霊界物語.ネット~出口王仁三郎 大図書館~
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第一章 烈風(れつぷう)〔一一五二〕

インフォメーション
著者:出口王仁三郎 巻:霊界物語 第43巻 舎身活躍 午の巻 篇:第1篇 狂風怪猿 よみ(新仮名遣い):きょうふうかいえん
章:第1章 烈風 よみ(新仮名遣い):れっぷう 通し章番号:1152
口述日:1922(大正11)年11月26日(旧10月8日) 口述場所: 筆録者:松村真澄 校正日: 校正場所: 初版発行日:1924(大正13)年7月25日
概要: 舞台: あらすじ[?]このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「王仁DB」にあります。[×閉じる]
音彦は、玉国別と名を変えて、道公、伊太公、純公の三人を引率し、イソの館を出立してインドのハルナの都に旅立った。
一行は河鹿峠の難所で暴風に吹かれたが勇気を鼓して急坂を登って行った。山上のやや平坦なところで一行は話に花を咲かせた。道公と伊太公は、風のひどさにもう少し楽な旅を希望し、玉国別がたしなめている。
二人はそろそろ脱線し、狂歌を歌い始めた。ひとりきり話を終えた一行は、玉国別の号令で坂を下り始めた。
坂を下りながら伊太公は滑稽な歌を歌った。一行が河鹿峠の大曲りの山の懐に来ると、天地も割れるばかりの強風が猛然と吹き起こり、玉国別も一歩も進むことができず、木の根にしがみついて神言を奏上しながら風が渡りゆくことを待つことにした。
三人も玉国別にならって木の根にしがみつき、風が過ぎるのを待っていた。
主な登場人物[?]【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。[×閉じる] 備考: タグ: データ凡例: データ最終更新日:2023-01-03 19:36:10 OBC :rm4301
愛善世界社版:7頁 八幡書店版:第8輯 31頁 修補版: 校定版:7頁 普及版:2頁 初版: ページ備考:
001天地(てんち)にさやる雲霧(くもきり)
002伊吹(いぶき)(はら)ひて()(すく)
003三五教(あななひけう)神柱(かむばしら)
004(かむ)素盞嗚(すさのをの)大神(おほかみ)
005神言(みこと)(かしこ)音彦(おとひこ)
006玉国別(たまくにわけ)()をかへて
007道公(みちこう)伊太公(いたこう)純公(すみこう)
008三人(みたり)信徒(しんと)引率(いんそつ)
009斎苑(いそ)(やかた)立出(たちい)でて
010(こがらし)すさぶ(あき)(そら)
011河鹿(かじか)(たうげ)急坂(きふはん)
012(のぼ)りつ(くだ)りつ(すす)()
013目指(めざ)すは印度(いんど)(つき)(くに)
014ハルナの(みやこ)(わだか)まる
015八岐(やまた)大蛇(をろち)醜狐(しこぎつね)
016曲鬼(まがおに)(しこ)曲魂(まがたま)
017(まこと)(みち)言向(ことむ)けて
018至仁(しじん)至愛(しあい)神国(しんこく)
019(この)()(うへ)建設(けんせつ)
020(かみ)御稜威(みいづ)(てら)さむと
021(いさ)(すす)んで斎苑(いそ)(やかた)
022(あと)(なが)めて()でて()
023あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
024御霊(みたま)(さち)はひましまして
025玉国別(たまくにわけ)宣伝使(せんでんし)
026三人(みたり)従者(とも)諸共(もろとも)
027はるばる(すす)首途(かどいで)
028完全(うまら)委曲(つばら)(まも)りまし
029千変(せんぺん)万化(ばんくわ)活動(くわつどう)
030()れなく()ちなくすくすくと
031()べさせ(たま)惟神(かむながら)
032(かみ)御前(みまへ)瑞月(ずゐげつ)
033(かしこ)(かしこ)みねぎまつる。
034 玉国別(たまくにわけ)宣伝使(せんでんし)(さん)(にん)供人(ともびと)(とも)に、035黄金姫(わうごんひめ)036照国別(てるくにわけ)一行(いつかう)(あと)より言依別(ことよりわけの)(みこと)谷間(たにま)転落(てんらく)して、037第一(だいいち)天国(てんごく)探検(たんけん)したりといふ、038河鹿(かじか)(たうげ)膝栗毛(ひざくりげ)(むちう)ち、039石車(いしぐるま)危難(きなん)()(なが)ら、040(こゑ)(すず)しく宣伝歌(せんでんか)(うた)ひつつ、041(やま)()()(わた)()く。042(をり)から()()暴風(ばうふう)はライオンの数百頭(すうひやくとう)(いち)()()えたけるが(ごと)く、043(うな)りを()てて、044遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)もなく岩石(がんせき)()べよ、045草木(くさき)根底(ねそこ)より()()れよと()はむ(ばか)りに()きまくる。046玉国別(たまくにわけ)は『(なに)これしきの烈風(れつぷう)辟易(へきえき)してなるものか、047暴風(ばうふう)何者(なにもの)ぞ、048雷霆(らいてい)強雨(がうう)(なん)(おそ)れむや』と勇気(ゆうき)()し、049(むか)(かぜ)(さか)らひ(なが)ら、050急坂(きふはん)(のぼ)()(いさ)ましさ、051壮烈(さうれつ)は、052鬼神(きじん)(おどろ)(ばか)りに(おも)はれた。053(やうや)くにして山上(さんじやう)(やや)平坦(へいたん)なる羊腸(やうちやう)小路(こみち)(のぼ)()いた。
054道公(みちこう)玉国別(たまくにわけ)(さま)055(いた)()てたやうな胸突坂(むねつきざか)(のぼ)真最中(まつさいちう)056弱味(よわみ)につけ()(かぜ)(かみ)(やつ)057滅多(めつた)矢鱈(やたら)暴威(ばうゐ)(ふる)ひ、058吾々(われわれ)中天(ちうてん)巻上(まきあ)げむとして、059(ちから)一杯(いつぱい)努力(どりよく)してゐやがつたぢやありませぬか。060(ひと)つここらで(かぜ)()んだのを(さいは)休養(きうやう)をやつたら如何(どう)でせう』
061玉国別(たまくにわけ)『アハヽヽヽ(いま)からそんな弱音(よわね)()いてたまるものか、062モウちつと度胸(どきよう)()ゑなくちやなるまい』
063道公(みちこう)(けつ)して(わたし)弱音(よわね)()くのぢやありませぬ。064(かぜ)(かみ)(やつ)065滅多(めつた)矢鱈(やたら)()きやがるものだから、066(わたし)一寸(ちよつと)()いてみたのです。067かうして木々(きぎ)()()無残(むざん)にも吹散(ふきち)らし、068まるで雑巾(ざふきん)(もつ)ておさん()(えん)(ほこり)()いたやうに綺麗(きれい)サツパリふきやがつたぢやありませぬか』
069伊太公(いたこう)『オイ道公(みちこう)070弱音(よわね)()くより法螺(ほら)なと()いたら如何(どう)だ』
071道公(みちこう)『エヽ伊太公(いたこう)072貴様(きさま)(はな)はまるで鍛冶屋(かぢや)(ふいご)のやうにペコペコさして、073フースーフースーと(あわ)まで()いてるぢやないか。074気息(きそく)奄々(えんえん)075呼吸(こきふ)促迫(そくはく)076体熱(たいねつ)四十三(しじふさん)()といふ(よわ)(かた)ぢやないか。077(ひと)(こと)をゴテゴテ()(どころ)かい、078自分(じぶん)(はち)から(はら)うてかかれ』
079伊太公(いたこう)『これはこれはイタ()つたる()挨拶(あいさつ)080伊太公(いたこう)もサツパリ頓服(とんぷく)(いた)しました』
081道公(みちこう)頓服(とんぷく)とは(なん)だ。082インフルエンザの風邪(かぜ)()いて、083キニーネでも()んだやうなことを(ほざ)くぢやないか』
084玉国別(たまくにわけ)『コリヤコリヤ両人(りやうにん)085幸先(さいさき)(わる)い、086悪魔(あくま)征討(せいたう)道行(みちゆき)(はじ)めに(あた)つて、087争論(そうろん)をやるといふことがあるか、088チと沈黙(ちんもく)(いた)さぬか』
089道公(みちこう)『ハイ、090レコード(やぶ)りの烈風(れつぷう)でさへ沈黙(ちんもく)したのですから、091時刻(じこく)(まは)つて()れば、092自然(しぜん)発声器(はつせいき)停電(ていでん)(きた)すでせう。093()かけた(こゑ)だから、094()(だけ)()さねば中途(ちうと)()めると、095(また)もや痳病(りんびやう)をわづらひますからなア、096アハヽヽヽ』
097玉国別(たまくにわけ)『あの純公(すみこう)()よ。098貴様(きさま)のやうに鳴子(なるこ)(すず)のやうにガラガラ()はず、099沈黙(ちんもく)始終(しじう)(まも)つてゐるぢやないか。100(をとこ)といふ(もの)はさうベラベラと(くだ)らぬことを(しやべ)つたり、101(しろ)()をさうやすやすと(ひと)()せるものぢやない。102人間(にんげん)(だま)つてゐる(くらゐ)(ゆか)しく()えるものはないぞ……(くち)あけて腹綿(はらわた)()せる(かはづ)(かな)……といふことを(わす)れぬやうにしたがよからうぞ』
103道公(みちこう)『ハイ承知(しようち)(いた)しました。104純公(すみこう)貴方(あなた)のお()からそれ(ほど)(ゆか)しく()えますかな。105さうすると此奴(こいつ)矢張(やつぱり)106スミにもおけない代物(しろもの)ですなア。107アハヽヽヽ』
108玉国別(たまくにわけ)『いらぬことを()ふものでない。109沈黙(ちんもく)(をとこ)値打(ねうち)だ。110まるで貴様(きさま)旅行(りよかう)をして()ると雲雀(ひばり)(すずめ)飼主(かひぬし)みたやうだ。111(こま)つた(やつ)だなア』
112伊太公(いたこう)(とき)玉国別(たまくにわけ)(さま)113随分(ずゐぶん)(この)河鹿(かじか)(たうげ)はキツイですが、114どうぞ無難(ぶなん)(かぜ)(かみ)鋭鋒(えいほう)()けて通過(つうくわ)したいものですなア。115(しばら)沈黙(ちんもく)したと(おも)へば、116(あき)(かぜ)だから(ふたた)低気圧(ていきあつ)襲来(しふらい)して、117一万(いちまん)ミリメートルの速力(そくりよく)でやつて()られちや、118何程(なにほど)()しけつの(つよ)貴方(あなた)でも(たま)りつこはありませぬぜ』
119玉国別(たまくにわけ)『オイ、120それ(ほど)発声器(はつせいき)虐使(ぎやくし)すると、121レコードの寿命(じゆみやう)短縮(たんしゆく)するぞ。122(すこ)しは大切(たいせつ)使用(しよう)せないか』
123伊太公(いたこう)何分(なにぶん)(あき)(やうや)(ふか)く、124木々(きぎ)()()がバラバラバラと遠慮(ゑんりよ)会釈(ゑしやく)もなく()()時節(じせつ)ですから(なん)とはなしに寂寥(せきれう)気分(きぶん)()たれて沈黙(ちんもく)してゐる(こと)出来(でき)ませぬワイ。125チツとは(しやべ)らして(もら)はぬと、126心細(こころぼそ)いぢやありませぬか』
127玉国別(たまくにわけ)『そんな馬鹿口(ばかぐち)(しやべ)(ひま)があつたら、128宣伝歌(せんでんか)(うた)つたら如何(どう)だ。129(うた)天地(てんち)神明(しんめい)(こころ)感動(かんどう)させ、130山河(さんか)草木(さうもく)悦服(えつぷく)させる神力(しんりき)のあるものだ』
131伊太公(いたこう)宣伝歌(せんでんか)(うた)つても(よろ)しいか。132そんならこれから(うた)ひませう。133オイ道公(みちこう)134純公(すみこう)135チツとは粗製(そせい)濫造品(らんざうひん)だが、136後学(こうがく)(ため)(みみ)をすまして()くがよからう。137伊太公(いたこう)当意(たうい)即妙(そくめう)(だい)宣伝歌(せんでんか)を……エヘン……』
138道公(みちこう)(はや)(うた)はぬかい。139前置(まへおき)ばかりダラダラとひつぱりよつて、140辛気(しんき)くさいわい』
141伊太公(いたこう)足曳(あしびき)山鳥(やまどり)()のしだり()長々(ながなが)()(ひと)りかもねむ……といふ(うた)があるだらう。142それだから、143足曳(あしびき)(やま)(うへ)(うた)(うた)はチツとは(あし)(なが)いぞ、144エツヘン。145それ()いた』
146道公(みちこう)(なに)()くのだ。147無言(むごん)(うた)()けるかい』
148伊太公(いたこう)不言(ふげん)実行(じつかう)149言外(げんぐわい)(げん)150歌外(かぐわい)()151隻手(せきしゆ)(こゑ)152といふ(こと)があるだらう。153(かぜ)()(おと)も、154(とり)(さへづ)(こゑ)も、155(むし)()()も、156(みな)自然(しぜん)(うた)だぞ。157(おれ)がかう(さへづ)つてをるのもヤツパリ恋欲歌(れんよくか)一種(いつしゆ)だ。158ウタウタと()はずに(おれ)奇妙(きめう)奇天烈(きてれつ)(だい)宣伝歌(せんでんか)()いたら貴様(きさま)のウタがひも()れるだらう……
159(かみ)(おもて)(あら)はれて
160(ぜん)(あく)とを立別(たてわ)ける
161(この)()(つく)りし神直日(かむなほひ)
162直日(なほひ)(まなこ)見渡(みわた)せば
163伊太公(いたこう)さまは(ぜん)(かみ)
164道公(みちこう)さまは悪神(あくがみ)
165玉国別(たまくにわけ)宣伝使(せんでんし)
166一寸(ちよつと)(えら)(かた)ぢやぞえ
167(くろ)(かほ)して(すみ)のよに
168(くすぶ)つて()るは純公(すみこう)
169あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
170(かな)はないから()めておかう』
171道公(みちこう)『コリヤ伊太(いた)172(なに)()ふのだ。173(なん)下手(へた)(うた)だのう』
174伊太公(いたこう)『イタれり(つく)せりといふ迷歌(めいか)だらう。175(うた)といふものは(あま)上手(じやうづ)にいふと、176(かぜ)(かみ)()感動(かんどう)して、177(また)暴威(ばうゐ)(ふる)ふと(こま)るからなア。178そんな(こと)抜目(ぬけめ)のある伊太公(いたこう)ぢやないぞ。179(かぜ)(かみ)(あき)れて蟄伏(ちつぷく)するやうに、180ワザとに拙劣(へた)(うた)(うた)つて(かぜ)(かみ)()(とほ)ざけたのだ。181()(ひと)狂歌(きやうか)にも……
182(うた)よみは下手(へた)こそよけれ天地(あめつち)
183(うご)(いだ)してたまるものかは。
184……といふ(こと)()つてゐるか、185エーン』
186無暗(むやみ)矢鱈(やたら)(しやべ)りちらし、187うつつになつて細路(ほそみち)前後(ぜんご)左右(さいう)()びまはり、188()(はづ)して一間(いつけん)ばかり岩道(いはみち)から(すべ)()ち、189向脛(むかふづね)をすりむき、
190伊太公(いたこう)『イヽイタい』
191()(しか)め、192(はな)にまで(しわ)をよせ、193向脛(むかふづね)をさすり『エヘヽヽ』と(わら)()(その)可笑(をか)しさ。
194道公(みちこう)『そら()よ、195(あま)りアゴタが()ぎると(その)(とほ)りだ。196腰抜歌(こしぬけうた)(ばか)()むものだから、197とうとう足曳(あしびき)(やま)(うへ)(あし)(ひつ)かき、198すりむいて、199イタイタしくも、200伊太公(いたこう)(その)ザマ、201それだから伊太公(いたこう)なんて()ふやうな()は、202つけぬがいゝのだ。203のう純公(すみこう)204さうぢやないか、205伊太公(いたこう)(まる)(いたち)のやうな(やつ)だ。206とうと、207最後屁(さいごぺ)をひつて、208伊太張(いたば)つた、209イヤイヤくたばつたぢやないか、210ウツフヽヽ』
211純公(すみこう)『いた()てたやうな坂道(さかみち)ふみ(はづ)
212伊太(いた)々々(いた)しげに伊太(いた)さまが()く。
213すみずみに(こころ)(くば)純公(すみこう)
214どこもかしこもすみ(わた)りける』
215道公(みちこう)(かみ)(みち)、ふみ(はづ)したる伊太公(いたこう)
216()(くるし)むは(みち)さまの(ばち)
217道々(みちみち)にさやる曲津(まがつ)言向(ことむ)けて
218(すす)()でます道公司(みちこうつかさ)
219伊太公(いたこう)道公(みちこう)よ、純公(すみこう)貴様(きさま)(なに)をいふ
220どの(みち)(この)(まま)すみはせぬぞよ。
221伊太公(いたこう)が、(いま)にイタい()()せてやる
222(いたち)最後屁(さいごぺ)ひらぬよにせよ』
223玉国別(たまくにわけ)道公(みちこう)(みち)をたがへず伊太公(いたこう)
224威猛(ゐたけ)(くる)(した)すみ(こう)
225純公(すみこう)玉国(たまくに)(わけの)(みこと)(したが)ひて
226今日(けふ)不思議(ふしぎ)芝居(しばゐ)()(かな)
227道公(みちこう)(また)しても(かぜ)(かみ)()がソロソロと
228(やま)横面(よこづら)なぐり(さう)なる。
229サア()かう、早行(はやゆ)きませう宣伝使(せんでんし)
230(かぜ)(かみ)()()ひつかぬ(うち)
231玉国別(たまくにわけ)(また)ソロソロと()かうか、232モウ(この)(さき)(くだ)(ざか)だ。233(しか)(なが)(くだ)(ざか)用心(ようじん)をせなくては、234石車(いしぐるま)()つて転落(てんらく)する(おそれ)があるから、235(しばら)(くち)(つま)へて、236(あし)(さき)(ちから)()れ、237コチコチとアブト(しき)(くだ)るのだ。238(あま)(しやべ)つてゐると、239(ほか)()()られて、240足許(あしもと)がお留守(るす)になるから、241一同(いちどう)注意(ちゆうい)(ほどこ)しておく』
242道公(みちこう)『ハイ(かしこ)まりました。243オイ(みな)(やつ)244大将軍(だいしやうぐん)命令(めいれい)だ。245沈黙(ちんもく)だぞ』
246伊太公(いたこう)(しやべ)れと()つたつて、247かう向脛(むかふづね)をすり()いては(いた)くつて、248(しやべ)(どころ)かい。249(あし)(ばか)りに()()られて仕方(しかた)がないワ』
250純公(すみこう)『そんなら伊太公(いたこう)251(まへ)道公(みちこう)さまの(あと)から()け、252おれが(あと)から()をつけてやる。253宣伝使(せんでんし)命令(めいれい)には、254(けつ)して今後(こんご)違背(ゐはい)伊太(いた)さんと(ちか)ふのだぞ』
255道公(みちこう)『ヤアそろそろと純公(すみこう)(やつ)三千(さんぜん)(ねん)沈黙(ちんもく)(やぶ)つてシヤシヤり()したなア。256沈黙(ちんもく)々々(ちんもく)
257といひ(なが)ら、258玉国別(たまくにわけ)先頭(せんとう)一足(ひとあし)々々(ひとあし)爪先(つまさき)(ちから)()れて(くだ)()く。259伊太公(いたこう)(あし)をチガチガさせ(なが)ら、260(また)もや沈黙(ちんもく)(ふう)()()れて、261雲雀(ひばり)のやうに(さへづ)()した。
262伊太公玉国別(たまくにわけ)宣伝使(せんでんし)
263(この)急坂(きふはん)(くだ)(とき)
264(けつ)して(あご)(たた)くなと
265(まこと)(きび)しき()命令(めいれい)
266さはさり(なが)伊太(いた)さまは
267(あし)(いた)みに()へかねて
268どしても沈黙(ちんもく)(まも)れない
269ウンウンウンウン アイタタツタ
270(いた)いわいな(いた)いわいな(いた)いわいな
271そんなに(いた)くば一寸(ちよつと)ぬかうか
272イエイエさうではないわいな
273(あさ)から(ばん)まで()たいわいな
274アイタタタツターアイタタツタ
275(いた)()てたよな坂路(さかみち)
276(とが)つた小石(こいし)がガラガラと
277おれを(たふ)さうと()つてゐる
278此奴(こいつ)あヤツパリ(つき)(くに)
279大黒主(おほくろぬし)眷族(けんぞく)
280玉国別(たまくにわけ)征途(せいと)をば
281邪魔(じやま)してやらむと()(かま)
282小石(こいし)()けて()るのだろ
283コリヤコリヤ道公(みちこう)()をつけよ
284これ(ほど)キツい道公(みちこう)
285どうまん(なか)にガラクタの
286(くさ)つた(いし)めが(なら)んでる
287これはヤツパリ道公(みちこう)
288身魂(みたま)性来(しやうらい)(あら)はれて
289(みち)にさやるに(ちがひ)ない
290あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
291ガラガラガラガラ アイタヽツタ
292それそれ(おれ)をばこかしよつた
293向脛(むかふづね)すりむいた(その)(うへ)
294(また)もやおけつをすりむいた
295(まへ)(うしろ)(きず)をうけ
296どうしてこんな急坂(きふはん)
297さう易々(やすやす)とテクられよか
298(むか)ふの(そら)(なが)むれば
299(また)もや(あや)しい(くも)()
300あの一塊(いつくわい)妖雲(えううん)
301(かぜ)(ふいご)(ちがひ)ない
302(みな)さま()をつけなされませ
303(また)もや(さき)のよな烈風(れつぷう)
304()いて()たなら(なん)としよう
305空中(くうちう)滑走(くわつそう)曲芸(きよくげい)
306(えん)じて谷間(たにま)転落(てんらく)
307(あたま)手足(てあし)もメチヤメチヤに
308木端(こつぱ)微塵(みじん)となるだらう
309(おも)へば(おも)へば(この)(たうげ)
310(つるぎ)(やま)(はり)(やま)
311()()にやおかぬと()えるわい
312(あさひ)()るとも(くも)るとも
313(つき)()つとも()くるとも
314(ほし)(てん)より()つるとも
315(うみ)はあせなむ()ありとも
316(かみ)(めぐみ)のある(かぎ)
317怪我(けが)なく(この)(やま)スクスクと
318(とほ)らせ(たま)伊太公(いたこう)
319ウントコドツコイ、アイタタツタ
320又々(またまた)(いし)(つまづ)いた
321(かみ)(ほとけ)もないのかと
322(こころ)(さび)しくなつて()
323こんな(こと)だと()つたなら
324(とも)をするのぢやなかつたに
325コラコラ道公(みちこう)純公(すみこう)
326貴様(きさま)(おし)になつたのか
327(おれ)ばつかりに(もの)()はせ
328返答(へんたふ)せぬとは(あま)りぞよ
329オツト()()てコリヤ(ちが)うた
330玉国別(たまくにわけ)宣伝使(せんでんし)
331篏口令(かんこうれい)をウントコシヨ
332()かれたことをウントコシヨ
333サツパリ(わす)れて()りました
334(ひろ)(こころ)神直日(かむなほひ)
335大直日(おほなほひ)にと見直(みなほ)して
336どうぞお(ゆる)(くだ)さんせ
337あゝ惟神(かむながら)々々(かむながら)
338(かな)はぬ(とき)神頼(かみだの)
339チツとは()いてくれるだろ
340コリヤ(また)きつい(さか)だなア
341アイタタタツタ(また)こけた』
342()ひながら、343河鹿(かじか)(たうげ)大曲(おほまが)りの(やま)(ふところ)(すす)んだ。344天地(てんち)もわるる(ばか)りの強風(きやうふう)345(また)もや猛然(まうぜん)として吹起(ふきおこ)り、346流石(さすが)玉国別(たまくにわけ)最早(もはや)一歩(いつぽ)(すす)(あた)はず、347()()にしがみつき、348神言(かみごと)奏上(そうじやう)(なが)ら、349(かぜ)(わた)()くを()(こと)とした。350(さん)(にん)玉国別(たまくにわけ)(なら)つて、351()()にしがみつき、352ふるひふるひ()をつぶつて、353(かぜ)()ぐるのを()つてゐる。
354大正一一・一一・二六 旧一〇・八 松村真澄録)
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