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第43巻(午の巻)
序文
総説
第1篇 狂風怪猿
01 烈風
〔1152〕
02 懐谷
〔1153〕
03 失明
〔1154〕
04 玉眼開
〔1155〕
05 感謝歌
〔1156〕
第2篇 月下の古祠
06 祠前
〔1157〕
07 森議
〔1158〕
08 噴飯
〔1159〕
09 輸入品
〔1160〕
第3篇 河鹿の霊嵐
10 夜の昼
〔1161〕
11 帰馬
〔1162〕
12 双遇
〔1163〕
第4篇 愛縁義情
13 軍談
〔1164〕
14 忍び涙
〔1165〕
15 温愛
〔1166〕
第5篇 清松懐春
16 鰌鍋
〔1167〕
17 反歌
〔1168〕
18 石室
〔1169〕
余白歌
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第七章
森議
(
しんぎ
)
〔一一五八〕
インフォメーション
著者:
出口王仁三郎
巻:
霊界物語 第43巻 舎身活躍 午の巻
篇:
第2篇 月下の古祠
よみ(新仮名遣い):
げっかのふるほこら
章:
第7章 森議
よみ(新仮名遣い):
しんぎ
通し章番号:
1158
口述日:
1922(大正11)年11月27日(旧10月9日)
口述場所:
筆録者:
松村真澄
校正日:
校正場所:
初版発行日:
1924(大正13)年7月25日
概要:
舞台:
あらすじ
[?]
このあらすじは東京の望月さん作成です(一部加筆訂正してあります)。一覧表が「
王仁DB
」にあります。
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:
玉国別は物音を大黒主の軍勢だと悟り、森蔭から様子をうかがおうと三人に目配せして祠の裏深く木陰に身を隠した。祠の前は少し広庭があって、森の中からはハッキリと見えている。
道公はバラモン軍だと見てとり、ここで言霊を打ち出して進軍を食い止めようと玉国別に進言した。玉国別は道公をいさめ、自分は今頭が痛んで肉体を修理しないと言霊を完全に使用できないから、様子をとっくりと見定めた上で臨機応変の策を施せばよいと諭した。
どうしても行動したいという道公を、玉国別は叱り、師の権限で押しとどめた。玉国別は様子をうかがいながら、確かに斎苑館へ攻め入るバラモン軍の先鋒隊だと認め、首途の功名を表す絶好のチャンスだと独り言を言った。
はやる道公に対して純公は、玉国別には深い思慮があるのだとたしなめた。純公はやはり道公をなだめつつ、自身の体がうずいて仕方がないと本心を洩らした。
玉国別は、バラモン軍の先鋒隊を通過させてから、後からやってくる治国別の一行とはさみうちにしようとの作戦を抱いていたのであったが、三人の部下に披露しなかった。しかし道公が決死の覚悟でバラモン軍に突撃しようとしているのを知り、道公だけには耳打ちして秘策を知らせた。
バラモン軍たちは、神素盞嗚大神を悪と弾じ滅ぼさんとする進軍歌を声勇ましく歌っている。この歌を聞いた伊太公はのぼせ上り、物も言わずに金剛杖を振りかざして暴れこんだ。バラモン軍はどよめきたち、けわしい谷道を右往左往し喚き叫ぶ声が谷間に響いた。
主な登場人物
[?]
【セ】はセリフが有る人物、【場】はセリフは無いがその場に居る人物、【名】は名前だけ出て来る人物です。
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:
備考:
タグ:
データ凡例:
データ最終更新日:
2023-11-21 20:50:17
OBC :
rm4307
愛善世界社版:
96頁
八幡書店版:
第8輯 62頁
修補版:
校定版:
102頁
普及版:
37頁
初版:
ページ備考:
001
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
を
立出
(
たちい
)
でて
002
悪魔
(
あくま
)
の
征討
(
せいたう
)
に
上
(
のぼ
)
りゆく
003
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
は
004
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
に
出会
(
でくわ
)
した
005
レコード
破
(
やぶ
)
りの
烈風
(
れつぷう
)
を
006
遁
(
のが
)
れむものと
懐
(
ふところ
)
の
007
谷間
(
たにま
)
に
身
(
み
)
をば
忍
(
しの
)
ばせつ
008
山猿
(
やまざる
)
共
(
ども
)
に
両眼
(
りやうがん
)
を
009
掻
(
か
)
きむしられて
暫
(
しばら
)
くは
010
悲惨
(
ひさん
)
の
幕
(
まく
)
を
下
(
おろ
)
せしが
011
漸
(
やうや
)
く
神
(
かみ
)
の
御助
(
みたす
)
けに
012
一眼
(
いちがん
)
のみは
全快
(
ぜんくわい
)
し
013
勇
(
いさ
)
み
進
(
すす
)
んで
河鹿山
(
かじかやま
)
014
峠
(
たうげ
)
の
南
(
みなみ
)
に
下
(
くだ
)
り
行
(
ゆ
)
く
015
日
(
ひ
)
は
西山
(
せいざん
)
に
舂
(
うすづ
)
きて
016
黄昏
(
たそがれ
)
近
(
ちか
)
き
晩秋
(
ばんしう
)
の
017
空
(
そら
)
に
輝
(
かがや
)
く
月影
(
つきかげ
)
を
018
力
(
ちから
)
と
頼
(
たの
)
み
古
(
ふる
)
ぼけし
019
祠
(
ほこら
)
の
前
(
まへ
)
に
一行
(
いつかう
)
は
020
息
(
いき
)
を
休
(
やす
)
らひ
立上
(
たちあが
)
り
021
互
(
たがひ
)
に
歌
(
うた
)
を
詠
(
よ
)
みかはし
022
又
(
また
)
もやここを
立出
(
たちい
)
でて
023
前進
(
ぜんしん
)
せむと
思
(
おも
)
ふ
折
(
をり
)
024
坂
(
さか
)
の
下
(
した
)
より
聞
(
きこ
)
え
来
(
く
)
る
025
駒
(
こま
)
の
嘶
(
いなな
)
き
人
(
ひと
)
の
声
(
こゑ
)
026
訝
(
いぶ
)
かしさよと
立
(
た
)
ち
止
(
ど
)
まり
027
耳
(
みみ
)
をすまして
窺
(
うかが
)
へば
028
鬼春別
(
おにはるわけ
)
の
率
(
ひき
)
ゐたる
029
先鋒隊
(
せんぽうたい
)
と
知
(
し
)
られたり
030
スワ
一大事
(
いちだいじ
)
兎
(
と
)
も
角
(
かく
)
も
031
敵
(
てき
)
の
様子
(
やうす
)
を
探
(
さぐ
)
らむと
032
常磐木
(
ときはぎ
)
茂
(
しげ
)
る
森蔭
(
もりかげ
)
を
033
これ
幸
(
さいは
)
ひと
奥
(
おく
)
深
(
ふか
)
く
034
忍
(
しの
)
びて
待
(
ま
)
つこそ
危
(
あやふ
)
けれ。
035
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
俄
(
にはか
)
に
聞
(
きこ
)
ゆる
人馬
(
じんば
)
の
物音
(
ものおと
)
に
噂
(
うはさ
)
に
聞
(
き
)
くハルナの
都
(
みやこ
)
の
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
軍勢
(
ぐんぜい
)
、
036
我
(
わが
)
大神
(
おほかみ
)
の
鎮
(
しづ
)
まります
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
へ
魔軍
(
まぐん
)
を
引
(
ひき
)
つれ
進撃
(
しんげき
)
せむとするものならむ、
037
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ、
038
此
(
この
)
森蔭
(
もりかげ
)
を
幸
(
さいは
)
ひ
様子
(
やうす
)
を
窺
(
うかが
)
はむ……と
三
(
さん
)
人
(
にん
)
に
目配
(
めくば
)
せし
乍
(
なが
)
ら、
039
祠
(
ほこら
)
の
裏
(
うら
)
深
(
ふか
)
く、
040
樹蔭
(
こかげ
)
に
身
(
み
)
を
隠
(
かく
)
した。
041
望
(
もち
)
の
夜
(
よ
)
の
月
(
つき
)
は
皎々
(
かうかう
)
と
照
(
て
)
り
輝
(
かがや
)
け
共
(
ども
)
、
042
常磐木
(
ときはぎ
)
の
老樹
(
らうじゆ
)
の
枝
(
えだ
)
を
以
(
もつ
)
て
天
(
てん
)
を
封
(
ふう
)
じた
祠
(
ほこら
)
の
森
(
もり
)
は、
043
際立
(
きはだ
)
つて
暗
(
くら
)
い。
044
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
祠
(
ほこら
)
の
前
(
まへ
)
は
少
(
すこ
)
し
広庭
(
ひろには
)
があつて、
045
木立
(
こだち
)
も
疎
(
まばら
)
なる
為
(
ため
)
、
046
森
(
もり
)
の
中
(
なか
)
よりハツキリと
庭
(
には
)
の
小石
(
こいし
)
迄
(
まで
)
が
見
(
み
)
えてゐる。
047
道公
(
みちこう
)
は
声
(
こゑ
)
をひそめて、
048
道公
『モシ
先生
(
せんせい
)
様
(
さま
)
、
049
アリヤ
一体
(
いつたい
)
何者
(
なにもの
)
で
厶
(
ござ
)
いませうかな。
050
あの
物音
(
ものおと
)
にて
察
(
さつ
)
すれば、
051
余程
(
よほど
)
の
人数
(
にんず
)
と
見
(
み
)
えます。
052
此
(
この
)
様
(
やう
)
な
急坂
(
きふはん
)
を
隊
(
たい
)
を
組
(
く
)
んで
登
(
のぼ
)
つて
来
(
く
)
るとは、
053
合点
(
がてん
)
の
行
(
い
)
かぬ
話
(
はなし
)
ぢやありませぬか。
054
貴方
(
あなた
)
は
其
(
その
)
物音
(
ものおと
)
を
聞
(
き
)
くなり、
055
直様
(
すぐさま
)
此
(
この
)
森蔭
(
もりかげ
)
にお
忍
(
しの
)
びになりましたが、
056
又
(
また
)
しても
卑怯
(
ひけふ
)
な
奴
(
やつ
)
と、
057
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
叱
(
しか
)
りを
蒙
(
かうむ
)
り、
058
折角
(
せつかく
)
助
(
たす
)
けて
貰
(
もら
)
つた
一箇
(
ひとつ
)
の
目
(
め
)
を
猿
(
さる
)
どもにえぐり
取
(
と
)
られるやうな
事
(
こと
)
は
厶
(
ござ
)
いますまいか。
059
烈風
(
れつぷう
)
に
恐
(
おそ
)
れて
右
(
みぎ
)
の
目
(
め
)
を
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
から
間接
(
かんせつ
)
に
取上
(
とりあ
)
げられ、
060
貴方
(
あなた
)
は
神業
(
しんげふ
)
をおろそかに
致
(
いた
)
した
罪
(
つみ
)
ぢやと
云
(
い
)
つて、
061
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
にお
詫
(
わび
)
をなさつたでせう。
062
まだ
其
(
そ
)
の
舌
(
した
)
の
根
(
ね
)
の
乾
(
かわ
)
かぬ
先
(
さき
)
に、
063
天下
(
てんか
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
が
人馬
(
じんば
)
の
足音
(
あしおと
)
を
聞
(
き
)
いて、
064
斯様
(
かやう
)
な
所
(
ところ
)
へお
忍
(
しの
)
びになるとはチツと
卑怯
(
ひけふ
)
ではありますまいか。
065
若
(
も
)
しも
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
へ
進撃
(
しんげき
)
するバラモン
教
(
けう
)
の
軍隊
(
ぐんたい
)
であらうものなら、
066
それこそ
宣伝使
(
せんでんし
)
の
職務
(
しよくむ
)
はゼロでせう。
067
どうしてもここで
喰
(
く
)
ひ
止
(
と
)
めなくては、
068
貴方
(
あなた
)
のお
顔
(
かほ
)
が
立
(
た
)
ちますまい。
069
アレアレ
早
(
はや
)
くも
祠
(
ほこら
)
の
前
(
まへ
)
に
騎馬
(
きば
)
の
軍卒
(
ぐんそつ
)
が
現
(
あら
)
はれました。
070
一
(
ひと
)
つ
此
(
この
)
辺
(
へん
)
で
出
(
だ
)
しぬけに
言霊
(
ことたま
)
を
打出
(
うちだ
)
さうぢやありませぬか』
071
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
小声
(
こごゑ
)
になつて、
072
手
(
て
)
で
空
(
くう
)
を
押
(
おさ
)
へるやうにして、
073
玉国別
『お
前
(
まへ
)
のいふも
一応
(
いちおう
)
尤
(
もつと
)
もだが、
074
さう
急
(
いそ
)
ぐに
及
(
およ
)
ばない。
075
マアとつくりと
様子
(
やうす
)
を
聞
(
き
)
いた
上
(
うへ
)
、
076
臨機
(
りんき
)
応変
(
おうへん
)
の
策
(
さく
)
を
施
(
ほどこ
)
せば
良
(
い
)
いぢやないか。
077
わしも
今
(
いま
)
頭
(
あたま
)
が
痛
(
いた
)
んで
仕方
(
しかた
)
がないから、
078
言霊
(
ことたま
)
の
使用
(
しよう
)
機関
(
きくわん
)
たる
肉体
(
にくたい
)
を
完全
(
くわんぜん
)
に
修理
(
しうり
)
した
上
(
うへ
)
でなくては
思
(
おも
)
ふやうに
働
(
はたら
)
けない。
079
お
前
(
まへ
)
等
(
たち
)
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
言霊
(
ことたま
)
に
力
(
ちから
)
さへあれば、
080
わしは
只
(
ただ
)
司令官
(
しれいくわん
)
の
地位
(
ちゐ
)
に
立
(
た
)
つて
采配
(
さいはい
)
を
揮
(
ふる
)
つて
居
(
を
)
れば
良
(
よ
)
いのだが、
081
一切
(
いつさい
)
万事
(
ばんじ
)
今
(
いま
)
の
所
(
ところ
)
では、
082
自分
(
じぶん
)
一人
(
ひとり
)
で
主要
(
しゆえう
)
なる
職務
(
しよくむ
)
をやつてのけねばならぬのだから、
083
マアさう
急
(
いそ
)
がずに
私
(
わし
)
の
言
(
い
)
ふ
通
(
とほ
)
りになつて
居
(
ゐ
)
るがよからうぞ』
084
道公
(
みちこう
)
『モシ
先生
(
せんせい
)
、
085
信心
(
しんじん
)
に
古
(
ふる
)
い
新
(
あたら
)
しいはないぢやありませぬか。
086
私
(
わたし
)
の
言霊
(
ことたま
)
が
信用
(
しんよう
)
出来
(
でき
)
ないやうに
仰有
(
おつしや
)
いましたが、
087
貴方
(
あなた
)
のお
声
(
こゑ
)
も
吾々
(
われわれ
)
の
声
(
こゑ
)
も、
088
ヤツパリ
其
(
その
)
原料
(
げんれう
)
は
同
(
おな
)
じ
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
水火
(
すゐくわ
)
のイキを
調合
(
てうがふ
)
されたものでせう。
089
千騎
(
せんき
)
一騎
(
いつき
)
になれば、
090
キツと
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
は
応援
(
おうゑん
)
して
下
(
くだ
)
さるでせう。
091
あれ
御覧
(
ごらん
)
なさいませ、
092
祠
(
ほこら
)
の
前
(
まへ
)
にだんだんと
妙
(
めう
)
な
影
(
かげ
)
が
殖
(
ふ
)
えて
来
(
く
)
るぢやありませぬか。
093
何奴
(
どいつ
)
も
此奴
(
こいつ
)
も
皆
(
みんな
)
馬
(
うま
)
に
乗
(
の
)
つて
居
(
を
)
ります。
094
エーエ、
095
腕
(
うで
)
が
鳴
(
な
)
りますわい、
096
これだから
猪突
(
ちよとつ
)
主義
(
しゆぎ
)
も
何
(
なん
)
だが、
097
余
(
あま
)
り
退嬰
(
たいえい
)
主義
(
しゆぎ
)
の
先生
(
せんせい
)
も
困
(
こま
)
つたものだ。
098
予定
(
よてい
)
の
退却
(
たいきやく
)
ばかりやつてゐては、
099
千
(
せん
)
年
(
ねん
)
万
(
まん
)
年
(
ねん
)
経
(
た
)
つたとても、
100
ハルナの
都
(
みやこ
)
までは
行
(
ゆ
)
けませぬぞえ』
101
玉国別
(
たまくにわけ
)
『さう
血気
(
けつき
)
にはやるものではない。
102
軽々
(
かるがる
)
しく
進
(
すす
)
んで
却
(
かへつ
)
て
敵
(
てき
)
に
利益
(
りえき
)
を
与
(
あた
)
へるよりも
落着
(
おちつ
)
き
払
(
はら
)
つて
前後
(
ぜんご
)
を
考
(
かんが
)
へ、
103
徐
(
おもむろ
)
に
言霊
(
ことたま
)
を
必要
(
ひつえう
)
と
認
(
みと
)
むれば、
104
全力
(
ぜんりよく
)
を
集注
(
しふちゆう
)
して、
105
打出
(
うちだ
)
す
迄
(
まで
)
のことだ。
106
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づ
鎮
(
しづ
)
まつたがよからう。
107
少
(
すこ
)
しく
冷静
(
れいせい
)
になつて
呉
(
く
)
れ』
108
道公
(
みちこう
)
『
忠勇
(
ちうゆう
)
義烈
(
ぎれつ
)
の
熱血
(
ねつけつ
)
男子
(
だんし
)
、
109
最早
(
もはや
)
全身
(
ぜんしん
)
の
血
(
ち
)
が
沸
(
わ
)
き
返
(
かへ
)
り
立
(
た
)
つてもゐても
居
(
ゐ
)
られなくなりました。
110
そんなら
先生
(
せんせい
)
、
111
貴方
(
あなた
)
は
貴方
(
あなた
)
の
御
(
お
)
考
(
かんが
)
へが
厶
(
ござ
)
いませうから、
112
どうぞ
私
(
わたし
)
に
単独
(
たんどく
)
行動
(
かうどう
)
を
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
113
何程
(
なにほど
)
先生
(
せんせい
)
だつて、
114
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
為
(
ため
)
活動
(
くわつどう
)
する
吾々
(
われわれ
)
の
行動
(
かうどう
)
を、
115
頭抑
(
あたまおさ
)
へに
阻止
(
そし
)
なさる
訳
(
わけ
)
には
行
(
ゆ
)
きますまい』
116
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
冷静
(
れいせい
)
に
首
(
くび
)
を
左右
(
さいう
)
に
振
(
ふ
)
り
乍
(
なが
)
ら、
117
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
顔
(
かほ
)
を
見廻
(
みまは
)
し、
118
玉国別
(
たまくにわけ
)
『
道公
(
みちこう
)
、
119
お
前
(
まへ
)
の
言
(
い
)
ふものも
一応
(
いちおう
)
尤
(
もつと
)
もだ。
120
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
一行
(
いつかう
)
四
(
よ
)
人
(
にん
)
の……
私
(
わたし
)
は
支配者
(
しはいしや
)
だ。
121
何程
(
なにほど
)
道公
(
みちこう
)
が
天才家
(
てんさいか
)
だと
云
(
い
)
つても、
122
六韜
(
りくたう
)
三略
(
さんりやく
)
の
奥
(
おく
)
の
手
(
て
)
は
分
(
わか
)
らない。
123
さう
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
道
(
みち
)
は
単調
(
たんてう
)
なものではない、
124
千変
(
せんぺん
)
万化
(
ばんくわ
)
の
秘策
(
ひさく
)
があるのだから、
125
先
(
ま
)
づ
暫
(
しばら
)
く
控
(
ひか
)
へたがよからうぞ』
126
と
言葉尻
(
ことばじり
)
に
力
(
ちから
)
をこめて、
127
睨
(
ね
)
めつけるやうに
言
(
い
)
つた。
128
道公
(
みちこう
)
は『ヘー』と
厭
(
いや
)
相
(
さう
)
な
返詞
(
へんじ
)
をし
乍
(
なが
)
ら
黙
(
だま
)
り
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
129
祠
(
ほこら
)
の
前
(
まへ
)
には
片彦
(
かたひこ
)
、
130
久米彦
(
くめひこ
)
の
先鋒
(
せんぽう
)
隊長
(
たいちやう
)
が
人員
(
じんゐん
)
点呼
(
てんこ
)
をやつてゐる
声
(
こゑ
)
、
131
一
(
いち
)
二
(
に
)
三
(
さん
)
四
(
し
)
五
(
ご
)
六
(
ろく
)
七
(
なな
)
八
(
はち
)
九
(
く
)
十
(
じふ
)
十一
(
じふいち
)
十二
(
じふに
)
………と
順々
(
じゆんじゆん
)
に
大小
(
だいせう
)
高低
(
かうてい
)
の
声
(
こゑ
)
が
聞
(
きこ
)
えてゐる。
132
何
(
いづ
)
れの
声
(
こゑ
)
も
皆
(
みな
)
言葉尻
(
ことばじり
)
が
坂道
(
さかみち
)
のやうに
立向
(
うはむ
)
けに
はね
てゐる
様
(
やう
)
に
聞
(
きこ
)
えた。
133
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
小
(
ちひ
)
さい
声
(
こゑ
)
で
落
(
おち
)
つき
払
(
はら
)
つて、
134
玉国別
(
たまくにわけ
)
『ヤツパリあれはバラモン
教
(
けう
)
の
先鋒隊
(
せんぽうたい
)
と
見
(
み
)
えるなア。
135
どうやら
斎苑
(
いそ
)
の
館
(
やかた
)
に
向
(
むか
)
つて
攻撃
(
こうげき
)
に
参
(
まゐ
)
るものらしい。
136
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
御
(
ご
)
経綸
(
けいりん
)
は
今
(
いま
)
となつて
考
(
かんが
)
へれば、
137
実
(
じつ
)
に
巧妙
(
かうめう
)
を
極
(
きは
)
めたものだ。
138
面白
(
おもしろ
)
い
面白
(
おもしろ
)
い、
139
これでこそ
吾々
(
われわれ
)
の
首途
(
かどで
)
の
功名
(
こうみやう
)
をあらはす
事
(
こと
)
が
出来
(
でき
)
る』
140
道公
(
みちこう
)
は
又
(
また
)
もや
口
(
くち
)
を
開
(
ひら
)
き、
141
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
膝
(
ひざ
)
近
(
ちか
)
く
にぢり
寄
(
よ
)
り、
142
木蔭
(
こかげ
)
に
蔽
(
おほ
)
はれた
宣伝使
(
せんでんし
)
の
顔
(
かほ
)
を
覗
(
のぞ
)
き
込
(
こ
)
み、
143
稍
(
やや
)
息
(
いき
)
を
喘
(
はづ
)
ませ、
144
道公
『
先生
(
せんせい
)
、
145
今
(
いま
)
のお
言葉
(
ことば
)
では
貴方
(
あなた
)
もヤツパリ、
146
斎苑
(
いそ
)
館
(
やかた
)
へ
攻
(
せ
)
めよせる
敵軍
(
てきぐん
)
とお
認
(
みと
)
めになつたやうですなア。
147
それが
分
(
わか
)
つて
居
(
ゐ
)
乍
(
なが
)
ら、
148
なぜ
泰然
(
たいぜん
)
自若
(
じじやく
)
として
活動
(
くわつどう
)
を
開始
(
かいし
)
なさらぬのか、
149
首途
(
かどで
)
の
功名
(
こうみやう
)
を
現
(
あら
)
はす
時
(
とき
)
だと
仰有
(
おつしや
)
いましたが、
150
ムザムザ
敵
(
てき
)
を
見遁
(
みのが
)
し、
151
お
館
(
やかた
)
へ
進入
(
しんにふ
)
させて、
152
如何
(
どう
)
してそれが
手柄
(
てがら
)
になりませう。
153
貴方
(
あなた
)
も
片眼
(
かため
)
をお
取
(
と
)
られ
遊
(
あそ
)
ばして、
154
心気
(
しんき
)
頓
(
とみ
)
に
沮喪
(
そさう
)
し、
155
卑怯
(
ひけふ
)
未練
(
みれん
)
の
雲
(
くも
)
に
包
(
つつ
)
まれ
遊
(
あそ
)
ばしたのぢや
厶
(
ござ
)
いませぬか』
156
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
冷静
(
れいせい
)
に、
157
玉国別
『マア
待
(
ま
)
て、
158
これには
深
(
ふか
)
い
戦略
(
せんりやく
)
のあることだ』
159
道公
(
みちこう
)
『ヘエー、
160
妙
(
めう
)
な
戦略
(
せんりやく
)
もあるものですなア。
161
クロパトキンの
様
(
やう
)
に
予定
(
よてい
)
の
退却
(
たいきやく
)
を
以
(
もつ
)
て
唯一
(
ゆゐいつ
)
の
戦略
(
せんりやく
)
と
思召
(
おぼしめ
)
すのですか』
162
伊太公
(
いたこう
)
『オイ
道公
(
みちこう
)
、
163
三十六
(
さんじふろく
)
計
(
けい
)
の
奥
(
おく
)
の
手
(
て
)
だよ』
164
道公
(
みちこう
)
『ソリヤ
怪
(
け
)
しからぬ。
165
如何
(
どう
)
して
吾々
(
われわれ
)
の
顔
(
かほ
)
が
立
(
た
)
つものか、
166
第一
(
だいいち
)
先生
(
せんせい
)
のお
顔
(
かほ
)
も
立
(
た
)
つまい。
167
勇将
(
ゆうしやう
)
の
下
(
もと
)
に
弱卒
(
じやくそつ
)
なし、
168
といふことがある。
169
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
弱将
(
じやくしやう
)
の
下
(
もと
)
に
勇卒
(
ゆうそつ
)
ありだから、
170
チツと
勝手
(
かつて
)
が
違
(
ちが
)
ふわい。
171
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
何程
(
なにほど
)
大将
(
たいしやう
)
が
弱
(
よわ
)
くても
部下
(
ぶか
)
さへ
強
(
つよ
)
ければ
大将
(
たいしやう
)
の
名
(
な
)
があがるものだ。
172
オイ、
173
伊太公
(
いたこう
)
、
174
純公
(
すみこう
)
、
175
一
(
ひと
)
つ
俺
(
おれ
)
と
同盟
(
どうめい
)
して
先生
(
せんせい
)
に
退隠
(
たいいん
)
を
迫
(
せま
)
り、
176
一大
(
いちだい
)
改革
(
かいかく
)
を
断行
(
だんかう
)
し、
177
道公
(
みちこう
)
が
司令官
(
しれいくわん
)
となつて
大活躍
(
だいくわつやく
)
を
試
(
こころ
)
みようぢやないか』
178
純公
(
すみこう
)
『
匹夫
(
ひつぷ
)
下郎
(
げらう
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
何
(
なに
)
を
云
(
い
)
ふのだ。
179
先生
(
せんせい
)
の
御
(
ご
)
胸中
(
きようちう
)
が
吾々
(
われわれ
)
に
分
(
わか
)
つて
堪
(
たま
)
らうか。
180
吾々
(
われわれ
)
が
測量
(
そくりやう
)
し
得
(
え
)
らるるやうな
先生
(
せんせい
)
なら、
181
大抵
(
たいてい
)
貫目
(
くわんめ
)
はきまつてゐるぢやないか。
182
瞹昧
(
あいまい
)
模糊
(
もこ
)
として
捕捉
(
ほそく
)
す
可
(
べか
)
らざる
所
(
ところ
)
に
先生
(
せんせい
)
の
大人格
(
だいじんかく
)
が
勇躍
(
ゆうやく
)
してゐるのだ。
183
何事
(
なにごと
)
も
指揮
(
しき
)
命令
(
めいれい
)
に
従
(
したが
)
ふのが
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
の
勤
(
つと
)
めだ。
184
先生
(
せんせい
)
の
職権
(
しよくけん
)
まで、
185
下郎
(
げろう
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
批評
(
ひひやう
)
する
価値
(
かち
)
があるか。
186
それに
貴様
(
きさま
)
は
猪
(
ゐのしし
)
武者
(
むしや
)
だから、
187
前後
(
ぜんご
)
の
弁
(
わきま
)
へもなく、
188
先生
(
せんせい
)
放逐論
(
はうちくろん
)
まで
持出
(
もちだ
)
しよつて
何
(
なん
)
の
事
(
こと
)
だ。
189
チツと
落着
(
おちつ
)
かないか。
190
少
(
すこ
)
し
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
いてもバタバタ
騒
(
さわ
)
ぐ
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
の
様
(
やう
)
な
木端
(
こつぱ
)
武者
(
むしや
)
が、
191
如何
(
どう
)
して
此
(
この
)
御
(
ご
)
神業
(
しんげふ
)
が
勤
(
つと
)
まるか』
192
道公
(
みちこう
)
『ソリヤさうかも
知
(
し
)
れないが、
193
アレ
見
(
み
)
よ、
194
腹
(
はら
)
が
立
(
た
)
つてたまらぬぢやないか。
195
祠
(
ほこら
)
の
前
(
まへ
)
は
黒山
(
くろやま
)
の
如
(
ごと
)
く
敵
(
てき
)
が
集
(
あつま
)
り、
196
人員
(
じんゐん
)
点呼
(
てんこ
)
迄
(
まで
)
やりよつて、
197
旗鼓
(
きこ
)
堂々
(
だうだう
)
と
行
(
ゆ
)
きよる
此
(
この
)
姿
(
すがた
)
を
見
(
み
)
て、
198
如何
(
どう
)
して
之
(
これ
)
が
看過
(
かんくわ
)
出来
(
でき
)
ようか。
199
三尺
(
さんじやく
)
の
秋水
(
しうすゐ
)
があらば
月光
(
げつくわう
)
に
閃
(
ひら
)
めかし、
200
獅子
(
しし
)
奮迅
(
ふんじん
)
の
勢
(
いきほひ
)
を
以
(
もつ
)
て、
201
片
(
かた
)
つぱしから
斬
(
き
)
り
立
(
た
)
て
薙
(
な
)
ぎ
立
(
た
)
て、
202
一泡
(
ひとあわ
)
吹
(
ふ
)
かしてくれたいは
山々
(
やまやま
)
なれど、
203
何
(
なん
)
と
云
(
い
)
つても
無抵抗
(
むていかう
)
主義
(
しゆぎ
)
の
三五教
(
あななひけう
)
、
204
吾々
(
われわれ
)
の
武器
(
ぶき
)
と
云
(
い
)
つたら、
205
言霊
(
ことたま
)
の
発射
(
はつしや
)
か、
206
マサカ
違
(
ちが
)
へば
巌
(
いは
)
の
如
(
ごと
)
き
拳骨
(
げんこつ
)
の
武器
(
ぶき
)
を
有
(
いう
)
するのみだ。
207
エヽ
残念
(
ざんねん
)
な
事
(
こと
)
だなア』
208
伊太公
(
いたこう
)
『
俺
(
おれ
)
も
何
(
なん
)
だか、
209
体中
(
からだぢう
)
が
躍動
(
やくどう
)
して
仕方
(
しかた
)
がない。
210
それに
引替
(
ひきか
)
へ
先生
(
せんせい
)
は
勁敵
(
けいてき
)
を
前
(
まへ
)
に
控
(
ひか
)
へ
乍
(
なが
)
ら、
211
冷然
(
れいぜん
)
として
岩
(
いは
)
の
如
(
ごと
)
く、
212
黙然
(
もくねん
)
として
唖
(
おし
)
の
如
(
ごと
)
しだ。
213
こりやマア
如何
(
どう
)
したら
良
(
よ
)
いのだらうかなア』
214
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
静
(
しづか
)
に
両手
(
りやうて
)
をパツと
開
(
ひら
)
き、
215
三
(
さん
)
人
(
にん
)
を
押
(
おさ
)
へつける
様
(
やう
)
な
真似
(
まね
)
をして
二三回
(
にさんくわい
)
空中
(
くうちう
)
を
抑
(
おさ
)
へ、
216
玉国別
(
たまくにわけ
)
『まてしばし
神
(
かみ
)
の
御言
(
みこと
)
の
下
(
くだ
)
るまで
217
海
(
うみ
)
より
深
(
ふか
)
き
天地
(
てんち
)
の
仕組
(
しぐみ
)
を』
218
道公
(
みちこう
)
『これが
又
(
また
)
ジツと
見
(
み
)
のがし
居
(
を
)
れませう
219
みすみす
敵
(
てき
)
を
前
(
まへ
)
に
控
(
ひか
)
へて』
220
玉国別
(
たまくにわけ
)
『
何事
(
なにごと
)
も
神
(
かみ
)
の
心
(
こころ
)
に
任
(
まか
)
すこそ
221
汝
(
なれ
)
等
(
ら
)
三人
(
みたり
)
の
勤
(
つと
)
めと
覚
(
さと
)
れ』
222
道公
(
みちこう
)
『これはしたり
思
(
おも
)
ひもよらぬ
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
の
223
へらず
口
(
ぐち
)
には
呆
(
あき
)
るる
而已
(
のみ
)
なり』
224
純公
(
すみこう
)
『
道公
(
みちこう
)
よ
貴様
(
きさま
)
は
分
(
わか
)
らぬことを
言
(
い
)
ふ
225
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
教
(
をしへ
)
に
背
(
そむ
)
くか』
226
伊太公
(
いたこう
)
『
背
(
そむ
)
かぬが
道
(
みち
)
か
誠
(
まこと
)
か
知
(
し
)
らね
共
(
ども
)
227
何
(
なん
)
とはなしに
心
(
こころ
)
せかるる』
228
道公
(
みちこう
)
『
伊太公
(
いたこう
)
の
心
(
こころ
)
は
俺
(
おれ
)
と
同
(
おな
)
じこと
229
いざいざさらば
二人
(
ふたり
)
立
(
た
)
たうか』
230
玉国別
(
たまくにわけ
)
『
皇神
(
すめかみ
)
に
受
(
う
)
けし
命
(
いのち
)
を
棄
(
す
)
て
鉢
(
ばち
)
に
231
さやぎける
哉
(
かな
)
醜
(
しこ
)
のたぶれが』
232
道公
(
みちこう
)
『それは
又
(
また
)
思
(
おも
)
ひもよらぬ
仰
(
あふ
)
せ
哉
(
かな
)
233
醜
(
しこ
)
のたぶれは
吾
(
わが
)
師
(
し
)
の
君
(
きみ
)
よ』
234
純公
(
すみこう
)
『コリヤ
二人
(
ふたり
)
失礼
(
しつれい
)
なことをぬかすない
235
唐変木
(
たうへんぼく
)
に
何
(
なに
)
が
分
(
わか
)
らう』
236
道公
(
みちこう
)
『
卑怯者
(
ひけふもの
)
二人
(
ふたり
)
豪傑
(
がうけつ
)
又
(
また
)
二人
(
ふたり
)
237
いよいよ
茲
(
ここ
)
に
立
(
た
)
て
別
(
わか
)
れたり』
238
玉国別
(
たまくにわけ
)
『
面白
(
おもしろ
)
い
勇
(
いさ
)
み
言葉
(
ことば
)
の
二人
(
ふたり
)
連
(
づ
)
れ
239
真理
(
しんり
)
に
反
(
そむ
)
きて
過
(
あやま
)
ちをすな』
240
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
決
(
けつ
)
して
片彦
(
かたひこ
)
、
241
久米彦
(
くめひこ
)
の
一隊
(
いつたい
)
の
勢
(
いきほひ
)
に
辟易
(
へきえき
)
し、
242
此
(
この
)
森蔭
(
もりかげ
)
に
隠
(
かく
)
れたのではない。
243
片彦
(
かたひこ
)
、
244
久米彦
(
くめひこ
)
の
一隊
(
いつたい
)
を
無事
(
ぶじ
)
に
通過
(
つうくわ
)
させ、
245
彼
(
かれ
)
が
懐谷
(
ふところだに
)
の
方面
(
はうめん
)
迄
(
まで
)
登
(
のぼ
)
つた
頃
(
ころ
)
には、
246
治国別
(
はるくにわけ
)
一行
(
いつかう
)
がやつて
来
(
く
)
るに
違
(
ちがひ
)
ない。
247
さうすれば
敵
(
てき
)
をやりすごし、
248
前後
(
ぜんご
)
より
一斉
(
いつせい
)
に
言霊
(
ことたま
)
を
打出
(
うちだ
)
し、
249
敵
(
てき
)
を
袋
(
ふくろ
)
の
鼠
(
ねづみ
)
として
帰順
(
きじゆん
)
せしめようとの、
250
神算
(
しんさん
)
鬼謀
(
きぼう
)
を
抱
(
いだ
)
いてゐたからである。
251
併
(
しか
)
し
乍
(
なが
)
ら
三
(
さん
)
人
(
にん
)
の
部下
(
ぶか
)
に
其
(
その
)
秘策
(
ひさく
)
を
示
(
しめ
)
すのは
余
(
あま
)
り
価値
(
かち
)
なき
様
(
やう
)
に
思
(
おも
)
はれたからであつた。
252
道公
(
みちこう
)
は
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
態度
(
たいど
)
に
憤慨
(
ふんがい
)
し、
253
言葉
(
ことば
)
つよく、
254
道公
(
みちこう
)
『モシ
先生
(
せんせい
)
、
255
只今
(
ただいま
)
限
(
かぎ
)
りお
暇
(
ひま
)
を
頂戴
(
ちやうだい
)
致
(
いた
)
します』
256
玉国別
(
たまくにわけ
)
『ウン
望
(
のぞ
)
みとあれば
暇
(
ひま
)
を
与
(
や
)
らう。
257
大分
(
だいぶ
)
敵
(
てき
)
が
恐
(
おそ
)
ろしくなつたと
見
(
み
)
えるのう。
258
其
(
その
)
挙措
(
きよそ
)
動作
(
どうさ
)
は
何
(
なん
)
だ。
259
丸
(
まる
)
で
蒟蒻
(
こんにやく
)
の
様
(
やう
)
だ』
260
道公
(
みちこう
)
『ハイ
恐
(
おそ
)
ろしくなりました。
261
余
(
あま
)
り
貴方
(
あなた
)
の
腰
(
こし
)
が
弱
(
よわ
)
いので、
262
それが
恐
(
おそ
)
ろしいのですよ。
263
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
につくか、
264
師匠
(
ししやう
)
に
従
(
つ
)
くか、
265
其
(
その
)
軽重
(
けいちよう
)
を
考
(
かんが
)
へねばなりませぬ。
266
決
(
けつ
)
して
先生
(
せんせい
)
を
捨
(
す
)
てる
心
(
こころ
)
は
微塵
(
みじん
)
もありませぬが、
267
神
(
かみ
)
様
(
さま
)
の
為
(
ため
)
には
涙
(
なみだ
)
をのんで
反
(
そむ
)
きます。
268
師
(
し
)
の
影
(
かげ
)
は
三尺
(
さんじやく
)
隔
(
へだ
)
てて
踏
(
ふ
)
まずといふことさへあるに、
269
貴方
(
あなた
)
に
背
(
そむ
)
く
私
(
わたし
)
の
心根
(
こころね
)
、
270
熱鉄
(
ねつてつ
)
を
呑
(
の
)
むよりも
辛
(
つら
)
う
厶
(
ござ
)
いますが、
271
どうぞ
許
(
ゆる
)
して
下
(
くだ
)
さいませ。
272
此
(
この
)
道公
(
みちこう
)
は
命
(
いのち
)
を
的
(
まと
)
に
敵
(
てき
)
に
向
(
むか
)
つて
突喊
(
とつかん
)
致
(
いた
)
します。
273
幸
(
さいはひ
)
にして
勝利
(
しようり
)
を
得
(
え
)
ましても、
274
決
(
けつ
)
して
私
(
わたし
)
の
手柄
(
てがら
)
には
致
(
いた
)
しませぬ。
275
ヤツパリ
先生
(
せんせい
)
の
御
(
お
)
手柄
(
てがら
)
になるので
厶
(
ござ
)
いますから……』
276
玉国別
(
たまくにわけ
)
は
涙
(
なみだ
)
を
流
(
なが
)
し
乍
(
なが
)
ら、
277
小
(
ちひ
)
さい
声
(
こゑ
)
で、
278
玉国別
(
たまくにわけ
)
『
道公
(
みちこう
)
、
279
近
(
ちか
)
う
寄
(
よ
)
れ、
280
耳
(
みみ
)
よりの
話
(
はなし
)
がある』
281
道公
(
みちこう
)
は
甦生
(
よみがへ
)
つたやうな
気分
(
きぶん
)
になり、
282
二足
(
ふたあし
)
三足
(
みあし
)
思
(
おも
)
はず
飛
(
と
)
び
上
(
あが
)
り、
283
犬
(
いぬ
)
が
暫
(
しばら
)
く
会
(
あ
)
はなかつた
主人
(
しゆじん
)
に
出会
(
であ
)
うた
時
(
とき
)
のやうに
飛
(
と
)
び
付
(
つ
)
き
抱
(
かか
)
へつき、
284
玉国別
(
たまくにわけ
)
の
口元
(
くちもと
)
に
耳
(
みみ
)
を
寄
(
よ
)
せた。
285
道公
(
みちこう
)
は
幾度
(
いくたび
)
も
首
(
くび
)
を
縦
(
たて
)
に
振
(
ふ
)
り、
286
道公
(
みちこう
)
『ハイ
分
(
わか
)
りました。
287
それならば
私
(
わたし
)
も
安心
(
あんしん
)
致
(
いた
)
します。
288
流石
(
さすが
)
は
先生
(
せんせい
)
だ。
289
如何
(
いか
)
にも
妙案
(
めうあん
)
奇策
(
きさく
)
です。
290
到底
(
たうてい
)
匹夫
(
ひつぷ
)
下郎
(
げらう
)
の
企
(
くはだ
)
て
及
(
およ
)
ぶ
所
(
ところ
)
では
厶
(
ござ
)
いませぬ。
291
オイ
純公
(
すみこう
)
、
292
伊太公
(
いたこう
)
、
293
安心
(
あんしん
)
せい、
294
ヤツパリ
俺
(
おれ
)
の
先生
(
せんせい
)
は
偉
(
えら
)
いワ。
295
普通
(
ふつう
)
一般
(
いつぱん
)
のお
師匠
(
ししやう
)
さまとは
聊
(
いささ
)
か
選
(
せん
)
を
異
(
こと
)
にしてゐるのだ。
296
こんな
先生
(
せんせい
)
を
持
(
も
)
つた
俺
(
おれ
)
達
(
たち
)
は
実
(
じつ
)
に
幸福
(
かうふく
)
なものだぞ』
297
伊太公
(
いたこう
)
『さうか、
298
そりや
有難
(
ありがた
)
い。
299
どんな
事
(
こと
)
だい。
300
一寸
(
ちよつと
)
洩
(
も
)
らしてくれないか』
301
道公
(
みちこう
)
『
副
(
ふく
)
司令官
(
しれいくわん
)
の
俺
(
おれ
)
が
知
(
し
)
つて
居
(
を
)
りさへすれば、
302
それでいいのだ。
303
匹夫
(
ひつぷ
)
下郎
(
げろう
)
の
分際
(
ぶんざい
)
として
英雄
(
えいゆう
)
の
心事
(
しんじ
)
を
伺
(
うかが
)
はむとするは
以
(
もつ
)
ての
外
(
ほか
)
だ。
304
貴様
(
きさま
)
二人
(
ふたり
)
にお
明
(
あ
)
かしなさるのならば、
305
如何
(
どう
)
して
俺
(
おれ
)
の
耳許
(
みみもと
)
へ
小声
(
こごゑ
)
で
囁
(
ささや
)
きなさる
道理
(
だうり
)
があらう。
306
天機
(
てんき
)
洩
(
も
)
らすなとの
謎
(
なぞ
)
に
相違
(
さうゐ
)
ない。
307
そんな
事
(
こと
)
に
気
(
き
)
の
付
(
つ
)
かぬやうな
道公
(
みちこう
)
ぢやない。
308
マア
神妙
(
しんめう
)
に、
309
俺
(
おれ
)
のするままに
盲従
(
まうじゆう
)
する
方
(
はう
)
が、
310
お
前
(
まへ
)
達
(
たち
)
の
天職
(
てんしよく
)
だ。
311
エーン』
312
純公
(
すみこう
)
『イヤお
前
(
まへ
)
さへ
得心
(
とくしん
)
すれば、
313
俺
(
おれ
)
や
何
(
なん
)
にも
尋
(
たづ
)
ねる
必要
(
ひつえう
)
はないのだ。
314
ナア
伊太公
(
いたこう
)
、
315
さうぢやないか。
316
道公
(
みちこう
)
が
得心
(
とくしん
)
する
位
(
くらゐ
)
だから
大抵
(
たいてい
)
定
(
きま
)
つてるワ。
317
先
(
ま
)
づ
先
(
ま
)
づ
安心
(
あんしん
)
したがよからうぞ』
318
祠
(
ほこら
)
の
前
(
まへ
)
より
進軍歌
(
しんぐんか
)
が
聞
(
きこ
)
えて
来
(
く
)
る。
319
四
(
よ
)
人
(
にん
)
は
耳
(
みみ
)
を
澄
(
す
)
まして、
320
一言
(
ひとこと
)
も
洩
(
も
)
らさじと
聞
(
き
)
いてゐる。
321
(バラモン軍)
『
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
造
(
つく
)
り
玉
(
たま
)
ひたる
322
梵天
(
ぼんてん
)
帝釈
(
たいしやく
)
自在天
(
じざいてん
)
323
大国彦
(
おほくにひこ
)
の
魂
(
たま
)
の
裔
(
すゑ
)
324
ハルナの
都
(
みやこ
)
に
現
(
あ
)
れまして
325
大黒主
(
おほくろぬし
)
と
名乗
(
なの
)
りつつ
326
豊葦原
(
とよあしはら
)
の
瑞穂国
(
みづほくに
)
327
青人草
(
あをひとぐさ
)
の
末
(
すゑ
)
までも
328
恵
(
めぐ
)
みの
露
(
つゆ
)
を
垂
(
た
)
れ
玉
(
たま
)
ひ
329
天国
(
てんごく
)
浄土
(
じやうど
)
を
地
(
ち
)
の
上
(
うへ
)
に
330
開
(
ひら
)
かせ
玉
(
たま
)
ふぞ
尊
(
たふと
)
けれ
331
さはさり
乍
(
なが
)
ら
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
332
月
(
つき
)
に
村雲
(
むらくも
)
花
(
はな
)
に
風
(
かぜ
)
333
醜
(
しこ
)
の
曲津
(
まがつ
)
は
遠近
(
をちこち
)
に
334
さやりて
世
(
よ
)
をば
紊
(
みだ
)
しゆく
335
中
(
なか
)
にも
分
(
わ
)
けて
素盞嗚
(
すさのを
)
の
336
醜
(
しこ
)
の
魔神
(
まがみ
)
は
斎苑
(
いそ
)
館
(
やかた
)
337
数多
(
あまた
)
の
魔神
(
まがみ
)
を
呼
(
よ
)
び
集
(
つど
)
ひ
338
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
神業
(
かむわざ
)
を
339
覆
(
くつが
)
へさむと
朝夕
(
あさゆふ
)
に
340
企
(
たく
)
みゐるこそゆゆしけれ
341
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
は
神
(
かみ
)
の
子
(
こ
)
神
(
かみ
)
の
宮
(
みや
)
342
神
(
かみ
)
に
等
(
ひと
)
しき
身
(
み
)
を
以
(
もつ
)
て
343
此
(
この
)
世
(
よ
)
を
荒
(
あら
)
す
醜神
(
しこがみ
)
を
344
ゆめゆめ
許
(
ゆる
)
しおくべきか
345
来栖
(
くるす
)
の
森
(
もり
)
に
来
(
き
)
て
見
(
み
)
れば
346
神
(
かむ
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
悪神
(
わるがみ
)
が
347
差遣
(
さしつか
)
はしし
宣伝使
(
せんでんし
)
348
照国別
(
てるくにわけ
)
の
一行
(
いつかう
)
に
349
思
(
おも
)
はず
知
(
し
)
らず
出会
(
でつく
)
はし
350
変幻
(
へんげん
)
出没
(
しゆつぼつ
)
自由
(
じいう
)
自在
(
じざい
)
351
妖術
(
えうじゆつ
)
幻術
(
げんじゆつ
)
使
(
つか
)
ひたて
352
吾
(
われ
)
等
(
ら
)
一行
(
いつかう
)
は
荒風
(
あらかぜ
)
に
353
木
(
こ
)
の
葉
(
は
)
の
散
(
ち
)
りゆく
其
(
その
)
如
(
ごと
)
く
354
一度
(
いちど
)
は
予定
(
よてい
)
の
退却
(
たいきやく
)
を
355
余儀
(
よぎ
)
なくされし
悔
(
くや
)
しさよ
356
さはさり
乍
(
なが
)
ら
世
(
よ
)
の
中
(
なか
)
は
357
悪
(
あく
)
がいつ
迄
(
まで
)
続
(
つづ
)
かうか
358
天
(
あま
)
の
岩戸
(
いはと
)
を
閉
(
とざ
)
したる
359
速
(
はや
)
素盞嗚
(
すさのを
)
の
悪神
(
あくがみ
)
も
360
吾々
(
われわれ
)
一行
(
いつかう
)
堂々
(
だうだう
)
と
361
轡
(
くつわ
)
を
並
(
なら
)
べて
攻
(
せ
)
め
込
(
こ
)
めば
362
何条
(
なんでう
)
以
(
もつ
)
てたまるべき
363
風
(
かぜ
)
をくらつて
逃
(
に
)
げちるか
364
但
(
ただし
)
は
降参
(
かうさん
)
致
(
いた
)
さむと
365
吠面
(
ほえづら
)
かわいてあやまるか
366
ビワの
湖
(
みづうみ
)
乗越
(
のりこ
)
えて
367
日
(
ひ
)
も
漸
(
やうや
)
くにくれの
海
(
うみ
)
368
コーカス
山
(
ざん
)
に
逃
(
に
)
げ
行
(
ゆ
)
くか
369
何
(
なに
)
は
兎
(
と
)
もあれ
吾
(
わが
)
軍
(
ぐん
)
の
370
勝利
(
しようり
)
は
手
(
て
)
に
取
(
と
)
る
如
(
ごと
)
く
也
(
なり
)
371
あゝ
勇
(
いさ
)
ましし
勇
(
いさ
)
ましし
372
勝鬨
(
かちどき
)
あぐるは
時
(
とき
)
の
間
(
ま
)
ぞ
373
進
(
すす
)
めや
進
(
すす
)
めいざ
進
(
すす
)
め
374
正義
(
せいぎ
)
に
刃向
(
はむか
)
ふ
刃
(
やいば
)
なし
375
大黒主
(
おほくろぬし
)
の
御言
(
みこと
)
もて
376
進
(
すす
)
む
吾
(
わ
)
れこそ
神
(
かみ
)
の
宮
(
みや
)
377
神
(
かみ
)
の
軍
(
いくさ
)
ぞ
堂々
(
だうだう
)
と
378
進
(
すす
)
めよ
進
(
すす
)
めいざ
進
(
すす
)
め
379
河鹿
(
かじか
)
峠
(
たうげ
)
は
峻
(
さか
)
しとも
380
吹来
(
ふきく
)
る
風
(
かぜ
)
は
強
(
つよ
)
くとも
381
三五教
(
あななひけう
)
の
宣伝使
(
せんでんし
)
382
仮令
(
たとへ
)
幾万
(
いくまん
)
来
(
きた
)
るとも
383
嵐
(
あらし
)
の
前
(
まへ
)
の
灯火
(
ともしび
)
と
384
はかなく
消
(
き
)
ゆるは
案
(
あん
)
の
内
(
うち
)
385
進
(
すす
)
めよ
進
(
すす
)
めいざ
進
(
すす
)
め
386
悪魔
(
あくま
)
の
軍勢
(
ぐんぜい
)
の
亡
(
ほろ
)
ぶ
迄
(
まで
)
』
387
と
声
(
こゑ
)
勇
(
いさ
)
ましく、
388
悪神
(
あくがみ
)
は
悪神
(
あくがみ
)
としてヤハリ
自分
(
じぶん
)
の
味方
(
みかた
)
を
善
(
ぜん
)
と
信
(
しん
)
じてゐるものの
如
(
ごと
)
く、
389
天地
(
てんち
)
に
恥
(
は
)
ぢず
進軍歌
(
しんぐんか
)
を
歌
(
うた
)
つてゐる。
390
伊太公
(
いたこう
)
は
逆上
(
のぼ
)
せあがり、
391
其
(
その
)
まま
物
(
もの
)
をも
言
(
い
)
はず、
392
韋駄天
(
ゐだてん
)
走
(
ばし
)
りに
密集
(
みつしふ
)
部隊
(
ぶたい
)
を
指
(
さ
)
して、
393
金剛杖
(
こんがうづゑ
)
を
打
(
うち
)
ふり
打
(
うち
)
ふり
夜叉
(
やしや
)
の
如
(
ごと
)
くにあばれ
込
(
こ
)
んで
了
(
しま
)
つた。
394
片彦
(
かたひこ
)
、
395
久米彦
(
くめひこ
)
の
率
(
ひき
)
ゐる
軍隊
(
ぐんたい
)
は
俄
(
にはか
)
にどよめき
立
(
た
)
ち、
396
嶮
(
けは
)
しき
細
(
ほそ
)
き
谷路
(
たにみち
)
を
右往
(
うわう
)
左往
(
さわう
)
に
駆
(
かけ
)
まはり
喚
(
わめ
)
き
叫
(
さけ
)
ぶ
声
(
こゑ
)
、
397
谷
(
たに
)
の
木霊
(
こだま
)
を
響
(
ひび
)
かせてゐる。
398
(
大正一一・一一・二七
旧一〇・九
松村真澄
録)
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