霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一四章 慈訓(じくん)〔一一一八〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻 篇:第3篇 北光神助 よみ(新仮名遣い):きたてるしんじょ
章:第14章 慈訓 よみ(新仮名遣い):じくん 通し章番号:1118
口述日:1922(大正11)年11月12日(旧09月24日) 口述場所: 筆録者:北村隆光 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年6月15日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
高照山の岩窟では主客五人が何事か話にふけっている。竜雲は神話をしつつ、北光神に問われてインドの国情を報告した。
続いてヤスダラ姫はこれまでの苦労を告白した。北光神と竹野姫は、ヤスダラ姫のこれまでの苦難をねぎらいつつ、これからの神界のための活動に向けた使命を諭し、勇気を与えた。
そこへ蹄の音が岩窟内に聞こえてきた。北光神はセーラン王の一行が到着したと、竜雲に出迎えを命じた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2022-12-14 11:45:33 OBC :rm4114
愛善世界社版:200頁 八幡書店版:第7輯 603頁 修補版: 校定版:211頁 普及版:93頁 初版: ページ備考:
001 (おほかみ)(まも)高照山(たかてるやま)岩窟(がんくつ)には主客(しゆきやく)()(にん)(ひざ)(まじ)へて何事(なにごと)(はなし)(ふけ)つてゐる。002北光(きたてる)(かみ)宣伝使(せんでんし)(かたはら)鍛冶(かぢ)名人(めいじん)なれば、003数多(あまた)精巧(せいかう)なる機械(きかい)閑暇(かんか)ある(ごと)製造(せいざう)し、004(のみ)005(つち)006鶴嘴(つるはし)007(くは)(など)(つく)つて岩窟(がんくつ)穿(うが)ち、008(いま)八咫(やた)大広間(おほひろま)(いく)つとなく穿(うが)たれ、009難攻(なんこう)不落(ふらく)金城(きんじやう)鉄壁(てつぺき)となつたのである。010それに数百千(すうひやくせん)(おほかみ)北光(きたてる)(かみ)恩威(おんゐ)(ふく)し、011(あだか)飼犬(かひいぬ)(ごと)くよく(その)(めい)(まも)り、012()人語(じんご)(かい)する(やう)になつてゐた。013岩窟(がんくつ)一間(ひとま)には(あめ)目一(まひと)つの(かみ)上座(じやうざ)に、014(その)右側(みぎがは)には竹野姫(たけのひめ)015(すこ)()がつてヤスダラ(ひめ)016竜雲(りううん)017リーダーの(じゆん)()をすすりながら神話(しんわ)(ふけ)る。
018竜雲(りううん)北光(きたてる)(かみ)(さま)019(わたくし)悪逆(あくぎやく)無道(ぶだう)悪魔(あくま)憑依(ひようい)され、020サガレン(わう)(たい)不臣(ふしん)(つみ)(かさ)ね、021(すで)霊魂(みたま)根底(ねそこ)(くに)()()まるる(ところ)御座(ござ)りましたが、022貴神(あなた)()親切(しんせつ)なる()教訓(けうくん)によつて、023貪瞋痴(どんしんち)(ゆめ)()め、024(やうや)真人間(まにんげん)にして(いただ)きました。025(いち)()(いきほひ)(じやう)じ、026サガレン(わう)(あと)(おそ)うて権利(けんり)(ふる)うた(とき)(くる)しさに(くら)ぶれば、027今日(こんにち)気楽(きらく)(たの)しさは、028天地(てんち)相違(さうゐ)御座(ござ)ります。029体主(たいしゆ)霊従(れいじう)欲望(よくばう)にかられ、030()らず()らずに身魂(みたま)地獄(ぢごく)(おと)してゐるものは、031(けつ)して竜雲(りううん)ばかりでは御座(ござ)りますまい。032(なん)とかして(その)(まよ)ひを()まさせ、033身魂(みたま)安楽(あんらく)にさせてやりたいもので御座(ござ)りますワ』
034北光(きたてる)其方(そなた)(つき)(くに)巡回(じゆんくわい)して()たのだから、035最早(もはや)天下(てんか)人情(にんじやう)はよく(わか)つただらう。036随分(ずゐぶん)()(なか)(あは)れむべきものが(おほ)いだらうな』
037竜雲『ハイ、038(あふ)せの(とほ)何処(どこ)(くに)(まゐ)りましても宗教(しうけう)(あらそ)ひや名利(めいり)(よく)(から)まれて、039(たがひ)(しのぎ)(けづ)惨状(さんじやう)は、040まるで地獄(ぢごく)餓鬼(がき)畜生道(ちくしやうだう)(その)(まま)出現(しゆつげん)御座(ござ)ります。041丁度(ちやうど)以前(いぜん)のセイロン(たう)()ける竜雲(りううん)雛形(ひながた)(いた)(ところ)散見(さんけん)せられます。042(しか)(なが)不思議(ふしぎ)(こと)には三五教(あななひけう)(すこ)しでも(いき)のかかつた地方(ちはう)は、043(きは)めて人心(じんしん)平穏(へいおん)044寡欲(くわよく)恬淡(てんたん)にして、045上下(しやうか)相親(あひした)しみ、046小天国(せうてんごく)(きづ)かれてゐるのを目撃(もくげき)(いた)しまして、047(もつと)愉快(ゆくわい)(かん)じた(こと)御座(ござ)ります』
048北光神其方(そなた)七千(しちせん)()(こく)(めぐ)つた(うち)049比較(ひかく)(てき)(をさ)まり(にく)(ところ)何処(どこ)々々(どこ)だと(おも)ひましたか』
050竜雲『ハイ、051随分(ずゐぶん)沢山(たくさん)一々(いちいち)申上(まをしあ)げる(わけ)には(まゐ)りませぬ。052(しか)(なが)第一(だいいち)にカルマタ(こく)053第二(だいに)にイルナの(くに)などは(いま)大騒乱(だいさうらん)勃発(ぼつぱつ)せむとする間際(まぎは)になつてゐる(やう)御座(ござ)ります。054カルマタ(こく)東北(とうほく)地教山(ちけうざん)(ひか)へ、055地教山(ちけうざん)には三五教(あななひけう)神柱(かむばしら)(まこと)(みち)(まも)つて附近(ふきん)人民(じんみん)教養(けうやう)して()られる。056そこへウラル(けう)常暗彦(とこやみひこ)(あら)はれて本拠(ほんきよ)(かま)へ、057間隙(かんげき)あれば地教山(ちけうざん)併呑(へいどん)せむと(たく)んでゐる。058(この)(ごろ)(また)ウラル(けう)(いきほ)ひがあまり(さかん)なと()うて、059ハルナの(みやこ)大黒主(おほくろぬし)が、060大足別(おほだるわけ)将軍(しやうぐん)数多(あまた)軍隊(ぐんたい)引率(いんそつ)せしめ()(きた)るとの飛報(ひはう)(しき)りに(きた)り、061人心(じんしん)恟々(きようきよう)たる有様(ありさま)御座(ござ)ります。062(つぎ)にはイルナの(くに)のセーラン(わう)(たい)する嫉視(しつし)反目(はんもく)()(つき)(くは)はり、063正義派(せいぎは)不正義(ふせいぎ)()とが()えず暗闘(あんとう)をつづけ、064(いま)にも右守(うもり)(かみ)大黒主(おほくろぬし)威勢(ゐせい)(たの)みイルナの(わう)放逐(はうちく)し、065(みづか)らとつて(かは)らむとの計画中(けいくわくちう)だとの城下(じやうか)人々(ひとびと)のとりどりの(うはさ)066何時(いつ)イルナの(みやこ)戦塵(せんぢん)(ちまた)(かは)るやも()れぬとの(こと)御座(ござ)ります。067(なん)とかして(この)惨状(さんじやう)未発(みはつ)(ふせ)ぎたいと(ぞん)じ、068竜雲(りううん)都下(とか)徘徊(はいくわい)(いた)して宣伝歌(せんでんか)(うた)(まは)りました(ところ)069右守(うもり)のカールチンが部下(ぶか)圧迫(あつぱく)され、070(すで)生命(いのち)までとられむとせし(ところ)071不思議(ふしぎ)にも何処(どこ)ともなく(おほかみ)(むれ)072白昼(はくちう)(あら)はれ(きた)り、073咆哮(はうかう)怒号(どごう)して(てき)追散(おひち)らし、074(けむり)(ごと)姿(すがた)(かく)しました。075その()(うかが)一目散(いちもくさん)(みやこ)()()し、076照山峠(てるやまたうげ)()えてスタスタ(かへ)()途中(とちう)077蓮川(はちすがは)(ほとり)(おい)てヤスダラ(ひめ)(さま)主従(しゆじゆう)出会(であ)ひ、078二人(ふたり)(さま)危難(きなん)(すく)ひ、079(あと)になり(さき)になり、080()えつ(かく)れつ照山峠(てるやまたうげ)(ふもと)まで(おく)つて()ました(ところ)081三五教(あななひけう)黄金姫(わうごんひめ)(さま)母娘(おやこ)出会(であ)ひ、082(いち)()(はや)北光彦(きたてるひこ)(かみ)(さま)()命令(めいれい)だから高照山(たかてるやま)(まゐ)れとのお言葉(ことば)083()るものも()りあへず(ひめ)(さま)のお(とも)をして此処(ここ)(まで)(まゐ)つたもので御座(ござ)ります。084(じつ)危険(きけん)至極(しごく)()(なか)となつて(まゐ)りました』
085北光神()(ほど)086それは()苦労(くらう)087(この)(やかた)猛獣(まうじう)眷族(けんぞく)数多(あまた)(まも)()れば、088天下(てんか)第一(だいいち)安全(あんぜん)地帯(ちたい)だ。089ヤスダラ(ひめ)殿(どの)()安心(あんしん)なされませ』
090ヤスダラ姫『ハイ有難(ありがた)御座(ござ)ります。091(をんな)(みち)()(はづ)した(わたし)をお(とが)めもなくお(たす)(くだ)さいまして(なん)とも(おそ)(おほ)くて申上(まをしあ)げやうも御座(ござ)りませぬ。092何卒(なにとぞ)(よろ)しく今後(こんご)()教養(けうやう)を、093(ひとへ)にお(ねが)(まを)します』
094北光神随分(ずゐぶん)ヤスダラ(ひめ)(さま)095貴女(あなた)悪人(あくにん)(ども)欲望(よくばう)犠牲(ぎせい)となつて(くる)しみましたな。096身魂(みたま)()はぬ(をつと)()たされ、097(さぞ)日々(にちにち)不愉快(ふゆくわい)をお(かん)じになつたでせう。098()心中(しんちう)(さつ)(まを)します』
099(なさけ)ある言葉(ことば)に、100ヤスダラ(ひめ)はヤツと安心(あんしん)し、101(うれ)(なみだ)(そで)(ぬぐ)ひながら、
102ヤスダラ姫(おも)ひもよらぬ()親切(しんせつ)()言葉(ことば)103有難(ありがた)御座(ござ)ります。104(なに)(かく)しませう、105(わたし)はイルナの(みやこ)左守(さもり)クーリンスの長女(ちやうぢよ)(うま)れ、106セーラン(わう)(さま)許嫁(いひなづけ)御座(ござ)りました(ところ)が、107ハルナの(みやこ)大黒主(おほくろぬし)(さま)()(へつら)右守(うもり)カールチンの()めに(さへぎ)られ、108種々(いろいろ)難癖(なんくせ)をつけられた挙句(あげく)109テルマン(ごく)毘舎(びしや)(つま)とせられ、110今日(こんにち)まで面白(おもしろ)からぬ月日(つきひ)(おく)つて()ました。111(いま)貴神(あなた)のお言葉(ことば)(とほ)身魂(みたま)()はないのか(ぞん)じませぬが、112(をつと)のシヤールに(たい)して(すこ)しも(あい)(ねん)(おこ)らず、113(をつと)(また)(わたし)(たい)して至極(しごく)冷淡(れいたん)114路傍(ろばう)(あひ)()(ひと)(ごと)く、115夫婦(ふうふ)としての暖味(あたたかみ)(ゆめ)にも(あぢ)はつた(こと)御座(ござ)りませぬ。116(つま)として(をつと)(たい)して(あい)(ささ)げるが(みち)なれども、117如何(どう)したものか(その)(こころ)()いて()ませぬ。118勿体(もつたい)ない(こと)ながら、119()けても()れても(おや)許嫁(いひなづけ)(をつと)セーラン(わう)(さま)(こと)()にちらつき、120(こゑ)(みみ)(ひび)き、121(わう)(さま)(こと)のみ夢現(ゆめうつつ)()(した)(こころ)(つみ)(かさ)ねて()りました。122(ところ)右守(うもり)(つま)テーナ(ひめ)(をつと)(やかた)右守(うもり)使者(ししや)として(あら)はれ(きた)り、123(わたし)(たい)無理(むり)難題(なんだい)()きかけ、124(をつと)のシヤールを威喝(ゐかつ)して(つひ)獄舎(ひとや)(つく)(わたし)()()み、125非常(ひじやう)虐待(ぎやくたい)(いた)すので御座(ござ)ります。126(わたし)最早(もはや)運命(うんめい)つきたりと覚悟(かくご)()め、127(なみだ)にくるる(をり)しも、128雨風(あめかぜ)(はげ)しき夜半(よは)129これなる忠僕(ちうぼく)リーダーが獄舎(ひとや)打破(うちやぶ)り、130(わたし)背負(せお)(やみ)(まぎ)れて此処(ここ)まで(やうや)()れて()てくれました。131(これ)(まつた)(かみ)(さま)のお(かげ)竜雲殿(りううんどの)()保護(ほご)御座(ござ)ります。132最早(もはや)(この)()(のぞ)みは御座(ござ)りませぬが、133せめて一度(いちど)(ちち)のクーリンスや(いもうと)のセーリス(ひめ)面会(めんくわい)したう御座(ござ)ります。134(また)()(こと)ならば一目(ひとめ)なりとも(わう)(さま)のお姿(すがた)(をが)みたく(ぞん)じます。135それさへ出来(でき)れば最早(もはや)()んでも(うら)みは御座(ござ)りませぬ』
136()(うへ)(ばなし)にホロリと(なみだ)(おと)差俯(さしうつ)むく。
137北光神『それでスツカリ事情(じじやう)(わか)りました。138やがて親兄妹(おやきやうだい)(まを)すに(およ)ばず、139セーラン(わう)(さま)()はせませう。140さうして屹度(きつと)身魂(みたま)同士(どうし)夫婦(ふうふ)だから肉体(にくたい)(うへ)でも夫婦(ふうふ)となつて、141イルナの(みやこ)(はな)(うた)はれ(あそ)ばす(やう)(まも)つてあげませう。142(この)手筈(てはず)(すで)此方(こちら)(おい)神示(しんじ)(もと)(おこな)はれつつありますから()安心(あんしん)なさいませ』
143ヤスダラ姫左様(さやう)有難(ありがた)(こと)になりませうかな。144そんな(こと)出来(でき)ますならば、145(わたし)(はじ)親兄妹(おやきやうだい)はどれほど(よろこ)ぶか()れませぬ。146(わう)(さま)(さぞ)()満足(まんぞく)(あそ)ばすで御座(ござ)りませう』
147竹野(たけの)『ヤスダラ(ひめ)(さま)148貴女(あなた)もこれから(かみ)(さま)のために余程(よほど)()苦労(くらう)(あそ)ばさねばなりませぬぞや。149(わたし)随分(ずゐぶん)(わか)(とき)両親(りやうしん)(わか)れ、150(さび)しい月日(つきひ)(おく)りましたが、151(かぜ)便(たよ)りに(ちち)(みこと)高砂島(たかさごじま)()しますと()き、152姉妹(きやうだい)(さん)(にん)色々(いろいろ)艱難(かんなん)苦労(くらう)(いた)しまして、153(うづ)(みやこ)()()でてエデンの川辺(かはべ)(すす)()(をり)しも、154悪者(わるもの)(ども)取巻(とりま)かれ、155(こま)りきつて()(ところ)へ、156月照彦(つきてるひこ)(さま)()化身(けしん)照彦(てるひこ)()(やかた)(しもべ)()()(きた)危難(きなん)(すく)()れられました。157それより(ちち)()します(うづ)(みやこ)へ、158主従(しゆじゆう)()(にん)(たづ)ねて(まゐ)り、159ヤレ(うれ)しやと(おも)うたのも(つか)()160木花姫(このはなひめの)(みこと)(さま)化身(けしん)なる珍山彦(うづやまひこ)(かみ)(みちび)かれ()ひしき(ちち)(みやこ)(あと)に、161テルの(くに)にて照彦(てるひこ)(わか)れ、162それより(ふね)()つてアタルの(みなと)上陸(じやうりく)し、163ヒル、164カルの国々(くにぐに)姉妹(きやうだい)(さん)(にん)(はな)(ばな)れに宣伝(せんでん)(いた)し、165ウラル(けう)魔神(まがみ)鷹依別(たかよりわけ)目付(めつけ)()(まく)られ、166(なさけ)ある春山彦(はるやまひこ)(やかた)(かく)され(やうや)危難(きなん)(まぬが)れ、167黄泉(よもつ)比良坂(ひらさか)(たたか)ひに参加(さんか)(いた)しましたが、168随分(ずゐぶん)種々(いろいろ)(かみ)(さま)のお(ため)しに()ひました。169それより(また)アジヤに(わた)所々(しよしよ)方々(はうばう)宣伝(せんでん)(まは)るうち、170(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)(さま)のお媒酌(なかだち)によつてコーカス(ざん)(おい)北光(きたてる)(かみ)(さま)結婚式(けつこんしき)()げましたが、171それから(なが)(あひだ)夫婦(ふうふ)同居(どうきよ)した(こと)もなく、172(みち)()活動(くわつどう)をつづけ、173(この)(ごろ)(やうや)夫婦(ふうふ)一緒(いつしよ)()うして御用(ごよう)(つと)める(やう)になりました。174最早(もはや)(をつと)(とし)()り、175(わたし)もこんな(ばば)になつて(しま)ひました。176オホヽヽヽ』
177(なみだ)をかくして(わら)ひに(まぎ)らす。
178 ヤスダラ(ひめ)竹野姫(たけのひめ)(はなし)(かん)じ、179()自分(じぶん)苦労(くらう)()らぬのを(はづ)かしく(かほ)(あか)らめてオゾオゾしながら、
180ヤスダラ姫左様(さやう)(ござ)りましたか、181人間(にんげん)()ふものは中々(なかなか)容易(ようい)(こと)一生(いつしやう)(おく)(こと)出来(でき)ませぬな。182(わたし)(たち)貴女(あなた)(こと)(おも)へばお(はなし)になりませぬ。183(すこ)しの忍耐(にんたい)もなく(をつと)牢獄(らうごく)()()し、184ノメノメと親兄妹(おやきやうだい)(おも)(をつと)(した)うて(かへ)つて()(こころ)のきたなさ、185(はづ)かしさ、186(じつ)汗顔(かんがん)(いた)りで(ござ)ります』
187北光神『ヤスダラ(ひめ)(さま)188()心配(しんぱい)なさいますな。189貴女(あなた)はこれから神界(しんかい)のため()活動(くわつどう)(あそ)ばすのだ。190(ひと)一生(いつしやう)重荷(おもに)()うて(けは)しい山坂(やまさか)(のぼ)るやうなものです。191何時(いつ)険呑(けんのん)()()ふやら、192(たふ)れるやら(わか)りませぬ。193そこを(かみ)(さま)()神力(しんりき)(たす)けられ、194波風(なみかぜ)(あら)()(なか)安々(やすやす)(わた)るのですよ。195さうして自分(じぶん)()(まも)りながら(かみ)(さま)(うづ)御子(みこ)たる天下(てんか)万民(ばんみん)(まこと)(みち)(をし)(さと)して、196天国(てんごく)(すく)ひ、197霊肉(れいにく)ともに安心(あんしん)立命(りつめい)(あた)へるのが(かみ)より(えら)まれたる貴女(あなた)(がた)任務(にんむ)だから、198如何(いか)なる艱難(かんなん)辛苦(しんく)()ふとも(けつ)して落胆(らくたん)したり(うら)んだりしてはなりませぬ。199何事(なにごと)(この)()(なか)人間(にんげん)自由(じいう)には()()(いち)(まい)だつてなるものではない。200みんな(かみ)御心(みこころ)のまにまに操縦(さうじう)されて()るのだから、201如何(いか)なる(こと)()()ようとも惟神(かむながら)(まか)し、202人間(にんげん)人間(にんげん)としての最善(さいぜん)努力(どりよく)(ささ)ぐれば()いのです。203(この)竜雲(りううん)さまだつて(はじ)めは随分(ずゐぶん)(むし)のよい(かんが)へを(おこ)得意(とくい)時代(じだい)もあつたが、204(たちま)(ゆめ)()めて千仭(せんじん)谷間(たにま)()(おと)した(やう)()すぼらしい乞食(こじき)とまでなり()て、205此処(ここ)翻然(ほんぜん)として天地(てんち)(まこと)(さと)り、206諸国(しよこく)行脚(あんぎや)をなし、207(いま)完全(くわんぜん)神司(かむつかさ)となり、208()神力(しんりき)()(そな)ふるやうにおなりなさつたのですから、209(ひと)如何(どう)しても苦労(くらう)(いた)さねば(まこと)神柱(かむばしら)にはなる(こと)出来(でき)ませぬ。210(この)北光(きたてる)(かみ)都矣刈(つむがり)太刀(たち)(きた)ふるにも、211(てつ)(はがね)烈火(れつくわ)(なか)()()れ、212金床(かなどこ)(うへ)()いて、213金槌(かなづち)(もつ)幾度(いくたび)となく()(きた)(たた)(のば)し、214(つひ)には光芒(くわうばう)陸離(りくり)たる名刀(めいたう)(きた)へる(やう)なもので、215人間(にんげん)(かみ)(さま)鍛錬(たんれん)()なくては駄目(だめ)です。216(ひと)つでも(おほ)(たた)かれた(つるぎ)()(あぢ)もよく(にほひ)(うる)はしき(やう)なもので、217人間(にんげん)十分(じふぶん)(たた)かれ(くる)しめられ、218水火(すゐくわ)(なか)(くぐ)つて()ねば駄目(だめ)です。219これから(この)北光(きたてる)(かみ)貴女(あなた)()ふるセーラン(わう)面会(めんくわい)させますが、220(けつ)して安心(あんしん)をしてはなりませぬぞ。221吾々(われわれ)夫婦(ふうふ)(ごと)(たがひ)手配(てくば)りをして(まこと)(みち)(つく)さねばなりませぬ。222いつ(まで)(わか)()(もつ)天下(てんか)擾乱(ぜうらん)(この)場合(ばあひ)223夫婦(ふうふ)安楽(あんらく)情味(じやうみ)(たの)しむと()(こと)出来(でき)ませぬ。224生者(しやうじや)必滅(ひつめつ)会者(ゑしや)定離(ぢやうり)225別離(べつり)(くる)しみは人間(にんげん)(おろ)か、226万物(ばんぶつ)(いた)るまで(のが)(がた)(ところ)227(この)(てん)十分(じふぶん)()承知(しようち)(ねが)つておかねばなりませぬ。228やがてセーラン(わう)二三(にさん)忠誠(ちうせい)なる(しもべ)(まも)られ、229此処(ここ)にお()でになりませう』
230ヤスダラ姫『ハイ、231有難(ありがた)(ござ)ります。232(なに)から(なに)まで()親切(しんせつ)()教訓(けうくん)233屹度(きつと)(きも)(めい)じて忘却(ばうきやく)(いた)しませぬ。234(いな)何事(なにごと)(かみ)(さま)(あふ)せを遵奉(じゆんぽう)(いた)しまして、235天晴(あつぱ)神柱(かむばしら)(きた)へて(いただ)覚悟(かくご)(ござ)ります』
236竹野(たけの)『ヤスダラ(ひめ)(うづ)(みこと)(こと)()
237()くにつけても(なみだ)ぐまるる。
238(いさ)ましき(なれ)御言(みこと)()きしより
239竹野(たけの)(ひめ)(むね)(かがや)く』
240ヤスダラ『有難(ありがた)北光神(きたてるがみ)竹野姫(たけのひめ)
241御言(みこと)のままに(みち)(つか)へむ。
242セーラン(わう)(うづ)(みこと)(いま)此処(ここ)
243()ますと()きて(むね)(とどろ)きぬ。
244相見(あひみ)ての(のち)(こころ)(くら)ぶれば
245(いま)(われ)こそ(たの)しかるらむ』
246北光(きたてる)『セーラン(わう)(うづ)(みこと)(いま)此処(ここ)
247北光神(きたてるがみ)住家(すみか)(たづ)ねて。
248惟神(かむながら)(かみ)(おん)()(みちび)かれ
249妹背(いもせ)(やま)谷間(たにま)()きませ』
250竜雲(りううん)打仰(うちあふ)(そら)()(くも)(なが)むれば
251(ひと)行末(ゆくすゑ)(おも)ひやられつ。
252高照(たかてる)(やま)()まへる(おほかみ)
253夫婦(めをと)(みち)(わす)れざるらむ。
254(つま)となり(をつと)となるも天地(あめつち)
255(かみ)(むす)びし(えにし)なるらむ』
256リーダー『はるばるとテルマン(ごく)立出(たちい)でて
257(ひめ)(まも)りつ(いま)此処(ここ)にあり。
258テルマンのシヤールの(やかた)()でし(とき)
259行末(ゆくすゑ)如何(いか)にと(おも)ひなやみしよ。
260かくばかり(たふと)(かみ)()ひし(うへ)
261()(おそ)るべきものあらじとぞ(おも)ふ。
262惟神(かむながら)(かみ)御言(みこと)(かしこ)みて
263世人(よびと)()めに()をや(つく)さむ』
264 ()(うた)(をは)(とき)しも、265(にはか)(きこ)ゆる(ひづめ)(おと)カツカツと岩窟内(がんくつない)まで(ひび)(きた)る。
266北光(きたてる)『ヤア、267あの足音(あしおと)はセーラン(わう)一行(いつかう)ならむ。268竜雲殿(りううんどの)269出迎(でむか)(たの)()る』
270ヤスダラ『えツ!』
271竜雲(りううん)(かしこ)まりました』
272()(おこ)岩窟(がんくつ)入口(いりぐち)()して一目散(いちもくさん)にかけり()く。
273大正一一・一一・一二 旧九・二四 北村隆光録)
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