母娘を、自分の祈願所に招いた。祈願所の神号は、天一神王国治立尊とあった。そしてその下に、教主神素盞嗚尊と記し、中央の両側に盤古神王と大国彦命と記されていた。
黄金姫母娘は、セーラン王の信仰を見て王の信仰の正しさを称えた。セーラン王は、バラモン教を信仰して国を治めていたが、ある夜の夢に神素盞嗚大神と、尊敬する鬼熊別命が現れ、さまざまの有難い教訓を示してくれたのだという。
それからは自分ひとり、神命にしたがった信仰に励んでいたと明かした。セーラン王が描いた神素盞嗚大神と鬼熊別の肖像に、母娘は感に打たれていた。
セーラン王は、鬼熊別から王に当てた密書を取り出し、黄金姫に恭しく渡した黄金姫が密書を開いて見ると、夫の筆跡で三五教が真の教えであることがしたためられていた。
そして神素盞嗚大神のはからいにより自分の妻子がイルナ国を訪問するから、共に善後策を講じ、右守の魔手を逃れてどこかへ一時避難するようにと王に忠告する内容であった。
王と黄金姫母娘は早速居間に戻ると、テームス、カル、レーブに命じて王を高照山の狼の岩窟に送っていくようにと命じた。四人は裏口から駒を引き出し、闇の中を急いで出立した。
黄金姫と清照姫は後に残った。